魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「……兄さん」
私は一歩ずつ、仮面でその素顔を隠した兄さんに、近づいていく。
一度は兄さんの言葉に絶望した。
もうこのまま消えてしまいたい、という気持ちに駆られたけれど、だけどそんな時に、純の声が聞こえてきたの。
そして兄さんの声も……
悩んでいるのは私だけじゃなかった。
兄さんも悩んでいた。
苦しんでいた。
そこからどうにか抜け出そうとしていたんだって事を、私は二人の会話と聴いて、戦いを見届ける事でやっと気付いたんだ。
兄さん……私は駄目な妹だよね。
本当は私が兄さんを助けなきゃいけなかった筈なのに、少し悲しくなったぐらいで、全てを純に任せちゃったんだから……
だからね、もう遅いかも知れないけど、私は今から兄さんに伝えます。
私の罪を、そして兄さんの罪を……
純との戦いで倒れた兄さんに、声が聞こえる程に近づいてから、私が声を掛けようとしたその時、横合いから、怪物が飛び出してきました。
確か純は、ホルダーモドキと呼んでいたと思います。
そのホルダーモドキが、私に一歩ずつ近づいて来るのでです。
十中八九、恐らく狙いは私でしょう。
これは私の油断。
本当は動くべきじゃなかった。
でも頭では理解出来ていても、私は待つ事が出来なかった。
それは正体不明の、焦燥感と言えるかもしれない。
何でそう思ったのか、私自身にも上手く説明出来ないが、今動かなければ二度と兄さんと話をする事が出来なくなると、何故か私の脳裏に、そんな考えがよぎってしまったからに他ならないでしょう。
でもそれは私の大きな間違いだったんです。
私は今こうして、命の危機に瀕している。
それだけなら私のただの自業自得だけど、この身体は私の身体じゃないから、傷つける訳には行かないから、私は一度目の死に際に紡いだ言葉を、それが私の罪だと言うのに、もう一度口にしてしまった。
「……助けて兄さん」
迫り来る恐怖に晒されて、身動きの出来ない私に対して、ホルダーモドキが、右手を手刀にして振り被る。
次の瞬間に再び訪れるかも知れない死の恐怖に、私は目を閉じるが、それは私に訪れる事はありませんでした。
「……大丈夫か?」
その代わりに、とても懐かしい、優しかったあの頃の兄さんの声が聞こえてきた。
私は戸惑いながらも、閉じた目を開ける。
そして気付いたのです。
何故私が無事だったのか、その訳に……
「どうして……」
辛うじて私はその言葉を口から吐き出す事に成功する。
兄さんは私を庇う様に背中を楯にして、ホルダーモドキの攻撃を受けていた。
「少し待っててくれよ……」
再び優しげな声で私に話しかけてきた兄さんは、最後に私の本当の名前を呼んでから、後ろのホルダーモドキに振り返って、拳を叩きつけて、遠くに吹き飛ばしてしまいました。
でもその直後に、兄さんは地面に崩れ落ちてしまい、その仮面も塵の様に何処かへ飛散して、私の良く知る兄さんの顔が露になったのです。
「兄さん!!!」
私は叫びながら、兄さんに駆け寄りました。
その私に兄さんは、もう一度名前を呼ぶと、穏やかな口調で話し掛けてきました。
「良かった。今度は守る事が出来たんだな」
「兄さん。やっぱり記憶が……」
「ああ、全部思い出したよ。悪かったな。ずっと寂しい想いをさせて……」
そう言うと兄さんは、私の頭に右手を持ってきて、昔と同じ様に、優しく微笑みながら、撫でてきました。
私は自分自身の中で高ぶる感情を抑える事が出来ず、涙で視界が滲んできましたが、それでも兄さんから目を逸らさない様にしながら、兄さんの左手を、強く握ります。
「私も兄さんに、謝らなければいけない事があるんです。聞いてくれますか?」
涙に頬を濡らしながらも私は語りだす。
私達、兄妹の犯した罪を……
「……もう良いんだよ」
全てを聴いた兄さんは、もう一度微笑むと、そう言って笑ってくれた。
それは私の心を、ずっと囚われ続けていた罪と解放するのと同時に、喪失感を覚える。
本当は気付いてる。
今私と兄さんは、最後の会話を交わしているんだって。
でも私はそれを分かっているのに、認めたくないんだ。
「……兄さん」
「俺はもう行くよ。もしもあの世があるのなら、もう一度……いや、きっと俺は地獄行きだから、どっちにしても二度と会える事は無いかな」
兄さんは、そう言いながら、力無く笑って見せた。
「……兄さん」
これが最後なのだから、もっと話したい事が沢山ある筈なのに、私は止め処無く涙を流しながら、壊れたレコーダーみたいに、同じ言葉を繰り返す事しか出来ない。
「最後に頼みがあるんだ。彼に、俺達、兄妹をもう一度本当の意味で巡り合わせてくれた彼に、お礼を言っておいてくれないか?」
「……そんなの、自分の口で……言えば良いじゃ……ないですか」
私はもうまともに喋り続ける事すら出来ない。
既に人としての温もりが消えている兄さんの手を、更に強く握り締めながら、私は何とか言葉を紡ぎ出そうと努力する。
でもやっぱり上手く声に出す事が出来なくて……
「……ごめんな。最後まで妹を泣かせる様な兄でさ……」
それが私の聴いた、兄さんの最後の言葉だった。
それは一瞬の出来事だった。
倒れたサイファーに、ユイが近づいて行った直後、建物の影になって気付くのが遅れたのだろう。
ホルダーモドキの一体が、突如として飛び出してきたのである。
しかも事もあろうに、ホルダーモドキはユイに狙いを定めたのだ。
俺は急いで、助けに向かおうとしたのだが、先程まで倒れていたサイファーが、勢い良く立ち上がり、自ら背中を楯にする事で、そのホルダーモドキの攻撃を防いで見せたのである。
そしてすぐさま反撃に転じて、ホルダーモドキを吹き飛ばしたのだが、その直後に変身が解けて、倒れてしまう。
俺もすぐに、その場に行こうとしたのだが、青年の表情を見た瞬間に、その行動は躊躇われた。
青年は今までの殺気を放つ他人を威圧する様な、鋭い表情から一転して、ユイに優しい微笑を浮かべていたからだ。
この場に俺が、割って入る訳には行かない。
俺は長い時を経て、本当の再会を果たした二人の兄妹を、ただ遠くから見守る。
ユイは倒れた青年の横に座り込んで、強く右手を握り締めた。
その姿が俺には、青年とユイの間にある絆なのかと感じた。
幾つかの会話を交わした後、青年の様子が、少しずつ変化していく。
俺はその変化に見覚えがあった。
それは前世で俺が視た映画の彼等に起こった現象と同一のものである。
ネクロオーバー。
映画の劇中で、死者を化学薬品やクローニングなどの特殊な技術で蘇生させた兵士を略して、ネバーと呼ばれていた存在だ。
今青年には、そのネバーが倒された時に起こる現象が、起こっている。
彼は……ユイのお兄さんは、ユイと同様に、既に亡くなっていた。
メカ犬に頼んで、恵理さんと連絡を取り、急いで風都ランドパークのホラーハウスが建てられた場所が、以前誰が持ち主だったのかを調べてもらったら、すぐに判明したのである。
ユイが言っていた本名とも、一致していたので、間違い無いだろう。
調べてすぐに判明したのは、その兄妹がある事件と関係していたという部分も大きかった。
それは常に何処かで起こっているであろう、不幸であり理不尽な事件……
ある日仲睦まじく平和に暮らしていた兄妹の家に、強盗が押し入って、命を奪われた。
……ただそれだけの事件なのである。
TVのニュースや、新聞の一覧を見れば、自然と目に入るであろう、被害者への同情と、加害者への怒りを覚える、不幸な事件だ。
この兄妹は天涯孤独だったという事もあったので、遺体の処理は国の管轄となる。
俺の勝手な推測ではあるが、恐らくはそこで、ユイのお兄さんの遺体は、ネバーの実験体として、利用されたのかもしれない。
涙を流すユイの目の前で、青年は徐々にその存在を薄めていく。
……そして程なくして、青年はこの世界から完全にその姿を消してしまった。
ネバーの戦いの末路は、その亡骸すらも残す事が叶わない、完全な消滅。
再び訪れる、本当の死だ。
俺は二人の兄妹の最後の別れを、その目に焼き付けながら、仮面の下で唇を噛み締めた。
「……なあ、メカ犬。これで本当に良かったのかな?」
俺は自分の中で、答えの出ない問いを、メカ犬に求める。
『……正直に言えば、ワタシにも答えは分からない。だがな、マスター』
メカ犬は一度そこで言葉を区切ると、分身体の手で、俺の肩を軽く叩いた。
『彼は最後まで穏やかな笑顔をしていた。彼にその笑顔を取り戻させたのは、他の誰でもない。間違い無くマスターだ』
その言葉を聞いて、俺の中に先程まであった言い様の無い、心の暗雲が晴れていくのを感じた。
俺は何かをしては、後悔するばかりだ。
でも、それでも今の俺にだって、出来る事がある。
「行こうメカ犬。俺達はやるべき事をやろう!」
『うむ!』
今の俺にはユイに何と声を掛けて良いのか分からない。
だが自分のした事を間違いだったと、自分自身を非難したりも絶対にしない。
全てが終わった後に、納得出来るまで話し合おう。
その為にも、俺は今の世界を守る為に走り出した。
『ジョーカーマキシマムドライブ』
Wは腰のスロットにジョーカーメモリを装填して、手を打ち付ける事で、サイクロンジョーカーが誇る、必殺の一撃を発動させる。
吹き荒れる風を纏いながら、浮かび上がり、目の前の二体の怪人、オーバーとメルトに、向けて左右の足を突き出す。
「「ジョーカーエクストリーム」」
翔太郎とフィリップの両名が、互いの呼吸を合わせる為に叫ぶ。
Wの身体は中心から二つに分割されて、其々が必殺の一撃を叩き込む。
「甘いよ!」
「ふん!」
だがその一撃を予期していたのか、オーバーとメルトは、Wの繰り出したジョーカーエクストリームを受け止めて、弾き返してしまった。
「くそっ!?厄介な奴等だな……」
「まさかこの攻撃も通用しないとはね」
弾き返された後、再び通常状態のWに戻った翔太郎とフィリップは、苦々しく相手の手強さを再認識する。
「ふふ。君も普段戦ってる仮面ライダーとは違った意味で面白いよ!」
Wの攻撃を退けたオーバーは軽い口調で、言いながら、右手に剣を構えて、Wへと迫る。
それに対して、迎撃する態勢を整えるWだったが、オーバーの剣が、攻撃圏内に入るよりも早く、後方から銃撃音が聞こえてきた。
その銃撃は、Wの横を通り過ぎて、見事にオーバーへと命中して吹き飛ばす。
Wが後ろに振り向くと、そこに居たのは、ESM01を構えたE2が走ってくる姿があった。
「はあ!」
更にその傍らではメルトに対して、アクセルがエンジンブレードで果敢に斬撃を連続で浴びせている。
辺りを見れば、既に他の敵の姿は無く、少し離れた位置では、サイファーとの戦いに勝利したシードが、専用バイクであるチェイサーに跨り、風都タワーへと向かおうとしていた。
「左!」
戦いの最中、アクセルがWに叫ぶ。
「ここは俺達に任せて、お前達は先に行け!」
「この先に奴等の狙いがあるんですよね?だったら急いでください!」
アクセルとE2は先程までWが戦っていたオーバーと、メルトを相手にしながら、先に行く様に促す。
「恩にきるぜ。照井」
「感謝するよ。黄色い人」
翔太郎とフィリップは、其々に感謝の言葉を述べた後に、この場をアクセルとE2に任せて、ハードボイルダーに跨り、シードの後を追い走り去る。
「ふん。貴様等……仮面ライダーは余程、私達の邪魔をするのが好きな様だな」
「僕は戦ってる方が、楽しいから良いんだけど、ちょっとやり過ぎって思うかもね~」
「そんな憎むべき者達へ、私達から、ささやかな贈り物をしよう」
一旦隣に並んだ、オーバーとメルトは、そう言いながら互いにあるものを取り出す。
オーバーは藍色の球体暴走プログラムを一つだけ取り出すと、それを地面に放り投げて、新たなホルダーモドキを一体生成する。
続いてメルトが取り出したのは一本のガイアメモリだった。
化石の様なフォルムに、イニシャルのHが刻まれたそれを、何とメルトは、起動スイッチを押してからすぐに、オーバーが新たに作り出したホルダーモドキの背中に、突き刺したのである。
『ホルダー』
背中に突きつけられたガイアメモリは、そのままホルダーモドキの体内へと、吸収されていく。
「「な!?」」
驚くアクセルとE2に構う事無く、ホルダーモドキは劇的な変化を開始する。
全身は藍色から、様々な色が混じった極彩色へと変質していき、身体そのものも、全体的に大きく逞しい状態へと変化していく。
「ふふ、言ってみれば、ホルダードーパントってところかな?」
劇的な変化を見せたホルダーに、オーバーは軽い口調でそう命名した。