魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「実は純君に頼みたい事があるのよ」
これで何度目の頼み事だろうか。
俺はもう途中から、数える事すら止めてしまっていた。
いつもの様に、お隣の幼馴染であるなのはちゃんの両親である士郎さんと桃子さんが経営する喫茶店、翠屋で今日もご近所では既に名物化した小学生ウェイターとして、直向きに労働する俺に対して、知人の雑誌記者さんは、本日も平常運転である。
「……」
「あの、純君? 忙しいからって無視するのはどうかと思うな」
お客さんに対して失礼な態度だとは俺も思うのだが、この人の場合はまだコーヒーの一杯すらも注文していないのだから、お互い様である。
あくまでもここは、依頼ならば何でも引き受ける便利屋ではなく、個人経営の喫茶店なのだから、まずはメニューの注文をして貰いたいものだ。
「……えっと、取り敢えずブレンドを一つお願いするわ」
「畏まりました。ブレンドを御一つですね」
俺の意図を察したのか、やっと注文をしたこの人に対して、俺は全開で営業スマイルを浮かべながらウェイターとしての本分を果たす。
「こちらブレンドになります……それで、頼み事ってのは何なんですか? 恵理さん」
何時もの様に、少しの間だけホールの仕事を同じ時間帯にバイトに来ていたヤスに任せて、俺は注文されたブレンドコーヒーをカウンター席に置きながら、恵理さんの隣の席に座る。
俺の態度が軟化したと気付いてか、恵理さんは一口だけコーヒーを飲み、一息着く。
願わくば、あまり無茶な事は言わないでほしいと切に願う。
ちなみにこの時の俺達を遠目から見ていたヤスが、後から言っていたのだが俺の顔は悟りを開いた心の澄み切った表情をしていたのだとか、良く分からない事を言っていたのだが、今回の話の中でそんな事は重要ではないので、話を元に戻そう。
「まあ、そう慌てないで。もうすぐ来ると思うから」
「もうすぐ来る? もしかして誰か来るんですか?」
恵理さんの言い方だと、俺の他にも誰か呼んでいる様だ。
「あ」
「え」
「お」
暫く待つと、見知った二人組みが、翠屋の店内に姿を現し俺とその二人組みの声が其々に漏れる。
「待ってたわよ二人共」
どうやら恵理さんの待ち人はこの二人で間違い無いらしい。
そしてこの三人組に頼み事という時点で、何か碌でもない事が起きるのではないかと、俺の心の危険センサーがホルダーを発見した際のタッチノート並みに警報を鳴らす。
「長谷川さんと、鳥羽さんも呼ばれてたんですね……」
俺は二人が近くの席に座るのを待ってから、確認の為に聞いてみた。
「おうよ。何か楽しい事をするって言うからよ」
「僕は恵美さん経由で、恵理さんが何か頼みたい事があると聞いて来たんですけど」
鳥羽さんは相変わらずの、分かり易い行動理念の下に来たらしい。
そして長谷川さんに至っては、姉妹経由での連絡網と来たものだ。
こうして考えてみると恵理さんの人脈は、広いなと改めて思う。
「さてと、それじゃあメンバーも揃った事だし、話すとしますかね」
恵理さんが集めたこの三人の共通点と言えば、一つしかないだろう。
そう考えるとこの頼み事も、一筋縄ではいかないと無駄に警戒心が刺激されるのは俺だけだろうか。
「実は貴方達には、今度の月刊ウミナリの付録にしようと考えているオリジナルドラマの主役をやってもらいたいのよ」
予想通り、やっぱり今回も突拍子も無い頼み事だった。
「おお! なんか楽しそうじゃねえか!」
「ぼ、僕達がドラマの主役ですか!?」
「……今回はそうきますか」
鳥羽さんはノリノリで、長谷川さんは戸惑うばかり。
そして俺に至っては、何だかこういった展開には慣れてきてしまっている自分が少し怖い。
「以前から月刊ウミナリはこの海鳴市を守る仮面ライダーの特集を何度もしてきたわ。雑誌の付録でもDVDを付けたりしてきたんだけど、やっぱり読者の皆さんは熱いストーリーを求めているのよ! そこで私達、編集部は考えたわ。読者の皆さんに高い人気を誇る仮面ライダーをドラマにしてみたらきっと人の胸を打つ作品になるって!」
畑違いではあるがある意味でのクリエイターとしての性質に火が点いたのか、熱く語る恵理さんを止められる者は、残念ながらこの場には誰もいない。
俺と長谷川さんに異論を唱える度胸なんて当然ながらある訳も無く、最後の頼みの綱である筈の鳥羽さんもこの仮面ライダードラマ化計画に賛成の様だ。
だが、ここで問題が一つある。
「あのですね。俺って一応は正体を隠してるんですけど……その辺はどうなる気なんですか?」
一番の問題はこれに尽きると言って良いだろう。
警察に所属する長谷川さんが、E2の装着員である事は周知の事実。
鳥羽さんも特に正体を隠しているという様子も無く、何処でも誰が見ていようとも必要に迫られれば、躊躇なく変身する。
それに比べて俺は、一部の人達を除いて基本的には正体を隠しているので、流石にこの企画に二つ返事で賛成する事は出来ない。
「それなら問題は無いわよ!」
俺の疑問に対して、自信あり気に即答する恵理さん。
何を根拠にそんな無責任な事を言うのかと思ったのが、俺の表情に出ていたのか恵理さんは俺に一枚のメモ用紙を見せてきた。
そのメモ用紙にはこんな内容の文字が……。
この作品に登場する人物及び、団体は全てフィクションです……と書かれていた。
「これで全部解決ね!」
「俺達の存在はフィクションですか!?」
ある意味では映像作品における伝家の宝刀を、何の躊躇もなく使う恵理さんに俺は思わず突っ込みを入れた。
そして俺の抗議も空しく、ここに海鳴市の仮面ライダードラマ化計画がここにスタートしたのである。
企画が決まってから五日後、恵理さんの会社が準備してくれた撮影機材を使い俺達の撮影は順調に……まだスタートすらしてはいなかった。
それと言うのも……。
「……駄目。もう駄目だわ……まったくネタが出てこないのよ」
翠屋のカウンター席で、突っ伏して呪詛の様に呟く、目の下に濃い隈が目立つ恵理さんの姿を見てもらえば分かると思うのだが、まだ肝心の脚本が全く出来ていなかったのだ。
今回の発端である恵理さんが、責任を持って普段の仕事の間に脚本を書くと言っていたのだが、どうも上手くいっていないらしい。
「あんまり根を詰めると身体に障りますよ」
俺は眠気覚ましにとコーヒーを恵理さんに差し入れして、労いの言葉を掛ける。
「……ありがとう純君。でも今週中に脚本を仕上げないと、ドラマの収録に響くから」
疲れきった笑顔を見せる恵理さんの姿が、カウンターの上に広がる白紙の原稿用紙と相まって、余計に痛ましく見えてしまう。
『どうしても書けないというのならば、ワタシがその役目を代わろうか?』
色んな意味で限界に達しようとしていた恵理さんに救いの声を掛けたのは、いつの間にかカウンターの上に居たフルメタルなお犬様だった。
「急に出てきて何を言ってるんだよメカ犬」
『以前からこういった事には興味があったのでな』
自信有り気にメカ犬は言う。
そう言えば、メカ犬の奴は一時期ではあるがカメラに嵌っていたり等していたので、こういったジャンルに興味があったと言われれば頷ける。
「ほ、本当に!? 本当にお願いしても良いの!?」
既に憔悴しきっていた恵理さんからしてみれば、メカ犬の提案はピンチに現れた救世主に見えたのだろう。
震える手で白紙の原稿をメカ犬の前に差し出した恵理さんは、前世の頃に見た昔のボクシングマンガの主人公みたいに真っ白に燃え尽きた。
今は静かに恵理さんを眠らせてあげようと、お店の裏から持ってきたタオルケットをそっと背中に掛けてあげる。
メカ犬はそんな恵理さんを見届けた後、器用に前足でペンの腹を固定して執筆を開始した。
力尽きた美女の隣で、原稿用紙にペンを走らせる手乗りサイズの犬型オモチャという文字だけを見ると意味不明であり、実際に目の前で見てもシュールに映るこの光景も、既に翠屋に慣れ親しんだ常連のお客さん達にしてみれば、想定の範囲内の為か、注目を浴びる事すら無い。
俺はそんな光景に慣れてしまった自分も相当に毒されてしまっているなと自覚しながらも、ウェイター業務に戻る事にした。
そして三日が過ぎた昼下がりの放課後。
『聞いてくれマスター。ついに脚本が完成したぞ』
メカ犬が書き上げた原稿用紙を持って、俺に報告してきた。
今更ではあるが、態々ペンで書くよりもワープロを使った方がメカ犬には物理的にも楽だったのではないかと思うのだが、それは言わぬが華というものだろう。
「どんな脚本なんだ?」
自分が出る以上、他人事では無いし個人的にもこれは俺が見た事の無いライダー作品と呼べる物と言えなくも無いので素直に気になる。
メカ犬の許可を得た俺は、早速その脚本に目を通した。
そして、大体の内容を読み終えた俺は一言だけ呟く。
「……本当にこの内容でやるつもりか?」
『うむ。まずはこの脚本を恵理殿に見せた後、許可が降りたら今回の目玉であるメインヒロインのオーディションを開始しようと思う!』
メカ犬は唖然とする俺に対して、普段以上に燃え上がる様な気合を見せ付けた。
メカ犬の考えた脚本の大まかな内容は、意外とシンプルな物だった。
海鳴市を守る三人の仮面ライダーが一つの事件に、其々の立場から関わる事となり、最後は協力して事件を起こした巨悪を倒すという王道とも言えるストーリー内容だ。
だが一つだけメカ犬は脚本を作る過程において、一つのテーマを掲げたのである。
『ワタシは今回この脚本に愛というテーマを込めた!』
というのはメカ犬の談であり、メカ犬の書いた脚本は何と恵理さんを始めとした制作に関係する事となる人達から二つ返事でOKが出てしまったのだ。
そしてメカ犬の強い望みによって、急遽として開催されたヒロインオーディションなのだが、結構な数の女の子達が集まった。
今回のオーディションで募集するヒロインは事件に巻き込まれる幼い少女で、大体今の俺と同学年の女の子という設定なのだが、地元で人気のある雑誌が企画した特別ドラマという事もあり、一般人の人も多く来ている。
そんな中で、俺の知り合いと思われる女の子が何人か居る気がするのは気のせいだと思いたいのだが……。
「あ! 純君だ!」
どうやら気のせいという訳では無いらしい。
「来てたんだね……なのはちゃん達」
俺に声を掛けて来たのは、お隣さんの幼馴染でもあるなのはちゃんだった。
更にその後ろからは、アリシアちゃんにすずかちゃんとアリサちゃん。
そしてはやてちゃんとエミリーちゃんという、周りが霞む程の美少女軍団がやって来る。
皆オーディションという事もあり、オシャレにはかなりの気合が入っており子供アイドルグループですと言われれば、ほぼ確実に信じてしまうレベルだ。
それほどまでの美少女軍団が放つ、アイドルオーラに周りが俄かにざわめく中で当人達だけは普段と変わらぬ調子で俺に話し掛けてきた。
「何で純がこんな場所に居るのよ?」
一番最初にそんな疑問をぶつけてきたのはアリサちゃんだった。
アリサちゃんが、そんな疑問を抱くのも当然の事だろう。
ここは恵理さんの勤める会社が主催するオーディションの会場であり、本来ならばオーディションへの関係者と参加者及びその保護者しか居ないのだから。
「今回の脚本はメカ犬が書いたんだよ。それと俺もこのドラマに企画段階から参加してたから、恵理さんにオーディションで特別審査員をやって欲しいって頼まれてさ」
この中で俺が仮面ライダーシードである事を知っている面子は、何処か心配そうな表情を俺に向ける。
逆になのはちゃんとすずかちゃんに、はやてちゃんはそうなんだと素直に感心した様子を見せていた。
それから少しの間、話をしていると一旦オーディションの参加者に集まって欲しいというスタッフの声が掛かり、なのはちゃん達は別室へと誘導されていく。
「さてと、それじゃあ俺もそろそろ……」
と言い掛けたところで、俺はこの場でそれはあまりにもお決まり過ぎると思ってしまう程の異常事態が発生した事に気づいた。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
何とこのオーディション会場内にホルダー反応が出たのである。
「嘘だろ!?」
『マスター!』
逸早く気付いたメカ犬が、いつの間にか俺の足元へと来ており、タッチノートの反応が間違いではない事を確信へと変えていく。
「この会場内にホルダーが居るのか?」
『うむ。まだ大きな動きは無いようだが、このオーデション会場の中で素体となった者がホルダー化したのは間違いない! それに反応が他にも複数あるのも気になる!』
このオーディション会場は、様々な多目的イベントにも使われているレンタルホームとなっており、地下の駐車場を含むと五階建てのビルだ。
タッチノートの反応では、どうやら反応は地下の駐車場から出ている様である。
「急ぐぞメカ犬!」
俺はメカ犬を連れて急いで地下駐車場へと急いだ。
今日は恵理さんの勤める会社がドラマのヒロインを決めるオーディションの為に貸切としている上に、既にオーディションへと参加する女の子達とその保護者の人達はオーディション会場への入場を果たしている時間の為に、この時間に駐車場を利用する人は居ない。
実際に来てみて分かったが、やはり駐車場に人の気配は無かった。
だが、その代わりに異質な存在が俺の視界の中へと飛び込んで来る。
「こいつ等は……ホルダーモドキか!?」
『通りで反応が複数ある筈だ!』
駐車場の奥から湧き出てくる複数のホルダーモドキ達。
「何でこんな場所に居るのか分からないけれど、こいつ等がここから出す訳にはいかない! 行くぞメカ犬!」
『うむ!』
俺はメカ犬と共に、ホルダーモドキ達の前へと立ち塞がり、タッチノートを開く。
『バックルモード』
タッチノートを操作する事で、メカ犬がベルトに変形して俺の腹部へと巻きつく。
「変身」
音声キーワードとなっている力ある言葉を紡ぎ、タッチノートをベルト中央の窪みへと嵌め込む。
『アップロード』
ベルトにタッチノートを差し込んだ次の瞬間に、俺の全身を光が包み込み一人の戦士に姿を変える。
全身がメタルブラックに輝く真紅の二つの複眼を持つ仮面ライダーこそが、今の俺の姿だ。
人は今の俺の姿を、仮面ライダーシードと呼ぶ。
『来るぞマスター!』
「分かってるさ!」
メカ犬が言う通り、シードに変身した直後ホルダーモドキ達が俺を明確な敵と判断して襲い掛かって来た。
まず第一に飛び掛って来たホルダーモドキを殴り飛ばし、奥に控えているホルダーモドキに対して一気に距離を詰めて蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。
『敵の数が多い。ここはスピードフォルムで行くぞマスター!』
「OK!」
俺はベルトから聞こえるメカ犬の声に頷きながら、ベルトの右側をスライドさせて、翠のボタンを押した。
「はっ!」
その間にも両サイドから襲い掛かるホルダーモドキの攻撃を掻い潜る為に、俺は前方へと勢い良く飛び上がりながらメタルブラックのボディーは鮮やかなライトグリーンへと染まる。
そのまま身軽なスピードフォルムとなった俺は、飛び上がった状態のまま左右へと足を繰り出して両サイドから襲い掛かって来たホルダーモドキ達の首筋へ蹴りを叩き込む。
無事に着地をすると同時に俺は更にベルトの右側の黄色いボタンを押す。
『スピードロッド』
音声が響くと同時に、ベルトから発生した大量の光が発生して一つの形を作っていく。
このスピードフォルムの際に使える棒状の武器。
スピードロッドが生成されて、俺は勢い良くスピードロッドを握り込み、回転させながらこの間に俺の周囲を取り囲んでいたホルダーモドキ達を薙ぎ払う。
『マスター! この駐車場の何処かにこのホルダーモドキ達を統率しているホルダーが居る可能性が高い!』
「それならこれで探す!」
周囲のホルダーモドキ達を粗方薙ぎ払い、俺はスピードロッドをその場に投げ捨てて、再びベルトの右側をスライドさせて青いボタンを押す。
『サーチフォルム』
今度はライトグリーンのボディーカラーがスカイブルーへと変わり、俺の全神経が研ぎ澄まされ、視覚と聴覚は通常時では考えられない程に鋭敏になる。
「……そこだ!」
研ぎ澄まされた感覚が俺に必要な情報を与えてくれたお陰で、ホルダーモドキとは明らかに違うホルダーの存在を看破する事に成功する。
『サーチバレット』
スピードロッドと同様に、黄色いボタンを押す事によって今度はサーチフォルムの際に使う銃形の専用武器であるサーチバレットを生成して、ホルダーが居るであろう位置へと銃口を向けて引き金を引く。
放たれた青い光弾は真っ直ぐに狙った位置へと飛んでいくのだが、その結果は予想外の事態へと発展して幕を閉じた。
突如として飛び出て来た異形の存在が、サーチバレットから放たれた光弾を右手の大きな爪で切り裂いたのである。
一見すると熊をぬいぐるみにしたテディベアを彷彿とさせる可愛らしい一面を持ちながらもその大元となった本物の熊の凶暴性顕にした何ともミスマッチな様相を呈したホルダーが、右手の異常なまでに肥大で鋭利な爪を輝かせて、俺に対して敵意を向けていた。