魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第十三話 トリック・オア・トリート&モスキート?【後編】

俺とオーバーの刃が、鍔迫り合い、火花を巻き起こす。

 

先に動いたのは俺の方だ。

 

現在パワーフォルムで戦ってる俺には、機動力が無い。

 

基本的に相手が此方側に近づいてくれなければ、攻撃する事もままならないのである。

 

だからこそ、相手が戦意剥き出しで向かってくる内に、此方から仕掛けなければならない。

 

「はあああああ!!!」

 

俺はパワーブレードを握る手に、ありったけの力を込めて、オーバーの身体を、剣ごと強引に後方に吹き飛ばす。

 

「お!凄い力だね~」

 

それでも何処か余裕を見せるオーバーは、軽口を叩きながら、先程まで居た場所から、2m程後ろの地点に着地する。

 

『今だマスター!』

 

「ああ!」

 

メカ犬が俺に叫び、その叫びに俺も頷く。

 

直接剣を交えて分かったのだが、あのオーバーと名乗る奴の実力は相当なものだ。

 

今は何故か様子見の為なのか、手を抜いているみたいだが、俺達にとっては、それこそが勝機。

 

オーバーが実力を発揮する前に、一気に畳み掛ける。

 

俺はバックルから、タッチノートを引き抜き、パワーブレードの溝にスライドさせた。

 

『ロード』

 

音声が流れる事を確認しながら、俺は再びタッチノートを差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトから光が発生して、その光が右腕のラインを伝い、パワーブレードの刀身に集約される。

 

「へ~。何か凄そうだね?」

 

俺のやっている事を、楽しそうに見ているオーバーだが、すぐにその余裕を後悔させてやる!

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は光が集約されたパワーブレードを空に掲げる。

 

「パワーブレード」

 

そして刃をオーバーに向けて、全力で振り下ろす。

 

「ブレイクインパクト」

 

全力で振り下ろした一撃は、凄まじい衝撃波を生み出し、その進行方向に居るオーバーに対して、猛威を振るう。

 

並みのホルダーであれば、一撃で倒せる技なのだが、しかし今俺が戦っている相手は、並みの相手ではなかった。

 

「な!?」

 

俺は驚愕の声を上げる。

 

オーバーがブレイクインパクトの衝撃波をその手に握る剣で、受け止めたのだ。

 

「はあ!!!」

 

しかもオーバーは、掛け声と共に、そのまま剣を斜めに傾ける事で、衝撃波の流れを変えて受け流してしまった。

 

『防いだだと!?』

 

その光景に、メカ犬も驚愕する。

 

「ふう~。かなりの威力だね。僕の腕が痺れちゃったよ」

 

言いながら手をぶらつかせる、オーバーだが、その言動には、やはり余裕が感じられる。

 

「さてと……」

 

そう言いながらオーバーが剣を頭上に掲げるのを見て、俺は咄嗟に身構えるのだが、ここでオーバーは予想外の行動に出た。

 

オーバーは頭上まで上げた剣を、手放してしまったのだ。

 

その手を離れた剣は、初めから其処には何も無かったかの様に、光となって四散してしまう。

 

『如何いうつもりだ?』

 

てっきり攻撃をしてくると、身構えた所に、予想外の行動をしたオーバーに疑問を抱いたのだろう。

 

メカ犬がその行動を行った当人であるオーバーに、質問をぶつける。

 

「今日はただの顔見せだからね」

 

「顔見せ?」

 

オーバーの返答に俺はオウム返しで口を開く。

 

「そうだよ。でも安心したよ。あんまり弱いようならこのまま倒しちゃう所だったからね」

 

そう言って、オーバーは俺達に背を向けて、歩き出す。

 

「待て!」

 

『貴様には聞きたい事が、山ほどあるのだ!』

 

その姿に、俺とメカ犬が待ったをかける。

 

突然出て来たと思えば、いきなり襲い掛かってきた上に、このオーバーという奴は、自分の事をホルダーを越えた存在だと言っていた。

 

このままオーバーを逃がしては行けないと、俺の本能が警報を鳴らしているのだ。

 

「僕なんかに構ってて良いのかな。ホルダーの方はもう逃げちゃったみたいだけど?」

 

オーバーはそう言って、ホルダーの倒れていた場所を指差す。

 

俺がその方向に、視線を向けると、確かに先程まで倒れていたホルダーの姿が、忽然と消えてしまっていた。

 

しかしそれ以上に驚いたのは、すぐに視線を戻した筈なのに、オーバーの姿までもが、何処かに消えてしまったという事である。

 

「居ない……」

 

『如何やら逃げられたようだな』

 

先程まで戦いの場となっていた場所には、虚しく俺とメカ犬の声だけが響き渡る。

 

「あのオーバーとか名乗ってた奴は、一体何者なんだ?」

 

『すまないマスター。それはワタシにも分からない。ただ一つ言える事は……』

 

質問をぶつける俺に、メカ犬は分からないと答えながらも、自身の考えを口にする。

 

『この海鳴市で、今まで以上の何かが、始まろうとしている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中に一つの闇よりも更に暗い影が佇んでいる。

 

しかし其処に変化が生じ、影はもう一つ出現した。

 

「ただいま~」

 

後から現れた影が、明るい声で、言葉を発する。

 

「ふん。随分と派手にやってくれたな」

 

その言葉に返事を返すのは、先程の声とは、対照的に、何処までも低く暗い老人の声だった。

 

「まあ、そんなに硬い事言わないでよ。やっぱり遊びは楽しんでこそ遊びなんだしさ」

 

「私が言ってる事は、そういう事ではない。この時点で私達の存在が明るみになるという事は、作戦内容の漏洩にも繋がる可能性が、あるのだぞ」

 

「そんなにカリカリしないでよ~メルト」

 

「メルト?」

 

「あんたの名前さ。僕がオーバーで、あんたの名前がメルト。僕達って最近生まれたばかりなんだから、名前ぐらいは付けて置いた方が良いでしょ?」

 

「……好きにしろ」

 

「そうするさ」

 

「だが暫くは大人しくしておけ。今私達が動く事は、得策ではない」

 

「はいはい。暫くは大人しくしておきますよ」

 

闇の中にあって更に深い闇を持つ二つの影は、その言葉を最後に、周りの闇に溶け込むかの様に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーバーと戦ってから、三日が経ちハロウィン当日となった。

 

あれから奴は姿を現さないし、ホルダーも出てきていない。

 

不安は残るが、探そうにも何の手掛りも無い現状では、如何にもお手上げなのである。

 

「ねえ純君。この格好どうかな?」

 

「似合ってるよ。なのはちゃん」

 

考え事をしていた所で、なのはちゃんが俺に話しかけてきた。

 

俺はなのはちゃんの姿を見てから、素直な感想を言う。

 

なのはちゃんの今の格好を、一言で表すとするならば、猫娘である。

 

シンプルなレモンイエローのワンピースに、猫耳カチューシャ。

 

更にはご丁寧に肉球グローブと、どういった原理で動いているのか分からないが、お尻の方からは長い尻尾がユラユラと、揺れている。

 

「ありがとう。純君も似合ってるよ」

 

「そうかな?」

 

「うん。凄く似合ってるよ」

 

「だと良いんだけどね」

 

現在の時刻は、もうすぐ夕方から夜へと変わる時間帯だ。

 

今日はハロウィン当日という事もあり、これからイベントが催される。

 

この近辺に住んでいる子供達が、仮装をして集まり、このイベントに協力している個人宅や、お店を回り、お菓子を貰うというものだ。

 

俺となのはちゃんは、一緒にイベントに参加する為、集合場所である、多目的ホールへと向かっている最中なのである。

 

ちなみに他の皆とは、集合場所で待ち合わせする事になっている。

 

周りを見てみれば、俺達以外にも、仮装をした子供達が、続々と家から出てきて、同じ場所を目指しているので、既にちょっとしたパレードの様だ。

 

ハロウィンでは雰囲気を壊さない様にする為に、子供を一人で家から送り出すのだが、それでは流石に危ないので、有志の大人達が、何人も辺りを見回りしている。

 

勿論大人の人達も、仮装をしている。

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイ……』

 

俺が肌身離さず持っているタッチノートから、警報が鳴り響く。

 

「ま、また変なアラームが鳴ってるよ純君?」

 

タッチノートの警報音を聞いたなのはちゃんが、俺に言ってくる。

 

そういえば以前なのはちゃん達には、タッチノートの警報を、タイマー式のアラームだって誤魔化した事があったっけ。

 

「なのはちゃん。集合場所に行く前に、母さんに頼まれていたお使いがあったのを思い出したから、先に行ってて!」

 

俺はそれだけ伝えると、全力で走り出す。

 

「え、ええ!?」

 

なのはちゃんは突然、俺にそんな事を言われたからなのか、慌てふためく。

 

これがすずかちゃんだったら、確実に追いつかれていただろうが、運動の苦手ななのはちゃんなら、追いつかれる心配はまず無いだろう。

 

かなり強引に振り切ったので、後が怖いが今は緊急事態なので、致し方無い。

 

『マスター!』

 

子供達が進む道から少し外れた所で、俺はメカ犬と合流を果たす。

 

「タッチノートから、警報が鳴ったけど、この近くにホルダーが居るのか!?」

 

『うむ!ここからかなり近い!急ぐぞマスター!」

 

「分かった!」

 

俺とメカ犬は、会話を簡潔に纏めると、再び走り出す。

 

メカ犬の言う通り、チェイサーさんを呼ぶまでも無く、俺達はホルダーの居る場所へと辿り着いた。

 

其処に居たのは、三日前に商店街を襲撃した蚊を操るホルダーだった。

 

「ハロウィンなんて浮かれたイベント……俺が潰してやる!!!」

 

何やら物騒な事を言っているホルダー。

 

前回も彼女がどうとか言っていたが、彼の私生活に何が有ったというのだろうか。

 

まあ、何があったとしても、それで他人に迷惑をかけるのは、絶対にやってはいけないことなので、俺とメカ犬は、急いでホルダーの前に躍り出る。

 

「止めろホルダー!」

 

『悪さも其処までにして置くんだな!』

 

俺とメカ犬はホルダーの前に立ち塞がり、その進行を遮った。

 

「……板橋君?」

 

俺の姿を見たホルダーが、何故か俺の苗字を言い当てた。

 

「何で俺の名前を?」

 

もしかしてこのホルダーの正体は、俺の知ってる人物なのだろうか。

 

「……ああ、この姿じゃ分からないのも無理ないか」

 

ホルダーはそう言うと、全身を緑色の光で包み込む。

 

その光が消えた時、ホルダーの姿が、素体となった人の姿へと戻る。

 

その人物は俺の良く知る人物だった。

 

「田中さん!?」

 

俺はその人物の名を口にする。

 

「君とは知らない仲じゃないから、忠告しておくよ。ここは今から地獄になるから、離れた方が良い」

 

「田中さん……如何してそんな事を言うんですか?」

 

田中さんは、俺の質問を聞くと、普段の物静かな雰囲気は、なりを潜め、怒りを露にした。

 

「ムカつくんだ!何もかも!!!俺がこんなにも上手くいかないのに、周りの奴等は、そんな俺を見ながら嘲笑っていやがる!!!だから俺はそんな奴等に復讐してやるのさこの力で!!!!」

 

そう言うと、再び田中さんの全身が緑色の光に包まれて、ホルダーの姿へと変わる。

 

『マスター。田中殿は、完全に暴走プログラムに意識を支配されている様だぞ』

 

「みたいだな」

 

俺はメカ犬と会話を交わしながら、タッチノートを取り出す。

 

「田中さん」

 

タッチノートを開きながら俺は、田中さんに話しかける。

 

「ん、まだ逃げていなかったのかい?」

 

「ええ、田中さんをこのまま放っておく訳には行かないですし、今の内に言っておきたい事があるんで」

 

「言っておきたい事?」

 

俺は一度だけ軽く頷いてから、田中さんに語りかける。

 

「確かに田中さんは、何かに失敗する事が多いですけど、それは誰にだって言える事なんです」

 

「何が言いたいんだい?」

 

「たとえ人は、失敗して倒れたとしても、必ず立ち上がる強さを持っている筈です。自暴自棄にならないで下さい。田中さんは誰よりもその強さの大切さを知っているんですから」

 

何時も失敗をしては、落ち込む田中さんは、その度に翠屋にやって来て、コーヒーとフレンチトーストを頼んで、店員の俺達に愚痴を零す。

 

だけどその後は、笑顔で元気になったと俺達に報告してくれる。

 

田中さんは、何度失敗したとしても、再び笑顔で明日を頑張ろうとする強さを胸に秘めているんだ。

 

だからこそ……

 

「俺は田中さんを止めます」

 

俺はタッチノートのボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

音声が流れると同時に、メカ犬が銀色のベルトに変形して、俺の腹部に巻きつく。

 

「変身」

 

俺は素早く音声コードを入力して、バックルにタッチノートを差し込む。

 

『アップロード』

 

白銀の光が俺の全身を包み、その姿を一人の戦士へと変えて行く。

 

光が飛散し現れたその姿は、メタルブラックのボディーに、四肢に伸びる銀のラインとV字の角飾り。

 

そして赤い二つの複眼が、圧倒的な存在感を感じさせる。

 

「板橋君が、仮面ライダーだったのか……」

 

俺の変身を見たホルダーが呟く。

 

その通り。

 

今の俺は板橋純という、へタレ小学生ではなく、一人の戦士。

 

仮面ライダーシード。

 

それが今の俺だ。

 

「悪夢はここで終わらせる」

 

俺は言いながら、動揺を見せるホルダーに向かって走り出す。

 

「は!」

 

一気にホルダーの懐に入り込み、拳を連打で叩き込む。

 

「ぐう!?」

 

ホルダーも反撃とばかりに、腕を振り回してくるが、俺はその攻撃を掻い潜りながら、更に拳を打ち込んでいく。

 

「くそ!!!」

 

ホルダーはそう言いながら、俺の拳が届かない位置まで下がると、背中の羽を広げて空へと舞い上がる。

 

『逃げる気だぞマスター!』

 

「させない!」

 

メカ犬の報告を聞きながら、俺はベルトの右側をスライドさせて、青いボタンと黄色いボタンを続け様に押す。

 

『サーチフォルム』

 

『サーチバレット』

 

メタルブラックのボディーは、スカイブルーへと染め上がり、俺の右手にはこのフォルムの専用武器である銃、サーチバレットが握られる。

 

「こいつで落とす」

 

俺はサーチバレットの照準をホルダーの羽に合わせて、引き金を引く。

 

銃身からは光弾が射出され、ホルダーの羽へと向かう。

 

「ぐあ!?」

 

光弾は見事にホルダーへと命中し、飛行能力を失ったホルダーは、なす術無く地面へと落下する。

 

地面にホルダーが落下した事を確認した俺は、バックルからタッチノートを引き抜いて、サーチバレットの溝にスライドさせた。

 

『ロード』

 

音声を確認しながら、俺は再びタッチノートをバックルに差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトからは光が発生して、右腕のラインを通り、サーチバレットの銃身へと集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

光が集約されたサーチバレットを構えながら、俺はホルダーにその銃身を向ける。

 

「サーチバレット」

 

よろけながらも立ち上がり始めたホルダーに対して、俺は引き金を引く。

 

「ガトリングブースト」

 

光弾が数珠繋ぎで、連続射出されて、その全てがホルダーに命中する。

 

そしてホルダーは、光弾の全てを喰らった後に、爆発を引き起こす。

 

爆発後に残ったのは、気絶した田中さんだけだった。

 

これで終わったと思ったその瞬間である。

 

突如拍手が聞こえて来た。

 

その音のする発生源に目をやると、其処に居たのは藍色の怪人。

 

「オーバー!?」

 

俺は急ぎサーチバレットの銃口を、オーバーに向ける。

 

「おっと!そう警戒しないでくれるかな!今日は別に戦いに来た訳じゃないんだから」

 

相変わらず余裕を見せる態度と口調で此方に話しかけてくるオーバー。

 

『ならば何をしに来たと言うのだ!?』

 

メカ犬もオーバーの動きに警戒しながら、質問をぶつける。

 

「見学だよ」

 

「見学?」

 

「そうさ、見学。それと報告かな、暫くは君達の前に顔を出さないと思うから、その報告にね」

 

オーバーからはまたしても予想外の言葉が発せられる。

 

『如何いう事だ?』

 

「僕も結構忙しい立場なんでね。まあ、心配しなくてもその内また会えるさ」

 

「喋り過ぎだぞオーバー」

 

俺達の会話に突如として新たな乱入者が現れる。

 

声のした方角を向くと、其処に居たのは、全身が灰色の怪人で、オーバーと比べると、かなり恰幅が良い体格をしていた。

 

「やはりここに来ていたか。暫くは大人しくしておけと言って置いた筈だが?」

 

「ごめんメルト。でもさ、別に会いに行くなとは言ってなかった訳だし、作戦さえばれなきゃそれで良いじゃん」

 

突如現れた怪人を、オーバーは、メルトと呼んでいた。

 

恐らくはそれが、奴の名前なのだろう。

 

それにもう一つ気になる事を言っていた。

 

作戦と言っていたが、奴等は何をしようとしているんだ?

 

「兎に角行くぞ!」

 

メルトと呼ばれた怪人が、オーバーに言いながら、右手に光を発生させて、大型の銃を作り出し、その銃口を俺に向けた。

 

「さらばだ仮面ライダー。またいずれ会う事となるだろうがな」

 

そう言いながら、銃の引き金を引き、一発の銃弾が、俺の足元の地面に命中して、爆煙を発生させる。

 

「くそ!?」

 

その煙は俺の視界を遮り、オーバーとメルトの姿が目視出来なくなってしまう。

 

やがて煙が晴れると、其処には俺と、気絶した田中さんだけが残されており、オーバーとメルトの姿は消えてしまった。

 

『またしても逃げられたか』

 

「みたいだな……」

 

自分自身をホルダーを超えた存在だと名乗っている上に、何かの作戦を実行に移そうとしている、オーバーとメルト。

 

メカ竜の奴も、ろくに話をしない内に何処かに行ってしまうし、分からない事だらけである。

 

確かにメカ犬の言う通り、この海鳴市で、何かが起ころうとしているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いわよ純!」

 

多目的ホールに辿り着いた直後、俺はアリサちゃんに怒鳴られた。

 

「心配したんだよ」

 

「純君てば、突然走っていなくなっちゃうんだもん」

 

「それで用事は済んだんか?」

 

それに続いて、すずかちゃんとなのはちゃん、最後にはやてちゃんが話しかけてきた。

 

ちなみに皆してなのはちゃん同様、猫娘の格好をしている。

 

「本当にごめんね。もう用事は片付いたからさ」

 

あの後俺は、ハロウィンの事を思い出して、気絶した田中さんを、メカ犬に任せて集合場所である多目的ホールに急いでやってきた訳だ。

 

何とか全体の集合時間には間に合ったものの、それでも俺が皆の中では、一番遅かったので、怒られるのは仕方が無いだろう。

 

「それにしても……ぷ!」

 

先程まで、怒りを露にしていたアリサちゃんの顔が、俺の顔を見続ける内に、緩んで行き、最後には噴出した。

 

「中々似合うで純君」

 

「そうだね」

 

「やっぱり皆もそう思うよね」

 

俺を見て口々に言ってくるなのはちゃん達。

 

いや、如何見てもアリサちゃんの反応で、俺の今の格好が似合ってないと言っている様なものだろう。

 

今の俺の格好は、普段着であるが、頭の上には猫耳カチューシャが装備されている。

 

まあ、所謂猫男という奴であろうか。

 

アリサちゃんはさっきから、お腹を抱えて笑っているし、逆にすずかちゃんは、俺達全員を怪しい視線で見つめていたりする。

 

先程の戦いとは、別種の不安を抱きながら、ハロウィンの夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……板橋君。何時ものをお願いするよ」

 

ハロウィンのイベントが過ぎてから二日後の事である。

 

翠屋にやって来た田中さんは、溜息を吐きながら、何時もの様にカウンター席に座り、バイト中の俺に注文をしてきた。

 

「えっと、また何かあったんですか?」

 

何時ものという事で、コーヒーとフレンチトーストを、田中さんの席に持ってきた訳だが、またしてもエプロンを鷲掴みにされたので、俺は仕方なく暗いオーラを醸し出す田中さんに、質問を試みる。

 

「うん。実は今回は結構深刻な事でね。最近の記憶が全く無いんだ」

 

「それは……」

 

恐らく暴走プログラムと素体となった田中さんを、引き離した時に起きる副作用の為だと思うのだが、どうやって説明すれば良いのだろうか。

 

俺が内心如何するべきかと、悩んでいるその時、翠屋の扉が開かれる。

 

「純君居るかな?ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 

翠屋にやって来たのは、海鳴ジャーナルで雑誌記者をしている恵理さんだった。

 

頼み事って……物凄く嫌な予感がするんですけど。

 

「ねえ……板橋君。あの綺麗な女性と君は、知り合いなのかい?」

 

俺と会話をしていた、田中さんが、両目を見開き、恵理さんを捉えながら、質問してくる。

 

「何言ってるんですか。知ってるも何も、田中さんは恵理さんに一度……あ」

 

そこで俺は、田中さんが最近の記憶を失っていたという事を思い出す。

 

このままでは不味いと思い、田中さんを止めようとしたのだが、時既に遅く、田中さんは恵理さんの目の前に立ち、翠屋全体に響く声で、以前見た光景を再現した。

 

「好きです!付き合ってください!」

 

「ごめんなさい」

 

やっちゃったよ。

 

しかも今度は恵理さん即答だし……

 

そして田中さんは、俺に無言で近づくと、数枚の硬貨を渡して、背を向ける。

 

「失礼しましたああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

田中さんはそう叫ぶと、全力疾走で、翠屋を駆け抜けて行った。

 

「何なのかしらあの人?」

 

恵理さんが、田中さんの走り去る背中を見ながら、首を傾げる。

 

「ははははは……」

 

俺はこの一連の流れに、840円分の硬貨を握り締めながら、苦笑いを浮かべて、走り去る田中さんにありがとうございましたと言う事しか出来なかった。

 

そして田中さんに心の中で声援を送る。

 

また明日も溜息を吐きながら、何時ものと翠屋で注文して愚痴を零すのだろうと思いながら。

 

 

 

 

 

 

今日の海鳴は、大きなイベントが終わって、静けさを取り戻した何でも無い日ではあるが、一部の男性にはとっては、知らない内に同じ女性に二度振られた日という失恋記念日ではある、まあ、取り敢えず平和という事に、かわり無いので良しとしておこう。

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