魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
ホルダーの右腕と一体化したライフルの銃口から、寸分違わぬ精密な射撃が連続で行われ、何とか距離を詰めようとする俺の動きを阻害する。
「あのホルダーの射撃は厄介だな」
側転でホルダーの銃撃を避けつつ、物陰に隠れた俺は一人愚痴る。
『確かにあの射撃は中々のものだな。あれに対抗するには同じくこちらも遠距離攻撃で応戦するか、それとも……』
メカ犬が言うように、相手の土俵で戦うのも一つの手段だろう。
だが礼儀正しく、相手の得意分野で勝負をする必要性はない。
あのホルダーはどう見ても、遠距離戦闘に特化したタイプだ。
ならばやはり接近戦に持ち込む事に、勝機がある。
「相手の攻撃を掻い潜る……いや、短期決戦で決めるならこれで行くか!」
俺はベルトからタッチノートを引き抜き、操作していく。
『ダイバー・コール』
音声が響いた直後、上空からメタルブルーの手乗りサイズなイルカが飛来した。
『アタイを呼んだんだわさ~?』
ふよふよと浮かぶメカ海が、俺の肩を尻尾のヒレ部分でペチぺチと叩きながら、戦闘中とは思えない緊張感の全く無い質問をする。
「ああ! 頼むよ海ちゃん」
俺は叩き続けるメカ海を軽く払いのけつつ、更にタッチノートを操作する。
『スタンディングモード』
メカ犬がベルトに変形したのと同様に、メカ海はレバー付きのアタッチメントパーツへと変形を果たして、俺の手の中に納まる。
「避けるくらいなら、強行突破で一気に突っ込む!」
ベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツとなったメカ海を差し込む。
『ベーシック・ダイバー』
メタルブルーの重厚な装甲がメタルブラックのボディーの上に装着され、準備が整った俺は物陰から出てホルダーの居る場所を目指して歩き出す。
当然ながら今の俺は、ホルダーから見れば格好の的だ。
正確無比なホルダーの射撃が胸部の装甲に当たり火花を散らすが、それでも俺は止まらない。
俺は銃撃を続けるホルダーに十分な距離まで近寄り、拳に力を込めて両足で踏ん張る。
繰り出す拳が、容赦無くホルダーに当たり、見事に吹き飛ばす事に成功した。
やはりこのホルダーは、遠距離戦に特化している為か近距離戦闘には向いていない様だ。
「ここで一気に……」
このまま勝負を決めようとした、その時である。
俺の中に妙な感覚が芽生えた。
腹部を中心に熱が集まっていく感覚を覚え、問題の腹部を見るとタッチノートが何かに反応するかの様に淡い輝きを放つ。
タッチノートにこんな発光現象を起こす機能は、俺の知る限り無い。
『一体どうなっているのだ!?』
メカ犬の反応を見る限り、俺が知らないだけで、こんな機能が標準装備されていたという事実も無さそうである。
ならば、この発光現象の原因は何なのか。
俺には一つだけ心当たりがあった。
タッチノートには、以前に異世界の遺跡の門番から託された、試練の光を吸収する事が出来る不思議な力を持った石と融合したという経緯がある。
ならばこの発光現象も、それに属する何かが起こったのではないだろうか。
その予想は当たっていた。
俺のすぐ隣を横切ってホルダーに向かって飛んで行く光る球体。
それはまさしく試練の光だった。
だが、今まで試練の光が出現した際に、こんな現象が起こる事は無かったのは今更改めて言うまでもない。
ならば原因は何処にあるのか。
残念ながら、その謎を解き明かす時間は今の俺達には、残されてはいなかった。
『マスター! ホルダーを今すぐに倒せ!』
『何だか凄い事になってるんだわさ~』
メカ犬の急かす声と、緊張感こそ無いが、異常を伝えるメカ海の言動に、俺は我に返り前を見る。
「しまった!?」
既に飛来した試練の光は、ホルダーとの融合を果たし、あともう一歩で倒せていた筈のホルダーを新たな姿へと生まれ変わらせていた。
右腕のライフルの先には、まるで突撃銃の様な鋭利な突起が加わり、全身を覆う鋼の身体も刺々しく凶悪なものへと変貌を遂げている。
唐突な事態によって、全ての対応が遅れてしまったのが原因だ。
気づいた時には、俺はホルダーの接近を許してしまっていた。
先程まではロングレンチでの戦いを主体としていた事もあってか、向こうから来るとは思っても居なかったと言うのは何の言い訳にもならない。
「くっ!?」
咄嗟にダイバーモードで強化された腕の装甲を盾替わりにして防御を図るが、ホルダーはそんな事はお構い無しに、防御の上から、右腕による鋭い突きを放つ。
何とか間に合った防御のお蔭と、ダイバーモードの耐久力の高さによって、致命傷にはならなかったが、試練の光によって強化されたホルダーの力は凄まじく、ダメージを受ける事を免れる事は出来なかった。
吹き飛ばされた衝撃によって、アタッチメントパーツとなっていたメカ海が外れてしまい、通常のベーシックフォルムのシードとなった俺が地面を転がるその傍らで、更なる事態が発生する。
「ちょっと止めなさいよ! あんた達!? 離しなさいったら!?」
「うるさい! お前は大事な人質なんだ! 一緒に来てもらうぞ!」
何とバスジャックに参加していた他のメンバー達が、少し離れた場所で先程まで俺とホルダーの戦いを見ていた件の女の子を連れ去り、既に他の乗客達は逃げたバスへと乗り込んで行ったのである。
更にホルダーがバスの屋根に飛び乗ると同時に、既に運転席に座っていたメンバーの一人が、バスを発進させてしまう。
『不味いぞマスター! このままでは逃げられてしまう!』
「ああ、そんなのは言われなくても分かってる!」
分かっているからこそ、俺は未だ先程のホルダーの攻撃による一撃のダメージが残る身体をふらつかせながらも立ち上がり、ベルトからタッチノートを引き抜いて、こんな時に頼りになるあの人を助っ人に呼ぶ。
『チェイサー』
少しの間を置く事で、俺の良く知る黒いバイクが颯爽と無人の状態で駆け着けてくれる。
『リミットオフ』
今は少しの時間でも惜しい事から、俺はその場ですぐに呼び出したチェイサーさんのリミッターを解除して、鮮やかな色彩が施されながら走行するチェイサーさんの座席シートへと文字通り飛び乗った。
「あのバスを追いますよチェイサーさん!」
『任せてよんマスター』
頼もしいチェイサーさんの返事に御礼を言い、俺は女の子を連れ去ったテロ集団が運転するバスを追跡する。
「板橋君!」
バスを追って駆け抜けるその最中、俺を呼び止める声に振り向くと、サイレンを鳴らしながらマシンドレッサーⅡを駆るE2が俺の横に併走した。
どうやら、バスの上にホルダーが乗ったままで暴走しているという通報が警察に届き、出動要請が入ったらしい。
「それじゃあ、長谷川さんもあのバスを追っているんですよね」
「うん。どうやらホルダーの他にも今騒ぎになっているブラックオクトパスっていうテロリスト集団が、女の子を人質に一緒に居るみたいだからさ」
その通り、まずはあのバスを止めて、人質の女の子を救い出す必要性がある。
「なら、協力してあのバスを止めましょうか」
「それが一番だね」
俺とE2は共同戦線を張る事にした。
それから少しして、前方に目的となるバスを視界に捉える。
『見えたぞマスター!』
メカ犬がそう言った直後、バスの上に乗っていたホルダーも、どうやら俺達の存在に気付いたらしく、右腕のライフルの銃口を此方へと向けてきた。
俺とE2は急ぎハンドルを切り、射線上から退避するとその直後に先程まで走っていた地面に激しい弾丸の嵐が降り注ぐ。
ホルダーの止まない弾丸の嵐を回避しつつ、俺とE2は何とかしてバスに接近しようと何度も試みるが、どうしてもある一定の距離以上は近付く事が出来ない。
「板橋君。僕が囮になってホルダーの注意を引く。その内に板橋君はバスに接近してくれ!」
「分かりました。頼みましたよ長谷川さん!」
このままではらちが明かないと判断したE2がESM01をホルスターから抜き放ち、マシンドレッサーⅡを走らせながら、ホルダーと激しい射撃戦を繰り広げる。
そのお蔭で、ホルダーの意識は完全にE2へと移ったらしく俺は容易にバスへと接近する事に成功した。
「はっ!」
俺は掛け声一つと共に、チェイサーさんの座席のシートを足場に跳躍してバスの上へと飛び乗りホルダーに不意打ちの拳をお見舞いする。
流石にこの攻撃は予想外だったらしく、ホルダーは俺の攻撃を受けてバスから落ちると、丁度大きな橋を渡っていた途中という事もあり、そのまま下の川へと落ちていく。
「バスは僕が止めるから、板橋君はホルダーを追ってくれ!」
ホルダーとの銃撃戦を終えて、マシンドレッサーⅡで近くまで接近してきたE2が俺に役割分担を提案してくる。
確かに俺が止めるよりも、こういった事件は警察の人に任せた方が適任だろう。
「分かりました。俺はこのままホルダーを追います!」
俺はE2に返事を返してからすぐにバスから飛び降りて、ベルトからタッチノートを引き抜き、操作を開始する。
『コール・ガイア』
『コール・ダイバー』
『コール・ライガー』
『コール・フェザー』
タッチノートを操作し続ける事により、メカ竜、メカ海、メカ虎、メカ鳥をこの場へと呼び寄せる。
『さっきのリベンジなんだわさ~』
若干とある事情により、呼び寄せた内の一匹がホルダーへの復讐に闘志を燃えているが、普段から緊張感が無いので少しでもやる気になってくれているのならばそれは良い事と言えるかも知れない。
『マスターフォルム』
そんな事を考えながらタッチノートの操作を続け、音声が響いた事を確認して、俺はタッチノートを再びベルトに差し込む。
すると両手両足にリング状の突起が生成される。
更に呼び寄せたメカーズ達が、アタッチメントパーツに良く似た腕輪の形状となって、メカ竜が右腕、メカ海が左腕、メカ虎が右足、メカ鳥が左足へと、それぞれ装着されていく。
そして最後に、俺の全身が金色の鎧で固められる事によって、マスターフォルムへのパワーアップは完了した。
「それじゃあ、後を追いますかっと!」
マスターフォルムとなった俺は落ちて行ったホルダーの後を追い、川の中へと飛び込んだ。
川に飛び込んだその瞬間に、鋭い殺気に気付く。
殺気が放たれた方向に視線を向けると、ホルダーが銃口を俺に向けており、既に放たれた無数の弾丸が水を掻き分けて、俺に向かって放たれていた。
だが、こうなる事は俺だって事前に予想出来ている。
俺は己の拳で、向かって来る弾丸の全てを弾く。
そしてホルダーの次弾が放たれるよりも早く、左腕の腕輪のボタンを押す。
『ダイバースクリュー』
音声が響くと同時に俺の背中に、ダイバーモードの際に装着されるスクリューと酷似したバックアップが装着される。
背中のスクリューは俺の意志によって、上下左右に駆動するようになっており、水中でも十分な機動力を確保する事が出来るのだ。
スクリューを全力全開で回転させて、ホルダーとの距離を一気に詰める。
「こんな悪夢はここで終わらせる!」
スクリューで得た機動力を生かし、縦横無尽に拳と蹴りの連撃をホルダーに叩き込んでいく。
連撃でダメージを着実に与えた俺は、ホルダーに蹴りをお見舞いした後に、左腕の腕輪のレバーを引いた。
『ダイバーチャージ』
レバーを引いた瞬間に、俺の左腕に光が集約し、更に水中にダイバーモードの各種四体が、既に必殺の一撃を放つ準備を整えた状態で出現する。
「こいつで決めるぜ」
俺の言葉を合図に、ダイバーモードの各種四体が、必殺の一撃を放ち、更に俺は背中のスクリューを機動力に輝く左の拳を突き出す。
「マスターダイブナックル」
必殺の一撃がホルダーに決まり、水中で大きな爆発を引き起こす。
そうしてホルダーが倒された直後、俺の腹部にあった熱は納まったのである。
この事から、やはり原因は試練の光にあるのだという事は分かったのだが、何故今回に限りこんな共鳴しているとも言える現象が起こったのかは、謎のままに終わってしまった。
「……板橋も刑事さんも俺を除け者にしてよ……あんな楽しそうな事してるんだもんな」
事件を解決して、当初の予定通りに恵理さんの会社へと来た俺と長谷川さんの前で、一人の大人がいじけていた。
今回の事件は、巷で有名となっていたテロリスト集団が関わっていたという事もあってか、すぐにニュースになり、その情報はすぐにこのいじけた大人、鳥羽さんの耳にも入ったのだが……。
どうやら鳥羽さん的に言うと、今回の事件に関われなかったのに、俺と長谷川さんの二人がガッツリとホルダー相手に大立ち回りをした事が気に食わないらしいのである。
流石にそんな態度を取られるのは、実際に事件と関わった俺や長谷川さんからしてみれば、理不尽だとは思うのだが、鳥羽さんの性格を知っている以上、苦笑いを浮かべる他に無い。
「そ、そうだわ! 今日はヒロインの女の子を紹介するって約束だったわよね!」
この空気に耐えられなくなったのか、今まで様子を窺っていた恵理さんが、わざとらしく高いテンションで両手を叩き、話題の軌道修正を図る。
「そ、そう言えば僕も楽しみにしていたんですよ!」
「あ! そう言えばそうでしたよね。俺も誰がドラマのヒロイン役になるのかずっと気になっていたんです!」
流石にこんな鳥羽さんに絡まれるのは、普段の鳥羽さんとは別の意味で嫌なので、俺と長谷川さんは恵理さんの提供した話題に乗っかる事にした。
「そ、それじゃあ早速呼ぶわね。入って来て良いわよ」
話は纏まったとばかりに、恵理さんが俺達が集まっている待合室の扉に向かって声を掛ける。
どうやらサプライズに俺達の集まった部屋とは別の場所に、恵理さんが待機させていたらしい。
「あ、あの初めまして。これからドラマの撮影で御一緒させてもらいますので、宜しく……お願い……します……」
恵理さんお声を合図に緊張気味に部屋へと入り、挨拶をする女の子だったが、俺と目線が合うと同時にその挨拶も途中で止まってしまう。
それも当然の事だ。
まさか俺だって、こんな事で再開するとは夢にも思わなかったのだから。
何せ今、目の前に居る女の子は、今日の日中に出会ったばかりなのである。
バスジャックの際に居合わせた勝気で正義感の強い女の子。
それが目の前の女の子だ。
『うむ。これは納得だな』
女の子を観察しながら、メカ犬が静かに頷く。
その様子を見て、俺はこの女の子と初めて会った気がしない事の理由に気が付いた。
確かに俺はこの女の子と、あの時点では何の面識もなかったのは、紛れも無い事実である。
だが俺は、やはりこの女の子を知っていたのだ。
いや、正確に言うのであれば、この女の子の人物像を事前に知識として分かっていたというのが、正しいと言えるだろう。
何故ならばこの女の子の言動に始まり、纏う雰囲気はメカ犬が書いた脚本に出て来るヒロインの女の子にそっくりなのである。
そう考えれば、初めて会った気がしないと感じた事にも納得出来た。
「あら、もしかして2人とも知り合いなのかしら?」
俺と女の子の反応を見て、恵理さんがもしかしてサプライズに失敗したのではないかという顔をしながら、俺達に問い掛ける。
「……えっと、まあ……そんなところです」
何とかそう答える俺だったが、目の前の女の子はプルプルと震えている。
そう言えば俺は、緊急事態とは言え、もう会う事も無いだろうと安易に考えてこの女の子の前でシードに変身してしまったのだ。
見られてしまった上に、これからドラマの撮影で何度も顔を合わせる必要があると考えれば、必要最低限の説明はするべきかもしれないと思ったその時である。
「ちょっと一緒に来てくれる!」
突如として叫んだ女の子は、俺の腕を掴み走り出してそのまま部屋から飛び出すと、そのまま人気の無い廊下の隅の影に連れ込まれて、思い切り両肩を掴まれた。
「あのさ、ちゃんと説明するから少し落ち着いて欲しいんだけど」
顔は俯いているせいで女の子の顔は見えないが、掴まれている肩越しに、女の子の手が震えているのが分かったので、取り敢えず落ち着くように説得を試みるのだが、事態は俺の予想外の方向へと進んでいく事となる。
顔を上げた女の子の瞳は、キラキラと輝いていた。
それはもう、前世の頃の俺がデパートでライダーショーを見た直後に握手会に参加した時に匹敵するでろう程に、光り輝いているのだ。
「あたし……シードさんのファンなんです! サインを貰っても良いですか!?」
「へ?」
予想外な要求に、流石の俺も固まった。
何と言うべきか、俺にも何度か言った覚えのあるそのセリフをまさか、他の人から聞く事になるとは夢にも思わなかった。
こうして今日の海鳴市も平和に……過ぎていると言えるのだろうか?