魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第八話 小さな願いを叶えるために【後編】

この場を静寂が支配する。

 

月明かりが照らすのは、突然室内で暴風でも発生したのかと、疑ってしまう様な惨状だった。

 

無残に砕け飛び散った、部屋の窓ガラスや、家具がその凄惨さを物語っている。

 

そして俺は今、その様に変わり果てた自分の部屋で、一匹の猫と対峙している。

 

「・・・どういう意味だよ?」

 

俺は連続で起こる突発的な出来事に、様々な疑惑と混乱を覚えながらも、対峙している猫に質問を投げかける。

 

「どうもこうも、言った通りの意味としか言い様が無いわね」

 

俺の質問に猫は幾分か飽きれたといった風の感情を乗せて答えた。

 

猫が人の言葉を使い会話をしているという事実だけでも、十分に驚愕する出来事だが、今の俺にはそれよりも優先させなければいけない事がある。

 

「それで、はいそうですかと納得できる訳無いだろう。何で人語を喋る猫に、そんな事を言われなきゃならない?それになんではやてちゃんは突然攫われたんだ?それもお前の仕業だっていうのか!?」

 

俺は矢継ぎ早にこの喋る謎の猫に質問をぶつけていく。

 

猫は俺の質問を黙って聞いており、俺の質問が終わると、気だるそうに溜息を一つ落とし、面倒くさい子供だと呟くと、再び喋りだした。

 

「さっきも言った通りよ。これは忠告。八神はやてに近づけば君は後悔する事になる」

 

「後悔する?」

 

「最初に言っておくけど、これ以上話す気は私には無いわよ。知らない方が君にとっては幸せな事だろうしね」

 

猫はそこまで言って、またしても溜息を一つ吐き、続きを話し始める。

 

「それに私は、本来なら君の前に姿を現して会話をする気すらまったく無かったんだから・・・」

 

「じゃあなんでお前は今俺の前でこんな話をしているんだ?」

 

どうにも俺と猫の間で噛み合わない部分のある会話は続く。

 

「想定外のイレギュラーが起こったからよ。君が偶然にも八神はやてと接触した事と、彼女があの鳥の様な化け物に攫われた事・・・君の事だけでもどう対処しようか思案していた所だったのに、本当に面倒な事になったわ」

 

今の発言を聞くと、どうやらこの猫は俺とはやてちゃんをずっと監視していた様だ。

 

そういえば、はやてちゃんの家の前で猫を見たが、その時俺が見た猫はこいつだったのかも知れない。

 

それにこの猫は今気になる事を一つ言った気がする。

 

「ちょっと待て。お前の話し方からすると、はやてちゃんが攫われた事とお前は無関係なのか?」

 

俺の問いに猫は相変わらず面倒臭そうに答える。

 

「当たり前でしょ。私だってこれから如何するか悩んでる所なんだから」

 

その回答に、俺と猫の間で噛み合わなかった部分が、見事に合致した。

 

俺は思い違いをしていたのだ。

 

はやてちゃんを攫ったホルダーとこの猫は何らかの繋がりがあるのではないかと、俺は思っていた。

 

だからこそ俺はこの喋る猫との会話を試みたのだ。

 

しかしホルダーとこの猫が何の関係も無いというのなら、俺がこの場所に留まる理由は無い。

 

この猫の言っている事を全面的に信用する事は出来ないが、現にはやてちゃんは、俺の目の前でホルダーに連れ去られているのだ。

 

一刻も早くはやてちゃんを助けに行かなければならない。

 

俺は握り締めたタッチノートに更に力を込めると一目散に走り出す。

 

「だから待ちなさいって言ってるでしょ!」

 

急いで走り出した俺を猫が一喝し制した。

 

「八神はやては無事よ。・・・今の所はね」

 

「なんでそんな事がお前に分かるんだ?」

 

「答える必要は無いわ」

 

「その答えに俺が納得するとでも思ってるのか?」

 

「納得してもらわなくて構わないわよ。八神はやては私が何とかするわ。だから君は今日の出来事を全て忘れて自分の日常に戻りなさい」

 

事情は分からないが、俺はこの猫が決して悪人では無いという事を感じ取った。

 

言っている事は全てにおいて納得出来ないが、言葉その物から優しさが滲み出ている。

 

しかし、それではいそうですかと答える気は毛頭無い。

 

この猫に任せておけば俺の知らない所で全てが上手くいくのかも知れない。

 

もしかしたらそれが最善の選択であると、全ての事情を知る者なら言うかも知れない。

 

しかし俺の脳裏を巡るのは、数刻前の俺とはやてちゃんとのやり取り。

 

頭には震える小さな手の感触が未だに残っている。

 

その耳には、少女の小さな・・・あまりにも小さな一つの願いの言葉が響き続ける。

 

俺は、はやてちゃんに自らの言葉で伝えなければいけない。

 

自らの決意を胸に俺は猫に一言だけ告げる。

 

「断る」

 

俺の言葉で一瞬の沈黙が訪れる。

 

しかし、俺の言葉を聞いた猫は先程と違う氷の様な雰囲気を纏い俺に再度問う。

 

「本気で言ってるの?」

 

剥き出しの刃の様な威力の感情を含む一言が俺を襲う。

 

はっきり言って今すぐにでも逃げ出したいと思う。

 

でも、その度に一人の少女の寂しげな笑顔が俺の頭の中に浮かび上がり、その感情を押さえつける。

 

俺はゆっくりと頷いた。

 

「つまらない意地をを張るつもりなら、止めておいた方が身の為よ。それにただの子供に何が出来るって言うのかしら?」

 

確かにその通りだ。

 

普通に考えればただの子供が怪物を如何にか出来るなんて誰も思う筈が無い。

 

でも俺は・・・

 

『あまりワタシのマスターを見縊らないで貰おうか』

 

聞きなれた声が聞こえてきた。

 

ガラスが割れた事で通気性の上がった窓から、小さな影が俺と猫しか居なかった部屋に突如乱入する。

 

その存在は月明かりにより白銀の光を帯びていた。

 

『駆けつけるのが遅くなってしまいすまないマスター』

 

「いや、気にして無いさメカ犬」

 

俺には何時だって苦楽を共にしてくれる、頼りになる相棒がいる。

 

「・・・結界を張っていた筈なんだけど、何なのこの銀色は?」

 

猫が心底驚いた様な声を上げる。

 

結界というのは良く分からないが、この猫が何かをしていたのだろう。

 

流石に母さん達が部屋がこんなになる様な。ど派手な音を立てていたにも関わらず、部屋に来ないのはおかしいと思っていたのだ。

 

猫は俺とメカ犬を交互に見比べると、先程まで纏っていた氷の様な雰囲気を四散させた。

 

「魔力は感じないけど、ただの一般人って訳でも無いようね・・・」

 

猫は何やらブツブツと呟いていたが、もう一度俺達を見て投げやり気味に言ってきた。

 

「いいわ・・・今回は君に任せる事にする。まだ猶予は残っているしね。でも忘れない方が良いわよ。八神はやてと共に居れば君は必ず後悔する事になる」

 

それだけ言うと猫は踵を返した。

 

去り際に猫は独り言を呟く様に喋った。

 

「海岸に行ってみなさい。そこに八神はやてが居る筈よ」

 

猫は続いてまた会う事があるかもねと言うと窓から走り去り、俺達の前から姿を消した。

 

「・・・行くぞメカ犬!」

 

『うむ。一刻も早くはやて嬢を救い出さなくてはな!』

 

俺とメカ犬は急ぎ部屋を飛び出し海岸へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、着いたわよマスター』

 

「ありがとうチェイサーさん」

 

俺はチェイサーさんに感謝の言葉を言ってからシートを降りる。

 

『ここがあの猫の行っていた海岸だがはやて嬢は何処に居るのだ?』

 

俺達は板橋宅を出るとすぐにチェイサーさんを呼んで、あの喋る猫が去り際に教えてくれた海岸に連れて来てもらった。

 

潮の香りとさざ波の音、海面に映る月が夜の海岸を何とも幻想的な雰囲気にしている。

 

こんな状況で無ければ夜の海岸も良い所だと思えるのだが、生憎俺達はここに遊びに来た訳では無い。

 

捜索を開始してから数分程で、浜辺で寝そべる少女とその隣に座る男性を発見した。

 

俺とメカ犬は二人の傍に駆け寄っていった。

 

寝そべっている少女は間違い無くはやてちゃんだった。

 

近づいた事で時折寝息が聞えるのを確認出来た事から、どうやらあの猫が言っていた通り無事だった様だ。

 

俺は少しだけ感じていた不安が一つ解消した事により、ホッと胸を撫で下ろす。

 

しかし今は安心し続けている場合じゃ無い。

 

問題は、はやてちゃんの隣に座り海を眺めている男性だ。

 

この男性が俺の部屋を襲撃し、はやてちゃんを連れ去ったホルダーとみて、まず間違いないだろう。

 

男性はキッチリとしたビジネススーツを着こなし、見た目三十台半ば頃と思われる。

 

男性は何処か虚ろな瞳で、俺達が傍にやって来たにも関わらず、未だに海を眺め続ける。

 

「何であなたはこんな事をしたんですか?」

 

このまま黙っていてもらちが明かないと思った俺は、意を決して男性に話し掛けてみた。

 

「・・・君は海を見てどう思う?」

 

男性は視線を海に固定させたままで静かに語り始めた。

 

「僕は海が大好きだ。海を見ている時だけは嫌な事を全て忘れられる・・・」

 

今まで海から視線を外さずにいた男性が、一瞬だけ俺を見てからはやてちゃんを見て、再び視線を海に向ける。

 

「このお嬢さんの父親・・・八神さんと僕は同じ職場の同期だったんだよ」

 

男性は抑揚の無い声で語り続ける。

 

「八神さんは僕に無いものを沢山持っていた・・・仕事の実績に、友人。素敵な奥さんと娘。彼の周りは何時だって賑やかだった。僕は昔から人と接する事が苦手でね。こんな僕とは正反対の八神さんを何時も羨ましく眺めていたものさ」

 

自嘲する様に、僅かに唇の両端を吊り上げる男性。

 

「そんな僕にも八神さんは良くしてくれてね。頻繁に食事に誘ってくれたりと、世話を焼いてくれた。本当なら感謝する事だろうね。僕自身も始めは八神さんの優しさに感謝していたんだよ・・・」

 

男性は淡々と話す。

 

「でもね。それが続く程に僕は同時に惨めな思いもしたんだよ。何で僕には何も無いんだ?僕の何がいけない?八神さんと僕の何がそんなに違うんだ!?」

 

少しずつ男性の語気が荒くなる。

 

「そんな折、八神さんは亡くなった!僕に孤独を思い知らせた本人が勝手に居なくなったんだ!!」

 

男性は立ち上がる。

 

「散々僕に惨めな思いさせておいてだよ!!酷い話だろ!?」

 

男性は演説の様に宣言した後、だけど・・・と呟きはやてちゃんを見た。

 

「だけど八神さんは僕に素敵な贈り物を残していってくれたんだ」

 

男性は妖しく唇の両端を限界まで吊り上げて笑みを浮かべる。

 

「八神さんの娘さんは僕と同じ孤独の中を生きている。周りに人の絶えなかった、あの八神さんの娘がだよ!その事実だけで僕は日々を生きていく事が出来るのさ!!!」

 

「・・・どういう事ですか?」

 

「簡単な事さ。僕と八神さんは同じ痛みを知る仲間さ。だから一人で孤独から抜け出そうとするのは許せなかったんだ!普段から遠めに観察したり、電話をかけたりして様子を探っていたからね・・・」

 

気持ち悪い笑顔を浮かべていた男性は、今度は俺を睨みつけ、怒りの形相を浮かべた。

 

「そんな幸せな一時を過ごしていた中に、君の様な無知な子供が現れたんだ!!!」

 

俺に対し男性は咆哮を上げる。

 

「子供だから少し怖い目に遭えば恐怖で近付かなくなると思っていたんだけどね。それどころか、まさか追って来るなんて夢にも思わなかったよ」

 

男性はスーツのポケットに手を入れると、中から緑の球体を取り出し、握り込んだ。

 

男性は全身から緑色の光を放ち、その姿は劇的に変化する。

 

光が収まりその場に居たのは、俺の部屋を襲撃した黒い翼を持ったホルダーだった。

 

「もう二度と近づこうと思わない様に、確りとその身体に恐怖を刻み込んであげないとね」

 

ホルダーへとその姿を変貌させた男性が楽しそうに言う。

 

『来るぞマスター』

 

メカ犬が俺に注意を呼びかけてくるが俺はそれに答えないままホルダーを睨みつける。

 

いや、答えないのではなく、今の俺には答える事が出来ないのだ。

 

今俺の心は怒りで満たされている・・・

 

「・・・ざけるな」

 

怒りは腹の底から上へと押し上げられる。

 

「ふざけた事言ってんじゃねえええええ!!!」

 

その怒りはついに俺の言葉となり体外に放出された。

 

「お前なんかとはやてちゃんを一緒にするな!!!」

 

この男性がどういう人生を歩いて来たのかなんて、俺は知らない。

 

だから俺はこの男性の全てを否定するような事は出来ない。

 

ただ間違い無く言える事が一つだけある。

 

「小さな女の子にあんな顔をさせて良い訳無いだろ!」

 

本当の孤独が何なのか、平凡な人生を日々歩んできた俺には想像する位しか出来ない・・・でも、だからこそ!

 

「本当の孤独を知ってるなら何で手を差し伸べないんだよ!泣いてるんだぞ!たとえ笑顔で笑っていたとしてもその度に心の中で助けを求めて泣き叫んでるんだぞ!?」

 

はやてちゃんとこいつは決して同じなんかじゃない!

 

「お前は何かをしたのか!?助けを求めたか!自ら孤独を脱しようと努力をしたのかよ!?」

 

はやてちゃんは俺に言ったんだ。

 

友達になってくださいって。

 

一人の孤独から逃れようと一歩を踏み出したんだ。

 

勇気を出して今を変えようとしたんだぞ!

 

「俺はお前を絶対に許さない!行くぞメカ犬!!!」

 

俺はタッチノートを取り出し開く。

 

『うむ。このホルダーの曲がった根性をワタシ達で叩きなおすぞマスター!』

 

俺はタッチノートのボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

音声が流れると同時にメカ犬は銀色のベルトへと変形し俺の腹部に自動的に巻きつく。

 

「変身」

 

音声キーワードである言葉を叫びタッチノートをバックル中央の窪みに差し込む。

 

『アップロード』

 

ベルトを中心に白銀の光が俺の全身を包みこむ。

 

一瞬更に眩い光を発すると俺を包んでいた光はその役目を終えて散っていく。

 

そして、その場所に佇むのは一人の戦士である。

 

メタルブラックのボディと銀色のベルト。

 

其処から伸びる四肢への銀色のラインに額のV字型の角飾り、顔の半分近くを覆う赤い複眼が特徴的だ。

 

「!!!仮面ライダーだったのか!?」

 

どうやらこのホルダーは仮面ライダーの事を知っているらしい。

 

まあ、最近は雑誌に載ったりしているので、不思議という事も無いのかもしれないが・・・

 

俺は驚くホルダーに駆け込み拳を叩き込む。

 

「は!」

 

突然の攻撃にホルダーは後方に飛ばされるが空中でバランスを整えると翼を大きく広げ羽ばたかせた。

 

すると羽ばたいた翼から俺に向かっていくつもの羽がダーツの様に一直線に迫り来る。

 

『避けろマスター』

 

俺はメカ犬の指示に従いその場から転がり回避する。

 

更に俺はバックルの右部分をスライドさせて緑のボタンを押し、続けて黄色のボタンを押した。

 

『スピードフォルム』

 

音声が流れると同時に、ベルトを中心に光が俺を包み込む。

 

光が収まりメタルブラックのボディは、ライトグリーンに変わる。

 

『スピードロッド』

 

更に俺の目の前に光の粒子が集まる。

 

それを俺が掴む事により、形を成さなかった光が確かな存在となる。

 

それは素早さに重点を置いたこのフォルムの専用武器、スピードロッドだ。

 

「見た目が変わっただけでどうなるというんですか?」

 

ホルダーはスピードフォルムとなった俺に対し再び翼の羽を連続で放つ。

 

「変わったのは見た目だけじゃないさ!」

 

俺は今度は避けずに、スピードロッドを振り回す事で飛び掛る全ての羽を叩き落す。

 

「くっ!」

 

それを見たホルダーは更に多くの羽を飛ばしてくるが、俺はその羽をロッドで跳ね飛ばし、時には避けながらホルダーに接近する。

 

「おりゃあああ!!!」

 

ロッドの届く射程距離まで近づいた俺は、容赦無く連撃をホルダーに叩き込み吹き飛ばす。

 

吹き飛ばしはするが、地に伏す事無く、ホルダーは翼をはためかせながら滞空する。

 

「・・・不本意ではありますが、ここは一旦退くとしますか」

 

ホルダーは呟くと翼を大きく広げ、踵を返して月夜に消えていく。

 

「待て!!!」

 

ここでホルダーを逃がす訳には行かない。

 

あのホルダーを逃がせば、またはやてちゃんに危害を加える事は確実である。

 

だけど空を飛んでいくホルダーを、俺に追う術は無い。

 

「このまま見ている事しか出来ないのか!?」

 

『大丈夫だマスター。まだ手はある』

 

俺の苦虫を噛み潰した様な言葉にメカ犬が答える。

 

『ここはアタシに任せてマスター』

 

更に後ろからチェイサーさんが俺に話しかけてきた。

 

『タッチノートを出してくれマスター』

 

「ああ」

 

俺はバックルからタッチノートを取り出す。

 

『そしたらまずはアタシをリミットオフしてねマスター』

 

続いてチェイサーさんが指示を出してきた。

 

この場でチェイサーさんをスピードアップさせてどうなるのか分からないが、俺は取り敢えずボタンを押してチェイサーさんをパワーアップさせる。

 

『リミットオフ』

 

タッチノートから流れる音声と共にチェイサーさんの全身黒のボディに、銀のラインと赤いカラーリングが追加される。

 

「これで何をしようって言うんだよ?」

 

俺の疑問にメカ犬とチェイサーは、含み笑いをしてから言い放った。

 

『『もう一度ボタンを押せば良い』』

 

何か気味が悪い同調を見た気がするが、今の俺には生憎と他の手段を考えている時間が無い。

 

俺はメカコンビの指示通りにもう一度ボタンを押してみた。

 

『ホバーチェイサー』

 

音声が流れるとチェイサーさんに更なる変化が訪れる。

 

前輪と後輪が横に倒れると車体の下にスライドして行き、背面にはボディの中からバックパックの様な物が姿を現す。

 

それだけでもかなりの驚きなのだが、重要なのは其処じゃない。

 

・・・浮かんでいるのだ。

 

チェイサーさんが俺の目の前で先程の音声が現す様にホバリングしているのである。

 

「飛べたのチェイサーさん!?」

 

その見た目から実は、マシントルネイダーの親戚か何かと、俺は思ってしまった。

 

『空中では基本距離を置いた戦いになる。フォルムを換えるぞマスター』

 

チェイサーさんの変形を目撃し呆けていた俺に、メカ犬が声を掛ける。

 

「・・・あ、ああそうだな」

 

俺はその言葉で正気を取り戻すと、ベルトの右側をスライドさせて、青いボタンを押す。

 

『サーチフォルム』

 

三度ベルトから光が発生し俺の全身を覆っていく。

 

光が飛散すると俺のボディカラーは、ライトグリーンからスカイブルーに変化する。

 

このフォルムになる事で、俺の五感全てが鋭敏になる。

 

既に姿が見えなくなっていた筈のホルダーの姿が目視出来る所か、その羽音までもはっきりと聞えてくる程だ。

 

『準備が出来たら乗ってねマスター。全力で飛ばすから!』

 

俺がフォルムチェンジし終えるのを確認したチェイサーさんが話しかけてきた。

 

その言葉に頷いた俺は、サーフィンのボードに乗る様にシートの上に両足を置いて、所謂立ち乗り状態を取る。

 

『それじゃあいっくわよ!!!』

 

チェイサーさんの叫びと共に背面のバックパックから爆発するかの様な爆発が発生し猛スピードで飛んでいく。

 

そのスピードは凄まじく一瞬とも言える時間でホルダーに追い着いた。

 

「逃がさないぞ!!!」

 

俺はホルダーに対し叫ぶ。

 

ホルダーはその声に気付き俺の方に首を向け驚愕するが、すぐに平静を取り戻した様で、素直に感想を述べてきた。

 

「驚きましたよ。しつこいと思っていましたが・・・ここまでしつこいとはね!!!」

 

言葉が終わると同時にホルダーは羽を大きく振りかざし、いくつもの羽を放つ。

 

「チェイサーさん!」

 

『任せなさい!』

 

俺の言葉に短い返事を返したチェイサーさんは、遅い来る羽を緊急回避する。

 

『こちらからも仕掛けるぞマスター』

 

「分かってる」

 

メカ犬の指示に俺は頷きながら、ベルトの右側をスライドさせて黄色のボタンを押した。

 

『サーチバレット』

 

発生する光を掴む事で俺の手の中で生まれるのは、スカイブルーのカラーリングが施された銃だ。

 

上部分だけは銀色で、やはり溝が設けられている。

 

これがサーチフォルムの専用武器、サーチバレットだ。

 

俺は銃なんて撃った事は無い。

 

精々ゲームセンターのシューティングゲームをやった事がある程度である。

 

だけど今の俺になら、サーチフォルムの俺にならこの銃を自在に使いこなす事が出来る。

 

続け様に俺達に羽を放つホルダー。

 

俺はその迫り来る羽と、その先に居るホルダーに銃身を向けて、引き金を引く。

 

銃身からは青い光が、引き金を引く毎に撃ち出され、その光弾全てが羽を相殺する。

 

「何!?」

 

その光景に驚愕するホルダーが更に羽を飛ばすが、俺はその羽も全て撃ち落しホルダーにも光弾を当てる。

 

サーチフォルムは俺の五感を強化する。

 

周りの情報が手に取るように頭に入ってくるし、指一つを動かすだけで次に何が起こるのかをも予測出来るのだ。

 

他のフォルムより、身体能力は落ちてしまうが、遠距離の相手と戦うならばかなり有効に戦える。

 

『決めるぞマスター!』

 

「ああ!」

 

俺はメカ犬の言葉を合図にタッチノートをバックルから取り出し、サーチバレットの溝部分に当ててスライドさせる。

 

『ロード』

 

音声が聞えるのを確認し、タッチノートを再びバックルの中心部分に差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトから発生する白い光が、右腕の銀のラインを通ってサーチバレットの銃口に集約される。

 

「はっ!」

 

俺はチェイサーさんから飛び上がり更に上空へと飛翔する。

 

俺という枷が外されたチェイサーさんは更なる加速を見せてホルダーに突っ込む。

 

ホルダーはそれを避けきる事が出来ずに、跳ね飛ばされた。

 

「こいつで決めるぜ」

 

そんなホルダーに俺は輝くサーチバレットの銃口を向ける。

 

「サーチバレット」

 

標準を合わせ引き金を引く。

 

「ガトリングブースト」

 

青い光弾が一列に幾重にも連結され、ホルダーに射出される。

 

連結し射出された光弾は、その全てがホルダーを捕らえ、大きな爆発を起こした。

 

爆発の中からは素体となった男性が気絶した状態で落下していく。

 

再びチェイサーさんの上に乗った俺は、落下する男性を空中でキャッチし、今だ気絶しているはやてちゃんの元に戻るべく、海岸への移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん、私どうなったんや?」

 

「おはよう。はやてちゃん」

 

目を覚ましたはやてちゃんに俺は挨拶をする。

 

夜が白み始めた海岸の浜辺で、俺は現在はやてちゃんを膝枕している。

 

今戻っても部屋はボロボロだろうし、今すぐ戻るよりも暫く言い訳を考えながら、この幻想的な夜の海岸の雰囲気を感じていたいと考えたからだ。

 

「・・・純君。もしかして純君が助けてくれたんか?」

 

未だに寝ぼけているのか、何処かウトウトとしながらはやてちゃんは質問をしてくる。

 

「俺じゃないよ。正義の味方が助けてくれたんだ」

 

俺の答えにはやてちゃんは目を擦りながら、何処か納得のいかない様な表情をする。

 

その後何かを考える様なしぐさをした後、はやてちゃんは少しだけ困った様な笑顔を浮かべた。

 

「・・・まあ、純君がそう言うなら、そういう事にしといたるわ」

 

何か含みのある言い方だが気にしなくても良いだろう。

 

何だかまだ寝ぼけてるみたいだし・・・

 

「はやてちゃん。俺まだはやてちゃんに答えを言ってなかったよね」

 

「・・・うん」

 

俺ははやてちゃんのお願いに対し答えを示す。

 

俺は、はやてちゃんのおでこに、軽くデコピンを喰らわせた。

 

「あいたっ!何すんの純君!?」

 

そんなに力を入れたつもりは無いのだが、大げさなリアクションで痛がって見せるはやてちゃん。

 

さすが関西出身といった所だろうか?

 

「はやてちゃん。俺とはやてちゃんはもうとっくに友達だよ。もう一度馬鹿な事言ったら今度は三回デコピンするからね」

 

俺の言いたい事は言った。

 

友達は頼まれてなるものじゃ無い。

 

気付いたらもう友達になってるものなんだ。

 

少なくとも俺は、既にはやてちゃんを友達だって思ってる。

 

俺の言葉に目を見開いていたはやてちゃんだが、やがてその目には大粒の涙が溜まり始めた。

 

「・・・あり・・・と。ありがとなあ・・・純君」

 

はやてちゃんの涙腺は決壊したかの如く、その頬に目頭に溜まっていたが零れ始める。

 

「あ、あかんなあ。嬉しい筈なのに、笑いたいのに涙が止まってくれへん・・・」

 

俺は黙ってはやてちゃんが泣き止むまで、赤ん坊をあやす様にはやてちゃんの頭を撫で続けた。

 

はやてちゃんが泣き止む頃、夜は明けて海の向こうから朝日が昇り始める。

 

「帰ろうか。はやてちゃん」

 

「・・・うん」

 

はやてちゃんの表情は朝日の陽光に照らされながら、暖かな笑みを浮かべながら、答える。

 

その笑顔にはもう・・・寂しさを含んではいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰った後、家では不思議な事が起こっていた。

 

まるで室内で台風が発生した様な惨状だった筈なのに、戻ってみると部屋はその痕跡は何も残っておらず、あの夜以前の状態に戻っていたのである。

 

分からない事といえば、その夜に現れて俺に謎の忠告をしてきた猫もだ。

 

あの夜以降、俺の目の前にあの猫は一度も姿を現してはいない。

 

いっそあの日の事は全て夢だったのではと考えた方がすっきりするかもしれないが、あれは紛れも無く現実で間違い無いだろう。

 

如何してか分からないが、あの猫とはそう遠くない未来でまた会う事になるんじゃないかと思ってしまった。

 

まあ、答えを知るには今の俺には情報が少なすぎる。

 

それと、補足になるのだが、俺ははやてちゃんにこの話はしていない。

 

話しておいた方が良いのではと考えもするが、今分かっている事を伝えても不安を煽る事しか出来はしない。

 

取り敢えずこの件に関しては、俺とメカ犬の心の中に留めて置く事にした。

 

消化不良に思う部分は多々あるが、こうしてこの一件は無事に解決したのである。

 

「店員さ~ん。お水の御代わりおねがいしま~す」

 

「はい。ただいまお持ちいたします」

 

未だに俺は翠屋のバイトに精を出していたりする。

 

あと三日程で恭也君が戻ってくるので、そうすれば俺の休みもかなり増えるのだが、それまでは毎日フル稼働である。

 

「本当に忙しそうね。純は」

 

「私もちゃんとお手伝い出来ればいいんだけどね」

 

「それは仕方ないよなのはちゃん」

 

俺のバイト風景を見ながら美少女三人組は翠屋でランチを楽しんでいた。

 

しかもそのランチは俺のバイト代である翠屋のタダ券によるものだったりする。

 

チャッカリしている事この上ない。

 

三人を見て溜息を吐くが、翠屋の玄関に気配を感じたので、俺は反射的に接客対応をとる。

 

「いらっしゃいませ・・・あ」

 

それは俺の知り合いだった。

 

いや、最近出来た新しい友達だ。

 

「本当にバイトしとったんやな純君」

 

車椅子に乗った少女、はやてちゃんである。

 

「いらっしゃい。はやてちゃん」

 

俺は改めてはやてちゃんに挨拶をする。

 

「何でも奢ってくれるって言うから来て上げたんやで」

 

はやてちゃんは胸を張って、美少女にご飯を奢れるなんて光栄に思うんやなと自信満々に言って来た。

 

あれから気付いたのだが、はやてちゃんは遠慮が無くなるとかなりノリの良い性格をしている様なのだ。

 

偶にそのテンションに振り回される事もしばしばだが、それがはやてちゃんの本来持つ魅力の一つだと俺は思う。

 

「はっ!?」

 

何やら突然背中に悪寒が走った。

 

「その子は誰かな純君?」

 

「いつ仲良くなったのかな?」

 

「勿論話してくれるわよね。純?」

 

何故だろう?

 

三人とも笑顔で俺に話しかけて、はやてちゃんを紹介してくれと言ってるだけなのに、それだけの筈なのに・・・

 

俺の本能が警告を鳴らしている。

 

俺はこの場で唯一頼れるであろう、はやてちゃんに助けてくれと視線だけで合図を送る。

 

その視線に気付いたはやてちゃんは俺に笑顔で任しときと答えてきた。

 

その笑顔が頼れる筈なのに何故か悪魔に見えた気がするのは俺の被害妄想だろうか?

 

はやてちゃんは、なのはちゃん達の目の前に移動すると自己紹介を始めた。

 

「どうも始めまして。八神はやてです。皆さんよろしゅうお願いしますね」

 

普通の自己紹介でホッとした俺だが、それはただの嵐の前の静けさである事を俺は思い知る事となる。

 

「純くんとは最近付き合い始めたらぶらぶカップルなんやで」

 

空気が凍った。

 

そして、笑顔を貼り付けたなのはちゃん達が俺に無言でにじり寄ってくる。

 

何この状況!?

 

『モテモテだなマスター』

 

店内の隅に座っていたメカ犬の、意味不明な一言により、翠屋の店内に嵐が巻き起こる。

 

この後一騒動起こったのは当たり前だが、それはまた別の機会に話せれば言いと思う。

 

何よりも、一人の少女の小さな願いが叶ったのだ。

 

これ以上言う事は無いだろう。

 

今日の海鳴は、賑やかで寂しさなど感じる暇も無いほどに平和である。

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