魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
ラブラブカップルじゅ~ちゅ。
それは駅前の喫茶店のメニューに載っている品の一つなのだが、これを注文するには、ある一つの条件が求められる。
その条件とは、これを注文するのは、恋人同士でなければいけないという事だ。
丸みを帯びた全長約20cm程の透明なグラスの中に、大量の細かく砕かれた氷が投入されて、それがオレンジ色の液体で満たされている。
鼻を擽る柑橘系の香りから推測すると、恐らくはオレンジジュースか、それに類するものだろう。
飾り付けに先端に添えられたカットオレンジが、その推測の信憑性を確固足るものとしている。
だが、今この場で問題となっているのは、飲み物そのものではない。
一番の懸念事項は、そのラブラブカップルじゅ~ちゅという、名付けたであろう人物のネーミングセンスを疑いたくなる飲料に、伝説の剣の如く、直立に突き立てられた、一本のストローだ。
細かく砕かれた氷の中へと、雄々しくつき立てられた底部分は、通常のストローと何も変わらないのだが、上部からは管が二股に分かれており、管はハートの形を描きながら、己を使いこなす事が出来る使い手を今か遅しと待ち構えている。
それは無機物である筈なのに、異様な重圧を放っていた。
認めたくない事だが、その様な飲料が、現在俺の目の前で、存在している。
母さんから渡されたメモに従い、駅前の喫茶店にやって来た俺達は、ラブラブカップルじゅ~ちゅを注文して、席に座って待っていた訳だが、予想通りの、いや……ある意味ではそれ以上の代物が現れてしまったのだ。
窓際の席に座った俺と、その向かい側に同じ様に腰掛けているなのはちゃん。
なのはちゃんは、このラブラブカップルじゅ~ちゅという伝説級の代物を見た瞬間に、顔全体を真っ赤にして、固まってしまった。
それを少し離れた距離から、背中に括り付けたビデオカメラで、容赦無く撮影するメカ犬と、この伝説クラスの武器を持ってきた、アルバイトの女子高生と思われる店員さん、それ以外にも店内に居るお客さん達が、興味深そうに、此方の様子を窺っている。
見世物じゃないと、声を大にして叫びたい所だが、それをすれば、更なる見世物となるであろう事は、考えるまでも無く、分かりきっている事なので、今はこの現状の沈黙を守り続けるしかない。
だが何時までも、このままという訳には行かないという事も、重々理解している。
ここはやはり、男である俺から話を切り出すべきであろうと、覚悟を決めて口を開きかけたその時だ。
「そ、それじゃあ、折角だし飲もうよ純君」
以外な事に、硬直状態となっていた現状の沈黙を打ち破ったのは、俺の目の前に座っているなのはちゃんだった。
言葉にした内容自体はやる気に満ち溢れているのだが、その顔は衆人観衆の眼に晒されている為か、羞恥で真っ赤である。
「な、なのはちゃん。無理はしなくて良いと思うよ?」
流石にこれは無理をしているだろうと思った俺は、助け舟を出す為に、言葉を発したわけなのだが。
「無理じゃないよ!」
「え!?そ、それなら良いんだけど……」
予想外にもなのはちゃんは、俺の助け舟に対して、殆ど叫びと言えるであろう、否定の言葉を返してきた。
「じゃあ飲むよ!純君!」
しかもなのはちゃんは、その勢いに任せて、ラブラブカップルじゅ~ちゅにつき立てられたストローの二股に分かれた片方の管に口を付けると、俺にも早くするようにと、急かしてくる。
先程のなのはちゃんの声の為か、更に周りのギャラリーが俺達に注目しているのだが、どうやら今のなのはちゃんには、俺以外の姿が映っていないようだ。
「はやふしへよ」
なのはちゃんが、ストローをくわえた状態で、何やら喋っている。
恐らくは、はやくしてとでも言っているのだろう。
周囲のギャラリーも、俺がどういった行動に出るのか、興味深そうに見詰めている。
……これは覚悟を決めねばなるまい。
「俺も男だ!」
決死の覚悟を決めた俺は、そう啖呵を切り、目の前の伝説の武器へと、真っ向から挑んで行った。
『次は何処へ行くのだマスター』
俺となのはちゃんが手を繋いで歩く中、その少し後ろから、現在カメラマンとして活躍中のメカ犬が、次のプランを聞いてくる。
「……」
『聴いているのかマスター?』
「聞いてるから、少しの間だけ黙っててくれよ……」
振り絞る様な声で、俺は何とかその一言だけを口にして、メカ犬を黙らせる。
俺となのはちゃんの顔は、先程まで居た喫茶店での出来事のせいで、いまだ顔面から炎を噴出しそうな程に耳まで真っ赤になっていた。
二人で何とかラブラブカップルじゅ~ちゅを飲み終えた俺達は、急いで店を出たのだが、この火照った顔面をクールダウンする為の時間は必要だろう。
移動の際は、デート中ずっと手を繋いでいなくてはいけない、という事なので、手を繋いで歩いているのだが、これ以上の事を今やれと言われても、現在羞恥心が限界突破してしまっている俺達には、到底無理な話である。
それから暫く、駅前の喫茶店から離れる様に歩き続けて、取り敢えずのクールダウンを果たした、俺となのはちゃんは、次のデートプランを確認するべく、母さんから手渡されたメモの二行目を読む。
【デパートのショッピングモールでお買い物】
俺は二行目の内容を読んで、心から安心した。
最初の内容が、あまりにもアレな内容だったので、次はどんな無茶振りな事が書いてあるのかと、内心不安だったのだが、案外普通の内容だったので、本当に良かった。
「あれ?これって三行目の内容に続いてるのかな?」
心底安心しきった俺の隣で、同様にメモを見ていたなのはちゃんが、疑問の声を口にする。
「え?」
その瞬間、俺の脳内に有る、危険感知センサーが見るんじゃないと、全力で訴えかけているのだが、なのはちゃんが、その三行目の内容を間髪入れずに読み上げてしまう。
「【その買い物で、彼女に恋人らしいプレゼントをすること(もしくはホッペにちゅうでも可)】だって……」
内容を口にしたなのはちゃんが、何やら恥ずかしさと期待を含んだ眼差しで俺を見てくる。
そりゃあプレゼントが貰えると分かれば、誰だって嬉しいだろう……
しかし何なんだ!?
このカッコの中に書かれている、もしくはホッペにちゅうでも可というのは!?
途轍もないある種の悪意を、これを書いたであろう、自分の母親に感じた。
……まあ、これは見なかった事にして、実際の所は、デパートに行ってなのはちゃんに似合いそうなプレゼントを買えばそれで良いという事だ。
先程の喫茶店での羞恥プレイを思えば、これぐらいは許容範囲内である。
「それじゃあ、取り敢えずデパートで、買い物って事で良いかな?」
「うん」
これからの行き先を告げた俺に、二つ返事で了承したなのはちゃん。
『ちょっと待ってくれマスター』
話が纏まった所で、次の目的地に行こうとした矢先に、メカ犬が待ったの声を掛ける。
「どうしたんだよ?」
「何かあったのメー君?」
俺となのはちゃんは、突如として後方から待ったを掛けたメカ犬に、疑問の声を口にする。
『後で編集するので、マスターとなのは嬢の横顔をアップで撮らせてくれないか』
何時の間にかカメラアングルにまで、気を使い始めたメカ犬。
今の言葉はまるで、親バカなどこぞのパパさんが、子供の運動会で全力で撮る様に良く似ている気がした。
デパート内は、休日という事もあってか、多くの人込みで賑わっていた。
俺となのはちゃんも、現在はその人込みの一部となっている。
「何処か見たい所とかあるかな?なのはちゃん」
「えっと、この二階にある雑貨屋さんが見たいかな」
俺の質問に対して、なのはちゃんは案内板の一点を指差して答える。
現在俺達はデパート一階のインフォメーションコーナーで、これから行く場所を決めていた。
今俺達が来ているデパートは、海鳴市内でも大型の売り場で、とても一日で全てを見て回る事は不可能だ。
なので一階の中央出入り口付近にある、インフォメーションコーナーに設置された巨大な案内板で、これから行きたい場所を決めようという話になったのだが、なのはちゃんは見て回りたい場所があったらしく、思っていたよりも早く行き先が決定した。
俺は過去に何度か家族で、このデパートに買い物に来た事があるのだが、なのはちゃんが行きたいと言った雑貨屋に納得である。
あの雑貨屋は、女の子向けの小物が多く売られており、確かになのはちゃんでも楽しめるだろう。
ちなみに現在の俺が良く行く場所と言えば、大抵書店等だが、前世の今頃は、真っ先にオモチャ売り場へと走り、ライダーグッズを目に穴が開きそうな程眺めていた気がする。
それに比べると……まあ、性別の差というのも、多少は存在するのだろうが、なのはちゃんを含め、俺の同年代の多くは、思考が早熟だなと改めて思う。
「じゃあ、早速行こうか」
「うん」
目的地も決まった所で、俺達は再び手を繋ぐと、二階の雑貨屋へと向かう為に、エレベーターの設置されている場所へと移動を開始する。
俺達と同様に二階を目指す他のお客さん達に混じりながら、エレベーターで二階へと無事に到着した俺達は、その足で雑貨屋へと歩を進めて行く。
「わあ……」
目的の雑貨屋に到着したと同時に、なのはちゃんが感嘆の声を上げる。
雑貨屋の外装は、ピンクを基調とした女の子向けなデザインで統一されており、店舗の入り口に設置された木製ラックの上には、安値な装飾品が、丁寧に並べられていた。
「ねえ、純君……」
「良いよ見てきて。その為にここに来たんだしさ」
宝物を見つけた時の様な輝く瞳で、見られればなのはちゃんが何を言いたいのか、言葉にしなくても大体想像が付く。
俺がなのはちゃんが言おうとしている言葉を、読んで見てくる様に言うとなのはちゃんは、他のお客さんに混じって、雑貨屋へと飛び込んで行った。
『マスター。ここで【俺の彼女はあわてんぼさんだな】と呟いてくれるか』
「うるさいんだよ。そこのカメラマン」
ついには台詞付けまで、要求してきたカメラマンなメカ犬を一言で一蹴した俺は、なのはちゃんを追って、雑貨屋の店内へと、足を踏み入れる。
なのはちゃんの姿は、店内に入ってすぐに確認出来た。
レジ前に並べられているケース内に陳列されている、小さな赤い宝石が付けられたブローチを熱心に見詰めている。
俺の個人的な意見ではあるが、なのはちゃんにとても似合いそうだ。
その様子を見ながら、俺はある事を思いつき、なのはちゃんに声を掛けようとした瞬間、この日常は突如として終わりを告げる。
最初に聞こえて来たのは、大きな爆発音。
更にその音と連動するかの様に、俺達が立っているデパート内に地震が起きた際に発生するであろう強烈な揺れが巻き起こる。
それとほぼ同時に、デパート全域に緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
そして周りの大きな音に掻き消されて、殆ど耳に入って来ないが、俺のズボンの中に忍ばせたタッチノートが同じく警報を鳴らしている。
『マスター!』
メカ犬の慌てた声に、俺は無言で頷く。
今このデパートで何が起こっているのかまでは、分からないが、これは間違い無くホルダーの仕業だ。
「純君!」
なのはちゃんが俺を呼びながら、すぐ隣までやって来る。
「大丈夫!?なのはちゃん!」
「う、うん。だけどこれって何が……」
最後までなのはちゃんが言葉を言い終わる前に、再び爆発音が響き、先程以上の大きな揺れが、容赦無く俺達に襲い掛かる。
「兎に角ここは危ない!安全な所に避難しよう!」
揺れが収まるのを見計らってから、俺はすぐさまこの場から離れることを提案する。
「そ、そうだね!」
なのはちゃんはこの状況下で、少々混乱状態になりながらも、力強く頷いてくれた。
俺となのはちゃんは、しっかりと手を繋ぐと、他の避難誘導により、避難を開始した人達に混じって、デパートの出口を目指す。
当然の事ながら、俺達が乗ってきたエレベーターは使う事が出来ない為、デパート隅にある下り階段を目指して歩いていたのだが、その途中にある窓から、異様に巨大な触手の様な物体が蠢いているのが見えた。
しかもその触手は、あろう事か、真っ直ぐに此方へと向かって来る。
「危ない!?」
咄嗟にそう叫んだ俺は、なのはちゃんを抱きかかえながら、がむしゃらに後ろへと飛ぶ。
その直後、先程まで俺達が居た場所には、成人男性程の太さを有した触手が、デパートの窓と壁を粉砕して深々と突き刺さった。
不幸中の幸いと言うべきか、最後尾を歩いていた俺達以外は、この触手の被害を被る事は無く、全員無事に、一階へと避難していった様だ。
「う……」
俺の胸の中でなのはちゃんが呻き声を上げる。
「なのはちゃん大丈夫!?怪我は無い!?」
気を失っているのか、微かな声を上げるだけで、それ以外の反応を示さないなのはちゃんに、俺は必死で呼びかける。
『落ち着けマスター。なのは嬢はショックで意識を失っているだけだ。生体反応にも何も異常は無いから安心しろ』
メカ犬が掛けてくれた言葉により、俺の全身を強張らせていた力が一気に抜けていく。
「そうか……」
俺は全身の筋肉が弛緩したのを感じた後、一言だけそう呟き、一度深呼吸してから、気絶しているなのはちゃんに、出来る限り優しい声色で、話しかける。
「なのはちゃんは、俺が絶対に守るから……」
そして俺は、気絶したなのはちゃんに告げた後、ゆっくりとメカ犬を見る。
『うむ』
俺の言いたい事を理解してくれたのだろう。
メカ犬は自身に括りつけられていたビデオカメラを取り外すと、器用に前足で録画中となっていたビデオカメラの電源を切る。
それを確認した俺は、タッチノートを取り出して、数回ボタンを押した。
『ホバーチェイサー』
タッチノートから流れる音が聞こえるとほぼ同時に、先程の触手が開けた穴から、エンジン音と、新宿二丁目的なオッサンボイスが聞こえて来た。
『お待たせマスター』
「チェイサーさん。なのはちゃんを安全な場所まで、お願いします」
『任せといて~』
俺の要求に快く答えてくれたチェイサーさん。
そのまま俺は、気絶したなのはちゃんを、出来るだけ負荷を掛けない様にして、チェイサーさんの上に乗せて、チェイサーさんが、デパートから無事に離れていくのを見送った。
「それじゃあ行くか……メカ犬」
『うむ!』
俺はなのはちゃんを乗せたチェイサーさんを見送った後、静かな怒りを心中で燃え上がらせながら、メカ犬に問い掛けつつ、タッチノートを開き、ボタンを押した。
『バックルモード』
隣に居たメカ犬は、銀色のベルトに変形すると、自動的に俺の腹部へと巻きつく。
「変身」
続いて音声キーワードを言いながら俺は、タッチノートをベルトの中央に設けられた溝へと差し込んだ。
『アップロード』
ベルトから音声が流れると共に、俺の全身を白銀の光が包み込み、その姿を一人の戦士へと変えていく。
メタルブラックのボディーが輝く、仮面ライダーシードとなった俺は、すぐさまベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンを押す。
『スピードフォルム』
その音声が流れると同時に、メタルブラックのボディーはライトグリーンへと染め上がる。
「メカ犬。ホルダー反応は何処から来てる?」
『このデパートの屋上からだ』
「なるほどね……」
フォルムチェンジを終えた俺は、メカ犬にホルダーの現在地を確認した後、先程の触手が開けた穴から飛び出して、外壁の窪みを足場にしながら、一気に屋上へと飛び上がった。
「何だよこれ……」
屋上へと辿り着いた俺は、恐らくはホルダーであろう存在を前にして、驚愕の声を漏らす。
そのホルダーは体長が10mを超える巨大な植物の様だった。
デパートの屋上に根を張り、胴体から伸びる触手の様なツタが、辺り一体を無差別に壊し続けている。
『来るぞマスター!!!』
突然のメカ犬の声に反応した俺は、急いで元居た場所から、転がる様に回避行動を取る。
避けた直後には、デパートの屋上に大きな音と衝撃が襲い掛かって来た。
俺が先程まで居た場所に、視線を向けると、大きな触手状のツタが、突き刺さっている。
『次が来る!』
「くっ!?」
次々と迫り来る触手状のツタを、俺は何とか辛うじて避け続けていく。
「このままじゃ埒があかないぞ!?」
『マスター。逃げているだけではどうにもならない。此方も正面から迎え撃つぞ』
「ああ!」
俺とメカ犬は攻撃を避けながら、一つの作戦を組み立て、それを実行するべく行動へと移す。
再びベルトの右側をスライドさせた俺は、赤いボタンと黄色いボタンを続け様に押していく。
『パワーフォルム』
『パワーブレード』
例の如く音声が流れると、ライトグリーンのボディーは鮮やかなクリムゾンレッドへと変化し、更にベルトから発生した光が、一つの形を形成して、赤い刀身の剣となり、俺の右手に納まる。
「はあ!」
パワーフォルムへとフォルムチェンジを果たした俺は、その右手に握られた専用武器であるパワーブレードで、迫り来る触手状のツタを斬り飛ばす。
先刻まで避けるだけだった筈の俺の反撃が意外だったのか、ホルダーの執拗なまでの攻撃が急に収まる。
これを好機と見て、一気に反撃をしようとしたのだが、そこにこの状況で最も来て欲しく無い相手の一人が姿を現した。
「困るんだよね。折角面白くなって来たんだからさ」
相変わらずの軽い口調で、喋りながら、藍色の怪人オーバーが、俺とホルダーを挟む形で、横から飛び出して来た。
「オーバー!?」
『やはり今回のホルダーも貴様の仕業か!!!』
俺はパワーブレードを構えて、臨戦態勢を取る。
「正直僕も驚いてるんだよね……ホルダーがこんなになるなんて思わなかったからさ!!!」
オーバーは己の右手に、両刃の剣を生成すると、一気に俺との間合いを詰めてきた。
「ふん!」
予め身構えていた俺は、何とかオーバーの斬撃をパワーブレードで受けきる。
『どういう事だ?』
「僕にも良く分からないけど、多分素体にした人間が言ってた事が、思っていたよりも、本気だったからじゃないかな」
メカ犬の言葉に、オーバーは俺に攻撃の手を緩める事無く答える。
「素体の人間が言っていた?」
「うん。【何もかも壊れれば良い】ってね!」
その言葉を発したオーバーは、何がおかしいというのか、無邪気な笑い声を上げながら、更なる追撃を開始してきた。
あまりの手数に徐々に防戦一方となっていく俺だったが、ここで戦いの流れが大きく変わる。
一旦俺から距離を取ったオーバーが、再び俺に詰め寄ろうと行動を開始しようとしたその時、側面から淡い銀色の光を纏った数発の弾丸が、オーバーに命中して吹き飛ばした。
弾丸が放たれたであろう先に視線を向けると、銃を構えたメタルイエローの装甲を持つ、最近もう一人の仮面ライダーと海鳴市民に認知され始めた仮面ライダーE2が居た。
「シードさん!ここは僕に任せて、あのホルダーの対処をお願いします!」
E2はそう言うと、俺の元まで駆けつけた後、オーバーへと追撃を開始する。
律義にもあの雑誌が発売された後に、呼び方が仮面ライダーから、シードに変えるのは、長谷川さんらしいと、俺は内心で感心してしまう。
『マスター。ここはE2に任せて、ワタシ達はホルダーを!』
「分かってる!」
俺はメカ犬の言葉に、返事を返しつつベルトからタッチノートを引き抜くと、ガイアシステムを起動させる。
『ガイア・コール』
タッチノートから音声が流れると、何処からとも無く、機械的な足音が近づいて来た。
『お持たせしましたマスター!』
その足音の正体は、メタルレッドのボディーを持つ、ガイアユニットのメカ竜である。
『うわ!?今度のホルダーは随分と大きいですね~』
巨大なホルダーを視界に捉えたメカ竜が、何処か他人事の様な調子の声を上げるが、今は切羽詰った状況なのだ。
「話は後だ。メカ竜。例のアレで一気に行くぞ」
『アレですか……確かにこの状況なら、それが一番ですね。了解しました!』
俺はメカ竜と短く言葉を交わすと、一旦右手に持っていたパワーブレードを、床に突きさしてから、更にタッチノートの操作を続ける。
『スタンディングモード』
メカ竜は、音声が流れると共に、アタッチメントパーツに変形すると、俺の左手に収まる。
それから操作を終えたタッチノートを、ベルトに再び差し込んだ俺は、続けてベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツに変形したメカ竜を差し込んだ。
『パワー・ガイア』
差し込んだ瞬間に、俺の周りにメタルレッドの追加装甲が生成されて、クリムゾンレッドのボディーへと、次々に装着されていく。
強化されて俺に流れ込んで来るのは、今までと比べ物にならない、凄まじいまでの力だ。
俺の変化に危機感を抱いたのか、ホルダーが触手で攻撃を仕掛けてくるが、俺は床からパワーブレードを引き抜くと、ただの力任せに振るった一振りによって、襲い掛かって来た全ての触手を薙ぎ払う。
「悪夢はここで終わらせる」
ゆっくりと左腕を動かしながら、俺はベルトの左側にあるレバー下のボタンを押す。
『ガイアブレイガン』
ガイア状態特有の武器である、遠近両用武器のガイアブレイガンを生成した俺は、パワーブレードの溝へと、ガイアブレイガンを差し込んだ。
『ジョイントアップ・ガイアブレード』
ガイアブレイガンを差し込んだ事により、メタルレッドのパーツが、パワーブレードに追加されて、ここにガイアモード中最強の威力を誇る剣が誕生した。
『『マスター!』』
同時に放たれるメカーズの言葉に頷きながら、俺はベルトの左側のレバーを下に引く。
『マックスチャージ』
ベルトから発生した稲妻を彷彿とさせる光が、右腕のラインを通り、ガイアブレードへと集約される。
「こいつで決めるぜ」
俺はエネルギーが集約されたガイアブレードを構えながら、静かに腰を落とす。
ホルダーが最後の悪足掻きとばかりに、全ての触手を俺に向けて放つが、俺はそれを気に止める事無く、一気にガイアブレードを振り切る。
「ガイアブレイカー」
振り抜いた一撃から放たれるのは、凄まじいの一言に尽きる、純然たる破壊の力。
その衝撃は、ホルダーが放った触手を全て飲み込み、それだけでは飽き足らず、ホルダー本体までも飲み込むと、大きな爆発を引き起こした。
爆発後には、ホルダーの素体となったであろう、メガネの男性が気絶していた。
「どうもこの辺りが潮時みたいだね……」
ホルダーが倒された事を、E2と戦い続けながらも確認したオーバーは、そう言うとデパートの屋上から飛び降りて逃走した。
「待て!!!」
その逃走に対して、叫んだE2は急いでオーバーを追う為に、デパートの階段を下りて行った。
『取り敢えず脅威は去った様だな……』
「ああ」
その光景を見ながら、メカ犬が声を掛けてくる。
『それでは、ワタシ達はなのは嬢の所に戻るとしようか』
「……良いのか?俺達もオーバーを追わなくて」
『今のマスターは心配で、それどころでは無いだろ』
「……ありがとうな。メカ犬」
『気にするな』
メカ犬の気遣いに俺は心から感謝した。
「あ!」
少しだけ落ち着いたところで、俺はある事を思い出す。
『どうしたマスター?』
「いや、ちょっと一つだけ用事を思い出してさ。なのはちゃんを迎えに行く前に、その用事を済ましたいんだけど」
『早く済ませるんだぞマスター』
「悪いな……」
俺はメカ犬に再び感謝の言葉を述べてから、変身を解くと、その用事を済ませる為に、デパートの中へと入って行った。
「ただいまメルト」
藍色の怪人オーバーが、暗闇が広がる空間で、先に其処に居た灰色の怪人メルトへと、軽い口調で挨拶をした。
「私は程々にしておけと言った筈なのだがな……」
それに対して、メルトは何処か呆れた感じで返答を返す。
「まあ、そう言わないでよ!面白いデータが取れたんだしさ……それはそうと、実験の方はどうなの?」
「ふん。此方は既に準備完了だ」
「そっか。これで僕達の作戦が一歩成功に近付くんだね」
「ああ。この力があれば、この世界は一瞬にして塗り変わる……」
「楽しみだね……本当に」
二人の怪人の静かに邪悪な笑い声が、暗闇の中に響き渡った。
「今日は大変な目に遭っちゃったね純君」
「う、うん。そうだね」
デパートでの戦いを終えて、用事を済ませた俺は、すぐになのはちゃんと合流したのだが、その時には既に日が暮れかけており、今は手を繋ぎながら、夕暮れの中家路に着く為、歩き続けている。
「あのさ、なのはちゃんに渡したい物があるんだけど……」
「え?」
俺はポケットからプレゼント用にラッピングされた、手のひらサイズの箱を取り出して、なのはちゃんに手渡した。
「何これ?」
「開けてみてよ」
「うん」
俺の勧めになのはちゃんは、素直に頷くと早速ラッピングを外して、箱を開けた。
「あ……これって」
箱の中身を見たなのはちゃんは、驚きの声を上げる。
「なのはちゃん。それを気にしてたみたいだからさ。俺からのプレゼントって事で……貰ってくれるかな?」
なのはちゃんにあげた箱の中身は雑貨屋に売っていた、小さな赤い宝石が付けられたブローチ。
半壊して営業は停止していたのだが、雑貨屋の店員さんに無理を言って買わせて貰ったのだ。
「ありがとう純君!とっても嬉しいよ……」
そう言ってなのはちゃんは、俺がプレゼントしたブローチを、大切そうに両手で握り締めた。
良かった。
どうやらこのプレゼントは、正解だったらしい。
「それじゃあ、もう遅くなるし帰ろうか」
俺はそう言って、少し先行して歩き出す。
「ねえ純君。私のプレゼントも受け取ってくれるかな?」
横から聞こえて来たなのはちゃんの予想外の言葉に、振り返ろうとした時、俺の頬に以前にも感じた事のある、感触が蘇った。
振り向くと夕焼けの中に居ても赤くなっている顔を隠しきれないなのはちゃんの笑顔。
「い、今のって……」
「これが私からのプレゼントだよ!」
そう言ってなのはちゃんは家の在る方向へと全速力で走り出す。
『青春だなマスター』
追いかけようとしたその時、俺の足元でしみじみと呟くメカ犬の声が聞こえる。
足元では何処か含む笑いを称えながら、メカ犬が何度も頷いている……録画中のビデオカメラを背中に括り付けた状態で……
「そこのカメラマン君。大人しくその背中の物を渡して貰えるかな?」
『うむ?これは今日のワタシに母殿が与えた至上命令なのだが』
俺とメカ犬は互いの間合いを計りながら、無駄に爽やかな笑いの二重奏を奏でる。
『去らばだマスター!!!』
先に動いたのはメカ犬だった。
「待てよメカ犬!!!」
こうして俺とメカ犬による、全力全開の鬼ごっこが開始された。
結局俺はメカ犬を捕まえる事が出来ず、恥ずかしい画像データの全ては母さんの手に渡ってしまった……
まあ、このデータのお陰で燐子さんの漫画は無事に完成したのだが、俺が支払った代償があまりにも大きいと思うのは、気のせいでは無い筈だ。
そしてこの動画は、新たな騒動の火種となるのだが、それはまた別の話としか、今は言い様が無い。
取り敢えず今日の海鳴も、もうすぐクリスマスなんだなと、季節の変わり目を感じられる程には平和だ。