魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
沢渡雄太には、昔から癖となっている仕草があった。
それは首を時計回しに一回しするという仕草なのだが、別にこれを普段から行っている訳では無い。
物心もつく前の出来事である。
生前に仲の良かった、今は亡き雄太の祖父が、教えてくれた一つのジンクスだった。
何かを本気でする前に、この行動をすると、必ず上手くいく。
他の誰が考えた訳でも無い、祖父が個人的に行っていたジンクスだったのだが、幼い頃の雄太は自分の祖父が稀に行う、この動作に興味を持ち、教えてもらってからは、祖父が亡くなるその日まで、毎日の様に行っていた。
幼かった事もあり、今ではその仕草の理由を覚えてすらいないが、それでも雄太は稀にこの仕草を無意識に行ってしまう時がある。
それは何時だって、本気で何かをしようとする時だった……
「駄目だ!ここは俺が食い止める!だから純は、早く空を連れてここから離れろ!」
俺の叫びに返された五代さんの返答は、否定の言葉だった。
今は猛然と俺に襲い掛かってきたハンターに加えて、赤い複眼のライダー、先日の夜に五代さんから聞いた話だと、ガンナーという名前らしいが、ハンター一人で俺を相手にするのは不利と踏んだのか、遠距離から赤い光弾を、連続で射出して来る。
残りの一人、青い複眼のライダーは、五代さんと先程の爆弾は使う様子を見せず、激しい格闘戦を繰り広げていた。
恐らく病院内でこれ以上爆弾を使えば、この建物自体が倒壊する可能性があると予想しての判断だろう。
現在の現状は、俺が二人のライダーを相手にして、五代さんが残りの一人を相手にしながら、空を守っているという構図が出来上がっている。
可能であれば、五代さんの意思を汲み、俺が空をここから連れ出したいが、状況がそれを許そうとしない。
ハンターとの接近戦に加えて、離れた距離から支援攻撃を仕掛けて来るガンナーを、同時に相手している俺が、不用意に接近すれば、空を危険に晒してしまうのは考えるまでも無いだろう。
だがこの役割を、反対にしてみればどうだろうか?
五代さんが現在相手にしている相手は、爆弾を使った戦法を得意としているのか、クウガの攻撃に押され気味の様に見える。
本来の土俵で戦っていない相手に、クウガが遅れを取る事は決して無いだろう。
五代さんなら一瞬の隙さえあれば、必ず空をここから連れ出す活路を作れる筈だ。
更にこの場には、空が呼び出したビートゴウラムがある。
ビートゴウラムで壁を突き破れば、ここから空を連れて脱出するのも容易となる筈だ。
そして駄目押しとして、クウガには無い、シードの俺が持つ能力を使えば、確実にこの脱出計画を成功させる事が出来る!
そして今は、迷っている時間も無い!
例え憧れの人に、認められ無かったとしても、俺は空やはやてちゃん……俺にとって掛け替えの無い、大切な人達を守る為に自分が出来る最大限の事をしたい!
「五代さん!俺が一瞬だけ、隙を作ります!その間に空を連れてここから離れてください!」
「それは……」
再び叫ぶ俺に対して、五代さんはまたしても否定の言葉を返そうつるのが分かったが、俺がある動作をした事によって、五代さんはその言葉の続きを言う事を止めてしまった。
俺の取った動作とは、右手を握り込み、親指を立てるという行為……
サムズアップである。
それは五代さんに取って、特別な意味を持つ仕草だ。
本当は俺なんかが、この人の眼前でするべきじゃ無いのかもしれない。
今までを全力をで戦って来なかったなんて言うつもりは無いが、俺は今まで何処か曖昧な気持ちを抱えながら戦い続けていた様な気がする……
今だって戦う事は怖いと感じるし、痛いのは当然嫌だ。
出来る事なら戦いを捨てて、平和な日常に戻りたいと思った事は、一度や二度では収まり切らないし、これから先も、同じ事を何度も思うだろう。
……だけど俺は知ってしまった。
日常とは掛け離れた存在が、俺の日常の裏側に常に潜んでいるという事を……
それが俺の日常を……大切な人を……ただ平和に日々を送る人達を傷つけるなら、俺は守りたい。
誰かに強制された訳じゃない!
誰かの想いを汲んだ訳じゃない!
誰かに答える為なんかじゃ決してない!!!
自分の為に、俺はこの気持ちを全部抱え込んだ上で、これからも戦い続けてみせる!!!
世界の誰もが俺を否定しても構わない。
例えそれが、今まで共に戦い続けて来た相棒だったとしても……それが俺の戦う覚悟だ!!!
俺の半端な、俺だけの覚悟だが、その想いが憧れの人に届いたのかもしれない。
一瞬ではあるが、五代さんが……仮面ライダークウガが俺に対して、サムズアップで答えてくれたのだから……
俺はその期待に応える為に、何より自分自身の覚悟を貫く為に、行動を開始する。
「さっきから訳わかんねえ合図を送ってんじゃねえよ!この糞ガキがああああああ!!!!」
そんな俺に対して、怒りの感情を剥き出しにして、ハンターがベルトから光を放ち生成された銀のナイフを、逆手に構えて向かって来るが、その攻撃が届くよりも早く、俺は右腕をベルトに走らせて右側をスライドさせて、黄色いボタンを押した。
『ベーシックファントム』
俺のベルトからは、大量の光が溢れて、もう一人の戦士を形作る。
其処にはシードのベーシックフォルムと同様に、メタルブラックのボディーに、灰色の複眼を持つ分身体が生成された。
そして生成された分身体が、ハンターと俺の間に立ち塞がり、今にもその手に持って斬り掛かろうとするハンターの両腕を掴んで押し留める。
『今だマスター!』
メカ犬の声が、俺の腹部のベルトからでは無く、ハンターの攻撃を押し止めている分身体から発せられた。
「ああ!」
その声に頷きながら、俺は再びベルトの右側をスライドさせて、青いボタンを押してから、間髪入れずに黄色のボタンを押していく。
『サーチフォルム』
『サーチバレット』
ベルトから音声が流れるのと同時に、メタルブラックのボディーはスカイブルーに染め上がり、右手にはこのフォルムの専用武器の銃、サーチバレットが握られる。
俺は生成されたサーチバレットの銃口を、素早く離れた位置に手甲を構えるガンナーへと向けて、引き金を引く。
引き金を引いた瞬間に、サーチバレットの銃口から、青い光弾が発射されて、見事にガンナーへと命中してその衝撃が、ガンナーを後方へと吹き飛ばす。
当然これだけで、倒せたとは思っていないが、一時的にガンナーを無力化する事に成功した俺は、三度〈みたび〉ベルトの右側をスライドさせて赤いボタンを押してから、もう一つの戦いに介入する為に歩き出す。
『パワーフォルム』
歩く最中に、ベルトから音声が流れて、スカイブルーのボディーがクリムゾンレッドへと染め上がると同時に、俺は右手に握っていたサーチバレットを手放して、その右拳にありったけの力を込める様に握り込む。
俺が向かっていた、もう一つの戦いの場所。
それは今も激しい格闘戦を繰り広げる、二人のライダーの下である。
俺はその戦いの間に割り込み、クウガに繰り出されようとしていた相手の拳を、代わりにその身体一つで受け止めた。
「何だって!?」
青い複眼のライダーは、俺の取った突然の行動に一瞬の驚きを見せるが、すぐざま態勢を立て直して二撃、三撃と再び攻撃を再開させるが、俺は完全に防御を捨てて、ただひたすらに握り込んだ右拳に力お込め続けて、タイミングを図り続ける。
そしてそのタイミングが、ついに訪れた。
先程から続く連続攻撃よりも、大きな威力の攻撃を放とうとしたのか、今までボクサーのジャブの様にして、小さく細かく振り回していた腕の回転を、倍以上のモーションで大きく腕を振り上げたのだ。
俺は今まで溜めに溜めた拳の一撃を叩き込む為に、右拳を相手と同様に振り被った。
若干上向きから放たれた相手の拳に対して、重心を低く構えていた俺の拳が、下から上へと打ち出される。
狙いは最初からたった一つ……
俺が繰り出した拳はその狙い通り、同時に繰り出された相手の拳を、正面から捉えて相手の一撃を自らが放つ力のみで押し返して、その身体ごと吹き飛ばす。
「今です五代さん!!!」
吹き飛ばした相手を確認する事無く、俺は後ろを向いて叫んだ。
其処にはビートゴウラムに跨り、空を後ろに乗せたクウガの姿があった。
「空を……俺の友達をお願いします」
「……うん。必ず守るよ!」
俺の言葉に五代さん……皆の笑顔を守る為に戦い続けた戦士クウガが、サムズアップをして誓いを立ててくれた。
「純!気をつけて!何故か分からないけど、彼らから嫌な気配を感じるんだ!!!」
走り出すゴウラムから、この場に残って戦う為に、背を向けた俺に対して、空が叫んだ。
俺は振り返る事無く背を向けたまま、サムズアップでその声に応えて、既に半分瓦礫と成りつつある、海鳴病院の壁を突き破り、この場を後にする友達を送り出した。
「畜生!ガキが舐めた真似してくれやがって……」
メカ犬が操る分身体の拘束を振り解いたハンターが、一旦距離を取って、更に言葉の怒気を強める。
その後ろからは、先程俺が吹き飛ばした二人のライダーが、立ち上がってハンターを中央に、横一列へと並んだ。
「僕達とは自力の差があると思ってたけど……まさかここまで良い様にやられるなんてね……」
「本当に……どうしてくれようかしらね……」
怒りを露にし続けるハンターの横に立った、青い複眼のライダーが、感慨深く呟いた言葉に続いて、ハンターを間に挟んだガンナーが皮肉を口にする。
「……大地、沙耶。ここは俺一人に任せてくれねえか?」
俺は三人が何かしらの算段を立てると思っていたのだが、その予想は外れてしまった。
「本気なのかい……雄太くん!?」
「確かにオーバーさんから、切り札を貰って来たけど……あれは最後の手段って言っていたでしょう!?」
ハンターの放った言葉は、俺だけでは無く、仲間である筈の二人のライダーにとっても、同じ事だった様で、其々に驚きの反応を示していた。
それにしても、オーバーから貰った最後の切り札……一体何の事だと言うのだろうか?
ハンター達が言う最後の手段が、何を意味している事なのか、分からないが、あのオーバーが持たせたものならば、碌な事に成らないのは確かである。
『気をつけろマスター。空が去り際に言っていた言葉が、何か関係しているかも知れない……』
遅れて俺の隣に並び立った、分身体を操るメカ犬が、俺に注意の言葉を投げ掛ける。
俺と同様の事を、メカ犬も考えたのだろう。
「俺は許せねえんだよ……糞憎たらしいガキが我がもの顔で、正義の味方するのがよお……」
警戒する俺とメカ犬を前にして、ハンターが先程までの怒気を抑えて、まるで其処に佇む幽鬼の様に呟くという表現が妥当な口調で、静かに語りだした。
「……それに何より……そんなガキの遊びにすら勝てない俺が……情けなくてしょうがねえんだよ……」
ハンターはそう言うと、両手に持っていたナイフを手放して、ベルトに手を添えた。
『ハンターのホルダー反応の質が変わった!?気をつけろマスター!奴の……ハンターの本質が変わろうとしている!!!』
ベルトに手を添えたハンターを見て、メカ犬が先程以上の声量で俺に注意を促して来た。
メカ犬の言葉に耳を傾けながら、ハンターの動きに注目すると、ベルトに嵌っていた黄色い玉が、闇の様な漆黒へと染まり出したのである。
「これって!?」
俺が驚きの声を上げたところで、ハンターの変化は止まる事は無く、寧ろ変化は加速度的に上がって行く。
ハンターの上半身を覆っていた銀のプロテクターと、黄色い複眼もベルトの玉と同じ様に漆黒へと染まる。
その姿はまるで……
「……これがオーバーさんが言っていた……切り札を使った状態か」
「ベルトに組み込むだけで後は武器を作る時と、同じやり方で良いって言ってたけど、こんな機能だったのね!?」
ハンターの急激な変化を見るのは、仲間の二人も目にするのは初めてだったのだろうか?
そして先程の発言から推測すると、ハンターと同じ機能が、後の二人にも搭載されていると見て間違い無い。
俺の予想が当たっているとしたら、それは本来ならば使ってはいけない筈の力だ。
その力の根源は……
「……あれはクウガと同じ……凄まじき戦士の力なのか?」
俺は思った事を、そのままに呟いていた。
「さあ、糞ガキ……始めようぜ?俺が絶望って悪夢を見せてやるからよ!」
急激な変貌を遂げて、全身を漆黒に染めたハンターは、俺にそう告げると、その首を昨日の夜に見せた時と同じ様にして、時計回りに一回転させた。