魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「意外とあっけなく終わってしまいましたね。有名なテロリスト集団だとは聞いていたのですが、ブラックオクトパスも、所詮は烏合の衆という事でしたか」
シードとE2の活躍によって解決した事件のニュースを見ながら、ブラックオクトパスのリーダーに暴走プログラムを渡した張本人である、加山がまるで他人事の様に呟く。
「ですが一つだけ収穫もあったのもまた事実……別のアプローチをすれば、彼女の覚醒も早まるかもしれませんね」
そう言いながら加山は緋色の球体を指でなぞりながら、身の毛もよだつ冷笑を浮かべた。
メカ犬が書いた脚本の舞台は、勿論だが俺達が住む、ここ海鳴市である。
海鳴市の平和を乱す人の力を超えた異形の存在ホルダー。
その怪物達と戦う、三人の仮面の戦士。
この戦いの記録の一つに、一人の少女が関わってくる。
「はぁ……はぁ……はぁ」
出口の見えない長い道程を走り、幼い一人の少女は息を切らす。
「待てー待つのだー」
その少女の後ろを、二足歩行の蜘蛛の顔を持つ異形が後を追う。
だがそれもすぐに、終焉を迎える。
「そこまでだホルダー!」
この怪物と少女の追跡劇を終わらせたのは、腹部にベルトを巻き付けた俺の叫び声だった。
そしてここから俺と怪物との激しい戦いが始まる……という事には当然ながらある筈もなかったのは言うまでもない。
何故ならば俺の横には、先程までの場面を全て映像に撮っている撮影スタッフが居たのだから。
「はいカットー! 良かったわよ純君。これなら子役俳優としてやっていけるんじゃないかしら」
更に撮影スタッフの中央に陣取る恵理さんが、簡易椅子に座って足を組み上から目線で俺の演技に賞賛する。
何を隠そう今はドラマの撮影中であり、恵理さんは今回の企画ドラマの監督すら兼任していたりするのだ。
「勿論、姫ちゃんも良い演技だったわよ。特に追われてるところの臨場感は良かったわ」
「ありがとうございます。恵理監督」
恵理さんに姫ちゃんと呼ばれた、共演者の女の子が恵理さんの賛辞に、照れ笑いを浮かべる。
何を隠そうこの女の子こそ、今回のドラマのヒロインに選ばれた女の子で、数日前にバスジャックという中々にショッキングな状況で知り合った、名前を柊《ひいらぎ》 姫路《ひめじ》ちゃんと言う。
「それじゃあ、今日の撮影はここまでだから、次の撮影は明後日の午後に遅れない様にね」
恵理さんの号令で、今日の俺達の撮影も無事に終わりを迎える。
主演である俺と姫路ちゃんは、普段は学校生活があるという事もあり、撮影スケジュールを組んでいるので、撮影は主に休日か早朝と、若しくは平日の学校が終わった後の放課後が主だ。
同じく主演の一人である鳥羽さんが普段は何をやっているのかは見当が付かないが、長谷川さんも普段は警察での仕事があるので、どうしても撮影はその日に集まれるメンバーでという事になってしまう。
なので今日の撮影に参加出来たのは、俺と姫路ちゃんに恵理さんを始めとした撮影スタッフの皆さんと、怪人役のスーツアクターさん。
そして俺と姫路ちゃんの今日の撮影は先程、恵理さんが言った通りここで終わりなのだがこの後はシードに似せて作ったスーツも使った戦闘シーンの撮影が残っている。
「お疲れ様です」
戦闘シーンの撮影準備を始めるスタッフさん達の間を掻き分けて、姫路ちゃんが俺の近くに駆け寄ってくる。
「うん。お疲れ様」
「あの、シードさんはこれから暇ですかっむぐ!?」
瞳を輝かせて聞いてくる姫路ちゃんの発言に対して、俺は急いで姫路さんの口を手で覆い、続きの言葉を強制的に遮断する。
「困るよ姫路ちゃん。俺がシードだって知ってる人は殆ど居ないんだからさ」
「そ、そうでした」
小声で注意すると、姫路ちゃんは我に返った様に頷いた。
初めて会ったバスジャック事件のあの日、サインを書いてあげた後から、どうやら俺はこの目の前の女の子、姫路ちゃんに懐かれてしまったらしい。
姫路ちゃんの話によると、俺は以前にも姫路ちゃんに出会っているらしいのだ。
だがそれは板橋純としてではなく、仮面ライダーシードとしてなのだが。
俺はホルダーに襲われそうになっていた姫路ちゃんを助け、それから姫路ちゃんは仮面ライダーのファンとなったとの事である。
「あくまでこの場で俺は、シード役で出演してるってだけなんだからさ」
「うん、これからは気を付けるわ」
頷く姫路ちゃんだったが、まだ何か言いたそうにしていたので、俺は姫路ちゃんの次の言葉を待つ。
「あの、それで……これから一緒にお茶でもどうですか?」
「確かに少しお腹も空いたし俺は良いけど……あ! それなら良い場所があるよ」
特に断る理由もない。
それにお茶をするならば、丁度良い場所を俺は知っている。
俺が案内するお茶をするのに、都合の良い場所と言えばお馴染みの喫茶店。
幼馴染のなのはちゃんの御両親が経営しているお店であり、俺自身も小学生という身分でありながら、特別にウェイターとして勤めさせてもらっている翠屋である。
ここならばお茶をするのに、最適だと言えるだろう。
……そう思っていた時代もありました。
だが現実は、和やかにお茶を楽しむという状況とは程遠く、妙なプレッシャーが場を支配する。
「……」
「……」
笑顔で微動だにしない姫路ちゃんとなのはちゃん。
その間に挟まれて座る俺という構図。
何故こんな事態になってしまったのか。
それは少しだけ時間を遡り、俺と姫路ちゃんが翠屋に来たところから説明しなければならない。
俺達が来店した時には既になのはちゃんが居り、俺と姫路ちゃんは相席する事となって最初の内は和気藹々とドラマの撮影の話等をしていたのだが、話題が俺に関しての事になった途端に、なんと言うか空気が変わったという気がした。
それがこの会話の一部始終である。
「それにしても姫路ちゃんって、純君と仲が良いんだね」
「やっぱりそう見えるかな? やっぱりドラマの主演をする二人なんだし、仲が良くないと、色々と困っちゃうかも知れないから」
なのはちゃんが何気なく言った言葉に、姫路ちゃんはそう言うと見せ付ける様に俺の腕に抱き付いた。
俺も前世で幼い頃に近くのデパートのライダーショーを観に行った時なんかに、握手をしたりすると大興奮だった記憶がある。
姫路ちゃんの少し過剰なのではと思うスキンシップも、きっとそういう事なのだろう。
だから俺はされるがままになっている訳なのだが、それを目の前で見ているなのはちゃんの顔が、笑顔で固定されたまま、しかしその瞳だけは何の感情も写さないという時稀に見る表情を浮かべる。
「……ちょっと近付き過ぎじゃないかな?」
「そんな事無いよ。あたしと純さんはいつもこんな感じだもん」
確かにドラマの撮影中も、姫路ちゃんは何かある毎にスキンシップを図ってくるが、それは俺……というか仮面ライダーのファンという事なので無下には出来ないと俺は個人的に思っているのだが、やっぱり何も知らない人が見れば、言い方は悪いが男の子と女の子が、友達を超えたそういうあれな仲なのではと思われる感じなのかも知れない。
それを目の前で何の遠慮も無く見せられたりすれば、大抵の人が面白くは無いであろうという事は俺にも理解出来る。
もうそこからは、無言で視線だけで火花を散らす二人と、その間に挟まれる俺という図柄が数分は続いているのだが、妙なプレッシャーが生まれているという事もあってか、誰も俺達の近くには寄り付こうともしない。
しかしそんな状態も永遠に続く訳が無い。
意外な事にも、この状況を打ち砕いてくれたのは、普段ならば出来るだけ聞きたくないと願う、事件の始まりを告げる音だったからだ。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
俺のズボンのポケットの中にあるタッチノートが、盛大に音声を響かせる。
「あっ! 俺ちょっと急用があるからこれで!」
タッチノートの警報音を素早く止めてから、俺は慌てて席を立つ。
取り敢えず遠目から俺達の様子を見守っていたバイト中でウェイター姿のヤスに、なのはちゃん達の分の食事代分の食事券を手渡し、俺は逃げる様に翠屋を後にした。
翠屋を後にして、メカ犬と合流した俺はチェイサーさんに乗って、ホルダー反応のあった場所へと向かったのだが……。
「本当にこの場所にホルダーが居るのか?」
『うむ。確かにホルダーの反応はこの場所から出ていたのは間違いない』
俺の質問に、肩に乗ったメカ犬が答えた。
こんな場所と俺が言ったのには、それなりの訳がある。
それはこの場所が、少し前までドラマの収録を行っていた現場であったからだ。
普通に考えれば少し前まで居た、撮影場所である道の真ん中にホルダーが出るとは考え難いのだが、それも周囲に漂う異様な雰囲気に、その考えを改めざるをえなくなる。
確かに俺と姫路ちゃんの今日の撮影は終わったのだが、まだこの場面の最大の目玉だと言っても良いスーツアクターさん達による戦闘シーンの撮影が残っている筈なのだ。
早めに終わったという可能性はゼロではないのだが、その可能性は限りなく低いと言えるだろう。
何故ならばまだ早く終わるにしても時間が早すぎるという事もそうなのだが、何よりもカメラを始めとした撮影用の機材がそのまま残されていたのである。
なのに、誰も居ないというのは、異常としか言い様が無い。
『まずは消えたスタッフを探そうか』
「ああ。兎に角、今はホルダーもそうだけど恵理さん達を探した方が良さそうだな」
ホルダーの事も気にはなるのだが、この場所に居た筈の皆が何処に行ったのかが気になる。
現場の状況は、撮影用の機材が一式揃っている道の真ん中。
恵理さんの話では、近隣には事前に今日ここで撮影するという事は伝えているので、誰かが撮影現場を見学しに来ていたとしても、おかしくは無い筈だ。
だというのに、ここには人の気配すら無い。
それは、やはり異常な事態だと言えるだろう。
俺とメカ犬は、この異常の原因を探る為に、手分けして周辺を見渡す。
『マスター。こっちに来てくれ』
探索を始めてから数分が過ぎた頃、メカ犬が俺を呼び寄せる。
「何か分かったのか?」
別の場所を探していた俺は、呼ばれるままに、メカ犬が居る場所へと向かう。
『これを見てくれ』
メカ犬が見る様に示したのは、道の脇の林の奥だった。
更に視線を奥に集中させると、その林の奥には、生い茂った草の中に隠れるかの様に、成人した大人でも通れそうな巨大な横穴が開いていたのである。
「……かなり深くまで道が続いてるみたいだな」
横穴の中は暗い闇に包まれており、中からは冷たい風が吹いている。
そう考えると、この横穴はそれなりの距離まで続いているのだろう。
だがここで一つの疑問が浮上が浮上する。
少し前まで、この場所で俺達はドラマの撮影を行っていた時は、こんな横穴の存在は誰も知らなかったという事だ。
まあ、俺がただ単に気付かなかったという可能性もゼロでは無いのだが、ここが撮影場所になる以上、恵理さん達が事前に周辺の地形を調べるだろう。
確かに見つけ難い場所にあるが、それでも意識して周囲を見渡せば発見出来るレベルだ。
これからドラマという映像作品を撮ろうという人達が全員揃って、こんな特徴的な場所を見落とすだろうか。
それにもう一つ。
横穴の入り口の付近を手で直接触れてみると壁部分は柔らかい土で、多少の湿り気を帯びていた。
ここ数日の間、雨が降ったという事実は無い。
それを考慮すると、こんなにも大きな穴の壁面が湿気を帯びている理由は、限られてくる。
『おそらくだが、この横穴はまだ出来てから間もないのかも知れんな』
俺の導き出した結論と同じ事を、メカ犬が口にする。
「ああ。だとしたらこの先に……」
『うむ。この穴の中を調査するぞマスター』
メカ犬と俺は互いに頷き、横穴の中へと足を踏み入れた。
タッチノートを開き、発光するパネル部分をライト代わりに、俺達は穴の奥へと突き進む。
穴の中は想像以上に広く、複雑な道となっており、ただの横穴というレベルを優に超えていた。
「もう、これは洞窟とかゲームに出て来るダンジョンみたいな感じだな」
既にこの穴の探索を開始してから一時間が経とうとしたところで、俺は薄っすらと額に浮かんだ汗を拭いながら愚痴を零す。
『うむ。それにこの洞窟……どうやら何者かが人工的に作った様だ』
メカ犬が指摘した通り、自然に出来たにしては、この洞窟の道は全体的に整い過ぎている。
まるで整地されたかの様に平らで、歩く事に全く支障が無いのだ。
「確かにそうだな。だとしたらこの奥にはきっと何かがある筈だ」
こんな大規模な洞窟を短時間で作ってしまうという、人間業では成し得ない事を可能とした存在が……。
「ちょっと! 暗いんだからあんまり押さないでよね!」
「だけど急がないと純君達に追い着けないよ?」
……何故だろうか。
今、確かに後ろから妙に聞き覚えのある声が聞こえた様な気がする。
半ば諦めと呆れを含んだ溜息を吐き出した俺は、後ろを振り返り、タッチノートのパネルから漏れる光源を向けた。
すると俺の予想通り、少し前まで俺とお茶をしていた筈のなのはちゃんと姫路ちゃんが、驚きに満ちた表情で立っていたのである。
「二人とも……何でこんな場所に居るのかな?」
俺はあえて笑顔を向けてこのお転婆なお嬢さん達に、質問をしてみた。
「えっと……」
「あ、あはは……」
姫路ちゃんが言い訳を考えているのか視線を泳がし、なのはちゃんが誤魔化す様に乾いた笑いをヒクツいた微笑と共に俺に向けるが、それで全てを許せるという状況では無い。
「取り敢えず、怒るのは後にするからまずは説明してくれる?」
「笑顔が怖いよ純君」
「後で怒るんだ……」
付き合いが長いなのはちゃんは、俺が本気で怒っているというのを瞬時に悟ったらしく、一歩後退り、姫路ちゃんが怒るというキーワードに冷や汗を流す。
二人がこんな場所に居る理由を簡潔に纏めると、どうやら俺を追ってここまで来てしまったらしい。
翠屋を出て直ぐに、チェイサーさんに乗ってきた俺に、どうやって二人が俺に追い着いたのか、それは俺が居なくなった後に翠屋でどういった経緯なのかは話してくれなかったのだが、今日の撮影現場に一緒に行こうという話になったらしいのだ。
もしかしたら俺が居なくなった後に、何らかの和解があったのだろうかと考えたが、未だに二人の間には妙な距離感があり、良好な仲となったわけでは無いらしい。
そして撮影現場で俺とメカ犬を見つけた二人は、最初は声を掛けようとしたらしいのだが、林の中に俺達が入っていくのを見てそのタイミングを失い、どうせならば何処に向かっているのか後を追い駆けて確かめようという結論に至ったのだそうな。
まあ、急用が出来たからと言って、急いで席を外した俺がこんな場所に居たら、気にもするだろうというのは理解出来る。
俺が見た目通りの子供の考えで行動していたとするならば、この先に秘密基地の一つでも作っているというのがオチといったところだろうか。
だが現実は、そんな微笑ましいものとは程遠い状況だ。
「この先は危ないと思うから、二人は今からでも帰った方が良いよ。俺がここに来た理由は後で話すからさ」
取り敢えず俺は、一刻も早くこの危険な場所から離れる様に、二人に帰るよう促す。
幸いにも後を着けて来たという負い目から、この場の主導権は俺に有り、理由も後で説明すると明言した。
勿論、俺がシードである事を知らないなのはちゃんに本当の理由を言う訳にはいかないし、人一倍に正義感が強い姫路ちゃんにも言うとこれから積極的に俺の後を着いてきそうなので同じく本当の理由を説明するのは憚られる。
後で現在進行中で行方知れずな恵理さんに、適当な理由でもでっち上げて貰えば良いだろう。
俺は元より、メカ犬も素直に帰ろうとするなのはちゃんと姫路ちゃんの姿を前に油断していた。
既にこの洞窟の中は、この広い空間を作り上げた主のテリトリーと言っても過言ではない。
この先は危険かもしれない。
そんな考え方が既に甘かったのだ。
もうこの洞窟に入った時点で、危険は常に近くにまで迫っていたのである。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
今までずっと沈黙を守っていたタッチノートが警報を洞窟内で反響させたのだ。
その時を同じくして、まるで地震の様な振動が足元から伝わり、俺となのはちゃん達の調度中間地点の辺りの地面が大きく罅割れたかと思うと、次の瞬間に地面の中から丸みを帯びた長い黒い爪が突き出た。
更にその爪の持ち主が、勢い良く地面の中から這い出て来る。
這い出て来たのは、俺とメカ犬が捜し求めていたこの洞窟の主でもある一体の異形だった……。