魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第37話 エンジェルボイス【前編】

赤や青の彩り豊かなレーザーライトが、白いスモークを裂き、舞台を艶やかに演出する。

 

その舞台に注目する観客席には、満席で五千人を遥かに超える人数が集まり、舞台の上に注目していた。

 

【「皆お待たせええええええええええ!!!」】

 

突如として舞台の上に現れた白いフリルを全身にあしらった衣装を身に纏う一人の少女。

 

長く腰まで届きく黒いストレートの髪を靡かせながら、端正な顔立ちに薄く施された化粧が、舞台のライトによって更に際立たされ、少女の声が舞台から右手に持ったマイクを通して、大音量で観客席全域へと流れる。

 

その少女の声を耳にした観客全員が、同時に熱狂し歓声を上げた。

 

【「今日は私のライブに来てくれてありがとう!皆最後まで楽しんでいってね!」】

 

多くの歓声に少女が応えると、それを合図とするかの様に、軽快な音楽が流れ出す。

 

【「まずは一曲目!傷だらけのヒーロー!」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嬉しそうね長谷川君?」

 

「え、やっぱり分かりますか!」

 

恵美さんの半ば呆れた感じの言い方を気にも留めずに、長谷川さんは心ここにあらずといった惚けた笑顔を浮かべながら応えた。

 

長谷川さんには悪いが、先程からの言動は恵美さんだけでなく、傍から見ている俺も正直気持ち悪いなと思う。

 

この二人が土曜日のお昼過ぎに翠屋に少し遅めの昼食を取りに来るというのは、差ほど珍しい事では無いのだが、長谷川さんの様子がいつもと違い過ぎる。

 

「……何だか嬉しそうですけど、良い事でもあったんですか?長谷川さん」

 

俺は注文の品をテーブルの上に並べつつ、営業スマイルで聞いてみる事にした。

 

お昼のピークを過ぎて、お客さんの数も少なくなったので軽い世間話でもと思っての発言だったのだが、どうやら俺のした質問は生半可な覚悟でしてはいけない危険なワードだったらしい。

 

傍に居た恵美さんが何やら苦い薬でも飲んだ様な顔で、俺を見てきたと直後、俺の両肩が思い切り掴まれる。

 

俺の両肩を掴んできたのは、当然目の前に居た長谷川さんだ。

 

「良く聞いてくれたね!!!」

 

「は、はい!?」

 

普段の物静かな雰囲気など微塵も感じさせないハイテンションの長谷川さんに、俺の声も思わず動揺によって上擦ってしまう。

 

「覚悟した方が良いわよ。今の長谷川君は話し始めたら止まらないから……」

 

更に俺と長谷川さんのやり取りを見ていた恵美さんが、俺に哀れみの視線を送りながら嫌な予感ばかりを募らせる助言をくれた。

 

「板橋君は月島《つきしま》キララさんを知ってるかな」

 

「月島キララって……あのアイドルの月島キララですか?」

 

俺の返答に長谷川さんが満足気に頷く。

 

月島キララとは、今の日本の若者で知らない人は殆ど居ないのではないかと言われている人気アイドルである。

 

特に彼女の歌声は熱狂的なファンからはエンジェルボイスなどと呼ばれているらしい。

 

少し天使の声なんて少し大袈裟な言い方な気もするが、実際に彼女の歌を聞いてみると、あながちこの例えも間違いでは無いと思えてくる程に素晴らしい歌だ。

 

多分というか、もう確実に先程からの言動から見て、長谷川さんも月島キララの熱狂的なファンの一人なのだろう。

 

俺は長谷川さんによる月島キララの何処が素晴らしいかについての口上を、右の耳から左の耳へと聞き流しながら確信した。

 

「あの、長谷川さんが月島キララの大ファンだって事は良く分かったんですけど、どうして長谷川さんが喜んでるんですか?」

 

かれこれ5分ほど長谷川さんの話を聞き続けたが、一向に話が終わる気配も無かった為に、嬉々として話す長谷川さんとは対照的に隣で疲れた表情の恵美にこっそりと話を振ってみる。

 

「……本当は一般人に話しちゃいけない情報なんだけど……まあ、君はお姉ちゃんの仕事も手伝ってるからホルダーの事も知ってるし良いかな?」

 

恵美さんは俺を見ながら少し考える素振りをしつつ、答えを出すが何気に出した答えは本来ならばそんなに簡単に話して良い事ではないのでは無いだろうか?

 

だが恵美さんはそんな俺の考えを他所に、話し始めてしまう。

 

「実はさっきから長谷川君が話している月島キララが所属している芸能プロダクションから、警察に通報があったのよ。月島キララが脅迫されているから、犯人を捕まえてほしいってね」

 

「脅迫事件って事ですか?」

 

「ええ、ついでに犯人を捕まえるまでの間、明日から私達が月島キララの周辺を護衛する事になったって訳」

 

「……だから長谷川さんがあんなに喜んでるんですか」

 

「まさか長谷川君がアイドルオタクだったとは、私も思わなかったわよ」

 

恵美さんの話によると長谷川さんも脅迫事件に関しては憤慨しているらしいが、やはりそれ以上に憧れのアイドルと直接会えるという喜びの方が大きいらしく、ずっとこんな調子らしい……

 

まあ、長谷川さんの話は取り敢えず置いておくとして、月島キララがプライベートではどんな人物なのか、俺には知る由も無いが、有名になればそれはそれで大変なんだなと思う一方、何故その話が恵美さん達に関係してくるのだろうかという疑問が俺の脳裏に浮上する。

 

「でも恵美さんと長谷川さんは確かホルダー特務課でしたよね。普通は管轄する部署が違うんじゃないんですか?」

 

「まあ、本当は君の言う通り私達の管轄じゃないんだけどね」

 

恵美さんは俺の疑問に頷きながら、意味深な笑みを浮かべた。

 

「問題は犯人が普通じゃないかもしれないって事なの」

 

「それってまさか!?」

 

「まだ確証は無いんだけど、脅迫している相手はただの人間じゃないかもしれないって証言が幾つも出ているのよ」

 

本来ならば管轄の違う筈の恵美さん達が月島キララの護衛に当たるという事と、先程言っていた脅迫してきた犯人が人間ではないかも知れないという話から予想出来る可能性は一つ。

 

「もしかしてホルダーが月島キララを脅迫している犯人何ですか?」

 

「さっきも言ったけど、まだ確証は無いのよ。でも事務所の近くや月島キララが仕事をしている現場なんかで、人間とは明らかに違う影を見たって話や、怪物を見たって話が多いのと、その目撃証言があった場所に必ず同じ内容の脅迫文が置いてあったから、犯人はホルダーの可能性が高いだろうって上が判断したんでしょう」

 

最後に恵美さんは、そうでなければ私達にアイドルの護衛なんて仕事が回ってくる筈がないわよ、と締め括ると未だ月島キララの説明に熱を入れる長谷川さんの頭上にチョップを叩き込んで黙らせると、食事を再開させる。

 

俺はその光景に苦笑いを浮かべながら、トレーを片手に一礼してこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を歩けば必ずと言って良い程に聞こえてくる歌声……

 

巷ではエンジェルボイスなどと騒がれているらしいが、こんなのは歌じゃない。

 

ただの迷惑な騒音だ。

 

歌とはもっと深遠で奥深きものでなければならない筈なのに、その事実を誰も分かろうとせず、ただの騒音を持て囃す……

 

こんな世の中は間違っている。

 

だからこそ間違いは誰かが正さなければならないのだ。

 

そして正しき歌を守り、今一度この世界に広める事が出来るのは自分を置いて他に居ない。

 

この力させあればそれが可能だ。

 

あの方から頂いた、この素晴らしい力さえあれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月島キララが所属する事務所は、設立されてから日が浅く、所属する芸能人も殆どが若手で構成されており、その中で月島キララは一番の稼ぎ頭と言えた。

 

現役の女子高生でありながら、世間に高い歌唱力を評価され、見栄えのする容姿も相まって彼女は一気にトップアイドルへと伸上がって行ったのである。

 

だがそんな彼女にも一つだけ大きな問題があった……

 

「それでマネージャー……警察から来た私の護衛って、この冴えないオジサンと白衣なんて羽織った痛い感じの中学生なの?」

 

「オ、オジサン!?」

 

「痛いってどういう意味よ……」

 

出会い頭に告げられた言い草に、驚愕の声と苛立ちを抑えきれない呟きが返される。

 

ここは月島キララが所属する事務所の一室で、この場に居るのは月島キララ本人とそのマネージャー。

 

月島キララの護衛を引き受ける事となったホルダー特務課の恵美と長谷川の四人だった。

 

そして信じ難い事実であるが、先程の恵美と長谷川に傍若無人な台詞を言った人物が、月島キララ本人である。

 

「キ、キララちゃ~ん!?そんな事言わないで!この人達は最近噂になってる怪物の専門家の人達なんだから失礼な事を言っちゃ駄目よお!」

 

月島キララのマネージャーは細い銀のフレームのメガネを掛けた細身の男性だが、その立ち振る舞いは誰が見ても、新宿二丁目に多く居そうな方々のそれだった。

 

マネージャーは大袈裟なオーバーリアクションと共に長谷川達と月島キララを交互に見ながら窘めるが、当の本人は反省するどころか、面倒臭そうに舌打ちをして部屋を出て行こうとする。

 

「ちょ、ちょっとキララちゃん何処に行くのよう!?もうすぐ次のお仕事もあるのよ!?」

 

「トイレに行ってくるだけよ!」

 

慌てて止めようとするマネージャーに対して、月島キララは吐き捨てるように言い放ち、足早に部屋を出て行ってしまった。

 

「……何なのよあの態度!?」

 

月島キララが部屋を出て行ってから、最初に声を上げたのは恵美である。

 

「……冴えないオジサン……僕は……冴えないオジサン……」

 

憤慨する恵美の傍らで、憧れのアイドルである月島キララに冴えないオジサン呼ばわりされた長谷川は、そのショックから壊れたラジオの様に、同じ言葉を呪詛の如く呟き続けていた。

 

「あの、先程はキララちゃんが失礼しました。こんな事を言うのは差し出がましいと分かっているんですが、どうかキララちゃんの事は許して下さい。あの子にも……色々と事情があるんです」

 

マネージャーの言葉によって、恵美と長谷川の意識が、個人的な感情から警察の仕事へと切り替わる。

 

「事情ですか?」

 

「初対面の人間にあんなふてぶてしい態度を取るなんてどんな理由よ!?」

 

恵美と長谷川の疑問にマネージャーが答えようとしたその時。

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?」

 

絹を裂く様な悲鳴が、木霊した。

 

「今の悲鳴はキララちゃん!?」

 

先程の悲鳴の主が月島キララだと確信して部屋を飛び出したマネージャーに続き、恵美と長谷川も急いで後を追う様に走り出す。

 

部屋から出ると狭い廊下が続いており、窓際の近くにトイレの入り口が続いているという構造になっているのだが、三人が部屋を出た直後、その窓が無残にも破られる乾いた音が周囲に響き渡った。

 

窓を壊した張本人は彼ら三人の前に悠然と佇む。

 

その姿は明らかに普通の人間とは異なっていた。

 

大きな巨躯に全身を覆う鈍い銀の様な鋼の肉体と、頭部というよりは突出した鼻先にそびえる大きな一本の角。

 

もしも仮に人間とサイが融合したのならば、こんな姿になるのではないかと思える存在が確かに目の前に居たのだ。

 

ただでさえそんな異形の怪物が目の前に居れば大変だというのに、事態はそれだけでは収まらなかった。

 

「ちょっと!放しなさいよ!!!」

 

怪物の腕の中でもがく一人の少女が其処に居た。

 

「キララちゃん!?」

 

怪物に囚われた月島キララを前に驚愕の声を上げるマネージャー。

 

マネージャーの上げた声に反応した怪物は、脇目も振らずに月島キララを片手にそのまま自身が壊した窓から外へと逃走を図る。

 

「まさか本当にホルダーだったなんてね……長谷川君!」

 

「はい!!!」

 

外へ逃走した怪物、改めホルダーに対して辟易としながらも恵美は長谷川に呼び掛ける。

 

長谷川も恵美に話し掛けるよりも早く事務所の出口へと駆け出しており、短い返事を返すと共に、恵美の視界からは消えてしまう。

 

「あ、あの方だけで本当に大丈夫なんでしょうか!?」

 

ホルダーの後を追いかけて走り去った長谷川の背中を見送りながら、マネージャーが胸中に渦巻く自身の不安を、恵美に問い掛ける。

 

その問いに恵美は、笑顔で答えた。

 

「大丈夫よ。長谷川君はああ見えてやる時はやるんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放して!放しなさいよ!!!」

 

ホルダーに抱えられても尚、月島キララは大声を上げながら必死の抵抗を試みていた。

 

だが人とホルダーには、超えられない大きな力の差がある。

 

ホルダーにしてみれば、月島キララがどれだけ暴れたところで、意に介する事も無かった。

 

抱えられても尚暴れ続ける月島キララを無視して、ホルダーは街中を駆け抜けていく。

 

その光景を見た人々は、突如として現れた異形の存在にパニックに陥り、逃げ惑う。

 

そんな中、ホルダーが駆け抜けて来た後方から一台のバイクがサイレン音を響かせながら、猛スピードで迫って来ていた。

 

白と黒のツートンカラーの大型バイク、マシンドレッサーを駆るのは、メタルイエローのボディーを持つ一人の戦士。

 

仮面ライダーE2だ。

 

「恵美さん。目標を肉眼で確認出来ました。今のところはキララさんも無事みたいです」

 

[「了解!早く助けたいだろうけど、ここは慎重にね長谷川君」]

 

通信機越しに聞こえる恵美の言葉に頷きながら、E2は更にマシンドレッサーの速度を上げて、一気にホルダーを追い抜くと、急速に反転して止まり、行く手を遮った。

 

「お前に逃げ場は無い!早くその人を解放しろ!」

 

マシンドレッサーを降りながら腰のホルスターに収納された専用銃ESM01を素早く抜き放ったE2は、その銃口をホルダーに向けて、月島キララを解放する様に強い口調で言い放つ。

 

ホルダーは自らの進路を塞ぐE2を前に足を止めるが、それでも月島キララを解放する素振りは微塵として見せない。

 

「ふん。俺の要求さえ通ればこの女など、どうなっても構わんさ」

 

「要求?」

 

ホルダーの発した言葉に、E2がオウム返しに聞き返す。

 

「や、やっぱりあんたがあの脅迫状の犯人だったのね!?あんな要求呑める筈が無いでしょ!?」

 

逸早くホルダーの言葉に反応したのは、今もホルダーの胸中で必死に脱出しようともがく月島キララだった。

 

「本当にそうか?俺が要求したのは今直ぐ月島キララがアイドルを辞めて、生涯歌うなという簡単なものだった筈なのだがな」

 

「だからそんな事出来る訳ないでしょ!!!私にとって歌は自分の命よりも大事なんだからね!!!」

 

何でも無い事の様に言ったホルダーに対して、月島キララは激怒する。

 

「ならばその気になってもらうまで少し痛い目に遭ってもらうだけだ」

 

「えっ!?」

 

だがこの発言が、彼女自身を更なる窮地へと陥らせる結果となってしまう。

 

ホルダーは月島キララの背中を掴むと、まるで砲丸投げの要領で投擲してしまったのである。

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

突然の事態と、この先に自らを待ち受けるであろう結果の恐怖により、月島キララ再び悲痛な叫び声を上げる。

 

しかしその悲惨な結果が訪れる事は無かった。

 

[「ギリギリセーフってところかしらね」]

 

「はい!」

 

月島キララの頭上から、聞き覚えのある二つの声が降り注ぐ。

 

改めて自らの状況を確認すると、自分は地面に叩き付けられるよりも30cm程上の空中で静止していたのだ。

 

いや、正確には瞬間的に彼女がそう感じただけで、実際には何か硬い物が自身の背中を掴んでいたのだという事を理解する。

 

それはE2の腕だった。

 

E2は月島キララがホルダーに投げ飛ばされると同時に、その落下地点を恵美に予測してもらい先回りして、地面に激突する前に見事キャッチし、最悪の事態を脱したのである。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え、ええ……」

 

出来るだけ慎重に降ろした後、安否を確認するE2に月島キララはまだ若干の動揺をしながらも何とか応えた。

 

「良かった……後は僕に任せて、キララさんは後ろに下がっててください」

 

「その声って……もしかしてさっきのオジサンなの?」

 

E2は月島キララを後ろに下がらせながら、返事をする事無く背を向けてホルダーへと駆け出して行った。

 

「流石は噂の仮面ライダーだ!ナイスキャッチとでも言っておこうか?」

 

一連の流れを終始見ていたホルダーは軽く両手を合わせながら、E2に賛辞の言葉を送るが、この現状を作り出した張本人がするのでは、それは皮肉にしかならない。

 

「ふざけるな!一歩間違えれば取り返しのつかない事になっていたかもしれないんだぞ!?」

 

E2はホルダーのふざけた態度に激昂するが、ホルダーは反省の色を欠片も見せる事はしなかった。

 

「それならそれで、俺の目的は果たされるからそれで良いさ。まあ、俺もどちらかというと平和主義なんでな。出来れば手荒な真似はしたくないんだが……俺の頼みを聞けないって言うのなら少し痛い目にあって貰うしかないだろう?」

 

「そんな事が許される訳が無いだろう!」

 

月島キララという人質を手放したホルダーに対して、E2は容赦無くESM01の引き金を引く。

 

「おっと!」

 

銃口から放たれた銀の光を帯びた数発の弾丸を、その体型に似合わず俊敏な動きで回避したホルダーは、自らの鼻先の大きな角を前面に突き出して突進を仕掛ける。

 

「ふん!」

 

それに対してE2はESM01を握る右手とは逆の左手で、ホルダーの側面に触れながら、重心を変えて方向転換して、剥き出しとなったホルダーの背中へと銃弾の雨を浴びせ掛けた。

 

流石に背後からの連続攻撃を回避する事は出来ず、E2の攻撃をまともに喰らったホルダーは背中から着弾した際に生じた煙を天へと昇らせながら、後方へと吹き飛ばされていく。

 

何とか体勢を立て直そうと立ち上がるホルダーだったが、E2がそれを許す事など当然ながら皆無である。

 

「はあっ!」

 

よろめくホルダーに駆け寄ったE2は、ESM01のグリップの底部分を裏拳の要領で叩き込み、怯んだところを、鋭い蹴りの追撃によって後方へと下がらせた。

 

更に最後の仕上げとばかりに、再びESM01の銃弾の嵐が、ホルダーへと降り注ぐ。

 

「これで終わらせます!」

 

確実にホルダーにダメージを与えた事を確信したE2が、ホルダーに必殺の一撃を放つ準備に取り掛かろうとしたその時だ。

 

[「気を付けて長谷川君!謎の熱源が近くに来てる!?」]

 

通信機越しに聞こえてきた恵美の声がE2に届いた直後、E2の視界に白い光の球体が上空から出現して、ホルダーの体内へと吸収されてしまった。

 

「あれは!?」

 

その光景に驚くE2をよそに、光を吸収したホルダーの身体が眩い光を放ち、己の異形の肉体更に変化させていく。

 

この光の正体を知る者は、その名を【試練の光】と呼ぶが今の恵美とE2にはそれを知る術は無かった。

 

ただ一つ分かった事は、あの光によってホルダーが自分達の前で異質な変化を遂げたという事実だけだ。

 

「力が……力が漲るぞおおおおおおおおおおお!!!」

 

変化を遂げたホルダーは己の内側に流れる溢れんばかりの力に咆哮する。

 

先程までの巨躯な肉体に加えて、その上から全身にプレート状の鎧を身に纏った様なその風貌は、一見すると、古代に戦いを生業としていたグラディエーターを彷彿させた。

 

【「来るわよ長谷川君!」】

 

恵美が注意を促す頃には既にホルダーはE2目掛けて突進を仕掛けていた。

 

それに対して、E2もESM01による射撃によって足止めを図るが、ホルダーはその攻撃に構う事無く、先程以上の速さで突き進む。

 

「ぐっ!?」

 

何とか直撃だけは避けるが、それでもホルダーの突進の威力を殺し切る事は出来ず、E2の身体が後ろへと吹き飛ばされる。

 

「……凄い!……凄いぞ!!!この力さえあれば俺は……ぐっ!?」

 

自らの力に酔いしれるホルダーだったが、次の瞬間片膝を付いて蹲る。

 

確かにホルダーは試練の光によって、大きな力を得たのは揺ぎ無い事実だった。

 

だがそれ以上にE2との戦いで受けたダメージが回復した訳ではなく、現状では急激に高まった力を使いこなすだけの体力が残されていなかったのである。

 

「……口惜しいが、ここは一旦引かせてもらうしかないか!」

 

「ま、待て!」

 

戦いを放棄して逃げ出そうとするホルダーを追おうと、E2も身体を起こすが、先程のホルダーの突進によるダメージが予想以上に残っているのか、体勢を立て直した時にはホルダーは既にこの場から跡形も無く消え失せてしまっていた。

 

[「……お疲れ様長谷川君。取り敢えず後の事はこれから考える事にしましょう。一旦戻って来て」]

 

「……はい」

 

暫くして通信機から聞こえて来た恵美の声に頷くと、E2は先程までの戦いの終始を見ていた月島キララを改めて保護する為に歩き出した。

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