魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
恵美さんによって、無理矢理に連れ出された先は、海鳴署だった。しかも行き着いた場所は俺のような一般人でも入れる場所ではなく、最上階の署長室だ。
「これは一体どういうことなんですか!」
署長室に響く恵美さんの抗議の声。
そして書きかけの書類の上に叩きつけられた雑誌。
突きつけられた恵美さんの怒りの形相と、雑誌の記事に写るE1の写真を前に、長年のストレスのせいか頭髪が薄く、地肌がチラリと見える一人のおじさんが引きつった笑顔を見せる。
何を隠そう、このおじさんこそが、この海鳴署のトップである佐藤署長だ。
以前にデンライナー署の設置に辺り、一度だけだが会ったこともあるので、俺がこの場に居ることに関しては、あまり気にしてはいないらしい。
まあ、それ以前に恵美さんの対処に忙しいだろうから、仕方無いだろう。
「少し落ち着きなさい恵美ちゃん。お菓子あげるから」
まるで孫をあやす態度で接する佐藤署長。そう言えばこの人って、基本的に甘い人だったというのを、俺は今更ながら思い出した。
思い返してみれば、俺も以前に挨拶した時に、何処から出したのかスナック菓子を手渡されて頭を撫でられたことがある。
「ふざけないでください!」
「別にふざけてはいないんだけどね」
「……もう言いです。用件だけ言うんでイエスかノーで答えてくださいよ」
「恵美ちゃんの頼みだったら、ブランド物の自転車だって買ってあげるさ!」
これ以上の発言をさせるのは、警察署の署長として取り返しのつかない事態に発展するかもしれないということに恵美さんも気付いたのか、先程の佐藤署長の危ない発言は無視して、恵美さんは本題へと移る。
「私が日本の警察に捜査協力をする際に、始めに契約した筈ですよね。ESシステムの開発、研究へのバックアップと、海外施設の閉鎖にE1の凍結……なのに、どうしてE1が私が居なくなった後も海外で稼動されているんですか?」
「……恵美ちゃんの指示通り、日本の警察は各施設の閉鎖とE1に関する研究データも纏めて凍結したよ。それは確かだ」
「じゃあどうして!?」
「あれから直ぐの事でね。とある企業が莫大な資金を使って、当時の恵美ちゃん以外の殆どの研究メンバーを集めてプロジェクトを新規に立ち上げてしまったんだよ」
「何でそのことを黙ってたんですか……」
「言ったところで、恵美ちゃんには何も出来ないからさ。僕達、日本の警察もそうだ。どういう手を使ったのか表向きな情報では一切の法律に触れずにこんな大それたことをやってのけるとは……流石に日本政府も国際問題への発展だけは避けたいだろうから。それに僕個人としても、恵美ちゃんのこれからを考えれば、そんな底の見えない組織と係わり合いになって欲しくなかったんだ」
佐藤署長は、そう言って恵美さんに優しい視線を向ける。
言外にこれ以上の追求をするならば、事態は大事になるということだろうか。
こんな社会の裏側的な話を俺が聞いてしまって良いのだろうかと内心では思うが、この世界の仮面ライダーが関わっているとするならば、全くの無関係でも無いので、俺は黙って長谷川さんと並んで話を聞き続ける。
「それでは最後に、何故E1は日本に来たのですか?」
「日本警察……というよりも、僕個人の意地と、約束を果たせなかったせめてもの恵美ちゃんへの罪滅ぼしって言えば分かってくれるかな」
「……大体の事情は分かりました。お忙しい中、お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
佐藤署長の話を聞き、納得はいかないまでも、僅かに溜飲が下がったのか、恵美さんは署長室に入ってきた時とは反対に、冷静な口調で頭を下げた。
そのまま俺と長谷川さんに声を掛けることも無く退室する恵美さん。
「あ、待ってください!」
慌てて後を追う長谷川さんと一緒に、俺もこの場を立ち去ろうとしたその時だ。
「ちょっと待ってくれるかな純君」
予想外にも、佐藤署長が俺を呼び止めた。
「はい?」
「以前にもデンライナー署でお手伝いをしていた君なら分かっているだろうけど、くれぐれもさっきの話は内密にね」
「……ええ」
言われなくても誰かに言い触らすつもりは毛頭無い。
もし仮に、近所の奥様方にでも言おうものならば、俺は明日からヒットマンに狙われて恐怖に震える日々を過ごすことになること受け合いだ。
「それと、恵美ちゃんと啓太君のコンビなら心配ないと思うんだけど、困っていたら助けてあげて欲しいんだ。頼むね純君」
この人は孫にお使いを頼む要領で、とんでもない頼み事をしていると、理解しているのだろうか。
まさか俺が仮面ライダーだってことに気付いているのかと、勘繰りそうになるが、思い返してみればこの世界の大人は、結構な割合で俺のようなごく一般的な少年に無茶難題を押し付けてくる確率が非常に高いことを思い出し、一種の悟りにも近いと思える諦めを込めた溜息を吐き出しつつ、俺は佐藤署長に頷き返してから、今度こそ署長室を後にした。
恵美を追って退室した長谷川だったが、人通りの多い通路に差し掛かり、小柄な恵美は人の波を泳ぐように進んでいくが、平均的な成人男性の長谷川には同じ戦術を使うことは当然ながら無理であり、結果として完全に恵美を見失ってしまった。
もしかしたら特務課に戻ったのではと思い至った長谷川は、急いで目的の場所を目指すが、其処に恵美は居らず代わりに190を超える長身の外国人であり、E1の装着者であるエドがサイズの合わない小さな椅子に腰掛けている姿が長谷川の視界へと飛び込む。
「……エド」
「ん? もう用事は済んだのかなケイタ」
日本人の名前を呼ぶときだけ若干ではあるが独特な発音となるエドだったが、それを抜きにすれば十分に及第点と言える流暢な日本語で長谷川を出迎えた。
「ここに恵美さんは来ましたか?」
「いや、ワタシはずっとここに居たけど、来ていないな」
「……」
「何か聞きたそうな顔だな? ケイタ」
先程の署長と恵美のやり取りを聞いていた為に、表情に出てしまっていたのか、エドは自身の座っている椅子の位置を調節しながら、長谷川にも座るように手招きする。
なるべく急いで恵美と合流しなければと考えていた長谷川だったが、エドの話も気になるのは事実な為、長谷川は大人しく空いている椅子に座った。
「エドは、どうして日本に……いえ、恵美さんに会いに来たんです?」
「随分と直球で聞くね。まあ、ワタシはそういう真っ直ぐな性格は嫌いじゃないよ」
少しの間だけ静寂が二人の居る室内に流れるが、やがてエドは語り始める。
「ワタシがエミと出会ったのは今から二年前のことだ。当時のワタシは大学の学生で、エミも同じく学生だったが、既に独自の研究テーマを持っていて、研究に没頭していたよ。最初は珍しい学生が居ると噂で聞いて、興味本位に友人達と見にいったんだが、行った先でエミに捕まって研究のモルモットにされた」
「も、モルモットですか!?」
「……ああ。研究室をこっそりと覗いたのがばれてね。いきなりこれを着なさいと捲くし立てられて、試作品のパワードスーツのような物を無理矢理着せられて、結果としてワタシは全身打撲で入院することに……」
何処か遠くを見詰めながら話すエドの瞳は、何処か虚ろで既に痛みと恐怖すらも乗り越えて、悟りを開いたかのような表情を浮かべた。
「まあ、そんなとんでもない出会い方だったけど、エミとは妙に馬が合ってね。それからもワタシは研究の実験に付き合い続けた。そして遂にエミの研究テーマでもあるESシステムの雛形であるE1が完成したんだ」
過去の出来事を振り返りながら、エドは自身の腕に身に付けている長谷川のEブレスと良く似た腕輪をそっと撫でる。
「後に開発されたE2と違い、E1はデータの収集を目的にしていた為に、最初からワタシが装着者であることを前提にして作られた。それからワタシはE1の装着者として様々な実験に参加し……一つの事故が起こった」
「事故ですか?」
「こういった新しい研究には必ず付き物な事故さ。だがエミはその事故が許せなかったんだろう。その事故の後、エミはすぐにE1で集めたデータを元にE2を製作して、その折に日本の警察からの協力要請を受けて、開発途中のE2を持って、日本に帰国した……その後すぐにE1はエミと日本の警察が介入して、研究自体が凍結されたけれど、何故か一ヶ月も経たない間に、E1の研究が独自に再開されてね。ワタシの下に再びE1の装着員としてのスカウトがやってきた。ワタシは喜んで引き受けたよ。何よりもエミが今まで費やしたE1への情熱をあんな事故のせいで無にしてはならないと思った。だからワタシは今も、そしてこれからもE1の装着員で居続けるよ。例えそれをエミが望んでいないとしてもね……」
エドはこれで話は終わりだとばかりに、椅子から立ち上がる。
「確かケイタはエミを探していた途中なんだろう? ワタシも手伝うよ」
「あ……ええ、そうですね」
言われて、長谷川も立ち上がり、再び恵美の捜索活動が再開される。
だがその最中にも、長谷川は胸中でエドの言っていた事故がどんなものだったのかを考えていた。
きっとその事故が原因で、恵美はE1の研究を放棄して、新たにE2を製作したに違いないと、長谷川にも理解出来る。
ならばE1とE2の違いは何処にあるのか。
そしてこのEシリーズに搭載されているESシステム。
装着員である筈の長谷川ですら、その概要は知らない。
もしかしたら、E1とE2の大きな違いとは、其処にあるのではないかと考えるが、それすらも推測の域を出ず、長谷川が答えに辿り着くことは出来なかった。
ESシステム。
それは私が目指した、理想だった。
皆は私のことを天才と呼ぶ。ただ他の人よりも勉強が出来たから、ただそれだけなのに……。
お姉ちゃんは好きだったけど、それでも周りの変に期待する目が嫌で、私は大学に飛び級して海外に逃げた。
それでも奇異な目で見られることが無くなった訳じゃなかったけど。
向こうの大学では私に好きな研究をさせてくれたから、当時の日本に居た頃と比べれば、かなり居心地は良く、私は自分の研究に明け暮れた。
それに私は研究を続けていく間に、良い師に出会い、一緒に研究の手伝いをしてくれる仲間が沢山出来たので、結果としては良い選択をしたのだと思う。
充実した日々を過ごす中で、私は今まで研究してきたESシステムが形となったことに喜んだ。
そして開発は進み、最初のESシステムを搭載した実験機であるE1が完成した。
装着員は本人の希望もあって、研究の初期から知り合ったエドに頼むことにした。エドは日本のサブカルチャーでいうところのツンデレが入っているせいか、最初は嫌がる素振りを見せたものの、やっぱり本当は装着員になりたかったのだろう。
まあ、元々それを前提としてE1を作ったから、他の人では無理な訳だけど。
私が手持ちのスイッチに指を添えると、その場でエドは泣きながら喜んで承諾してくれた。
でも今にして思えば、それは間違いだったのかもしれない。
……いえ、私は毎日が楽しくて、だからもっと楽しくなるようにと、結果を急いでしまったのだ。
E1に搭載したESシステムは失敗作、いや、まだ実験を行うには早すぎる未完成品だということが、後になって分かった。
運が悪いことに、実験が始まった当初は順調に実験も進み、良質なデータを収集出来ていたからこそ、発見は遅れる。事実が発覚した時は、最悪にもE1が暴走した瞬間だった……。
不幸中の幸いにも、暴走による死傷者は出なくて済んだけれど、装着員であるエドには深刻な後遺症が残ってしまう。
それを知った私は、E1を放棄することを決定した。E1はエドを装着員に想定して製作した為に、他の人物が装着することは出来ない。
だからこのまま研究を再開すれば、エドは再びE1の装着員にならなければいけなくなる。
でもESシステムには既に多額の資金とスポンサーが付いていた為に、私の一存ではE1を破棄することは出来なくなっていた。
それでも、このままで良い訳がないと考えた私は、E1から今まで採集したデータを元に、ESシステムに改良を加えて、E1とは違うコンセプトを元にしてE2を作り、スポンサーの一つである日本政府のコネクションを利用して、E1の研究を凍結状態にした上で、日本へと帰国したのだけど……。
「まさか……私がやって来たことが無駄だったなんてね」
私は海鳴署から少しだけ離れた人通りの少ない路地に設置された自販機で、コーヒーを買い、一気にその中身を煽ってから呟いた。
缶コーヒーの味は翠屋で飲んだアイスコーヒーとは違い、妙に甘い。
「微糖にした方が良かったかしら……」
そんなどうでも良いことを考えながら、これからどう動くべきか考えていると、携帯電話から着信が入る。
誰からの電話かと思い履歴を確認すると、海鳴署と表示されていた。