魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
長谷川が仮面の中で静かに涙を零したのもつかの間に、倒れた筈のE1は幽鬼の様に立ち上がる。
誰もが先程のE2Bの放った一撃によって勝負は決したと確信しただろう。
実際にE1は立ち上がりこそすれども、既に戦う力は残っていないのも明らかな程に疲弊しているのが分かった。
全身を覆う装甲の半分以上は破損しており、頭部を保護する役割を持つ為に、かなり強固に作られていた筈の仮面ですら、顔の三分の二以上が露出してしまっている。
【「……エド。どうして……何がそこまでして彼方を支えているの?」】
E2Bの通信機から、恵美の質問とも呟きとも解釈出来る言葉が紡がれるが、その答えを返すべき相手は、殆ど意識が残っていないのか、立ち上がってから荒く呼吸を繰り返す以外に、何かをしようとする動きは見せない。
「エド。もう……終わりにしよう」
これ以上の戦いはエドワードの命に関わると感じたE2Bだったが、E1は頑なに首を横へと振り、否定の意思を示す。
「まだ…まだ……ここで終わる訳には行かない。ワタシはまだ倒れる訳には……いかないんだ」
今にも消え入りそうな声だというのに、半壊した仮面から覗くエドワードの瞳には、強い決意と覚悟が宿っていた。
「その通りですよ。まだ戦いはこれからです」
E1の折れない意思に同意を示したのは、この戦いを影から見続けていた蝙蝠に似た異形の怪物だった。
自らが身を隠す必然性はもう無いと判断したのだろうか。
加山はホルダーの姿となって表舞台へと、顔を出したのである。
「さあ、エドワードさん。今こそ貴方の失ったものを取り戻す時ですよ」
ホルダーの姿となった加山は人間体の時と同様に、柔らかな口調でありながらも、冷たい氷を連想させる冷たい声で、E1を闇の入り口へと誘い込む。
返事を返す事もせず、E1はその右手の平に乗せた緋色の球体、加山から事前に渡されていた暴走プログラムへと視線を向ける。
「止めるんだエド!」
【「駄目よエド! それを使ったら貴方は人じゃなくなるわ!」】
慌てて静止の声を掛ける長谷川と恵美を前にして、加山のホルダーとなって醜悪となった顔が更に歪むが、二人の必死な呼び掛ける声も、加山の醜悪な笑顔も共に意外な形で終末を迎える事となった。
「これを受け取って下さい」
E1はそう言って、暴走プログラムを使う事無く、ある人物へと持っていた緋色の球体を放り投げたのである。
「これで……エドワードさんの作戦は成功って事で良いんですかね?」
放り投げられた暴走プログラムを受け取った一人の仮面ライダーは、複雑な心境を抱えながらも、E1へと労いの言葉を掛けた。
「これは……どういう事なんですかね」
俺達のやり取りを前に、柔らかな口調は崩さなくても、明らかに殺気を含んだ声が加山から発せられる。
その言動で俺は今度こそエドワードさんの作戦は上手くいったのだと確信した。
「い、一体何がどうなってるんですか!?」
【「君! 何か知ってるんでしょ! 早く私達に分かる様に説明しなさい!」】
E2Bが俺に詰め寄ると同時に、通信機から恵美さんの音声が俺に説明を求めて来る。
「そう慌てないで下さい。今から順を追ってちゃんと説明しますから」
予想外なE1の行動に対して、半ばパニックとなりつつある二人に落ち着く様に言ってから俺は、事の経緯を説明していく。
「全てはエドワードさんの作戦だったんですよ。この暴走プログラムを確実に手に入れる為のね」
俺がエドワードさんの作戦の概要を知る事となったのは、メカ犬が一年を掛けて鍛え抜いた非常識なアニマル軍団の情報収集能力の賜物だ。
其処から俺は加山の監視の目を摺り抜けて、エドワードさんと一度だけ密かに接触したのである。
『緋色の暴走プログラムによる被害は、時間の経過と共に今も増え続けている。エドワード殿はその原因の一端である緋色の暴走プログラムのサンプルを確実に手に入れる為に、自らの立場を利用して敵陣へと潜り込んだのだ』
俺に続きベルト状態のメカ犬が補足説明を付け加えた。
「でも、だったら……どうして僕達にその事を黙っていたんですか!?」
「確かにケイタ達に言わなかったのは悪かったですけど……昔から日本ではこう言うのでしょう? 敵を騙すにはまず味方からって」
こんな大切な事を黙っていた事に憤慨するE2Bに対してE1は割れた仮面の中から、悪戯に成功した子供の様な笑顔を見せる。
「……ふざけないで下さいよ。貴方は無くしたままで良いと言うのですか!? 他人の為に自身の望みすらも捨て去るというのですか!?」
だがその態度が気に食わなかったのか、加山がE1に対して吼えた。
「確かにワタシは何に触れても、暖かさや冷たさ……痛みさえ感じる事の出来ない身体です」
「そうでしょう! なら遅くは無いですよ! 今からでも取り戻す事が出来るのですから、希望に自ら手を伸ばしなさい!!!」
影を落とすE1の心につけ込もうとする加山だったが、E1の答えは変わらないという事を、俺達は知っている。
「確かにワタシは多くのものを失いましたが、それでも大切なものは何一つとして捨ててはいません」
E1はそう言いながら、自身の右手を胸元へと当てた。
「例えこの身体が何も感じなくなったとしてもワタシの心は覚えています。春の陽だまりの暖かさを……罪の無い人が理不尽に傷つけられる痛みを……こんな身体になったからこそワタシはその大切さを改めて知りました!」
失ったからこそ得たものがある。
大切なものを失う痛みを知っているからこそ、己の全てを賭けて守りたいものがあるのだと、エドワードさんは俺に言った。
きっとエドワードさんの守りたいものには恵美さん達も含まれているのだろう。
だからこそ、言う事が出来なかったのだ。
「最初から裏切るつもりだったと……そういう事ですか。ならばそれ相応の罰を与えなければなりませんね!」
加山が掛け声を上げると共に、頭上から何体ものホルダーが雨の様に降り注ぐ。
そのホルダー達は、俺達が過去に倒してきたホルダーと寸分変わらぬ姿をしていた。
「これは……」
「驚いたでしょう? 雇い主のホルダーへの理解と研究は既にここまで進んでいるのです。あと少しで……全てが手に入るその一歩手前までね」
俺が目の前の状況に驚愕している事に、溜飲が下がったのか、加山は不穏の言葉を残し、この場から飛び去ってしまった。
出来ればここで逃がしたくはなかったが、このまま目の前に居るホルダー達を野放しにする訳にはいかない。
俺とE2Bは襲い掛かってきたホルダー達に対して身構える。
時を置かず、一斉に此方へと襲い掛かるホルダー達。
だが以外にも、俺とE2Bに攻撃が届くその手前で、視界にメタリックなオレンジのライダーが飛び込み、襲い掛かってきたホルダーを殴り飛ばす。
「エド!? 無茶をしちゃ駄目だ!」
飛び込んできたE1に退く様に諭そうとするE2Bだったが、E1は構う事無く更に近くのホルダーに接近戦を仕掛けていく。
「悪いねケイタ。だけどワタシにも戦わせてほしいんだ。これが今のワタシに出来る……せめてもの罪滅ぼしだから」
【「エド……」】
俺は元より、恵美さんにも長谷川さんにも、彼が戦う事を止める事は出来なかった。
きっと俺は忘れないだろう。
誰よりも痛みを知り、誰よりも暖かな陽だまりの様な心を持った仮面ライダーを……。
「本当に馬鹿よ。エドは大馬鹿なんだから」
恵美さんは青い空をその瞳に映しながら、今はこの場に居ない人に想いを馳せる。
エドワードさんとホルダーを巡る事件が解決してから三日後。
俺はホルダー特務課へと呼ばれていた。
「署長さんから聞きました。日本に来た時点で、余命三ヶ月だってお医者さんに言われてたそうですね」
「……うん」
俺がここに来る直前に署長さんから聞いた話の内容は間違いではなかったらしく、長谷川さんが静かに頷いてみせる。
あの戦いで無事にホルダー達を倒したその直後、エドワードさんは穏やかに深い眠りに就いた。
それは永遠の別れとなってしまったのだ……。
「エドは罪滅ぼしって言ってたわ。きっと私と同じ様にエドもあの事故から苦しんでいたんでしょうね……」
少しの間を置き、恵美さんはやはり何処か心此処に在らずという感じで、幾つかの書類を俺に手渡してくる。
「君から預かった暴走プログラムを解析して分かった分のデータよ。まだ全部の解析にはかなりの時間が掛かりそうだけど、今までに分かった部分を纏めてあるから、後で目を通して頂戴」
「えっと……はい」
俺はなんと声を掛けて言いべきか、答えが見つからず、頷きながら書類を受け取った。
恵美さんは俺に書類を渡すと、少し外の風に当たって来ると言い残して、部屋を出て行ってしまう。
「……やっぱりエドワードさんの事で悩んでるんですかね」
昔からの友達だと言っていたのだから、それも当然の事だろう。
先ほど貰ったこの資料にしたって、恵美さんが気を紛らわす為の副産物だと思える。
「きっとエドも恵美さんも……二人して似た者同士だったって事なんだと僕は思うよ」
たった二人残された部屋の中で、俺と長谷川さんの会話は続く。
俺にも長谷川さんが言いたい事は、何となくだが理解出来た。
事故によって、エドに消えない後遺症を残してしまった恵美さんの気持ち。
そして自分の身体の事が原因で友達に、遠回りをさせてしまったと感じたエドワードさんの気持ち。
更にエドワードさんには、限られた時間しか残されていなかった。
だからこそ、恵美さんが抱えている心のしこりと自らの罪悪感を払拭しようとしたのかも知れない。
もう本人には答えを聞く事は出来ないから想像するしかないが、きっとこの考えはそんなに間違った予想ではないだろうと俺も長谷川さんも考えている。
俺は資料に視線を向けながら思う。
エドワードさんが、残った時間で恵美さんに残そうとしたもの。
絶対に無駄にしてはいけないのだと……。
それは遠い様で近い、天才と呼ばれた一人の少女の過去の記憶。
「さあ! 今日も楽しい実験の時間よ!」
「おいおい。ワタシはもうすぐ大学のレポートを書かなくちゃいけないんだが……」
「何よそんなのパッパッと終わらせちゃえば良いじゃないのよ! 大学の進級するのに気を裂くなら私に協力して世界平和に貢献する方がずっと有意義なんだからね!」
「はは、参ったな」
口ではそう言いながら、少女との会話を彼は心から楽しみ、穏やかな笑顔を浮かべる。
この時間がずっと続いてくれればと少女は願う。
だがそれは既に過ぎ去った過去であり、人は今を生き未来へと歩む事しか出来ない。
立ち止まり後ろを振り向く事は出来ても、其処から後ろへと下がる事は許されない事だった。
「私……頑張るからね。エドが私に残してくれた大切なものを……今度は私が守っていくからね」
誰も居ない事を確認しながら、青空の良く見える海鳴警察署の屋上で、静かに誓いを立てる。
そんな少女の瞳から零れ落ちた涙を、一陣の風が攫っていく。
彼女の記憶の中で、彼は今も陽だまりの様な笑顔を絶やす事は無い。
今はまだその笑顔が、少女の心をきつく締め付け続ける。
仮面ライダーE2 ロストプロジェクト 完