魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「それじゃあ今日は、二人に山へ山菜を採りに行ってもらうとしようかの」
「「山菜採り?」」
玄大さんの意外な発言に、俺と真昼君は声を揃えて聞き返した。
それが気に食わなかったのか、真昼君は俺を睨み付けると、そのまま顔を背けてしまう。
俺と玄大さんはその態度に、苦笑いするしかなかった。
結局のところ、俺と真昼君による手合わせは、玄大さんの一喝の下に終了した訳なのだが、意外な事に真昼君は俺が合宿に参加する事を許可してくれたのである。
開始から数秒程で止められたのだから、文句の一つでも飛び出してくるものだと覚悟していたのだが、真昼君は俺や玄大さんにもこの件に対してだけは何かを言ってくる事は最後まで無かった。
後でこっそりと玄大さんと椎名さんが教えてくれた事なのだが、真昼君の初手の攻撃を防ぎ切った同年代の子供は今まで居なかったらしい。
二人が言うには、あの態度は真昼君なりの照れ隠しらしいのだが、その射抜く様な鋭い視線に晒される当人の俺としては、実力を認めてくれた云々は置いておくとして、確実に嫌われていると思う。
まあ、そんな経緯があった訳だが、俺も稽古に参加してから三日が経つ。
それでも声が合わさる事さえ嫌がるという事は、相当な嫌われようだなと我ながら悲しくなる。
合宿が始まり、今まで初日から四日目の午前中は体力作りの基本トレーニング。
そして昼食を食べてから食休みの後、道場でまたトレーニングの続きでもするのかと思っていたところに、先程の玄大さんの発言である。
「何で僕がこんな奴と一緒に態々、山に山菜を採りに行かなくちゃならないんだよ!?」
「そう言うな真昼。これも修行の一環じゃて」
唐突な要求に対して、真昼君が抗議を申し立てるが、玄大さんはその長い自身の白髭を撫でながら、一言で済ませてしまう。
「そんな事を言って……ただ玄爺が岬ネエの作った山菜の天ぷらを食べたいだけでしょ?」
「はっはっはっ!まあ、そんな些細な事は置いておいて、頼むぞ二人とも」
ジト目で言った真昼君の指摘にワザとらしく豪快な笑いを上げた玄大さん。
もしかして本当に天ぷらが食べたいだけで、俺達を山菜採りに行かせようとしているのだろうか……
どうにも底の見えない人なので確証は持てないが、既に俺と真昼君が山菜採りに行く事は決定済みとなっているらしく、玄大さんに追い立てられる様に、半ば強引に道場から追い出されてしまう。
「……ああなった玄爺に何を言ったところで無駄だからな……気が進まないけどお前も一緒に来い」
「え、俺も一緒に着いて行って良いの?」
真昼君が暗い表情のまま告げた提案に俺は思わず聞き返していた。
間違い無く俺は嫌われているから、一人でさっさと行ってしまうと思ったのだ。
「お前は山菜に詳しいのか?」
「いや、正直に言って全然……」
「だったら山に行っても、山菜を見つけられっこ無いだろう。僕は三年前から毎年山に入って玄爺や岬ネエと山菜を摘んでるから大体の種類と群生してる場所は分かる。玄爺は一杯食べるから量が必要なんだ。だから荷物持ちが必要なんだよ!」
真昼君はそう捲くし立てると、背中を向けて歩き出してしまった。
この三日で分かった事なのだが、真昼君は俺を嫌ってはいるが、とても良い人なのだという事だ。
実際に俺以外、なのはちゃん達と接する時は、若干緊張はするものの丁寧に接してくれている。
だから俺も真昼君とは、仲良くしたいとは思っているのだが、御覧の有様だ。
俺の方から仲良くしようとアプローチを仕掛けると、まるで野生の猫みたいに何処かへ走り去ってしまう。
だからこんなにも真昼君が俺と会話をしたのは、今日が初めてだったりする。
「……もしかして玄大さんは、それが目的で?」
真昼君の背中を追い掛けながら、俺はふと思った事を呟いてみたが、その答えが誰かから返ってくるという事は、当然ながら無かった。
山菜を採りに行く準備を整えた俺と真昼君は、山道を二人で歩いていた。
何でもこの山丸々一つが玄大さんの所有する土地らしいから、山菜は摘み放題なんだとか……
「だからって言葉通り根こそぎ山菜を摘んだら駄目だから!それと山菜によって摘み方も違うんだから僕の指示に従うように!」
「はい!了解しました真昼先生!」
念を押す真昼君に俺が元気良く答えると、気を良くしたのか一瞬だけ笑顔を浮かべるが直ぐに視線を鋭くさせてしまう。
この山菜取りが玄大さんが俺と真昼君の仲を心配して、企画してくれたものだったとしても、この調子ではその思惑も無駄に終わりそうである……
本来であれば山菜を取るには多くの準備が必要となるらしいのだが、俺達が今歩いている山道はこの時期は比較的に人通りも多く、あまり道場からも離れてはいないという事もあり、山菜を入れる為のカゴとナイフとハサミ。
それと非常連絡用のトランシーバーに、携帯食と飲料水が一食分といった最低限の物しか用意していない。
個人的にはこれだけでも中々の重装備だと思うのだが真昼君からは先程何度も、山を甘く見るなとは言われ続けているので、これでも本当に最低限なのだろう。
それでも今回行く場所に関しては、其処まで気負う必要の無い場所らしいので気構えだけはしっかりとしておけとの事だ。
それから真昼君の指揮の下、俺は山菜を摘んで山を回った。
実際には今回は採っていないのだが、春先に良く見かけるつくしも山菜の一種で茎の部分が美味なのだという山菜豆知識を真昼君から教えてもらったりしつつ順調に山菜採りを進めて、そろそろ帰ろうとしたのだが……
「あれって何をしてるんだ?」
山頂付近で三人の男達が集まって、何やら話し合っている様子が目に入った。
しかもその三人は見るからして、堅気の人とは思えない格好をしている。
まずこんな山の山頂付近で登山家ルックでは無く、スーツ姿なのが異常だ。
しかもビジネススーツではなく、其々に白、紫、赤といった目の痛くなる様な配色に、内シャツは派手な柄な上、その指や首下には金銀にきらめくゴテゴテとした装飾品の数々。
俺の偏見だったら申し訳無いが、そのいでたちは間違いなく、ヤの付く組織にお勤めしている方々にしか見えない。
「……あいつら!」
その三人を目の前にして、意外な反応をしたのは真昼君だった。
「あ、ちょっと!?」
俺が呼び止めるよりも早く、真昼君は俺を睨み付ける時よりも、更に鋭い眼光を三人にぶつけて駆け出していく。
「おい!何であんた達がこの山に居るんだ!」
敵意を剥き出しにして真昼君が三人に向けて叫ぶ。
「おや、誰かと思ったら椎名さんの所の御孫さんじゃないですか?」
意外にも紳士的な態度で、真昼君に接してきたのは、紫のスーツを着た男だった。
しかしその後ろから真昼君を見る赤と白のスーツを着た男達が向ける、睨みが決して友好的な間柄ではない事を物語っている。
「この前の勝負に負けて、この山にホテルを建てるって話は諦めたんじゃなかったのか!?」
「どういう事なのさ?」
「こいつらは地上げ屋なんだ!この山は行楽に来る人が多いから、山の上にホテルを建てたいから山を売れって……」
今は怒りのベクトルが目の前の三人に向っているからか、俺の質問にも普通に返事をする真昼君。
それにしても地上げ屋って……どうやら俺の偏見ではなく、本物な人達だった様だ。
「それでも玄爺に先月コテンパンにされて逃げ帰ったんだ。何で今更こんなところに……」
「ええ。確かに私どもはこの土地の権利者である玄大氏との土地の所有権を賭けた勝負に負けました。でもそれはただの口約束でしかありませんし、再戦を申し込んではいけないとも言われていませんでしたから……今回は改めて権利を手に入れた後に、ホテルを建てる場所の下見に来ていたんですよ」
「そんな屁理屈が通ると思ってるのか?それにお前らみたいな奴らが何人束になって襲ったって玄爺に勝てる筈がないだろ!」
確かに真昼君が言う通り、玄大さんに対しては人の数どころか銃を相手にしても、余裕で勝ってしまえるとさえ本気で思えてしまえる凄みがあるのだが、この紫のスーツの男性からは、得体の知れない自信を感じる。
一度手合わせしているというのであれば、玄大さんの強さはこの人だって理解している筈だ。
それでも真昼君が先程指摘した、数さえ揃えれば云々を本気で考えているのか、武器さえ使えばどうとでもなると楽観的な思考の持ち主なのか。
それならばもう一度痛い目を見るだけで終わると思うのだが、先程から妙な胸騒ぎがしてならない。
「相変わらず威勢の良い御孫さんだ。まあ、余興にまずは御孫さんに見せてあげた方が、恐怖感を煽れるかも知れませんしね」
そう言うと紫のスーツの男が後ろに控えていた赤いスーツの男に目配せした。
それを合図に一歩前に踏み出すと、赤いスーツの男は胸元のポケットからある物を取り出す。
「あれは!?」
取り出された物を前に、俺は驚愕の声を上げた。
緋色の小さな球体。
それを力強く握り締めた赤いスーツの男は、全身から眩い光を発生させる。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……」
更にこの現象と同じくして、俺のタッチノートが警報を周囲に響かせる。
その間にも、光に包まれた赤いスーツの男は肉体を変化させて、最後には異形の存在となった。
全体的に茶色い表皮と背中に生えた薄い二対の羽。
大きく離れたくすんだ色の丸い瞳と、先の尖った口。
身体のフォルムこそは人間がベースとはなっているが、その姿はまさしく夏に多く見かける昆虫の代表格である蝉に相違ない。
間違いなく奴はホルダーだ。
「ば、化物!?」
目の前でホルダー化を見た真昼君が動揺する。
その様子に満足したのか、紫のスーツの男は瞳を薄っすらと細めて下卑た笑みを俺達へと向けた。
「人間離れした相手には、こっちもこれくらいの事をしないとフェアじゃ無いでしょう?」
そう言うと紫のスーツの男は、もう一人と連れ立って、俺達に背を向けて歩き出した。
「殺すのは駄目ですが、少々怖がらせておいて下さいね。そうすれば良い脅迫材料になってくれるかも知れませんから」
去り際にホルダーへと告げた、その言葉が引き金となった。
ホルダーが一歩、また一歩と俺達に近付いて来る。
「早く逃げるよ」
「こ、こんな奴!」
「ち、ちょっと待って!?」
メカ犬がこの場に不在な為、一旦俺が真昼君を連れて逃げようと試みるが、真昼君は逃げるどころか、俺の制止を振り切ってホルダーへと突貫してしまう。
「このおおおおお!」
真昼君は素早くホルダーの腹部へと飛び込んで、拳と蹴りの乱打を叩き込む。
小さいがゆえに劣るであろう威力を補う為に、回転を加えたりと、恐らく相手が生身の相手であれば充分に効果を発揮したであろう攻撃だったが、その攻撃はホルダーに対して何ら意味を成さなかった。
「あっ!?」
まるで近くを飛ぶ羽虫を追い払う様に無造作に振ったホルダーの手の風圧だけで吹き飛ばされる真昼君。
「危ない!」
俺は真昼君が吹き飛ばされると同時に真昼君の吹き飛ばされた方角へと先回りして、何とか受け止める事に成功する。
「お、お前……なんで今の内に逃げなかったんだよ!?」
「逃げるなら一緒に逃げるよ。それにあの怪物……ホルダーとはどっちにしろ戦う事になるんだけどさ」
俺は真昼君に怪我が無い事を確認してから、タッチノートを開いて操作する。
『チェイサー』
タッチノートから音声が響き、山道の向こう側から聞き慣れたエンジン音が着実に此方へと近付いて来る。
その間にもこっちに迫り来るホルダーだったが、俺達に危害を加えるよりも早く、そのエンジン音を放つ主。
俺の呼び出しに答えて来てくれたチェイサーさんが、得意のバイクアタックを決めて、ホルダーを見事に吹き飛ばした。
『お待たせよんマスター』
「いつも絶妙なところでありがとうございますチェイサーさん。それでメカ犬は……」
『当然ワタシも居るぞマスター』
俺が言い終わるよりも早く、メカ犬がチェイサーさんの座席から飛び降りて、俺の横に着地した。
思った通り、メカ犬もこのホルダーの反応に気付いていた様だ。
だからチェイサーさんを呼べば、一緒にこっちに向っている途中であろうメカ犬も一緒に来ると踏んで、一番にチェイサーさんを呼んだのだが、予想通りで本当に良かった。
「真昼君は少し下がってて!」
「え、お、お前って……」
真昼君が俺に何か言おうとしてはいるが、残念ながら今はその質問に答えている余裕は無い。
既にチェイサーさんのバイクタックルのダメージから復活したホルダーが、再び此方へと迫っていたからだ。
「行くぞメカ犬!」
『うむ!』
俺はメカ犬の合意の声を聞くと同時に、タッチノートのボタンを押す。
『バックルモード』
タッチノートから流れる音声と共に、俺の隣に居たメカ犬がベルトに変形して俺の腹部へと巻き付く。
「変身」
音声キーワードを紡ぎ、俺はタッチノートをベルト中央部分の溝へと差し込む。
『アップロード』
それと同時に俺の全身は光に包まれ、その姿を一人の戦士へと変えていく。
「か、仮面ライダー?」
メタルブラックのボディーに赤い二つの複眼が特徴的なこの姿を目の前に、真昼君が今の俺が名乗るべき名を口にする。
「大丈夫。こんな悪夢はここで終わらせるから!」
俺は背中越しに真昼君に言ってから、一気にホルダーへと駆け寄る。
俺が変身した事に驚いたのだろう。
無防備状態のホルダーに対して、強烈な拳の一撃が命中する。
それを皮切りに、拳と蹴りの乱打を浴びせ掛けるが、ホルダーはこの連撃に耐えた上に、バックステップを踏むと背中の両羽を大きく広げた。
『まずいぞマスター!このままでは逃げられてしまう!』
「分かってるさ!」
メカ犬の助言に応えて、俺はホルダーが飛ぶ動作に移る前に、ホルダーと再び距離を詰めつつ、ベルトの右側をスライドさせて赤いボタンと黄色のボタンを連続で押していく。
『パワーフォルム』
『パワーブレード』
メタルブラックのボディーが鮮やかなクリムゾンレッドへと染まり、俺の右手には光の粒子が集まり、このパワーフォルムの専用武器である赤い刀身を持つパワーブレードが生成される。
「はああああああああああ!」
俺は裂ぱくの気合と共に、ホルダーの右翼を斬り裂いた。
片羽を失い飛行能力を失ったホルダーに、俺は更に畳み掛けようと試みるのだが……
近付いて来た俺に対して、背を向けたホルダーの丸みを帯びた下半身のある一部分から謎の液体が発射されたのである。
「うわっ!?」
思わずその一撃を避けるが、ホルダーは二撃、三撃と連続で謎の液体を発射して来た。
「これってもしかして……」
『いや、あれは蝉の特性を兼ね備えては居るがホルダーに変わり無いからな。マスターが考えている様な生理現象では無いと思うぞ』
蝉の特性を思い出して、俺はまさかという考えに至るが、その考えをメカ犬が即座に否定する。
それが正解だと示すかの様に、謎の液体が付着した部分が溶解している事から、あの液体があれでは無い事だけは分かった。
『どうやらあの液体は強い酸性を持つ溶解液の様だな』
「迂闊に近付くのは危険か……それなら!」
機動力に乏しいパワーフォルムでは、あの溶解液を掻い潜りながら接近するのは難しい。
だから俺は再びベルトの右側をスライドさせて、今度は黒いボタンを押す。
『ベーシックフォルム』
音声と共に、クリムゾンレッドのボディーがメタルブラックに戻る。
速さを重視するのであれば、スピードフォルムにした方がこの場では適任かもしれない。
だが相手のホルダーは其処まで早く無いので、出来るだけ確実な手段で行く方が良いと考えて俺はあえてベーシックフォルムを選択した。
「もういっちょ!」
俺はベーシックフォルムになると続け様に今度は黄色いボタンを押す。
『ベーシックファントム』
ボタンを押した瞬間、今度は大量の光の粒子がベルトから飛び出して、俺の隣でシードと瓜二つの分身体を生成する。
「二人で撹乱するぞ!」
『うむ!』
分身体を操るメカ犬の同意を得て、俺達は左右に分かれてホルダーへと接近して行く。
それをホルダーが黙ってみている筈も無く、溶解液を俺と分身体へ交互に発射して牽制してくるが、狙いが二つに増えた事によって、その意味を殆ど成さなくなる。
『ここだ!』
そしてホルダーが俺を牽制する為に、溶解液を放った次の瞬間、充分に距離を縮めていた分身体を操作してメカ犬がホルダーの背中に強烈な飛び蹴りを叩き込む。
背中から強い衝撃を受けて、バランスを崩したところへ、今度は俺が一気に距離を詰めて、拳を顔面に叩き込み、最後は俺と分身体が同時にホルダーの腹部に対して、蹴りを見舞い吹き飛ばす。
『今だマスター!』
「ああ!」
メカ犬の言葉に頷きながら、俺はタッチノートをベルトから引き抜き、分身体の背中のベルト部分に設けられている溝へ、タッチノートをスライドさせる。
『ロード』
音声が流れる事を確認した俺は、タッチノートをもう一度ベルトの溝へと差し込む。
『アタックチャージ』
俺と分身体。
両者の右足にベルトから発生した光が集約していく。
それはこの戦いを決する、最大の一撃を放つ準備が整った事を意味していた。
「『こいつで決めるぜ』」
俺と分身体は同時に構えた後、同時に高く跳躍して光輝く右足をホルダーに向けて突き出す。
「『ツインシードスマッシュ』」
俺と分身体による必殺の蹴りが、容赦無くホルダーに叩き込まれ、再び後ろへ大きく吹き飛ばされたホルダーは背中が地面に着くと同時に、大きな音を響かせながら爆発を引き起こす。
その爆発後には、気絶した赤いスーツの男と粉々に砕け散った緋色の暴走プログラムが風に流されて消えていくのみだった。
その光景を前にして、これで全てが解決したとは思えないが、取り敢えずの危機は去ったのだと俺は心の中で安堵する。
……だからだろうか。
俺はこの時、この戦いの一部始終をある人物に見られていたという事に最後まで気付く事は無かった……
色々とトラブルは発生したものの、何とか無事に山菜採りを終えた俺と真昼君は、無言のまま椎名宅への帰還を果たした。
その間、此方としても例の地上げ屋に関して聞きたい事はあったし、俺が変身した事情もそれとなく説明しなければならないとは思ったのだが、真昼君は終始無言を貫き、会話が出来そうに無かったので、話を諦めて日が沈む前に帰る事を優先させた。
椎名さんに渡した山菜は、玄大さんの要望通り、天ぷらとなって食卓に並び、賑やかな夕食が始まってもなお、真昼君が俺と会話をする事は無かったのだが、ふと気付くと真昼君が俺を見ている事に気付く。
だが俺が視線を向けると、直ぐに視線を外してしまい、俺がまた食べ始めるとまた視線が向けられるという繰り返し。
それが食事中の間、ずっと続いた。
今日だけでも色々とあったし、話しをするタイミングをお互いに完全に逃してしまった為、気になるというのは理解出来る。
視線にも、これまで毎日感じていた怒気が含まれていないので、ただ純粋に俺と話をしたいと向こうも思ってくれていると考えるのは、流石に自惚れだろうか。
やがて食事も終わり、ちょっとトイレに行こうと席を立ち、俺が廊下に出たその時だ……。
「……あ、あのさ」
遠慮がちな声で俺は呼び止められた。
呼び止めたのは、他の誰でもない、真昼君だった。
真昼君は現在、使い古された無地のTシャツに短パンというとてもラフな格好をしている。
実は俺が真昼君の胴着姿以外の格好を直接見たのは、今回が初めてだったりするので、何だか新鮮に思えた。
それというのも、今まで真昼君は、俺が居るという理由で、今まで食事も別々に摂っていた上に、この椎名宅はとても広く、お互いが合おうと思わなければ、ニアミスする事すら困難だったのだ。
お風呂の時間もわざと俺とずらしている節すらあったので、この夕食で一緒になった時、何だか微笑ましい雰囲気が周囲から俺と真昼君に注がれたりもした。
「……どうしたの?」
俺はそう答えてから、真昼君の反応を待つ。
「あのさ。用事が済んでからで良いから……僕の部屋に来てくれる?道場に行く為に中庭に出る中央口の斜向かいの部屋が僕の部屋だから」
用件だけ早口で言うと、真昼君は俺が返事をする間も無く、脱兎の如く廊下を走り去ってしまった。
その後、用件であるトイレを済まし、俺は真昼君に言われた通りの部屋の前まで来ていた。
「真昼君?俺だけど入るよ」
そう声を掛けてから俺が部屋に入ると、意外な光景が広がっていた。
部屋を見て、最初に抱いた感想は……
あれ?椎名さんの部屋と間違えたかな?というものだった。
何せ、部屋の中の装飾は基本的に薄いピンクの水玉が全体に飛び散る様に広がっており、その中をファンシーなぬいぐるみ達が所狭しと並ぶ光景は、何処までも少女の部屋という印象だった為だ。
見た目は兎も角、恵理さんと同級生である椎名さんがこんな趣味をしていると考えるのも相当なものだが、それでも真昼君の部屋だと考えるよりは説得力がある。
だって真昼君ならばイメージ的に、シンプルなイメージや格闘技関係のポスターが張ってあるとか、そういう感じの方が納得出来るだろう。
「待ってたよ」
だがそんな俺の考えを否定するかの様に、真昼君は部屋の中に居て、このファンシーワールドへと迷い込んでしまった俺に、当然な顔をして声を掛けてきた。
「え、えっと……何だか可愛い部屋だね?」
俺は頭では他人の趣味にとやかく口を出すべきでは無いと分かっていながら、気付けばそんな台詞を口にしてしまっていた。
「やっぱりそう思う?まあ、僕だってこれでも一端の女の子なんだから、部屋くらいは可愛くしておこうかなって」
「え?」
俺は真昼君が何気に口にした言葉に、一瞬ではあるが固まってしまい、目を見開く。
そして俺はこの合宿に参加して四日目の夜。
新たな真実に気付く事になった。
真昼君は……真昼君は君では無く、真昼ちゃんだったのだという衝撃の事実に……
そんな衝撃の事実が明らかになると共に、俺の波乱に満ちた合宿生活はまだまだ続く。