魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
青い空!
白い雲!
そんな大空の中にあり、眩しくも光り輝く太陽に照らされて、宝石と見紛う程の美しい輝きを放つ珊瑚礁から成る砂浜と、目の前に何処までも広がる日本の海では滅多に拝めないであろう透明度を誇る、マリンブルーの大海原!
クリスマスが過ぎ、間も無く新年を迎えようとしているこの時期に、俺は現在真夏街道を爆進している。
既にお気付きだと思うが、説明しておいた方が良いだろう。
ここは日本では無い。
俺の前世では存在していなかった大陸。
常夏の島、シルバーライト島なのである。
しかも俺達は今、この国の王家専用のプライベートビーチにいるのだ。
「純君もこっちに来て、一緒に遊ぼうよ!」
オレンジのワンピースタイプの水着に身を包んだ、幼馴染のなのはちゃんが波打ち際から、砂浜に敷いたビニールシートの上で、日光浴している俺に、此方に来る様に大きく腕を振りながら、アピールしてくる。
「そうだよ純君!」
「早く来なさいよ!」
更になのはちゃんのすぐ近くで、ビーチボールを手にした、青いセパレートの水着を着たすずかちゃんと、緑の上がビキニで下がトランクスタイプの水着姿のアリサちゃんが、揃って遊びの誘いを持ち掛けてくる。
「トロピカルやな~」
そんな折、俺の耳に入ってきた声の方を振り向けば、はやてちゃんが、俺が今座っている場所から少し離れた位置で、大型チェアーに寝そべりながら、ガラスのコップに入れられた極彩色のジュースを満足そうに啜っていた。
別に注意をするつもりは無いのだが、黒いビキニと黒いサングラスというあの格好は、何かを意識しての事なのだろうか?
『すまないな恵理殿。サビ止めのオイルを挿してもらってしまって』
「ふふ、良いのよ」
トロピカル気分を満喫しているはやてちゃんのすぐ近くではメカ犬が、はやてちゃん以上に際どい赤のビキニを着た上に、水色の半袖のパーカーを羽織った恵理さんに、サビ止め用のオイルを挿してもらっている。
その光景を見て、何かが確実に間違っていると誰かが訴えている気がするのだが、俺には何がどう間違っているのか理解出来そうにない。
そもそもメカ犬は、錆びるのだろうか……
普段から行動する事が多い割には、未だに生態?が謎な相棒である。
まあ、それはさて置き、取り敢えず辺り全体を見渡してみれば、皆思い思いに楽しんでいる様だ。
俺もなのはちゃん達に誘われたので、そろそろ参加しようかと立ち上がると、暖かい風が吹き、それと同時に後ろから声を掛けられる。
「遅くなってすまぬな。我もすぐに行きたかったのじゃが、中々サバスチャンを説得するのに戸惑ってしまってのう」
風に流れる綺麗な長い銀髪に、強い意志を秘めた勝気な瞳、全身から滲み出る高貴な雰囲気は、純白のセパレーツタイプの水着を着ていようと、相変わらずらしい。
「そんなに待ってないから大丈夫だよ。エミリー様」
俺は声の主に振り返って笑顔で答える。
「む!もう純は我の家来ではないのじゃぞ!その呼び方は止めぬか!」
「あ、そうだった……つい癖で、咄嗟にでちゃうんだよね」
咄嗟に様付けで呼んでしまった俺に、エミリー様……じゃなくて、エミリーちゃんが不機嫌な表情で訂正を要求してくる。
それに対して俺は苦笑いを浮かべながら、何とか言い繕う。
以前は様を付けない度に、姫様チョップを受け続けた俺としては、今でも条件反射で口から出てしまうのは、出来れば容認してもらいたいと思うのだが……
「ほれ!やり直しじゃ!」
「え、エミリーちゃん」
「うむ。それで良いのじゃ」
言い直しを要求された俺は、素直に従って呼び方を改めた。
どうやらエミリーちゃんはそれで満足いったらしく、何度も頷いている。
「ところでの……」
「うん?」
先程まで納得しながら何度も頷いていたエミリーちゃんが、今度は何処か言い辛そうに、モジモジしだした。
「その……なんじゃ……わ、我の水着は純から見て……似合っておると思うかの?」
エミリーちゃんは視線を斜め上に泳がせつつ、俺にそんな事を質問してきた。
心なしか頬も赤くしている様に見える。
エミリーちゃんも、普段から気丈に振舞っているとはいえど、やはり女の子なのだろう。
自分の格好が他人からどの様に映るのか、気になるお年頃らしい。
「うん。似合ってる。今のエミリーちゃん、凄く可愛いと思うよ!」
男として、この手の質問を女性にされた時は、余程の事が無い限り、褒め言葉以外を口にする機会は無いと思うが、これは俺の素直な感想だ。
「そ、そうか。似合っておるか!な、ならば良いのじゃ……」
エミリーちゃんはそう言いながら、照れ笑いを浮かべる。
久しぶりの再会ではあるが、元気そうで何よりだ。
「それと、久しぶりだね」
「……うむ」
俺とエミリーちゃんは、改めて再会の挨拶を交わした。
ところで、俺達が何故このシルバーライト島に居るのか。
その理由を説明する為には、話しが昨日のクリスマス当日まで遡る。
クリスマス当日の朝、自称其々のお宅のサンタさんからのクリスマスプレゼントに加えて、俺を含め、このプライベートビーチに居るなのはちゃんと、すずかちゃんに、アリサちゃん、そしてはやてちゃん宛てに、エミリーちゃんからの一通の封筒が届いた。
中には手紙と招待状、更に日本とシルバーライト島に行く為の、飛行機の往復チケットが同封されていたのである。
手紙の内容には、最近の近況報告と、今回手紙と同封されていた、招待状についての事が書かれていた。
その内容は今から一週間後に城で行われる、パーティー参加の誘いだったのである。
ただ、それに付属されていた航空チケットの行きの便の時間指定が、この手紙が届いた当日の夜になっていたのでだ。
元々クリスマスに日中は集まる約束をしていた俺達は、全員集合して、話し合いの結果今回の参加を決定した。
そこからは、大忙しだ。
何せ約一週間の長旅な上に、出発がその日の夜なのだから、普通に考えたら、一日で全てを準備するなど不可能に近い。
……そう思っていたのだが、どうも事態は俺達の知らない場所で、常に動いていた様なのである。
慌てて家に帰ってきた俺に、常日頃からマイペースを貫く母さんが、その調子を崩す事無く、大きめの旅行鞄を持ってきた。
中に入っているのは、俺の一週間分の着替えに、旅行に必要であろう道具が一式。
更に御丁寧にも、パスポートまで、完備されていた。
異常な程の用意の良さに、俺はそこで数分程だが、完全に思考を停止してしまったのは、しょうがないだろう。
そして数分後に、正常に思考が働き始めてから、母さんに問い質してみると、何でも俺達に例の封筒が届く一月前に、保護者宛で手紙が届いており、今回のパーティー参加が可能かどうかという質問内容が書かれていたのだそうだ。
だが悪質なのはここからである。
今回のパーティーを、直前まで秘密にして、クリスマスのサプライズにしようと、保護者達が画策し始めたのだ。
シルバーライト島へと返信された手紙にはその旨が記され、こうして俺達の知らない場所で計画は順調に進行して、俺達は見事にクリスマス当日に、盛大に驚いたわけである。
ちなみに、驚かされた俺達の中には一人だけ、スパイが潜んでいた。
それは最近俺に対しての悪戯が、カリスマ化してきた悪戯の天才児、はやてちゃんである。
考えてみれば、はやてちゃんは一人暮らしなので、必然的に届いた手紙の類には、全て目を通すことになるのだ。
今から思い返して見れば……俺達の最近の予定や、行動パターンの幾つかは、はやてちゃんに誘導されていた節すら感じられる。
まあ、そんな経緯の上、全員が取り敢えず集合場所に決めていた翠屋に、既に自分の知らない所で準備されていた旅行の支度を持って集まると、俺達同様に、旅支度を整えた恵理さんが待っていた訳だ。
どうやらこのサプライズ計画には、予想以上に多くの人間が関与しているのかもしれない。
最初は急な話だったと思ったので、アリサちゃんの執事である鮫島さんに、保護者役を頼もうと思っていたのだが、その辺りも、事前に折込済みという事らしかった。
確かに恵理さんならば、向こうにサバスチャンという知り合いも居る訳だし、好都合と言えるかもしれないが……
恵理さんの話によると、何か仕事も兼ねて行くらしいので、今回の旅費は会社の経費で落ちるんだとか。
それを聞いて何かこれだけでは終わらない様な、胸騒ぎを感じるが、現状ではどうしようもないので、既に諦めている。
少なくても取って食われる心配は、しなくても良さそうなので……というか、それくらいは信じさせてもらいたいと、切実に思う。
まあ、そんな訳で慌しくもシルバーライト島にやって来た俺達を、最初に出迎えてくれたのは、サバスチャンだった。
ちなみにメカ犬が、空港での金属探知機に引っかからなかったのは、奇跡だと俺は思う。
さて、話しを元に戻すのだが、サバスチャンに迎えに来てもらった俺達は、そのまま今居るプライベートビーチに黒塗りのリムジンで案内された。
もう既にアリサちゃんや、すずかちゃんの存在のお陰で、お金を持っている人達の行動には、随分と耐性が出来ているから、色々とスルーして、話しを進めるが、俺達の滞在中に泊まる場所はなんと、今回のパーティー会場にもなっているお城らしい。
何でも、俺達はエミリーちゃんが招待状を送った、つまり王族が直接招待した客人として迎えられる特別待遇なのだそうだ。
ただこの中で恵理さんだけは、会社の経費で来ているのだが、サバスチャンの個人的な知り合いという事で、お城で働いている人達の住んでいる宿舎の空いている部屋を借りられるらしい。
それと俺達がこのプライベートビーチに連れて来られた理由なのだが、その理由は複数存在する。
まず第一に、俺達が泊まる部屋の準備がまだ終わっていないという事だ。
俺達が招待されたパーティーは結構な規模で、その準備が忙しいという事と、俺達以外にも王族の人から招待状を受け取った客人達の準備が優先されている為でもある。
その客人達は、王族との深い縁があるというだけあって、その殆どが世界の大富豪ランキングで上位に入る様な人達なのだ。
優先されるのは当然と言えるだろう。
つまり準備が出来るそれまで、ここで時間を潰してほしいという事である。
次に二つ目だが、これはエミリーちゃんの立場が関係しているのだ。
エミリーちゃんはこの国のお姫様な為、特別な許可が出なければ、王族の私有地以外には、中々自由に行動出来ないのである。
しかし出来るだけ早く俺達と会いたいというエミリーちゃんの希望があり、俺達は王家の私有地である、このプライベートビーチに連れて来られたのだ。
そう……ここは王族の私有地。
つまりお姫様であるエミリーちゃんが、特に許可を申請する必要が無く、自由に来れる数少ない場所の一つなのである。
それが無ければ、お城に入れない間は、城下町を観光したり等、旅行先で時間を楽しく潰す方法は山ほどあるのだから、こうする意味が無い。
専用のコテージを、サバスチャンが開放してくれたので、俺達はそこで、ちゃっかりと保護者達が荷物に詰めてくれていた水着に着替えてから、エミリーちゃんを此方に連れてくる為に、一旦お城に戻るサバスチャンを見送った俺達は、こうして他に人も居ない常夏の海で、予想外のサマーバカンスをする事になったのだ。
そして俺が日光浴をしていた所で、サバスチャンが連れてきたのであろう、エミリーちゃんと、久しぶりの再会を果たしたのである。
「ところでエミリーちゃん、何でサバスチャンの説得に時間が掛かったの?」
迎えに行った筈のサバスチャンが、妨害しようとするなんて変な話である。
「うむ。それがの「姫様ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」来おったか……」
先程エミリーちゃんが来た方向を覗き込むと、サバスチャンが何かを抱えながら、物凄いスピードで走ってくるのが見えた。
「海に行くのであればこの水着を着てくだされえええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
サバスチャンが掲げた水着?を見て、エミリーちゃんが、怒りの叫びをその元凶にぶつける。
「戯けが!そんなものは水着とは言わんのじゃ!サバスチャンは、我を深海にでも潜らせる気か!!!!!」
エミリーちゃんの怒りも、もっともだろう。
あれは世間一般で言う、水着とは絶対に違う別物だ。
一番近いニュアンスで例えるのなら……そう!宇宙服が一番近い。
完全密閉された分厚い生地の全身スーツに、背中の巨大な酸素ボンベ。
頭部を全て覆う事を可能とした、楕円を描くフルフェイス型ヘルメット。
確かにあれでは、宇宙遊泳か、深海探索する以外に使い道は無さそうだ。
「姫様!!!!!この老い先短い私の頼みを聞いてくだされえええええええ!!!!!!」
「嫌じゃと言っておろうが!!!」
老人とは到底思えない速さで、叫びながらこっちに近づいて来るサバスチャンに対して、エミリーちゃんは、断固拒否の姿勢を貫きながら、右手の指を鳴らす。
すると俺とエミリーちゃんの目の前に、二学期初日に見た、あの屈強な戦士達が一国の姫君を守る、鉄壁の壁となる為に現れた。
戦士の皆さんも相変わらず、鍛え込まれた肉体美を誇っており、これならばどんな戦場においても生き残れる事だろう。
「皆の者!作戦αで、サバスチャンを仕留めるのじゃあ!!!」
いや!進化している!?
彼等のチームとしての統率力が以前よりも、明らかに強化されていた。
エミリーちゃんの指揮の下で、彼等は陣形を組み、相手の出鼻を挫く攻防一体とも言える、隙の無い動きでサバスチャンを待ち構える。
「ぬう!この青二才どもが!!!私をその程度で止められると思うなよ!!!!私は必ず有害な紫外線から姫様を守り抜いてみせる!!!!!!!」
言っている事は凄く小さい筈なのに、何故かサバスチャンが格好良く見えてしまう俺は、最近疲れが溜まっているのかもしれない……
「A班とB班は左右に分かれて突撃じゃ!C班は追撃準備!D班は各自の判断で援護を!相手は老いぼれとはいえど、サバスチャンじゃ!全力で掛からねば痛い目を見る事になるかも知れぬ!心して行くのじゃぞ!!!」
そして何故かエミリーちゃんには、以前とは違う、戦う為の戦略が身に付いている様なのだが、あれから何があったのだろうか……
こうして始まった史上稀にみる、大人達による本気の馬鹿な戦いは、数分に及ぶ死闘の末に、屈強な戦士達の勝利で幕を閉じたのである。
そしてこの戦いに敗北を喫したサバスチャンは、敵国で捕まった兵士の様に縛り上げられ、屈強な男達に連れられて、俺達の視界からフェードアウトして行った。
「さて、何処まで話したかのう?」
先程までの出来事はまるで、無かった事の様に、エミリーちゃんが話を再会する。
そんな事をされても、先程の戦いの印象が脳裏に焼き付いて離れなくなっている俺は、直前の会話部分が全く思い出せなかったので、他の話題に移る事にした。
「そう言えばまだ今回のパーティーに招待してもらったお礼を言って無かったよね。改めて呼んでくれてありがとう。エミリーちゃん」
「そ、そう言えばそうじゃったかのう……」
お礼を言った俺に対して、何故かエミリーちゃんの視線が一瞬泳いだ気がする。
俺は何となくそれが気になったので、追求しようかと考えたのだが、そこで此方に近づく声を耳にした。
「エミリーちゃん!久しぶりだね!」
「元気にしてた?」
「何だか少し、背が伸びたんじゃないのエミリー」
浜辺の方から、なのはちゃん達がやって来て、久しぶりの再会に其々が嬉しそうに挨拶を交わす。
「久しぶりじゃのう皆」
「私を忘れてもらっちゃ困るで。エミリーちゃん」
エミリーちゃんがなのはちゃん達と和やかに会話する中に、はやてちゃんもやって来て声を掛けてきた。
砂浜を横回転で転がりながら……
全身砂だらけとなった、はやてちゃんだが、そんな事には気にも留めず、ガールズトークに参加して、皆で花を咲かせ始める。
こうなると肩身が狭いのが、このメンバー内で唯一男な俺だ。
一応メカ犬が居るが、今は間接部分にオイルを塗ってもらうのに忙しいらしく宛てにならない。
いっそこの場から、ひっそりと退散して、一泳ぎしてこようかと考えたところで、場の空気が一変する。
「そう言えば純君は、私の水着を見て、まだ何も言ってくれてなかったよね?」
「あら!そう言えば私もまだだったわ!」
「エミリーちゃんだけに感想を言うのは、ズルイんじゃないかな純君?」
「ここは男の見せ所やで」
何処からそんな話になったのか、何時の間にか話題が水着の話に突入していた様で、突如として俺にその矛先が伸びる。
男にとって、この手の質問は結構されるものではあるが、その答え易さというものは、実は質問そのものよりも、その時の状況が大きく左右されるものだと、俺は個人的に思う。
聞いてきた相手が一人のだったり、答える側も複数人居れば、注意力も分散されるのだが、現状は俺一人に対して、複数の女の子に、感想を言うという状況なのである。
下手な事を言えば、俺の命は無いかもしれない……
女性とは何時だってそういう生き物なんだ。
あの普段から、マイペースで全ての出来事に物怖じする事が無さそうな母さんですら、髪を切った事に気付かなかった父さんに対して、無言で揚げたての唐揚げを投下する程なのだ。
何をされても不思議じゃない……
俺は全ての経験と、思考を総動員して、一つの答えを導き出す。
「……皆凄く似合ってると思うよ」
無難な答え!
それが俺の導き出した答えだ!!!
この解答ならば、大喜びする人はそう多くないだろうが、不機嫌になる人は殆どいないだろう。
可も無く不可も無く、ヘタレだと笑ってくれて結構!
それで守れる大切なものがあるのなら、俺は喜んでその称号をこの胸に刻むさ。
「それじゃあこの中で、純君は誰の水着が一番好みなんや?」
全てを乗り越えた……そう思った瞬間に、俺は奈落の底へと突き落とされた。
俺はこの即死系の呪文を唐突に唱えた張本人である、はやてちゃんに視線を向ける。
その視線に気付いてか、はやてちゃんも俺に視線を合わせてきたのだが……物凄いどや顔だった。
はやてちゃんのどや顔で、俺は全てを悟った。
俺は今まではやてちゃんの計画通りに動かされてきていたのだという事実を……
わざわざ砂だらけになってまで、自力で急いで来たはやてちゃんを何処か怪しいと思っていたのだが、それは全て俺をこの状況に持ってくる為の布石。
はやてちゃんは自力では、海に入って泳ぐ事が出来ないので、基本的に砂浜がテリトリーだ。
だから全員が自分の射程距離に入るのを、虎視眈々と狙っていたのである。
全ては悪戯の為に、しかも今回は、俺を弄り倒す事に焦点を絞ってくるという徹底振りだ。
正直完敗である。
だが俺はこのままでは終わらない。
せめて一矢報いる為に俺は、ある一点に指を向けて答える。
「あれが俺の好みかな」
俺の声に皆の視線が指し示される方向に視線を向けた。
その先に居る人物……それが俺の最後の切り札だ。
『うむ?どうしたマスター』
「まさかメー君なの!?」
「いや、違うからね!」
まさかと呟くなのはちゃん達に、俺は思わず突っ込みを入れる。
冗談でも勘弁してもらいたい。
俺が指差したのは、メカ犬ではなく、メカ犬と一緒に居る人物だ。
「やっぱり恵理さんが、この中では一番水着が映える……か……なって……」
この中では唯一の大人である恵理さんを押しておけば、角が立たずに済むだろうと、思ったのだが、それは俺の思い違いだったらしい。
一体何がいけなかったのか、仕掛け人である筈のはやてちゃんからさえも、まさかの怒りを買ってしまい、俺は首以外の全身を砂浜に埋められて三十分程放置され続けた。
そして自由の利かないこの身体で、考えて悩み、行き着いた答えは……
「俺には乙女心が分からない」
という一つの真理だった。
プライベートビーチから一キロ程離れた場所で、一人の男性が、電話を掛け始める。
[「計画は順調か?」]
「はい。しかし一つだけ想定外の事態が起きています」
[「何だ?」]
「エミリー姫が今回特別に留学先で知り合ったという友人を客人として招待していたのです」
[「……その中に男はいるか?」]
「はい。一名だけですが、姫と同い年と思われる少年が一人」
[「問題無いとは思うが、万が一という場合もある。注意を怠るなよ。邪魔になるようならば、処理は全て任せる」]
「はい」
その会話を最後に、男は電話での通話を終わらせた。