魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
人気の無い海鳴市の外れに位置する、今は使われていない廃工場。
その敷地内で二人の怪人と一人の男が対峙していた。
怪人は其々、藍色と灰色の身体を持ち、対峙していた男は黒枠の眼鏡を掛けており、その眼鏡のレンズ越しに覗く瞳からは、怪人に対して、何かを期待する意味合いの感情が時折見受けられる。
「これでディケイドが君達にとっても厄介な存在だと、改めて理解してくれただろう?」
最初に口火を切ったのは怪人と対峙する男、鳴滝だった。
「確かにディケイドは強かったねぇ」
「ふん。癪ではあるが、確かに奴を放置したまま、私達が計画を推し進めるのは愚策と言えるだろうな」
鳴滝の言葉に陽気な声で相槌を打ったのは、藍色の怪人オーバー。
それとは対照的に淡々と語るのは灰色の怪人、メルトだったが、意見事態はオーバーと左程変わらない様である。
オーバーとメルトの返答が意に沿うものだったのか、鳴滝は自身の唇の両端を吊り上げて笑顔を作り、新たな提案を持ち掛けた。
「事前に協力する事は承諾したが、それで別々に行動していたのでは、意味が無いだろう。そこで提案なのだが、もう一つ踏み込んだ形で協力したい」
「ふ~ん。例えばどんな?」
鳴滝の提案に対して、オーバーはあまり興味無さ気に、続きを促す。
メルトは何も言葉を発しないが、鳴滝の提案に不服を申し立てる様な事もしなかったので、鳴滝はその沈黙を、続きを話す事に承諾したと見て、続きの説明に入る。
「君達に協力してもらいたいのは、技術面での話しなんだよ」
「……それはどういう意味だ?」
「そう難しい事じゃない。以前に君達が実験していた方法を応用して、其処に私が協力すれば、面白い事が出来るという事だ」
鳴滝は訝しげに見てくるメルトに、自分がこれから何をしようとしているのかを、懇切丁寧に解説した。
「……なるほどな」
「何だか思ったより面白そうだね。それならあんまり時間も掛からないだろうしさ。僕は賛成するよ」
反応の仕方に差はあるものの、メルトとオーバーは、鳴滝の提案に賛成の意を示す。
「だがそれには、少しだけシステムに修正を加えなければならない」
「そういう訳だから、もう少しここで待っててね」
鳴滝の提案を受け入れたメルトは、その提案を現実のものとする為に、オーバーを連れて、廃工場を後にする。
後に残された鳴滝は、先程までオーバーとメルトに浮かべていた貼り付けた様な笑顔から、一転して深い憎しみを感じさせる怒りの形相となり、誰かに聞いてもらうのでは無く、自身の目的を再確認する為に呟く。
「待っていろディケイド……貴様の旅は今度こそここで終わる。これ以上、貴様に世界を破壊させはしない!」
最後は呟きと言うには大きく、最早叫んでいるとさえ思える程の音量となり、鳴滝を除けば他には誰も居ない廃工場の全体に木霊した。
ディエンドライバーから放たれた弾丸が俺の足下の床に命中し、その際に生じた音に俺は肝を冷やしながらも、何とか距離を取る。
海東さんは、盗みは働くが根っからの極悪人では無いので、生身の状態の俺に当てるつもりは無いと踏んでいたが、どうやら俺の考えは正しかったらしい。
ただ映画では、理由があったとは言え、過去の自分を容赦無く撃っていたのも事実なので、内心かなり焦りはしたけれど……
「仕方無いね」
俺の行動に溜息一つ。
海東さんは、一枚のカードを取り出して、ディエンドライバーの側部を展開させ取り出したカードを差し込む。
ディエンドライバーを西部劇に出て来るガンマンの様にトリガーに指を這わせながら回転させて、銃口を上にして構える。
「変身!」
そのポーズの状態で叫びながら引き金を引く。
『カメンライド……ディエンド!』
ディエンドライバーから音声が鳴り響くと、海東さんの全身がモザイク調の光に包み込まれ、ディエンドライバーの銃口から放たれた幾重もの光がプレート状になって光に包まれた海東さんの頭部へと、次々に装着されて、その全身を被っていた光から解き放たれると、俺の目の前に再びシアン色の戦士が現れる。
海東さんはディエンドへの変身を遂げると、更にもう一枚カードを取り出して、ディエンドライバーにセットした。
「今日も頼むよ。僕の兵隊さん」
そう言いながら俺に銃口を向けて引き金を引くディエンド。
俺は今の内に少しでも距離を稼ぐ為に、全速力で走り出す。
先程のディエンドの言い回しで、次に何が起こるか、大体の予想が出来たからである。
『カメンライド……ライオトルーパー!』
俺の背後で音声が鳴り響くと、三つの光が背後から俺を追い越して俺の行く手を遮る様に正面に陣取り、人型を形成していく。
丸く円状で鈍い銀色の顔と、全体を覆う銅色の黒の装甲を持つライダーが三人。
仮面ライダーライオトルーパー。
仮面ライダーファイズの作品で登場したライダーだが、そのコンセプトは従来のライダーの中でも、かなりの異彩を放つ。
何と仮面ライダーと名が付くにも関わらず、量産型を目的として開発されたライダーなのである。
映画では、一度に一万人という大部隊が投入されて、序盤で主役であるファイズを倒してしまうという偉業を果たし、テレビ版でも後半に六人だけ登場した。
前門には三人のライオトルーパー。
後門にはディエンド。
一本道のこの状況では、完全に逃げ場が無い。
だが、それでも俺は最後まで諦める訳にはいかないと、自らを奮い立たせ、この状況を打破する為に、思考をフル回転させる。
普通に考えれば、一人だけのディエンドの方が、まだ振り切れる可能性が高い様に思える。
だが、ディエンドである海東さんを甘く見てはいけない。
そう考えると、召喚ライダーであるライオトルーパー三人を相手にした方がまだ御し易いのではないだろうか。
勿論、変身出来ない今の状態じゃ、幾ら量産型ライダーだからと言っても、正面から戦って突破する事は到底不可能だ。
「だけど……正面から戦うだけが、戦いじゃない!」
俺は迷う事無く、ライオトルーパー達に突っ込む。
まず小学生である俺とは身長差が大きく離れている為、正面のライオトルーパーがしゃがみ込んで、俺を捕まえようとする。
だがそれこそが俺の狙いだった。
俺はしゃがみ込んだライオトルーパーの伸ばした腕を逃れて、肩を足場にして飛び越える。
高く飛べば着地するまでの間に、別のライオトルーパーに上空で捕まる可能性もある為、高度は出来るだけ最小限にして、再び大地に足を踏み締めた。
捕まる危険性を最小限にした代わりに、距離を稼ぐ事をしなかった為、両サイドからライオトルーパーが俺を捕まえる為に接近する。
当然ながら今の俺が攻撃したところで、ライオトルーパー達には傷一つどころか、蚊に刺された程の感触すら与える事は出来ないだろう。
だがそれでも相手にダメージを与える方法が無い訳じゃない。
俺はライオトルーパーが迫って来る事を自覚しながら、あえてこの場所から動かず、タイミングを計る。
ライオトルーパーの手が俺の手に触れるかどうかというその瞬間。
それが俺の狙っていたタイミングに違いない。
「今だ!」
俺はライオトルーパーに捕まれる瞬間、肩を土台にジャンプし今も背中を向けたままで俺の背後に居るライオトルーパーを蹴りつける。
だがそれは攻撃が目的ではない。
今の俺が蹴ったところで、結果は壁を蹴っているのと大差無いのだから。
寧ろこの場で俺が蹴るべきなのは、動かぬ壁なのだ。
俺はその蹴りを推進力に利用して、一気にこの場から飛び退く。
そうすると、直前に目的を失った、両サイドから迫って来ていたライオトルーパーはどうなるか。
正面から衝突してライオトルーパーは、バランスを崩して倒れ込む。
更に倒れ込む方向には、土台にしたライオトルーパーが居て、三人のライオトルーパーが同時に倒れるという、俺にとっての予想外の幸運が訪れる。
今ならライオトルーパーを振り切る事も出来ると確信した俺は、そのままここから走り去ろうとして……
「そろそろ遊びは終わりにしようか?」
だが走ろうとした俺の眉間を、ディエンドライバーの銃口で押し付けられ、俺は動く事が出来なかった。
俺がライオトルーパー達に気を取られている間に、ディエンドは俺の行動を見越して先回りをしていたのだろう。
流石にこれ以上はもう無理かという考えが、脳裏を過ったその時である。
「誰だか知らねえが、あんまり子供を苛めるなよな」
聞き覚えのある声が、俺の鼓膜を震わせる。
「……鳥羽さん!?」
俺はその声の主の名前を、思わず叫んでいた。
視界に飛び込むその姿は、アタッシュケースを片手に、ニヒルに微笑む青年。
鳥羽さんで間違い無い。
「……ふう。どうしてこの世界だと、こうも邪魔が入るんだろうね」
ディエンドは溜息交じりにそう言うと、視線を鳥羽さんから、続けてライオトルーパーに続けて合図を送る。
その合図に体勢を立て直したライオトルーパー達が、一斉に鳥羽さんへと襲い掛かる。
「おっと!」
だが鳥羽さんは突如として襲い掛かってきたライオトルーパー達の攻撃を難なく避けると、持っていたアタッシュケースを勢い良く開けて、中に入っていたベルトを取り出しすぐさま自分の腹部へと巻き付けた。
「変身!」
鳥羽さんは更に緑のカードケースを取り出して、そう叫ぶとベルトの中央部に、カードケースを差し込んだ。
『アクセス・リンク』
その瞬間、鳥羽さんのベルトから音声が流れ、鳥羽さんの身体の前方に、光が様々な数式が羅列された様な状態で浮かび上がり、その光は瞬時に人の形へと編みあがって鳥羽さんの身体と重なり合い、仮面ライダーアクセスへと変身を果たす。
「折角の豪勢なパーティーなんだ。楽しませてくれよな?」
アクセスは尚も襲い掛かるライオトルーパーに攻撃を加えつつ、楽しそうに告げる。
更にアクセスは、ライオトルーパー達を振り抜き、俺とディエンドが居る方角に走りながら、ベルトのカードケースから、一枚のカードを引き抜き、ベルトの側面のスリッドに通す。
『グラビティー・リンク』
ベルトから音声が流れ、アクセスが俺とディエンドに手をかざしたその瞬間。
「ええっ!?」
「これは!?」
俺とディエンドはお互いに起こった出来事に対して驚愕の声を上げた。
何とアクセスが手をかざした次の瞬間に、俺とディエンドの身体が何もしていないのに、宙に浮いてしまったのである。
例えるならば、水の中に居る感覚が一番近いと言えるだろうか。
陸上で突然、そんな経験をすれば、誰だって驚くだろう。
予測ではあるが、これがさっきアクセスが使ったカードの効果だと思われる。
恐らくあのカードの特性は重力だとみて間違い無いのではないだろうか。
俺とディエンドの周囲の重力を意図的に操ったのだとすれば、今のこの状況にも、其処に至るまでの原理までは不明だが、取り敢えずの納得は出来る。
そんな事を考えている間に、目前に迫って来たアクセス。
「そういう訳で、こっからは楽しいパーティーなんでな。板橋は帰れ」
「はい?」
俺がどういう事か返答するよりも早く、アクセスはそう言うと、軽く俺の肩を押した。
仮にも無重力空間に投げ出された人間に対して、そんな事をすれば、どんな事態が待ち受けていると思われるだろうか。
地球の重力の枷から一時的にではあるが逃れたと思われる俺の身体は、アクセスが押した際に生じた運動エネルギーの影響を100%受けて、弾丸の様に空中へと射出される。
その時に俺は、身を持って悟った。
人は本当に刹那的な恐怖に直面した時、悲鳴すら上げる事など出来ないのだという事を。
今の俺ならば、きっと生身でチェイサーさんに乗る事くらい、使い慣れた自転車に乗るのと同義とでも言えるだろう自信がある。
真の恐怖を体感しながら、俺は瞬く間に視界から遠ざかる、アクセスとディエンドを見ながら、無事に生還したその時は、あの二人だけは例え何があったとしても、自分の全身全霊を賭けて、絶対に一発だけは殴ってみせると、俺は自分の心に堅く誓った。