魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

147 / 233
第37話 エンジェルボイス【後編】

『南条輝明《なんじょうてるあき》。恐らくその男が、月島キララを襲ったホルダーの正体とみて間違い無いだろうな』

 

「ホルダーの正体の目星が付いたのは良かったけど、どうしてその南条って人はアイドルの月島キララを狙っているんだ?」

 

『詳しい理由までは分からないな。大体、正体が分かったのも街の動物が偶然にもホルダー化を解く南条の姿を目撃していたからだ。寧ろジャックにまでその情報が届いていた事の方が奇跡だとワタシは思うぞ』

 

メカ犬の言う事も尤もだ。

 

正直に言って、どうしてこの人がという謎は今でも心の中に根強く残ってはいるものの、ホルダーの正体が分かっただけでも、出来る対策は十分に増える。

 

「そんなところでこそこそと話ておらんで、早く会場に向かわぬか?」

 

俺とメカ犬の会話に突如として割り込んできたちょっと特徴的過ぎる日本語を操る銀髪の美少女は、シルバーライト島のお姫様でありながら、現在は分け合って同じ学校のクラスメートのエミリーちゃんだった。

 

「ごめん。エミリーちゃん。でも他の皆に聞かれる訳にもいかないからさ」

 

「まあ、ホルダー絡みの話をしていたんじゃろうとは想像付くがのう。あまりコソコソしておると、なのは達に怪しまれるぞ?フォローは我とアリシアに任せて、今は客として振舞った方が良いじゃろ」

 

「うん。その時は頼むよ」

 

唐突だが現在、俺達はとあるコンサート会場の入り口に来ている。

 

その理由を説明すると、話は翠屋で長谷川さん達に月島キララの護衛をするという話を聞いた日まで遡る。

 

あの話を聞いた後、俺とメカ犬は長谷川さん達を尾行していたのだ。

 

流石に事務所の中に俺が入る訳にもいかなかったので、メカ犬に様子を探ってもらう為に潜入してもらい、別行動になってしまったせいで、突如として現れたホルダーとの戦いには間に合わなくなってしまったが、それでも一つだけ分かった事があった。

 

今回のホルダーもE2との戦いの中で、試練の光の影響を受けたということだ。

 

お陰で事前にミルファに応援を要請出来たのは、不幸中の幸いと言って良いだろう。

 

なのでミルファもこの場には居ないが、会場外の何処かで待機している筈だ。

 

本当は俺とメカ犬も、ミルファと一緒に会場の外で待機する手筈だったのだが、コンサート会場は広い。

 

どんな経路でホルダーが来るのか分からない以上は、確実に現れるであろう会場の中に居た方が素早く対応出来る。

 

だがその舞台となるのは、今を輝く月島キララのコンサート会場だ。

 

警備は堅く、更に先日のホルダー襲撃も相まって密かに潜入するのは難しい。

 

どうするべきか俺達が悩んでいると、意外な答えを意外な人物が提示してくれた。

 

その人物はなんと今、俺の目の前に居るエミリーちゃんの専属の老執事、サバスチャンだったのである。

 

なんとサバスチャンは月島キララの公式ファンクラブの名誉会長という、裏の姿を持っていたのだ。

 

警察各所が、報道規制をしたにも関わらずどうやってか、月島キララがホルダーに狙われているという情報を手に入れたサバスチャンは、今回のコンサートのチケットを手に、俺達に月島キララを影から守って欲しいと頼み込んできた。

 

心の片隅でサバスチャンに歳を考えろと静かに突っ込みながらも、ありがたく俺はチケットを受け取った訳だが、その際に運悪く、チケットを受け取る現場をなのはちゃん達に目撃されてしまう。

 

今をときめく天下のアイドル、月島キララのコンサートチケット。

 

それを見て彼女達が、何も言わない訳が無い。

 

話はあれよあれよという間に進み、何時の間にかホルダーへの対策会議は、完全に月島キララのコンサートツアーとなってしまっていた。

 

『それにしても、月島キララは自分が狙われていると分かった上で、何故コンサートを中止しなかったのだろうな。大勢の人が来るのであれば、図らずとも自らホルダーを招き入れてしまう可能性が高いと理解しているだろうに……』

 

サバスチャンから貰ったチケットで会場内に入り、客席に座ってから暫くして、メカ犬が俺の耳元で静かに疑問を口にした。

 

「俺はアイドルじゃないし、月島キララ本人じゃないから、本当のところは分からないけどさ。きっと月島キララはこの会場の皆の為に、コンサートを中止にしなかったんじゃないかな?」

 

『会場の皆の為に……』

 

「ああ、この会場に来てるお客さん達は、皆、月島キララの歌を楽しみにしてるんだ」

 

そんな想いに応えたい。

 

もしも自ら望んで始めた何かが、誰かに期待されたとしたら、それをする力が自分にあるのだとしたら、きっと俺はそれに全力で応えると思う。

 

その人の為に……

 

そして何より自分に後悔しない為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり危ないわよ。今からでもコンサートを中止しましょうよキララちゃん!」

 

コンサート会場の控え室で、野太いオネエ系のマネージャーの声が響き渡る。

 

「クドイ!何度言ったってコンサートは中止する気わないわよ!それより少し喉が渇いちゃったから飲み物を買ってきてよ」

 

だが言われた本人である、月島キララは断固としてマネージャーの提案を跳ね除ける。

 

こうなってしまっては絶対に意見を曲げないということを知っているマネージャーは、大きな溜息を一つ吐くと分かったわ……お茶で良いわよねと言いながら控え室を出て行った。

 

「……貴女は本当にそれで良いのね?」

 

マネージャーが控え室を出て行った後、月島キララ以外にもう一人この控え室に居た人物、恵美が腕を組みながら質問を投げ掛ける。

 

「今更な質問ね。さっきも言ったけど私は意見を変えるつもりは無いわ。それよりも以外ね」

 

「何が?」

 

「警察のあんたが、私の我が儘を聞いてくれたってことよ。正直言ってあんたが一番にこのコンサートに出ることを止めようすると思ってたんだけど」

 

月島キララは、衣装のドレスの裾を指先で弄りながら、恵美の顔を覗き込む。

 

「貴女にとって歌はそれだけ大切なものなんでしょう?だったら私は止めはしない。ただそれを踏まえた上で貴女を全力で守りきる。ただそれだけよ」

 

「……そっか」

 

「まあ、そうは言っても長谷川君があれだけ強く言わなかったら、私だってこのコンサートの中止を勧めていたでしょうけどね」

 

「オジサンが?」

 

恵美の言葉に、月島キララは首を傾げる。

 

彼女の頭の中に浮かぶのは、この場には居ない人の良さそうな人柄の刑事の姿。

 

「長谷川君はね。貴女の歌のファンなんだそうよ。貴女の歌を多くの人が心待ちにしてるから、だけどそれ以上に貴女は歌うことが誰より好きだって、見ていて分かるからこんな理不尽なことで歌うこと止めさせちゃいけないんだって」

 

「そっか……オジサンがそんなことを言ってたんだ」

 

月島キララは瞳を閉じて、静かに心を落ち着ける。

 

再び瞳が開かれたとき、彼女の心に何も不安は無かった。

 

「キララちゃん。お茶を買ってきたわよ」

 

其処へマネージャーが買ってきたペットボトルのお茶を手に戻ってくると、月島キララはマネージャーから掻っ攫うように奪い取ると一気に飲み干してしまう。

 

「さあ、行くわよ! あんまり私のファンを待たせる訳には行かないしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席全体の証明が一気に落ちて、逆に色鮮やかなスポットライトとレーザービームが華麗にステージを彩る。

 

全ての観客の視線が集中する中、ステージ下から爆音と大量のスモッグを纏いながら、一人の少女が、煌びやかなドレスを身に纏い現れる。

 

その瞬間に観客席から盛大な拍手喝采が巻き起こった。

 

[「皆!今日は私のライブに来てくれてありがとう!」]

 

マイクを片手に、今日の主役、月島キララが観客達の声援に手を振りながら応える。

 

キ・ラ・ラ! キ・ラ・ラ! と沸き起こるエールと共に、会場のボルテージが更に増そうとしたその時……

 

[「言った筈だぞ月島キララ。アイドルを辞めろとな」]

 

会場に響く男性の声。

 

想定外の事態に、会場全体が俄かにざわめく中、ステージに一人の男性がマイクを片手に登場した。

 

「まさか……南条さんが」

 

月島キララはその男性の姿を見て、思わず声を上げた。

 

彼女の中に、まさかという憤りが生じる。

 

南条輝明は、日本を代表する有名な歌手の一人だ。

 

恐らくこの会場内に居る殆どの人が、何処かしらで彼の姿を見たことくらいはあると言っても過言ではないだろう。

 

だからこそ月島キララは困惑する。

 

先程の言葉で気付いてしまったから。

 

しかしそれと同時に、一つの疑問が浮上する。

 

それはどうしてという、純然たる疑問だ。

 

[「分からないって顔をしているな。まあ、それも仕方ないだろうさ。俺と君では目指しているものが違うんだからね」]

 

南条は月島キララの困惑する表情から悟ったのか、淡々と話を進めていく。

 

[「君の歌は……いや、君達の様な現代のアーティストの殆どの歌は日本人を堕落させていく。歌は時代と共に変化と進化を繰り返すものかもしれないが、君達の歌はただ海外の歌に毒されて己を見失っているようにしか見えないんだよ」]

 

そんなことはないと南条の言葉を聴きながら、月島キララは即座に心の中で否定するが、その言葉を飲み込んだ上で、最後まで話を聞き続ける姿勢を崩さず、ただ鋭い射抜くような視線を眼前の南条へとぶつける。

 

[「いずれ俺は、そんな退廃した歌を全て根絶やしにして本来あるべき日本の歌を取り戻す。だがまずはその代表格である君を音楽界から抹消する」]

 

南条はそれを最後通告とすると、全身を眩い光に包み込み、その姿を異形の怪物、ホルダーへと変貌させた。

 

一瞬にして観客席から多数の悲鳴が上がり、パニック状態となる。

 

混乱の最中、ホルダーが月島キララに近づこうとするが、その足下の床を数発の弾丸が撃ち貫く。

 

悲鳴が轟く喧騒の中にも関わらず、鈍く重い足音を響かせながら、一人の戦士が姿を現す。

 

そのメタルイエローのボディーはスポットライトの光を浴びて、燦然と輝いている。

 

「オジサン!」

 

現れた戦士、仮面ライダーE2の姿を目の前に、月島キララが叫ぶ。

 

「危ないからキララさんは下がって!」

 

素早く月島キララを自身の背に庇い、E2は専用銃であるESM01をホルダーに対して構える。

 

「ふん。やはり邪魔をしに来たか。だが今の俺を一人だけで止められると思うなよ」

 

E2の登場にも関わらず、ホルダーはその余裕を崩さない。

 

それは確かな自信から来る余裕に他ならなかった。

 

前回の戦いにおいて、ホルダーは試練の光によって得た力で、急激なパワーアップを遂げていたからである。

 

更に今回は自身の体力も万全の状態だ。

 

普通に戦えば負ける要素は無いと、ホルダーは判断していた。

 

「お前がこのコンサート会場に現れるだろうことは予測していたんだ。それなのに僕達が何の対策も立てない筈がないだろう?」

 

ホルダーの言葉に対して、E2は予想外の返事を返す。

 

それを合図とするかのように、ステージの上を凄まじいスピードで白と緑、二色の影が駆け抜けてホルダーへと勢い良く飛び掛る。

 

「なんだと!?」

 

その影に気付いたホルダーが驚愕の声を上げるが、二色の影の強襲は止まらない。

 

「うをおおおおおおおおおおおりゃああああああああああ!!!」

 

影は気合を込めた叫びと共に、強烈な蹴りをホルダーの背中に繰り出す。

 

「……なるほど。一人じゃ勝てないと踏んで、助っ人を呼んだということか」

 

しかしホルダーはたいしたダメージを受けていないと誇示するかのように、余裕の態度を崩すことなく、視線を新たにステージに現れた乱入者へと向ける。

 

「ありゃ? 今のは結構まともに入ったと思ったんだけどな」

 

するとその乱入者、仮面ライダーアクセスは頭を一掻きしながら、参ったねとのたまった。

 

「無理を言ってしまって申し訳ないです。それと御協力を感謝します」

 

素早く隣に回り込んで構えを取るアクセスにE2が感謝の言葉を口にする。

 

「な~に、良いってことよ。困った時はお互い様って言うしな。それに大事な友達の妹から頼まれたとあっちゃ男として引き受けない訳にはいかないでしょ」

 

それに対してアクセスは、構えを崩さないまま軽く流す。

 

「一人増えたところで、俺に勝てると思うなよ!」

 

ホルダーは二人の仮面ライダーの会話に割り込むように叫ぶ。

 

そのままサイに似た鋭利な角を、前方に突き出して凄まじい突進を繰り出す。

 

E2とアクセスは辛うじて、ホルダーの攻撃を避けることに成功するが、なおもホルダーの攻撃は続く。

 

「それなら三人はどうだ?」

 

ステージに突如として聞こえる声。

 

何処から響いたのか、確かめるようにホルダーが視線を会場中に彷徨わせたその時、客席の後ろ側からメタルブラックのボディーを持つ一人の戦士がステージ上に躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホルダーが現れた直後、俺とメカ犬は混乱に乗じて観客席を抜け出して裏手に回ってシードに変身すると、すぐにこの戦いに参戦した。

 

鳥羽さん、アクセスが助っ人に来ていたのは予想外だったけども、俺達がするべきことに変わりは無い。

 

「僕が援護します!」

 

E2の掛け声を合図にホルダーへと駆け出す俺とアクセス。

 

それをホルダーは正面から迎え撃とうとするが、俺達の背後から撃たれたESM01の銃弾がホルダーに命中して、その動きを阻害する。

 

「うをうりゃあ!」

 

その間に一気に距離を詰めたアクセスの拳がホルダーの腹部に深くめり込み、更に追撃とばかりに俺が即頭部を蹴り上げる。

 

「舐めるな!」

 

これだけの連携を喰らえば、大抵の相手に決定的なダメージを与えられる筈なのだが、試練の光によって強化されている為なのか、ホルダーは踏鞴を踏みながらも、怒号を放ちながら俺とアクセスに反撃とばかりに両腕を突き出した。

 

咄嗟に防御することは成功したが、その威力は常軌を逸しており、俺とアクセスは防御した上でもなお、後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「はは!何だか面白くなってきたぜ!」

 

アクセスが楽しそうに笑いながら、ベルトのカードデッキに手を掛けて一枚のカードを取り出す。

 

相変わらずの戦い好きだと呆れながらも、何か現状を打破する奇策を思いついたのかとその行動を見守ることにしたのだが、アクセスが能力を発動させるよりも早く、ホルダーが新たな行動に出た。

 

何を思ったのか、ホルダーは唐突に自身の両腕をステージの床へと叩きつけたのである。

 

「いったい何をする気だ?」

 

『気を抜くなマスター!何かが来るぞ!』

 

メカ犬の声が俺の耳に届くのとほぼ同時に、ホルダーの両脇から、謎の箱状の物体が突如として床を突き破って、その姿を現す。

 

歪な黒い箱状のそれは、二メートルはあるであろうホルダーの胸元にもなるほどに大きく、その中央には丸く大きな窪みが存在している。

 

それはまるで……

 

あれに似ているなと、思った次の瞬間、その箱状の何かが俺が似ていると感じた物体と、まったく同じ機能を発揮する。

 

俺が似ていると感じた物体。

 

それはスピーカーだ。

 

ホルダーが生み出したスピーカーらしき物体は、その丸い窪みから大音量のビートを刻み、この会場に居る全員の鼓膜を激しく振るわせる。

 

熱く拳の利いた、日本に昔から流れる独特なサウンド。

 

「これはもしかして……」

 

「そう!これぞ日本の誇る音楽!!演歌だ!!!」

 

考えるよりも早く口に出ていたのであろう、E2の疑問の声にホルダーが意気揚々と答える。

 

確かに予想外な展開だが、俺は何処かで納得もしていた。

 

何故なら南条輝明は歌手。

 

それも日本を代表するほどに有名な若手の演歌歌手なのだから。

 

「演歌歌手だか何だか知らねえが、ただのBGMなんて俺が吹き飛ばしてやるぜ!」

 

ホルダーの口上もそこそこに、アクセスが手にしていたカードを、ベルトの右側のスリッドへとカードをスライドさせる。

 

『ウインドリンク』

 

アクセスのベルトから電子音声が響き、周囲の空気が風となってアクセスの傍へと集約されて、最後はその風が球状の塊となってアクセスの手中に収まった。

 

その圧縮された風をホルダーに向けて放とうとするが、直前でアクセスの動きが止まる。

 

「これは……」

 

俺は目の前に広がる光景に対して、自然と声を漏らす。

 

それも致し方無いだろう。

 

何故ならホルダーの周囲を先程まで会場でパニックになっていた観客達が、まるで壁のように立ち塞がっていたからだ。

 

「流石にこれじゃあ、攻撃する訳にもいかんわな」

 

アクセスは手の中で圧縮させていた風の塊を飛散させながら、溜息を吐いた。

 

先程、アクセスが攻撃を躊躇ったのもこの為である。

 

「一体皆に何をした!?」

 

「なに、簡単なことさ。この演歌のBGMは特別でね。これを耳にした奴の殆どは俺の意のままに操れる。ただそれだけさ。まあ、もっとも俺に強く敵対しているお前達みたいな奴には効果が薄いがな」

 

E2の問い掛けに、ホルダーが意気揚々と答える。

 

どうやらあのスピーカーから出ている演歌の曲に、何らかの催眠作用があるらしい。

 

このまま観客を盾にされていては、満足に戦うことも出来ない以上、どうにかしたいとは思うのだが……

 

『何も無いところから生成したということは、あのスピーカーを破壊してもすぐに再生される可能性があるな』

 

「やっぱりメカ犬もそう思うか……」

 

メカ犬の意見した通り、俺もそれが気掛かりとなっていて迂闊に手を出せない。

 

一度くらいであれば、操られた観客達を掻い潜り、あのスピーカーを破壊することも出来るとは思うのだが、もしもその後に予想通りの事態が起こったとしたら、もうチャンスを作らせてはくれないだろう。

 

だからこそ、ここからどうするべきか、答えが見えない。

 

「ふざけないでよ!こんなのが音楽だなんて……私は絶対に認めない!!!」

 

突如として響いた女性の声は、何処かで聞いた覚えのある声だった。

 

それもその筈だ。

 

俺だってテレビや、立ち寄った店の中で何度も耳にしたことがある、アイドル、月島キララの声なのだから。

 

「音楽ってのはね!歌った人や、それを聞いてくれた人達を幸せにしてくれるものなのよ!こんな風に誰かの自由を奪う為の道具に使って良いものじゃない!」

 

「子供の発想ですね。歌には様々な想いが込められているものだ。喜びだけではなく、怒りや悲しみ……それを否定して快楽だけを追い求めるような独りよがりな音楽が蔓延するから、人は堕落してしまう。今、本当に必要なのは、このように人を律するべき音楽だ」

 

「……確かに私は南条さんとは違うわ。だって私はそんな考えて歌ったりしないから!歌が大好きだから歌うの!その歌を聴いて笑ってくれる皆の笑顔が大好きだからもっと歌うの!!!だってそれが私にとっての歌だから!!!」

 

自身の思いの丈を叫ぶ月島キララの肩に、E2が静かに手を差し伸べる。

 

「素人の僕には、音楽の意味をどうこう言うことなんて出来ないけど、それでも僕は……やっぱりキララさんの歌が好きだな」

 

「オジサン……」

 

E2の言葉を聞き、月島キララは何か覚悟を決めたかと思うと、マイクを片手に大きく深呼吸をして……

 

[「みんなああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!私の歌を聴けええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」]

 

コンサート会場全体に、月島キララの叫びが木霊した。

 

その叫びを合図としてなのか、ホルダーが流す演歌のBGMに混じり、ステージのバックに控えていたバンドメンバーが軽快な曲を奏で始める。

 

[「本当のヒーローって どんな人だと思う?」]

 

マイクから奏でられる月島キララの歌声は、まさに天使の声と呼ばれるに相応しいほどに、澄んだ声をしていた。

 

[「強い人? 優しい人? とにかく凄い人?」]

 

「何をするかと思えば……そんな程度の低い歌が何になる」

 

月島キララの歌を一蹴するホルダーだが、果たして本当にそうだろうか……

 

[「皆の心の中に 憧れるヒーローは居るだろうけど……」]

 

歌を本当に愛しているなら、その想いはとんでもない奇跡だって引き起こすことが出来るんじないのだろうか。

 

[「私の知ってるヒーローは そんな凄い人じゃない」]

 

「無駄だと言っているだろう!」

 

ホルダーの声も聞こえていないのだろう。

 

月島キララただ、全力で歌い続ける。

 

自分の大好きな歌を。

 

ただただ、皆の心に届くことを信じて。

 

[「弱くて 情けなくて ちょっとだけドジな人  だけど誰かが困っている時は 絶対に助けてくれる そんな人!」]

 

歌がサビ部分に到達したその時、周囲に変化が起き始める。

 

「ば、バカな!?一体どうなっているんだ!?」

 

その光景を目の前に先程までのホルダーの余裕が、脆くも崩れ去っていく。

 

何故なら操られていた観客の皆が、月島キララの歌声を聴き、次々と正気に返り、ステージから逃げ出して行くのだから。

 

[「強くは無いけど どんなに傷付いたって 諦めない  守りたい 大切な想いが あるから」]

 

「そんな……俺は認めないぞ!こんな…こんな歌が俺の音楽よりも優れているなんてあり得ない!!!」

 

業を煮やしたのか、月島キララの歌を止めさせようと感情を剥き出しにして駆け出すホルダー。

 

「おっと!そうはさせないぜ!」

 

「やっと前に出てきたな」

 

だがその進路に俺とアクセスが立ち塞がる。

 

先程まで操っていた観客達の影に隠れていて、下手に攻撃することも出来なかったが、自ら前に出て来た今ならば思う存分に戦える。

 

「それじゃあ、もういっちょ気張るとしますか」

 

「皆が楽しみにしていたコンサートを台無しにしたんだ!こんな悪夢はここで終わらせる」

 

「邪魔だあああああ!」

 

アクセスと俺が此方に駆け出すのにも関わらず、ホルダーは怒号を響かせながら突進を止めようともしない。

 

[「何度倒れても 必ず 立ち上がる  never give up  傷だらけのヒーロー」]

 

俺とアクセスは突進してくるホルダーを迎え撃つ為に、其々の準備を整えていく。

 

『ポイントチャージ』

 

『リンク・チャージ』

 

二つの音声が響くと同時に、俺とアクセスの右腕に、光が集約される。

 

それでも構う事無く突き進んでくるホルダーの動きを、E2が後ろから行った援護射撃が阻害させた一瞬の隙を突き、俺達は一気に勝負に出た。

 

「「ライダーパンチ!」」

 

同時に繰り出された必殺の拳が、ホルダーの強固な胸部の装甲に大きなヒビを作り出す。

 

「今だ!」

 

俺は後ろに向かって叫ぶ。

 

だが俺が声を上げるよりも早く理解していたのだろう。

 

E2は既に殆どの準備を終えていた。

 

『ブレイクチャージ』

 

流れる音声と共にESM01の銃口に集約された黄色い光が、弾丸として放たれ、その弾丸がネット状となってホルダーを束縛する。

 

更にすかさずESM01を右腰のホルスターに収めたE2は一気に駆け込むと同時に跳躍して、俺とアクセスが先程作った胸部のヒビ目掛けて、輝く右足を突き出して強烈なキックを叩き込む。

 

その瞬間に大きな爆発が巻き起こる。

 

[「だけど 絶対に負けない try again 最高のヒーロー」]

 

それと同時に、この戦いの終焉を告げる最後の歌詞が紡がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサート会場の遥か上空。

 

大きな爆発の直後、舞い上がった光の球体が、空を翔る一人の少女が持つ杖の斬撃によって跡形も無く飛散する。

 

チャイナ服にも似た、装束を纏ったその少女、ミルファは自身の任務を無事に遂行したことを確認してホッと胸を撫で下ろす。

 

「純が上手くやってくれたみたいね。それにしてもまたハズレか……本体は一体何処に在るっていうのかしらね」

 

『まあ、焦って見つかる訳でも無いしのう。地道に探すしかないじゃろうよ』

 

ミルファを諭すように厳格な老人の声が、ミルファの手にした杖の先端の宝玉から聞こえる。

 

ミルファをサポートする立場にあるデバイスのプリズムとしては、こういった助言は日常茶飯事だ。

 

「分かってるわよ。でもこれだけ探してないって事は、何か新しい試みが必要なのかもね」

 

『ほう……例えばどんな試みじゃ』

 

「そうね。例えば試練の光を発掘した人達に何か詳しい文献が残っていないか聞きに行ってみるとか?」

 

『確か……試練の光を発掘したのは、スクライア一族じゃったかのう』

 

「思いつきで言ってみただけだったんだけど、意外と良い考えかもね。そうよ。会いに行きましょうスクライア一族に!」

 

コンサート会場の上空で、こんな会話がされた事に一人の少年が気付くのは、もう少しだけ後の話である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。