魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
『心の準備は良いかマスター?』
「……ああ」
俺の意思を再確認するメカ犬に、俺は静かに頷いた。
『もう一度言っておくが、マスターが決めた事ならば、ワタシは反対しない。そしてどの様な結果になったとしても、ワタシはマスターの味方だ。それだけは忘れないでくれ』
「ありがとう。メカ犬……でも俺は大丈夫だからさ」
メカ犬に勇気付けられながら、俺は再び強い覚悟を己の胸に宿して、隣で不安そうに俺を見詰めるアリシアちゃんに笑顔を見せる。
今俺達が居るのはアバレンジャーの世界でも無ければ、デンライナーの食堂車両でも無い。
俺が住み慣れた海鳴市の住宅街の一角に建つ、板橋という俺と同じ苗字のプレートが掲げられた我が家の玄関前である。
「純お兄ちゃん……本当に良いの?私の為にこんな……」
「大丈夫だって言ったよね。それに何時かは話さないといけない日が来るって事は、俺にも初めから分かってたんだ。ただそれが今日だったってだけで、アリシアちゃんが気に病む事は無いよ」
少しでもアリシアちゃんの不安を払拭させようと、俺はアリシアちゃんの頭を軽く撫でながら少しだけ前の出来事を思い出していた。
メアに対してアリシアちゃんを守り続けると誓いを立ててから程なくして、その様子を見守っていた一人……仲代さんの身体が光の粒子に包まれていき、徐々にその輪郭を失い始めたのである。
元々仲代さんは、メアの能力によって一時的に蘇っただけであり、その効力が失われれば当然その姿を維持する事は出来ない。
別れを惜しむアバレンジャーの皆に笑いながら気にするなと声を掛けた後、仲代さんは消える直前に俺に向かって一言だけ告げて俺達の前から去って行った。
「……信じろ……か」
仲代さんが俺に言った言葉をそのまま呟く。
一体何を信じれば良いのか、そんな説明は一言も無かった。
だけど俺にその言葉を送った意味を考えた結果として、俺は今この場所に居る。
メアと誓いを立てた事を無かった事には出来ないし、するつもりも無い。
ならば俺が選ぶべき道は、自ずと限られてくる。
それでも躊躇ってしまう程の不安を、自身の覚悟によって押さえ付けながら、俺は玄関の扉を開ける。
「ただいま」
現在は空が茜色に染まろうという時刻の為だろうか、扉を開けた瞬間に母さんが準備を進めているのであろう食欲をそそる夕食の良い匂いが、俺の鼻腔を擽る。
その匂いによって、俺は日常に戻ってきたのだと安心すると同時に、これからその日常を他の誰でもない、俺自身の手で壊してしまうのでは無いかという、言い様の無い不安に駆られた。
「お帰りなさい純。それにメカ犬ちゃんも。あら、お隣の女の子は新しいお友達?」
そんな俺の考えなど露知らず、何時も通りに笑顔で出迎えてくれたエプロン姿の母さんが、隣に居たアリシアちゃんを興味深そうに見詰める。
「えっと……その事も含めて、色々話したい事があるんだ。父さんは……もう帰って来てるよね?」
大体夕飯時には父さんは会社から帰って来るし、足元には父さんが通勤の際に、何時も履いていく革靴もあるので、帰宅後に散歩にでも行ってなければ、家に居る事は確実だろう。
「ええ。お父さんならリビングでテレビを視てるわよ?」
案の定俺の質問に対して、母さんから予測通りの返答が帰って来る。
「そっか……多分長い話になると思うから、母さんもリビングで父さんと一緒に俺の話を聞いてよ」
「お話は聞いてあげたいけど、まだお料理の途中なのよ。作り終わってからでも良い?」
「……ごめん。出来るだけ早く話したい事なんだ」
俺と母さんがそのまま視線を交わし続けてから数秒後。
「ふう……分かったわ。火の元だけもう一度確認して来るから、純達は先にリビングに行っていなさい」
何を言っても俺が頑なに態度を変えるつもりが無いと気付いたのか、母さんは軽く息を吐き出してから、何時も通りの温和な笑顔で言うと、先程の宣言通りに足早にキッチンへと向かって行った。
その母さんの背中を見送ってから、俺がメカ犬と共にアリシアちゃんを招き入れてリビングに行くと、母さんが言った通り、部屋着でテレビを視聴しながら寛いでいた父さんと目が合う。
「ただいま。父さん」
「おお、お帰り純。それにメカ犬君も……ん?そこの金髪の子は初めて会うけど、学校のお友達かな?」
「それについて純からお話があるんですって」
父さんの質問に一番に答えたのは、キッチンから戻ってきた母さんだった。
火の元を確認するついでにお茶の準備もして来たのか、母さんが手にしているトレーの上には、四つのカップと一本の単三電池……
母さんらしい気配りだとは言えるが、流石に話の最中にメカ犬が乾電池を用いて放電現状を起こすのは勘弁していただきたいので、やんわりと電池だけは下げてもらった。
この場に居る全員が俺の話を聞く体勢になった事を確認しつつ、俺は一度だけ深呼吸をして己の気持ちを落ち着かせながら、話を切り出す為の第一声を口にする。
「……実は俺……仮面ライダーなんだ」
この言葉に驚きながらも、話を聞く体勢を維持してくれた父さんと母さんに、俺は淡々と話を続けていく。
メカ犬と出会い仮面ライダーとなった事。
海鳴市で多くのホルダー達と繰り広げた激戦。
アリシアちゃんとの出会いと、そしてデンライナーで時間と世界を超えて経験したまるで絵空事の様な物語を……
俺が全てを話し終える頃には、夕闇に染まっていた空もすっかり暗くなり本格的に夜と言って良い時間となる。
「……そうか」
全ての話を聞き終えた後、父さんがゆっくりと口を開く。
「驚かないんだね?」
自分で言うのも何だが、あまりにも突拍子も無い話をしたという自覚があるだけに、この淡白とも言える反応は予想外だった。
父さんと母さんの性格から、いきなり取り乱したり、子供の嘘だと一蹴する事はしないと思っていたが、証拠を見せろといった類の要求はして来ると思ったのだが……
「純が何かを隠してるって事は前から分かっていたわよ……流石に仮面ライダーだったとは思わなかったけどね」
更に母さんが俺の考えを透かしたかの様に、苦笑いを浮かべながら答える。
『今まで黙っていて本当に申し訳ない。マスターは御二方の大事な御子息だと知っていながらワタシは危険な戦いにマスターを無理矢理に巻き込んでしまった』
メカ犬が父さんと母さんに対して、深々と頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
それは断じて違う。
俺が戦うと決めたのは他の誰でもない、自分の意思だった。
メカ犬は俺に対してただ目の前の事実を伝えるだけで、最後まで俺に戦う事を強要する事だけはしなかった筈だ。
このままメカ犬だけを矢面に立たせる訳には行かないと、俺がメカ犬を弁護しようとしたその時である。
「ああ、分かっているさ。メカ犬君はそんな事をする奴じゃない」
「そうね。きっとそれを選んだのは純でしょうね」
だが俺が弁護するよりも早く、父さんと母さんはまるでその現場を見てきたかの様に真実を言い当てる。
「……どうして?」
「あら、それ位分かるわよ。伊達に何年も純の親はやっていないもの!」
全身に疑問符を乗せた様な表情をしているだろう俺を心外だと感じたのか、母さんが軽く自分の胸を張りながら誇らしく答える。
「正直に言えば、自分の息子が……しかもまだこんなに幼いというのに、命賭けで戦い続ける事は反対だ!」
母さんが何時もの和やかな雰囲気を纏いながら話すのとは逆に、父さんは強く否定の言葉を口にした。
それは半ば予想していた事だ。
自分の子供が、訳の分からない怪物と影で命賭けで戦っていると知れば、親ならばまず反対するだろう。
それが分かっているこそ俺は、今まで自分が仮面ライダーだという事を父さん達に話さずに来た……
「でも、それでも俺は……」
仮面ライダーとして戦う事を止める気は無いと言おうとしたその時。
「……反対だが、そう言ったとしても純が戦いを止めようとしないって事も良く分かっているよ」
「そうなのよね。普段は情けない位に弱気になったりするのに、ここぞって言う時は何があっても絶対に引き下がらないんだもの」
俺の言葉を遮り出てきた二人の言葉は、またしても先程の言葉とは真逆に位置するものだった。
「え?」
思わず声を上げた俺に、父さんと母さんの優しげな視線が合わさる。
「今まで純は、僕達にわがままを言うなんて事が無かったけど、それは親としてはとても寂しい事なんだよ」
「だからお父さんと二人で決めていたの。純が私達に初めてわがままを言った時は、どんな事でも聞いてあげようって。それに……」
父さんに続き母さんは俺に語りかけた後、これまでの会話を黙って見守り続けていたアリシアちゃんに視線を向ける。
「あなたのお名前は確か……アリシアちゃんだったわよね?」
「は、はい……アリシア・テスタロッサで!?」
話し掛けられたアリシアちゃんが自己紹介を終えるよりも早く、母さんがアリシアちゃんの小さな身体を優しく包み込む様に抱き寄せた。
「こんなに小さいのに……今まで沢山頑張って来たのよね」
母さんはアリシアちゃんを抱きしめたまま、そっとアリシアちゃんの頭へと手を添える。
「今すぐにって訳には行かないかも知れないし、戸惑う事も多いかも知れない……でも私はアリシアちゃんが望んでくれるなら、本当の家族になりたい」
優しく語り掛ける母さんに、アリシアちゃんが声を震わせながら答える。
「本当に……良いんですか?」
「ええ」
「迷惑じゃ……ないんですか?」
「ええ」
「わ、私と家族に……純……お兄ちゃんと……ずっと一緒にいても……良いんですか?」
「ええ」
母さんの返答を聞く度に、アリシアちゃんの声はその震えを増していき、最後にはその瞳から涙を零した。
その涙は悲しみから来るものでは無いという事を、この場に居た誰もが知っている。
「あ、ありがとう……ありがとうございます……」
泣きながらアリシアちゃんも母さんへと泣き付きながら、感謝の言葉を何度も口にする。
「これで良かったんだよな……メア」
俺はその光景を温かく見守りながら、この光景を誰よりも望んでいた者に対して質問を投げ掛ける。
「……はい。本当に……良かった……です」
そう涙を流しながら俺の問いに返答したのは、メカ犬並みの手乗りサイズとなってしまったメアだった。
驚くべき事なのだが、メアは元来持っていた力の殆どを失う代わりに、その存在をこの世界に留めたのである。
オーナーの話によれば、契約者であるアリシアちゃんの存在が俺の居る世界に固定された事と、二人の強い絆がその存在を強固なものへと変貌させたらしい。
当人であるアリシアちゃんとメアによると、二人は契約をした覚えが無いと言っていたが、俺にはそうは思えなかった。
きっと二人は友情という名の、固い契約で結ばれていたのだから……
『本当に良かったな』
「ああ……俺も涙が止まらねえぜ!」
俺と同様に、暖かくこの光景を見守っていたメカ犬に、モモさんがハンカチを片手に同意を示して……ん!?
「な、何でモモさんがここに!?」
あまりにも自然にこの場所に溶け込んでいたモモさんに俺が突っ込みを入れると、モモさんは涙をハンカチで拭きながら、親指で後ろを示す。
指し示す方向には、このリビングと廊下を繋ぐ扉が一枚あるだけの筈なのだが、その扉の向こうには廊下ではなくデンライナーの出入り口へと変貌を遂げていた。
更にその扉の隙間からは、良太郎君を初めとするデンライナーの面々と、アバレンジャーの皆さんまで事の経緯を見守っている。
「ぷっ……あははははは!!!」
俺は堪え切れずに笑い出してしまった。
それと同時に、仲代さんが最後に言っていた信じろという言葉を思い出す。
どんな事も上手く行くなんて都合の良い話は、当然ながら無いだろう。
でも信じて努力すれば、最後まで諦めずに貫き通したならば、それは最高の形で叶う事もあるのかも知れない。
今のアリシアちゃんとメア……そして俺達だってそんな奇跡の連続の上に成り立っているのだから。
「そんなところに居ないで、皆さんもこっちに来て下さいよ!」
俺はデンライナーから此方の様子を伺っている皆を呼んで、父さんと母さんに紹介していく。
その日は、板橋家に増えた家族を祝って、大宴会が開催された事を、俺は一生忘れる事は無いだろう。
あの大宴会から数日が経った後の朝。
俺はそわそわと落ち着かない状態で、学校の教室で椅子に座りながら先生の話を聞いていた。
そして先生の説明が終わると同時に、教室の扉が開かれて二つに結い分けた金髪を靡かせながら一人の女の子が颯爽と登場して、笑顔で自己紹介を始める。
「皆さん初めまして。板橋アリシアです!」
今日も海鳴は平和だが、俺の周りで少しだけ変化があった。
……それは俺のクラスに同い年の妹がやって来た事だ!
完