魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
『凄まじい熱気だな。マスター』
俺のお気に入りのショルダーバッグから、頭だけを覗かせたメカ犬が、周りを見回しつつ、俺に言ってきた。
「ああ、そうだな」
俺もメカ犬と同じ事を思い、同意の返事を返す。
今俺は、マジカルナースメイドプリンセス☆の、イベント会場に来ている。
今日はイベント当日日であり、俺が何故こんな場所に来ているのかというと、翠屋にやって来た恵理さんと話た内容が大きく関わっているのである。
「第一化け物が出たって言ってもそれがホルダーとは限らないんだよな・・・」
あの脅迫文の内容を知った後では、どうにも今回の脅迫騒ぎがホルダーの仕業とは、今一考え辛い。
『うむ。確かにそうかも知れないが、可能性が捨てきれない以上、このまま放って置く訳にもいくまい』
翠屋で恵理さんと話した後、家に帰りメカ犬と相談した結果、胡散臭い事この上ないのだが、俺達はその化け物の正体を探る為、イベントに参加するなのはちゃん達と共に、イベント会場にやって来た訳である。
ちなみにイベント会場は、海鳴市からさほど離れていないとはいえ、子供だけで来れる場所でも無いので、恵理さんに保護者兼任という事で、連れて来て貰った。
恵理さんも最初から、そのつもりだった様で、車椅子のはやてちゃんの事も考慮してか、ワゴンタイプのレンタカーで迎えに来てくれた。
話を持ってきたのは元々恵理さんなのだが、色々と気を使わせてしまい申し訳ないと言うと、これらも含めて、全て会社の経費で落ちるから大丈夫だと言われた。
そんな経緯もあって会場に来た訳だが、俺は今メカ犬と共に単独行動をしている。
連れて来てくれた恵理さんは取材の準備もあるので、別行動だし、なのはちゃん達コンテストの参加者は今頃、会場に設けられている参加者用の控え室で着替え中だろう。
まあ、俺が今回ここに来た目的を考えれば好都合なので、会場内に怪しい奴が居ないか探りを入れているのである。
準備が出来てから、一度控え室に様子を見に行く事をなのはちゃん達と約束してはいるが、その時間にもまだ暫く時間がある。
しかし、人が多い事この上ない。
参加者は応募制であるものの、イベントの観覧自体は自由参加なのだ。
参加者の家族に、純粋なマジカルナースメイドプリンセス☆のファン、挙句の果てには、大きなお兄さんの集団が背中にマジカルナノネのイラストがプリントされた桃色ハッピを羽織り、応援歌と思われる謎の歌を合唱をしている等メインイベントが始まる前から、かなりの熱気を放っている。
「この大量の人の中から怪しい奴を見つけろって・・・」
はっきり言って無理である。
それに、そんな事を言えば、物凄い偏見ではあるが、桃色ハッピのお兄さん達なんぞ怪しさの塊以外の何者でもない。
しかしこのお兄さん達のテンションは、何処か俺の前世の友人を彷彿とさせる。
前世でのある日、今夜は一緒に鍋でもやるかと言う話になり、材料を買いにスーパーで買い物をした時に、長ネギを持った友人が謎の踊りを踊りだし、みっくみくとか言い出したあのテンションに似ている気がするのだ。
俺が彼らを見ながら何となく前世の頃を思い出していると、そのピンクの集団の中で謎の歌とは別の声が聞えてきた。
「もう一度言ってみろ軍曹!!!」
それは怒鳴り声であった。
気になった俺はピンクな人の壁を掻き分け、声のした方向に向かう。
そこには、やはり桃色ハッピを着込んだお兄さんが二人居た。
片方は尻餅を着いており、もう一人はその尻餅を着いたお兄さんを睨みつけている。
「もう一度言ってみろと言っているんだ軍曹!!!」
睨みつけているお兄さんが尻餅を着いている方のお兄さんに再度怒鳴りつける。
尻餅を着いているお兄さんが、萎縮しながらも立ち上がり喋り始める。
「は、はい。先程可愛い四人組みの女の子が、参加者用控え室に入って行くのを見たんで、今日のイベントは楽しみだなと言ったであります隊長殿!!!」
軍曹と呼ばれていたお兄さんは最後に直立で敬礼する。
「バッカヤロウがああああ!!!!」
軍曹に隊長と呼ばれたお兄さんは、怒りの雄叫びを上げながら、右拳を軍曹の右の頬に叩き込んだ。
「ぶげっ」
まともに隊長の一撃を喰らった軍曹は再び尻餅を着く。
「軍曹!!!拙者達は何だ!?」
「はい!僕達はマジカルナースメイドプリンセス☆ファンです!」
「声が小さい!!!拙者達は何だ!?」
「マジカルナースメイドプリンセス☆ファンです!!!」
「そうだ!!!その拙者達が現実世界の人間に萌えるのか!?」
「いいえ!!!僕達の至高の萌えは画面の先にあるのであります!!!」
「その通りだ!!!」
叫んだ隊長は、今度は桃色の集団に対し演説を始めた。
「お前達も良く聞け!!!拙者達が今日ここに来たのは、コスプレを見て萌える事等では断じて無い!!!」
拳を握り締め、隊長は尚も熱く語り始める。
「拙者達の目的は、そんな邪まなものでは無く、純粋にマジカルナースメイドプリンセス☆ファンとしてこのイベントを盛り上げる事である!!!その崇高なる目的を決して忘れるな!!!」
隊長の言葉に桃色集団から、凄まじいまでの歓声が巻き起こる。
そして、またしても謎の歌が再開される。
『・・・凄い熱気だな。マスター』
「・・・ああ、本当にな」
何で女の子向けアニメから、この様な嫌な方向に突っ走った軍隊紛いの集団が生まれたのか、理解に苦しむ所ではあるが、何かを好きになり夢中になるという気持ち事態は俺だって分かる。
俺にとっての仮面ライダーが、彼らにとってはマジカルナースメイドプリンセス☆だったという事なのだろう。
『む!マスター。そろそろなのは嬢達と待ち合わせした時間になるぞ』
「そうか、それじゃあ控え室に行ってみるか」
俺は桃色集団に背を向けて控え室を目指して歩き始めた。
それにしても、あの隊長って言われていた人の喋り方、何処かで聞いた事がある様な気がするんだよな?
一旦立ち止まった俺は、脳内検索をしてみるものの、あの様な個性的な喋り方をした別の人間は、思い出す事は出来なかった。
「まあ、気のせいか」
特に思い出せない事から、別に気にしなくても構わないだろうと、俺は結論を出して、なのはちゃん達の待つ控え室に再び歩き出した。
会場のステージは屋外に設置されているので、参加者用の控え室は仮組みされたテントが使用されていた。
万が一着替え中だとしたら不味いので、俺はなのはちゃん達が居る筈のテント前に辿り着くと、入る許可を取る為に声を出して、来た事をなのはちゃん達に伝えた。
「あ、純君!?皆準備出来てるから入って大丈夫だよ!」
なのはちゃんの返事が返ってきた事で、俺は遠慮無くテントの入り口を潜った。
俺の目の前にはかなりの完成度を誇る、四人のマジカルナースメイドプリンセス☆が居た。
「どうかな純君?」
マジカルナノネの衣装を着たなのはちゃんが感想を求めてくる。
「うん。皆まるで本物みたいでビックリしたよ」
俺の感想に、赤いドレスを着たアリサちゃんが、胸を張りながら答える。
「ふふん。そうでしょ!作るのに苦労したんだから」
アリサちゃんの衣装はマジカルアリスの様だ。
「皆で桃子さんに、お裁縫を習って作ったんだよね」
青いドレスを着たすずかちゃんが、アリサちゃんの言葉を補足する様に言う。
すずかちゃんはマジカルスズノみたいだ。
「私は初めから純君がこの姿を見て、メロメロになってまうのはわかってたんやで!」
最後に黒いドレスの、はやてちゃんが締めた。
見た目はまさに、マジカルハヤメだった。
というか、似合うとは言ったし、素直に可愛いとは思うけど、別にメロメロになんぞなって無いぞ俺は?
俺ははやてちゃんのギャグを軽く流し、皆にエールを送ってから、客席から見ていると言ってテントを出た。
テントを出た後、改めて、なのはちゃん達のコスプレを思い出す。
まあ、冗談抜きで皆凄く似合っていたので、もしかしたら四人の内誰かが優勝というのは、本気であるかも知れない。
「あ~やっぱりこっちに居たのね。純君」
突如俺の名を呼ぶ声がしたので、振り向いて見ると、恵理さんが手を振りながら此方にやって来た。
「あ、恵理さん。もう準備は良いんですか?」
俺の前にやって来た恵理さんは、まあねと言って爽やかな笑顔で答える。
「所でそっちの方は如何なの?何か分かったかしら?」
『いや、残念ながら今の所収穫は零だな』
恵理さんの問いにメカ犬が答える。
「そっか・・・」
メカ犬の答えに落胆の表情を見せた恵理さんだったが、すぐに表情を引き締めて、俺に一枚の紙を差し出してきた。
「これは?」
「ついさっき、会場の設営所に届いた新たな脅迫文よ。文面から、以前送ってきた人物と同一人物だと思うわ」
俺は恵理さんから紙を受け取り、その新たな脅迫文の内容を確認してみる。
【このイベントの関係者諸君へ
度重なる拙者の要求を呑む事無く、この様な愚行に至った事を、拙者は悲しく思う。
其方が考えを変えないというのであれば、此方も実力行使をさせてもらう。
このままイベントを続けるのであれば、この会場全てを破壊する。
今からでも間に合う。
この様なマジカルナースメイドプリンセス☆を汚す蛮行を取りやめるのだ。
これは最後の警告である!!!
諸君らが正しき判断を下す事を期待する。
マジカルナースメイドプリンセス☆一ファンより】
「・・・」
『何やら書かれている事が過激になっているなマスター』
「そうなのよ。これが本当に悪戯なら良いんだけど、本気だったとしたら洒落で済む話じゃ無くなって来るわ」
この内容の書き方・・・
俺は少し前に考えていた事を思い出す。
「恵理さん、メカ犬・・・俺この脅迫文を送ってきた犯人が誰か分かったかも知れない」
俺の発言に、メカ犬と恵理さんが驚きの声を上げる。
『本当かマスター!?』
「一体誰なの純君!?」
俺は二人に一旦落ち着く様に宥めてから話を再開する。
「確証は全く無いんですが、一人だけ心当たりがあるんです」
俺は二人にその人物の事と、どうして俺がその人を犯人だと思ったのかの、説明を始めた。
会場から少し離れた備品置き場で、一人の人物が、憤慨していた。
「あれだけ言っても中止にしないとはな。かくなる上は・・・」
『其処までだ』
備品置き場に、憤慨していた人物以外の声が木霊する。
「だ、誰だ!?」
声に反応した人物は、その声の主を探し周りを見渡し始める。
「俺の推理が当たったって事で良いのかなこれは・・・」
「子供に犬のオモチャ?」
先程声を出したのはメカ犬だ。
そして俺とメカ犬の突然の登場に驚く、脅迫文を送ってきた犯人と思われる人物に、俺は話しかける。
「さっきの発言からすると、あなたが脅迫文を送ってきた犯人という事で、間違い無いですよね・・・隊長さん」
マジカルナノネのイラストがプリントされた桃色ハッピを羽織った、お兄さんで隊長と呼ばれていた人に俺は視線を向ける。
最初に隊長さんを見た時から、何処かで聞いた事があると思っていても、思い出す事が出来なかったのは、それが文章だったからだ。
それに軍曹さんが現実の女の子を可愛いと言っていた事に激怒していた事から、脅迫文を書いた人物とかなり近い性格に思えたのだ。
だが一番の理由は・・・何というかこの人ならやらかしても不思議じゃ無さそうだったからだ。
もはや推理でも何でも無いが、大事なのは犯人を突き止める事だ。
推理小説みたいに、まさかあの人が犯人だったのか!何て展開は別に望んでないし、現実では大体多くの人がこの人が怪しいと思う場合は、証拠さえ見つけられれば、即逮捕である。
「何を言っているのか良く分からないな?遊びたいなら、他の人に頼んでくれないか。拙者は今忙しいのだ」
俺を子供だと思い適当にはぐらかそうとする隊長さん。
「あら、そんな冷たい事言わなくても良いんじゃない」
「!?」
俺とメカ犬が出てきた反対側から、ある物を手に持った恵理さんが姿を見せる。
「さっきのあなたの独り言。確りと録音させてもらったわよ」
恵理さんの手に持っている物はボイスレコーダーだ。
確かに子供の俺が、このまま警察に駆け込んで事の真相を話しても、相手になんかされないだろう。
だけど、大人の恵理さんが証拠を持って警察に行けば話しは別である。
俺達は、隊長さんにターゲットを絞り尾行を続けた訳だが、どうやら上手く行ったみたいだ。
しかし問題はここからだ。
この人が普通の人ならこの一件はこれで解決出来るのだが、そうで無いとしたら・・・
「拙者ははめられていたという訳か・・・」
もはや取り繕う必要が無いと悟ったのか、隊長さんは舌打ちをして、懐から緑の球体を取り出した。
どうやらこの事件を解決するには、もう一頑張りしなければいけないらしい。
隊長さんが球体を握り込むと、緑の光に包まれその姿を劇的に変化させる。
光が飛散し現れたその姿は全身が黄色で背中に大きな甲羅を背負った、一言で例えるならば人間サイズの亀の様だった。
『化け物の正体はやはりホルダーだったのだな!』
隊長さんの変貌を見たメカ犬がそんな感想を言う。
「みたいだな。危ないんで下がっていてください恵理さん!」
メカ犬に答えながら俺は、のんきにホルダーをカメラで激写している恵理さんに下がる様に指示を出す。
「頼むわよ。仮面ライダー君」
そう言って下がりながらも、写真を撮り続ける恵理さんの根性にあきれを通り越して、俺は感動すらし始めてしまった。
気を取り直して俺はホルダーに対峙する。
「行くぞメカ犬!」
『うむ!』
俺はタッチノートを取り出し、ボタンを押す。
『バックルモード』
タッチノートから流れる音声と共に、メカ犬が銀色のベルトに変形し俺の腹部に巻かれる。
「変身」
音声キーワードを入力し、バックルの中央部にタッチノートを差し込む。
『アップロード』
白銀の光が俺の全身を包みこみ、その姿をメタルブラックのボディを持つ一人の戦士、仮面ライダーシードへと変える。
「きゃあ~カッコイイ!」
恵理さんが今度は俺を写真に撮り始める。
緊張感が削がれるんで、せめて黙っていて欲しい。
「こんな子供が仮面ライダーだったとは・・・」
一方のホルダーは俺の変身にかなり驚いている様だ。
「このイベントは皆が楽しみにしているんだ。あんたの独りよがりな拘りで、潰して良いものじゃない!」
俺はホルダーに言い放つ。
「ふん。子供だからと言って手加減はしないぞ!」
ホルダーは俺に向かい吼えると、亀にしては早いと言える動きで襲い掛かる。
だがそれでも、ホルダーとしては遅い部類に入る素早さなので俺はその攻撃を難なく避ける。
「今度はこっちから行くぞ」
俺はホルダーの拳を掻い潜り、逆に此方の拳を叩き込む。
「いてっ!?」
見事叩き込んだのだが、逆に攻撃した此方がダメージを受けてしまった。
『どうやら奴の能力は、その身体の防御力そのものの様だ』
メカ犬が冷静にホルダーの分析をする。
それにしても手が痛い・・・
『マスター。奴は防御力は高いが機動力は余り無いようだ。動きを封じて一気に攻めるぞ』
「動きを封じるか・・・」
俺はホルダーを観察する。
・・・あ!
一つ思いついた。
「分かった。何とかやってみる!」
俺はホルダーに駆け寄る。
「ふん。拙者に並の攻撃は効かんぞ!」
ホルダーの攻撃を紙一重で捌いた俺は、重心を下に下ろし、ホルダーの膝を折る様に蹴りを喰らわせる。
案の定ホルダーは背中からバランスを崩して倒れこむ。
「バランスを崩したからと言って如何したと言うのだ。ダメージを与えられなければ、意味があるまい!」
確かにそうだが、その台詞は、きちんと現状を把握してから言って貰いたい。
倒れながらも勝ち誇った台詞を吐いたホルダーは、立ち上がろうとするが、背中の甲羅が邪魔をして立ち上がれず、もがきだす。
「な!?まさかこれを狙って!」
まあ、見た目からしてそうなるとは思っていたのだが、実際に見ると結構シュールな光景である。
『今がチャンスだマスター』
「ああ!」
俺はメカ犬の言葉に答え、バックルからタッチノートを取り出し、全体図を表示させ右足部分をタッチした後に、もう一度バックルに差し込んだ。
『ポイントチャージ』
ベルトから白い光が発生し右足へと集約される。
「はっ!」
空高くジャンプした俺は、輝く右足を倒れてもがき続けるホルダーに向ける。
「ライダーキック」
俺の凄まじい勢いの蹴りが、ホルダーに向けて放たれる。
このままこの技が決まれば、それで終わりだったのだが、突如ホルダーの動きが変わった。
「拙者はこのまま終わる訳にはいかんのだ!!!」
ホルダーが気合いを入れて、両腕を地面に叩きつける事で、その推進力を利用して、あの体制から起き上がってきたのである。
そしてホルダーは、自身の背中に背負う甲羅を、俺の方に向けてきたのだ。
俺のライダーキックとホルダーの強固な甲羅がぶつかり火花を散らす。
「くっ!」
ホルダーを吹き飛ばす事は出来たものの、その防御を完全に突破する事は出来ず、俺も衝撃の余波で、後方に吹き飛ばされる。
『大丈夫かマスター?』
「・・・ああ、何とかな」
メカ犬の声に返事を返しながら俺は何とかその場で立ち上がる。
「大変よ純君!」
恵理さんが慌てた素振りを見せながら此方に近づいてくる。
「如何したんですか恵理さん?」
「さっき純君に吹き飛ばされた奴なんだけれど、あの方向には、イベントが行われるステージがあるのよ!」
「何だって!?」
俺の驚愕する声とほぼ同時に、ホルダーが吹き飛んだ方向から、悲鳴が聞えてきた。
『不味い!急ぐぞマスター!!!』
「ああ!!!」
こんな時はあの人の出番だ。
俺はバックルからタッチノートを取り出して、あの人を呼ぶためのボタンを三回連続で押した。
『ホバーチェイサー』
すぐに上空からエンジン音が聞えてきた。
『お待たせ~マスター』
空の上から、オッサンボイスな乙女口調の声が聞える。
やって来たのは、最近空も飛べる事が判明した、新宿二丁目系ライダーバイクのチェイサーさんだ。
「ステージに居るホルダーの所まで頼むよ!チェイサーさん!」
『任せといて~ん』
俺はチェイサーさんの了承を得ると、すぐにチェイサーさんのシートの上に飛び乗り、足を乗せた。
ちなみにこの光景を間近で見ていた恵理さんは、凄いわ!と連呼しながら写真を撮り捲っている。
『さあ!いっくわよ!』
俺が乗った事を確認したチェイサーさんが、一気にステージ目掛けて空を飛ぶ。
ステージは先程の場所から殆ど離れていないので俺はすぐにホルダーの姿を視界に捉えた。
『突っ込むわよ~』
チェイサーさんが上空から、ホルダーに向けて、スカイタックルを試みる。
ホルダーも、上空から突っ込んでくるチェイサーさんに、気付いた様ではあるが、あの機動力では、まず避ける事は無理だろう。
巻き添えは御免なので、俺は早々にチェイサーさんから飛び降りて、ステージ近くに着地する。
それとほぼ同時に、チェイサーさんのスカイタックルも、見事ホルダーに命中する。
「むげっ!」
防御力には自身のあるホルダーにも流石にチェイサーさんの一撃は効いた様で、車に潰されたカエルみたいな声を上げて、吹き飛ぶ。
取り敢えず、駆けつけてはみたものの、問題はこれから如何するかだ。
どうやら今のままでは、俺の攻撃は殆ど効きそうに無い。
「やっぱりあれで行くしか無いか?」
俺の呟いた言葉に、メカ犬が反応する。
「いけるかマスター?あれは本来マスターが得意とする戦い方とは真逆とも言えるが・・・」
「・・・まあ、何とかやってみるさ!」
俺は自分に言い聞かせる様に言ってから、バックルの右側をスライドさせ、赤いボタンを押した。
『パワーフォルム』
ベルトを中心に光が俺の全身を包みこむ。
そして飛散すると、先程までメタルブラックだった俺のボディカラーは、クリムゾンレッドに変化していた。
「・・・色が赤くなった?」
チェイサーさんのタックルのダメージが抜けてきたのか、立ち上がり、俺の姿を見たホルダーが呟いた。
俺はホルダーの方に身体を向け、歩き出す。
「く、くそう!!!」
俺の更なる変化に、恐怖を覚えたのかホルダーは、叫びながら俺に攻撃を仕掛けてくる。
ホルダーの拳が迫り来る。
だが俺はその拳を避けもせず、防御すらせずに、その身に甘んじて受けた。
「・・・くっ!?」
異変が起きたのは、攻撃を受けた俺ではなく、見事拳を命中させた筈のホルダーだった。
ホルダーは拳を放った状態のまま動けずにいる。
今の状況を簡潔に説明するのであれば、ホルダーの攻撃は俺に一切効いていなかったと、そういう訳である。
このパワーフォルム。
その名の通り、俺の戦闘能力を最大限にまで高めてくれる、近接戦闘では、最強の強さを誇るフォルムなのである。
ただし他の能力、特に機動能力は、全フォルム中最下位に位置するので使い所が、難しいのだ。
俺はホルダーの拳を左手で掴み、空いている右腕で、何度も腹部を殴りつける。
更に左手を離し、ホルダーを蹴りで吹き飛ばした後、俺は再びバックルの右側に手を置き、今度は黄色のボタンを押した。
『パワーブレード』
発生する光を掴み生まれるのは、赤い刀身の両手剣である。
柄の部分は銀色で、他の武器同様に溝が設けられている。
ホルダーの方を見やると、既に立つのもやっとの様だ。
『行くぞマスター!』
『ああ!』
俺はメカ犬の声に短く返事を返し、バックルからタッチノートを抜き出し、パワーブレードの溝にスライドさせる。
『ロード』
音声が流れてから、タッチノートをもう一度バックルに差し込んだ。
『アタックチャージ』
ベルトからは白い光が発生して右腕のラインを通して、パワーブレードの刀身に集約される。
「こいつで決めるぜ」
俺は刀身が輝くパワーブレードを頭上に掲げる。
「パワーブレード」
俺は掲げたパワーブレードを一気に振り下ろした。
「ブレイクインパクト」
振り下ろした事で直線上に発生した強力な衝撃波が、ホルダーを捕らえ、その強固な甲羅を粉砕し爆発を巻き起こした。
爆心地には、桃色ハッピを羽織った隊長さんが、何やら足を痙攣させながら気絶していた。
他のフォルムより威力が高すぎた所為で、ダメージ過多になってしまったんだろうか?
まあ、何はともあれ、これでゆっくりとイベント観賞が出来るというものである。
「「「「・・・はあ・・・」」」」
マジカルナースメイドプリンセス☆のイベントが開催された翌日の翠屋にて、またしてもテーブルの一角が美少女四人組みの手により、ダークゾーンと化していた。
結局あのイベントでは、四人のうち誰も優勝する事は出来なかったのである。
いや、正確に言うのであれば最初から、四人は出場枠そのものに入っていなかったのである。
今回恵理さんがなのはちゃん達に与えたのは、一般枠ではなく、宣伝効果を重視した・・・まあ、ぶっちゃけて言えば見世物小屋の動物扱いだったのである。
つまり、最初から見せる事が目的であり、利益は発生しないのである。
本来この役目は、新人アイドルが勤める筈だったそうなのだが、急遽アイドルの子達が脅迫文の事でドタキャンしたとかで、成り手が見つからなかったのだと、恵理さんがイベント後にネタ晴らしをしていた。
口では知らなかったと言ってはいたが、あの人の場合、絶対に確信犯だと俺は思う。
そんな訳でなのはちゃん達は、何の見返りも無くただコスプレを一般大衆の前で晒すだけで終えたという事だ。
会場の盛り上がりは、四人が出ている時が、最高な感じだったので、余計に残念に思う。
俺としても、もはや何と声を掛けて良いのか、言葉が見つからないので、ただそっと見守っている事にしている。
ただ、今日もここにバイトに来ている者の意見としては、営業妨害になっているので、なるべく他の所で落ち込んで頂きたい。
そして何気に俺のタダ券を使い、やけ食いを始めようとしているのは、もはや無意識の行動なのだろうか?
俺はここで働く意味を本気で考えなくてはいけない岐路に立たされているのかもしれない。
今のなのはちゃん達を見ていると、暗い気持ちが伝染しそうなので、仕事に打ち込んでいた所、この空気の原因を作り出した諸悪の根源がやって来た。
「いらっしゃいませ・・・恵理さん今度はどんな厄介事ですか?」
俺は翠屋にやって来た恵理さんをジト目で睨みつける。
「あら、失礼しちゃうわ。今回は流石に私も、悪い事しちゃったかな~と思ってお詫びの品を持ってきたんだから!」
「お詫びの品ですか?」
恵理さんはそう言うと、四枚のサイン色紙を俺に手渡してきた。
「何ですかこれ?」
「まあ、兎に角一度それを良く見てよ。手に入れるのに苦労したんだから」
恵理さんの言うとおり、サイン色紙に目を通すと其処には・・・
「「「「マジカルナースメイドプリンセス☆の直執サインだああ!!!!」」」」
いつの間にか俺の背後に回ってきていた四人が同時に叫ぶと、俺の手から次々に色紙を奪い去って行った。
「喜んでもらえた様で良かったわ」
「・・・そうですね」
今日の海鳴は、好きな事に一生懸命になれば、夢が叶うかもしれない程に平和である。