魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「空の言う通りなら、この地下水道の奥に、はやてちゃんが捕まってるのか?」
「うん。確かに僕の母と近い力をこの先に感じる……多分間違いないと思うよ」
外の光が殆ど届かない薄暗い水路を進みながら、五代の質問に、空は頷きつつ答えを返した。
ボマーとの戦いを終えた後、当初の予定通り、北に向かった五代と空を待っていたのが、この地下水路の入り口だったのだ。
空の話では、この水路の奥から、二つの強い力。即ち【巫女】と【闇】の力を感じたという訳で、二人はこの今は使われていない様に見える水路の内部へと、突入したのだが既に数分以上歩いているのに、全く人の居そうに無い静けさに、五代は疑問を覚えていたのである。
しかしその疑問は、すぐに終わりを告げる事となった。
「一旦止まってください。この先に……居る筈です」
「あれは……明かりか?」
先導していた空の呼び掛けに、足を止めて五代が正面を見据えると、その先に微かな光源が存在していた。
「ここから先は、慎重に進みましょう」
「ああ」
空の提案に、五代が頷く。
二人は息を潜めながら、慎重に正面に見える光源を目指して、暗い水路を進んで行った。
「「なっ!?」」
そして光源のある場所へと辿り着いた二人は、其処に広がる光景に、驚愕の声を上げる。
ここまでの水路とは違い二十畳程の、ドーム状に広がった空間の中心に、淡い光を纏った少女、はやてが虚ろな瞳で虚空を眺めていた。
その下、地面には光が複雑な紋様を描き、一見すると魔方陣と思わせる形状を作り出している。
空と五代が、水路の先に見つけた光源の正体は、この光だったのだ。
「これは……一体何なんだ?それにはやてちゃんは、大丈夫なのか!?」
五代は宙に浮かぶはやてと、地面に描かれた魔法陣の様な光の集合体を交互に見ながら、この中で唯一答えを返す事が出来るであろう空に、質問を投げ掛ける。
「はやてちゃんは多分、力を無理矢理に引き出された事で、トランス状態になってるんだ。見た感じは、元々持ってる力を外部からの暗示で制御してるだけだと思うから、何か切欠を与えれば大丈夫な筈だよ。でもこの術式は……母が使っていた封印の術式と似ているけど違う。もしかしてこの術式は……」
「その通り。これは【闇】を復活させる為の術式だ」
空の言葉を遮る様に、二人の背後から抑揚の無い声が、聞こえて来た。
その声に反応して、空と五代が振り向くと、その声の主である、灰色の怪人メルトと、その隣には藍色の怪人オーバーが退路を塞ぐ形で立っていた。
「お前達が今回の黒幕か!?」
その姿を視界に捉えた五代は、何時でもクウガに変身出来る様に身構えながら、二人の怪人オーバーとメルトに質問を投げ掛ける。
「正解!大変良く出来ました!それにしても、良くこの場所が分かったね。正直凄く驚いたよ」
五代の質問に答えたのはオーバーだった。
先程のメルトとは対照的に、明るい口調で喋っているが、逆にその言い方が妙な寒気を五代と空に与える。
「待っていたぞ……お前が【器】だな。これで……この場所に【闇】【巫女】【器】の全てが揃った。これで計画を次の段階に移す事が出来る」
更に畳み掛ける様にして、メルトが空に視線を送りながら、不穏な言葉を口にする。
「……計画?一体君達は何を企んでるんだ!?それに闇を完全復活させるには、全てが揃った状態に加えて星の巡りも関係してくるから、今はその時じゃ無い筈……もしかして、この術式はその為の!?」
メルトの言葉を反芻しながら、空は疑問を投げ掛けるその途中で、脳裏にある仮定が思い浮かび、その予想が的中している可能性を想像して、戦々恐々とした表情になる。
「流石は【器】ってところだね。察しが良くて助かるよ」
「不完全な状態だとしても、【闇】を復活させる事さえ出来れば、私達にとっては充分な成果だ。多少の不具合が出たとしても構わない」
空の想像は、オーバーとメルトの言葉により、確信へと変わった。
「だから君の身体は【器】として頂くよ!!!」
最初に動いたのはオーバーである。
空を【器】として頂戴する事を宣言したオーバーが、右手を振り翳すのを合図にして、水路の方から、包帯を全身に巻いた様な姿をしたホルダー達が、続々と現れたのだ。
その数は少なくても、20体以上は居るだろう。
「変身!」
ホルダーの大群が現れると同時に、五代は自身の腹部にアークルを出現させて、最も基本能力が安定しているマイティーフォームのクウガへと変身して、襲い掛かるホルダー達に先制攻撃を仕掛ける。
「五代さん!」
「ここは俺が時間を稼ぐから、空は早くこの場所からはやてちゃんを連れ出してくれ!」
ホルダーと戦うクウガに空が呼びかけると、クウガは何体ものホルダーを相手にしながら、はやてをこの場所から逃がす様に指示して、ホルダーを空に近付けさせない様にしつつ、はやての居るドーム状に広がった部屋の中心部への道を切り開く為に奮闘する。
空はクウガの出した指示に頷き、クウガの作り出したはやてに辿り着く為の道を一気に駆け抜けていく。
「そう簡単に行くと思ってるの?」
しかしその道の先には、オーバーが空とはやてとの間に立ち塞がっていた。
「くっ!?」
オーバーを目の前にこれ以上進むのは、危険だと判断した空は、表情を曇らせながら、その場で立ち止まる。
「悪いけど君はここで通行止めだよ。それに君には【闇】の【器】になってもらわないと僕達が困っちゃうからね」
「……それはお断りだよ。僕の使命は【闇】を永遠に封印する事だ。絶対に復活なんてさせない!」
「ふうん……随分と強気だけど、勝算でもあるのかな?一緒に来た頼りの仮面ライダーは後ろでホルダー達と遊んでるし、今君を守ってくれる人はこの場に誰も居ないと思うんだけど?」
軽い口調だが、的確に今の状況が空にとって、絶望的だという事を告げるオーバーだったが、その言葉に対して、空は筈かに笑みを浮かべて、ある物を取り出した。
「ここで罠を張ってるって事は容易に想像出来たよ。僕達がそれを知っていながら、何の対策もせずに来ると思うかい?」
空が取り出した物体は黒いベルトだった。
そしてそのベルトを自身の腹部に巻いた空は、続いて青い野球ボール大の玉を取り出して身構える。
「……なるほどね~中々強かじゃないのさ。そういうの、僕は個人的に嫌いじゃないよ」
空がベルトを取り出した瞬間こそ驚いたオーバーだったが、次の瞬間にはそのハプニングすらも、楽しみの一つに変えてしまったのか、何時もの調子で喋り出す。
「悪いけどこのベルト……遠慮無く使わせてもらうよ!」
「良いね。少しこのまま終わるのは、退屈だと思ってたんだ。精々僕を楽しませてくれたら嬉しいな!」
身構えながら空が叫んだ宣言に対して、オーバーは笑いながら、自らの右腕に西洋を思わせるデザインの剣を生成して、一気に距離を詰める。
「変身!」
オーバーの行動を合図に、空は青い玉を黒いベルト中央の窪みに嵌め込み、力ある言葉を紡ぐ。
その瞬間に空の身体が、青い光に包まれて、全体的にブラウンのボディーと上半身を銀のプロテクターが覆い、額には炎を模した角飾り、そしてベルトに嵌め込んだ青い玉と同色の複眼を持つ、戦士の姿へとその身を変える。
仮面ライダーボマー。
本来ならば黒谷大地が変身する筈の姿であるが、ボマーを無効化した後に、空はそのボマーのベルトを回収しておいたのである。
出来る事ならば、使いたくなかったというのが、空の本音ではあったのだが、敵の本拠地に行くのであれば、一つでも多くの切り札を持っておきたい。
そしてその切り札を出し惜しみしている猶予は、今の空には無かった。
今から行われようとしている儀式は、空の知る封印の儀式の逆を辿るどころか、その前提すらも覆す未知の部分が存在している事を、はやてとこの地面に描かれている魔法陣を、目の当たりにした事で、気付いてしまったのだ。
このまま放置していれば何が起こるのか、既に空の知る領域を超えつつある事態に焦燥感を覚える。
だから一刻も早く、この儀式を無力化しなくてはいけないと感じた空は、ボマーの力を使い、はやてを救出したらすぐさまこの魔法陣を破壊する算段を立てて、迫り来るオーバーを迎え撃つ。
「無駄だよ!もうすぐ全ての準備が整うんだからさ!」
「その前に僕が、この術式を絶対に壊す!」
オーバーの繰り出した斬撃を避けながら、ボマーの姿となった空が自身の覚悟を叫びにする。
「それまでに僕を倒せるとでも思ってるの?だとしたら随分と舐められたもんだよね。僕が試作品程度に負ける筈無いのにさ」
「勝てなくても、足止めする方法なら幾つもあるんだよ!」
相変わらずの軽い口調で、残酷な事実を口にするオーバーだったが、空はそれに対して余裕とも言える言葉を放つ。
「何を負け惜しみをい……!?」
惑わせる為のハッタリだと高をくくり、嘲た態度を取ろうとしたオーバーだったが、足元の違和感に気付き、その言葉を途中で中断して、足元の違和感を確認する為に下を向く。
其処には、筒状の物体が転がっており、その先端がオーバーの足元に接触していたのである。
「例えば落とし穴なんて、僕は良いと思うけどね?」
そんなオーバーに対して、空は子供の悪戯が成功した様な、笑い交じりの言葉を、オーバーに放つが、返答は帰ってくる事は無かった。
オーバーが答えを返すよりも早く足元の筒、ボマーの能力で生成された爆弾が、小規模の爆発を引き起こして、床に穴を開けたのである。
最初の斬撃を避けた直後に、爆弾を仕掛けると共に、そのタイミングを完全に把握していた空は、爆発と同時に、オーバーの肩を足蹴にして、自身は穴に落ちる範囲から逃れつつ、踏み台に利用したオーバーを穴の中へと叩き落す事に成功した。
「だから言ったでしょ?勝てなくても、足止めする方法はあるって」
無事に着地に成功した空は再び、穴に向かった言葉を投げ掛けるが、その答えは当然の事ながら、オーバーに届く筈は無く、穴から吹き抜ける風以外に返事を返す存在は皆無だった。
「さてと。急いではやてちゃんを助けなくちゃ!」
オーバーが穴の中から這い出して来ない事を確認した空は、当初の目的通り、はやての居る場所に向かおうと駆け出したその時、床に光っていた魔法陣がその輝きを増した。
俺は今、海鳴病院を後にして、チェイサーさんに跨りながら、北を目指していた。
『マスター。奴の言う事を信じて良いと思うか?』
そんな折に、メカ犬が俺に語り掛けてくる。
恐らくは、先程の会話の事を言っているのだろう。
「怪しいのは分かるけど、今は信じるしか無いだろ?他に情報は無いし……それに」
『それに?』
「それにあいつは、はやてちゃんについて嘘は言ってないと思うからさ」
確信なんてものは何も無かった。
ただ俺が、そう感じたに過ぎない。
その真意が何処にあるかまでは、俺の知るよしでは無いが、少なくとも今は敵ではないと思う……
俺は複雑に絡まった様な、今の気持ちを誤魔化す為に、先程の海鳴病院で起こった事を思い出す。
……ハンターとの決着後に、何処に向かえば良いのか分からず、途方に暮れていたその時、俺達の目の前にあいつは現れた。
それは一匹の猫。
俺がはやてちゃんと初めて出会ったあの日の夜に、俺に警告をしてきた。あの猫である。
その猫が海鳴病院を北に進んだ先にある。今は使われていない地下水路の奥に、はやてちゃんが捕らわれているのだと教えてくれたのだ。
その情報だけを口にした猫は、他にろくに話もせずに、俺達から姿を消してしまった。
ただ去り際に、まだその時では無いと言ってはいたが、俺にはそれが何を意味しているのか、全く理解出来なかった……
『あの猫は以前にもマスターの前に現れて、これ以上はやて嬢に近付くなと警告してきたが、今回ははやて嬢をマスターが助ける様に仕向けてきた……一体何を目的としているのか、見当が付かないな』
「ああ。空ははやてちゃんに【巫女】としての特別な力があるって言っていたから、その力に関係しているのか、それとも……」
俺が其処まで口にしたところで、チェイサーさんが急停止した。
「どうしたんですか?チェイサーさん」
『マスター何か知らないけど、沢山お客さんがやって来たみたいよ?』
急に停止したチェイサーさんに対して、俺が声を掛けると、チェイサーさんは、何処か冗談交じりに言いながら、俺に空を見上げる様に言って来た。
「これは!?」
『ホルダーの大群か!?』
上空を見上げて、俺とメカ犬は驚愕の声を上げた。
その時俺とメカ犬の視界が捉えたのは、昨日の夜に戦ったミイラの様なホルダーがコウモリの様な翼を羽ばたかせながら、大群で此方へとやって来る姿だったのだから……