魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「突然倒れましたけど、この人は大丈夫なんでしょうか?」
なのはちゃんの身体に憑いた幽霊が、Wに変身した事により、現在は意識を手放して一見すると、気絶している様に見えるフィリップ君を、心配そうに見詰めている。
「フィリップ君は心配しなくても大丈夫だよ。なのはちゃん……じゃなくて、え~と」
安心させようとして俺は声を掛けるが、この幽霊を何と呼べば良いのか咄嗟には思いつかず、言葉を途中で濁す。
『うむ。兄がいるという以外の記憶が無いとは言っていたが、自分の名前も覚えていないのか?』
俺と幽霊のやり取りを見ていたメカ犬が、意見を挟む。
メカ犬の意見に対して幽霊は、なのはちゃんの眉を寄せて、目を瞑り考え込む仕草を見せた。
暫くその表情を続けていた幽霊だったが、やがて諦めたのか、目を開けてメカ犬と俺に向き直る。
「ごめんなさい。申し訳ないんですが、何も思い出せないんです……」
幽霊は本当に申し訳なさそうに、俺とメカ犬に謝罪の言葉を口にした。
出来れば色々と思い出してほしいとは思うが、とてもそんな事を言える雰囲気ではない。
「あまり気に病まない方が良いよ……あ!そうだ!取り敢えずだけど、君の名前を考えよう。何時までも呼び名が無いっていうのもなんだからね」
俺はこの雰囲気を払拭する為に、新たな提案を出す。
「私の名前ですか?」
『それは良い考えだなマスター』
その場の空気を読んだメカ犬も、俺の提案に賛同して、雰囲気を幾分かではあるが、軟化させる事に成功した。
さて、問題はここからだ。
この話題の言いだしっぺである俺が、名前を決めなくては、この場を完全に上手く収める事は出来ないだろう。
名前を考えること自体は良いのだが、はっきり言って俺に名前のネーミングセンスは皆無である。
それは我が相棒の名前からして理解してもらえると思う。
正直に言えば、今でこそ完全に定着してしまって、俺も含めて皆がメカ犬と自然に呼んでいるが、普通の感性を有しているならば、こんな名前をつける奴はいない。
直球勝負で潔いと言われる事もあるが、それは明らかに褒め言葉ではないし、大抵の人達からは幾度と無くメカ犬の名前を改名する様にと、言われたものだ。
しかし今はそれを言い訳に逃れる事も出来ない。
何気に期待を込めたなのはちゃんの表情と瞳で、幽霊が俺を見ているし、メカ犬は介入してくる気が無いのか、無言でこの場の成り行きを見守っている。
味方は誰もいない……
俺は必死に考える。
取り敢えず変な名前じゃなくて、この幽霊のイメージに合いそうな名前を。
そしてある意味で、ホルダーと戦ってる時以上に思考を巡らした俺に、一つの名前が思い浮かぶ。
「ユイ……ユイでどうかな?」
「ユイですか……」
俺の考えた名前を聞いて、幽霊は何度もその言葉を繰り返す。
「気に入らなかったかな?」
その様子を見て、もしかしたら気に食わなかったのではないかと思い、俺は恐る恐る感想を聞いてみる。
「いいえ。とても気に入りました。私は今この瞬間からユイです。宜しくお願いしますね」
幽霊、改めユイは笑顔でそう答えると、俺に握手を求めてきた。
「こっちこそ宜しく。俺は板橋純。それで隣にいるフルメタルな犬が、俺の相棒のメカ犬だ」
『マスターから紹介されたメカ犬だ。改めて挨拶をさせてもらおう』
俺は差し出された手を握り返して、メカ犬も含めた簡単な自己紹介をした。
今思えば、ここまで一緒に話を続けていて、自己紹介すらもしていなかったのだから、気づいた瞬間に何だか笑えてくる。
……それにしても幽霊、じゃなくて、ユイがこの名前を気に入ってくれて本当に良かった。
正直に白状すると、この名前もメカ犬に勝るとも劣らない程の捻り無しなど真中の剛速球なのである。
聡明な人達はすぐに気づいたかもしれないが、このユイという名前は、幽霊という単語の一番上と下の一文字を取って付けただけなのだ。
「言えないよな……」
俺は自分の名前が出来た事により、嬉しそうにメカ犬と会話を楽しむユイを見ながら、誰にも聞こえない様な小さな音量で呟いた。
一気に気の抜けたその瞬間。
このガレージに突如として、大きな変化が巻き起こった。
「どうしたのさ仮面ライダー!もっと僕を楽しませてよ!!!」
「くっ!?」
歓喜の叫びを上げながら、オーバーがWに剣を振り下ろす。
サイクロンジョーカーで、素早さが高められているおかげで、Wか何とかその一撃をギリギリで回避する。
「……遅い」
しかしその直後、避けた位置にサイファーが肉薄して、Wの左脇腹に強烈な蹴りを叩き込む。
「「ぐあ!?」」
避けた直後の隙を突かれたWは、防御が間に合わずに、後方へと吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫かい?翔太郎」
「ああ。まだまだ行けるさ」
迫り来るオーバーと、サイファーを迎え撃つ為に、Wは先程のダメージがあるのか、足元をふらつかせながらも、何とか立ち上がる。
「そろそろ終わりにしようかな?」
「お前も俺の証になれ……」
ふらつくWを見て、この戦いに決着をつける好機とみたのか、オーバーとサイファーは更なる攻撃を仕掛けようと、Wに駆け寄る速度を増していく。
Wにその凶刃が届こうとしたその時、何処からか、風都ランドパークのアトラクションの音とは明らかに違う、爆音が周囲に木霊した。
その音はこの戦いの場所から少し離れた位置から聞こえてくるが、この一瞬毎に凄まじい勢いで近づいて来る事が感じられる。
「何の音だろうね?」
突然の爆音を不審に思いながら、オーバーは音が近づいて来る方向へと、視線を向けた。
その先にはこの音の正体が凄まじい勢いで此方へと接近してくる様子が見て取れる。
やって来たのは一言で表すのであれば、巨大な装甲車だ。
どれ程巨大なのかと言うと、二車線の道路を目一杯に使わなければ、走行出来そうにない程である。
この装甲車の名称は、リボルギャリー。
W専用の高速移送装甲車で、同じくW専用のバイクであるハードボイルダーの格納にも使われている。
「やっと来たみたいだね」
リボルギャリーの到着を確認して、フィリップが呟いた。
このリボルギャリーには、オートパイロットシステムが搭載されている上に、メモリガジェットの一つである、スタッグフォンで遠隔操作する事も出来る。
先程Wが戦闘中にも係わらず、スタッグフォンを操作していたのは、このリボルギャリーを呼び出す為、より正確に言うのであれば、この中に居るある人物を、この場に連れて来る為だった。
Wの横に到着したリボルギャリーは、停止するとその装甲の一部を開く。
そしてその中から、一人の幼い少年が顔を出した。
前世の頃、TVで何度も見ていたし、俺達が先程まで居たガレージがどういう意味を持っているのか、良く理解していた筈なのだが、実際に目の前で経験するのは、当然の事ながら初めてだったので、かなり驚いた。
俺達がガレージで話していたら、突如として、二つに割れていたリボルギャリーが動き出したと思ったら、その場に居た俺達全員を内部に格納して、走り出したのである。
驚きはかなり凄かったが、それと同時に俺は感動してしまった。
まさか本物のリボルギャリーに乗れる日が来るとは、思ってもいなかったからだ。
隣でユイとメカ犬が驚愕しているのを見ながら、俺は一人感動に身を震わせていたのだが、暫くしてリボルギャリーが停車したかと思うと、装甲の一部が開いた。
多分其処が、出入り口になっているのだろう。
俺はユイにこの場所で待っている様に言い聞かせてから、メカ犬と共に、外の様子を窺ってみる事にした。
「待ってたよ」
リボルギャリーから顔を出した直後、斜め下に居るWから声を掛けられた。
声からして、フィリップ君に間違い無さそうだ。
いや、問題は其処じゃない。
リボルギャリーが呼ばれたという事は、今も戦闘中という事だ。
俺は慌てて、現在の状況を確認する為に、辺りを見渡す。
『オーバーも居るのか!?』
メカ犬が俺の肩に飛び乗ると同時に、目の前に居た藍色の怪人の名前を叫ぶ。
メルトがこの風都ランドパークに現れた事から考えて、オーバーがこの場に居たとしても、充分予測の範囲内ではあるが、問題はもう一体、オーバーの隣にいる奴だ。
腹部のロストドライバーと、その風貌からして、厄介な奴だという事は、すぐに分かった。
「……昨日からずっと、分からない事だらけで、本当にまいっちゃうよな」
そう言いながら、俺は肩にメカ犬を乗せた状態で、リボルギャリーから降りて、Wの隣に並ぶ。
「なるほど。フィリップが言っていた増援か……確かにな」
俺を見ながらWが囁く。
この声からして恐らく、翔太郎さんで間違いない筈だ。
喋った時に同時で、左腕をスナップさせてたし。
二人の間でどんな話の流れがあったのかは分からないが、俺にも一つだけ理解出来る事がある。
「行くぞメカ犬」
『うむ』
それは……今は戦うべき時だという事だ!
俺はポケットからタッチノートを取り出して開き、ボタンを押す。
『バックルモード』
肩に乗っていたメカ犬は飛び降りると同時に、ベルトに変形して俺の腹部へと自動的にまきつく。
「変身」
音声キーワードを入力した俺は、素早くタッチノートを、ベルト中央の溝へと差し込んだ。
『アップロード』
白銀の光が俺の全身を包み込んでいき、その姿を一人の戦う戦士へと変えていく。
全体を覆うメタルブラックのボディーに、ベルトを中心として四肢へと伸びる銀のライン。
同じく銀に輝く額の角飾りと、赤い二つの複眼が強烈な存在感を生み出す。
シードへの変身を完了させた俺は、隣に居るWに視線を向けて、互いに無言で一度だけ頷いた後、オーバー達目掛けて、一気に駆け出した。
俺はオーバーに駆け寄り、Wはあの謎のライダーを相手にする為に駆け寄って行く。
『オーバー!貴様達は一体何を企んでいる!?』
俺がオーバーに対して攻撃を加える中で、メカ犬が叫ぶ。
質問に正直に答えるとは到底思えないが、それでも問い質さずにはいられない。
一昨日に始まったホルダーモドキを大量に使ってまで行った、海鳴市への謎の杭の設置。
その翌日には周囲の人達の記憶が改竄された状態で、俺達が居た世界と、翔太郎さん達の世界が融合を果たした。
しかも今度は海鳴市ではなく、この風都に現れて、ドーパントや俺も見た事が無いライダーと行動を共にしている。
幾ら考えてもやはり答えは出ない。
だから少しでも何かヒントになるかも知れないと、たとえ敵であったとしても事情を知る相手に聞くメカ犬の気持ちは、痛いほどに理解出来る。
「何度も言ってるでしょ。これは実験だって」
「だから何の実験だっていうんだよ!?」
押し問答の様に繰り返されるこの言葉に対して、俺もオーバーの剣に拳を放ちながら叫んでしまう。
「今のこの混じり合った世界は、とても不安定なのさ。だから何もせずに放置しておけば、後一日くらいで何もかも元に戻るんだよ」
俺達にとって衝撃とも言える事実を、オーバーは普段通りの軽い口調で告げた。
勿論俺はその言葉に驚愕するが、同時に一つの疑問が生まれる。
奴らの実験が何を示すのか。
最初はこの現象そのものが、実験の目的と考えていたが、先程のオーバーの発言と、ここまでの一連の行動からして、目的は別の所にある様に思えてならない。
「だから僕達は、もう一度楔を打ち込むのさ」
『楔?』
「ふふ、この風都からもう一度大きなエネルギーを注ぎ込むんだ。そうすればこの世界は……いやそんな小さな規模じゃないよ!!!この地球がリセットの時を迎えるのさ!!!」
オーバーは俺達に剣を振るいながらも、歓喜の笑いを上げながら喋り続ける。
「喋りすぎだぞオーバー」
俺がオーバーの剣から繰り出される一撃をどうにか避けた直後に、突如として灰色の怪人、メルトが姿を現した。
「ごめんよメルト。でもさこんなに楽しい事を、皆に内緒にするのもつまらないじゃない?仮面ライダーもせっかく僕達の実験に付き合ってくれてるんだから、少しくらいはサービスしてあげないとさ」
「ふん」
メルトが現れた事により、一旦俺と距離を取ったオーバーが、メルトの近くまで行くと、何か会話をし始める。
「取り敢えず遊びはここまでにしておけ。これから実験の最終段階の準備に入るぞ」
「ふふ、分かったよ。それじゃあ残念だけどここは、退きますか」
『待て!お前達には、まだ聞かなくてはならない事が山ほどある!!!」
ここで逃がす訳には行かないと、俺が二体の怪人に駆け寄ろうとしたその時だ。
「きゃあああ!?」
俺がいた後方から悲鳴が聞こえて来たのである。
急いで振り向くと、其処には認めたくない光景が展開されていた。
リボルギャリーの装甲の一部開放された場所から、ユイが落下して来たのだ。