魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「この世界に破壊者が来訪したようだな」
「破壊者ねぇ……何だか随分と物騒な通り名だけど、そいつもライダーなんでしょ?」
普段は人の近づかない、海鳴市の外れに面した廃工場の中で、人とは違う異形の姿をした、それぞれに灰色と藍色の身体の二人組みが会話を交わす。
「奴は私の知っている全てのライダーの中でも、特殊な部類に入る」
「へぇ~。メルトが其処まで警戒するなんて、何だかちょっと興味がわいてきちゃったな」
灰色の怪人、メルトの淡々とした言葉に対して、その相方である藍色の怪人、オーバーはメルトとは対照的におどけた態度を示した。
「次の計画を実行するには、まだ多くの実験をしなければならない。それに奴があの存在に感付きでもすれば、大幅な修正が余儀なくされる恐れすらある」
「何だか面倒だね。……ん?」
一見すると普段と変わらず淡々と言っているだけに思えるメルトの言葉だが、今まで曲りなりにもコンビを組んできたオーバーには、メルトが本当に困っているという事が分かった。
だからこうなったメルトには何を言っても無駄である事も、重々理解していたオーバーは悩む相方が勝手に答えを出すまでの間、適当に相槌を打っておこうと決めた矢先、この廃工場に起こった異変に気付く。
オーバーとメルトの目の前で空間が歪み、銀色のオーロラが出現した。
そしてそのオーロラの向こう側を潜る様に、今までここに居なかった筈の人物が姿を現す。
銀色のオーロラの中から現れた人物は、黒斑のメガネを掛け、ベージュのコートを羽織り、頭には同色のフェルト帽を被った、壮年の男性だった。
「お前は……」
唐突な男性の出現に、メルトは警戒しながらも声を掛ける。
オーバーも、何時でも動ける様に、自らの武器である両刃の剣を生成して、臨戦態勢に入った。
そんな二人の怪人に対して、男性が最初に示した行動は、笑顔を浮かべる事だった。
「どうやら驚かせてしまったようで。申し訳ないね。最初に言っておくが私は君達の敵じゃない。寧ろこれから君達がしようとしている事に対して、協力する為に来たんだよ」
「……協力だと?」
「そうだ。君達も気付いているのだろう?この世界に招かれざる者が来た事に……私は世界が破壊される前に、奴の存在を消したいんだ」
「だから利害が一致している僕達と協力したいって解釈で良いのかな?オジサン」
笑顔を浮かべながら語る男性とメルトの問答を聞いて、オーバーは試す意味合いも込めて、挑発的な発言をする。
だが男性はその挑発を軽く受け流し、笑顔を崩す事は無かった。
「そう言えばまだ名乗ってもいなかったね。私の名前は鳴滝だ。もしも協力する気があるのなら、宜しく頼むよ」
そう言った男性、改め、鳴滝は自らの右手を差し出して二人に対して握手を求める。
「……なるほどな。利害が一致するならば、手を組む事もまた一興か」
鳴滝の握手の求めに対して最初に対応したのは、意外な事に慎重な筈のメルトの方だった。
「分かってくれた様で嬉しいよ」
メルトとの握手を交わしながら、にこやかな笑顔を向ける鳴滝。
だがメルトと、オーバーは気付いていた。
貼り付けた様な笑顔の中で、その瞳だけが冷酷なまでの殺気を孕んでいる事に……
二年生に進級しても、特にクラス替え等は無く、担任の先生も一緒に引き上げという事で、俺達のクラスは今も真理子先生が担当していた。
先日は久々の何も無い休日だった筈なのに、普段以上にハードだった為か、朝のホームルームで教壇に立って行事連絡をする真理子先生のお話が、耳に心地良い。
そう……前日までは……
異世界に行って来て、あれやこれやとあって、何とか解決したと思って帰ってきたら……
俺は教壇に視線を向けて、そして頭を抱えた。
ストレス性の頭痛を誘発する事態は今も尚、継続しているのだという事を、目の前に広がる光景が、無理矢理にでも自覚させる。
「……という訳で、今日からこのクラスの副担任になります。門矢《かどや》 士《つかさ》先生です。それじゃあ士先生」
一通りの説明を終えた真理子先生は、先程から横に居た男性に挨拶をする様に促す。
促されるままに、教壇から一歩前に踏み出す男性の態度は、その整った容姿で若干は軽減されてはいたものの、他の教師陣と比べると、あまりにもふてぶてしかった。
「……今日からこのクラスの副担任になる門矢 士だ……宜しく……」
先生の挨拶というよりは、転校してきたばかりで若干緊張気味な不良高校生という感じに見えるが、この人の人物像を思えば、それも仕方ないだろう。
既にこの段階で仮面ライダーが好きな人ならば、誰もが気付いているだろうが、この人こそ、世界の破壊者、全ての破壊者、全てのライダーを破壊する存在と呼ばれるライダー。
仮面ライダーディケイドに変身する、門矢 士その人である。
何故そんな人が、俺の目の前に居て、小学校で副担任をやっているのか。
それにはこの仮面ライダーディケイドという物語の独特な特徴に関係している。
ディケイドは他のライダーが居る世界を旅するというのが、基本的な流れだ。
そして主人公である士さんには、その世界毎に役割が与えられる。
役割は警察官であったり、学生だったり、果てはとある組織の戦闘員と様々ではあるが、一つの共通事項として、その世界のライダーと係わり合いになり易いポジションになるという事。
そして今回は教師という事から、きっとこのディケイドのストーリーに一番近い位置に居るライダーは俺だと思って、まず間違い無いだろう。
勿論、ディケイドは俺の好きな仮面ライダーの一人である。
昨日だって、光写真館で出会った際にサインを要求して、既に取得済みだ。
だが、それを踏まえた上で、ディケイドのストーリーの全般を知る俺としては、これから近い先に確実に大きな事件が起こるという事実に気付き、それが頭を悩ませる原因となってしまっている。
ディケイドのストーリーが主な原因という部分は変わらないがそれ以上に、今回は今までの別世界のライダーとの邂逅とは異なっている事も大きい。
今まで俺が出会ったライダーは、番組放送後で、一つの大きな戦いを終えていた訳なのだが、どうやら昨日、士さんと話した限り、今の士さんは時系列的にまだ番組の途中に位置しているようなのである。
詳しく聞いたところ、どうやらディエンドの世界を回った直後のようだ。
つまり、それは俺の行動が、これからの士さんに大きな影響を及ぼしてしまうかもしれないという事を意味している。
だからと言って俺の出来る事は、あまりにも少ない。
恐らくはまだ時系列的に大ショッカーの出現には少し早い筈だから、警戒するとしたらあの人物の存在だ。
仮面ライダーが好きな俺ですら、あの人物がどういった存在なのかは、良く分かっていないというのが正直なところだ。
当然劇中で正体が明かされる事は無く、気になった俺は前世で、公式での設定を調べたりしたのだが、結局はディケイド達と同様に、世界を渡る術を持つ事と、ディケイドの存在を危険視して排除しようとしている事しか分からなかった。
ネットの掲示板等でもライダーファンの間で、様々な意見が飛び交い、有力な説が幾つか提示されはしたが、どれも推測の域を出なかった。
俺が悶々と悩む間に、朝のホームルームは進み、授業が始まる。
最初は士さんに授業が出来るのかと不安に思っていたけれど、真理子先生から短い説明を受けてから、士さんは例の如く大体分かったという、あまり安心出来ない返事をして、一時間目の授業科目である国語の教科書を片手に教壇に立ち、俺達生徒と向き合った。
「それじゃあ一時間目は、俺がお前達に国語を教えてやる」
謎の自信を醸しつつ開始された士さんの授業に対して感想を述べるとしたら……個性的な授業だったと述べる事にしておこう。
士さんの名誉の為にも……
午前中の授業が終わり、昼食のお弁当をなのはちゃん達と外で頂く事になったので、中庭に出てみると本日付で我らがクラスの副担任となった士さんが、木陰で杉の木に身を預けて、何処かで買ってきたのであろう、アンパンをもそもそと咀嚼していた。
「あれって門矢先生じゃないかな?」
士さんの存在に気付いたなのはちゃんを先頭にして、一緒に居たすずかちゃんとアリサちゃん、それとエミリーちゃんにアリシアちゃんが、各々声を掛けながら近付いていく。
「お前らは確か……」
昨日会った俺は別として、まだ副担任となって初日という事もあり、流石に士さんでもなのはちゃん達の事は分からないのだろう。
ちなみに士さんがこの世界で役割を与えられた事が原因なのか、少しだけ皆の認識が変化してしまっていた。
現在翠屋は、光写真館となってしまっている訳だが、翠屋の存在そのものが無くなったという訳ではない。
なんと光写真館の向かい側に、当然の様に翠屋が存在していたのだ。
それと無くなのはちゃん達に確認をしてみたが、どうやらなのはちゃん達の認識では初めから翠屋はその場所にあると認識していた。
以前にもこの世界がWの世界と融合を起こした際に、記憶の変化が訪れたが、今回はその縮小版と言えるものに近いものがあるかもしれない。
「門矢先生もここでお昼なんですか?」
「……まあな」
すずかちゃんの質問に士さんは口の中のアンパンを、紙パックの牛乳で胃の中に流し込みながら答えた。
「そう言えばここに来る途中に、真理子先生が士先生を探してたわよ」
思い出した様に言ったアリサちゃん発言に、士さんがこれでもかという程に眉を寄せる。
士さんがそんな表情をする意味を、俺は何となくだが察した。
現在に至っても絶賛彼氏募集中の真理子先生である。
更に授業中の最中に、真理子先生が職場恋愛っていうのも有りよね……と呟いていたのを、俺は聞き逃さなかった。
そう言っていた真理子先生の瞳が、獲物を狙うハンターの様に見えてしまったのは、俺の勘違いだと信じたい。
「お、お主は先程から首に珍しいカメラをぶら下げとるが、それは趣味なのかのう?」
「そ、それ私も気になるな!」
微妙な空気になった事に気付いたエミリーちゃんが、引き攣った笑顔を浮かべながら話題を別なものへと変える。
アリシアちゃんも同じく苦笑いを浮かべつつ、早口でエミリーちゃんの援護射撃を行う。
傍から見ていても中々のコンビネーションだ。
なのはちゃん達の視界に入らない位置に陣取ったてのひらサイズのメアが、アリシアちゃんにむかってサムズアップする程である。
「ああ、これは趣味っていうよりも……」
二人の質問に対して士さんは、首に掛けた二眼レフのトイカメラに手を掛けながら目を細める。
士さんにとって、写真は特別だ。
それこそ……
だから俺も士さんに一つだけ聞きたい事があった。
「士さんにとって写真は……」
俺が士さんに問い掛けようとしたその時、大きな爆音が校庭から響き渡る。
突如として起こった爆音に、校内全体がパニックに陥った。
俺はこの爆音の正体を誰よりも早く察する。
先程の爆音による混乱と辺りに飛び交う悲鳴でなのはちゃん達は気付いていないが、俺の制服のポケットの中で、タッチノートが警報を鳴らしているのだ。
この爆音の原因は間違い無くホルダーだろう。
「お前達は早く避難しろ!」
一瞬俺に目配せをしてから、士さんは皆に注意を呼びかけてから駆け出した。
俺も士さんの後を追って駆け出す。
その意図を悟ったエミリーちゃんとアリシアちゃんが、俺を呼び止めようとするなのはちゃん達に早く逃げるように促したのだが、ここで一つだけ想定外の事態が起こった。
「ちょっと待ちなさいよ純!」
なんとアリサちゃんが二人の妨害から逃れて、俺の後を追ってきたのである。
「アリサちゃん!?危ないから避難しないと駄目だよ!」
「それなら純だって同じでしょう!」
俺とアリサちゃんは、全力で駆け抜けながら言い争いを繰り広げて、結局アリサちゃんを振り切れないまま、校庭に辿り着いてしまった。
「これって!?」
校庭に広がる光景を前にして、アリサちゃんが驚愕の声を上げた。
黒い煙が校庭の中央から立ち昇る。
恐らくはあれが、先程の爆音の正体なのだろう。
だがそれ以上に校庭にかなり多くのホルダーモドキが闊歩しているという方が問題だ。
その中央には、見覚えのある藍色と灰色の二体の怪人が陣取っていた。
「……何でオーバーとメルトが学校に?」
俺はアリサちゃんに聞こえない程度の小声で、疑問を呟く。
「ねぇ、純。あそこに居るのって士先生じゃないの!?」
そんな俺にアリサちゃんが声を掛けながら、前方を指で示す。
その指の示す先に視線を向けると、確かに士さんがオーバー達と向かい合う形で、仁王立ちする姿があった。