魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
煌びやかな、パーティーホールを彩る豪華な装飾の数々と、それに劣らない豪勢な幾多の料理。
一般的なサラリーマンの平均年収を軽く超えるであろう、ドレスを身に纏うセレブなご婦人方。
女性の様に、人目を引くデザインではないが、この場に居る紳士達も、見ただけで理解出来るだろう、高級感溢れる、タキシードを袖に通して、各々談笑、立食しながら、パーティーを楽しんでいる。
俺はその光景をパーティーホールの隅で眺めながら、やはり自分には場違いな場所だなと、改めて確信した。
[『此方コードネームドッグ。首尾はどうなっているマスター……ではなく、コードネームボーイ』]
誰に言うでもなく、一人納得しながら、頷いていると、ポケットに忍ばせておいた、タッチノートから、メカ犬……じゃなくて、コードネームドックから、通信が入る。
「此方コードネームボーイ。今の所は問題無し。ターゲットにも現状変化は無い」
[『うむ。了解した。引き続き監視を続行する様にとの、リーダーからのお達しだ』]
「了解、引き続き監視を続行する……あのさ、メカ犬」
[『何だマスター……ではなく、コードネームボーイ。それとワタシのことはドックと呼べ』]
「これさ、やってて恥ずかしく無いか?」
[『……気にしたら負けだ』]
その言葉を最後に、俺の返事も待たず、メカ犬……じゃなくて、コードネームドックは通信を勝手に切ってしまった。
「逃げたな……」
俺は無言のタッチノートを睨みながら、呪詛とも言える程の念を込めて呟く。
暫く睨みつけてはみたものの、俺にはそんな特殊能力は無いので、溜息を一つ吐き、気持ちを切り替えると、再びターゲットの監視を再会した。
俺の視線の先に居るのは、大人達に囲まれながらも、雄雄しく立ち振る舞い、長い金髪を優雅に揺らすドレスを身に纏う一人の可憐な少女。
俺と仲の良い友達の一人であるアリサちゃんだ。
何故アリサちゃんが、この場に居るのか、それは聞くだけ野暮というものである。
このパーティーの主催者は、バニングス系列の最高責任者。
アリサちゃんの父親なのだから、アリサちゃんが居たとしても、何もおかしな事は無いだろう。
寧ろ俺がこの場に居る事の方が、よっぽど異質である。
そして俺の今回のターゲットが、アリサちゃんという事なのだが、正確にはアリサちゃんが身に着けている、ある物が狙いだ。
というか、そもそも何で俺が、こんなセレブレティーなパーティーに来ているのかとか、ターゲットだの、コードネームだのと、言っているのかというと、海よりも深いわけでは無いが、それなりに深い訳が有ったりもする。
あれは今から二時間程前。
俺が翠屋のバイトを終えて、同じシフトで入っていたヤスに、別れの挨拶を済ませてから、店を出た直後の事だった。
「待ってたわよ純君」
俺の目の前に何の前触れも無く現れたのは、まさに大和撫子。
ただし街の往来で、メイド服を着用しているが……
「何か用ですか、瞳さん?」
一般生活において、リアルなメイドさんと知り合う機会など、そうそう無いものだが、幸か不幸か、俺にはそんな知り合いがいたりする。
翠屋を出た直後の俺に話しかけてきた、このメイドさんの名前は、葉山瞳さん。
バニングス邸で、最近働き始めた新人メイド……というのは仮の姿で、その正体は世間を騒がす、謎の怪盗レディーマウスだ。
以前に、海鳴市で偽者が闊歩した事があり、その正体を探るため、極秘の潜入捜査として、バニングス邸のメイドをしていたそうなのだが、何故か今でもメイド職を続けている。
そして成り行き上ではあるが、俺が仮面ライダーだという事を知る、数少ない人物の一人でもある。
「実はね、今日は葉山瞳としてじゃなくて、レディーマウスとして、仮面ライダーに依頼したい仕事があるのよ」
何事かと聞いた俺に、瞳さんは真剣な眼差しで言い放つ。
瞳さんのその言葉を聞き、俺は普段から恵理さんがしてくる厄介な頼み事以上の、嫌な予感を感じ取った。
「まさか瞳さんの依頼が、こんな事だったなんてな……」
俺は今、自分がここに居る理由を思い出しながら、深い溜息を吐いた。
現在の俺は、表上臨時の執事として、アリサちゃんの付き添いをしている。
その格好は勿論、何時かの執事服だ。
またこの服を着る事になるとは、はっきり言って、夢にも思っていなかった。
だが瞳さんが俺に、依頼してきた仕事の本当の内容は、其処ではない。
「ふ~。挨拶のし過ぎで、少し喉が渇いちゃったわ」
一通りの挨拶が済んだのか、普段の勝気な雰囲気と、社交界においての、お嬢様毅然とした態度を織り交ぜながら、アリサちゃんがやって来た。
「お疲れ、アリサちゃん」
俺はやって来たアリサちゃんに、オレンジジュースの入ったグラスを手渡しながら、労いの言葉をかける。
「ありがとう純」
アリサちゃんは、余程喉が渇いていたのか、グラスを受け取ると、上品にではあるが、素早く飲み干す。
「それにしても凄い人の数だね」
グラスに入ったジュースを、アリサちゃんが飲み干した頃を見計らい、俺は周りを見渡しながら、アリサちゃんに話しかけた。
辺りには人、人、人と人の群れ。
しかも、俺の様な立場で来ている人達以外は、ほぼ全員が、財界等で名の知れた著名人ばかりなのだ。
それだけで、このパーティーの規模が伺い知れる。
「そうかしら、何時もこんなものよ?」
俺の言葉に対して、アリサちゃんが、当然とばかりに返事を返す。
そりゃあ場慣れしているアリサちゃんからしてみれば、当たり前の光景かもしれないが、一般庶民である俺からしてみれば、物凄い盛大なパーティーだ。
「それじゃあ私は、次の人達に挨拶して来るから、今度はミルクティーを用意しておいてね」
喉を充分に潤したアリサちゃんは、残りの挨拶のノルマを消化するべく、俺にそう言うと、再び大人達の人垣に向かって歩き始める。
お嬢様というのも、楽じゃない様だ。
「頑張ってね」
「ええ、これが終わったら、表で少し話しでもしましょう」
取り敢えず励ましのエールを送った俺に対して、アリサちゃんは、一旦此方に振り向くと、ドレスの胸元に付けられている、空色の宝石で出来たブローチを揺らしながら、笑顔で言った。
「うん」
俺の返事を聞くと、アリサちゃんは、再び振り向く事無く、挨拶周りに向かうために、歩き出した。
……先程アリサちゃんの胸元で揺れていた空色のブローチ。
あれが今回のターゲットである。
そのブローチになっている宝石の名称は、風の囁き。
宝石としての価値は勿論、文化的遺産としても、かなりの価値を持つ宝石だ。
何でも今は無き、古い王国のお姫様が、代々身に着けてきた由緒ある物らしく、数日前まで博物館で展示されていた物だそうだが、そこで盗まれそうになった物だとか。
このブローチは、昔から子供が大きな催し内で、身に着けていると、奇跡を起こすというジンクスがあり、祝い事や、大きな行事等では、誰が最初に言い始めたのか知らないが、特別に貸し出す許可が出されている。
そして今回は、バニングス系列がその風の囁きをレンタルして、アリサちゃんがその使用者として選ばれた訳なのだが、ここで問題が発生したのだ。
先程も言ったが、このブローチ、風の囁きは一度盗まれそうになったのである。
先に瞳さんの名誉を守る為に言っておくが、盗もうとしたのは、レディーマウスではない。
だが、全くの無関係と言う事も出来ないのだ。
それというのも、盗みを働こうとした犯人は、瞳さんにとっての兄弟子の様な存在なんだとか。
瞳さんは、同じ人を師と仰いだ者同士であり、後輩である自分に様々な事を教えてくれた人を、今やっている盗み方は、師の教えに背くものだということで、止めたいのだそうだ。
一度失敗したその人は、風の囁きが、博物館の外に持ち出された今を好機とみて、再び現れるだろうとは、瞳さんの推測である。
そこで何故、仮面ライダーに協力を申し出たのか。
どうも、未確認情報ではあるが、その瞳さんの兄弟子にあたる人は、ホルダーの可能性が高いらしい。
つまり今回の俺の本当の目的は、ブローチ及び、それを身に着けているアリサちゃんの護衛という事である。
レディーマウスと違い、予告状も出さないので、そういう意味では、この付き人の執事は、最適な選択だったかもしれない。
「あれ?君って確か、前に会った……」
俺がアリサちゃんの動向に、気を配りながら、周囲を警戒していると、聞き覚えのある男性の声が、背後から聞こえてきた。
「あ、もしかして長谷川さん」
声に反応して振り向いてみると、其処に居たのは、以前デンライナー署に配属されていた新米刑事の長谷川さんだったのである。
同じ海鳴市内に住んでいるのだから、偶然会う確率だって無い訳では無いが、まさかこんな場所で再会する事になるとは、想像もしていなかった。
「確か板橋君だったよね。どうしてこんな場所に君が?それにその格好は……」
俺の姿を見ながら、長谷川さんが、質問してくる。
「ええと、友達の付き添いで来てるんですけど、それだけじゃ中に入れないって事なんで、こうしてお手伝いをしてるんですよ」
「へ~板橋君は偉いな」
なるべく自然に言ったわけだが、どうやら信じてくれた様だ。
もしもの為と思い、事前に用意しておいた建前が役に立って本当に良かった。
「ん?」
安心した事で、余裕が出来たのか、目の前の長谷川さんを見ていて、俺は自身の視線に、見慣れない物を捉える。
長谷川さんは以前にデンライナー署で出会った時と同じ、フォーマルなスーツを着ていたのだが、その左腕にはやけに数字や、英単語の描かれたボタン数が多い、大きめな腕時計らしき黄色い物体を、身に着けていた。
「あの、その腕時計みたいのって何なんですか?」
俺は興味本位で聞いてみる。
「え!?あ~これはね……」
その質問は長谷川さんにとって、話しづらい事だったのか、如何にも歯切れ悪く言いよどむ。
「答え難い事でしたら、無理に答えなくても……」
俺はそこまで言って沈黙する。
それもそうだろう。
先程まで、高い天井から降り注いでいた大量の光源が、突如消え去り、この場にいた全ての人の視界を闇に塗り潰してしまったのだから。
「きゃあああああああああああああ!!!!!?」
視界を奪われた闇の中で、続いて俺の耳に聴こえてきたのは、幾つもの窓が、何かの強い衝撃により、連続して割られていく音と、聞き覚えのある女の子の悲鳴だった。
「アリサちゃん!?」
俺はその声の主の名前を叫ぶ。
会場中は突然の事態に、パニック状態だ。
アリサちゃん以外にも、数々の悲鳴が聞こえてくる
この状況では、誰もアリサちゃんの動向は掴めないだろう。
[『コードネームドッグ』]
混乱が極限に達しつつある会場内で、タッチノートから、通信が入る。
「どうしたメカ犬!?」
[『だからコードネームで呼べと……いや、今は良いだろう。マスター!会場から移動する存在を捉えたぞ!如何やらアリサ嬢も一緒の様だ!』]
「何だって!?」
[『今は瞳殿が、足止めする為に向かっている!この会場を出て、北に向かったすぐの場所だ!マスターも急いで此方に来てくれ!』]
「分かった!」
俺はメカ犬との通信を終わらせて、急いで会場を後にする。
[「さあ!今度こそ親玉を捕まえるわよ!長谷川君!」]
「はい!今度こそ逃がしません!!!」
その際に、長谷川さんも、何か電話越しに話をしていた様だ。
その電話越しの声が、最近何処かで聴いた覚えのある声だった気がしたのだが、今はそれどころでは無いので、俺はあまり深く考える事無く、会場を出て、メカ犬が通信で言っていた北を目指して、全力疾走した。
「メカ犬!瞳さん!」
北を目指して走り出してから、程無くして、俺は目的地へと辿り着く。
メカ犬と、瞳さんの前には、気を失っているのか、動かないでいるアリサちゃんを脇に抱えている、黒尽くめで人相は確認出来ないが、その体格から、はっきりと男性だと分かる人物が居た。
『マスター!』
「遅くなって悪い……あいつが瞳さんが言っていた例の?」
『うむ。今まで瞳殿が説得を試みていたのだが、説得を聞き入れる様な輩では無い様でな』
俺とメカ犬が会話をしていると、その瞳さんの兄弟子の身体に異変が起きる。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
それと同時にタッチノートの警報が辺りに響き渡る。
タッチノートの警報が響く中、緑の光に包まれた男は、その姿を異形の姿へと変えていく。
『やはりホルダーだったのだな』
反応するタッチノートと、大きくその姿を変貌させていく様子を目の当たりにして、メカ犬が確信する。
ホルダーの姿は、一言で表すのであれば、蝙蝠《こうもり》だ。
尖った耳と、二本の牙、腕と一体化した蝙蝠特有の羽が、特徴的だ。
「純君……」
その光景を見て、瞳さんが何かを言いたげに、こちらを見る。
俺は無言で頷き、タッチノートを取り出す。
言葉にしなくても、瞳さんが何を言いたいのか、今の俺には解っていたから。
だから今は、陳腐な言葉では無く、行動を持って示す。
「行くぞメカ犬!」
『うむ』
俺はメカ犬に合図を送りながら、タッチノートのボタンを押す。
『バックルモード』
音声が流れると同時に、傍に居たメカ犬が、ベルトに変形して、俺の腹部に自動的に巻きつく。
「変身」
音声キーワードと言うと、俺はタッチノートを、ベルトの溝に差し込む。
『アップロード』
白銀の光が、全身を包み込み、俺の姿を一人の戦士へと変えていく。
仮面ライダーへの変身を完了させた俺は、続いてベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンを押す。
『スピードフォルム』
メタルブラックのボディーは、ライトグリーンへと染め上がり、俺はそのまま全速力で走り出した。
俺はホルダーの腕に、打撃を与えて、その腕の力が緩んだ際に、抱えられていたアリサちゃんを助け出すと、一旦距離を取って、瞳さんの隣まで移動する。
「アリサちゃんは返してもらったぞ」
ホルダーに言いながら、俺は気絶したアリサちゃんを、瞳さんに任せて、この場から離れる様に促すと、再びホルダーに駆け寄る。
俺は駆け寄りながら、ベルトの右側をスライドさせて、黄色いボタンを押す。
『スピードロッド』
ベルトから発生した光が、形を成して行き、スピードフォルムの専用武器である、スピードロッドへと、その形を変える。
「は!」
ホルダーに隣接した俺は、ロッドによる連撃を容赦無く叩き込む。
ロッドによる連撃を逃れて、空へと逃れようとするホルダーだが、そう簡単に逃す訳には行かない。
「させるか!」
俺は大きく飛び上がり、逃走を図るホルダーの脳天に、ロッドの一撃を喰らわせて、再度地面に押し戻す。
『今だマスター!』
「ああ!」
メカ犬の声に答えて、ベルトからタッチノートを引き抜こうとした瞬間、俺の足元に、銃弾の嵐が降り注いだ。
「何だ!?」
咄嗟に身構えて、俺は叫ぶ。
「ふふ…何か楽しそうな事してるね?僕達も混ぜてよ」
「また会ったな、仮面ライダー」
夜の闇から出て来たのは、藍色の怪人オーバーと、灰色の怪人メルトである。
「また嫌なタイミングで来たなこいつ等……」
「そんな事言わないでよ。折角新しいオモチャを持って来たんだからさ」
思い切り邪険にする俺に対して、何時も通りの軽い口調で返すと、オーバーは複数の藍色の球体を取り出して、地面に投げ捨てる。
『あれはまさか!?』
それを見たメカ犬が、何か驚愕の声を上げるが、それ以上に驚愕する事態が発生した。
オーバーが投げ捨てた藍色の球体が、淡く光り出すと、それは人型の光を成して、やがて藍色の怪人オーバーと良く似た何かになる。
「何だこれは!?」
『マスター!奴等からも微弱だが、ホルダー反応がするぞ!』
「ふふふ……面白いでしょこれ?普通のホルダーには劣るけど、一杯居るからきっと楽しめるよ」
驚愕する俺とメカ犬に対して、オーバーは心底、嬉しそうに言う。
そしてその言葉を合図に、新たに複数現れたホルダーモドキ達が、俺に襲い掛かってくる。
「ちっ!」
俺は舌打ちしながら、ロッドを振るい、ホルダーモドキ達を薙ぎ払う。
「そいつ等の相手をしている所悪いが、先程まで相手をしていたホルダーが逃げようとしている様だぞ?」
ホルダーモドキと戦う俺に、メルトが淡々と言い放つ。
「く!?」
確かに俺が戦っている間に、ホルダーが空中に飛び上がり、この場から逃走しようとしている。
逃がしたくは無いが、食い止めようにも、ホルダーモドキの数が多くて、それすらも叶わない。
このままでは逃がしてしまう。
逃げていくホルダーの背を見て、俺の焦りばかりが募っていく。
だが現実は、意外な展開を見せる事となる。
突如として、空を飛ぶホルダーに、弾幕が降り注ぎ、逃走をは図るホルダーを撃ち落したのだ。
『む?』
「一体何だ!?」
そのあまりにも突飛な事態に驚きながら、俺は先程の弾幕が撃ち出されたであろう地点に、視線を向ける。
「あれって……」
そこに居たのは、人の形をしながらも、人とは言えない異形の姿だった。
メタリックイエローのボディーに、まるでロボットを思わせる造形に、仮面ライダーを思わせる、青い複眼の様な大きな瞳を持つ、何者かが、右手に自身と同色の見た事も無い形の銃を片手に、此方にゆっくりと歩いてくる。
その姿は確かに仮面ライダーに酷似しているが、俺は原作にこんな仮面ライダーが居たなんて事は知らない。
だけど何となく、これだけは解った。
突如として登場した彼が、この戦いの流れを大きく変えていくだろうという事を……