魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

126 / 233
第34話 サーキットメモリーズ【後編】

突如として戦いの場に出てきた初老の男性に、俺を含めた周囲の視線が集まる中、予想外の言葉を発したホルダー。

 

その言葉に驚いた俺達は、先程までその男性に向けていた視線を、再びホルダーへと向ける。

 

「……一体何をしに来たんだ」

 

ホルダーはバイクから降りると、初老の男性に背を向けながら吐き捨てる様に言い放つ。

 

その言葉から如実に感じるのは、隠しようの無い男性に対しての嫌悪感。

 

だが、先程ホルダーが発した言葉に何一つ偽りが無いとするならば、この二人の関係は……

 

「もうこんな事は止めるんだ修司!どうして……誰よりもバイクを、レースを好きだったお前がこんな事をするんだ!?」

 

「……バイクを、誰よりも好きだっただと?」

 

男性の切実な声に反応したホルダーが、背を向けていた状態から僅かに横顔を覗かせる。

 

「ふざけるな!!!俺はあの日から誰よりもバイクを!!!レースを恨んでいたんだ!!!そして何よりも父さん……あんたにだけは!!!俺がバイクを憎む原因を作った張本人にだけはそんな事を言われる筋合いは無い!!!」

 

怒気を帯びた叫びをスタジアム全体に響かせた後、ホルダーの全身が銀色の光に覆われると異形の姿が変化を起こし、一人の人間の姿へと変わっていく。

 

その姿は細身の身体に、青いライダースーツを着た黒髪の青年。

 

見た目の年齢は恐らく二十台前半から半ば辺りと言ったところだろうか。

 

青年の顔立ちは何処と無く、初老の男性と同じ雰囲気を纏っている。

 

「まさか……あんたは!?」

 

其処で立ち上がったアクセスが、腹部に巻き付けたベルトを外して鳥羽さんの姿に戻りながら、二人の顔を見比べて少々上擦った声を零す。

 

「……そっか。現役の時の写真しか見た事が無かったから分からなかったけど、漸く思い出せたわ」

 

俺の横で同様に事の顛末を見ていた恵理さんが、確信を得たという実感の篭った言葉を静かに呟く。

 

「思い出せたって、恵理さんはあの人が誰か知ってるんですか?」

 

「ええ。本人を直接見るのは私も初めてだけどね。あの杖を持っている男の人の名前は高田修也《たかだしゅうや》。随分と前に引退してしまったけど、現役時代は有名なレーサーよ……そしてあの人こそが、鳥羽君の尊敬する人なの」

 

「え!?」

 

恵理さんの説明に俺は驚愕の声を上げた。

 

そして俺が恵理さんに更なる質問をするよりも早く、俺が聞こうとした質問の答えを鳥羽さんが語りだす。

 

「なるほどな……通りであんだけバイクを自在に使えるわけだ。修也さんの一人息子にして現役のレーサー……高田修司《たかだしゅうじ》。確かにあんた程の腕ならさっきの芸当も朝飯前だ」

 

苦笑しながら語る鳥羽さんに対して、ホルダーの素体となっていた……修司さんが憎しみを込めた瞳で睨みつける。

 

「お前もか……お前もそうなんだな!!!」

 

鳥羽さんの言葉の何かが心の琴線に触れたのか、修司さんは激しい怒声浴びせ掛ける。

 

何故鳥羽さんに其処までの怒りをぶつけているのか。

 

その理由は定かではなかったが、傍から見ていてもその怒りは尋常では無かった。

 

「おまえも奴等と同じなんだな……それならお前は俺の敵だ!!!」

 

「奴等?敵?」

 

修司さんの言葉を鳥羽さんが反芻する。

 

鳥羽さんと同様に俺も心の中で修司さんの言葉を反芻していると、ふと先程スタジアムを逃げていく際に簡潔に説明をしてくれた男性の言葉が脳裏に蘇る。

 

その男性の言葉と修司さんの先程の発言から、俺は一つの仮説を立てた。

 

まず修司さんが言っていた奴等というのは、俺達がこの場所に取材へ来る理由にもなった引退を証明したというレーサー達の事ではないのだろうか?

 

次に男性が言っていた勝負という言葉。

 

その結果がレーサー達の引退へと繋がっているのであれば、修司さんは……

 

「このサーキットで俺とレースで勝負しろ!!!そして俺に負けたのならば、この先の生涯バイクと一生関わるな!!!」

 

今も理由は分からない。

 

でも修司さんは、バイクに大きな恨みを持っている。

 

それだけは俺にも理解する事が出来た。

 

「な、何を言ってるんだ修司!?お前はプロのレーサーなんだぞ!素人にそんな不利な勝負を……」

 

修司さんの理不尽とも取れる発言に異議を唱えようとするが、その言葉は鳥羽さんが右手を上げる事で中断される。

 

「良いぜ!その勝負受けてやる!」

 

異議を唱えようとした修也さんを制止した鳥羽さんは、この理不尽な勝負を何の躊躇いも無く受けてしまう。

 

「……ふん。今までの腑抜けた奴と違って少しは骨がありそうだな」

 

「その代わり教えてくれるか。何で修也さんの息子であるあんたがこんな事をした?」

 

「良いだろう……特別に教えてやる」

 

鳥羽さんの対応に多少なりとも気分を良くしたのか、修司さんが静かに語り始める。

 

「俺の父さん。今目の前に居る高田修也は一人のレーサーとして、一人の父親で俺が心から尊敬する人だった……あの日まではな」

 

「……あの日?まさかあの事故の事か?」

 

修司さんの語りに対して、質問をする鳥羽さんの言葉で、俺の隣に居た恵理さんが何かに気付いた様な表情を見せる。

 

「恵理さん。もしかして何か心当たりが?」

 

「……ええ。多分だけど鳥羽君はあの日の事故を言ってると思う」

 

そう言った恵理さんは、スタジアムの二人の動向を見守る修也さんへと視線を向ける。

 

「さっき修也さんは随分前にレーサーを引退したって言ったけど、その直接の原因になったのが当時の事故なのよ」

 

恵理さんの話によると、修也さんはレース中の事故で怪我を負って左半身に後遺症が残り、それが原因でレーサー生命を絶たれたらしい。

 

それ自体は不幸な事故だとは思うが、良く似た事例は過去にも何度かテレビのニュース等で見た事がある。

 

だがその事故は、修也さんがレース中に事故を起こしたというだけのものでは無かった。

 

「父さんがあの日のレースに最後のカーブでバランスを崩していなければ、すぐ後ろを走っていた選手は……」

 

修也さんが転倒した直後、すぐ後ろを走っていた一台の後続のバイクが巻き込まれるという形となったのである。

 

先程も述べた通り、その事故が原因で修也さんはレーサーとしての選手生命は絶たれ、もう一人の選手は……帰らぬ人となった。

 

「俺の人生はあの日から全てが変わった!今までただ純粋に好きだったバイクが苦痛以外の何者でも無くなったんだ!!!あの事故の後……周りの奴らが寄って集って俺を人殺しの息子だと蔑んだ」

 

修司さんはスタジアム全体に響き渡る様な大声で、自身の心の内を叫ぶ。

 

「俺はただ……ただバイクが好きなだけだったんだ。好きなだけで居たかったんだよ!何度も夢を捨てようと思ったさ。そうすれば楽になれたかもしれない……だけど俺はバイクを捨て切る事が出来なかった。だから俺はそんな自分を認める為に……周りの奴らを認めさせる為にプロを目指したんだ……そして俺は念願のレーサーになれた。だけど何も変わらなかった!だから壊すのさ!この力で!」

 

……彼は、修司さんのレーサーとしての実力は過去に生まれた怒りと憎しみ糧に生まれたと言う。

 

でもそれは……

 

「あんたの過去に何があったのか、どうしてこんな事をしたのかは大体分かった……だけどな!!!それでこんな事をして良いって道理にはならないだろうが!!!」

 

最後まで修司さんの話を聞き終えた後、鳥羽さんが先程の修司さんと同様に自らの心の内を曝け出す様に叫んだ。

 

「確かにあんたを今みたいに変えたのは、周りの奴らや、実の父親だったのかもしれない。でもな……あの日、弱かった俺を変えてくれた人も……俺に行くべき道を示してくれたのもあんたの父親……修也さんなんだよ!!!」

 

「……まさか君は!?あの時の?」

 

鳥羽さんの言葉を聞いた修也さんが、驚愕の声を上げる。

 

その声に頷きながら、鳥羽さんは修也さんに視線を向けた。

 

「俺は修也さん……貴方の言葉を信じる事で今の自分になる事が出来た。貴方の息子さんは確かに貴方や周りのせいで、道を踏み外し、絶望したのかもしれない……だけどこれだけは忘れないでくれ。貴方は……バイクって奴はそれ以上に沢山の夢をくれたって事をさ」

 

「……そうか。君はあの時の少年なんだね」

 

修也さんの鳥羽さんを見る瞳が、何処か懐かしさを醸しだす。

 

その瞳に見詰められながら、鳥羽さんはサーキット内に落ちていたヘルメットを頭に被ると、続いてそのすぐ近く横たわっていた一台のバイクを起こした。

 

「さあ、とっとと勝負を始めようぜ?」

 

鳥羽さんはそう言ってから、バイクのエンジンをかけようとするが、何度アクセルを回しても上手くアイドリング状態になってくれない。

 

もしかしたら横に倒れた際に、何処か異常が生じたのではないだろうか?

 

「しょうがないか……」

 

あまり時間を掛けている訳にもいかないからなのか、鳥羽さんはそのバイクを諦めて、他の稼動可能なバイクを見繕うとしたその時、サーキット内にエンジンの爆音を響かせながら一台のバイクが乱入した。

 

そのバイクは大型のサイドカータイプで、全体的に白を基調としており、まるで白紙のキャンバスに線を幾重にも引いた様に緑のラインが走っている。

 

本体のバイクを走らせているのは、まるでチェイサーさんが使っている立体映像の様な、漆黒のライダースーツとフルフェイスタイプのヘルメット。

 

そしてサイドカー側に乗っている人物は……

 

「……森沢教授?」

 

サイドカーに乗っていた人物、森沢教授を前に鳥羽さんが呟く。

 

この場に居る全ての視線を集めながら、意に介する事無く森沢教授がバイクから降りて、鳥羽さんの方へと近づいていく。

 

「ふむ……例のものが完成したんでね。急いで君に届けに来たんだが、中々に絶妙なタイミングだったかな?」

 

そう言いながら森沢教授は、鳥羽さんから先程まで自身が乗っていたバイクへと目線を移す。

 

どうやら森沢教授の目的は、あのバイクを鳥羽さんに届ける事だった様だが、このタイミングで持ってくるというのは、あまりにも都合が良過ぎるのでは無いだろうか?

 

俺がそんな疑心を心の内で募らせている間に、鳥羽さんへとバイクを受け渡した森沢教授は、修也さんとバイクを運転していた人を連れて、俺達の方へとやって来た。

 

「こんな場所で会うとは奇遇だね」

 

観客席までやって来た森沢教授は、こんな状況だというにも関わらず、相も変わらず朗らかな笑顔を俺に向けると、続けて恵理さんへ挨拶をする。

 

「初めまして。君が恵美君のお姉さんの恵理君だね?話は以前から恵美君から聞いてるよ」

 

「あ……いえ、こちらこそ初めまして。私も森沢教授のお話は恵美から度々聞いています」

 

突然の森沢教授の丁寧な挨拶に、恵理さんも深々とお辞儀をして答えた。

 

あまりにも不自然な故に、何処か突き抜けてしまい最早自然な流れなのではと錯覚しそうになりながら、俺は森沢教授に一つの質問を投げ掛ける。

 

「あの、森沢教授。あのバイクは何なんですか?」

 

どうしてこのタイミングでやって来たのかという質問は、恐らく流水の如く流されてしまうであろうと思い至り、あえてその次に気になっていたバイクについて問い質す。

 

するとこの質問は、森沢教授の琴線に触れたのか満面の笑みを浮かべた。

 

師弟の間柄にある為なのか、今の森沢教授は恵美さんがE2の解説をする際の表情にそっくりである。

 

「ここに居るという事は、君達も鳥羽君のあの姿を見ているのだろう?」

 

俺と恵理さんは森沢教授の言葉に、静かに頷く。

 

その様子を肯定の意思と認識したのだろう。

 

森沢教授は満足そうに頷きつつ、続きを語り始めた。

 

「私が鳥羽君に届けたバイクは、彼の変身した姿であるアクセスの為に作り出した特別製のマシンでね。マシンの名は【サイドアクセラー】」

 

『……ほう。それがあのバイクの名か』

 

俺達が口を開くよりも早く、この場に居ない筈の声が俺の耳に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このサーキットを先に一周した方の勝ちだ。無駄に週数を増やしても素人にはキツイだろうからな?せめてものハンデだ」

 

サーキットのスタート地点に、激しいエンジン音を鳴り響かせながら並ぶ二台のバイク。

 

修司は隣で自身の新たなマシンである、サイドアクセラーの動作確認をしていた鳥羽へと話しかけた。

 

「その余裕、後で後悔するぜ」

 

だが修司の挑発とも取れる態度に、鳥羽はフルフェイスタイプのヘルメット越しに、不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

これ以上の会話は無駄と悟ったのか、修司はそれ以上会話を交わす事無く、正面を見据えこれまでレーサーとして、幾度と無く繰り返してきた己の集中力を研ぎ澄ませていくという行為に没頭していく。

 

スタートのチェッカーフラッグを切る為に彼らの横に立ったのは、鳥羽にバイクを譲った黒のライダースーツを着た人物だった。

 

彼は森沢教授の頼みでこの役目を引き受けた。

 

それ以前に、このサーキットの内部の人々は既に殆どが逃げ出した後であり、彼以外に適任となる者が居なかったのである。

 

全ての準備が整い、二台のマシンが合図と共に轟音を唸らせて、颯爽とサーキットを駆け抜けていく。

 

まず先頭に踊り出たのは修司の方だった。

 

そもそも修司の乗っているバイクは、ホルダー能力の強化が成された状態なのである。

 

修司自身は現状ホルダー化はしていないが、その能力は今も色濃くバイクに影響を与え続け、従来のバイクの能力を大幅に凌いでいるのだ。

 

それに加えて鳥羽が駆るサイドアクセラーはレース用には不向きなサイドカータイプであると同時に、鳥羽自身も乗り慣れていない事が相まって、スタート時に遅れを取ってしまったのである。

 

ならば最初からサイドアクセラーを使用しないという手段も取れたかもしれないが、鳥羽にその考えは最初から存在しなかった。

 

ホルダーの能力が付加されたバイクに対して、例えレース用に開発されたバイクだとしても、勝負にならないのは明白。

 

だからこそ鳥羽は僅かでも勝利に近づく為に、サイドアクセラーに全てを賭けたのである。

 

サーキットは大きな楕円状コースという巨大ではあるがシンプルな作りとなっていた。

 

修司の駆るバイクを先頭としたまま、最初のコーナーを曲がり、更に差を広げようと修司が直線でスピードを上げるが、鳥羽は慣れないマシンにも関わらず、差を縮めまいとして食い下がる。

 

鳥羽が予想以上に奮闘する様子に、修司は若干の驚くがすぐに気持ちを切り替えて、尚も先頭を走り続けて第二、第三カーブを曲がっていく。

 

そして二台のバイクは拮抗状態を保ったまま最終カーブへと差し掛かる。

 

このままの状態を維持すれば、確実な勝利が訪れると修司は確信した。

 

その勝利を現実のものとする為に、修司は最低限の減速で済む様にブレーキを徐々に掛けていくのだが、その後ろから先程まで一定の距離を開けていたサイドアクセラーが確実に距離を縮ませ始めたのだ。

 

理由はただ一つ。

 

修司が速度を落としたのに対して、鳥羽は現状を維持するどころか、更にアクセルを全開にして速度を増したのである。

 

片や速度を上げて、もう片方は下げた。

 

そこから生じる差は、一瞬の駆け引きで全てが塗り換わるレースにおいて、絶対の差となる。

 

だがそれ以上に修司の脳裏には、別のイメージが過去に見た映像と重なり、大きな動揺と化す。

 

少年の頃にこのサーキットで見た悪夢……

 

奇しくも現在の自身の状況と、過去に見た父の姿が重なったのだ。

 

心の奥から生まれるのは、純然たる恐怖。

 

まるで過去の再現と思える現在の状況に、全身が縮み上がり思い通りに身体を動かす事が叶わない。

 

その隙にサイドアクセラーが、外側から追い抜いていく。

 

最早追い着く事は出来ず、サイドアクセラーが最後の直線を駆け抜け、勝利を告げるゴールフラッグが高らかに振られる。

 

戦いを終えた二台のマシンがサーキット脇に止まり、今回の勝負の敗者である修司がヘルメットを脱ぎ捨てて、同じくヘルメットを外していた鳥羽へと詰め寄る。

 

「……どうしてだ?どうしてあの場でブレーキを掛けずに!?」

 

修司の言おうとしている言葉の意味を、実際にレースを行った鳥羽や、この場に居たレースを知る者は素早く感じ取った。

 

「……俺は強いからな!勝って当然だろう」

 

鳥羽は不敵な笑みを称えながら言った。

 

しかし修司がそんな言葉に納得出来る筈がない。

 

その態度も相まって、修司は怒りに奥歯を噛み締める。

 

「ふざけるな!!!」

 

「ふざけてなんていないさ。あんたは最後のカーブで、自分に負けた。そんな奴に俺が負ける筈が無いだろ」

 

「……俺が自分に負けただと?」

 

怒りから己の思いの丈を叫んだ修司に対して、鳥羽は不敵な笑みを改め、真剣な表情で答えを返す。

 

その答えに修司は反芻する様に呟いた。

 

「俺の尊敬する人が昔に言ってた。人間は生きてる内に何度と無く壁にぶち当たるってな。その度に焦ったり恐怖したりするだろう……だから強くなれ。他の誰でもない。自分に負けない強さを持てってな」

 

鳥羽はそう言って、観客席から自身の方を見ている修也へと視線を向ける。

 

「自分に負けない強さ……俺は自分に負けたって事なのか……」

 

膝を地面に落とした修司は、自身が人生で長年付き合ってきたかつては愛すべきものであり、今は復讐の道具へと化してしまった一台のバイクを見詰めた。

 

レースの最終カーブで修司が感じた恐怖。

 

それこそが己の弱さが作り出した感情だった。

 

己の肌で実感したからこそ、修司は一つの答えと行き着く。

 

あの時も同じだったのだ。

 

自身を取り巻く環境が己にとって不の方へと変化していく状況。

 

その変化に、幼い日の修司は自ら心を閉ざしてしまったのだ。

 

救いの手はきっと差し伸べられていた筈なのに……

 

修司はその差し伸べられた手を見ようともしなかった。

 

「……そうか。俺は今でもバイクが……この場所が……父さんが好きだったんだな」

 

心の内の奥深くにしまい込んでいた感情が表に出てきたからこそ、修司は隠れていた本当の想いに気付く。

 

今のレーサーとしての自分が居るのは復讐という、暗い感情の為だけでは決して無い。

 

心の底では離れたくないと望んでいた……ただそれだけの、何物にも代え難い強い意志の強さだったのだ。

 

「……俺は……まだバイクを、父さんを好きで居て良いのかな?」

 

溢れ出る感情は涙と想いに変わり、修司はその瞳から大粒の涙を零しながら、その想いを言葉にする。

 

「良いに決まってるだろ。バイクが好きなんて最高じゃないか」

 

鳥羽は底抜けに明るい笑顔を称えながら、修司に手を差し伸べる。

 

自ら掴む事を拒み続けた手が、今一度修司の前に差し伸べられた。

 

今度こそ修司はその手を掴む。

 

もう自分の弱さに負けたくは無いから。

 

それに気付かせてくれた一人の男に、幼い頃から尊敬していた父親に、誇れる強さを持ちたかったから……

 

「茶番だな」

 

全てを否定する凍てつく様な声が、スタジアムの中に響く。

 

スタジアムの中心にその声の人物は佇んでいた。

 

灰色の身体を持つ異形の存在。

 

その異形が右手を修司の居る方向へとかざす。

 

「う……う、うわああああああああああああああああ!?」

 

直後として苦しみ始める修司。

 

「お、おい大丈夫か!?」

 

目の前で苦しみ始めた修司を鳥羽が心配して、落ち着かせようと肩に触れようとするのだが、修司は苦しみながらその手を力任せに振り解かれてしまう。

 

修司の全身は銀色の光へと包み込まれ、馬を彷彿とさせるホルダーへと変貌を果たす。

 

「お前の憎しみはそんなものでは無いだろう?全てを壊せ!何もかも残さず壊してしまえ!!!」

 

灰色の怪人、メルトの言葉に従い、己の理性を失ったホルダーが一番近くに居た鳥羽へと襲い掛かる。

 

「くそっ!誰だか知らないが余計な事をしてくれたな!?」

 

鳥羽はホルダーの繰り出す拳を捌きながらバックステップで距離を置く。

 

その終着地点はサイドアクセラーの真横。

 

其処まで辿り着いた鳥羽は素早くサイドカーの部分へと手を伸ばして、座席に置いてあったアタッシュケースを掴み取り、素早く中に収納されているベルトを取り出して自身の腹部へ巻きつける。

 

そしてポケットから取り出したエレメントカードが収納されたカードケースを片手に、力ある言葉を叫ぶ。

 

「変身!」

 

『アクセス・リンク』

 

機械的な音声がベルトから響き、鳥羽の身体の前方に、光が様々な数式が羅列された様な状態で浮かび上がりその光が瞬時に人の形へと編みあがり、鳥羽の身体と重なり合い一人の戦士へとその姿を変える。

 

「うをおおおおおおおおおお!」

 

アクセスへと変身を遂げると、その勢いのままホルダーの下へと駆け出しスタジアムに響き渡る程の叫びと共に拳を繰り出す。

 

「新たなライダーか……その力、試させてもらおうか!」

 

ホルダーとの戦闘を開始したアクセスに対して、メルトは高らかに宣言すると、右手に構えた銃の標準をアクセスに定めて引き金を引こうとするのだが、それよりも一瞬早く、横から飛び出した黒い陰がその銃を叩き落とした。

 

「お、お前は!?」

 

自身の邪魔をした黒い影の正体を目撃したメルトが驚愕の声を上げる。

 

その正体は、メタルブラックのボディーを持ち赤い二つの複眼が大きな存在感を放つ、この海鳴市を守る一人の戦士の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか間に合ったな」

 

『うむ』

 

俺は目の前に居るメルトに注意を払いながら、ベルトの状態となって腹部に巻き付いているメカ犬に話し掛ける。

 

二人がレースを開始する直前、観客席にメカ犬が到着した。

 

どうやら俺が連絡をするまでも無く、ホルダー反応を察知したメカ犬は自ら此方へとやって来てくれたそうなのだ。

 

其処で俺はメカ犬から新たな情報を聞かされた。

 

メカ犬が言うには、このスタジアムの中には、ホルダー反応が二つあるらしいのだ。

 

間違い無く最初の一体は、鳥羽さんと勝負を始めようとする修司さんで間違い無いだろう。

 

ならばもう一体は何処かに潜んでいる可能性が高い。

 

そう考えた俺達は、一旦観客席から離れて、何時でも動ける様に用心していたのだが、案の定だった様だ。

 

「メルト!今回のホルダーもお前の仕業だな!!!」

 

俺は修司さんをホルダーに変えた首謀者であろうメルトに対して、構えを取りながら確認を取る。

 

「……ふん。中々の逸材だったからな。もう少し観察を続けたかったが仕方が無い」

 

悪びれる様子も無く、俺の質問にメルトは返事を返すと、両手に幾つもの藍色の球体を持って、無造作に地面へとばら撒いた。

 

「私はこのまま退散させてもらおう」

 

大量のホルダーモドキを生み出したメルトは、俺に背を向けて歩き出す。

 

「待て!」

 

俺は襲い掛かるホルダーモドキ達と戦いながら叫ぶ。

 

そんな事で待つ奴が居る訳は無いのは分かっているが、叫ばずには居られなかった。

 

だがメルトはそんな考えの裏を読むかのように足を止めると、一度だけ振り向く。

 

「そう言えば以前、【闇】を止める事が出来ればヒントをくれてやると言ったな」

 

思い出した様に語りだすメルト。

 

恐らくは例の地下水路の時に交わした一方的な約束の事だろう。

 

「世界は幾重にも重なっている……だがその真実は更にその奥にある」

 

『一体どういう意味だ!?』

 

メルトが語ったヒントと思わしき言葉に、メカ犬がその真意を問い質す。

 

「ヒントはここまでだ。後は自分達で考える事だな」

 

だがそれ以上の答えは返って来る事も無く、メルトは再び背を向けると今度こそサーキットからその姿を消してしまった。

 

『重なる世界と……その奥にある真実……』

 

「メカ犬!考え込むのは後にして、今はこいつ等を倒そう!」

 

メカ犬と同様に俺もメルトの言葉は気になったが、気持ちを切り替えて、ホルダーモドキ達との戦いに集中する。

 

『うむ!』

 

俺はメカ犬の返事を耳にしながら、此方へと迫り来るホルダーモドキ達に対して応戦する体勢を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グランドリンク』

 

アクセスがカードケースから取り出したブラウン色の背景に大きな岩が描かれたカードを、ベルトの右側のスリッドへとスライドさせる事で、新たな効果が発動する。

 

「これでどうだ!」

 

その叫びと共に、アクセスが右手を地面に押し当てると、大地が隆起してホルダーへと襲い掛かっていく。

 

グランドのカードは、アクア、フレアと同じく自然の力を操る為のデータが内包されている。

 

文字通りその力は大地を司っており、この力を行使する事でアクセスは周囲の大地の形状を自在に操る事が出来るのだ。

 

だがホルダーも一筋縄では行かず、素早く近くに止めてあったバイクに跨ると、なんと自ら迫り来る隆起する大地に特攻を仕掛けたのだ。

 

更にホルダーはバイクの前輪を巧みに操り隆起する部分の高低差の存在する場所へ押し込み、ジャンプ台の要領で高く跳躍して、アクセスに渾身の体当たりを決める。

 

「ぐわ!?」

 

あまりにも予想外な反撃に対して、アクセスの対応も間に合わず、体当たりを喰らったアクセスは後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「鳥羽君!サイドアクセラーを使いたまえ」

 

その直後、観客席から今まで事態を静観していた森沢教授が声を張り上げた。

 

「……やってみるか!」

 

丁度アクセスが飛ばされた場所が、サイドアクセラーの近くだったという事も幸いしたのだろう。

 

アクセスは自らに気合を入れると、すぐさまサイドアクセラーに跨り、アクセルを回す。

 

唸るエンジン音と共に、疾風の如く駆け抜けて、アクセスは迫り来るホルダーへと一騎打ちを挑む。

 

「今だ!」

 

十分にホルダーを引き付けた所で、アクセスがタイミングを見計らいサイドアクセラーに取り付けられた他のバイクには存在しない用途不明なボタンを押す。

 

『サイドアタッカー』

 

ボタンを押す事によって、サイドアクセラーから電子音声が鳴り響き、驚愕の変化を開始する。

 

サイドカーの部分の溝が幾重にも分かれると、其処までその位置にあった各部分が全く別の用途のパーツへと変形して新たな形を織り成していく。

 

鋼の手足と、黒いバイザーが特徴的な頭部。

 

その姿は、誰が見ても人の形を模した人口の存在。

 

機械仕掛けのその姿を人はロボットと称するだろう。

 

ロボットとなったサイドカー部分は、そのままアクセスが操る本体と分離すると、大きく跳躍して特攻を仕掛けるホルダーの胸部にドロップキックを決める。

 

全く予想だにする事も出来ないその一撃を、ホルダーに避ける術は無く、ホルダーは乗っていたバイクから転落して地面を転がっていく。

 

「さあ、これで終わりにするぜ!」

 

サイドアクセラーを止めて、地面にうずくまるホルダーを前にしたアクセスは、カードケースからこの戦いを終局へと導く一枚のカードを取り出しながら宣言する。

 

『リンクチャージ』

 

アクセスの右足が描かれたカードをベルトのスリッドへとスライドさせる事で電子音声が辺りに鳴り響き、スライドさせたカードが光となって飛散してから間も無くして、緑色の光がアクセスの右足へと集約されていく。

 

その場から飛び上がり光を纏った右足を突き出して、アクセスはホルダーに最大の一撃を放つ。

 

「ライダーキック!」

 

アクセスの一撃を受けたホルダーは大きな爆発と共に、暴走プログラムと分離して、素体となっていた高田修司は本来の姿を取り戻した。

 

「……これで少しだけ、貴方に恩返しが出来た」

 

全てを見届けた後、アクセスはほんの一瞬だけ観客席を一瞥して静かに呟く。

 

その言葉が届いたかどうかは定かでは無いが、その観客席に居た一人の男性の瞳には心からの感謝の念が宿っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの歓声に包まれた海鳴スタジアムの中において人気が殆ど無い影となっている場所で、一人の少年が泣いていた。

 

その少年は悲しみと後悔、そして怒りをその小さな心に抱え込みながら涙を流し続ける。

 

自身の無力さに、家族を心配させているという己の弱さへの嫌悪、幼い心では受け止めきれない負の感情が少年の心を容赦無く痛め続けるのだ。

 

「どうしたんだ?」

 

そんな折、少年に一人の男性が声を掛けてきた。

 

男性の声に気付いた少年が、俯いていた顔を上げる。

 

少年の瞳に映り込んだ男性は、左足が不自由なのか、松葉杖を片手に少年に微笑みかけていた。

 

二人は多くの事を語りあった。

 

何故少年がこんな場所で泣いていたのか、それに対して男性は真摯に話を聴きながら、自らの事も語ってくれた……

 

やがて別れの時間が訪れた二人は夕暮れを背中に別れの言葉を交わす。

 

そして背を向けた少年に、男性は最後に声を掛けた。

 

「人間は生きてる内に何度と無く壁にぶち当たる。その度に焦ったり恐怖したりするだろう……だから強くなれ。他の誰でもない。自分に負けない強さを持て。そうすれば君は誰よりも強くなれるさ」

 

眩い夕日を背にそんな言葉を送ってくれた男性に、少年は悲しみとは違う、暖かな感情を伴う涙が頬を伝い流れ落ちた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。