魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第31話 恩師との再会は始まりの序曲【後編】

「……そもそも私が大学で教鞭を執るのは趣味の様なものでね。本職は恵美君と同じ一研究者なのだよ」

 

「森沢教授の講義は、本当に面白かったのよ。特に物質にと……」

 

五分にも及ぶ説得の末に、正気を取り戻した森沢教授と学生時代を懐かしむ様に話す恵美さんの会話を、俺とメカ犬は適当に頷きながら聞き続ける。

 

話を聞いていて分かった事なのだが、どうやら森沢教授は大学で教鞭を執りながら、独自の研究テーマを長年続けてきたらしい。

 

まあ、あの恵美さんが褒め称える程の人なのだから、常人では及びもつかない事をしていたとしても何処か納得してしまう自分もいる。

 

その森沢教授の研究テーマというものも気になる話ではあるが、俺達には急いでやらなければならない事があるので、久し振りの再会とに水を差すのを承知で、二人の会話に割って入る事にした。

 

「……あの、お話している最中に不躾なんですが、お聞きしたい事があるんです」

 

「うん?そう言えば君達が恵美君と一緒に此処に来た理由をまだ聞いていなかったね。その様子からして、私に何か聞きたい事があるのかな?」

 

俺の不躾な発言に対して、森沢教授は嫌な顔一つ見せずに、笑顔で聞き返してくれたので、俺はそのまま話を本題に移す事にする為に、此処に来る前に恵美さんにも見せた写真を森沢教授に手渡す。

 

「この写真に写っている男性で、金田さんっていう方を探しているんです。この大学の在校生らしいんですが、御存知無いですか?」

 

手渡された写真を見つめる森沢教授に、俺がこの写真に写っている金田の事を話すと、写真から視線を俺に移した森沢教授が、意外な程アッサリと返事を返して来る。

 

「ああ、彼の事は私も良く知っているよ。それに金田君を探しているのなら、態々探しに行く必要もないさ。何せ……」

 

森沢教授が其処まで話した所で、この部屋の扉を軽く叩く音が響き、話は其処で一時的に中断されてしまう。

 

「どうぞ。私の予想が正しければ、君の探し人が向こうからやって来たというところかな?」

 

扉の向こうでノックをした人物に入室する許可を出すと、森沢教授は俺に微笑みながら言った。

 

それとほぼ同時に扉が開かれて部屋の中に入って来た人物は、先程写真まで話題になっていた写真の人物、金田正敏本人だった……

 

それだけでも驚くべき事ではあるが、俺はそれ以上に予想外の人物が金田の後ろから一緒に部屋に入ってくるのを見て、俺は驚愕の声を上げる。

 

「すずかちゃん!?」

 

俺の声に気付いたすずかちゃんは、朗らかな笑みを浮かべて俺の隣へと駆け寄って来た。

 

「やっと見つけたよ純君」

 

「な、何ですずかちゃんが此処に居るの!?」

 

あまりにも予想外なすずかちゃんの登場に、俺は驚愕するがすずかちゃんは澄ました顔をしながら語りだす。

 

「今日は習い事も無いから放課後に一緒に遊ぼうって昨日約束してたのに、純君ってば今日になって急な用事が出来たからって言って放課後になったら走って何処かに行っちゃうんだもの。だから追いかけてきちゃった」

 

……何故だろう。

 

何時もと変わらぬ笑顔で朗らかに話しているすずかちゃんから、何気なくとんでもない台詞が飛び出した上に、妙な気迫を感じるのは……

 

「……もしかしてすずかちゃん怒ってる?」

 

恐る恐る俺が聞いてみると、すずかちゃんは変わらぬ笑顔を俺に向けながら言い放つ。

 

「怒る?何で純君は私が怒ってると思うの?私は全然怒ってないよ?一緒に遊びに行くのを当日に断られたのも急用ならしょうがないよ」

 

言っている事は正論なのだ。

 

……確かに正論であり、笑顔で話しているのだが、俺にはすずかちゃんの瞳が私は怒ってますと語っていると言っている様にしか見えない。

 

「君の探していた男の子は、その子で合っているのかな?」

 

俺がすずかちゃんの放つプレッシャーに圧倒されていたその時、本来俺が此処に来た目的である男性。

 

金田正敏さんその人だった。

 

全く予想の範疇に入れていなかったすずかちゃんの登場のインパクトによって、俺の頭の中から一時的にその存在ごと消え去ってしまっていたが、俺達の目的は彼に話しを聞く事だったのだ。

 

本来の目的を思い出す事によって、俺の中に一つの疑問が浮上する。

 

何故すずかちゃんと彼が一緒にこの部屋に入って来たのだろうか?

 

「はい。そうです。連れて来ていただいてありがとうございました」

 

「いや、見つかって良かったね。君から聞いた男の子の特徴を聞いて、もしかしたら森沢教授の関係者なんじゃないかと思ってここに来たのは正解だったよ」

 

すずかちゃんは先程までの重たいプレッシャーを四散させて、にこやかに返事を返す。

 

ジャックからの情報で彼ははプレイボーイだと聞いていたのだが、すずかちゃんと話している様子を見る限り、誠実そうな人である。

 

まあ、そういった風に見える人にも裏の顔という一面が存在しているケースも、可能性として捨てきれないので、このやり取りだけで決断する訳にも行かないが、俺が予想していた人物像と大分違うのは事実だ。

 

「待っていたよ金田君」

 

すずかちゃん達の会話が一段落したところで、森沢教授が言葉を投げ掛ける。

 

「すみません森沢教授。今日は来客の方が来ると知っているのに、お話する御時間を頂いてしまって……」

 

森沢教授の声に反応した金田さんは、申し訳ないともう一度言いながら頭を下げる。

 

その態度から察するに、金田さんは元々森沢教授を訪ねて来る予定だったのだろう。

 

すずかちゃんが一緒にやって来た理由も、恐らくは俺を追いかけて大学までやって来て迷っているところを偶然にどちらか一方が話し掛けて、此処まで来たのだろうと予測出来る。

 

森沢教授が恵美さんの恩師という事から考えて、かなり大学内で有名になっているだろうなという事は、容易に想像がつく。

 

問題なのはすずかちゃんが、至って平凡な一般市民の俺がそんな有名な森沢教授と関係者なのではないかと考えさせる説明を金田さんにした内容についてだが、其処を糾弾するのは取り敢えず後回しにしたいと思う。

 

一礼した後、金田さんは森沢教授から視線を俺達に移すと、また森沢教授に視線を戻す。

 

何処と無く不安げな表情から察するに、どうやら金田さんは話の内容を森沢教授以外の部外者である俺達に聞かれたく無い様だ。

 

「ハハ。心配せずに話してくれて大丈夫だよ金田君。君が私に話したい内容については大体予想がついているし、其処に居る彼女、恵美君ならば私以上に君の力になってくれる筈さ」

 

金田さんの不安を打ち消すかの如く、森沢教授が恵美さんを紹介する。

 

「……この中学生の女の子がですか?」

 

確かに恵美さんの見た目は白衣を常に着ている事を抜きにすれば、その年齢通りセーラー服を視に纏う女子中学生そのものである。

 

何も知らない金田さんが、恵美さんを中学生だと判断するのも無理は無いだろう。

 

しかしここで俺の脳裏に一つの疑問が浮上する。

 

何故金田さんが森沢教授に話そうとしていた内容に対して恵美さんが力になってくれる等と発言したのか?

 

その理由を俺が考え始めるよりも早く、森沢教授も助言を受けた金田さんは戸惑いながら話し始めた。

 

「……実は昨日の夜。僕は繁華街で怪物に襲われたんです。その場は仮面ライダーが着てくれたらしく逃げる事が出来たんですけど……」

 

「怪物……それってまさかホルダーの事?」

 

金田さんの言葉を聞いてから発した恵美さんの問いに、金田さんは首を縦に振り肯定の返事を返す。

 

ホルダーが関係しているというのであれば、ホルダー対策特務課の主任という立場にある恵美さんに話を振るのは得策と言える。

 

そして図らずも聞く事が出来た情報によって合点がいった。

 

メカ犬が繁華街で見つけた金田さんの写った写真は、ほぼホルダーの落とした私物と見て間違いない。

 

恐らく金田さんが襲われたという証言から考えても、ホルダーの言っていた復讐の対象は金田さんの事を示しているのだろうが、俺には一つ分からない事がある。

 

どうして金田さんはホルダーに襲われたというのに、直ぐに警察に相談せず森沢教授に相談しようとしたのだろうか?

 

「……その恵美君が言うホルダーという怪物は、もしかして君の知り合いだったんじゃないかね?」

 

恵美さんに続き森沢教授が、真剣な表情で金田さんに問い掛ける。

 

その問いは正確に真実を言い当てたのだろう。

 

金田さんは少しの間を置いた後、再び首を縦に一度だけ傾けて俺達に肯定の合図を示した。

 

「あの怪物……ホルダーは僕の目の前で姿を変えたんです。その正体は僕の昔からの知人で……森沢教授の研究テーマの事を知って、もしかしたら警察に話さなくても、ホルダーになってしまった彼女を元の姿に戻せるんじゃないかと思って……」

 

「なるほどね。確かに森沢教授の研究テーマを知っているなら、自分の知り合いを警察に怪物だと言って連絡する前に、個人的に森沢教授に話す気持ちも分かるわ。でも安心して頂戴。あまり表沙汰にはしていないけど、私達はホルダーになった人達を殺したり罪で罰したりしないから。しかるべき処置をして元の人間に戻してあげる事は可能よ」

 

切実に森沢教授に話を持ちかけた金田さんの経緯を聞いた恵美さんが、一人納得しながら誰が見ても不安を隠しきれないでいる金田さんを安心させる様に語り掛ける。

 

「……本当ですか?」

 

「ええ、安心して頂戴」

 

改めてその真意を確認する金田さんに対して、恵美さんが力強く頷くと、金田さんの不安げな表情が僅かながら和らぐ。

 

話が一段落したところで、俺が先程から気になっていた森沢教授の研究テーマとは何なのか聞いてみようとしたその時、何の前触れも無くこの部屋の扉が勢い良く開かれた。

 

あまりにも突然の出来事に、この場に居た俺達は揃って開け放たれた扉に向かって視線を集める。

 

その視線の先に居たのは、一人の女性だった。

 

年齢はその見た目から十代後半から二十代前半というところだろうか。

 

腰まで届きそうな長い黒髪を靡かせながら、生気が感じられない無表情で部屋の中を見回した女性が、金田さんに視線を合わせると、その無表情な顔が一転して、妖艶な笑みを浮かべる。

 

「……見つけた」

 

女性はそう呟くと、突如としてその身体から突風を巻き起こして、その身体を異形の姿に変貌させていく。

 

巻き起こる突風のせいで音は掻き消されているが、明らかに俺の懐にあるタッチノートが反応を示している事から、この女性はきっと……

 

俺がそう考えている内に、女性の姿は完全に変貌を遂げて、一体の異形となった。

 

梟を彷彿とさせる姿……

 

試練の光によって、若干その姿は異なっているが、あの姿は間違い無く昨日俺が繁華街で戦ったホルダーだ。

 

「……春香《はるか》」

 

ホルダーに変化した女性を目の当たりにして金田さんが呟く。

 

恐らく春香というのはこのホルダーの素体となった女性の名前なのだろう。

 

だがその名前を呼ばれたホルダーは何の躊躇も見せず、翼を羽ばたかせて先程以上に強力な突風を巻き起こす。

 

「危ない!?」

 

俺は咄嗟に隣に居たすずかちゃんに覆いかぶさる様に、床にしゃがませてホルダーが巻き起こした突風によって室内を飛び交う本等から、その身を挺してすずかちゃんを守る。

 

この室内に超局地的に起きた台風に似た状態は数秒で終わりを告げ、風が止んだ事をその身体に感じながら俺が視線を上げると、想像通り部屋の中は悲惨な状態へと変わり果ててしまっていた。

 

だが変化それだけでは無かったのである。

 

その場に居たのは俺とメカ犬にすずかちゃんと、少し離れた位置に同じ様に身を低くしていた恵美さんに森沢教授の姿……

 

「……金田さんとホルダーが居ない!?」

 

『窓の外だマスター!』

 

この場にホルダーと金田さんが居ない事に気付いた直後、メカ犬の声により窓際に視線を向けると、窓は完全に破壊された状態となっていた上に、その先にはホルダーが金田さんを抱えながら遠くに飛び去る姿が視界に飛び込んで来る。

 

俺とメカ犬は無言で視線を交わして互いに頷き、この部屋を出てホルダーの後を追う為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『着いたわよマスター』

 

「ありがとうございます。チェイサーさん」

 

俺はチェイサーさんに感謝の言葉を述べながら、降りて上を見上げた。

 

見上げる俺の視線に映るのは、海鳴大学から然程離れていない場所に設置されている全長200mはある電波塔である。

 

ホルダーを追いかけて来た結果、この電波塔の最上階にホルダーが金田さんを連れ込んだのは間違い無い。

 

『行くぞマスター』

 

「ああ」

 

既にシードへの変身を完了させている俺が、ベルト状態となっているメカ犬の言葉に頷き、電波塔の中に入ろうとした所に、聞き慣れたサイレン音が響く。

 

その音のした方向に振り向くと白と黒のツートンカラーのバイク、マシンドレッサーに跨りながら、メタルイエローのボディーを持つE2が俺の直ぐ近くに来てマシンドレッサーを止めると、小走りで俺の元へと近づいて来た。

 

「シードさん!」

 

俺はE2の呼び掛けに無言で頷く。

 

「恵美さんからの報告で、ホルダーが民間人を連れ去ったと聞きました。僕は其方の救助を優先させたいと思いますので、ホルダーの相手を頼めますか?」

 

E2の提案は、寧ろ願ったりだったので、俺はもう一度頷いて肯定の意思を示してから、E2と共に電波塔の最上階を目指して塔の内部へと入って行った。

 

最上階に辿り着くと、本来であれば展望室となっており普段から誰かしら人が居る筈のその場所は閑散としており、そのホルダーが進入する際に割ったのであろう、アクリル製の窓から吹き曝しの風が容赦無く展望室の内部に吹き荒れている。

 

そしてその中央には、恐らくこの電波塔に元から備え付けられていたのであろう作業用のロープで縛られて自由を奪われた金田さんの姿と、それを見ながら恍惚の笑顔を浮かべる女性……春香さんの姿があった。

 

「やっとショーの観客が来てくれたみたいね?」

 

俺とE2の姿を視界に捉えた春香さんが、嬉しそうに声を弾ませながら、一礼して俺達を迎え入れる。

 

「……春香。どうしてこんな事を?」

 

ロープで縛られて身動き出来ない金田さんは、無理に首を動かして視線を春香さんに向けながら、当然とも言える疑問をぶつける。

 

「黙りなさい裏切り者!!!」

 

先程までの嬉しそうな態度はなりを潜め、春香さんは金田さんに対して怒声を放つ。

 

「う、裏切り者?どうして僕が裏切り者なんだ!?」

 

その言葉に対して心当たりが無いのか、金田さんは怒りを露にする春香さんに狼狽する事しか出来ないでいた。

 

春香さんはそんな金田さんの様子に業を煮やしたのか、舌打ちをすると憎しみを込めた視線を俺達にも聞こえる様な大きめの声で、淡々と語り始める。

 

「……正敏は小さい頃に約束してくれたわ。大きくなったら私をお嫁さんにしてくれるって……私は正敏が好きだったから……その言葉を信じて今まで付き合ってきた。けど最近の正敏は私以外の女の子とも大勢仲良くしていて……お嫁さんにしてくれるって言っていた約束も忘れて……私はそれが許せないのよ!!!」

 

淡々と語っていた春香さんの口調は段々と荒くなり、最後はヒステリックな叫びへと変わっていく。

 

「だから正敏に教えてあげるのよ!!!!!私の想いを裏切ったらどうなるのかをね!!!!!!これは当然の復讐なの!!!!!!そして私以外の女なんて見えない様にして、正敏は私だけを愛するのよ!!!!!ねえ、素敵なお話よね?そう思うでしょ仮面ライダー!?」

 

発狂した様な笑い声を上げながら、春香さんが話を俺達に振ってきた。

 

暴走プログラムによって理性を失い、感情が暴走していると分かっていながらも、どう答えて良いか全く分からない俺と隣に居るE2も同様に沈黙する事しか出来ないでいると……

 

「違う!!!」

 

今までに無い程の強い口調で、金田さんが否定の言葉を叫ぶ。

 

「何が違うって言うのよ!?正敏は私の気持ちを裏切った!!!!今更そんな心にも無い事を言わないで!!!!!!!!!!!」

 

「だからそれは違うんだ!!!嘘だと思うなら、僕のポケットの中を確かめてくれ!!!」

 

金田さんはそう叫ぶと、縛られた状態で身を捩りながら、ズボンのポケットを探る様に春香さんに促す。

 

「……これって」

 

言われた通り、金田さんのズボンのポケットに手を入れた春香さんは、金田さんのポケットの中から、小さな青い小箱を見つけ出し、それをそっと手に取る。

 

「開けてみてくれないか?」

 

春香さんが金田さんの言葉通り、その青い小箱を開けると、中には小さな宝石が一つ付けられた指輪が収められていた。

 

「誕生日おめでとう春香。それとこんな形になってしまったけど言うよ。僕もずっと春香が好きだった。だから結婚を前提に付き合って欲しい」

 

「う、嘘よ!?だって……正敏は私以外の女の子とも……」

 

突然の告白に春香さんは手に持った指輪と金田さんを交互に見ながら狼狽し始める。

 

「それは……知り合いの女の子に、春香へのプレゼントについて相談して回っていただけ何だ。それでこんな誤解をさせてしまって……本当にごめん」

 

そんな春香さんに、金田さんは深々と頭を下げながら、謝罪の言葉を口にする。

 

「……わ、私は何て事を正敏に……」

 

この場に居合わせただけの俺には、二人の間柄を深く知る術は無かったが、きっと二人の絆は俺が思っている以上に深い部分で繋がっているのだろう。

 

金田さんを縛っていたロープを泣きながら解き始めた春香さんの姿を見て、これで事件は解決すると思ったその直後だ。

 

「それで終わったんじゃ僕達が困っちゃうんだよね」

 

割れた窓の側から聞こえて来た風の音とは明らかに違う声に、俺とE2が同時に視線を向ける。

 

其処に居たのは人とは違う異形の姿をした藍色の怪人。

 

「オーバー!?」

 

俺がその怪人の名を叫ぶと、相変わらず高めの声質で笑いながら、一足飛びで春香さんの目の前に降り立った。

 

「……だから君にはもう一仕事してもらうよ」

 

俺達が止めに入る間も無くそう言うと、オーバーは突然の事態で動けないで居る春香さんの頭に軽く手を添える。

 

「あ、あ、い、嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

その直後、春香さんが頭を抱えながら悲鳴を上げる。

 

「は、春香!?」

 

ロープの束縛が無くなった事により自由を取り戻した金田さんが春香さんに駆け寄るが、春香さんは人間とは思えない力で、金田さんを吹き飛ばしてしまう。

 

「に、逃げて……早く逃げてえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

金田さんを突き飛ばした春香さんは金田さんに向かってそう叫ぶと全身から茜色の光を発しながら、数刻前に大学の室内で変わったのと同様にホルダーへとその姿を変貌させた。

 

「ははははは!やっぱりこっちの方が断然面白いよ!!!!!」

 

春香さんがホルダーの姿に変わる場面を見届けたオーバーが心から嬉しそうな笑い声を上げながら言い放つ」

 

「オーバー!!!」

 

「おっと。僕に怒るのは勝手だけど、ホルダーをこのままにしても良いのかな?仮面ライダー」

 

怒りに震える俺の声に対して、オーバーは対照的にふざけた態度で指摘する。

 

悔しいがオーバーの言う通り、今の俺はオーバーの相手をしている場合では無い。

 

以前にも似た様な事があったが、恐らく今の春香さんは完全に自分の意思を失っているのだろう。

 

このまま放って置いたら、何をするのか想像するのも恐ろしい。

 

幸いにもこの隙に乗じて、E2が金田さんを安全な場所に避難させる為にこの場から連れ出して行く姿が見えたので、戦う事に遠慮する事は無かった。

 

「それじゃあ精々頑張って戦ってね仮面ライダー」

 

これで用事は済んだとばかりに、再び割れた窓から飛び出していくオーバーの姿に、怒りを感じながら俺は目の前のホルダーと対峙するべく身構える。

 

『来るぞマスター』

 

「分かってる!こんな悪夢はここで終わらせるぞ!!!」

 

『うむ!』

 

メカ犬の注意の声が聞こえるとほぼ同時に、ホルダーが俺に対して飛び掛って来る。

 

俺は右手を飛び掛って来るホルダーの肩に添えながら身体の重心を移動させる事によって、最小限の動きで回避しつつ、常にホルダーの姿を視界に入れる様に心掛け、続け様に仕掛けてくる攻撃を避け続けた。

 

昨日の戦いでも分かっていた事だが、このホルダーの攻撃の切り替えしは異常な程に早い。

 

常に視界にホルダーの動きを入れて置かなければ、死角から攻撃を喰らう羽目に遭うのは必然だろう。

 

だが攻撃を避けるだけでは、埒が明かないのもまた事実だ。

 

何処かで楔を打たなければ、この戦いの流れが変わらないのは明白である。

 

その後も素早い連続攻撃を捌き続けていると、ホルダーは業を煮やしたのか、一旦距離を置いて、翼を羽ばたかせて強風を発生させる。

 

「くっ!?」

 

その強風に煽られて、俺の動きが一瞬鈍るのを好機と見たのか、再びホルダーが勢い良く俺に飛び掛るが、その攻撃が俺に届く事は無かった。

 

ホルダーの攻撃が俺に届く寸前で、横から銀の光を纏った数発の銃弾がホルダーに命中して、ホルダーの身体を明後日の方角へと吹き飛ばしたのである。

 

銃弾の飛んできた方向に、俺が視線を移すと、予想通り専用銃であるESM01を構えた状態のE2の姿が其処にあった。

 

構えを解いたE2はESM01をホルスターに収めると、E2は俺の元へと駆け寄って来る。

 

「大丈夫でしたか!?」

 

俺はE2の心配する言葉に頷きを返しながら、再びホルダーに視線を戻すと、既に立ち上がったホルダーが俺とE2目掛けて飛び掛っている姿をその視界に捉えた。

 

その予想以上に早い回復と行動は全くの予想外であり、完全に不意を突かれた俺とE2はホルダーに首根っこを掴まれた状態のまま、展望室の窓枠に突撃して空に投げ出されてしまう。

 

このまま落下すればただでは済まない事は明白である事は、考えなくても分かる事だ。

 

だから俺は急いでバックルからタッチノートを引き抜きボタンを押す。

 

『ホバーチェイサー』

 

音声が鳴り響くと共に、下に待機していたチェイサーさんが空を自在に飛ぶ事の出来るホバーモードとなって俺達の前に駆けつける。

 

『お待たせマスター』

 

俺は素早くチェイサーさんの上に着地して、隣で落下し続けるE2の手を掴んで、何とか全員無事に地面に降り立つ事に成功する。

 

「助かりましたシードさん」

 

感謝の言葉を述べるE2に俺は手を軽く振りながら気にしなくて良いと合図をしつつ、上空を見た。

 

すると既にホルダーが次の攻撃を仕掛けるべく、突撃を仕掛けようとしている姿を捉える事が出来た。

 

『マスター。昨日と同じ戦法で行ってみるか?』

 

E2に聞こえない程の小声で発したメカ犬の提案に俺は首を振る。

 

「いや、俺もそれは考えたけど、試練の光でパワーアップしたホルダーにパワーフォルムで真っ向勝負を仕掛けても、止められないかも知れない」

 

幾ら隙を突かれたとは言え、俺とE2二人がかりで全く止める事が出来なかったのだ。

 

下手をすればまたホルダーによって、空中からの強制紐無しバンジージャンプを決行する事になりかねない。

 

「……あの、ちょっと良いですか?」

 

あまり時間の無い中で、俺とメカ犬が対策を講じているとE2が俺に話し掛けて来ると同時に、素早く腕にはめているEブレスのボタンを押す。

 

[「聞こえるかしらシード。私に良い考えがあるんだけど協力してくれない?」]

 

すると聞こえて来たのは、少し前まで一緒に居た恵美さんの声だった。

 

どうやら先程E2が操作していたのは、E2以外の人も恵美さんの声が聞こえる様にする為だったらしい。

 

こっちとしても時間が無い事から、俺はその提案に即断で協力する事に決めて頷く。

 

[「ありがとう。それじゃあ、早速説明するわよ」]

 

俺は説明を聞いて改めて感じた。

 

恵美さんの考えは、やっぱり常人の理解の範疇を超えていると……

 

確かに理論上は可能だろうが、その作戦は恐ろしい程にシンプルであり難易度の高いものだった。

 

その作戦を自信満々に絶対に成功すると確信出来るのだから、最早尊敬の念さえ覚えてしまう。

 

『準備は良いかマスター!』

 

「ああ!」

 

俺はメカ犬の言葉に頷きながらベルトの右側をスライドさせて赤いボタンを押す。

 

『パワーフォルム』

 

音声がベルトから鳴り響き、メタルブラックのボディーの身体は、鮮やかなクリムゾンレッドへと染まる。

 

「うをおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

パワーフォルムへのフォルムチェンジを遂げた俺は、昨日の戦いと同様に、上空から急降下するホルダーを力尽くで受け止めようと試みる。

 

しかし当初の考え通り、試練の光によって力の上がったホルダーの力は昨日の戦いの時の比では無く、パワーフォルムでも抑え切る事が出来ずに、俺はそのままホルダーに空中へと運ばれてしまう。

 

……だが此処までは当初の予定通りなのである。

 

『今だマスター!!!』

 

「分かってるさ!」

 

俺はメカ犬の言葉に答えると同時に、足に渾身の力を込めて蹴りをホルダーに繰り出す。

 

その一撃はかなり効いたらしく、ホルダーの呪縛から開放されるが、それと同時に俺の身体が空中に放り出される。

 

「シードさん!!!」

 

その直後、ホバーモードのチェイサーさんに乗ったE2が落下する俺の手を取り引き寄せると、予め用意していたESM03というガトリングで、ホルダーの両翼を狙い打つ。

 

その弾丸の全てが見事にホルダーを捉え、飛行能力を失ったホルダーは無残に地面へと落下した。

 

恵美さんの立てた作戦とは、簡単に言ってしまえば二対一という条件を使った囮作戦だったのである。

 

先程の流れを見れば分かってもらえると思うが、俺が囮となって、ホルダーと対峙して時間を稼ぐと同時に、一瞬の隙を作り出す。

 

その間にE2がホルダーに加える一撃を用意すると同時に、チェイサーさんと協力して、俺を回収するという手筈だったのである。

 

至ってシンプルな作戦ではあるのだが、今まで協力して戦った事はあっても、計算して連携した事は皆無な筈の俺達にこんな賭けを持ち掛けるというのは、以前から思っていたが改めて恵美さんは肝が据わっていると認識せざるを得ない。

 

[「今よ二人とも!!!」]

 

俺とE2は恵美さんの言葉に頷きながら、このチャンスを生かすべく其々に準備を開始する。

 

俺は再度ベルトの右側をスライドさせて、黒いボタンを押す事で、ベーシックフォルムに戻った後、タッチノートを引き抜き、右足をタッチしてもう一度ベルトにタッチノートを差し込む。

 

その隣ではE2がESM03の銃身の連結を解除すると左腰からマガジンを取り出して、ESM01の底部に差し込んだ。

 

『ポイントチャージ』

 

『ブレイクチャージ』

 

同時に鳴り響く音声と共に、ベルトから発生した光が俺の右足へと集約される。

 

その間にE2がネット状の黄色い光弾を撃ち出して、ESM01をホルスターに収めると、同じく光がE2の右足へと集約されていく。

 

俺とE2は互いに視線を交わして頷きながら、チェイサーさんから飛び降りる。

 

「こいつで決めるぜ」

 

飛び降りると同時に放つ俺の言葉を合図に、俺とE2は同時に輝く右足を突き出す。

 

「「ライダーキック」」

 

同時に放たれた二人の仮面ライダーの必殺の一撃はホルダーに見事命中すると、大きな爆発を起こした。

 

そして爆発地点には、暴走プログラムから開放された春香さんが気絶している姿があり、その隣では暴走プログラムが塵に帰って行く様子が窺い知る事が出来たのだが、ここで一つ大きな問題が発生してしまう。

 

ホルダーを倒した事により、春香さんの身体から試練の光の分身体が出て来たのだが、ミルファが居ない今、俺達には対処方法が何も無いのである。

 

だがその心配は一瞬の事であり、試練の光の分身体は、一人の少女が杖を振るう事によって、最初からその場に存在していなかったかの様に、無へと帰って行った。

 

ポニーテールを靡かせながら青いチャイナ服に似た衣装を身に纏う少女。

 

俺が知っている中で、この試練の光を安全に対処できる唯一の存在である、ミルファの姿が其処にあった。

 

「全く……大学では酷い目にあった上に、置いてけぼりなんて勘弁して欲しいわよ。大体私は小学生じゃなくて立派なレディーなのよ。あの用務員のおばさんの目は節穴なのかしら……」

 

ウンザリした表情で愚痴を零している様子から、何となく大学でミルファの身に何が起こったのか想像がつくが、それはそっとしておくのがエチケットというものだろう。

 

それよりも今は、もっと心配しなければいけない事態となっている。

 

ミルファの様子を見たE2が、無言で立ち尽くしているのだ。

 

やがてその視線に気付いたミルファが、俺に助けを求める様に目で訴えて来るが、こればかりは助け様が無い。

 

どれだけの沈黙が続いたのだろうか……

 

最初に沈黙を破ったのはミルファだった。

 

意を決した視線を俺に向けた後、ミルファは杖をバトンの様に回して、何処かのアニメで見た覚えのある様なデジャブを感じさせるポーズを取りつつ、猫撫で声で高らかに宣言する。

 

「私は魔法少女!!!マジカルミルファ~魔法の国からワル~い魔法を封印する為にやって来たの!!!!!」

 

「……」

 

「……」

 

『……』

 

[「……」]

 

誰も言葉を掛けられない時間がこのまま数秒過ぎた後、ミルファは文字通り魔法少女らしくこの場から飛び去ってしまった。

 

 

 

 

……何もフォローする事が出来なかった俺が言えた義理ではないのだが、もう少しマシな理由は無かったのかと切実に思う。

 

何はともあれ、今回のホルダー騒動は無事に解決したと同時に、この日海鳴市には一人の可憐な魔法少女が爆誕した。

 

そんな訳で今日の海鳴市は平和なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~久し振りの日本の空気はやっぱ美味いわ!!!」

 

 

 

新たな嵐の予感が近づいている事に、俺はまだ気付いていなかった……

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