魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「明日は皆で、風都に行くわよ!」
あの謎の杭を破壊した翌日、二学期の終業式が無事に終わり、教室で担任の真理子先生の話を聞き終えた俺が、帰り支度をしていると、俺の目の前にやって来たアリサちゃんが仁王立ちで、そう高らかに宣言した。
「はい?」
俺は自身の耳を疑ってしまい、思わず声を上げてしまう。
突然話し掛けられて驚いたという部分もあるのだが、一番の理由は、先程アリサちゃんの口から、出る筈の無い単語が聞こえた気がした為である。
「今、何て言ったの?」
「ん、聞こえなかったの純?明日は前から皆で行こうって決めてた、隣町の風都に最近出来た遊園地の風都ランドパークに遊びに行こうって前から話してたでしょ」
どうやら俺の聞き間違いでは無いらしい。
アリサちゃんは確かに今、風都と言った。
しかもそれが隣町だとも……
はっきり言おう。
そんな事は有り得ない。
俺は転生してから、この海鳴市を始めとして、様々な文献を読んで情報を集めてきたが、今日この日まで、風都という言葉を聞いた事は、この世界では一度も無かったのである。
それに隣町が風都の筈が無いのだ。
確かになのはちゃん達と、冬休みに入ったらすぐに皆で遊びに行こうと、計画を立てており、隣町に新しくオープンした遊園地に遊びに行く事にはなっていたが、それは断じて、風都という街にある風都ランドパーク等という場所では無かった筈なのである。
「楽しみだねすずかちゃん」
「うん。今からワクワクするね」
しかもアリサちゃんだけじゃなく、すずかちゃんになのはちゃんまでもが、風都を常識として捉えている様な言動をしている。
何だこれは?
朝から俺は皆とずっと一緒に居たが、特に何かが変わった様な現象は、何も見受けられなかった。
だが、現状としてこれは異常だ。
俺は最近の記憶を掘り返して、何か糸口になる様な情報は無いかと、思考を巡らせる。
そこで俺は、昨日耳にした、一つの単語を思い出す。
「……世界の壁を崩す」
無意識に俺はその単語を呟いた。
それは昨日の戦いで、オーバーが言っていた言葉。
今までも物騒な単語だとは思っていたが、その意味が理解出来ず、頭の片隅へと追いやっていたのだが、今この瞬間にその言葉の本当の意味に俺は気付いてしまった。
「これが奴の言っていた言葉の意味だったのか……」
目の前でこれからの予定を、楽しげに話し合っているなのはちゃん達を眺めながら、俺は言い知れぬ不安を感じ始めていた。
鳴海探偵事務所。
風都の風花町一丁目、二番地二号に建つ古びた玉屋、かもめビリヤード場の二階に居を構えている。
ここには様々な理由で警察等には頼る事の出来ない事情を持つ風都の住民達が、彼を頼りにこの場を訪れるのだ。
一人の青年が、事務所のロビーとなっている一番奥の机に座り、タイプライターを操作して業務を行っている。
彼の名前は左翔太郎《ひだりしょうたろう》。
この鳴海探偵事務所の元々の持ち主である鳴海荘吉の遺志を継ぎ、ハードボイルドを目指し続ける一人の探偵だ。
「翔太郎!翔太郎!」
部屋の奥の扉の向こうから、彼を呼ぶ少年の声が聞こえてくる。
声を掛けられた本人である翔太郎は、またかという感じで溜息を一つ吐くと、少年の声に答える為に、声を上げた。
「どうしたフィリップ。また何か気になるものでも見つけたのか?」
翔太郎が声を掛けるのと、ほぼ時を同じくして、先程の声の主、フィリップが、部屋の奥から姿を現す。
「そうなんだ。聞いてくれよ翔太郎。さっきテレビで、面白いニュースを見たんだ」
「面白いニュース?」
楽しそうに語り始めるフィリップに対して、翔太郎は面倒くさそうにしながらも、話しに耳を傾ける。
「最近この風都にオープンした風都ランドパークは、翔太郎も知っているだろ?」
「ああ、オープン前から、結構な宣伝をしていたしな。クイーンとエリザベスも、オープン初日に遊びに行ったって話してたぞ。それがどうかしたのか?」
「其処のアトラクションで、風都ホラーハウスというものがあるんだが、何と其処には作り物じゃ無い、本物の幽霊が出るらしい!」
「は!?」
「本物の幽霊だよ……実に興味深い!」
呆れた声を出す翔太郎を無視して、尚もフィリップは語り続ける。
「……あのな、フィリップ。仮に本物の幽霊がいたとしても、出来立てのテーマパークに居る訳がな……」
幽霊について語り続けるフィリップに、翔太郎が無駄と分かりつつも諭そうとしたところで、来客のチャイムが鳴った。
「フィリップ。話しは取り敢えず後だ」
翔太郎はそう言って椅子から立ち上がると、玄関を目指して歩き出す。
「初めまして、探偵さん」
扉を開けると、其処に居たのは見た目二十台後半から、三十台前半に見える黒髪の美女だった。
「仕事の依頼をしたいのだけど、良いかしら?」
妖艶な微笑みを浮かべながら、美女は翔太郎に語りかける。
「……」
翔太郎は、美女の不思議とさえ思える魅力にあてられたのか、言葉を失う。
「探偵さん?」
「……は!?ああ、すいません。仕事の依頼ですよね!!!」
何とか現実に復帰した翔太郎は、美女を事務所の中に案内すると、ソファに座る様に促した。
「ところで貴女の、お名前は?」
襟を正して、美女の向かい側に座り、今更ながらに真顔で決めた翔太郎は、仕事の話しというよりも、お見合い始めの常套句の様な台詞で会話を開始する。
「申し遅れました。私はこういう者です」
一度お辞儀をした美女はそう言って、一枚の名刺を差し出す。
「沢渡登紀子《さわたりときこ》さんですか?」
「ええ、そうよ」
名刺に書かれていた名前を読み上げた翔太郎に、美女改め登紀子は肯定の返事を返す。
更に翔太郎が、名刺を読み続けると、其処には最近良く耳にする単語が、書かれていた。
「登紀子さん。貴女は……」
驚く翔太郎に対して、登紀子は再び妖艶な微笑みを浮かべた。
青年は静かに、毎日の日常を過ごしていた。
傍らにはいつも、最愛の歳の離れた妹が、それだけで青年は満ち足りていたのである。
しかし青年の日常は、突如として終わりを迎えた。
それは逆らう事の出来ない理不尽。
ただ一人の最愛なる家族すらも、青年は守る事が出来なかった。
そして青年と、その妹は自らの命すらも落としてしまう。
青年の人生は、そこで全てが終わった。
いや、終わる筈だったのである。
青年は再び目覚めた。
……全ての記憶を失ったまま。
己が何者なのかすらも分からぬまま、青年は幾多の戦場を駆け抜けた。
命令に背けば、再び死が訪れる。
一度死んでいる青年は、それでも良いと心の奥底で感じては居たが、それでも青年は、命令に従い戦い続けた。
何処かで死の恐怖を感じていたのかもしれない。
或いはそれ以外の感情を持っていたのかもしれない。
だが根本的な部分で、青年はそんな事はどうでも良いと結論付けていた。
今の青年が思う事は一つだけ。
ここに居るという証。
それがあれば、他に何もいらないのだ。
青年は今の自分を生きても死んでもいないと考えている。
自分が誰だったのか、それすらも思い出せない。
だからこそ、今ここに己が居るという証を何よりも渇望した。
だから戦う事に彼は躊躇しない。
たとえ命令だったとしても、それが青年にとっての存在の証となるのであれば、むしろ喜ばしい事だったのだから。
しかしそんな青年に転機が訪れる。
何時もの様に、戦場で戦い続け、己以外に誰一人として、立っている状態ではない惨状を作り上げた直後の事だ。
異形の姿をした二人組みが、青年を訪ねて来たのである。
「……何だお前達は?」
青年は身構えながらも口を開いた。
「そんなに身構えないでよ。僕達は君と話しがしたいだけなんだからさ」
「……話しだと?」
異形の二人組みの内の一人。
全身が藍色をした異形がそう言った。
その言葉を聞いて、僅かだが青年は自身の緊張を解き、言葉を零す。
「私達は、お前に力を与えに来た。お前は絶対的な力が欲しいとは思わないか?」
続いてもう一人の異形、全身灰色をした恰幅の良い怪人が、青年に対して淡々と語りかける。
青年は突然の異形達からの誘いに、特に動揺する事無く、ただただ考えを巡らせ続けた。
そして、答えを出す為に、青年は今の己にとっての根幹とも言える質問を一つだけする。
「……その力は、俺の証になるか?」
その質問に対して、灰色の異形は、淡々とした口調で、一言返した。
「それをお前が望むのならな」
この瞬間、青年の答えは決まった。
「良いだろう。その力……俺に寄越せ」
際限無く死が訪れる大地の上で、青年は三度目となる産声を上げた。
終業式が終わった翌日、俺達は風の街、風都へとやって来ていた。
「本当に風都だよ……」
俺は目の前の現実に驚きを隠せず、今でも夢を見ているのではないかと、自身の頭を疑う。
『うむ。やはりマスターの言う通り、本来ワタシ達が居た世界と、もう一つの世界が、融合を果たしたと考えるのが、最も妥当と言えるかも知れないな……』
俺が背負っているお気に入りのショルダーバックから、顔を覗かせたメカ犬が、俺の考えを肯定する発言をした。
幸いにも、メカ犬だけは記憶が変わらず、話しが通じた。
その事で、余計にあの時破壊した謎の杭が、今回の事象に深く関わっている可能性があるという事が、判明した訳だが……
『それでこれから、どうするつもりなのだ?マスター』
「う~ん。それなんだよな……」
取り敢えず今は、なのはちゃん達と行動を共にしており、風都ランドパークへと、足を運んでいる訳だが、はっきり言って、現状遊んでいる場合では無いのではないかと、切実に思う。
取り敢えず引率兼保護者として、今回は恵理さんに同行してもらっているので、簡単に事情を話せば、皆と別行動をする事は可能だ。
それに今回はある意味運が良いと言えるかも知れない。
ここが本当に、俺の知っている、あの風都だとするのであれば、あの人達の力を借りる事が出来るかも知れないからだ。
結局メカ犬があの謎の杭を調べた結果分かった事は、あの杭自体にはあまり意味が無く、埋め込まれていた緑の球体に蓄積されていたエネルギーを放出する役割を持っていたという事だけだった。
恐らくはその流し込まれたエネルギーで、こうなったとは思うのだが、それ以上は現状お手上げなのである。
これが一時的な現象なのか、永続的に続くのか、それすらも分からない。
だからこそ、俺は彼等の協力を得たいと考えている。
「着いたよ純君!」
俺がメカ犬とこれからの行動指針について考えていると、少し前を歩いていた、なのはちゃんの声が聞こえた。
改めて前を向くと、其処にはカラフルな色付けがされた大きな扉。
その先に見えるのは、幾つもの、大きな風車が取り付けられた建物である。
流石、風の街、風都と言ったところだろうか。
風をイメージした様子がパーク内の至る所に見受けられる。
「それじゃあ行くで皆!!!」
はやてちゃんが、もう我慢できないといった感情を爆発させて、右拳を突き上げる。
「「「おー!!!」」」
それに呼応するかの様に、なのはちゃんに、アリサちゃん、すずかちゃんまでもが、拳を天に突き上げた。
皆余程楽しみにしていたのだろう。
何気に恵理さんまでもが、混ざっているのはどうかと思うが……
「ほら、純君も早く行こうよ!!!」
俺はなのはちゃんに腕を掴まれて、引きずられる様にして、パーク内へと入っていく。
取り敢えず、現状では別行動をする事も難しそうなので、現状は一緒に遊びに興じた方が、得策かもしれない。
俺は現状の心配の種を、取り敢えず頭の片隅に追いやり、どうせならば、楽しむだけ楽しもうと、パーク内に足を踏み入れた。
私は歳の離れた兄さんが大好きだった。
厳しいけど優しくて、そんな暖かい兄さんが、誰よりも好きだったのに……
兄さんは突然私の前から、姿を消してしまった。
もう一度会いたいのに、私はこの場から動く事が出来ない。
会いたいよ……
もしもこの世界に、本当に神様が居るのなら、一度だけで良い。
私の願いを叶えてください……
兄さんにもう一度だけ会いたいんです。
そして、ちゃんとお別れを言いたいの。
私は兄さんと居て、毎日が幸せだったよって。
だからもう何も悩まなくて良いんだよって、私の口から兄さんに伝えたいの……
それが我侭だって事は分かってる。
本当は、私はここに居ちゃいけない存在だって事も。
だけど、それでも私は諦めたくない。
だからこの願いが叶うと信じて、今は待ち続けたいんです。
私は今日も、祈りを捧げながら待ち続けます……
希望をその胸に宿しながら。