魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
試練の光を取り込む石の存在……
私の計画ではそんな物が出て来る事は有り得なかった。
しかし事実は受け入れねばならない。
これはもう迷っている時間は、無きに等しい場所まで来ているという、警告なのだろう。
全てが手遅れとなる前に、何としても試練の光の本当の力を手に入れなければ!
それが私の夢!
そして野望!
ならばあの石は私にとって、不要な塵でしかない。
一刻も早く処分しなければ、全てが水の泡となってしまう可能性すらある。
ならばするべき事は……たった一つだけ。
あの石を持つ、仮面ライダーの息の根を止める。
それが私に残された唯一の希望なのだから……
「これって結局何なんだろうな……」
俺はそう呟きながら、自室の蛍光灯の光に摘み上げた石をかざす。
元々は透明だった筈の石は、ある事を切欠に今は薄っすらと、白く濁った色へと変色していた。
その切欠というのは、数日前にアリシアちゃんと一緒に行ったプールでのホルダーとの戦いが原因だ。
ミルファがその場に居らず、ホルダーの身体から離れた試練の光は無効化される事無く、何故かこの石へと吸収されてしまったのである。
暫くは石そのものが、試練の光と同じく輝いていたのだが、それも数分の事で、今は少し白く変色してしまっているに過ぎない。
そもそも、この石自体が普通の石では無いのだ。
異世界で門番から託された試練の光と縁がある石なのである。
まず間違い無く、今回の現象にも何かしらの意味があるのだろう。
今は事情を話したミルファが、現状では一番試練の光について詳しく知っているであろう、ユーノに事情を説明しに行っているので、何か分かれば良いのだが……
「あ、もうこんな時間か」
ふと壁に立て掛けられた時計を見やり、俺は石をズボンのポケットに突っ込み急いで部屋を出る。
玄関で靴を履きながら、俺はこれからの予定を改めて考えてから……
「はあ~」
大きな溜息を吐き出した。
例の石の事も大きな懸念事項ではあるのだが、これから控えている予定も、個人的には中々に厄介な案件だったりする。
『うむ。マスターはもう出発するのか?』
「まあな」
靴を履いていると、背後からメカ犬が声を掛けて来たので、俺は靴紐を結びながら返事を返す。
『そうか……まあ、頑張ってくれとだけ言っておこうか』
「ああ、程々にはな。ところでさ……」
『どうした?』
「いや、さっきから廊下の影から、アリシアちゃんが俺の事を睨んでいる様な気がするんだけど……」
俺とメカ犬が居る玄関から少し下がった廊下の曲がり角の隙間から、此方を窺うアリシアちゃんの姿。
まるで美由希さんの持っている漫画に出て来る主人公の、空の鍋をぐるぐる回す妹が良く主人公に対してする表情に似てる様な気がしてならない……
まあ、それは俺の思い過ごしだとは思うのだが、どういった理由でアリシアちゃんがこんな奇行をするのかは、理解出来ない。
どうも昨日の夕飯時位から、ずっとこんな調子なのである。
『……それも仕方無いとワタシは思うぞ。今のマスターに言っても恐らく理解出来ないだろうが、敢えて言わせて貰うとするならば複雑な乙女心というものだ』
「乙女心ね……」
確かに俺は女性の機微に対して敏感だとは間違っても言えはしないが、それをメカ犬に諭されるのは、何か人として間違っている様な気がしてならない。
『ところでマスターは急いでいたのではないのか?』
「あ、そうだった!それじゃあ行って来るからな!」
メカ犬の指摘の通り、部屋を出た時点で待ち合わせの時間が刻一刻と迫っていたのを思い出し、慌てて俺は家を飛び出した。
ちなみに俺の本日の用事というのは、いわゆる【合コン】呼ばれる集まりに参加する事である。
合コンと言えば、多くの場合は大学生以上の男女が集まり、お酒を飲みつつ談笑などをしたりする事が一般的なイメージが定着しているが、一説によると明治時代にお金を出し合ってパンや餅菓子、焼き芋を買って食べながら歓談するコンパニーという集まりがあったというのが始まりだという話を風の噂で聞いた事があるが……まあ、合コンの起源が何だとしても、それは特に重要な話ではない。
現代の日本では地域にもよるが、早ければ中学生なんかもファミレス等で食事会に近い事を合コンと呼んでいたりする。
俺がこれから参加する合コンも、どちらかと言えば食事会に近いものだ。
そもそも何故、一介の小学生でしかない俺が合コンに参加する事になったのか、その起因は今日から五日程前にまで遡る。
五日前の平日の放課後。
普段の通り、学校が終わってから翠屋にアルバイトへ向かった俺を最初に出迎えてくれたのは、青い顔をしたヤスと田中さんだった。
田中さんは翠屋の常連さんの一人で、稀に気落ちしている時にも来るし、ヤスはヤスの方で現在片思い中の保奈美さんとの関係に一喜一憂するので、この二人が落ち込んでいるのは、最早この翠屋では嫌な意味で名物となっているのだが、今回に限っては何故か背中に寒気が走り、まだ店の扉を開けて五秒と経っていないのに、このまま帰りたいという衝動に駆られる。
だがアルバイトに来た以上このまま帰る訳にはいかないし、青い顔をした二人が俺に話を聞いて欲しそうにチラチラと見ているので、それを無視する訳にもいかず、俺は諦めを含む溜息を一つした後、気は進まないと内心で思いつつも話しかけてみる事にした。
「ヤス。今にも死にそうな顔してるけど何があったんだよ?それに田中さんも……」
「き、聞いてくれますか純の旦那……」
「取り敢えず、いつものを下さい……取り敢えずいつものを……」
俺が話し掛けると、ヤスが縋る様に俺の肩を揺さぶり、田中さんが小さな声で落ち込んでいる時特有の注文をまるで呪詛を紡ぐ様に、何度も小声で呟く。
はっきり言って、この光景は下手なB級ホラー映画よりも怖い。
早くも現状の二人に話し掛けた事へ後悔を覚えつつも、俺は二人の話を聞く事にした。
……それで話を聞いてみたところ、結論から言うのであれば、別に特別な話では無かったというのが、俺の素直な感想だ。
田中さんは例の如く、惚れた相手に振られたという話だし、ヤスにしても、保奈美さんをデートに誘うのを失敗したというだけで、普段から二人にとっては日常茶飯事の事柄だったのである。
ただ今回は、その時期が偶然にも重なり、お互いの近況を話す事によって、思考が不のスパイラルを形成してしまったという事だ。
「これは困ったな……」
俺は話した後も落ち込み続ける二人を前に、両腕を組みながら呟く。
落ち込んでいるのが一人だけならば、まだ愚痴を聞いているだけで済むのだが、それが二人となると、正直に言って面倒臭い。
時間を掛ければ、まだ何とかなるかも知れないが、この空気は他のお客さんに対して、迷惑極まりないので、店員の立場としては、一刻も早くこの場の暗い空気を払拭したいのだ。
どうすれば二人が少しでも早く立ち直るのかと考えていたその時。
「お!何そんなところで突っ立ってるんだよ板橋?」
「何か悩み事でもあるのかい?」
翠屋の扉が開き、俺に背後から二人の男性の声が俺に問い掛けてきた。
振り向くと其処に居たのは、鳥羽さんと長谷川さんという、意外にも珍しい組み合わせだった。
「長谷川さんに、鳥羽さん。二人が一緒に翠屋に来るなんて珍しいですね」
「ああ、今日は刑事さんに昼飯を奢って貰う約束をしてたんでな!」
「あはは……まあ、この前色々とお世話になったんでね」
俺の質問に対して鳥羽さんはそう言いながら、長谷川さんと肩を組み、長谷川さんはされるがままになりながら苦笑いを浮かべた。
「まあ、そんな訳だ。ところであの辛気臭い顔した奴らは何なんだ?」
「あ、あれはですね……」
鳥羽さんが指さしたのは、今にも地獄に落ちてしまうのではないかと心配になる程に、死んだ目をしたヤスと田中さん。
俺は取り敢えず、あの二人がどうしてああなったのかを、鳥羽さん達に手短に説明する。
「そ、そうなんだ……何だか板橋君も大変なんだね。色々と……」
話を聞き終えて、若干引き気味になりながらも、長谷川さんが俺に同情する眼差しを向ける。
同情するくらいならば、どっちか片方の愚痴を聞くのを申し出てもらいたいのだが、仮にもお客さんとして来ている相手に対して、店員の俺が言える立場では無い。
だがそんな俺のやるせない気持ちも、一瞬で吹き飛ぶ出来事が、次の瞬間に巻き起こる。
「何だよ!そんな小さい事で悩んでたのかお前らは!?」
何と話を聞いた鳥羽さんが、止めの一撃となるのではと心配したくなる威力の平手打ちをヤスと田中さんの背中に、豪快に笑いながら喰らわせたのだ。
「ぐへっ!?」
「がほうっ!?」
幸いにも命に別状は無かった様だが、案の定大きなダメージを伴い二人は咽た。
「女に振られたからってクヨクヨするなよ!」
「は、はあ……というか貴方は誰ですか?」
「あの、俺はまだ保奈美さんに振られたって決まった訳じゃないんですけども……」
尚も豪快に笑いながら、鳥羽さん。
本人なりに二人を元気付けようとしているのだと見ていて分かるのだが、当人であるヤスと田中さんの話が一切耳に入っていない辺り、ただ単に面白がっているだけなのではないかと、邪推してしまいそうになる。
「良し!女に振られて暗くなってるなら、明るくするのも女の話題に限る!今度の日曜は俺と一緒に合コンするぞお前ら!!!」
「「ご、合コン!?」」
鳥羽さんの唐突な発言に、声を揃えて肝心な部分を復唱するヤスと田中さん。
女の人に振られたのならば、その傷を癒すのは新たな女性との出会いだと鳥羽さんは言いたいのだろうか。
まあ、今のヤスと田中さんにはそれ位の荒療治をした方が、早いのかもしれない。
何にせよ、落ち込まれているよりは、多少煩くても今の方が断然良いので、後の事は鳥羽さんに任せて、さっさと着替えを済ませてウェイターとして今日のアルバイトを頑張る事にしよう。
「……あの、何で俺の肩を掴んでるんですか?」
そう思いながら着替えの為に、店の裏に回ろうとした俺の肩を鳥羽さんががっしりと掴んだ。
何故だろう……
店内に入った瞬間に感じた背中の寒気が、今になって鮮明に蘇ってくる。
「当然、板橋も参加だからな!それに刑事さんも!」
「はい!?」
「ぼ、僕もですか!?」
鳥羽さんによる予想外の合コンへの強制参加の言い渡しに、俺と長谷川さんは驚愕の声を上げる。
「安心しろって!俺が可愛い娘達との楽しい合コンをセッティングしてやるからよ!」
鳥羽さんの言葉に、俺は何一つとして安心出来る要素を見つけ出す事が出来なかった。
かと言ってこうなってしまった鳥羽さんを止められる者は誰も居ない上に、この話を一部始終聞いていた士郎さんと桃子さんまでが面白がって、当日は翠屋の一部を貸切にすると良いという提案までして来て、俺達が成す術も無いままに、ここに鳥羽さん率いる五人の男達の合コン計画は当日を迎える事となってしまったのである。
日曜の昼下がりの翠屋の奥の一角。
其処には見覚えのある四人の男達が居た。
「あ、こっちですよ純の旦那」
四人の内の一人である、ヤスが手を振りながら俺を呼ぶ。
ヤスの隣には田中さんが緊張な面持ちで座り、更にその隣には長谷川さんがアイスティーの入ったグラスの中の氷を、ゆっくりと掻き混ぜていた。
そしてこの合コンの発案者である鳥羽さんは、一番奥の席でケータイを片手に誰かと会話をしている様だ。
「少し遅くなったけど、大丈夫だったか?」
「はい。まだ相手の女性の方達は来てないから大丈夫ですよ」
俺の問い掛けにヤスが答えてくれた。
「……それじゃあそういう事で宜しく!」
俺がヤスと会話をしながら一番手前の席に座ると、ほぼ同時に鳥羽さんが電話を終えてケータイをジーンズのポケットに仕舞い込む。
「お、これで男性陣は全員揃ったな」
鳥羽さんは俺を見て、満足そうに頷く。
「電話であと10分位で女性陣が来るからな。早速、作戦会議といくか!」
「さ、作戦会議ですか?」
いきなりの発言に隣に座っていた長谷川さんが、不安そうに声を上げる。
「作戦会議って合コンで何の作戦を立てるって言うんです?」
「良いか?今回の合コンの主役はヤスと田中だ!」
俺の問いに鳥羽さんがズバリ答える。
「……えええ!?」
「お、俺達が主役って!?」
その答えに今度は、田中さんとヤスが驚愕する。
そんな二人の反応を他所に、鳥羽さんは語りだす。
「そんなのお前らを元気付ける為に決まってるだろうがよ。良いか?俺と板橋と刑事さんが場を盛り上げてやるから、二人ともガンガンアタックするんだぞ!」
何時の間にか、盛り上げ役に指名された俺と長谷川さん。
普通に合コンに参加して女性と仲良くなれと言われても困るのだが、急にそんな事を言われてもそれはそれで困るというものだ。
それは俺と共に盛り上げ役に任命された長谷川さんも同じだった様で、困惑の表情を浮かべながらストローで吸い上げた少量のアイスティーを、ストローが入っていた紙の包みに一滴ずつ垂らすという現実逃避を実行してしまっている。
ただでさえどんな相手がやって来るのかも分からないこの状況下で、合コンの素人である俺達に何が出来るのだろうかと考えるが、時間は無情にも過ぎ去り、答えが出ないままに約十分後、翠屋の扉の前から複数女性の声が響く。
恐らく時間的にみても、この声の主達が今日の合コンの相手となる女性陣と考えて、間違いないだろう。
その証拠に声の主達は扉を潜り、今日はウェイトレスとしてアルバイトをしている美由希さんに先導されつつ、真っ直ぐに俺達が居る奥の席へと近付いて来る。
「お待たせ鳥羽君」
……やって来たのは恵理さんだった。
「おう、待ってたぜ恵理ちゃん!」
鳥羽さんの受け答えからして、今回の合コンの相手の一人は恵理さんで確定だろう。
その事実に、まさかと思いつつ、俺は恵理さんの後ろに控える他の女性陣の顔を一人ずつ確認していくのだが……
「あら、今日は長谷川君も来てたのね」
相変わらずセーラー服の上に白衣という、ある意味ブレない格好で馳せ参じたのは恵理さんの妹でもある恵美さん。
「まあ、やっぱりヤス君も来てたんだ。今日はしっかりとエスコートしてね」
更に恵美さんの後ろから現れたのは保奈美さん。
「何だか今日は楽しい食事会になりそうね」
そしてこれまた続いてやって来たのは、海鳴デパートの子供写真館の店長にして恵理さんと鳥羽さんの高校時代の友人、古川さんだった。
しかも、この人はこの合コンを完全にただの食事会だと認識している節すらある。
一応今回は合コンなので男女比率を五対五にすると、鳥羽さんからは事前に聞いていたので、次が最後の一人なのだが、この展開から察するに、また俺の知っている人物が出て来て、先程古川さんが言っていた通り、名実共にこの合コンは完全に知り合い同士が集まっただけの食事会になるのではという考えが、脳裏を過るがその予想は意外な事に外れてしまった。
「ほら、岬ちゃんもこっちにいらっしゃい」
古川さんがそう言って手招きすると、小さな一人の女の子がトコトコとやって来る。
小さな女の子と言っても、間違い無く今の俺よりは少なくても二歳は年上だろうと思われる背丈ではあるが、その顔立ちは俺と同学年であるなのはちゃん達よりも幼いのではないかと思われる程に、幼く見え長く腰まで伸びた黒髪と円らな瞳、そして誂えた様に着こなしている白いワンピースが、その幼さを余計に強調させていた。
「えっと、椎名《しいな》 岬《みさき》です。宜しくね」
容姿から想像した通りの、ゆっくりと柔らかい口調で、何故か俺に向けて自己紹介をしだす椎名さん。
「ど、どうも……」
思わず返事を返しながら、俺はお辞儀をした。
この知り合いだらけの合コンにやって来た唯一の初対面である椎名さんとは、何者なんだろうかと考え出したその時、衝撃的な真実が明かされる。
「お、椎名っちも高校の時以来じゃねえか?相変わらず変わらないな!」
「うん。そう言う鳥羽君は、高校時代よりもワイルドになったね」
鳥羽さんの言葉に、意外な返答を返す椎名さんを見て、鳩が懐かしの寝起きドッキリバズーカを喰らった様な顔をしたのは、俺だけでは無いだろう。
元々知り合いらしい鳥羽さんは除外するとして、俺を含めた男性陣全員が同じ表情をしている。
「ま、まさかこの人って……」
この中で逸早く復帰出来た長谷川さんがネジの切れ掛けたゼンマイ式のロボットの様な動きをしながら、鳥羽さんに質問した。
「はは!驚いただろう刑事さん!何と椎名っちはこんな見た目だけど、俺達と同い年何だぜ!」
ある意味で予想通りな答えではあったが、その答えはやはり衝撃的である事に、何ら変わり無く俺達は心の底から叫んだ。
「「「「嘘でしょ!?」」」」
「……本当だよ」
綺麗に揃った俺達の否定の言葉に、椎名さんは頬を膨らませて私は怒ってるんだよという感じを前面に出しつつ訂正を求められた。
その仕草は、本人の意思とは関係無く、更なる幼さを強調させるのみだったのは言うまでも無い。
そんなこんなで合コンが始まり、暫くするとやはりお互いに見知った者同士の男女がペアとなって話す機会が訪れた。
最初は合コンと聞き、萎縮していた部分もあったが、相手の殆どが知り合いとなると、結果はまた変わって来る。
鳥羽さんは恵理さんと何時もの様に談笑しているし、長谷川さんに至っては、恵美さんとE2の新装備についてという合コンでは有り得ない仕事の話をし始める始末。
まあ、ヤスは何時もの通り、保奈美さんの会話に対して一喜一憂するという、図書館でもお馴染みな行動を繰り返しているので、放っておく。
そんな中で以外だったのが、田中さんと古川さんのペアだ。
田中さんは惚れっぽいところはあるが、そんな女性に対してガツガツと迫る方では無いし、古川さんもビジュアルこそ中々にスタイリッシュだが、清楚な物腰である。
そのせいか、何だか二人の会話が、軽い合コンや食事会というよりも料亭みたいな場所で行う様なお見合いっぽくなってしまっていた。
何せ田中さんの古川さんに対しての第一声が、古川さんの御趣味は……という格式張ったものなのだから押して知るべしである。
まあ、何だかんだで二人の会話は上手くいっている様なので、それは良いのだが……
「ねえ、板橋君はお休みの日は普段どんな事をしてるのかな?」
「今日は休んでますけど、普段はこの翠屋でアルバイトをする事が多いですかね」
「そっか、小さいのに偉いんだね」
この流れから、自動的に俺の話し相手は椎名さんとなる訳なのだが、何故か椎名さんの距離感が先程からおかしい。
俺と椎名さんは他のメンバーと比べてかなり身体が小さいので、広い席の対面上となると、結構話し辛くなるので、椎名さんが俺の隣に移動しているのだが、会話は基本的に俺に寄り掛かりながらな上に、時に俺の手と自分の手を絡めながらという何処か怪しげな雰囲気すら醸し出している。
本人曰く、この方がリラックスして話せるし、俺が子供だからついつい構いたくなるのだというので、好きにさせているのだが、幾ら見た目が小学生に見えていたとしても、実質二十歳過ぎの女性にされていると思うと、頭がショートしそうになるのは、前世の頃も含めて全くモテた事の無い悲しい男の習性と言えなくも無い。
だがそんな空気は、程無くして終わりを告げる事となる。
最初にこの場の空気を変えたのは、同時に鳴り出した長谷川さんと恵美さんのケータイの着信音。
更にそれを皮切りに、鳥羽さんのケータイにも着信が鳴り響き、最後に俺のタッチノートからも……
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
というこの海鳴市にホルダーの存在を知らせる警報が、この翠屋の店内で高らかに鳴り響いたのである。