魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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番外編 シルバーライト島の小さな大冒険

青い空と白い雲。

 

燦然と輝く太陽に照らされて、キラキラと輝く珊瑚礁の砂浜。

 

エメラルドに透き通る海。

 

そんな南国の大地に、今一匹のフルメタルな手乗りサイズの犬が四足を踏み締める。

 

『皆、まずは各自キャンプの用意を始めるぞ』

 

ここシルバーライト島の王家専用ビーチに、一匹の鉄の獣の咆哮が響くが……。

 

『あの、先輩』

 

『うむ。どうした?』

 

『誰も先輩の話を聞かないで海に突っ込んで行きましたけど』

 

フルメタル犬の隣りで荷物を風呂敷袋で背中に背負ったメタルレッドな竜が、意見しながら近くに散乱する荷物を集めつつ、前方の海に向って指を示す。

 

『海だわさ~海なのだわさ~♪』

 

『これからこんがりボディーに焼いて夏を先取りするじゃん!って何か綺麗な小瓶が落ちてたじゃん!』

 

『今日のセッシャは海鳥でゴザル。セッシャのペンギンも真っ青な華麗な潜水泳法をとくと見るでゴザル』

 

その先には、メタルブルーのイルカとメタルグリーンな虎に、メタルホワイトな鳥が、楽しそうに海を満喫する姿があった。

 

『……取り敢えず奴等を一発蹴り飛ばしてくるか』

 

『手伝いますよ先輩』

 

今ここに、五匹のフルメタルな奴等の小さな大冒険が幕を上げた。

 

 

 

 

 

メカ犬達の大冒険 人魚の試練と三賢者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遊ぶのは構わないが、まずはキャンプの設営だ。しっかりと寝床を準備しておかないと、明日にはワタシ達の間接部分が塩まみれになって、迎えのチェイサーが来るまで身動き出来なくなるぞ』

 

『先輩の言う通りです。折角マスターにお暇を貰って皆でバカンスに来たのに、野宿なんてボクは嫌ですからね』

 

メカ犬とメカ竜の説教を聴きながら、先程まで遊んでいた三匹のフルメタルなアニマル達は、渋々とキャンプの設営を開始する。

 

彼ら五匹のフルメタルなアニマル達は、普段は日本の海鳴市という場所で、一人の少年と共に、何時終わるとも知れぬ戦いに身を投じる日々を過ごしていた。

 

だが例え機械の身体でも、心の休息は必要だという意見が五匹による月一の定例会議で議題に上がり、リーダー的ポジションを担い、常に少年と共に居るメカ犬を中心として話を進め、ついに今回の二泊三日のシルバーライト島でのバカンスを勝ち取ったのである。

 

普段は事情があってあまり海鳴市を離れる機会が少ない為、海を見た瞬間に当初の予定であったキャンプの設営準備を無視して、遊ぶ事に走った三匹の事も、多少は理解出来るというのがメカ犬とメカ竜の本音だ。

 

『犬ッチと竜ッチは生真面目過ぎるじゃん。まだ昼過ぎなんだしテント張るのは夕方でも良いじゃん』

 

『アタイは他の皆と違って防水加工がしっかりしてるから、海の中で寝てもへっちゃらなんだわさ~』

 

『セッシャ達が悪いのではない。正気を失わせるこのエメラルドに輝く魔性の魅惑を放つビーチが悪いのでゴザル』

 

そんなメカ犬達の心情も知らず、頭部をタコ殴りされた事を根に持ち、メカ虎、メカ海、メカ鳥は好き勝手に言いながらもしっかりとキャンプの設営の為に働く。

 

文句を言うにしても、結局はバカンスする間の拠点は必要になるので、どうせなら早く準備を済ませた方が、気兼ね無くこのバカンスを堪能出来ると算段したのである。

 

そんな三匹に溜息を吐きつつも、メカ犬とメカ竜も三匹が設営をしている間に、このバカンス中に使うであろう荷物の整理を開始した。

 

『魔性の魅力を放つって、確かに綺麗な海ですけど、この島をそんな呪われた島みたいに言うのは失礼ですよね』

 

『うむ、確かにこの島は呪われてはいないだろう。だがなメカ竜よ。以前にマスターと共に聞いた話では、どうやらこの島には、古くから伝わる人魚伝説という物語があるらしいぞ』

 

荷物を整理しながら、メカ竜が近くで同じ作業をしているメカ犬に軽い世間話のつもりで、先程大袈裟に言っていたメカ鳥の言葉に意見してみるが、メカ犬は意外な返事を返す。

 

以前にクリスマス後にこの島に来た際に聞いた話を、メカ犬は思い出しながらメカ竜に聞かせた。

 

※(詳しくは本編の弟20話 真冬のサマーバケーションを御参照下さい)

 

『……なるほど。そんな伝説があったんですか』

 

『うむ。この設営地から浜辺に出て、西に歩けば確か人魚の入り江と呼ばれている場所に辿り着くのだが……いや正確には元と付けるべきかな』

 

『元?』

 

『いや、理由があって以前にその場所はマスターとワタシとメカ海で跡形も無く破壊したから現存しないのだ』

 

『……そうなんですか』

 

予想外にバイオレンスな事の顛末を聞き、メカ竜は心持ち、約一歩分程にメカ犬と距離を取った。

 

『いや、そうしないといけない理由はあったし、ちゃんとその場で所有者の許可も取ったのだからな!?』

 

あらぬ誤解をされたと感じ取ったメカ犬は、必死に弁明するが何気にこの五匹の中でもわりと酷い目に遭う事の多いメカ竜はこれ以上この破壊活動に関する話題を続けるのは止めておこうと心に決めた。

 

『そう言えば人魚伝説の縁の地って他にもあるんですか?』

 

『メカ竜よ。お前今、明らかにこの話を無かった事にしようとしてるだろう!?ただ単にワタシ達は……』

 

『そんな事よりも続きを話すじゃん』

 

気が付けば、何時の間にかテントを張り終えたメカ虎達が、メカ犬の話す人魚伝説を興味津々な態度で聞き入っていた。

 

『……うむ。そうだな、実は今回のバカンスに行く話し合いの際にエミリー嬢から聞いたのだが、島で長く語られ続けてきた話と平行してもう一つ人魚に関する物語が存在するらしいのだ』

 

弁明する空気でもないと、自らを納得させて、メカ犬は渋々とメカ竜が促した通り、皆が気にしている人魚についての物語を語り始める。

 

『またさっきみたいな歌で嵐を割ったとかって話だわさ~?』

 

『いや、今度の話は伝説というよりも作者がしっかりと分かっている昔話でな。何でもこの島は若い人魚が一人前となる為の修行場らしい』

 

『このようなバカンスに最適な地で特訓でゴザルか?』

 

『うむ。その昔話では一人前の人魚は一時的にではあるが、人の暮す世界に一時的に身を置き生活する事が一人前になる為の修行なのだそうだ』

 

『それじゃあ、この島の中には正体を隠して人間として暮す人魚が居るかもしれないって事ですかね?』

 

『本当にそうならば、中々にロマン溢れる話なのだがな。しかし人魚の修行において、人間に化けて生活するというのは、修行としてはかなり後半に位置する話なのだ。まず修行中の見習い人魚は人間に化ける術を自らの意思で可能とする為に、この島で三つの試練をクリアしなければならない』

 

『話の展開が本当に昔話って感じになってきたじゃん』

 

『だから最初に言った筈だぞ。この話は作者がしっかりと判明しているし、そもそも書籍化されたのも精々100年程前の話だからな』

 

メカ犬はこの話に関しては、最初に話した古くから伝わる伝説ではなく、この島の伝説を聞き島と人魚を題材に書かれた小説の一つだと認識して話している。

 

『折角冒険の予感を感じたというのに、ただの作り話でゴザルか……』

 

明らかにがっくりと翼を項垂れるメカ鳥。

 

『まあ、こういった話の大抵は創作物だろうからな。それよりも設営が終わったのなら、話はこれぐらいにして海にでも行こうじゃないか。折角バカンスに来たのだからな』

 

気落ちしていたメカ鳥を励ました後、メカ犬達一行は、今度こそバカンスを堪能すべく海へとくり出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにかが其処の茂みに居るでゴザルな』

 

『野生のタヌキとかなんだわさ~?』

 

キャンプの設営地から目的地の浜辺を目指し、林の中を歩いていたメカ犬達一行だったが、その道中に上空を低空移動していた、メカ鳥とメカ海が木の葉の中に蹲っている何かを発見した。

 

『野生のタヌキ?それにしては少し大き過ぎる様な気もするがな』

 

『確かに茂みに隠れて良く見えませんけど全長一メートルはありそうですね』

 

『もしかしたら突然変異のタヌキじゃん!?』

 

二匹の言葉に何かが居る茂みの側へとやってきたメカ犬、メカ竜、メカ虎の三匹も興味深げに茂みの中を覗き込む。

 

するとその茂みの中には、タヌキではない、予想外の生物が潜んでいた。

 

『……人間の少女か?』

 

『……いや、魚じゃん?』

 

その生物が何かを口にしたメカ犬とメカ虎だったが、その意見は一致しなかった。

 

丁度メカ犬がその生き物が横になっていた為に上半身部分を見て、逆に下半身の部分を先に見たメカ虎の意見だったのだが、その言葉はどちらも嘘を言っている訳ではなく、見たままの真実を口にしただけなのである。

 

『……これって人魚じゃないんですか?』

 

そしてメカ犬とメカ虎の丁度間に位置していたメカ竜が、その生き物の全体像を逸早く見ていた為、ショックからくる数秒のタイムラグを経て、一般的にこの生物が何と呼ばれているのかを口にした。

 

メカ竜が言った通り、上半身は薄い桃色のウェーブが掛かった長い髪の年頃は10歳前後と思われる少女で、下半身に至っては虹色に輝く鱗と尾鰭という魚の特徴を持つ存在が幸せそうな寝顔を晒しながら確かに其処に居たのだが……。

 

『でもそれにしては随分と近代的な格好をしているでゴザルな』

 

『きっと今の人魚も、グローバルなんだわさ~』

 

メカ鳥とメカ海が指摘した通り、目の前で爆睡する人魚は柄物のTシャツに、デニム生地のミニスカートという、これで下半身が日本の足ならば、夏場には良く見掛けるであろう普通の女の子としか言いようの無い格好をしていた為に、人魚が本来持つべき神秘性の殆どは失われていた。

 

『先輩。この娘……どうしますか?』

 

『うむ。幸せそうに眠っているから、このままそっとしておいた方が良いかも知れぬが、暖かいとはいえ、外で寝ていたら風邪を引くかもしれないな』

 

『それなら皆で起こしてやるのが、親切って奴じゃん!』

 

メカ虎の言葉に賛同し、五匹は人魚の少女を囲み、各々が前足や翼等を駆使して、人魚の少女を起こす為につつき始める。

 

「……う、う~ん?くすぐったい……っての……え、ちょ、な、なにこれ、私ってば何でこんな状況に、嫌、止め、何で私小さなフルメタルな動物軍団に小突かれてるの!?」

 

親切心から始まったメカ犬達の行動は、目を覚ました人魚の少女に多大なパニックを引き起こす結果となってしまったのは言うまでも無かった……。

 

誰だって目を覚ました際に、見知らぬ小さな機械の動物達に小突かれていたら、それはホラー体験であろう事は間違いない。

 

下手をすれば一生のトラウマレベルである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……という訳で、ワタシ達は別に怪しい者ではない。ただ単に南の島にバカンスに来た一般的な旅行客だ』

 

「そ、そうなんだ?」

 

パニックに陥った人魚を何とか宥める事には成功したメカ犬だったが、フルメタルな手乗りアニマル達が一般的だという意見はこの際、無視しても構わないだろう。

 

『取り敢えず人魚さんにボク達の自己紹介をしましょうよ先輩』

 

『うむ、そうだな』

 

メカ竜の意見を聞き入れメカ達一行は、落ち着いたところで自己紹介を始める。

 

『ワタシはメカ犬だ』

 

『ボクはメカ竜と言います』

 

『アタイはメカ海だわさ~』

 

『オレッチはメカ虎じゃん!』

 

『セッシャはアレキサンドル・メタルブレイカー・J・バードイーグルデリシャスグレート・リーサルグラビティー・スタンドアローン・エンドオブブレード『長いだろうからメカ鳥と呼んでやってくれ』それは無いでゴザルよ!?』

 

あまりにも長い自称だったので、メカ犬によって略された。

 

普段は彼等のマスターの仕事なのだが、不在な為に今回はメカ犬が代行を行う事となった訳だが、仮に略される事が無いとしても、あんなにも長い名称を毎回呼ぶ酔狂な輩が居るとは考えにくい話である。

 

「ず、随分と変わった名前なんだね?」

 

およそ名前とは思えないセンスの名前を連続で聞き、人魚の少女の頬が引き攣るが、この名前を付けた少年のネーミングセンスが悪いのだから仕方ない。

 

『まあ、色々と思うところはあるが、大切な人がくれた名前だからな』

 

『人魚さんの名前はなんだわさ~?』

 

「え、えっと私はマリンよ。宜しくね」

 

人魚の少女改め、マリンは律儀にも先程まで小突いていたメタルなアニマル集団に自己紹介をした。

 

『マリンっチは人魚なのにどうしてこんな茂みの中で寝てたじゃん?』

 

全員が簡単な自己紹介を終えたところで、メカ虎が当然の質問をする。

 

人魚が本当に実在するとは思っていなかったが、もしも居るとすれば大多数が海辺を想像するのは彼等、メカなアニマル達も例に漏れず、当然このような場所に人魚が居る理由を知りたいと思うのは当たり前の話だ。

 

「その、言い辛いんだけど私って実は人魚としては半人前なのよね……」

 

マリンは目を泳がせながら言った。

 

『伝説の三賢者による三つの試練……』

 

マリンの話を聞いて、メカ犬はバカンスに来る前に聞いた人魚の物語の一説を呟いた。

 

「え!?何でメカ犬さんがその言葉を知ってるの!?」

 

予想外な事に、メカ犬の言葉にマリンは驚愕する。

 

『ち、ちょっと待って下さい。さっき話した先輩のお話って本にもなってる創作のお話なんですよね?』

 

『うむ。確かにその筈なんだが……』

 

『もしかしてその話って実話じゃん!?』

 

『そうなんだわさ~?』

 

『これはもしかするともしかするでゴザルかああああああああああああ!?』

 

マリンの驚愕する姿を前に、俄かに騒ぎ出すメタルなアニマル達。

 

特にメカ鳥の動揺は激しかった。

 

「な、何で皆そんなに驚いてるの!?」

 

『実はこの話はこの島で有名な小説なのだが、まさか事実だとは思ってもいなかったな』

 

「はふぇ!?この修行って本になってるの!?私そんな話聞いた事無いよ!?」

 

お互いの認識のズレも手伝い、この小さな騒動は数分に渡って続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり後三日で私は三人の賢者様に会って、三つの試練をクリアしないといけない訳なのよ」

 

『本当に物語通りの展開なのだな』

 

マリンの課せられた人魚の修行の流れと、メカ犬が知っている話の殆どが符合していた事を確認した一人と一匹は、複雑な気持ちをそのまま吐き出すかの様にして溜息をつく。

 

『それにしても後三日で三つの試練を全てクリアするのは大変ではないか』

 

『大変ってどういう事です?』

 

「この修行に失敗すると、またこの修行を受ける為に一年間の間、海で修行をしなくちゃいけないのよ」

 

『それなら急いだ方が良いんだわさ~』

 

「そうしたいんだけど……大きな問題があるのよね」

 

急かすメカ海に対して、マリンは頬を掻きつつデニムスカートにチラッと視線を向ける。

 

『……まさかマリン嬢は、アレを失くしたのか!?』

 

『アレとは何でゴザル?』

 

『物語の中にも出てくるアイテムなのだがな。半人前の人魚は自身の力で、人化する事が出来ない。だが半人前の人魚は修行の為にこの島に来る必要がある。だから修行する半人前の人魚は一時的に人となる為の魔法の薬を貰う筈なのだが……』

 

「その薬を落としちゃって……探してる間に薬の効果も切れて身動き出来なくなっちゃって、この茂みで不貞寝してたのよ」

 

バツが悪く苦笑いを浮かべるマリン

 

『それって笑ってる場合じゃないじゃん!?』

 

メカ虎の言う通り、笑い事ではない。

 

本来ならばこの三つの試練の期日は物語の中では一週間と定められているのだが、実際の期日は既に半分を切っている。

 

『それならばワタシ達がその魔法薬を探してこよう』

 

「え!?本当に良いの!?」

 

メカ犬の提案にマリンは声を上げる。

 

見ず知らずの他人どころか、伝説上の生き物とされている他人魚の落とし物を探してくれるというのだ。

 

それは驚きの声も上げるだろう。

 

だが、このフルメタルな手乗りアニマル達は、そんじょそこらの動物の群れとは訳が違うあらゆる意味での猛者の集まりである。

 

『うむ。困っている誰かが居れば助けるのは当然だからな。それにこの場に居ないワタシ達のマスターならば、困っているマリン嬢を見れば、きっと理由も聞かずに助けると言うだろう』

 

メカ犬の言葉に、他の四匹も力強く頷いた。

 

「……皆ありがとう」

 

『礼は見つかってからにするじゃん』

 

『それよりもその魔法薬を何処で落としたのか心当たりはないんですか?』

 

「……えっと確か浜辺で使った時はあった筈なのよ。でも最初の賢者様に会いに行く途中で無くなってる事に気付いて探してたらこうなっちゃったから……多分ここから浜辺に行く間にあると思うんだけど……」

 

『落ちた経緯はそれで大体分かったでゴザルが、肝心の魔法薬はどんな形をしているでゴザル?』

 

「魔法薬は液体状の飲み薬で、綺麗な小瓶に入れてあるのよ」

 

『……綺麗な小瓶って、もしかしてこれの事じゃん?』

 

まさかという思いからもメカ虎は、ビーチに来た直後に拾った小瓶をマリンの前に差し出した。

 

「そ、それよ!それだよ!ど、ど、ど、ど、何処でそれを拾ったの!?」

 

『何処って其処の浜辺で拾ったじゃん』

 

「あ、ありがとうこれで賢者様のところに行く事が出来るわ」

 

メカ虎から魔法薬を受け取ったマリンは、小瓶の蓋を開けて中の液体を一口呑む。

 

するとマリンの人魚を表す魚の尾の部分が輝き出し、人間の足に変化した。

 

『うむ。これが魔法薬の力か』

 

『本当に人間になってしまいましたね』

 

『凄いんだわさ~』

 

『良かったじゃん』

 

『これが魔法の神秘でゴザルか!』

 

マリンが人間の姿になる瞬間を前にして、メカ犬達一行は各々が感嘆の声を上げる。

 

「やったー!これでお姉ちゃんに怒られずに済むわ!それじゃあ、メカ犬さん達には本当にお世話になりました!あんまり時間が無いからお礼は後でになるけどきっと恩返しに行くからね!」

 

人間の姿となったマリンは口早にそうはやし立てると、凄まじい勢いで走り去ってしまった。

 

『……行ってしまったな』

 

走り去ったマリンの行く先を見ながら、メカ犬は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、助けてくださ~い!」

 

マリンと出会ってから一頻り海で遊んでいたメカ犬達が、キャンプに戻ってくると涙目のマリンがテントの中に居た。

 

『どうしたのだマリン嬢』

 

『試練を受けに行ったんじゃなかったんですか?』

 

「そ、それがね。一人目の賢者様に会いに行ったら酷いのよ!試練を受けたいならまず仲間を五人集めろって言うの!」

 

『それでアタイ達のところに来たって訳だわさ~?』

 

「後三日しか無いのに五人仲間を集めるなんて無理よ!お願い、皆の力を貸して欲しいの!」

 

涙ながらに訴えるマリンにメカ犬達は、ゆっくりと首を縦に振る。

 

『その願い……しかとセッシャ達に任せるでゴザル!』

 

五匹を代表してメカ鳥が、力強く宣言した。

 

「本当にありがとう皆!」

 

『それでマリン嬢よ。五人の仲間が必要という事は、最初に会いに行った賢者は北の谷に住むカーなのではないか』

 

『先輩、そのカーって人が賢者様なんですか?』

 

『うむ。賢者カーは別名で実行力を司る賢者と言われている』

 

「そうなの。まずはこの島で五人の信頼出来る仲間を集めて北の谷の頂上の祠に祭られた人魚の証を取って来る事が第一の試練だって、さっき言われたわ……」

 

メカ犬が知っている物語では、賢者と会う事はそう難しい事では無かった。

 

それなのに期日が一週間と長めに設定されているのには、この賢者カーによる第一の試練に時間を要する為だったのだ。

 

この島で共に試練の手伝いをしてくれる仲間を探す事への準備期間として設けられる筈の数日をマリンは魔法薬を落とした事で、使いきってしまった。

 

これが物語であれば、今の時間は既に第一の試練をクリアして第二の賢者に会いに行っている頃合である。

 

それでも物語の中では、時間ギリギリだったのだ。

 

もしも今からマリンが全ての試練を乗り越えようとするならば、物語の人魚を上回るハイペースで望まなければ、到底間に合わない。

 

『時間が無いなら急ぐじゃん!』

 

その話をメカ犬から聞き、メカ虎の号令の下、マリンを加えた一行は急ぎ北の谷を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その者達がマリンの仲間でゲコ?」

 

マリンに問い質したのは灰色のローブを纏った雨蛙だった。

 

正確に言うのであれば、どう見ても中世の魔法使いのコスプレした蛙にしか思えない彼こそが、三賢者の一人、カー御本人である。

 

『どう見ても蛙なんだわさ~』

 

『こんな不思議生物が実在していたんですね』

 

『普通に考えてありえないじゃん?』

 

『これぞファンタジーでゴザル!』

 

『話では知っていたが、本当に蛙なのだな』

 

賢者カーを前にして、マリンの後ろから五匹のフルメタルアニマル達が好き勝手に見たままの感想を口にする。

 

「ええーい!聞こえてるでゲコよ!確かに我輩は蛙の姿をしてるでゲコが、お前達みたいなSFに出てきそうなのに言われる筋合いは無いでゲコ!」

 

全くもってその通りとしか言い様が無い。

 

「あ、あのそれで賢者様。私は試練を受けさせて貰えるんでしょうか?」

 

緊張感が全く無くなってしまったが、これでカーにメカ犬達を仲間と認める事は出来ないと言われてしまうと、後が無いマリンは、おずおずと聞いてみる。

 

「う、う~ん……こんなのを連れて来たのは前例が無いでゲコが…まあ良いでゲコ!特別に認めてやるでゲコよ!」

 

「よ、良かったぁ」

 

何とかお許しが出た事で、マリンはホッと胸を撫で下ろす。

 

「安心するのはまだ早いでゲコよ。第一の試練は今からが本番でゲコ。この北の谷を更に進んだその頂に祠が有るでゲコ。その祠の中の人魚の証という者を取ってきて我輩に見せれば第一の試練は合格でゲコが、頂に至るまでの道には数々の障害が待ち受けているでゲコ」

 

果たして無事に辿り着けるでゲコ?とカーは蛙顔にも関わらず何処かニヒルな笑みを浮かべた。

 

『うむ。それではメカ海とメカ鳥、頼んだぞ』

 

『任せるでゴザル!』

 

『了解だわさ~』

 

カーの説明を聞き終えた直後、メカ犬の指示を受けてメカ鳥とメカ海が、人魚の証を目指して動き出す。

 

……空を飛びながら。

 

そして約三十分後、カーの前に七色に輝くメダル、人魚の証を見せる事に成功した。

 

「……反則行為で不合格……と言いたいでゲコが、過去に飼い慣らした鷹に取りに行かせたという事もあったので不本意ではあるが合格で良いでゲコ」

 

投げやりな言い方ではあったが、こうしてマリンは第一の試練を無事に合格する事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一の試練をクリアしたメカ犬達は、二人目の賢者が居るという西の湖を目指していた。

 

『先輩。二番目の試練ってどんな事をするんですか?』

 

『うむ。確か二番目の賢者は知恵の賢者と呼ばれていてな。その名の通り、知恵を試される試練だったと思うが……』

 

『知恵とは具体的にどんな知恵を試されるのでゴザル?』

 

『もう湖に着くだわさ~』

 

メカ犬が続きを話そうとしたところで、メカ犬達一行は、西の湖へと辿り着いた。

 

「えっと……確かこうすれば良かったのよね」

 

湖に着くと、マリンは第一の試練で手に入れた人魚の証を、カーから教えてもらった通りに、湖の中へと投げ込む。

 

すると湖が淡い光を発し、中から二人目の賢者がその姿を現す。

 

その姿は人とはかけ離れた姿だった。

 

一言で言うならば魚。

 

種族で言うと鯛に分類される上半身をしていた。

 

だがそれに反して、下半身は何故か編みタイツを履いた美脚にハイヒールという、かなりのミスマッチ……。

 

『話では二人目の賢者は半漁人だと聞いていたのだが……まさかこんな姿とは』

 

『あれを半漁人と認めて良いんですかね?』

 

『編みタイツがセクシーだわさ~』

 

『っていうか何で鯛じゃん!?湖に居るんだからせめて淡水魚にしておくべきじゃん!?』

 

『何処かの漫画で見た事がある様な気がするでゴザルが……』

 

流石のメカ犬達も、二番目の賢者の見た目のインパクトに激しく動揺する。

 

「……良くぞ来たギョ」

 

「け、賢者様なんですよね?」

 

マリンもこの魚を賢者として認めて良いのか判断がつかず、本人に確認をしてみる事にした。

 

「……それでは第二の試練を開始するギョ」

 

しかし賢者と思われる鯛はマリンに返事をする事もなく、淡々と話を進めていく。

 

『いや!?流石にちょっと待つじゃん!?』

 

『せめて自己紹介くらいはしましょうよ!?』

 

其処へすかさずメカ虎とメカ竜が突っ込みを入れる。

 

「……第二の試練は知恵を試させてもらうギョ」

 

しかし賢者というよりも下半身が無駄にセクシーな鯛と呼ぶべき生物は、二匹の突っ込みすらも完全にスルーして話を進めていく。

 

『全然こっちのお話を聞かないだわさ~』

 

『無視もここまで一貫していると最早清々しく思えてくるでゴザルな……』

 

『うむ。確か第二の賢者の名は知恵の賢者ターという、森羅万象の知識に通じるが、凄まじいまいまでのマイペースらしい』

 

本人がどんどん話を先に進めていく為、メカ犬が他のメカ達に一応の補足を付け足すが、その声はあまり彼等の耳には残らなかった。

 

何故ならばターの話が、そうしている間に第二の試練の内容へと進んだ為である。

 

「……第二の試練は柔軟なる知恵で乗り切るのだギョ」

 

ターがそう言うと湖の中から、次々とシャボン玉の様な泡が浮かんで来た。

 

暫くするとこの辺り一体は全て泡だらけとなってしまう。

 

「……この中のどこかに人魚の証が隠されているギョ。泡を破る事が出来るのは三回だけだギョ。その際に一回ずつ質問する権利をあげるからその間に見事に人魚の証を見つけ出せば第二の試練は合格だギョ」

 

ターは鯛顔の口をパクパクさせながら、第二の試練の内容を淡々と説明した。

 

「えっと……つまりチャンスは三回でヒントも三回って訳よね。どんな質問をすれば良いのかしら?」

 

『隠している位置を教えてって言えば即解決だわさ~』

 

『断念だがそれは無理だな』

 

『どうしてですか?先輩』

 

『うむ。これは物語の中での内容なのだが、メカ海と同じ質問をした人魚の仲間が居たが、直接答えとなる質問をする事は駄目なのだ。恐らくこの質問でも直接の答えとなってしまうものはNGだろう』

 

『でもそれじゃあ、どうやって人魚の証を見つけるじゃん?』

 

メカ犬の言う通り、ルールを守るのは大前提だが、それだけではこの視界一杯に広がる泡の中から、人魚の証を見つけ出す事は困難である。

 

『大丈夫!ここは先人に習えば良いだけの事だ!』

 

迷う他のメンバーに自信満々に言いながら、メカ犬は直ぐ側にふわふわと浮いていた泡を前足を使い、連続で二つ割ってしまう。

 

しかもその中には王者の証は入っていない。

 

「な、何て事をするのよメカ犬さん!?」

 

『そうですよ先輩!これで後一回しか泡を割る事が出来なくなったじゃないですか!?』

 

突然の暴挙に出たメカ犬に、試練を受けている当事者であるマリンと、横に居たメカ竜が真っ青になりながら抗議するが、メカ犬は悠然と、湖の上に佇むターへと視線を向ける。

 

『これでワタシ達の質問に三つまで答えてくれる筈だな?』

 

「……質問を言うが良いギョ」

 

ターはメカ犬に対して淡々と答えながら頷く。

 

『ならば一つ目の質問だ。先程言った第二の試練の内容に関して嘘偽りは無いな?』

 

「……無いギョ」

 

『第二の質問だ。人魚の証の在り処は泡の中では無いな?』

 

「……その通りだギョ」

 

二つ目の質問とその答えに、周囲がざわつくが、そんな事はお構い無しにターとメカ犬のやりとりは続く。

 

『そしてこれが最後の質問だ。賢者の証は湖の外では無いのだな?』

 

「……そうだギョ」

 

メカ犬の最後の質問に、ターは頷き肯定の意思を示す。

 

「あ、あのメカ犬さんこれって一体どういう事なんですか!?」

 

『ネタ晴らしは後だ。三つの質問で確信できたからな。マリン嬢よ、賢者にこう伝えるのだ』

 

メカ犬はマリンの肩へと飛び乗り、導き出した答えを呟く。

 

「ほ、本当にそれが答えなんですか!?」

 

『うむ。それで間違いない筈だ』

 

答えを聞いたマリンは、不安そうにメカ犬に訴えるが、当人は至って冷静に返事を返す。

 

「……う~もうどうなっても知りませんからね!人魚の証は賢者様の立っている湖の真下です!!!」

 

意を決して言い放ったマリンの答えに、数瞬の沈黙が訪れる。

 

「……正解だギョ」

 

だがその沈黙も、ターの一言によって終わりを告げ、喝采へと変わる。

 

「や、やりましたよメカ犬さん!第二の試練をクリアしましたあああああああああ!!!」

 

『凄いんだわさ~』

 

『犬ッチやるじゃん!』

 

『見事でゴザル』

 

『でも先輩。どうしてあんなにあっさりと正解出来たんですか?質問にしても、まるで最初から正解が分かっていて確認作業をしているみたいに見えましたけど……』

 

正解を導き出したメカ犬を称える面々の中で、メカ竜が頭に疑問符を浮かべながら問い質す。

 

『うむ。先程も言っただろう。先人に習えば良いだけの事だと。実はこの第二の試練の流れは物語とほぼ一緒だったのだ。だからワタシは逸早く正解に気付いた』

 

『問題に答えがそのまま載ってたんだわさ~?』

 

『いや、物語の中での出題は違うものだったぞ。正確に言うのであれば、攻略のヒントが同じだったという事だ』

 

『攻略のヒントじゃん?』

 

『うむ。第二の賢者は初めはワタシ達の話を無視して話を先に進めていっただろう』

 

メカ犬は第二の試練の流れを思い出す様に、謎解きのネタ晴らしを始めた。

 

『……言われてみればそうでゴザルな』

 

確かにメカ犬が言った通り、ターは出て来てから淡々と試練の内容以外の事はほぼ口にしていないという事実を、この場に居る全員が事実として認める。

 

『うむ。実はそれには理由があってな。第二の試練でのヒントは賢者の言葉に隠されていたのだ。だから賢者はワタシ達と迂闊な会話を交わして言葉を発する訳にいかなかった』

 

「メカ犬さんの言う事が本当だったとして、何の言葉がヒントになったんですか?」

 

『それは試練の内容を話し始めた冒頭の部分を思い返してみれば分かる。確かに賢者は泡を大量に出現させて、この中にとは言ったが、泡の中とは言わなかったし、そもそも腕や指も上半身が鯛だから当然指していない』

 

『でも先輩。それじゃただのこじ付けじゃないですか?』

 

『そうでもないぞ。ここは湖で今は周りが泡に囲まれていて他には何も無い。更に言うならば、人魚の証を湖に投げ入れたのは試練を受けるマリン自身だ。湖に投げ入れられた物だと目の前で見ていたワタシ達がこの中にあると言われれば、普通に考えれば目的の物が湖の中にあると考えるのは当たり前だろう』

 

「……だからメカ犬さんは、その推理が正しいかを確認する為にあんな質問をしたんですね!」

 

『うむ。何はともあれ、これで第二の試練も無事にクリアだな』

 

こうしてメカ犬の推理?によって第二の試練も見事に突破した一行は、最後の試練に望むべくこの場を後にした。

 

ちなみにこの翌日、シルバーライト島のゴシップ記事で、湖に変態の鯛が目撃されたという文面が出回った事実を、この場に居た当人達は知る由もなかったという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ここが東の岩場だ』

 

「遂に最後の試練なんですね……私頑張ります!」

 

三番目の賢者が居ると言われている東の岩場に辿り着き、マリンは自らに気合を入れていた。

 

『ところで三人目の賢者ってどんな奴じゃん?』

 

「あ~それ僕の事だと~思うよ~サンショウウオ」

 

『何だそうだったんじゃん……って明らかに有り得ない語尾で喋る大きいサンショウウオが何時の間にか隣りに居るじゃん!?』

 

唐突な返事を前に、メカ虎は慣れない上に、長くも説明的な突っ込みを繰り出す。

 

「あ、あなたが三人目の賢者様なんですね?」

 

「そ~だよ~サンショウウオ」

 

マリンの質問にも大きなサンショウウオ改め、三番目の賢者は答えを返す。

 

『何だか親近感を覚える喋り方なんだわさ~』

 

『確かに、本文はゆっくり喋ってますけど無理矢理最後に言っているとしか思えない語尾の部分だけ早口なのは何なんでしょうかね……』

 

『あえて突っ込むとこって其処じゃん!?他にも色々と突っ込む箇所があるじゃん!?』

 

『岩場に住んでいるのに、何故乾燥しないのでゴザルかな?』

 

『分類的にはオオサンショウウオの様に見えるがな』

 

今回も例に漏れず本人を目の前にしても好き勝手に言い続けるメカ犬達だったが、当の本人は気にした様子も無くゆっくりとそれでいて、語尾の部分だけは早口で話始める。

 

「僕が~三番目の賢者で~サーだよ~よろしくね~サンショウウオ」

 

「は、はい。私は人魚のマリンです。賢者様、ここに来るまでに二つの試練をクリアしてきました。最後の試練をお願いします」

 

「うん~分かったよ~早速最後の~試練を~始めるから~サンショウウオ」

 

サーはそう言うと、口の中から一本の短剣を出して、マリンに渡した。

 

「これをどうするんですか?」

 

「今から~説明するよ~サンショウウオ。その渡した~短剣で~一緒に試練を~クリアしてきた~仲間の誰かを~攻撃して~僕に生贄として~捧げて~くれれば~試練は合格~だよ~」

 

突如として言い放たれた試験の内容に対して、メカ犬達は絶句する。

 

『せ、先輩!三番目の賢者って何を司ってるんですか!?口調は別として凄く血生臭い試練を言って来ましたけど!?』

 

『……うむ。確か第三の賢者が司っていたのは決断力だった筈だ』

 

『つまり仲間であるオレッチ達を倒せるかどうかの決断力を試すって意味じゃん!?』

 

動揺しながらそう言い合っている間にも、無言でマリンがメカ犬達の前へと詰め寄り始める。

 

『もしかしてセッシャ達と本気で……』

 

『戦うしかないんだわさ~?』

 

身構えるメカ犬達だったが、マリンは短剣を力強く握り締めたまま、目の前で立ち止まり、それ以上は近付こうともしない。

 

「……ごめんなさい」

 

『マリン嬢?』

 

「一方的にこんな事に巻き込んでごめんなさいメカ犬さん……私……皆を傷付ける何て出来ないから……だから!」

 

一人前の人魚になる事は、マリンの夢だった。

 

それは今でも変わりはしない。

 

だがそれと同時に何の対価も無しに、助けると言ってくれた心優しい仲間達を傷付ける事は、マリンには出来なかった。

 

しかしこのまま試練を達成出来ないのは、一人前の人魚を目指す身としては到底許容出来る事ではなく、マリンはある一つの賭けに出る事を決断する。

 

それは無謀とも言える行いだと自覚しているが、それでも今の自分が考えられる精一杯の事だと己を納得させて……マリンはその考えを実行に移す。

 

マリンは大粒の涙を零しながら、短剣の刃先を自身の首下へと突きつける。

 

『早まるなマリン嬢!?』

 

「ありがとう皆……私これで立派な人魚になれるから」

 

泣きながら笑顔を浮かべ、マリンはメカ犬達に一言の礼を告げて、一気に短剣を内側へと差し込む。

 

仲間を傷付けられないならば、せめて自身を捧げて死しても誇り高い一人の人魚であろうとマリンは決意して、事へと望んだ……。

 

「……あれ?」

 

しかしマリンは何事も無く、何処か怪我をした気配すら無かった。

 

だが確かに短剣はマリンの首に突き刺さっている様に見える。

 

『どうなってるじゃん?』

 

「さ、さあ?」

 

メカ虎がどういう事か尋ねるが、当の本人であるマリンも自身に何が起こっているのか理解出来ず、呆然としたまま固まっている。

 

『試しに引き抜いてみたらだうだ?』

 

「は、はい」

 

マリンはメカ犬の指示に従い短剣を首から引き抜き、刃の部分を試しに触ってみると、その指が刃に触れる事無く素通りしてしまう。

 

「こ、これって!?」

 

原理を理解する事は出来なかったが、メカ犬達にもこの刃が偽者である事だけは容易に理解する事が出来た。

 

「最後の試練~合格だ~よ~サンショウウオ」

 

一体何が起こっているのか把握し切れていないメカ犬達を前にして、サーは第三の試練が終了した事を、緊張感とはかけ離れた口調で告げた。

 

「ど、ど、ど、どういう事なんですか賢者様!?」

 

「こ~の~試練は~決断力を示す~試練だから~マリンの~仲間を想う~心の~決断力を~見させて~貰ったんだよ~サンショウウオ」

 

「は……はは……」

 

唐突にやって来たシリアスな流れが終わって一気に気が抜けたのか、マリンはサーの言葉を聞きながら、腰砕けにその場でへたり込んでしまう。

 

最後はメカ犬達も面食らった様子ではあったが、こうして五匹と一人の大冒険は無事に幕を下ろしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『という事があって色々と大変だった訳だ』

 

「……へぇ」

 

バカンスから帰ってきたメカ犬からの土産話を聞いて、その現実離れした内容に俺はそう返答するしか無かった。

 

確かにエミリーちゃんからシルバーライト島に関しての人魚伝説は、俺も聞いてはいたがまさか本当に人魚が実在していたなんて、誰が思うって言うんだ!?

 

それに突っ込み属性な蛙に、間違った半漁人チックな何かと語尾が奇天烈なオオサンショウウオの三賢者とか、フィクションだとしても、頭が痛くなりそうな登場人物の連続に、俺の脳味噌の理解速度が追いつかない。

 

「と、取り敢えず楽しいバカンスだったんだな?」

 

『うむ。今度はマスターも一緒に連れて行って紹介するとマリン嬢とも約束したからな』

 

「……そっか」

 

メカ犬の土産話が真実かどうかは、実際に会う事になるまで、半信半疑ではあるが、少なくともメカ犬達は今回のバカンスを楽しんで来たという事だけは分かった。

 

丁度メカ犬達がバカンスに行っている間はホルダーも出なかったし……。

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウ……』

 

と考えたところで、狙い澄ましたかのようなタイミングでタッチノートの警報が鳴り響く。

 

『行くぞマスター!』

 

「分かってるって!」

 

俺はメカ犬に返事をしながら走り出す。

 

それは非日常な戦いを告げる合図であり、俺とメカ犬がこの海鳴市で日々を過ごす日常の一幕の一つだった。

 

 

 

 

 

 

                                           完

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