魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第十二話 ゴースト・イン・ザ・ホスピタル【後編】

「それじゃあ、【海鳴大学病院夜の秘密肝試し】を始めるで!」

 

はやてちゃんが小声で、しかし元気良く宣言した。

 

「「『おー!』」」

 

それに合わせて、俺とメカ犬、そしてみかんちゃんが、同じく小声で言いながら、右腕(メカ犬は右前足)お天に向けて突き出す。

 

現在の時刻は良い子はとっくに眠ってる時間であり、勿論面会時間なんて、とうの昔に過ぎ去ってしまっている。

 

というか既に消灯時間も過ぎているので、俺達は明かりの消えた、真っ暗状態な、はやてちゃんの病室で待機していたりするのだが・・・

 

「しかし、良く見付からなかったよな」

 

俺はこれから肝試しという事で、静かにテンションを上げている、他のメンバーを見ながら、思わず口に出していた。

 

はやてちゃんは、この病院の事は物心が付いた時から知っているそうで、当然の様に看護士さん達の夜の見回り時間帯から、消灯時間の際に何処までチェックするのか、そして何処に居れば見付からずに済むのかを、かなり細かい所まで把握していたのである。

 

お陰で俺とメカ犬は、面会時間を過ぎても、病院関係者に見付かる事無く、はやてちゃんの病室に留まる事が出来た。

 

ちなみに俺がここに居る事を、母さんには伝えてある。

 

母さんは天然だが、下手な嘘は速攻でばれるので、俺の正直な気持ちをそのまま電話越しに言った。

 

そして母さんは一言だけ、

 

「はやてちゃんを宜しくね」

 

と優しい声色で言っていた。

 

あの夏休みに出会った日から、はやてちゃんは板橋家に良く遊びに来る様になったが、特に母さんとは凄い勢いで仲良くなった。

 

今では俺以上に、はやてちゃんと母さんは親子の様な仲に見える。

 

母さんもはやてちゃんの事が、やっぱり心配なんだろうな。

 

はやてちゃんが検査入院する事を話した時も、かなり不安そうにしてたし、時間さえあれば、お見舞いに来ていた事は、間違い無いだろう。

 

普段は専業主婦をやっている母さんなのだが、残念な事に今は臨時のアルバイトをしているので、自由になれる時間が作れないでいるのだ。

 

何でも学生時代からの親友らしいのだが、その人がプロの漫画家さんだそうで、母さんはその人がデビューする前から、ずっとアシスタントをしてきたらしい。

 

今ではかなりの売れっ子で、アシスタントさんを雇っているから、呼ばれる事は少ないのだが、今回は締め切りが近い上に、急にアシスタントの人が、来れなくなったのだそうで、母さんに白羽の矢が立ったのである。

 

しかもその漫画家さん・・・今は諸々の事情から、仕事道具を一式家に持ち込んで、仕事をしているのだ。

 

もう家で仕事を始めてから、三日が経つのだが、初めて来た日は本当に大変だった。

 

まあ、この話は今するべき話じゃないから割愛しておこう。

 

兎に角そういう経緯があり、俺は病院関係者に知られては困るが、取り敢えず親の承諾を得てこの場所に居られるのである。

 

「良し!それでは隊員諸君!これから隊長である私が、作戦内容を発表するから良う聞いとくんやで!」

 

はやてちゃんからの指示が下る。

 

先程まで静かにしていたのは、はやてちゃんの情報で、まだ看護士さんが近くにいる可能性があったからなのだが、そのはやてちゃんが動き出したという事は、もう看護士さんはこの近くにはいないという事なのであろう。

 

見るとメカ犬とみかんちゃんは、既にはやてちゃんの話しを聞く姿勢に入っていた。

 

それを見て俺も慌てて、聞く姿勢に移る。

 

はやてちゃんは俺達全員が、話を聞く準備を整えた事を確認すると、満足気に頷き、説明を始めた。

 

説明を聞きながら、俺が第一に思った事は、今夜は長くなりそうだなという、肝試しとは無縁な考えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の夕方頃に、看護士さん達が話していた噂の詳細を補填する為に、俺はまだ日が明るい内に、病院内で情報集めをしていた。

 

そして話を聞いて行く内に、この噂話は大きく三つに分かれる事が判明したのである。

 

まず一つ目の噂が、この病院で最も古くから噂されている話で、小さな女の子の幽霊だ。

 

出会うと遊んでとせがまれはするが、特に害は無いらしい。

 

噂によるとこの女の子は、この病院で亡くなったとか、座敷わらしなのだとか、様々な憶測が飛び交っている様である。

 

二つ目の噂は謎の巨大昆虫。

 

何でも夜に人間サイズの昆虫が病院内を闊歩しているのだそうだ。

 

今まで目撃した人は、全員恐怖で気絶してしまったそうなので、これ以上の詳しい情報は手に入らなかった。

 

そして最後の噂なのだが、この話を聞いて、俺は日中に看護士さん達が話していた時に感じた、違和感に気付いたのである。

 

三つ目の噂では、この二つの話が混じっているのだ。

 

最初俺は、看護士さん達が二つの違う話をしているのに、如何して繋がりがある様な言い方をするのか、疑問に思っていたのだが、答えは意外と単純だったわけだ。

 

女の子が出会った人にお願いをするというのは、一つ目と同じなのだが、違うのはその内容なのである。

 

お願いの内容が、一緒に遊んでというものから、二つ目の噂に出てくる人間サイズの昆虫を止めてくれというものに変化したのだそうだ。

 

女の子が謎の昆虫の何を止めてもらいたいのかは、分からなかった。

 

一つ目の噂は、随分と昔からあったものらしく、誰がいつ頃言い始めたのかは、分からなかったのだが、二つ目の噂は今から三ヶ月程前から、噂になり始めたらしい。

 

そして三つ目の噂は、二つ目の噂が流れ始めてから一週間ほどで、急速に広まったのだそうだ。

 

ここで不思議に思うのは、今までの話で、かなりの数の患者さんが目撃しているのに、夜の見回りをしていて本来ならば、一番目撃する確率が高い筈の看護士さんが、誰一人として目撃した事が無いという事である。

 

正確に言えば、看護士さん達は目撃しているのだ。

 

ただしそれは、一つ目と三つ目の話であり、何故か二つ目の謎の昆虫とは遭遇していない。

 

日中に話していた看護士さん達も、恐らく二つ目の噂をメインに話していたのだろう。

 

そしてもう一つ情報を補足すると、一つ目と三つ目の目撃情報は、病院内の至る所に渡っているのだが、二つ目の噂だけは如何いう事か、目撃場所が病院の最上階に集中されているのである。

 

最後にこれは三つの噂とは関係無いのだが、病院の屋上の床や壁の部分に、刃物で傷付けた様な謎の跡が残っていたと聞いた。

 

話を聞いた看護士さんの話だと、この現象も三ヶ月程前から起こり出し、一週間に一度の割合で今も増え続けているそうだ。

 

俺が集めた情報を全て纏めると、これ位なのだが、俺はこれを知った上で、この病院関係者の方々に一言物申したい。

 

ここはどんだけ不思議現象が起こってるんだよ!?

 

はっきり言って、目撃情報が、多すぎるのだ。

 

病院内の道行く人に、質問すると五人に一人は何かしらの不思議体験を経験しているのだ。

 

俺は幽霊とかは、居たら良いなと思うが、其処まで信じてはいない。

 

特に俺は一度死んでるのに、幽霊になった経験が無いという事もある。

 

だがこれだけの現状を、目の当たりにしてしまうと、取り敢えず御祓いしてもらえよと言いたくなるのは、俺だけでは無い筈だ。

 

『さっきから何を、ブツブツと呟いているのだマスター』

 

如何やら俺の思考が声に出ていた様で、俺の隣に居たメカ犬が指摘してきた。

 

「悪いな、少し考え事をしてただけだから、気にしないでくれ」

 

俺はメカ犬に軽く謝罪した。

 

「五月蝿いで二人とも!あんまり騒ぐと見回りの人に気付かれてまうやろ!?」

 

俺とメカ犬の会話に割り込んで、注意するはやてちゃん。

 

しかし注意している筈のはやてちゃんの声が、一番大きいのは良いのだろうか?

 

「『ごめんなさい』」

 

ここでそれを指摘しても、無用な争いを生むだけだと判断した俺達は、低姿勢で謝り、この場を収める事に全力を注いだ。

 

「じゅんおにいちゃんは、はやておねえちゃんの、おしりにひかれてるんだね」

 

その光景を見たみかんちゃんが素直な感想を言う。

 

何処でそんな言葉を覚えたのか、非常に気にはなるが、それよりも俺とはやてちゃんの関係が、みかんちゃんから見ると、その言動から、恋人を通り越して、既に夫婦レベルに上がっている気がする事が俺は問題な気がする。

 

俺達は現在、窓からの月明かりだけを頼りに、病院の廊下を歩いている。

 

ここで改めて、今回の肝試しに参加しているメンバーを紹介しておこう。

 

最初に紹介するのは、言い出しっぺであるはやてちゃん。

 

そして俺が無理を言って呼び出したメカ犬。

 

そして巻き込まれた俺・・・と最初はこのメンバーで行く筈だったのだが、

 

「おばけさんにあえるのたのしみです」

 

急遽追加メンバーとして、純真無垢な幼女のみかんちゃんが参加する事に決まったのである。

 

日も暮れかけた頃、みかんちゃんはまた明日と言って、病室を出て行ったのだが、暫くして完全に日が暮れた後、再び病室にやってきて、この肝試しに参加したいと言い出したのだ。

 

これを承諾するのは、あまり好ましい事だとは思えなかったが、はやてちゃんが即断でOKを出してしまったのである。

 

まあ、はやてちゃんの気持ちも何と無く分かるのではあるが・・・

 

多分はやてちゃんは、みかんちゃんが自分と同じ様に、寂しい思いをしているのではと感じたのだろう。

 

そして結局は、俺もみかんちゃんの参加を承諾したのだから、同罪かな?

 

それにしても、みかんちゃんも恐らくこの病院に入院している患者の一人だと思うのだが、やたら元気に見える。

 

入院着は着ていないが、はやてちゃんと同じ様に、自分のパジャマを着ているから、俺の考えが間違いという事は無いと思うが・・・

 

「さあ、もうすぐ第一の目的地に着くで!」

 

先頭で車椅子による移動を続けていたはやてちゃんが、強い好奇心と若干の未知への恐怖を混ぜた声で、後続の俺達に伝える。

 

今回の肝試しなのだが、噂で目撃情報が多く、それでいて見回りの人達の目を、掻い潜る事が出来る場所を数箇所見て回るという趣旨に決定した。

 

そして最初に辿り着いた目撃スポットが、ここである。

 

「深夜の談話室コーナーには出るらしいで・・・」

 

はやてちゃんが両手を自身の胸の辺りで垂らして、古典的なオバケのポーズを取りながら言う。

 

辿り着いた第一の目撃スポットは、昼間はこの病院内で最も人の集まる場所の一つである、患者さん達が自由に利用する事が出来る、談話室であった。

 

『特に怪奇現象と言える事象は発生していない様だが?』

 

談話室全体を見回したメカ犬が、何処か残念そうに呟く。

 

メカ犬も俺に文句を言いながらも、肝試しを楽しみにしていたのかもしれない。

 

しかし俺から言わせて貰えば、今の現状での一番の不思議現象はメカ犬の存在だろ。

 

もうこの辺りに突っ込みを入れるのは、今更な気がするので、言及する事はしないが・・・

 

「それじゃあ、次の目撃スポットへ出発するで!」

 

談話室の探索を終えたはやてちゃんが、俺達を一箇所に集めて次の作戦指示を出してきた。

 

「「『おー!』」」

 

俺達は病室を出る時と同じ様に、返事を返す。

 

今夜の肝試しはまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は談話室を出た後も、見回りの看護士さん達の目を欺きながら、肝試しを続けた。

 

そして約一時間をかけて、予定していた目撃スポットを全て回り終えた時、はやてちゃんが溜息を吐いてから、呟いた。

 

「それなりに面白かったけど、幽霊には会えんかったな・・・」

 

呟いた後に、はやてちゃんはもう一度溜息を吐く。

 

「まあ、肝試しって大抵はそういうものだから仕方ないよ」

 

「そうだよ。おばけさんにはあえなかったけど、みかんはたのしかったよ」

 

夜遅くでテンションも下がって来たであろう、はやてちゃんに、俺とみかんちゃんが、フォローの言葉を投げかける。

 

「・・・そうやな」

 

はやてちゃんは、肝試しの熱が冷めてきたのか、突然睡魔に襲われたのか、俺とみかんちゃんのフォローに頷いた後、本日はこれで解散という運びになった。

 

俺は、はやてちゃんを病室まで見送り、隣に居るみかんちゃんに話しかけた。

 

「それじゃあ、次はみかんちゃんを病室まで送るね」

 

後はみかんちゃんを病室に送れば、今日の肝試しは終わりである。

 

「ねえ、じゅんおにいちゃん・・・」

 

病室まで送ると言った俺に、みかんちゃんが何かを伝えようとして、その直後に何故か躊躇いを見せた。

 

「如何したの、みかんちゃん?」

 

「あのね・・・」

 

何かを伝えようとしてはいるのだが、やはり躊躇うみかんちゃん。

 

その様子を見た俺は、出来る限り優しく、手のひらをみかんちゃん頭に乗せてから言った。

 

「何か言いたい事があるなら、言ってみてよ。どんな話でもちゃんと聴くからさ」

 

俺の言葉でみかんちゃんの表情から、躊躇いが消えて、何かの強い決意の意思が生まれる。

 

「・・・ありがとうございます。じゅんおにいちゃん。じつは、じゅんおにいちゃんにおねがいがあるんです」

 

「お願い?」

 

俺のオウム返しな返答にみかんちゃんが、頷く。

 

「はい。みかんといっしょにいまからおくじょうにきてほしいのです」

 

みかんちゃんは、先程までの躊躇い等無かった様に、はっきりと言い放つ。

 

それ以上俺は、質問する事が出来なかった。

 

目の前のみかんちゃんから、物凄い決意を感じたからだ。

 

「・・・分かった」

 

だから俺は、肯定の返事だけを、短く告げた。

 

先程までのみかんちゃんと、今のみかんちゃんの印象が、大分違うのも気になるし、何故そこまでして俺を屋上に連れて行きたいのかは全く分からない。

 

でも、俺はみかんちゃんのこのお願いを聞かなくちゃいけないって思ったのだ。

 

俺にとって、みかんちゃんは、友達の笑顔を守ってくれた恩人なのである。

 

何か俺に出来る事があるのなら、協力したい。

 

「ありがとう。じゅんおにいちゃん」

 

みかんちゃんは笑顔で俺にそう言うと、病院の屋上に向けて歩き出した。

 

俺もその後を追い、後ろを歩き出す。

 

暫く歩き、屋上に出る為の階段を上り始めたその時、

 

「ん!?」

 

突如妙な感覚に襲われる。

 

その上重ねる様に、

 

『キンキュウケイホウキンキュウケ・・・』

 

ズボンのポケットに入れていたタッチノートから、何の脈略も無く突然警報が鳴り響いたのである。

 

『マスター。この周辺そのものが、謎の反応を強く発しているぞ』

 

機械である筈のメカ犬にも、何かが感じ取れたのか、俺に注意を促してくる。

 

「はやくいきましょう」

 

突然の異常事態に立ち止まっていた俺達に、前を歩いていたみかんちゃんは、後ろに居る俺達にそう一言だけ言うと、再び歩き出す。

 

『これは明らかに何かが変だぞマスター』

 

前を歩くみかんちゃんを見ながらメカ犬が言う。

 

メカ犬の言う事は良く分かる。

 

これは異常だ。

 

今俺達が居る場所も、空間も、そして・・・目の前を歩くみかんちゃんさえも・・・だけど。

 

「・・・行くしかないだろ?」

 

俺は先を歩くみかんちゃんを追って再び歩き始める。

 

この先に何があるのか分からないが、今は進むしかない。

 

それからは誰も一言すら発する事無く、階段を上り終えて、屋上へと出る為の扉の前に辿り着くと、みかんちゃんが扉のドアノブに手をかけながら、俺に一言だけ言った。

 

「あけるね」

 

その言葉を言い終わると同時に、ノブを回して、屋上への道が開かれる。

 

深夜の屋上は、穏やかな日中とは違い、静寂な闇に包まれていた。

 

これだけでも感じる印象とは、随分と変化するものではあるが、それ以外は、普段の屋上と何ら変わり無かった。

 

一つの例外を除いて・・・

 

そこには人ではない何かが居た。

 

全身が昆虫を思わせる緑色の甲殻で覆われており、基本の形は人間と大差無いのだが、その両腕が巨大な鎌になっていたのである。

 

その姿はまさに巨大なカマキリというのが相応しいだろう。

 

「来たか・・・」

 

扉を開けて、屋上にやってきた俺達を見ながら、その巨大なカマキリは呟いた。

 

「あれって、やっぱりホルダーなのか?メカ犬」

 

先程もタッチノートが発動した事から、そうだろうと思うが、俺は念の為、隣に居るメカ犬に確認する。

 

『・・・いや、正直判断が出来ない』

 

しかしメカ犬から帰ってきた答えは、如何にも要領を得ないものであった。

 

「如何いう意味だよ?」

 

俺はメカ犬に聞き返す。

 

『そのままの意味だ。奴からは確かにホルダー反応を感知する事は出来るのだが、普通のホルダーとは若干違う反応を示している』

 

「それって、あれも以前戦った奴みたいに、能力か何かで作られた分身みたいなものだって事か?」

 

『それは無いな。本体は今目の前に居る奴で間違い無い』

 

「それじゃあ何が違うって言うんだよ?」

 

「じゅんおにいちゃん」

 

俺が更にメカ犬に質問をした所で、みかんちゃんが会話に割って入る。

 

「おねがいです。あのひとをとめてあげてください」

 

みかんちゃんは謎のホルダーに指さしながら、改めて俺に頼んできた。

 

ん?

 

ちょっと待てよ・・・

 

この状況ってまるで・・・

 

「三つ目の噂・・・」

 

俺の口から自然と声が漏れる。

 

そうなのだ。

 

この状況は、若干違う部分もあるが、この病院に流れている三つ目の噂に、不気味なほど酷似している。

 

「だまっててごめんなさい。でもじゅんおにいちゃんなら・・・」

 

「みかんちゃん・・・」

 

もしも今の状況が、噂の真実だとするのなら、みかんちゃんの正体は・・・

 

「少年よ」

 

ホルダーが俺に話しかけてきた。

 

「少年が私と戦ってくれるのか?」

 

何なんだこのホルダーは?

 

何処か物腰が静かなホルダーは、ただ淡々と俺に質問する。

 

『戦うだけが目的だとでも言うのか』

 

ホルダーの質問にメカ犬が疑問をぶつける。

 

「私は待っていたのだ・・・この時を」

 

メカ犬の質問に答えたのか、独白しただけなのか判断の着かない言葉を口にするホルダー。

 

『如何するマスター?』

 

メカ犬が今度は俺に聞いてきた。

 

如何するもこうするも・・・

 

正直今の現象は全てがまともじゃないが、それでも俺は・・・

 

俺は一瞬だけ、みかんちゃんを見た。

 

「・・・約束は果たさなきゃならないだろ?」

 

俺は言いながらポケットの中に入っていたタッチノートを取り出し開くと、ボタンを押した。

 

『バックルモード』

 

隣に居たメカ犬が、銀のベルトに変形して、俺の腹部に自動的に巻きつく。

 

「変身」

 

音声キーワードを入力した俺は、バックル中央の溝にタッチノートを差し込んだ。

 

『アップロード』

 

俺の全身が白銀の光に包まれて、一人の戦士へとその姿を変えていく。

 

光が収まり、其処に佇むのは、メタルブラックのボディーが特徴的な仮面ライダーシードだ。

 

「・・・ありがとうじゅんおにいちゃん」

 

多少予測はしていたが、目の前で俺の変身を見ていたみかんちゃんは、驚く所か、眉のひとつすら動かさずに、平然としていた。

 

俺の中の疑惑が確信へと変わっていく。

 

「感謝するぞ少年・・・」

 

ホルダーは、俺に対して一言だけ、感謝の言葉を述べると、両腕の鎌で構えを取った。

 

『マスター。相手が武器を使うのならば、此方も武器だ』

 

「ああ」

 

俺はメカ犬の助言に頷きながら、ベルトの右側をスライドさせて、赤いボタンと黄色のボタンを続け様に押した。

 

『パワーフォルム』

 

『パワーブレード』

 

光に全身が包まれると同時に、メタルブラックのボディーがクリムゾンレッドに染まり、俺の右手には赤い刀身の両手剣が握られる。

 

「行くぜメカ犬」

 

『うむ』

 

俺はメカ犬に話しかけながら、パワーブレードを構える。

 

「いざ、尋常に参る!」

 

俺が構えた事を、合図に、ホルダーが右手の鎌を振り被りながら、駆け寄ってきた。

 

「は!」

 

ホルダーの攻撃に迎撃態勢を整えながら、俺はパワーブレードで、ホルダーの鎌と斬り結ぶ。

 

右の鎌を塞がれた事で、今度は左の鎌を振り被るが俺はブレードで右の鎌を抑えつつ、ホルダーの腹部に蹴り込む事で、強制的に距離を取らせる。

 

「たあ!」

 

それを隙と判断した俺は、今度は此方から距離を詰めて、ブレードの斬撃を放つが、ホルダーはその一撃を両手の鎌をクロスさせて挟み込み、受け流す事で、俺の一撃を回避してしまう。

 

俺とホルダーの間には、再び距離が生まれる。

 

「・・・やるな少年」

 

互いに構えを取りながら、ホルダーが俺に話しかけてきた。

 

「其方こそ。かなりの剣の心得があるみたいですね」

 

このホルダーの体裁き。

 

何処か恭也君や美由希さんに似ている気がするのだ。

 

基本の動きとか、そういうものではなく、本質的な何かが近い様に思える。

 

この勝負はあまり長引けばこっちが不利になるかもしれない。

 

「次だ」

 

ホルダーが俺に呟く。

 

「次の一撃でこの勝負を終わらせよう。だから少年も、今の自分に出来る最大の一撃を私にぶつけて見せろ」

 

如何やら俺の考えは杞憂だったらしい。

 

何かこのホルダーと戦っていると、時代劇に出てくる侍と勝負している様な気になってくる。

 

「ええ、次で終わりにしましょう・・・」

 

俺はホルダーの意見に賛同して、バックルからタッチノートを引き抜き、パワーブレードの柄部分にある溝にスライドさせた。

 

『ロード』

 

音声が流れると同時に、タッチノートを再びバックルに差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトから発生する光が右腕のラインを通り、赤い刀身へと集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は輝く剣を構えて走り出す。

 

それに合わせた様に、ホルダーも両腕の鎌を構えて走り出した。

 

「パワーブレード」

 

俺が必殺の一撃を繰り出そうとした瞬間。

 

「甘い!」

 

ホルダーが一気に俺の懐に潜り込み、両腕の鎌を俺の肩に振り下ろす。

 

「貰った!!!」

 

ホルダーは自身の勝利を確信し、歓喜の声を上げる。

 

そしてホルダーの鎌は俺の肩に吸い込まれる様に、辿り着き・・・

 

「何い!?」

 

切断される事無く、その場で押し留まった。

 

このパワーフォームの最大の利点はその力にある。

 

それは単純な力だけでなく、防御力にも適応されるのだ。

 

そして付け加えるのならば、俺はこのホルダーの剣技は力ではなく、恭也君達と同じ様に技にあると、予想した。

 

剣の達人は斬る時に、最も斬れ味が増すとされる、芯の部分を捉えるそうだ。

 

だから俺はわざと攻撃される様に誘導して、意識的にホルダーが斬りつけようとした場所から、僅かにポイントをずらしたのである。

 

俺は再び刀身が輝くパワーブレードを構え、ホルダーが俺の両肩に鎌を乗せた状態のまま、最大の一撃を放つ。

 

「カウンタースティング」

 

パワーブレードの突きが、ホルダーの腹部を貫いた。

 

「ぐっ!?」

 

ホルダーからしてみれば、勝利を確信した直後のまさかの反撃である。

 

これを予測して、避けきれる者等、早々居ないだろう。

 

「・・・肉を切らせて骨を絶つか・・・・・・見事だ少年・・・があ!?」

 

ホルダーは俺にその言葉だけを残し、爆発四散した。

 

爆発後に残されたのは・・・俺だけだった。

 

『やはり素体が居ないか・・・』

 

メカ犬がこの現象を目の当たりにしながら、考え込む。

 

俺もメカ犬と同じく、こうなるとは予測していたが、やはり目の前で起こっても、それが真実だとは、中々納得する事が出来ない。

 

何時までも考えた所で、答えは出ないだろうな思い、俺はするべき事が終わった事を、みかんちゃんに伝えようと、辺りを見回すのだが、何処にもみかんちゃんの姿が見えないのである。

 

俺が何処に居るのだろうと思い、探す為に歩き出そうとしたその時、

 

「ありがとう。じゅんおにいちゃん」

 

みかんちゃんの声が聞こえてきた。

 

俺は声の主を探そうと辺りを見回すが、誰も居ない。

 

「じゅんおにいちゃんのおかげで、あのひともきっとゆっくりねむれるとおもうの」

 

再び声が聞こえる。

 

「何処に居るんだみかんちゃん!?」

 

周りに目線を移動させながら、俺はみかんちゃんに呼びかける。

 

「これでみかんのやくめもおわり・・・ばいばいじゅんおにいちゃん。はやておねえちゃんといつまでもなかよくね・・・」

 

その声を最後にみかんちゃんの声は聞こえなくなってしまった。

 

「やっぱりみかんちゃんは・・・」

 

深夜の病院の屋上で俺が呟いた声は、あまりにも小さく、風の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肝試しをした翌日。

 

なのはちゃん達三人も予定が空いたので、俺達は改めて四人揃ってお見舞いに行く事になった。

 

現在は学校も終わり、昨日の俺と同じ様に、四人で病院の廊下を歩いている所だ。

 

「今日は皆でお見舞いに来れて良かったね」

 

俺の隣を歩くなのはちゃんが俺に笑顔で話しかけてくる。

 

「ああ、そうだね」

 

「純君。何かあったの?」

 

なのはちゃんが俺の顔を心配そうに覗き込んできた。

 

「な、何でも無いよ!」

 

俺は慌てて元気だからと言う。

 

実際の所、俺は昨日の夜のあれが現実に起こった事なのか、判断出来ないでいた。

 

もしかしたら、今でも夢だったんじゃないかって、思ってしまう。

 

「純君」

 

再びなのはちゃんが、俺に話しかける。

 

「話したくなったら、何時でも話してね。私に出来る事なら、何だってしてあげるから」

 

真剣な瞳で俺に言ってくるなのはちゃん。

 

それを聴いた俺は、

 

「ありがとう」

 

そう言ってなのはちゃんの頭に軽く手を置いて撫でた。

 

俺がよっぽど辛気臭い顔をしていたのだろう。

 

確かに気にした所で、今回の事に、答えが出せるとは到底思えないのだから、前向きに考えよう。

 

「純君?」

 

「もう大丈夫だから、心配しないで」

 

俺は今の自分に出来る限りの笑顔を、大切な幼馴染に向ける。

 

「・・・うん!」

 

なのはちゃんは俺の笑顔に納得したのか、とても良い笑顔で返事を返してくれた。

 

さて、なのはちゃんのお陰で、大分と気は楽になったが、謎は多く残ったままである。

 

二つ目の噂は恐らく昨日戦ったホルダーで間違い無いと思うのだが、如何して最上階だけでしか目撃されなかったのだろうか?

 

屋上に付いていた傷もきっとホルダーの鎌だろうし・・・

 

本当に謎だらけである。

 

「着いたよ二人とも」

 

俺となのはちゃんの少し先を歩いていたすずかちゃんが、話しかけてくる。

 

「入るわよ」

 

アリサちゃんは病室の扉をノックしてはやてちゃんに確認を取っていた。

 

「どうぞ~」

 

扉からはやてちゃんの声が聞こえたので、俺達は、遠慮無く病室へと入室する。

 

其処に居たのは、当然ながらはやてちゃんと、そして・・・

 

「あ!じゅんおにいちゃんだ~」

 

みかんちゃんが居たのである。

 

俺が呆然としている間にも、みかんちゃんは、当然の様に、なのはちゃん達に自己紹介を続けていく。

 

「あら、今日は随分と賑やかね」

 

病室に女性の声が聞こえた。

 

入って来たのは、白衣を着た美人さんである。

 

この人の名前は石田《いしだ》 幸恵《さちえ》さん。

 

この病院に勤めているお医者様で、はやてちゃんの主治医でもある。

 

「あ!こんどはさちえせんせいだあ~」

 

なのはちゃん達に、自己紹介をしていたみかんちゃんは、石田先生が病室に入ってくるのを見ると、すかさず飛びついた。

 

「あら、みかんちゃんは今日も元気ね」

 

右足に中々の威力のタックルを喰らいつつも、石田先生は笑顔を崩さない。

 

「えっと・・・石田先生は、みかんちゃんの事知ってるんですか?」

 

俺は恐る恐る質問する。

 

「知ってるも何も、みかんちゃんは、この病院の院長のお孫さんよ?」

 

「うん!ここみかんの、おじいちゃんのびょういんだよ」

 

何かさらっと衝撃的な事実が飛び出した。

 

「それにしても似てるわね~」

 

石田先生がみかんちゃんの顔を観察しながら呟く。

 

「・・・な、何がですか?」

 

俺は脳の処理速度が、限界に近づきつつも、何とか石田先生に質問を続ける。

 

「実はね、院長室に古い写真があるんだけど、その写真に写ってる女の子が、みかんちゃんにソックリなのよ」

 

話を聞くと、その写真の女の子は、院長のお姉さんの生前の写真なのだそうだ。

 

写真のお姉さんは、この写真を撮ってから暫くして流行り病でお亡くなりになったそうだが・・・

 

「確かそのお姉さんの名前もみかんだった筈よ」

 

「そのしゃしんね。みかんもってるよ!」

 

俺と石田先生の会話にみかんちゃんが、突如乱入し、俺に一枚の写真を見せてきた。

 

その写真は随分と古い物で、端々が破れていて、写真自体もカラーではなく、セピア色をしていた。

 

「あの、この人は?」

 

確かに写真には、みかんちゃんに瓜二つな、女の子が写っていた。

 

だが写っていたのは、その女の子だけでは無かったのである。

 

もう一人。

 

写真には軍服を着た、初老の男性が写っていた。

 

俺はこの人が誰なのかを、石田先生に尋ねてみる。

 

「ああ、その人はね…」

 

石田先生が院長から聞いた話によると、この人は院長の叔父にあたる人で、生前の姉が良く懐いていたそうなのだが、同時期に姉と同じ流行病で亡くなったのだそうだ。

 

この人は、かなり腕の立つ剣術家であったのだそうだ。

 

それと同時に、何故か高い所が好きだったから、当時空を飛べる職業である空軍の軍人になってしまったという変わり者だったらしい。

 

それと写真に写ってる二人はかなりの医者嫌いだったという話は、今でも続くこの医者の家系において、有名な話なのだそうだ。

 

……何故だろう。

 

今になって、何か知らなくても良かった事実まで、知ってしまった気がする。

 

俺と世間話をした石田先生は、はやてちゃんに二時間後に検査があるから、その時間には、病室に居てねと簡単な連絡をすると、病室を出て行った。

 

「ねえ、じゅんおにいちゃん」

 

石田先生が病室をでて暫くすると、みかんちゃんが話しかけてきた。

 

「きのうの、きもだめしでえとは、たのしかったですか?」

 

この質問が出るという事は、やはり夜の肝試しに参加したみかんちゃんと、今俺の目の前に居るみかんちゃんは、別人だったという事なのだろうか…

 

しかし今は、そんな考察をしている暇は無い様だ。

 

それと言うのも……

 

「へえ~夜の?」

 

「肝試し?」

 

「デート?」

 

なのはちゃんと、アリサちゃんに、すずかちゃんから、何故か凄まじい殺気を放たれているからだ。

 

「純君…」

 

「ちょっと…」

 

「説明してくれるかな…」

 

三人がゆっくりとした動作で、俺に近づいて来る。

 

何をそんなに怒っているのか知らないが、俺は三人の怒りの琴線に触れてしまったのかもしれない。

 

「今日は天気が良いから、お外でご本を読もうなあ~」

 

「うん!」

 

はやてちゃんは、自分だけちゃっかりと、みかんちゃんを連れて避難して行く。

 

「お、俺も一緒に行こうかな?」

 

何とか俺も便乗してこの場から逃げようと試みるが、後ろで凄まじいオーラを放つ三人に肩を掴まれて、あえなく失敗に終わる。

 

そして俺が、恐怖のあまり、逆に引きつった笑顔で振り向くと其処には、怒りのオーラを放ちながら、凄く良い笑顔をしているなのはちゃん達が居た。

 

「「「ちょっとお話しようか?」」」

 

この日。

 

海鳴大学病院において、四つ目の噂として、謎の少年の断末魔が加わったというのは、全く別の話である。

 

今日の海鳴は、秋の夜長のミステリーと、若干のバイオレンスがあるが、それなりに平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロサンゼルスのホテルの一室で、一人の日本人女性が、一眼レフのカメラを大切そうに専用の掃除用具を使って、磨いていた。

 

「うん!綺麗になったわ!」

 

この女性の名前は風間恵理。

 

海鳴市で雑誌記者をしており、ここロサンゼルスには、会社の取材で来ているのだ。

 

「それにしても、あの子、無事に純君の所に着いたかしら?」

 

恵理は何かを思い出す様に、瞳を閉じる。

 

「何か、純君の相棒のメカ犬君と知り合いみたいだったから、宅急便で送ってあげたけど……」

 

其処まで言って恵理は、大きく伸びをしながら、

 

「まあ良いわ!それよりも折角早めに取材が終わったんだし、ショッピングにでも行ってこよっと!」

 

そう言って、恵理はホテルの部屋を出て、ショッピングに出かけて行った。

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