魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「それじゃあまた後でね。純君」
「うん。また後でね、なのはちゃん」
俺はなのはちゃんに手を振りながら、なのはちゃんが高町宅の玄関に入って行くのを見送った。
なのはちゃんが玄関の扉を開けて家の中に入った事を確認した俺は、手を振るのを止めて、高町宅のお隣さんである我が家に帰るべく歩き出した。
メカ犬と出会って、成り行きの中命を賭けて戦ったあの日から丁度一週間が経った。
現在は学校の下校途中であり、今は先程まで一緒にいたなのはちゃんを丁度見送った所だ。
本来なら今日はなのはちゃんは習い事があるため、一緒に帰ることは無いはずなのだが、その習い事であるピアノ教室があの化物蜘蛛に半壊させられてしまったので、今現在も復旧作業中なのである。
そのためなのはちゃんを始め美少女三人組は本日のお稽古はお休みという事になり、一緒に下校して来たというわけだ。
ちなみに俺はあの戦いの日以来メカ犬とは会っていない。
調査をしに行くと行って別れてから全くの音信不通だ。
タッチノートも捜査をする上で情報分析や何やらで必要になるというのでメカ犬に渡してある。
まあ、あれは元々俺の物ではないし俺が持っていても仕方の無いものなので別に構いはしない。
一度ぐらいは俺の前に姿を現すと思っていたがこの様子だとそれも無さそうだ。
マスター登録が如何とかで俺しか変身出来ないという事をメカ犬は言っていたけど、もしかしたら既に新しいマスターを見つけたのかもしれない。
ほんの一時とはいえ、共に命懸けで戦った仲なのだから一言もないという事に少しだけ寂しさを感じる。
事情が事情だけに仕方がないのかもしれないが、それでもだ。
だからと言って俺自身、これからも一緒に戦ってくれと言われても、即答ではいとは答えられない。
メカ犬もそのあたりを察してくれたのかもしれない。
時間が経てばあの日のことも昔の思い出の一つになって何時かは忘れていく事になるだろう。
今にして思えばあれは全部が夢だったんじゃないかとすら思えてくる。
もしかしたら仮面ライダーの番組が存在しないこの世界に転生した俺に、神様がくれた小さな奇跡で一度だけ仮面ライダーに変身させてくれたのかもしれない。
多くの損害や怪我人が出た中でそんな事を思うのは不謹慎かとも思うが、不幸中の幸いにも死人は出ていなかったし、なのはちゃん達もあれ以来蜘蛛嫌いになった以外は後遺症は無いそうだから、少しだけ思う位は許してもらいたい。
俺はそれだけ根っからのライダーファンなのだ。
一週間が経った今もまた化物が出たという事件は一切無いし、俺の周りは至って平和だ。
何となく物思いに耽っていながら歩いていたら我が家の玄関にたどり着いていた。
高町宅の様に道場がある訳ではないが、一般水準の一戸建てとしたら中々の物件である。
俺は今では既に見慣れた玄関に足を踏み入れ扉を開く。
まだ夕方にもならない時間帯ではあるけれど、専業主婦である母さんはいつもこの時間には家に居るので鍵は掛かっていない。
やはり今日も変わらず母さんは家に居たため扉は一切の抵抗をする事無く開いた。
俺は家の中に入ると、今現在家の中に居るであろう家族に帰ってきたことを伝えるために声を掛ける。
「ただいま。母さん」
「あら、お帰り純」
程なくして廊下の奥から、我が家の家族の一人、転生した現在の俺の母親でもある女性が顔を覗かせる。
「もう少ししたら、なのはちゃんが遊びに来ると思うから」
俺はこれから我が家に頻繁にやって来る来訪者が今日もやってくる事を母さんに告げてから、制服から私服に着替えるため自分の部屋へと移動を始める。
俺と母さんの間で、帰り際に良く交わされる会話だ。
普段ならここで母さんが、
「あら、それじゃあお菓子か何か準備しておくわね」
と言って台所に向かうのだが、今日はいつもと違う台詞が返ってきた。
「あ、ちょっと待って純」
呼び止められたのだ。
このパターンだと何かしらの用事だろうか。
恐らくは留守番かお使いかなと予想しながら俺は母さんに返事を返す。
「如何したの?母さん」
「今ね、純のお客さんが来てるのよ」
「お客さん?」
「ええ、純が帰ってくる少しだけ前にいらしてね。もうすぐ純も帰ってくる時間だったから純の部屋にお通して待ってもらっているのよ」
通常であれば、平凡な小学一年生である俺に用事で訪ねてくる人物等は友達以外は殆どない話なのだが、最近の俺にとってはそんなに珍しい話でもなかった。
その理由は一週間前のあの化物騒ぎだ。
あの事件は各種メディア、マスコミの興味を強く引き大々的な調査が行なわれた。
なので俺を含め、あの場に居た殆どの人達の所に当時の詳しい状況をインタビューしたいと、テレビ局のレポーターや新聞若しくは雑誌の取材記者等がこぞってやって来た。
最初の3日は連日揉みくちゃにされそうな勢いだったが、それを過ぎると情報が纏まったのか似たような意見ばかりなのでアプローチを変えたのかめっきりこなくなった。
俺も勿論色んな事を質問されたが、メカ犬のことは喋らなかった。
別に隠し事をしようと思った訳ではないのだが、子供の俺が言った所で誰も信じる訳がない。
せいぜい三面記事の隅っこか、その週刊号のゴシップ記事を多少騒がせる位だろう。
そんな経緯があるので俺にお客が尋ねてくるのは、既に頻繁とは言い難いが有り得ない事ではなのである。
俺は母さんに分かったよと一言返事を返してから、再び自分の部屋に向けて歩き出した。
自室の部屋の前にたどり着いた俺は軽く二、三度扉をノックしてお待たせしましたと言いながら扉を開けた。
・・・・・・。
そしてそのまま扉を閉めた。
俺は扉の前で考えを巡らせた。
今俺は何を見た?
あり得ないと呟きながら俺の脳裏に一つの考えが浮かぶ。
もしかしたら先程俺の目に入ってきた光景は何かの見間違いなのではと思い、今度は静かにゆっくりと扉を少しだけ開けてその隙間から室内の様子を再度確認した。
・・・・・・。
そして再び扉を静かに閉じた。
あれ?おかしいな。
まだ幻覚が見えるよ。
やっぱり俺疲れてんのかな?
まずあれがお客なのか?
母さんもなんであんなのをお客さんだと言って平気で迎え入れてるんだ?
ありえないだろう?
母さんが変なのか、それとも俺が変なのか、そもそもこの世界が狂っているのか、俺は壮大なるテーマに答えを出すべく考えを巡らせる。
だがその答えは見つからなかった。
いつまでも答えのない命題に時間を取られる訳にもいかない。
俺は一旦この考えを頭の中の押入れに無理矢理叩き込んで、思考を切り替える。
俺が今すべき事は目の前にある現実を見据えた上で正しい行動をする事なのだ。
俺は部屋の前で大きく深呼吸をして気合を入れ直して、再三に渡り扉を開けて自室に足を踏み入れた。
「何やってんだお前は?」
俺は母さんがお客さんと言っていた、俺の部屋に居る存在にその言葉を浴びせた。
大きさは平均的な成人男性の手のひらに収まりそうなコンパクトサイズ。
全身の彩色がメタリックシルバーで彩られており、その形状を一言で表すのならば犬が最も相応しい。
そいつは俺の部屋の中心で、座布団を下に敷いた状態で礼儀正しくちょこんとお座りしていた。
『戻るのが遅くなってすまんなマスター。所で先程から部屋の出入り口を連続開閉していたのはマスターの宗教上の決まりか何かなのか?』
一週間ぶりの再会で奴が俺に言った言葉はそんなどうでもいい事だった。
「煩い。ただ単に己の現実から少しだけ目を背けていただけだ。それと俺は宗教には入信してなんかいないぞメカ犬」
俺はとりあえずそのメカ犬の言葉に突っ込み返した。
「さっきも言ったけど何でお前が俺の家に居るんだよ?新しいマスターを見つけたんじゃなかったのか?」
俺は改めてメカ犬に質問をする。
『うむ?何の話だ。ワタシのマスターはマスター以外にはありえんではないか。そもそもワタシはマスターに調べることがあると連絡して別行動をしたのだが、何か不明な点でもあったか?』
「いや、一言だけそう言ってタッチノートも一緒に持って一週間も姿を見せなけりゃ、もう二度と会えないもんだと思うだろうよ」
メカ犬は俺の言葉を聞いてから暫く首をキュイキュイと金属音を鳴らしながら動かした後に言葉を発した。
『そうか。どうやら誤解をさせてしまったようですまないなマスター。しかし調べることが多くて今日まで此処に戻ってくることが出来なかったのも事実なのだ』
メカ犬はそう言うと、再びすまないと言って頭を下げた。
メカ犬にも悪意が有った訳ではない事は態度を見るからに明らかではあるし、俺も元からそのことに対して攻める気はないので許すから頭を上げてくれとメカ犬に言った。
「その件に関しては一旦置いておくとして、なんでお前がお客さん扱いで俺の部屋に居るんだよ?」
他にも言いたい事や聞きたいことが山ほどあるが今の俺が気にしている最大の謎はそこだ。
こういった話では、セオリー上帰ってきたら既に居たとか、窓を叩いて存在を知らせるとか、兎に角他の家の住人とは接触しないでコンタクトを図ろうとするのがお約束じゃないんだろうか。
『それは勿論玄関前で呼び出し用のチャイムを鳴らした後に、マスターの母殿にこちらの用件を話したからだ。何も問題はない』
問題有りまくりだろう。
まず家のチャイム鳴らしたのがメカ犬な時点で常軌を逸している。
俺がメカ犬に再度突っ込みを入れようとした所で、部屋の扉から母さんの声が聞こえた。
「純、ちょっと入るわよ」
そう言うと母さんは部屋の扉を開けて入ってきた。
その手には平たい木製のお盆が握られており、その上にはコップに注がれたオレンジジュースが一つと…
何故か乾電池が乗せられていた。
「はい、どうぞ」
母さんは俺の目の前にオレンジジュースの注がれたコップを置き、メカ犬の前には乾電池を置いた。
その様子はまるで粗茶ですがと言いながら渡すような光景で、あまりにもそれをナチュラルにこなす母さん。
メカ犬もそれをまるで、接客のマニュアルでも見ながら行なっている様な対応をしながら、二本の前足で器用に乾電池を掴みこんでメカ犬自身の頭部に近づける。
するとバチバチと下敷きに静電気が発生した時に鳴る様な音を立てながら黄色い光をメカ犬の頭部と乾電池の間で発生させる。
何なんだこの物体Ⅹ?
マジ怖いんですけど!?
やがて発光現象と謎の怪奇音が収まりメカ犬が母さんに話しかける。
『結構なお手前で』
「あらあら、ご丁寧に。御粗末様です」
俺は何処か異次元にでも迷い込んでしまったのだろうか。
先程以上の深い思考の谷底に意識が持って行かれそうになったが、俺はそれを何とかギリギリで回避して母さんの腕を掴んで一旦部屋を出る。
「ちょっといいかな母さん?」
「如何したの純?駄目よあんまりお客さんのワンちゃんを待たせちゃ」
ワンちゃんって…
そんな事より母さんに聞いて置かなくっちゃいけない事がある。
「今はそんな事良いんだよ。それより母さんは何とも思わないの?」
「何ともって?」
「いや、あいつ明らかにおかしいだろ。身体全身フルメタルのシルバーカラーで喋るんだよ」
普通は驚く位するだろう。
「そうね。私もビックリしたわ」
一応母さんも俺が表情を読み取れなかっただけで驚いてはいるらしい。
俺は少しだけその事実を知ってホッと胸を撫で下ろす。
「最近のオモチャって進んでるのね。会話まで出来ちゃうなんて本当にビックリしたわ。私は最近のオモチャってあんまり詳しくないから全然知らなかったわよ」
なん…だと。
あのメカ犬、母さんにどういう説明しやがった?
それから母さんの話を要約すると、どうやらあのメカ犬は自分の事をオモチャ会社の新しい最新作で、俺の家には懸賞で当選したのでプレゼントとしてやって来たのだと説明したらしい。
母さんはそのことを俺に説明した後、あらそれじゃあお客さんじゃなくて新しい家族ねと今更のように言って、今夜は新しい家族が増えるお祝いにご馳走作らなきゃとテンションのボルテージを上げながら台所に向かっていった。
俺はもはや何も考えまいと、この件に関して考えることにそっと蓋をして、メカ犬が待つ部屋に戻ることにした。
「それじゃ改めて、色々聞きたい事があるんだけど良いか?メカ犬」
『ああ何でも質問してくれて良いぞ。マスター』
部屋に戻った俺は早速メカ犬に聞きたいことを聞いてみる事にした。
「まずこの一週間でお前は何を調べてきたんだ?それとこれから先どうするつもりなんだよ?」
『うむ、まずは順を追って説明していく事にしよう。最初に説明することはワタシがこの一週間で調べていた事についてだ』
そう言ったメカ犬は先程まで座っていた座布団を捲り上げてその下からタッチノートを引き摺り出して俺に持つように指示してきた。
さっきから無いと思っていたらこんなとこにあったのかよ。
俺はメカ犬の指示した通りタッチノートを手に持つ。
するとメカ犬は俺の腕に飛び乗り、俺の腕の上からタッチノートを操作し始めた。
画面には地図の様な図面が表示された。
何処かで見たことがあるなと思いながら見ていたのだが暫く眺めていて俺はこの図面が何を示しているのかに気付いた。
「海鳴市の地図か?」
『その通りだ』
メカ犬が俺の言葉に肯定した。
するとメカ犬は続いてタッチノートの操作をし始める。
またしても画面が変わり今度は日本の全体地図と思われる画面が表示される。
地図帳等に掲載されている形と大差ない。
唯一違う部分をあげるならば、地図のある場所が、全体がライトグリーンで表示されている中でその一定の場所だけが赤く表示されていることだ。
その場所に俺は心当たりがある。
「この赤くなっている場所ってもしかして…」
『ああ、マスターの考えている通り、赤く表示されているのは海鳴市全体だ』
「これが一体なんだって言うんだよ?」
『これはコンタクトフュージョンシステムの捜索用レーダーだ。システムはここ海鳴市全体にばら撒かれている』
今とんでもないこと言ったぞ、このメカ犬。
『システムがこの世界にばら撒かれたのはワタシがマスターと出会う約3日前と調査の結果判明した。ばら撒かれたシステムの数は次元転送の残留磁場等から計算した結果、少なくとも百以上存在する』
俺はメカ犬の言葉を聞いて戦慄する。
つまり少なく見積もったとしても、あの化物蜘蛛みたいな奴がこの海鳴に百体以上潜んでるって訳だ。
「でも、俺達が戦った日から一週間は経つけどあの日以来、化物が出たなんて話どこからも聞かないぞ?」
『うむ、その事なんだが本来はあのような短時間で、大きな身体変化が発現することは無い筈なのだ』
「如何いう事だよ」
『個人の願いやオーラの総量などでもかなりの個人差が出てくるが、肉体が変化するまでには三日という期間はあまりにも短すぎる。例外はあるが本来ならばまず有り得ない事情だ』
「じゃあ、あの時俺達が戦ったのは一体何だったんだよ。メカ犬の世界はどうなってるか知らないけどこの世界には少なくてもあの姿で日常生活送っている人類は存在しないぞ?」
あんな人間と蜘蛛が超融合した存在が外で健康の為にジョギングとかしていたりしたら、心臓の弱い人は見ただけで心停止する可能性すらあるぞ。
『あれは例外中の例外だ。既に現物は完全に破壊してしまった為、確認することは出来ないが恐らくはシステムの制御装置が故障して誤作動をしたのだろう』
「誤作動を起こした?」
『うむ、その証拠にたとえ姿が変わったとしても人語を喋ることは可能な筈だし、使い続ければ別としてすぐに人間の理性が全て失われることはない。何よりあのホルダーは個々に備えている筈の特殊能力を使っていなかった。本来ならばまず能力が発現できるようになり、その後から少なくても5日は経過しないと肉体変化を起こす事は不可能だ』
「つまりあの段階で理性が無くなって能力が使えないのに、身体だけが化物になってたからメカ犬は変だと思った訳か」
『その通りだマスター』
メカ犬は首を縦に振りながらそう告げる。
「ところでさっき言ってたホルダーって何だ?」
俺は先程のメカ犬の説明で出てきた聞き慣れない単語について聞いてみた。
『ホルダーとはシステムを所持し使用する者の総称だ。本来なら特殊技能を扱える様になった人物を指す使い方をされていたが、今では寄生されている状態を指す言葉として使われる様になってしまった』
嘆かわしい事だとメカ犬は呟く。
「それでお前は、システムの所在を掴むためにこの一週間の間、捜査を続けてきたって事か」
『ああ、だがシステムを回収することは出来なかった。システムが発動してホルダーが力を振るえば現在地を把握できるが、所持しているだけでは待機状態の様な物だ。それでは地域を特定する事までなら絞り込めるが、それ以上は直接対峙でもしない限り不可能に近いと言える』
「なるほどな。それでこれからお前はどうするつもりなんだ?このまま放って置く事はしないんだろ」
メカ犬がこの一週間で捜査したことに対して大体の納得を得た俺は、個人的にもかなり気になるこれからの方針を聞いてみる事にした。
しかしなるべく考えない様にはしているのだが、物凄く嫌な予感がする。
『そのことを含めて今一度マスターに頼みたい。暴走プログラムを破壊できるのはワタシだけだ。そしてワタシを扱うことが出来る人間はこの世界ではマスターただ一人、このまま見過ごし続ければマスターの世界もワタシの居た世界もとんでもない事になるのは間違いない。だから無理を承知で頼む。ワタシと共に戦ってはくれないか』
メカ犬は俺の顔を一点に見つめながら淀みなくそう言い放った。
悪い予感的中だ。
確かに俺はあの時、覚悟を決めてメカ犬と共に、正に命懸けで戦った。
でもそれは、その時それ以外の選択肢が無かったからで今は状況が違う。
「なあ、あの時は確かにそれ以外に手が無かったし、利害が一致したから俺も戦ったぜ。でも今は違う手段が取れる筈だろ」
そう、ただ一度俺は実践を経験し勝利を納めはしたが、所詮はそれだけの戦闘に関して言えばただの素人だ。
「俺は所詮ただの無力な子供だ。それに今はあの時みたいな緊急事態じゃないんだから、そのマスターの再登録って奴に多少時間が掛かったとしても、俺よりも戦いになれている大人にマスターになる様に頼んだ方が安心だろ」
少なくともヒーローオタクよりも、戦闘のプロに任せた方がメカ犬にとってもメリットは大きい筈だ。
何ならお隣の超人三人集の誰かに頼んでも良いと思う。
あの人達の内二名ならば生身でも真っ向勝負出来そうな気がする。
まあ、頼むとしたら恭也君だろうな。
士郎さんは退院したとはいえ未だに怪我が完治してない。
美由希さんは一応女の子だしそれに今年は中学三年生で受験生だ。
あまり負担は掛けたくない。
俺がこれからの指針について考えを巡らせているとメカ犬がゆっくりと喋りだした。
その内容は俺の先程までの考えを根底から覆す物だった。
『すまないマスター。それは無理なんだ』
「え?」
『確かにマスターの再登録をすること自体は不可能ではない。しかし今はその方法を取ることは出来ない』
「どういうことだよそれ?」
俺は一瞬自分の耳を疑った。
だが俺はメカ犬の言った言葉の意味を知らなければいけない。
だから俺は聴きたく無いと思いながらもその真意を確かめるためにメカ犬の答えを待つ。
『マスターの登録抹消及び再登録を行なえる人物は、ワタシの製作者である博士だけだ。しかし博士はこの世界には居ない。逆に現状ワタシが元居た世界に帰る手段もない』
俺の考える中でも最悪に近い答えだった。
俺は今再び選択を求められている。
今度は一時の感情の昂ぶりで如何にかなる類の物じゃない。
命を賭して戦い続ける覚悟。
俺が昔、テレビ画面越しで観てきた彼らが通ってきた道。
素直に彼らを尊敬した。
憧れを抱いていた。
だからこそ俺は迷う。
俺に彼らの様な覚悟を持って戦い続けて、大切な何かを守り続ける事が可能なのかと。
メカ犬は何も言わずただ俺の答えを待っている。
出会ってからそんなに時間は経っていないが、それでも俺は何となくメカ犬の考える事が理解できる。
たとえ俺が戦う事を拒否したとしても、メカ犬は俺を攻めることはしないと思う。
それどころか無理だと理解した上でも、一人で戦いの場に赴くだろう。
それで良いのだろうか。
良いわけ無いと頭では理解している。
でもそれを弱い俺の心が否定してくる。
俺はそれから考え続けたが、結局答えにたどり着く事は叶わなかった。
だから俺は考える事を放棄する。
思った事をそのまま口にしよう。
それが俺の嘘偽りない答えになる筈だ。
「…メカ犬、俺さ、やっぱり戦う事なんて…」
『マスター…』
俺は激しい運動をした訳でもないのに、カラカラに乾いた喉で一つの答えを搾り出す。
「戦う事なんて「純君遅くなってごめんね。遊びに来たよ~!」よ?」
何の前振りも無くなのはちゃんが部屋に襲来した。
俺は今になって、そういえば遊ぶ約束をしていた事を思い出した。
なのはちゃんは俺とメカ犬のシリアスムードを自覚しないままに、しかしそのある意味一つの世界とも言える事象を見事なまでに破壊した。
全く似ても似つかない筈なのに、なのはちゃんの背後に薄っすらとマゼンタ色の世界の破壊者が見えた気がするのは、きっと疲れているからなんだろうなと俺は思った。