魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
『油断するなマスター!』
ベルト状態のメカ犬が叫んだ次の瞬間。
サーチバレットの光弾を切り裂いたホルダーが問答無用で、一気に距離を詰めて来る。
「くそっ!?」
咄嗟に迎撃を試みようとはするものの、牽制に放ったサーチバレットの弾は先程と同様に、あのホルダーの異様な大きさの右手の爪に切り裂かれて意味を成さない。
遠距離を主体とするサーチフォルムでは分が悪いと判断した俺は、サーチバレットをホルダーに向けて投げ捨てて、すぐさまベルトの右側をスライドさせ急いで赤いボタンと黄色いボタンを連続で押していく。
『パワーフォルム』
『パワーブレード』
スカイブルーのボディーは、今度は燃える様なクリムゾンレッドへと染め上がり、先のスピードロッドやサーチバレットと同様に大量に発生した光は、今のボディーと同じ色の刀身を持つ剣、パワーブレードへと変貌を遂げる。
俺はまだ完全に実体化していない状態のパワーブレードを素早く握り込み、全力でホルダーの繰り出す爪の一撃を受け止めた。
何とか生成には間に合い、危機一髪でホルダーの爪を受け止める事には成功するが、その力は近接での単純な攻撃力ならば一番高いこのパワーフォルムですら押される程だ。
「調子に……乗るな!」
だがこのまま押し負ける訳にはいかない。
俺はわざと自らの身を半歩だけ退き、爪の軌道を外側へと逃がしてホルダーのバランスを崩させて、踏鞴を踏んだ事で無防備となったホルダーの腹に容赦無く蹴りを叩き込む。
ここで一気に追撃を仕掛けたいところではあるが、俺はホルダーの動向に注意しながらもベルトの右側をスライドさせて黒いボタンを押して、ベーシックフォルムに戻ると同時に背後へ向き直り叫ぶ。
「隠れてるのは分かってるんだ。出て来たらどうだオーバー! メルト!」
先程のサーチフォルムでホルダーの気配を察知した際に、他にも大きな二つの気配がこの地下駐車場にはあった。
更に親しい間柄ではないが、何度も肌で感じたやつ等の事を、俺が見間違う訳が無い。
「へ~僕達がここに居るって良く分かったね」
「どうやら、更に腕を上げたようだな。仮面ライダー」
何も無い筈だった虚空から明るい少年の様な声と、無機質な低い声が響き闇の中から藍色と灰色の怪人が姿を表す。
『随分と久し振りだが、今度は何を企んでいる!?』
現れた二人に対して、答えが返ってくるとは限らない事を分かっていながらも質問をぶつけるメカ犬の気持ちは、俺も良く分かる。
何故ならば、例の緋色の暴走プログラムが出回り始めてから、極端にこの二人と会う機会が減ったのだ。
別に好んで会いたい等と微塵も思いはしないが、それと時期を同じくして加山の暗躍に試練の光の襲来。
今までは一連の出来事を別々に捉えていたのだが、最近になって本当にこれは偶然が重なっただけの別の事件なのか疑わしく思えて来たのである。
「酷いな~僕達を疑うなんてさ! ねぇ~メルト!」
メカ犬の言葉に憤慨してみせるオーバーだったが、どうもそのリアクションの全てが、疑心を持って見ているせいか白々しく見えてしまう。
「……お前達は、何をしようとしているんだ?」
俺の口から、自然と声が零れ落ちる。
別にこの二人が律儀に答えてくれるとは最初から思ってはいない。
ただ、メカ犬と同様に次元の壁を超えて現れたやつ等は、確実に何かの目的を持って行動していると分かるのだ。
それも例えば悪の組織でならば定番の世界征服などの類とは違う。
何か根本的に世界を変えてしまう様な危うさ……。
その正体が何なのかは分からないが、ここ最近の一連の事件に全て意味があり、その理由を解き明かす事が出来たのであれば、その謎も解けるかもしれないのではないかと俺は思う。
「無駄話はそこまでにしておけオーバー。私達がここでするべき事は既に終わった」
「そうだね~結局あの人達も来なかったし、何時までもここに居る意味は無いかもね」
俺の存在を無視して、会話を続けていくオーバーとメルト。
来なかった?
もしかして誰かを待っていたのだろうか。
だとしたら誰を?
其処で思考を巡らせたのか、不味かったのだろう。
「がっ!?」
突如として背中に強い衝撃を受けて、俺は駐車場のアスファルトの地面へと転がる事となる。
その原因を作ったのは他ならない、先程まで相対していたホルダーだったのだ。
二人の会話に気を取られて、完全に意識の外へと追いやってしまったは不味かった。
『大丈夫か!? マスター!?』
「……ああ。俺は平気だ」
心配するメカ犬に、俺は何とか体勢を立て直しつつ答えを返す。
「予定とは違うが、このホルダーにもまだ使い道があるようだな」
「僕達も暇じゃないからね。だけどこれだけじゃ寂しいだろうから……」
メルトに続き、オーバーはそう言うとホルダーの周囲に幾つもの藍色の暴走プログラムを投げ放ち、その全てがホルダーモドキへと変貌を遂げる。
ホルダーと新たに現れたモドキ達が、俺との間を遮る壁の役目を果たし、気付けば既にオーバーとメルトの姿はこの場から消えていた。
「とんだ置き土産をしてくれたな」
『嘆いていても仕方ないぞマスター』
メカ犬が言う事はもっともだと俺も思うのだが、この状況を前にしてしまうと思わず皮肉も口から出てしまうものだろう。
ホルダーの号令が掛かり、20を超えるホルダーモドキ達が一斉に動き出す。
恐らくだが、あのホルダーも意識をオーバー達に操られていると思われる。
そうでなければ、ホルダーモドキ達に対して、何の迷いも無く命令を出せる事への説明がつかない。
身構える俺に対して、襲い掛かるホルダーモドキ達。
だが俺へと攻撃範囲に入るよりも早く、背後から風の塊の様なものが通り抜けて前方のホルダーモドキの内、数体を派手に蹴散らす。
更にその後方に控えていたホルダーモドキ達も、またしても俺の背後から通り抜けて行った幾重もの弾丸を浴びて火花を散らした。
こんな芸当が出来るのはあの人達に他ならない。
そう思いながら後ろを振り向くと、俺の予想通りの二人の人物が其処に居た。
「鳥羽さん! それに長谷川さんもどうしてここに!?」
既にアクセスとE2に変身した二人に対して、俺は声を掛ける。
確か二人は俺と同じく今日のオーディションの特別審査員として呼ばれていた筈な上に、時間的にはもうオーディションの開始時刻も過ぎている筈なのだ。
「実は鳥羽さんが、時間になっても姿を見せない板橋君を探そうと言ったんで一緒に探しに来たんですけど、まさかこんな事になっていたなんて……一応マシンドレッサーⅡを持ち込んで置いて正解だったよ」
律儀にここに来た経緯を簡単に説明してくれるE2。
「だから言ったろ刑事さん。板橋は絶対に面白い事になってるってさ」
この状況を見て、アクセスは楽しそうに言いつつE2の肩を強めに叩く。
正直ちょっと困る事の方が多いこの人の性格ではあるが、今回はその祭と喧嘩が大好きなその性質のお陰で助かった。
それにしても、特別審査員が全員会場から姿を消してしまって大丈夫なのだろうか。
きっと今頃、会場で困っているであろう恵理さんに謝っておかないといけないなと考えつつも、今はそのオーディションを無事に始まる様にする為にも現状を打破しなければならないと意識を切り替える。
「2人とも! こんな悪夢は早めに終わらせて、オーディション会場に戻りましょう」
俺は両脇に並ぶE2とアクセスに言いながら、自身も再びホルダーの方へと身体の向きを変える。
「応よ!」
「そうだね!」
2人の返事を聞き、俺達三人の仮面ライダーは残るホルダー達に向かって駆け出す。
残りのホルダーモドキ達の相手を、E2とアクセスに任せて、俺は再びホルダーと対峙する。
先程も強烈な一撃を背後からお見舞いしてくれた巨大なホルダーの爪が猛威を振るうが、オーバー達に意識を支配されている影響なのか、動きは単調であり避けるのはそう難しくはない。
「そう何度も喰らってたまるか!」
俺はホルダーの攻撃の振り下ろしにタイミングを合わせて、一気に懐へと潜り込み、拳の連打を叩き込んでいく。
「これでラストだ!」
その間にもアクセスが最後のホルダーモドキを倒して爆発四散させる。
「援護するよ板橋君!」
既に周辺のホルダーモドキを倒していたE2は此方に駆け寄りながら、ESM01の銃口を向けていたので、俺は拳の連撃の終わりにバックステップで一旦距離を置き、其処から最後に蹴りを喰らわせて更に距離を取ると同時に、明確な隙を作り出す。
E2がその瞬間を見過ごす訳も無く、踏鞴を踏むホルダーにESM01による射撃を行う。
「行くぜ板橋!」
「はい!」
銃弾の雨に晒されて火花を上げるホルダーに此方へ合流したアクセスが突っ込んでいく。
俺もそれに続き、アクセスと両脇から挟む形でホルダーに拳と蹴りを見舞う。
「「はっ!」」
アクセスと同時に正面へと回り込み、力任せに拳を叩き込んでホルダーを吹き飛ばした後、俺達三人はその落下地点を三方向から囲い込む。
まずは俺がベルトからタッチノートを引き抜き、タッチノートに全体図を表示させて右足部分をタッチして再びベルトにタッチノートを差込み、E2はその間にESM01の底にマガジンを入れ、アクセスはベルトに嵌っているカードケースから一枚のカードを取り出して、ベルトの側部の溝へとスライドさせる。
『ポイントチャージ』
『ブレイクチャージ』
『リンクチャージ』
其々に音声が鳴り響くと同時に俺とアクセスの右足には光が集約していき、E2もネット状に広がるESM01の弾丸をホルダーに撃ち込んで動きを阻害するとESM01をホルスターに入れる事で、右足に光を宿す。
「こいつで決めるぜ」
俺の言葉にE2とアクセスが頷き、三人の仮面ライダーは同時に飛び上がり輝く右足をホルダーへと向ける。
「「「ライダーキック!」」」
三人同時に放った必殺の一撃をホルダーに避ける術は無く、三方向からのキックが当たると同時に駐車場の中で爆発が怒り、コンクリートの地面を焦がす。
幸いにも建物に影響の出る様な規模でもなく、周囲に燃える物は無く車に爆発によって発生した火が燃え移る様子も無い様なので、二次災害が起こる心配は無いだろう。
「「「え?」」」
そして爆発地点でホルダーの素体とされたであろう人物が気絶している姿が見えたのだが、その姿を見た瞬間に俺達は思わず声を上げてしまった。
何故ならば其処には熊が、仰向けに倒れていたからである。
一言に言っても別に本物の熊という訳ではない。
正確に表現するならば、ユルキャラ系な熊の着ぐるみを着た人物が倒れているのだ。
俺は何となくだが、その熊の着ぐるみには見覚えがあった。
今日のオーディションは子供が多く来る上に、その企画上、プロとしてというよりはイベントに近いものだったので子供受けが良い様にと恵理さんの勤める会社が会場の受付近くに配置すると言っていたのだ。
恐らくだが、受付が終わって役目を終えたこの熊さん(着ぐるみ)は、一人になった隙を突かれてオーバー達に利用されてしまったのだろう。
最後に少し驚きはしたものの、取り敢えずこれで会場へと行く事が出来る。
かなりオーディションの時間から遅れてしまったが、俺達は長谷川さん経由で恵美さんが警察の人達が後の処理をしてくれるという事を聞き、急いで会場へと足を運んだ。
オーディション会場から少し離れた高層ビルの屋上。
普段は殆ど人が立ち入る事の無いこの場所に、今は三つの人影があった。
その内の2人は、人とは呼べない異形の姿をした藍色と灰色の怪人。
最後の一人は、紫のスーツを身に纏い、人の良い笑顔を貼り付けた青年である。
「折角パーティーに呼ばれたというのに、少し遅れてしまい申し訳ありませんでしたね」
口調は丁寧ではあるが紫のスーツの男、加山の態度から微塵も悪いと思っているとは感じ取れない。
「別に気にしてはいないさ。少し位の遅刻に目くじらを立てる程、私達は短気ではない無いつもりだ」
加山の挑発とも取れる言葉に灰色の怪人、メルトは興味無さ気に返答する。
「勿体無いお言葉をありがとうございます」
挑発は通用しないと悟ってか、加山は笑顔を貼り付けたまま、一礼を返した。
「でもさ。僕達にだって我慢出来ない事があるって事を君も分かってるんじゃないかな?」
だが其処に不意に藍色の怪人、オーバーが投げ掛けた言葉によって、ほんの僅かではあるが、加山の眉が笑顔を貼り付けたままの状態で若干ではあるが轢きつく。
「……それはどういう意味でしょうか?」
「単刀直入に言っておこうか。私達は裏切りを許すつもりは無い」
それでも笑顔のままで知らぬ存ぜぬを貫こうとする加山に、今度はメルトが直球としか言えない一つの事実を突きつける。
「……雇い主の方の意向が貴方達との契約の破棄と言うのであれば、それも致し方無いでしょうね」
これ以上の会話は無理だと判断したのか、加山はスーツの上着のポケットから緋色の球。暴走プログラムを取り出して強く握り込む。
そうする事で全身が緋色の光を放ち、加山の姿は異形の存在、ホルダーへと変貌を遂げる。
既にホルダー化を開始していた加山に高速で突っ込んできたオーバーが右手に握り締めたお馴染の西洋剣で斬りかかるが、加山はホルダー化すると同時に準備を整えており、蝙蝠を模した両腕の翼をはためかせて、空中へと素早く飛び上がりオーバーの攻撃を回避する事に成功した。
「あれれ? 意外と速いんだね~」
攻撃を避けられたオーバーは以外だという態度を取りながらも、何処か楽しそうに加山へと向き直り、西洋剣の腹の部分を肩に乗せて、楽しそうに笑う。
そんなオーバーに、肩を竦めさせながらも、加山は翼を広げながら声高らかに言い放つ。
「最後に一つだけ言い事を教えてあげましょう。今回貴方達が開催してくれたパーティー会場にはきっと捜し求めていた【光】を宿した人が居ると見て間違い無いでしょう」
加山はそれだけを言うと、空の雲をの中へと身を隠してオーバーとメルトの前から完全にその姿を消してしまった。
「求めていた光……なるほどな」
「何で裏切るのに、そんな事を教えてくれたんだろうね?」
一人納得するメルトに対して、オーバーは当然の疑問を隣で訳知り顔で頷く相方へとぶつける。
「奴にも考えがあるのだろう。それにそういう事ならば、私達はもう少しの間、高みの見物をしてみるというのも一興かもしれないな……」
普段から相方が感情を表に出さない事を知っているオーバーは、珍しく楽しそうだと分かる程に感情を表に出している事を珍しいと思いながら、加山が飛んで行った空を見上げた。
地下の駐車場での戦いを終えた後、急いで駆けつけたのだが、既にオーデションは終わってしまっていた。
「もう! 皆して居なくなっちゃうんだから! 私がどれだけ苦労したのか分かってるのあんた達!」
「「「……ごめんなさい」」」
当然ながらかなりお怒りになられている恵理さんに、俺と長谷川さんと鳥羽さんは、土下座で誠心誠意の謝罪を行った。
理由が理由な訳で、仕方ないと思うかもしれないが、せめて事前に遅れるという連絡を入れるべきだったと今更ながらに思う。
「……もう良いわよ」
流石に男三人による土下座が功を奏したのか、恵理さんは溜息一つ吐き、何とか溜飲を下げてくれた様だ。
「あの、ところでオーディションが終わったという事は、ヒロインが決まったんですか?」
「それは僕も知りたいですね」
「おお! そうだったな! 俺も早く知りたいぜ!」
ここで怒りをぶり返されるのは不味いと踏んだのか、長谷川さんと鳥羽さんが俺の質問に便乗して来た。
多分だがビジュアル面や俺達三人との掛け合いを考えると、なのはちゃん達の誰かがヒロインに選ばれたのではないだろうかと予測したのだが、恵理さんの答えは俺の予想外のものだったのである。
「ヒロインに選ばれた女の子なら、もう帰ったから今度の打ち合わせの時に紹介してあげるわ」
恵理さんの口振りからすると、どうやらヒロインに選ばれたのは俺の知る女の子ではなかったらしい。
「お? 意外だな。てっきり俺の予想じゃ嬢ちゃん達の誰かが選ばれると思ったんだけどな」
鳥羽さんが俺も思った事をそのまま口にする。
その隣で長谷川さんも頷いていたので、どうやら同じ事を考えていたらしい。
「実は私も最初はそう考えていたんだけどね。オーディションに来た女の子の中にメカ犬君が書いた脚本のヒロインにイメージがぴったりな子が居たのよ」
どうやら、それで俺達三人の代わりに審査員を務めた社員さん達とも満場一致で、その女の子がヒロイン役に決定したのだそうだ。
おれはまだこの時、分かっていなかったのだ。
恵理さんの思い付きのこのドラマ企画が切欠となり、様々な運命の歯車が大きく動き出そうとしている事に……。
今日の海鳴も平穏に過ぎていくが、それは嵐の前の静けさにしか過ぎなかった。