魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「ここは……」
『どうやらこの世界の、大学と呼ばれる学び舎のようじゃのう』
付近で一番大きな反応を追って、辿り着いたその場所でミルファが小さな声で呟き、彼女が身に付けている腕輪のプリズムがその呟きに答える。
「そんな事は分かってるのよ!私が言いたいのは、本当にこんな場所にあれが有るのかってこと!!!」
見当違いな答えを返す自らの相方に対して、ミルファは容赦の無い突っ込みを繰り出す。
ミルファが辿り着いた場所は海鳴市の住宅街に近い立地に存在する地元の市民から一般的に海鳴大学と呼ばれている国立の大学だった。
この海鳴大学は中々に広い敷地と立派な設備を多く有しており、その施設の一部を外部の人でも使用出来る様にしている為か、中庭のキャンパスは常に一般にも開放されているので、どう見ても外見が小学生なミルファが大学内を闊歩していても、変に注目される事は無く堂々と中庭を歩きながら捜索を続けている。
『残念じゃが分からんのう……まあ、兎に角反応は確かにこの付近から出ておるのじゃ。探せば何かしらのヒントが見つかるかも知れんぞい?』
「結局はそういう事なのよね……」
先程の公園では名案だと自負していたミルファだったが、少人数でやるには明らかに時間の掛かるこのやり方に、既に若干の精神的ストレスを感じて、一人溜息を零す。
その直後大きな爆発音と振動が、この海鳴大学の内部で巻き起こった。
「な、何なの!?」
その爆発に驚きながら、ミルファが声を上げる。
『どうやら校舎の中で爆発があったらしいのう。目の前の建物から煙が上がっておるぞい』
プリズムの言う通り、物が焼ける独特な臭気がミルファの鼻腔を刺激し、前方の校舎の窓からは黒い煙が大量に噴出していた。
その煙に火災報知器が反応したのだろう。
耳に残る大きな電子音と、それに加えてまだ大学内に残っていた人達の慌しい声がこの場の音の全てとなる。
そして次の瞬間。
この二つの音に新たな音が追加される事となった。
「全部壊してやるぜええええええええええええええええ!!!!!」
歓喜に震える男性の声と共に、煙の上がっていた校舎の壁が勢い良く砕け散る。
その壁が砕け散った事で出来た新たな出入り口から、人間とは明らかに違う姿をした一体の異形の怪物がその全貌を現す。
くすんだ灰色のゴワゴワとした毛並みが全身を覆い、顔面は犬の様な口が突き出た形状をしているがその眼の鋭さは犬と言うよりも、その原種となる狼に近い。
だがその異形は当然ながら、本物の狼などでは無い。
二メートル近くの長身に二足歩行、あまつさえ人語を喋る狼などは他に類を見ないであろう。
「あの怪物ってもしかして……」
突如として現れた異形の存在に、ミルファは呟きながら脳内で今日の喫茶店で聞いた一人の少年の言葉を思い出す。
この海鳴市に頻繁に出没するホルダーと呼ばれる異形の存在。
他の世界から持ち込まれた、人と融合するプログラムによって誕生した人の力を超えた存在を、少年はホルダーと呼んでいた。
『どうやらあの怪物も昨日遭遇した怪物と同じホルダーの様じゃのう……』
歓喜の叫びを上げながら、尚も暴れ続けるホルダーを前にプリズムが言葉を紡ぐ。
「あんな奴を放って置く訳にはいかないわ!!!行くわよプリズム!!!」
暴れまわるホルダーに、ミルファはその瞳の奥に怒りの炎を宿しながら叫ぶ。
「プリズム、セットアップ!」
その言葉に呼応するかの様に、ミルファの全身は光の粒子に包まれると共に、瞬時に昨日と同様のチャイナドレスを彷彿とさせる格好へ変わり、その右手には身に付けていたブレスレットの宝石と酷似した一本の杖が握られる。
『放って置けないのはワシも同意見じゃが、具体的にどうするつもりじゃ?あのホルダーとやらには魔法の効果はあまり期待出来んぞい』
姿を変えたミルファに対して、現在は杖の形状となっているプリズムが、当然の疑問を投げ掛ける。
「魔法が効かないなら、別の戦い方をするまでよ!!!」
プリズムの疑問にミルファは威勢良く答えると、杖を振り被りながらその言葉を実行に移す。
「プリズムショット!」
ミルファが言葉を紡ぐと同時に杖の先端に光が集約され、振り被った杖が振り抜かれると光球が前方へと放たれて行く。
「!?」
その光球の向かう先に居たのは当然ながら暴れていたホルダーであり、突如として飛来してきた光球に、驚愕するが、その光球はホルダーを目前にして軌道を変えてしまう。
軌道を変えた光球は、本来の標的である筈のホルダーには当たらず、その足元に着弾したのだが、光球が地面を抉ると同時に、その大きな破片の多数がホルダーを強襲する。
『なるほど。考えたのう』
「魔法が効かないなら、間接的に使って物理攻撃を仕掛ければ良いだけよ!!!」
予想外の攻撃をその身に受けたホルダーを見て、プリズムが感心の声を上げ、ミルファはその声に当然とばかりに笑みを浮かべながら早速第二波の準備へと取り掛かるが、其処で事態はミルファ達にとって最悪の形で急変する事となった。
『あれは!?』
「こんな時に嘘でしょ!?」
ミルファとプリズムがほぼ同時に驚愕の声を上げる。
ミルファ達の追っていた謎の光。
それがこの戦いの場に突如として現れたのだ。
更に最悪な事にその光は、昨日と同じくまるで吸い込まれるかの様に、ホルダーの身体へと飛び込んでいく。
「ぐっ!?がああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
光を受け入れたホルダーは、断末魔にも似た叫びを上げながら、その異形の肉体をミルファ達の目の前で更に変質させる。
くすんだ灰色の毛並みは、鋭い刃の様な銀の毛並みへと変わり、両手両足にはその毛並み異常に鋭く研ぎ澄まされた鋭利な刃を彷彿とさせる長い爪が生まれた。
『昨日の奴と同一の現象が!?』
「相手の姿が変わってもやる事は同じよ!」
光を吸収した事により変貌したホルダーの姿にプリズムが驚く中で、ミルファが構わず先程と同様の動きを繰り返す。
再び杖の先端から放たれる光球が、ホルダーの足元に着弾して地面を抉り、その破片がホルダーへと降り掛かるが次の瞬間ホルダーの姿がまるで霞の如くミルファの視界から消え去ってしまう。
「消えた!?」
前触れも無く目の前で起こった事象に困惑するミルファだが、ホルダーの行方を探る為に辺りを見回すよりも早く背後から声が掛けられる。
「さっきのはお前の仕業か……」
その声は先程ミルファの目の前から、忽然と消えた筈のホルダーのものだった。
『後ろじゃミルファ!』
「くっ……シールド!」
プリズムが危険を知らせるとほぼ同時にミルファが振り返る事無く言葉を紡ぐと、瞬時にミルファとホルダーを隔てる様に半透明の壁が出現するが、ホルダーは構う事無くその鋭い爪と人の力を凌駕した圧倒的な破壊力で壁ごとミルファを薙ぎ払ってしまう。
「きゃあ!?」
半透明の壁の存在により、直接ホルダーの攻撃を受ける事は無かったが、その衝撃までは防ぐ事が出来ずにミルファは吹き飛ばされる。
「何だが知らねえが、今日は最高の日だぜ!今ならどんな事でもやれそうだ!!!」
吹き飛ばされたミルファを見て恍惚とした声を出しながら、ホルダーが一歩ずつ着実に未だ先程の衝撃で立ち上がる事すら出来ないでいるミルファの元へと向かって歩み寄る。
「だから……俺の邪魔をする奴はここから消えろ!」
ホルダー化した事と更なる変化が重なった事により、完全に理性を失ったのか。
ホルダーは戸惑う事無くその鋭い爪を振り上げ、ミルファの苦痛に歪む顔を堪能しながら振り下ろそうとするが、そうするよりも早く、一台の黒いバイクが爆音と共に現れて、その速度を緩める事無くホルダーへと体当たりを決た。
「君は……」
全身を襲う痛みに絶えながら吹き飛ばされるホルダーを一瞥して、その要因である黒いバイクに視線を向けたミルファは思わず呟く。
それと言うのも、その黒いバイクから降りて此方に駆け寄って来た一人の少年の顔をミルファが知っていた為である。
「大丈夫ですか!?」
ホルダーをバイクアタックで吹き飛ばした後、俺はチェイサーさんから飛び降りて、倒れているミルファさんの下へと駆け寄る。
「……君、どうしてこの場所に?」
恐らくはホルダーにやられたのだろう。
見たところ外傷は無さそうだが、ふらつきながら立ち上がったミルファさんが俺に質問を投げ掛ける。
「ホルダーの反応をキャッチしたんで急いで来たんですけど、間に合ったみたいで本当に良かった」
俺はその質問に対してタッチノートを見せながら簡単に説明して、ホッと胸を撫で下ろす。
しかしその答えはミルファさんが待っていたものでは無かったらしく、その瞳に若干の苛立ちの色が伺える。
「そうじゃ無いわ……どうして君は私を助けたりするの?あまつさえ心配したりするのよ?私は君に何も話さなかったのよ!?一方的に自分の意見だけを押し通して、君の気持ちを踏み躙ったのに……どうしてそんな優しくするのよ……」
最初は苛立ちをそのままぶつけるかの様に言葉を発したミルファさんだったが、最後の方にはその声も消え入りそうな程に小さくなっていく。
俺はミルファさんの事情は何も知らない。
どうして其処まで頑なに、一人で解決しようとするのか見当も付かない俺には、どんな言葉を掛けて言いのか分からなかった。
だから俺は……今の自分が思っている想いと、決意を口にする。
「俺は自分に出来る事を、最大限やってるだけだよ」
「自分に出来る事を……」
ミルファさんが俺の言葉を繰り返すのを聞きながら、俺はミルファさんに背を向けてチェイサーさんに吹き飛ばされたダメージから早くも回復して立ち上がろうとするホルダーと、ミルファさんの間を隔てる立ち居地に陣取りながら、その手に持ったタッチノートを開く。
「何でも自分だけで出来る人なんてきっと殆ど居ないから……俺だって一人じゃ出来ない事が一杯あるけど、それでも譲れない想いがあるから……だから俺はその想いを守る為に戦う。最高の相棒と一緒に!」
『マスター!』
俺の声に呼応するかの様に、チェイサーさんの座席シートから飛び降りたメカ犬が俺の隣に並び立つ。
「行くぞメカ犬!!!」
『うむ!!!』
相棒の返事と同時に俺はタッチノートのボタンを押す。
『バックルモード』
タッチノートから音声が流れると、俺の隣に居たメカ犬がベルトに変形して、そのまま俺の腹部に自動的に巻きつく。
「変身」
音声コマンドとなっている言葉を紡ぎながら、タッチノートをベルト中央の窪みに差し込むと、白い光が俺の全身を包み込み、一人の戦士へとその姿を変えていく。
「か、仮面ライダー!?」
立ち上がったホルダーが、今の俺の容姿を目撃すると驚愕の声を上げた。
全身を覆うメタルブラックのボディーに、ベルトを中心に四肢へと伸びる銀のライン。
そのラインと同色の額に輝くV字型の角飾り。
そした二つの赤い複眼が特徴的な今の俺の姿を見た街の人間は、誰もがそう呼ぶ。
俺の決意は……その名を背負い戦う事だ。
だから俺は自らの決意を貫く為に、目の前のホルダーに右手を突き出して宣言する。
「悪夢はここで終わらせる!」
俺はそう叫びながら、目の前のホルダーに向けて駆け出した。
「どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがってええええええええ!!!」
向かってくる俺を見てホルダーが怒声を放つと、俺と同様に此方に駆け出して来る。
互いに距離を詰めた状態となった俺とホルダーは、その常人の域を超えた肉体による接近戦を繰り広げていく。
俺はホルダーの繰り出す鋭い爪を使った連続攻撃を捌きながら、その隙間に拳と蹴りを放つがホルダーの方も異常な程にフットワークが軽快で、俺の攻撃を尽く避けきってしまう。
『相手の方がマスターよりも一段階素早いな』
「それならこっちのスピードを上げれば良い!」
ベルトから聞こえるメカ犬の指摘に答えながら、俺は後方に飛び上がる事で一時的にホルダーと距離を取り、すぐさまベルトの右側をスライドさせて緑と黄色のボタンを順番に押していく。
『スピードフォルム』
『スピードロッド』
音声が流れると、空中で俺のメタルブラックのボディーが鮮やかなライトグリーンへと染まり、その右手にはこのスピードフォルムの専用武器であるスピードロッドが生成される。
「はああああああああ!!!」
俺は空中でスピードロッドを上段に構えた状態で、ホルダー目掛けて落下と共に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐはっ!?」
流石にホルダーも、いきなり俺が突然空中から武器を使った攻撃をしてくるとは考えていなかったのだろう。
スピードロッドによる一撃がホルダーの右肩に決まると同時に苦痛の声を上げた。
『畳み掛けろマスター!!!』
「分かってる!!!」
メカ犬の指示に返答を返しながら、俺はスピードロッドを振り回しながら、痛みに苦悶の声を漏らすホルダーに追撃を仕掛けようとするのだが……
『うむっ!?』
「き、消えた!?」
俺がホルダーに向けてスピードロッドを振るった次の瞬間に、先程までその場所に居た筈のホルダーの姿が忽然と消えてしまったのだ。
「こっちだよ!!!」
理解が追いつかない現象に俺とメカ犬が驚愕の声を漏らしたその直後、背後から急に聞こえた声に振り向く間も無く、俺の背中に鋭い痛みが走る。
「ぐあっ!?」
続いて俺の背中に叩き込まれた強烈な衝撃によりその場から吹き飛ばされながらも、何とか瞬時に受身を取って背後に視線を向けると、其処には先程目の前から消えた筈のホルダーの姿があった。
『どういう事だ!?』
「何で目の前に居た筈のホルダーが後ろに……」
突如として後ろから再び姿を現したホルダーに、俺とメカ犬は疑問の声を上げる。
「そのホルダーは昨日の奴と一緒よ!」
俺とメカ犬が疑問の声を上げたその直後、ミルファさんの声が大学のキャンパス内に響き渡った。
「……ミルファさん?」
その声に反応して俺はミルファさんに視線を向ける。
ミルファさんは、まだ少しふらついていて弱々しい状態ではあったが、その瞳からは今まで以上に強い何かを感じさせた。
「あのホルダーは昨日の奴と同じで、例の光を受けて変化したわ。多分ホルダーが元々持っていた能力が、異常に強化されてる!あの光にはそういう特性があるのよ!!!」
「……どうして、それを俺に教えてくれるんですか?あんなに話す事を拒んでいたのに……」
緊急事態という事はあるかも知れないが、あんなにも俺に話す事を拒んでいたミルファさんが、俺に情報を話してくれた事を不可解に感じてしまい、俺は思わず質問を投げ掛けてしまった。
俺の質問を聞いたミルファさんは、一瞬だけ呆けた顔をしたが、その表情は本当に一瞬だけであり、すぐに元の吊り眼がちで少し厳しい顔へと戻ってしまう。
「君に譲れない……大切なものがあるのと同じで、私にも絶対に譲りたくないものがあるわ。だけど私一人の力じゃ、出来そうに無い……それが分かったから……今更こんな事を言えた義理じゃ無いかも知れないけど……私は、私の出来る事をしたい!」
その後自身の心情を語ったミルファさんは、一時の間を置いて再び言葉を紡ぐ。
「だ、だから私に協力して一緒にこの街を守って……仮面ライダー!!!」
俺はその願いに言葉を返さなかった……
ただその代わりに俺は頷きながら右手の親指を上に突き出してサムズアップをする。
『元々の能力を更に強化する……そうか!』
俺とミルファさんの中で、一つの憤りが無くなった刹那に、メカ犬が声を張り上げる。
「どうしたんだメカ犬?」
『奴の消えた正体が分かったぞマスター。ミルファ嬢の情報が正しいのであれば、奴の能力は瞬間的な素早さの向上だ。あのホルダーの能力が素早さだったのであればその可能性が最も高い!』
「高い身体能力を更に高めるか……そう言えば昨日のホルダーは元々頑丈そうな身体が更に硬くなってたな……」
メカ犬の説明を聞いて、俺は昨日の戦いで見たホルダーの変化を思い出す。
『ならば答えは一つだ!此方も同じ舞台に上がれば良い!!!』
「ああ!!!」
俺はメカ犬の言おうとしている事を理解して、すぐに行動へと移す。
その場にスピードロッドを投げ捨てベルトからタッチノートを引き抜き、ディスプレイをある項目に設定して直接指でなぞる。
『コール・ライガー』
すると音声が流れて、数瞬の間を置いてから一体の緑の獣がこの場に現れる。
『マスターお待たせじゃん!』
呼び出した手乗りサイズの緑色の虎、メカ虎が俺の肩に飛び乗りつつ軽い挨拶を披露した。
「呼んで早速だけど行くぞメカ虎!」
『オレッチに任せるじゃん!』
俺の言葉に相変わらずの乗りで答えるメカ虎を肩に乗せた状態で、俺はタッチノートの操作を続ける。
『スタンディングモード』
アタッチメントパーツへと変形したメカ虎を握った俺は、タッチノートを再びベルトに差し込み、続いてベルトの左側をスライドさせて、その差し込み口にアタッチメントパーツとなったメカ虎をセットする。
『スピード・ライガー』
音声が鳴り響いたその瞬間に、ライトグリーンの追加パーツが、ベルトから発せられる光から生成されて、次々と俺の身体に装着されていく。
メカ犬の言っていた同じ舞台に上がれば良いという言葉。
常人が感知出来ない程の速さに着いて行く為には、此方もその舞台へと上がる為の能力を得なければ成らない。
ライガーモードはこの場でそれが出来る唯一の存在だ。
「折角こんな茶番に付き合って待ってやったんだ。精々楽しませてくれよ?」
ホルダーは下卑た笑いを浮かべながら、そう言うと再びその姿を消してしまう。
『マスター!オレッチ達も行くじゃん!!!」
「分かった!!!」
俺はメカ虎の言葉に頷きながら、地面に落ちていたスピードロッドを蹴り上げて、再び右手に握り締めてから、アタッチメントのレバー部分を引く。
『マックスチャージ』
ベルトから流れる音声と同時に、発生した光が、俺の四肢へと集約されていく。
まるで己の重さの全てが取り除かれた様な不思議な感覚を味わいながら、俺がその場から駆け出すと消えてしまった筈のホルダーが正面に駆け寄って来るのを視界に捉える事が出来た。
やはりホルダーは今の俺と同じ様に、常軌を越えた速さで動いていたのである。
だからこそ同じ感覚を得る事で、俺はその姿を再び目視する事に成功した。
ちなみにこの状態の名称なのだが、メカ虎の強い要望で【スピードタイム】と呼ぶ事が決定したのは全くの余談だ。
「な、何だと!?」
寧ろこの現状に驚いたのはホルダーの方だったのだろう。
己の速さに着いて来る俺に対して、驚愕の声を上げる。
「はああああああああ!!!」
俺は驚愕するホルダーに容赦なくスピードロッドによる連撃を浴びせかけて最後にホルダーの顎へと先端をぶつけて真上に吹き飛ばす。
『今がチャンスじゃん!!!』
「OK!!!」
メカ虎の指示に俺は一言で答えながら、再びアタッチメントパーツのレバーを引く。
『マックスチャージ』
先程はスピードタイムを発動させる為に全身へと流れたエネルギーが、今度は右腕のラインを伝って、スピードロッドへと集約される。
「こいつで決めるぜ」
俺は真上から落下してくるホルダーに眩い輝きを放つスピードロッドを構えた。
「スピードブレイク」
真下から落下してくるホルダーに対して、俺の繰り出した連続の突きがホルダーの全身を強襲する。
その衝撃をその身体に全て受け止めたホルダーは大きな爆発を起こす。
丁度その時点でタイムリミットである10秒が経過してスピードタイムが終了の時を迎える。
時間の流れが通常に戻り、俺がその場で変身を解くと、爆発のあった真上から気絶した一人の男性が落下して地面に転がった。
年齢は若い見た目とカジュアルな服装から考えて、恐らくこの大学の生徒なのだろう。
そしてその男性の身体の中から、昨日と同様に謎の光の球体が飛び出してくる。
「これが今の私に出来る事かな……」
何時の間に近くまで来ていたのか。
ミルファさんは少し複雑そうな笑みと共に杖を振るい、その杖の先端に光が当たると、その光は最初からその場に居なかったかの様に跡形も無く消えてしまった。
『マスター。ちょっとこっちに来てくれ』
俺がミルファさんの様子を見ていると、少しだけ離れた場所からメカ犬に声を掛けられる。
「どうしたんだメカ犬?」
『これを見てくれマスター』
言われた通りメカ犬の指し示す地面に視線を向けると、其処には先程のホルダーの原因となったであろう暴走プログラムの残骸が転がっていたのだが、それは俺の知っている暴走プログラムとは若干違っていた。
「……赤い色をしてる?」
『うむ。今まで見た事の無いタイプの暴走プログラムだ』
メカ犬の言う通り、今までに見た事のある暴走プログラムとはまた別のタイプなのは一目瞭然である。
何か手掛かりになればと思い、俺はその残骸に手を伸ばすが、俺の指先が触れると同時に、暴走プログラムは塵となってその存在は無へと帰ってしまう。
俺はその光景に先程の勝利の余韻より、得たいの知れない薄気味悪さを覚えた……
私はこの日、素晴らしい出会いをした。
初めはその人とは違う異形の姿から、少し早い地獄からの迎えが来たのかと思ったが、彼は私に素晴らしい贈り物をくれた。
もしかしたら彼は、私にとって地獄からの使者では無く、天より舞い降りた天使だったのかもしれない。
何故なら彼が私にくれた贈り物とは、それ程の価値がある素敵なものだったからだ。
この贈り物があれば、もしかしたら私の目的が達成出来る日が私の生きている内に来るかも知れない……
既に病魔に蝕まれ僅かな時間しか残されていないこの身体で、己の生きた証をこの世に残そうと躍起になっていた私にとって、それは神からの天恵と等しいものだった。
だが、私はまだ心の何処かで迷っている。
それは人間として正しい事なのか?
早計に答えを出す訳には行かない。
残された時間は決して多くは無いが、それでも私はその時間で考えなければ成らないだろう。
もしも私の導き出した答えが間違っていたその時は……
「あの光を私達は試練の光って呼んでいるわ」
「試練の光?」
俺はミルファさんの言葉に対してオウム返しに声を零す。
現在俺とミルファさんは我が家である板橋宅の俺の部屋で、例の光について話をしていた。
そして二度に渡り、ホルダーを変質させた光の名称が先程俺がオウム返しに聞き返した【試練の光】と言うらしい。
完全にとまでは言えないが、協力を申し出てくれたミルファさんは俺に幾つかの事を話してくれた。
まずミルファさん自身についてなのだが、どうやら話を聞く所によるとどうやらミルファさんの出身は、俺も一度だけ行った事のある……あのミッドチルダらしい。
昨日から偶に聞こえてきていたミルファさんの声とは明らかに違う謎の老人の声は、以前アリシアちゃんが話してくれたデバイスで、名前をプリズムというのだそうだ。
俺がミッドチルダに言った事があると話したら、随分と驚いていたミルファさん達だったが、今までにも何度か前例があるらしく、すぐに気を取り直して話を再開させた。
以前にアリシアちゃんから聞いた話だったのだが、どうやらミルファさんはそのミッドチルダの警察的な役割を持つ組織に属しているらしく、その任務でここに来たそうだ。
何でも例の光……試練の光は今まで厳重にその組織で保管されていたそうなのだが、何者かがその保管庫を爆発させたらしく、その際に試練の光が起動して俺達の居るこの世界に来てしまったらしい。
誰が組織の厳重な警備を掻い潜り保管庫を爆破したのか、その際にどうして試練の光がこの世界に来てしまったのかは、今も分かっていないそうだが、今のところ最も恐ろしいのはその試練の光がこの海鳴市で発動してしまったという事だ。
ミルファさんの話によると、試練の光は古代に失われた技術で作られた物で、人工物でありながらメカ犬やプリズムの様に己の意思を持って自身を所持するに相応しい人物を探しているらしい。
あのホルダーに入ってその姿を変貌させた光は、分身の様な物で強靭な肉体、一つの強い目的を持った者に仮初めの力を与えて、その人物が所有者に相応しいかどうかを見極めるという特性があるそうなのだが、今までその資格を得た者は誰も居ないそうだ……
ただこれでホルダーにあの光が呼び寄せられる様に来たのか納得出来た。
人を超えた強靭な身体と、暴走プログラムによる影響で捻じ曲げられているが一つの意思に支配された強力な意思。
ホルダーは聞けば聞く程に、試練の光の条件を満たしていたのである。
そしてそんな強力かつ危険な任務をどうしてミルファさんが受け持つ事になったのかというと、どうやらあの試練の光を単身で押さえ込めるには、先天的な才が必要で、その力を組織内で現状唯一持っていたのがミルファさんだった為らしい。
何とかしてその原因を突き止めて、増員を送る予定はあるらしいのだが、ミルファさんは一刻も早く試練の光を回収しなければいけないと考えて、単身先行して此方に来たそうなのだ。
「試練の光はこの海鳴市全体を自身の資格者を探す為の実験場にしたと考えて間違い無いわ。だから、その……協力して一緒に探してくれるかしら……純?」
大体の話を終えた後、ミルファさんが遠慮がちに俺の名を呼びながら確認を取ってくる。
「うん。勿論だよミルファさん。一緒に頑張ろう」
俺は頷きながら肯定の返事を返すのだが、どうもミルファさんの表情からは不満と言いたげな感情が伺える。
「私と純は今日この時から、一蓮托生のパートナーなのよ!敬語は要らないし、さん付けも止めなさい!」
「え?」
ミルファさんの口から唐突に放たれた言葉に、俺は思わず唖然としながら声を上げた。
「ほら、敬語は無しでもう一度言ってみなさい!」
「えっと……どうしても言わなくちゃ駄目かな?」
「駄目よ!!!」
強い要求に対して、俺が断りの言葉を述べるがそれは即座に却下されてしまう。
こういった手合いの人物に説得は無理だという事は、俺は常々理解している。
まあ、見た目だけを言えばミルファさんの方が、二歳から三歳程年上に見えるが、本人がフランクに話しかけてくれと言っているのだから、其処まで頑なに拒む事も無い。
「……分かったよ。これから宜しくミルファ」
「こっちこそ。私の小さくて強い……パートナーさん」
俺とミルファは互いに右手を出して硬い握手を結ぶ。
「純君!遊びに来……た……よ……」
どんな星の巡り合わせだろうか?
新たな友情が芽生えた次の瞬間、俺の部屋の扉が開け放たれて、お隣に住む幼馴染の女の子、なのはちゃんが部屋の中へと飛び込んで来たのだが、俺とミルファさんが握手している姿を目撃すると同時に、何故か凄まじいまでの怒気がなのはちゃんから伝わってきた……
「純君……どうしてその子が純君のお家に居るのかな?しかも何で二人は手を握りあってるの?」
なのはちゃんは明るい笑顔と優しい口調で俺に問い掛ける。
そう……
笑顔なのだが……何故だろうか?
俺の生存本能が、逃げろと何度も訴えかけている気がする。
「あら、当然でしょ。だって私は純のパートナーなんだから」
この全体を震撼させる様な壮絶な空気の中で、一番最初に動いたのはミルファだった。
握手した俺の腕をそのまま引き込むと、胸で俺の顔を抱き止めてなのはちゃんに謎のアピールを開始する。
「な、幾ら歳が少し上だからって、ちょっとスキンシップが過剰じゃないんですか!?それに純君のパートナーってどういう意味なんです!?」
その光景を見て、どうしてか焦った様子で言葉を捲くし立てるなのはちゃんが気になったが、次の瞬間に放たれたミルファの言葉に俺は本日で一番大きい衝撃を受ける事となる。
「お姉さんと歳の離れた弟のスキンシップみたいなものよ。だって君も純もまだ精々10歳になって無いでしょ?私は今年で17だもの。何も問題無いわ」
……俺となのはちゃんがその場で驚愕の声を上げた事は言うまでも無い。
様々な出来事が起こり、騒動と驚きが尽きないが、今日の海鳴市はそれなりに平和だ。