魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第六話 高町さん家の小さなパティシエール【後編】

「オイラの楽しみを邪魔すんなあ」

 

ホルダーが叫びながら俺の方に迫り来る。

 

そのポッチャリ体型の為腕が後ろに回らないのか、連続で左右からフックを仕掛けてきた。

 

「当たって堪るか!」

 

俺はそのフックが放たれる度に半歩下がる事で回避した。

 

「今度はこっちから行くぜ」

 

左右から来る連打を裁きながらホルダーの右拳が振り切られると同時に、俺はタイミングを合わせて反対に拳を叩き込んだ。

 

ぽにゃん。

 

叩き込んだのだが、ホルダーから妙な音が聞こえると、俺の拳がはじき返されてしまった。

 

「な!?」

 

ホルダーは拳を叩き込んだ場所を数回程さすると、また連続フックで襲い掛かってくる。

 

「おわ!」

 

俺はそのフックをかわして一旦距離を置いて、飛び蹴りをホルダーのふくよかなボディに浴びせ掛ける。

 

ぽんよよ~ん。

 

見事命中するのだがまたしても妙な音と共に俺の蹴りははじき返されてしまった。

 

「一体どうなってるんだよ!こいつの身体は?」

 

さっきからぷよんだのぱおんだのと俺の攻撃が一切効いていない事に苛立ちを覚える。

 

『恐らくこれが奴の能力だな』

 

メカ犬が先程の俺とホルダーの戦いを分析していた様だ。

 

「もしかしてこいつの能力って高い防御力か何かか?」

 

俺は迫り来るホルダーに身構えながらメカ犬に質問をする。

 

『そうではない。奴の能力は…む?ホルダーの様子がおかしいぞマスター』

 

メカ犬の声に何事かと思い、ホルダーを見ると、俺に背を向けてホルダーは集めたお菓子の元に走っていた。

 

「運動したら腹が減っちゃったよ」

 

そう言いながらお菓子の山の前にたどり着いたホルダーは、無雑作にお菓子を掴み腹部に有る大きな口に放り込んだ。

 

何処までもマイペースなホルダーである。

 

『いかん!早く奴が食べるのを止めさせるんだマスター!』

 

「え?」

 

俺は二つの意味で驚き声を発してしまった。

 

一つ目はメカ犬の言葉に、そして二つ目はホルダーを見た際だ。

 

お菓子を食べ続けるホルダーが少しだが、ほんの少しだが一回り大きくなったのだ。

 

見間違いではないかと思い何度も見るが、やはり大きくなっている事に間違い無かった。

 

『奴の能力は吸収と増殖だ。ある特定の物質を取り込む事で、本来のホルダーの身体能力にエネルギーとして上乗せする事が出来る』

 

その特定の物質ってもしかして…

 

「まさかその物質があのお菓子なのか?」

 

『正確には甘味の中に含まれる糖分だ』

 

「じゃあケーキが突然飛んだり、俺の攻撃がはじかれるのは何なんだよ?」

 

「甘味類が飛ぶのは吸収の副産物だ。磁力で吸い寄せる様に吸収にはある程度その物質を引き寄せる事が出来る力が有る。あの防御に関しては、エネルギーが人で言う所の皮下脂肪の様に溜まった状態になっていた為、衝撃がエネルギーに分散されたのだろう』

 

つまり…まんまお相撲さんみたいな状態になってるって訳か。

 

「こっちの攻撃が効かないってんなら如何すれば良いんだよ?このままじゃ倒す所か、あの馬鹿食いを止めるのも無理っぽいぞ」

 

俺とメカ犬が話している間にも、ホルダーは目の前のお菓子の山を喰らい続けている。

 

心なしか、また少しホルダーの身体が大きくなった気がした。

 

『解決策は二つ有る。今すぐ行動に移せるのは一つだけだがな』

 

「何でも良い。今すぐその一つを実行するぞ」

 

俺はメカ犬の出した提案に即答した。

 

『うむ。通常の攻撃が効かないならば道は一つだ。奴の防御を凌駕する強力な一撃をぶつけるしかない』

 

それってつまり…

 

『早い話が必殺技なら効く筈だという事だ』

 

「回りくどいなおい!」

 

結局いつも通りって事らしい。

 

「まあ、シンプルな作戦が一番って事もあるか…」

 

一度溜息を吐いてから俺はバックルに手を掛けてタッチノートを引き抜いた。

 

全体図を表示させてから右足部分をタッチしてもう一度バックルにタッチノートを差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

タッチノートから流れる音声と共にバックルを中心に白い光が発生し、その光が右足の銀のラインを伝い足元に集約していった。

 

「こいつで決めるぜ」

 

狙いをホルダーに定めて俺は大きくジャンプした。

 

「ライダーキック」

 

右足に纏った白い光を全身に浴びながら俺は今だにお菓子を食い続けるホルダーに必殺の一撃を放った。

 

流石に空から猛スピードで向かってくる俺に気がついた様でホルダーは食べる手を止めて身構えた。

 

「ぐうぼぼぼぼぼぼぼぼおおおおおお!?」

 

ライダーキックを喰らったホルダーはそんな奇声を上げる。

 

このホルダーの能力の所為なのか、俺の右足はホルダーの腹部にめり込んだまま抜けずにいた。

 

変化は突然にやって来た。

 

俺とホルダーは磁石の同じ極を合わせたかの様に別方向に吹き飛ばされたのだ。

 

「ぐはっ」

 

俺はビルの屋上のフェンスに激突し、ホルダーはビルから下へと落下していった。

 

『大丈夫かマスター!?』

 

メカ犬が慌てながら声を掛けてくる。

 

「何とかな…」

 

痛みはあるが動けない程では無いので、心配無いと言いながら俺は立ち上がった。

 

「それよりホルダーはどうなったんだ?」

 

俺は急ぎホルダーが落下したあたりに走って行き、下を覗き込む。

 

「逃げたのか?」

 

倒せたのなら下には素体となった人が気絶している筈なのだがそんな人は見当たらなかった。

 

『うむ。確実にダメージを与える事は出来たが倒すには至らなかった』

 

「チェイサーさんで追えば如何にか追い着けるかな?」

 

『無理だな。既にホルダー反応が無くなっている上に回りに大勢の人が居る。砂漠で特定の一粒の砂を探す様な物だぞ』

 

「お手上げか…」

 

ビルの屋上には意気消沈する俺達と食べかけのお菓子の山だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所でもう一つ有る解決策って何なんだよ?」

 

俺とメカ犬は変身を解いた後、今も尚屋上に居座り作戦会議を開始していた。

 

俺が聞いたのはメカ犬が言っていたもう一つの奴への対抗策を聞くためだ。

 

ライダーキックが効かなかった事から奴ともう一度戦った時に確実に倒す手段が今の所俺達には無い。

 

だから少しでも倒せる確率を上げる為にやれる事をやっておきたいのだ。

 

『うむ。もう一つの手段なのだが、正直な話を言えば実行する事は不可能に近い事かもしれないのだ』

 

「何でだよ。専門的な技術が無いと出来ないとかか?」

 

『あのタイプに共通する弱点なのだが、一定の物質に反応して変化をするホルダーはそれと違う物質を取り込むことで弱体化する場合も有る』

 

「じゃあその物質ってのをあのホルダーに食わせればあのぽよんとか、ぱおんとかのふざけた身体を無効化できるんだな?」

 

他のホルダーなら分からないが、あのホルダーならお菓子の山の中にでもそっと忍ばせて置けば勝手に食ってくれそうだ。

 

「意外と何とか成りそうだけどな」

 

『話はそんな簡単では無いのだマスター。まずその物質が不明な上に調べる手段が、奴を捕まえて研究するか、その物質を食べるまで無尽蔵に与え続けるくらいしか方法が無い』

 

確かに捕まえる事が出来るぐらいなら、倒してしまった方が早いし、後者の方法は少しの量を食べさせる事が出来たとしても、何度も使える手ではないだろう。

 

「何かその物質に成り易い傾向とかは無いのか。真逆に位置する物とかでさ。今回の奴なら糖分の反対に例えば唐辛子みたいな?」

 

『そういった法則は無いが…人の本能に訴えかける様な刺激物ならばもしかしたら無条件でその物質と同じ働きをするかも知れないな。だがそのような物は簡単に入手出来ないだろう。唐辛子等では代用出来る訳も無い』

 

「そっか…」

 

人の本能にねぇ…

 

辛い位じゃ駄目って言うと毒位の物しかないのだろうか?

 

俺は過去でそんな物と巡り会った事があるだろうかと思い考えた。

 

…在った。

 

一つだけだが、人類の本能に訴えかけるような物で入手可能な、しかも外見的には食べ物が!

 

だがこれは一人の人間として、迂闊に手を出して良い物なのかと言うと微妙な所だ。

 

下手をすれば無用な犠牲を招く事態に陥る可能性も少なくない。

 

しかし背に腹は変えられないのだ。

 

「メカ犬。俺に一つだけ心当たりがある」

 

俺は覚悟を決めて、不敵な笑みを浮かべながらメカ犬に話しかけた。

 

『本当かマスター!?』

 

「ああ。この件は俺に任せておいてくれ。それと一つだけ確認したい事が有るんだが…」

 

俺とメカ犬の作戦会議はこうして約三十分後に終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いなメカ犬の奴…」

 

俺は喫茶翠屋で紅茶を飲みながら愚痴を零した。

 

作戦会議を終えた後、俺達は役割を分担し、三時間後に一度この翠屋で落ち合う事にしたのである。

 

メカ犬は次にホルダーが現れそうな場所の情報を探りに行き、俺はある物を入手する為とある人物に会いに行ったのだ。

 

目的が明確だったのと、その会いに行っていた人物が快く例の物を譲ってくれたので、俺の用事は案外早くに終わった。

 

なので、早めに翠屋に辿り着いた俺は優雅に午後のティータイムなんぞをしている訳だ。

 

偶に時間の空いた士郎さんや桃子さんと世間話をしつつ時間は過ぎていった。

 

その際に桃子さんから聞いたのだが、なのはちゃんは今でも頑張ってお菓子作りに励んでいるそうだ。

 

明日を楽しみにしててねと意味深な事も言っていたので、明日はなのはちゃんの作ったお菓子のお披露目会でも有るのかもしれない。

 

実際の所は如何なのか聞いてみても、上手い具合にはぐらかされてしまったので、あくまで可能性の話である。

 

『遅くなってすまないなマスター』

 

予定の時間から十分程送れてメカ犬が翠屋にやって来た。

 

「いや大丈夫だ。気にするな」

 

『うむ』

 

メカ犬は頷くと俺の横の空いている椅子に飛び乗った。

 

『それで例の物は手に入ったのかマスター?』

 

「ああ。こっちは無事に手に入れた。それよりも問題はメカ犬の方だろ」

 

フルメタル犬の登場に翠屋のお客さんは誰も驚きはしない。

 

それどころか常連さん等は軽く挨拶してくる程だ。

 

人間って生物は高い適応能力を持ってるんだなって改めて思う。

 

『これを見てくれマスター』

 

メカ犬が一枚のチラシを出してきた。

 

そんな物を何処から出したんだと突っ込みを入れたいが、今の雰囲気では出来そうに無いので、スルーしてメカ犬が出してきたチラシに目を通した。

 

「海鳴グランドホテル主催世界のケーキ展?」

 

チラシの上部分にはその文字が大きく書かれており、文字の下には色々なケーキの写真が写っていた。

 

『次に奴が現れる可能性が最も高いのはその場所で間違い無い筈だ』

 

あのホルダーの特色から見ても、確かにこの場所にやって来る確率は高そうだ。

 

ただ…

 

「どうやって中に入ればいいんだよ?」

 

チラシの一番下に書いてあるのだが、このケーキ展に参加するには予約制のチケットを前以って購入していなければいけないと書かれていたのだ。

 

しかもこの展示は今夜七時からパーティー会場を貸切で開催される。

 

既に予約できる期間は終了していたのだ。

 

俺とメカ犬が如何するべきかと悩んでいると、

 

「何やってんのよ純?」

 

突然後ろから声を掛けられた。

 

振り向けくと、其処には俺の良く知る人物、金髪が特徴的な美少女アリサちゃんが居た。

 

「何それ?」

 

アリサちゃんはそう言うと、俺の手からチラシを奪い取って目を通した。

 

「あら純。もしかしてあんた、この場所に行きたいの?」

 

チラシに目を通したアリサちゃんが俺に聞いてくる。

 

「うん。だけどチケットが無いと入れないらしいんだよね」

 

俺がそう返すとアリサちゃんが不適に微笑みながら、俺に数枚の紙を見せてきた。

 

「ふっふっふっ…これなあ~んだ?」

 

目の前に出された紙の束を良く見ると、チラシにも載っていた海鳴グランドホテルの文字とケーキのイラストが描かれている。

 

「もしかしてそれ…」

 

「そうよ。そのケーキ展の招待チケット」

 

「何でアリサちゃんが持ってるの?」

 

「この企画はね、お父さんの会社の企業も参加してるのよ。それでお父さんから興味が有るならお友達も連れて行ってきなさいってチケットを沢山貰ったの」

 

アリサちゃんは胸を張って答えた。

 

そういえばアリサちゃんは、大企業の社長の娘で本物のお嬢様だった。

 

普段はあまりお嬢様って感じがしないからすっかり頭の中から抜け落ちていた。

 

お嬢様っていったら如何してもすずかちゃんのイメージが先行しちゃうんだよな。

 

「はい。このチケット純にあげるわ」

 

アリサちゃんがチケットの一枚を俺に差し出してきた。

 

「え、貰って良いの?」

 

「元々そのつもりで持ってきたのよ。最近なのはがお菓子作りに凝ってるって言ってたし、純がその、そ、そういった物好きだって聞いたから…か、感謝して受け取りなさいよね!」

 

俺は差し出されたチケットをありがたく受け取った。

 

「ありがとう!アリサちゃん大好きだ!」

 

俺は予想外の出来事で、チケットが手に入った事でテンションが上がってしまい、思わずアリサちゃんに抱き着いてしまった。

 

『大胆だなマスター』

 

メカ犬の言葉が聞こえると同時に、翠屋のお客さん達から笑い声が上がった。

 

ハイテンションで抱き着く俺と、真っ赤になってされるがままになるアリサちゃん。

 

そして微笑ましい物でも見ている様に、笑い声を上げる翠屋のお客さんが暫くの間店内を一層賑やかにしていた。

 

暫くしてテンションが戻った俺は誠心誠意の土下座でアリサちゃんに謝罪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて言うか…凄いな」

 

「そうだね」

 

「そうかしら?パーティーって言ったらこれ位普通じゃない」

 

「二人はこういった場所に慣れてないだろうし、仕方ないと思うよアリサちゃん」

 

俺は今海鳴グランドホテルのパーティー会場に来ている。

 

会場内には凄い数の人と、見たことも無いような色とりどりのケーキが用意されていた。

 

俺は普通の私服だが美少女三人組は赤、青、黄色とドレスを身に纏っていた。

 

会場内では俺以外にも私服の人は結構居るので全体的に浮いた感じはしないが、三人の傍に居ると如何にも居心地が悪い気がする。

 

それほどまでに三人はドレスを着こなしているのだ。

 

アリサちゃんがドレスを着ていた事には納得したのだが、なのはちゃんとすずかちゃんも、特になのはちゃんがドレスを着ていた事には正直驚いた。

 

良くこの短時間で準備が出来た物だと思ったのだ。

 

しかしこれには一つの理由があった。

 

なのはちゃんとすずかちゃんは、俺よりも何日も早くに誘われていた様で全て準備が整った状態で、ホテルに行く際に迎えに来てくれたアリサちゃんの車に普通に乗っていた。

 

何で俺だけが当日に誘われたかというと、なのはちゃんからの情報で俺が大のケーキ好きだと思ったアリサちゃんが、折角だからサプライズで、当日に知らせて驚かそうという話になったそうだ。

 

だから二人がドレスを着ていることは当たり前だったのだ。

 

後、流石に子供だけでこんな場所に来る事は出来ないので、アリサちゃんの専属執事である鮫島さんに保護者として同行してもらっている。

 

鮫島さんは執事としては物凄く優秀な人だ。

 

このホテルに来る際も運転は鮫島さんにしてもらった。

 

ただ俺は個人的な理由で、この人とはあまり関わり合いたくなかったりする。

 

初めて顔を合わせたその日から会う度に俺を勧誘してくるのだ。

 

何でも俺には執事の才能が有るとかで、バニングス家で修行しないかと挨拶と同レベルの頻度で言われている。

 

何せ今日も車に乗る際に、こんばんわ執事になる決心は着きましたかと言われたのだ。

 

今の所執事になる気は毛頭無いので断り続けている。

 

しかし最近は、主人であるアリサちゃんまでをもどうやってか味方に着けたらしく、鮫島さん程では無いがアリサちゃんからも勧誘される様になって来たのが心配の種だったりする。

 

最初は固まって行動していたのだが、其々見たい物や食べたい物が分かれたので暫く別行動をする事になった。

 

俺としては好都合なので、一時間後に会場のステージ近くで落ち合う事にして一人一旦会場を後にした。

 

『会場内に異常は無かったかマスター』

 

扉を出てすぐに、廊下から走ってきたメカ犬が俺に話しかけてきた。

 

メカ犬はホテルに到着した直後に周辺の様子を調べてくると言って別行動を取っていた。

 

「いや、タッチノートにも反応は無いし、会場内にも見るからに怪しい奴はいなかったな」

 

『そうか。だが油断は禁物だぞマスター。今朝ダメージを与えた事からも、奴は一刻も早く傷を癒す為に大量の甘味を必要としている。この様な絶好のチャンスをみすみす逃すとは到底思えない』

 

「そうだな…」

 

『キンキュウケイホウキンキュウ…』

 

突然タッチノートから警報が鳴り出した。それと同時に扉一枚を隔てた会場内から悲鳴が聞こえてきた。

 

『マスター!』

 

「ああ!」

 

俺は急いで扉を開けた。

 

其処に広がる光景は、今朝のケーキ屋を再現している様だった。

 

様々なケーキが宙を舞っている。

 

全てのケーキが浮かぶと、まるで示し合わせた様に会場の窓を突き破ってケーキ達は外へと飛び出していった。

 

『追うぞマスター』

 

「分かってる」

 

俺とメカ犬はホテルを出て一旦人目の無い所まで移動した。

 

周りに誰も居ない事を確認してから、タッチノートを取り出してボタンを押す。

 

『チェイサー』

 

タッチノートから音声が流れると遠くからエンジン音が聞こえてきた。

 

エンジン音を鳴らす一台の黒いバイクが俺達の前にやって来た。

 

『はあ~いマスター。こんな時間に呼ぶなんて珍しいわね。夜更かしは美容の大敵よん』

 

オッサンボイスな乙女バイクのチェイサーさんがやって来た。

 

何時もながらにご機嫌なテンションをしていらっしゃる。

 

「チェイサーさん!あの宙を浮かんでるケーキ達を追って欲しいんだ!」

 

『OKマスター。早くアタシに乗りなさ~い』

 

俺はチェイサーさんの言葉に急ぎシートによじ登る。

 

メカ犬も俺の肩にしがみ付いていた。

 

あ、しまった!

 

俺はチェイサーさんに登ってから重大な事に気づいたのだが既に手遅れだった。

 

ガキン!

 

俺の腰が鉄の輪の様な物で固定される。

 

『さあ!飛ばすわよ~!』

 

「ちょっとまラメえええええええええええええええ!!!!!!」

 

俺が最後まで言葉を言う前にチェイサーさんは疾風の如く走り出した。

 

俺は急いでるあまりに失念していたのだ。

 

チェイサーさんに乗る前に変身しないと、ジェットコースターにも勝る体験をする事になるという事を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケーキの後を追って辿り着いたのは以前に俺が情報屋のチワワであるジャックと出会った裏路地の空き地だった。

 

空き地には今朝戦ったホルダーが物凄い勢いでケーキを食べている。

 

その身体は明らかに以前よりも二周りほど大きくなっていた。

 

『さあ~突っ込むわよ!』

 

チェイサーさんはホルダーの姿を確認すると何時もの如く突貫する。

 

「んあ!?」

 

ぽんよよよ~ん。

 

ホルダーは何とも力の抜けそうな衝撃音を上げながら吹っ飛んだ。

 

数回程ゴム鞠の様に弾むと、たいしたダメージも無いのかホルダーは平然と立ち上がった。

 

「何だあ一体?」

 

頭部をボリボリと掻きながら、相変わらずのマイペースを披露して来る。

 

しかしチェイサーさんのバイクタックルにも耐え切るとは、このホルダーの耐久力は凄まじい物があると改めて実感してしまう。

 

包容力のある男って素敵ね等と言っているチェイサーさんから降りた俺は、ポケットからある物を取り出して何時チャンスが来ても良い様に備える。

 

「ん?またオイラの邪魔しに来たのかお前達はあ」

 

バイクから降りた事で、俺の姿を確認してきたホルダーが嫌な物を見た様な言い方をしてきた。

 

ここからが本当の作戦だ。

 

「またこんな事をやってるのかお前は!」

 

「オイラは甘い物が食いたいだけだ。邪魔すんじゃねえ」

 

「もうこれ以上勝手にお菓子を盗まないって誓うならこれをやるぞ」

 

俺はホルダーに手に持っていた例の物を見せ付ける。

 

それは白い袋にピンクのレースでラッピングされた物だった。

 

俺はピンクのレースを解いて、その中身をホルダーに確認させる。

 

「そ、それは!」

 

袋の中に入っているのはクッキーだった。

 

「そいつを寄越せえ」

 

俺が持っているのをお菓子だと確信したホルダーは目の色を変えて俺からクッキーの入った袋を奪い取った。

 

「うほほ。美味そうだなあ」

 

新たに手に入れた甘味を手にホルダーは歓喜の声を上げる。

 

俺は心の中で静かに笑った。

 

計画通り…

 

『良いのかマスター?奴にわざわざ甘味を与えるような事をすれば取り返しが着かなくなるぞ!』

 

メカ犬が何をしているんだと捲くし立てる。

 

「まあ見てろって。多分上手くいく筈だ」

 

俺が普通のクッキーをホルダーに与えるなんてする訳が無い。

 

あのクッキーは特別性だ。

 

「頂きまあす」

 

ホルダーは案の定躊躇う事無く俺から奪い取ったクッキーを貪り始めた。

 

そして奴の変化は突然やって来る。

 

「う!?」

 

ホルダーが苦しみもがき出したのだ。

 

『如何したのだ。マスターはあの甘味に何を仕込んだというんだ?』

 

苦しみだしたホルダーを見たメカ犬が俺にネタばらしを要求してきた。

 

「別に特別変な物は入れてないさ。ただあのクッキーの製作者が美由希さんだった…それだけの事だ」

 

そう。

 

材料は普通だが製作者が普通じゃない。

 

高町美由希の手作りクッキー。

 

別名を高町家の惨劇と呼ぶ。

 

最初から俺には確信があったのだ。

 

美由希さんの料理なら、理屈とか全てを超越してこのホルダーを弱体化する事が出来る筈だと!

 

そして予想は見事的中して今正にホルダーは弱体化している。

 

ただしこの結果に至るまでに、尊い犠牲を出す事となってしまった。

 

俺は美由希さんの前で、恭也君が美由希さんの手作りクッキーを食べたがってると嘘情報を囁いたのだ。

 

それを聞いた美由希さんが嬉々として大量のクッキーをかなりの気合いを込めて作り始めたのである。

 

俺はその御裾分けを貰ってきたのだ。

 

今頃は、恭也君の為に美由希さんが大量の手作りクッキーという名の特殊兵器を量産している事だろう。

 

俺は一人の勇敢な勇者の名を決して忘れはしない。

 

『美由希嬢の料理は凄まじいのだな…』

 

「ああ。本当にな…」

 

苦しむホルダーを見ながら俺とメカ犬はしみじみと頷いた。

 

「お前らよくもやってくれたなあ…」

 

苦しさもいつの間にか収まってきたのか、先程と比べれば大分スリムになったホルダーが睨んできた。

 

『マスター!今の奴なら攻撃が届く筈だ』

 

「ああ!気合い入れていくぞメカ犬」

 

『うむ』

 

俺はタッチノートを開きボタンを押した。

 

『バックルモード』

 

音声が流れるとメカ犬が銀色のベルトに変形して俺の腹部に巻き付く。

 

「変身」

 

キーワードを発した俺はタッチノートをそのバックル中央部の溝に差し込んだ。

 

『アップロード』

 

白銀の光が俺を包み込み一人の戦士へと変えた。

 

「また可変ライターとかいうのになりやがったなあ」

 

「だから仮面ライダーだっての!」

 

いい加減名前を間違えるのは勘弁してもらいたい。

 

『突っ込みを入れている場合ではないぞマスター』

 

メカ犬の言う通り、ホルダーは俺の名前を間違いながらも襲い掛かった来た。

 

随分スリムにはなった物の、それでも一般から見ればふくよかな体型なので、ホルダーは前回同様に連続フックを仕掛けてきた。

 

俺はそれを裁きカウンターを喰らわせる。

 

「ふあっ」

 

今度は妙な音もせずに普通に攻撃が効いた。

 

『効いている。いけるぞマスター!』

 

「ああ!」

 

だがそれでも他のホルダーに比べ耐久力が高いのか中々倒れない。

 

俺はホルダーのフックを避けて一旦距離を取った。

 

『あれを試すのかマスター?』

 

「確実にあいつを倒すには出し惜しみ出来ないだろう」

 

俺はメカ犬の質問にそう答えるとバックルからタッチノートを引き抜いて全体図を表示させる。

 

何時もの様に右足部分をタッチする。

 

そしてここからが何時もと違う。

 

俺は続いて左足をタッチしてから右腕と左腕にもタッチして、再びタッチノートをバックルに差し込んだ。

 

『ポイントチャージ』

 

『ポイントチャージ』

 

『ポイントチャージ』

 

『ポイントチャージ』

 

バックルから白い光が発生して順次に右足、左足、右腕、左腕へと集約していく。

 

俺は四肢に光を纏いながらホルダーに駆け込む。

 

「はあ!」

 

まずは左拳を叩き込んだ。

 

「やあ!」

 

続いて右拳を喰らわせる。

 

「たあ!」

 

ホルダーが怯んだ所を左回し蹴りをお見舞いして吹き飛ばす。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は大きく跳躍し右足をホルダーに向ける。

 

「ライダーラッシュ」

 

全身に光を纏った俺は全力の蹴りをホルダーに叩き込んだ。

 

それをまともに受けたホルダーは白い光を発しながら爆発した。

 

爆発した後にいたのは、気絶したポッチャリ系の中学生男子だった。

 

「…上手くいったな」

 

『うむ。初めてとは思えない完成度だったぞマスター』

 

俺は美由希さんの特殊兵器が効かなかった時を考えて、メカ犬に一つ質問をしていた。

 

それが必殺技を同時に発動出来るかどうかだ。

 

答えは俺次第と言われた。

 

二つ以上の使用はコントロールが難しいので、変身した本人が如何にかするしかないらしい。

 

だから一つの賭け的な要素を含んでいたが、結果から言って俺は賭けに勝ったようだ。

 

「きゃんきゃん」

 

いつの間にかジャックがやって来ておりホルダーの残したケーキの山を食べていた。

 

この時ジャックが何を言っていたのか後日メカ犬に聞いてみると、

 

『今回の話で使われた食材はスタッフが美味しく頂きました。と言っている』

 

と言っていた。

 

何じゃそりゃ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

 

学校が終わった後翠屋に来て欲しいとなのはちゃんに言われた俺は素直にやって来た。

 

俺よりも早く帰ってきたなのはちゃんは翠屋で俺が来るのを待っていたのだ。

 

なのはちゃんが俺を席に案内して座ると、

 

「ちょっと待っててね」

 

と言って厨房に消えていくなのはちゃん。

 

暫くするとなのはちゃんはシンプルなショートケーキを持ってきて俺の目の前に置いた。

 

「もしかしてこのケーキってなのはちゃんが?」

 

俺の言葉になのはちゃんが頷いた。

 

「うん。まだあんまり美味しくないかも知れないけど、食べてくれるかな」

 

「うん。喜んで頂きます」

 

俺はフォークでケーキを一口分すくい上げ、それを自らの口に入れた。

 

それと同時に口の中に程好い甘さが広がった。

 

桃子さんと比べれば勿論純粋な味では勝負にならない。

 

でもこの味はそれとは別の、なのはちゃんの優しさが伝わってくる、そんな味がした気がする。

 

「とっても美味しいよ。なのはちゃん」

 

その言葉を聴いたなのはちゃんの表情が緊張を孕んだ物から一転華が綻ぶ様な笑顔に変わった。

 

「ありがとう純君」

 

俺となのはちゃんの穏やかな時間が店内で流れる。

 

『もう一つの現実から目を逸らして良いのかマスター?』

 

…言うなメカ犬。

 

俺だって出来る事なら助けたいがそれは不可能なんだ。

 

俺となのはちゃんが穏やかに談笑するその後ろの席で恭也君が痙攣していた。

 

その手と目の前の皿の中には大量のクッキー…

 

更に瀕死の恭也君に追い討ちを掛けるが如く、美由希さんがオカワリを大量に持ってきていた。

 

俺は心の中で恭也君に謝罪しながらも、なのはちゃんに笑顔を向けてまた一口ケーキを口にし、美味しいよと答えた。

 

今日の海鳴は甘いお菓子の香りに包まれて、約一名の勇者を除いて大体平和だ。

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