魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第20話 真冬のサマーバケーション【後編】

「「「「「人魚の入江?」」」」」

 

俺と、なのはちゃんに、すずかちゃんと、アリサちゃん、そしてはやてちゃんが揃って声に出す。

 

「うむ。その通りじゃ」

 

五人揃って発せられた俺達の声に、エミリーちゃんが頷く。

 

何故か皆の怒りを買ってしまい、俺が砂浜に生き埋めにされたり、救助されたり等、心行くまで遊んだ後、既に時間も正午になるという頃に、サバスチャンがコテージの方に、全員分の昼食を用意しているというので、俺達はお言葉に甘えて、ご馳走して貰う事にした。

 

シルバーライト島は、全体が海に囲まれた小さな島国という事もあってか、漁業が盛んであり、俺達が御呼ばれした昼食にも、新鮮な海の幸が、多く使われていた。

 

日本の船盛りにも似た、お刺身の飾りつけや、伊勢海老のボイルに、何故かパエリアの様な、お米を使った変わった料理等、素材の良さを活かしたシンプルなものに始まり、料亭で頼んだら一瞬で諭吉さんが束で飛んで行ってしまいそうな、高級食材に、今まで見た事も無い様な、不思議な料理の数々が、俺達の舌の上で何度も革命を起こし続けたのである。

 

そんな楽しい昼食も、全員が満腹になった事で終わりを告げて、食休みをしていた際に、皆で他愛なく世間話をしていたのだが、その中でエミリーちゃんが先程の冒頭で言った単語を一つの話題として口にしたのだ。

 

「その人魚の入江って何なのよ?エミリー」

 

皆が気になっている中で、アリサちゃんが代表して、エミリーちゃんに質問する。

 

「うむ。それを話すには、まずこの国に古くから伝わる、伝説を話さねばならぬのじゃ」

 

アリサちゃんの質問に対して、そう答えたエミリーちゃんは、ゆっくりとその伝説について語りだした。

 

その伝説は、全てを語ると、中々に長い物語なので、話しを簡潔に纏めると、こういった内容だ。

 

今から遠い昔の事である。

 

このシルバーライト島の民が、まだ世界との外交も持たず、国すらも建国していなかった頃。

 

人々は生きる為の糧を得る為に、必然的に食糧が豊富である海辺に住処を作り、海へと漁に出る者が殆どであった。

 

そうして平和に長い時を過ごしていたある日の事だ。

 

このシルバーライト島は突如として、誰も経験した事が無いほどの大きな嵐に見舞われる。

 

海辺で暮らしていた島民達は住む場所を、長年に渡り連れ添ってきた筈の波に呑まれてしまい内陸の森へと、逃げていった。

 

その嵐は一日では静まる事無く、一週間が経ってもその猛威を振るい続け、最初は嵐が過ぎ去るのを耐え忍んでいた彼等も、限界を迎えつつあったのである。

 

もうこれ以上は耐えられない。

 

誰もがそう思ったその時に奇跡は起きた。

 

暗雲により何日も、太陽が見えなかった筈の空から、一筋の光が射し込んだのだ。

 

それと同時に、周囲の音を全て掻き消す嵐の中だというのにも関わらず、島民達の耳にこの世の物とは思えない程の澄んだ歌声が聞こえてきたのである。

 

その歌は島の全土に届き、全ての島民がこの歌声に感動した。

 

歌の聞こえてくる方向には、突如として空から射し込んだ一筋の光が見える。

 

もう動く事も困難となりつつあった島民達だが、最後の力を振り絞り、まるで光と歌に導かれるかの様にして、嵐の中に救いを求めながら、その場所を目指した。

 

そして導かれるままに辿り着いた島民達が目にしたのは、嵐の中とは思えない程に、穏やかな光な光が射し込む、周りを洞窟に囲まれた入江だったのである。

 

酷い嵐の中を潜り抜けてやって来た彼等にとって、そこはまさに楽園だった。

 

しかし島民達が目にしたものは、それだけでは無かったのである。

 

入江の中には美しいとしか表現しようの無い女性が一人、聴く者全てを穏やかにさせてくれる様な、澄んだ声で歌っていた。

 

入江へとやって来た島民達はその美しい女性の容姿と美声に、誰もが酔いしれ、暫し時が経つのも忘れてしまう。

 

だがその光景を眺めていた島民の一人がある事に気付く。

 

今も歌い続けている女性は、人間では無かったのだ。

 

上半身は確かに人間なのだが、下半身は虹色の鱗に覆われ、その先端には陽射しを反射しながら、白く輝く尾びれだった。

 

この女性は、人間ではなく、人魚と呼ばれる存在だったのである。

 

やがて島民達が人魚に近づいて行くと、人魚は歌う事を止めると、島民達に微笑みながら語りかけた。

 

ここは神聖なる聖域。

 

本来ならば、人間が立ち入る事は赦されない場所ではあるが、この嵐が過ぎるまで、ここに滞在する事を許そう……

 

人魚の言葉に、島民達の命は救われた。

 

その後島民達は、この聖域に滞在する間に、人魚から様々な知識を授かったと言われており、その時に得た知識を元に、現在の国の源流を作ったのだそうだ。

 

最後に島から嵐が過ぎ去り、島民達が聖域を離れる際に、人魚は親愛の証として、島民達に海の力を封じ込めたという青い宝石を譲ったのだという。

 

「……その宝石の名前はマーメイドブルーという名前でのう。この話しが真実かどうかは別として、今もその宝石自体は、城の宝物庫に保管されておって、毎年国の行事には一般公開されておるのじゃ」

 

長い語りを終えて、エミリーちゃんは一息ついた。

 

「人魚の伝説か~何だか、ロマンチックなお話しやなあ」

 

「本当だね」

 

話しを聞き終えた、なのはちゃんとはやてちゃんが、先程の話を振り返り感慨に耽っている。

 

「ねえ、エミリーちゃん。そのマーメイドブルーが実際にあるって事はもしかして、人魚がいる聖域も実在してるの?」

 

続いてすずかちゃんが、エミリーちゃんに話しの中で気になったらしい質問をする。

 

「うむ。すずかの言う通り、実際に人魚が住んでいるかは別として、聖域は存在しておるぞ。この国では、その聖域が人魚の入江と呼ばれておるのじゃ」

 

「ふうん……その人魚の入江って何処にあるのよ?」

 

エミリーちゃんの話に興味が湧いたのか、アリサちゃんもこの話題に積極的に参加してきた。

 

「ふふん。なんと人魚の入江は、このプライベートビーチの奥にある洞窟から行く事が出来るのじゃ!」

 

アリサちゃんの質問にエミリーちゃんは誇らしげに答える。

 

どうやらその人魚の入江とは、予想以上に近い場所に存在していた様だ。

 

その話しを聞いて、もう少ししたらその場所に探検に言ってみないかと、誰が最初だったか提案をして来たのだが、エミリーちゃんはその提案に対して申し訳無さそうに言う。

 

「うむ。我も出来る事であれば、皆を案内してやりたいのじゃが、残念な事に人魚の入江は、神聖な場所として崇められておるのでのう、王族以外はその国に大きな貢献を齎した者以外、立ち入りが禁止されておるのじゃ。本当にすまぬな」

 

まあ、そんな伝説がある様な場所ならば、そういった扱いを受けるか、観光名所にでもなっている筈だなと思うので、仕方が無いだろう。

 

なのはちゃん達も、残念には思っている様だが、特に不満は無さそうだ。

 

人魚の入江の話題はそこで終わり、また別の話題に移り変わりながら、時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター。起きているか?マスター』

 

「……ん、何だよ?メカ犬』

 

食後に一休みした後、飛行機での長旅と、午前中の海で遊んだ疲れにプラスして、食後の満腹感も手伝ってか、俺達は全員コテージの中で昼寝をしていたのだが、ちょうど俺も意識ががうとうととし始めたところだったのだが、メカ犬の声により、強制的に夢の世界の入り口から、現実世界へと、召喚されてしまった。

 

『起きたかマスター』

 

「何だよメカ犬?せっかく後少しで、寝られそうだったのにさ」

 

「うむ。それに対してはすまないと思うが、ワタシにも気になる事があってな」

 

「気になる事って、何がだよ?」

 

俺は欠伸をしながら、メカ犬との会話を続ける。

 

『先程のエミリー嬢の話でも出たのだが、マスターは人魚の入江の話しを覚えているか?」

 

「ああ、まあな」

 

『実はその話しを聞きながら試しに、その付近を一度サーチしてみたら、妙な反応が二つあってな」

 

「妙な反応?」

 

「うむ。二つの内の片方は、ワタシにも正体不明だが、もう一方はその反応位置が近づいたり離れたりする上に、一つだけ心当たりがあるのだ」

 

メカ犬が言う心当たり。

 

俺は直感的にではあるが、それが何なのか、予測出来た。

 

「もしかしてその反応って、前にメカ竜が言ってた事か?」

 

『うむ。まだ離れた位置からで、確証は得ないが、可能性としては高い』

 

どうやら俺の直感は当たっていた様で、メカ犬は頷きながら肯定の返事をする。

 

そしてメカ犬が言った事が、全て事実であるならば、俺達はこれからある事をやらなければならない。

 

「どうする気だ?」

 

メカ犬の答えは決まっているのだろうが、俺は取り敢えず確認の意味も込めて、これから何をやろうとしているのか、聞いてみる。

 

『うむ。これからその反応の正体を突き止める為に、捜査に向かうぞマスター』

 

「はあ……やっぱりな」

 

完全に予想通りの返答をしてくれたメカ犬に対して、俺は諦めの溜息を吐いた。

 

こうなったらメカ犬は止まらないだろうし、何よりその二つの反応が俺も気になるのは確かだ。

 

どの道無視出来る問題でもないので、俺とメカ犬は、寝ているなのはちゃん達を起こさない様に移動してから、起きている大人の人達に、眠れないから、浜辺を散歩してくると言い残して、コテージを出た。

 

そして暫く浜辺を歩き、エミリーちゃんが言っていた、立ち入り禁止となっている、洞窟の入り口に辿り着いたのだが……

 

『この先が人魚の入江だな』

 

「早く行くのじゃ」

 

「……何でエミリーちゃんが、ここにいるのさ?」

 

洞窟の前には、俺とメカ犬、そして何故かエミリーちゃんが居たのである。

 

「うむ。何やらおぬし等が、隣で面白そうな話しをしておったのでのう。悪いが後を追わせてもらったのじゃ」

 

どうやらあの中で、エミリーちゃんだけはまだ起きていたらしく、狸寝入りをしながら俺とメカ犬の会話を盗み聞きしていたらしい。

 

「あのさ、エミリーちゃん。ここが立ち入り禁止だって事は知ってるんだけど、どうしても調べたい事があるんだ」

 

「うむ。分かっておる。その辺りは気にせんで良い」

 

洞窟に入る為に説得を試みようとした所で、エミリーちゃんから、意外な答えが返ってくる。

 

「言ったであろう?ここに入って良いのは、王族の者か、この国に大きな貢献を齎した者のみじゃとな」

 

『つまりどういう事だ?エミリー嬢』

 

「その事実を知る者は少なくとも、純はこの国の危機を救ってくれた英雄じゃ。充分に聖域に立ち入る許可を有しておる」

 

何か面と向かって言われると、かなり恥ずかしいが、あの時の戦いを振り返ると、そう解釈する事も不可能ではないのかもしれない。

 

『なるほど。それならばワタシ達が中に入っても何も問題無いのだな』

 

「それに念の為に、我も一緒に行くのじゃ。そうすれば何も心配する事は無かろう?」

 

メカ犬がその説明に納得し、エミリーちゃんも既に行く気満々である。

 

「だけどさ。メカ犬と俺はこれから遊びじゃ無くて、調査に行く訳だから危ないかも知れないよ」

 

メカ犬の様子を見る限り、大丈夫だとは思うのだが、万が一エミリーちゃんが危険な目に遭うとも限らないので、俺はエミリーちゃんに帰る様に話しを促す。

 

「大丈夫じゃよ。ここには何度も来ておるし、我の庭の様なものじゃ。案内役がいた方が良いと思うがの。それにもしも危なくなったのならば、絶対に純が守ってくれるのじゃろ?」

 

一緒に行く事を反対する俺に対して、エミリーちゃんは笑顔でそう言いながら、限界まで俺に顔を近づけてきた。

 

その距離は後少しでもどちらかが、前に動いてしまえば、触れてしまいそうな程に近い距離である。

 

「……分かったよ」

 

根負けした俺は、溜息を吐き出しながら、諦めと共に、了承の言葉を口にした。

 

俺の返答に喜ぶエミリーちゃんを見て、俺はもう一度溜息を吐き出してから、ここに二人と一匹で結成された、人魚の入江調査団の一員として、洞窟の入り口へと足を踏み入れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は見ていた。

 

一人の少年と少女が、洞窟へと足を踏み入れる様子の一部始終を……

 

厄介な事になってきたと、男は舌打ちをしながら、携帯電話を取り出して、ある方へと連絡を取る。

 

[「どうした?」]

 

「お忙しい所を失礼します。実は早急にご連絡しなければいけない事がありまして」

 

[「……言ってみろ」]

 

「はい、実は例の姫様が招いた客人の少年が、姫様と一緒に人魚の入江に向かいました」

 

[「……どうやら、その少年は、計画の障害となる存在とみて、間違い無いかもしれないな」]

 

「如何致しますか?」

 

[「お前は取り敢えず、気付かれない様に後を追え。子供の好奇心で少し中を覗いて帰って来る様ならば、何もするな。だが万が一にでも、あれが見つかった場合は、例の力を使って構わん。少々きついお仕置きをしてやれ」]

 

「分かりました」

 

[「だからと言って、くれぐれも姫様には怪我をさせるなよ。少年の方は……場合によっては処理して良い。その辺りの裁量は、全て任せる」]

 

「はい」

 

その会話を最後に、携帯電話の通話を切った男は、本来立ち入り禁止となっている聖域に、土足で足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄い景色だな」

 

俺は今、目の前に広がる光景に感動を覚えていた。

 

洞窟に囲まれた中で、上から降り注ぐ太陽光が、全体を照らしており、その光に反射した全ての自然が天然輝きを放ち、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

これならば確かに、聖域と呼ばれていても、何も不思議は無いと思う。

 

「やはりこの入江は何時来ても良いのう。ここならばサバスチャンも入ってはこれないし、羽を伸ばすには絶好の場所じゃ!」

 

どうやらエミリーちゃんは、ここには何度か足を運んだ事があるらしく、嬉しそうに辺りの景色を眺めている。

 

サバスチャンが入り込めない場所……何か別の意味での聖域としての凄さが感じられるのは気のせいだろうか?

 

『う~む……』

 

暫くはこの幻想的な景色を素直に観賞していた俺だが、本来の目的を思い出して、先程から首を左右に捻って、何か考え事をしているメカ犬に話しかけてみた。

 

「何か分かったか?メカ犬」

 

『片方の反応は今はここから少し離れた位置に居る様で何とも言えないが、最初は良く分からなかった方の反応は、間違い無く、この入江の内部にありそうだぞ』

 

メカ犬は俺にそう言うと、奥の方を目指して歩き出す。

 

「うむ。確かその先は、行き止まりじゃったと思うがのう?」

 

エミリーちゃんは、メカ犬が歩いていく方向を見て、以前来た時の記憶を思い出しながら呟く。

 

しかしメカ犬は、それも気に止めず奥へと歩き続けて、俺達の視界から見えないところまで行ってしまった。

 

エミリーちゃんが、この先は行き止まりだと言っていたので、暫くすれば戻ってくるだろうと思って待っていたのだが、十分以上時間が経過しているのにも関わらず、戻ってくる気配が無い。

 

「ねえ、エミリーちゃん。この先は行き止まりだって行っていたけど、結構長い道が続いてるの?」

 

「……いや、一番奥は目視で確認出来る距離じゃし、往復しても時間は二分と掛からん筈なんじゃがのう」

 

もしかしたらと思い質問したが、エミリーちゃんからは、俺が想像したのとは別の答えが返ってきた。

 

こうなると謎は深まるばかりである。

 

流石に心配になってきたので、俺とエミリーちゃんが二人で、メカ犬が進んでいった入江の奥へと迎えに行ったのだが……

 

「居ないな……」

 

「居ないのじゃ……」

 

入江の奥は、エミリーちゃんが先程言った通りの景色が広がっていただけであり、メカ犬の姿は何処にもなかったのである。

 

取り敢えず俺とエミリーちゃんは、メカ犬を呼びながら、奥まで歩き続けてはみたが、返事が返ってくる事は無かった。

 

「一体何処に行ったのじゃろうな?」

 

「確かにこの道は、ここで行き止まりだしな……」

 

人間に比べて、かなり身体が小さいメカ犬の事だから、もしかしたら近くの岩陰にでも潜んで、俺達驚かそうとしているのかと、勘繰りながら、俺は行き止まり付近の下部分を重点的に探し始める。

 

「うん?」

 

其処で俺はある違和感を覚えた。

 

行き止まりの部分の右隅の砂が、何故か微妙に盛り上がって、小さな山を形成していたのだ。

 

良く目を凝らして、地面を見てみると、若干だが砂の色が違っており、それを見た俺は誰かがごく最近に、この場所で、何かを引き摺ったりしたのではないかと思った。

 

誰が?

 

何の為に?

 

目的は分からないが、それをやったのは、恐らくここに入っていったメカ犬で間違い無いだろう。

 

でも何でそんな事をしたのか?

 

それがメカ犬がここから消えた事と、関係しているのかもしれない。

 

俺は他に何か手掛かりになるものは無いかと、辺りを調べる。

 

すると行き止まりとなっている壁の側面に、不自然な岩を見つけた。

 

岩の大きさは一般的なティッシュ箱程度の大きさなのだが、明らかに動かされた跡があり、その真横には、大人の足の先が辛うじて入りそうな、小さな穴がある。

 

他にはこれと言って、不自然なものも見当たらないので、俺はしゃがみ込んで、穴の中を確認して見た。

 

「何だこれ……」

 

「うむ?何か見つけたのかのう」

 

「いや……何故かこんな場所にスイッチみたいなものがあるんだけど」

 

それは長い年月を経て自然が作り出した筈である、この聖域にはもっとも無縁と言えるであろう、明らかな人工物だった。

 

「どうするのじゃ?」

 

多分だが、メカ犬が消えたのはこれが原因なのだろう。

 

元々何かがあるという事を前提にして、ここに調査しに来た訳だが、いきなり話しがきな臭くなってきた気がする。

 

「……押してみるしかないでしょ」

 

正直に言えば、このまま何もせずにコテージに帰りたいと、心の底から思うが、メカ犬がこの先に居るかもしれないのに、放っておく訳にも行かないし、何より普段人が近づかない様な場所に、こんな仕掛けを作るなんて、碌な奴が考える事じゃ無さそうだ。

 

「そ、それじゃあ、押してみるよ」

 

「う、うむ」

 

俺は何が起きたら、何時でも動ける様に身構えながら、スイッチを押した。

 

「……あれ?」

 

「……何も起こらんみたいっ!?」

 

押した瞬間には、何も変わらなかったのだが、エミリーちゃんが、何かに驚いた様で、言葉の途中が驚きの声に変わってしまう。

 

その声に反応して、ボタンを押す為に、しゃがみ込んでいた俺も、顔を上げたのだが、エミリーちゃん同様に驚きの声を上げてしまった。

 

何せ行き止まりだった筈の巨大な壁が、ゆっくりと横に移動し始めたのである。

 

今まで自然物の壁だと思っていたものが、突然何かの映画のワンシーンを見ているかの様に、動き始めたのだ。

 

驚くなという方が無理な話しだろう。

 

しかもその奥には、明らかに人の手で整備された道が続いている。

 

「……行こうエミリーちゃん。多分メカ犬はこの先に居ると思う」

 

「う、うむ。わ、我は何時でも準備OKなのじゃ!」

 

エミリーちゃんは気丈にも、この先に行く覚悟を、逸早く言葉で示す。

 

俺の腕を雑巾を絞るかの様な力で、締め付けながらではあるが……

 

兎に角俺達は、この隠されていた道へとただ前進して行った。

 

少し歩くと今度は地下へと続く階段があり、俺とエミリーちゃんは他に進む道が無い事を確認してから、その階段を慎重に下って行く。

 

階段を下りた其処には、人気は無いものの、洞窟とは到底思えない人口の建造物となっていたのである。

 

しかも電気が使われているのか、天井には蛍光灯らしき明かりまで灯っていた。

 

辺りを見渡せば、用途不明な機材の数々に、棚には様々な薬品が、瓶詰めでラベルを貼った状態で並べられている。

 

他にも鉄製と思われる大きな台の上には、複雑な機構を持つ何かの設計図らしき紙が広げられていたりと、ここはまるで何かの……

 

『ここは差し詰め研究室といった所だろうな』

 

「メカ犬!?」

 

横から聞き覚えのある声が聞こえて来たので、振り向いて見ると、確かにメカ犬が居たのだが、何か紙の束を背中に背負っていた。

 

「全く何処行ってたのかと思って心配したんだぞ。何か見つけたなら、一旦戻ってくれば良いだろうが」

 

『すまないなマスター。ここの位置と安全を確認してから、すぐに呼びに行こうと思っていたのだが、予想以上のものを見つけてしまってな』

 

「予想以上のもの?」

 

『うむ。これなのだがな』

 

メカ犬はそう言ってから、背中に背負っていた紙の束を降ろすとその内の一枚を広げて見せた。

 

「これって!?」

 

俺はその広げられた紙の内容を見て、驚愕する。

 

それは俺達がホルダーと戦い続ける中で、良く目にするものの形が描かれていた。

 

『うむ。これは間違い無く、暴走プログラムの設計図だ』

 

そこで俺の頭の中で一つの可能性が浮かび上がってくる。

 

「それじゃあ、ここってガルドの研究施設なのか?」

 

「良く話しは見えぬのじゃが、ガルドの奴は純達が倒して、Tが二度と悪さをせぬように連行したのじゃぞ。その上シルバーライト島に戻った後も、Tはガルドの所有物は全て処分していた筈じゃが、何故今更にしてこんな場所に、ガルドの研究施設があるというのじゃ?」

 

「……多分ここはTさんにも見つけられなかった場所で、今も生き残っていた設備が稼動し続けていたって事じゃないのかな」

 

エミリーちゃんの意見に対して、確実では無いと思うが俺自身の意見を補足してみる。

 

『……ワタシも最初はそう思っていたのだがな。マスター、この設計図の右端にこれが書かれた日付が書かれているのだが、これを見てどう思う?』

 

「この日付って今年の……え!?」

 

「何を驚いておるのじゃ……なんと!?」

 

メカ犬に言われるがまま確認した俺と、それを覗き見たエミリーちゃんは揃って言葉が出なくなる程に驚いてしまった。

 

「なあ、メカ犬。これって普通なら有り得ない話しだよな?」

 

『うむ。確かにそうだが、現にこれは目の前に存在しているぞ』

 

「何かの間違い……とは、やはり考え難いのかのう」

 

設計図には書かれていた日付は今年の十一月と記されていた。

 

これが意味する事が、何なのかを、俺達は悟ったのである。

 

これは本来ならば有り得ない事なのだ。

 

エミリーちゃんが日本に短期留学生として転校してきたのが、二学期の初日であり、そのすぐ後に俺達はガルドと戦ったのである。

 

つまりどんなにガルドが、この場所に頻繁に訪れていたとしても、日付を新たに書き込めるのは、九月の初日だけなのだ。

 

つまりこの設計図が意味するのは……

 

「誰かがこの研究室で、ガルドの研究を引き継いでいる!?」

 

『……その可能性が一番高いだろうな』

 

一番最初にこの研究室に入って設計図をメカ犬も、俺と同じ事を思ったのだろう。

 

俺達にわざわざ見せたのも、きっと他の意見も聞き、再確認する為だったに違いない。

 

「じゃが一体誰がそんな事を?」

 

やろうとした所で、並の人間に出来る事じゃないのは確かだ。

 

「取り敢えず一旦戻ってから考えよう」

 

『うむ。ここがまだ誰かに使われているとするならば、その相手と鉢合わせする可能性が高い。エミリー嬢が居る以上は、戦闘はなるべく避ける方が得策だろう』

 

「……すまぬのじゃ」

 

こうして俺達は、予想外の謎と直面しながらも、答えが出ないまま、この研究施設を出て、人魚の入江まで戻ってきた。

 

戻ってきたのだが……

 

「誰じゃおぬしは?」

 

エミリーちゃんが質問する。

 

入江まで戻ってきた俺達の目の前には、一人の男性が待ち構えていた。

 

見た目としては、黒いスーツに黒のネクタイと、その上黒いサングラスという、どこぞの映画に出てきそうな黒人男性だったという、何処までも黒に拘った人だったのである。

 

「何も見ていなければ、俺もこんな事しなくて済んだんですけどね……」

 

入江で佇んでいた黒人男性は、エミリーちゃんの質問が聞こえていないのか、面倒くさそうに喋り出す。

 

それにしても見た目に反して、流暢な日本語で喋り出したのは意外だ。

 

「一つ聞いておきたいんですけど、あの奥にある研究施設を使用しているのは、あなたですか?」

 

見た目は思いっきり外人さんだが、取り敢えず日本語が通用しそうなので、俺はこの場で一番可能性が高いと思われる質問を試みる。

 

「……残念だが、それは不正解だよサムライボーイ。俺はただクライアントの指示に従っているだけで、詳しい事は何も知らないんでね」

 

再び見た目とはかなりのギャップが伴う流暢な日本語を使い、俺の質問に答える黒人男性だが、何処までが本当で、何処からが嘘だというのか、イマイチ判断がし難い。

 

だがこの人の様子からして、これが単独ではなく協力者かもしくは、組織だった存在と繋がりがあるのでは無いかと予想が出来る。

 

この人が仮に戦いのプロだったとしても、妙に落ち着き過ぎているのだ。

 

もしもこの人が俺達に嘘を言っていて、この人こそが黒幕だったとしたら、冷静に対処しようと試みているとしても、多少の殺気や怒気、焦り等の感情の揺れが感じられる筈なのに、この人は何処までも自然体なのである。

 

もしもそれをこの人が、連日恭也君の手によって、死線に晒されている俺に悟られないレベルで、狙ってやっているのだとしたら、間違い無く士郎さんクラスの猛者だ。

 

だけどそんな人外魔境な住人がそんなに大勢居るとは、あまり思いたく無いので、ただ単に上から命令されて子供の相手をするのが、面倒くさいと考えているのだと解釈しておきたい。

 

だからあの余裕は大きな後ろ盾があってこそと、この人自体には現在の状況への、責任意識が無いのではないかと俺は予想する。

 

「さてと……そろそろお悪いお子様への、仕置きのタイムと行きますか」

 

黒人の男性はそう言うと、上着のポケットからあるものを取り出した。

 

それは何処か見覚えのある、黒い球体だったのである。

 

「まさかガルドが作った暴走システム!?」

 

『違うぞマスター。良く見てみろ』

 

黒人の男性が取り出した暴走プログラムに思わず驚愕してしまった俺だったが、メカ犬の言う通り、良く見てみると、それは黒単色ではなく、白いラインが二重に描かれていた。

 

確かにそれは下手をすれば見逃してしまいそうな、若干の違いではあったが、それをガルドの暴走プログラムと全くの同一だと考えてしまうのは、危険かもしれない。

 

俺がそう考えた時、黒人の男性の姿に変化が訪れる。

 

握り込んだ暴走プログラムから、黒い光が発せられて、全身を覆い尽くしたのだ。

 

だがその黒い光は一瞬で弾け飛び、黒い光に覆われていた黒人の男性は、異形の姿となって再び俺達の前に現れる。

 

全身が深緑の鱗に覆われて、口元には黄色いクチバシと、手足の水掻きに、鋭い眼光を放つ瞳、そして頭部は陶器の様な形状となっている、背中に甲羅は背負っていないが、その姿は日本でも古くから伝わる妖怪、河童に酷似していた。

 

『ホルダーという事は、あの研究室について、少なからず情報を持っている可能性が高いな』

 

「やっぱり、ガルドの暴走プログラムとは別物なのか!?」

 

ガルドの暴走プログラムは、誰が使っても同じ形状の姿になる筈なのだ。

 

だけど今目の前で、ホルダー化したこの人の姿は明らかに俺の知っている姿じゃない。

 

つまりあの暴走プログラムは、別の誰かがガルドの設計図を元に、新しく設計した物だという可能性が極めて高いと思う。

 

オーバーとメルトの仕業って可能性も少なからずあるが、それにしては手口が違いすぎる。

 

「……さてと、それじゃあ、少し怖い目に遭ってもらおうかな?」

 

ホルダーはそう言って、ゆっくりと此方に向かって歩き始める。

 

「エミリーちゃんは下がってて!」

 

「わ、分かったのじゃ。……気をつけるのじゃぞ?」

 

「ああ」

 

俺はエミリーちゃんに危害が及ばない様に、後ろに下がらせる。

 

「へえ……小さくても、立派なナイト様ってところかな?」

 

その様子がホルダーには微笑ましく見えたのか、愉快そうに笑う。

 

「行くぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

後ろに下がったエミリーちゃんとは逆に、俺の隣に歩み出たメカ犬と、短く会話を交わした俺は、タッチノートを取り出して開いてから、ボタンを押した。

 

『バックルモード』

 

音声が流れると同時に、メカ犬がベルトに変形して、俺の腹部に巻きつく。

 

「変身」

 

音声キーワードを素早く入力した俺は、素早くタッチノートを、ベルト中央の溝へと差し込んだ。

 

『アップロード』

 

白銀の光が俺を包み込み、一人の戦士へと変える。

 

光が飛散して現れたその姿は、メタルブラックのボディーに四肢へと伸びる銀のラインと額に輝くV字型の角飾り。

 

赤い二つの眼球が、凄まじい存在感を放っている。

 

「悪夢はここで終わらせる」

 

変身を完了させた俺は、ホルダーに向かって一気に駆け出した。

 

「おいおい……こんな厄介な相手だなんて聞いてないぞ!?」

 

先程までの余裕は何処へやら、仮面ライダーに変身した俺を見たホルダーは、唐突な事態に動揺している。

 

だが俺はそんなホルダーの様子を好機と見て、何度も拳を叩きつけていく。

 

「はああ!」

 

ホルダーも俺の拳を喰らいながら、右からのサイドキックで反撃を試みるが、、俺はその攻撃をバックステップで回避して、キックが目の前を通過した直後にカウンターの一撃を放って吹き飛ばす。

 

ホルダーはそのまま海の方向に吹き飛んで行ったのだが、ここで予想外の出来事が起こる。

 

吹き飛ばされながらも、ホルダーはクチバシ状となっている口を開くと、其処から異常な程に舌を伸ばして、俺の足首に巻きつけたのだ。

 

「おわ!?」

 

『しまった!?』

 

咄嗟の事に対応出来ず、俺はホルダー諸共、海の中へと引き摺り込まれてしまう。

 

水中に潜った直後、すぐにホルダーの舌を足から引き剥がしたのだが、またしても次の瞬間俺はとんでもないものを目にする。

 

「ははははははははは!!!!陸地では此方に分が悪い様だが、水中ではどうかな!?」

 

なんとホルダーが水中を高速で移動しているのだ。

 

しかもそのスピードを保ちつつ、連続で体当たりを仕掛けてくる。

 

「ぐは!?」

 

陸上とは違い、上下左右の何処から来るか分からない連続攻撃に、対処が追いつかない。

 

「くそ!何とか対応しないと、このままじゃ……」

 

『マスター!!!』

 

「ん、何だメカ犬。良い手段でも思いついたのか?」

 

『いや、それはまだなのだが、コテージで言っていたもう一つの反応が、此方に急接近してくるぞ!』

 

「はい!?」

 

予想外なメカ犬の言葉に驚いた直後、俺の耳に何処からか歌声が届いた。

 

『アタイは~海の~妖精さ~ん♪』

 

何か歌詞は残念な感じだが、綺麗な女性特有の高いキーの声で歌うその存在がいるであろう方向に、視線を向けた俺は思わずそのシルエットを見て呟いてしまう。

 

「……人魚?」

 

だがそう見えたのは一瞬の事で、此方へと近づくにつれて、その正体が明らかになる。

 

その形状はまさにイルカ。

 

だけどただのイルカでは無く、メタルブルーの光沢を放つメカニカルなイルカだ。

 

更に俺達の目の前に来ると、そのメカイルカの大きさが、手乗りサイズだという事が、明らかになる。

 

『アロハ~マスター!初めましてなのだわさ~』

 

しかもそれは、やけに特徴的な口調で、俺達に喋り掛けてきた。

 

『やはりあの反応は、メカ竜と同じサポートシステムの反応だったか……』

 

「まさかと思ったけど、メカ竜と同様に外国に居たんだな」

 

以前メカ竜に拷問……じゃなくて、優しく丁寧に質問して聞いていた話なのだが、博士はガイアシステム意外にも別シリーズを同時に製作して、此方に送り込んだそうなのだ。

 

メカ竜は今も、普段は他のシリーズの所在を確認する為に、色々と調べているのだが、その一体がまさかシルバーライト島付近の海に居るとは思いもしなかった。

 

『ところでマスター。マスターはホルダーと戦ってたんじゃないんだわさ~』

 

「あ!」

 

そう言えばそうである。

 

今は突然歌いながら現れた謎のイルカを警戒してか、手を出してこないが、その内攻撃を再開する事だろう。

 

『困ってるんなら、アタイが力を貸すんだわさ~』

 

「へ?」

 

『その前にアタイの名前を決めるんだわさ~可愛い名前を希望~』

 

突如として名前を決めろと言われても、そう簡単に思い浮かぶものじゃない。

 

今までがかなり適当に名付けていた節もあるので、改めて言われるとかなりハードルが高いのではないだろうか?

 

普段なら速攻でメカイルカにでもするのだが、それじゃあ可愛いという要望に沿わない……

 

……良し、これに決めた!

 

「じゃあ、お前は今日からメカ海!通称はウミちゃんだ!」

 

イルカは確か感じで書くと海に豚と書いた筈だ。

 

流石に豚は無いだろうと思い、海を選択してみた。

 

『……ウミちゃんか~センスはあれだけど~響きが可愛いからそれで良いだわさ~』

 

メカ海はそう言うと、イルカ特有の尖った口を開いて、中から赤い光をタッチノートへと放射する。

 

光が放射されたタッチノートを取り出して開いてみると、画面にはダイバーシステムという新たな項目が追加されていた。

 

『それじゃあ行くんだわさ~』

 

「ああ!」

 

俺はメカ海の言葉に頷きながら、タッチノートの操作を続ける。

 

『スタンディングモード』

 

タッチノートから流れる音声と同時に、メカ海のボディーが変形して、メカ竜と同様のアタッチメントパーツになった。

 

基本的にメカ竜と、形状に違いは無いのだが、唯一違う点を挙げるとするのなら、尾びれがレバーになっているという事ぐらいだろう。

 

俺は変形したメカ海を手に取り、ベルトの左側をスライドさせて、差し込んだ。

 

『ベーシック・ダイバー』

 

肩と胴体、足の部分に重厚なメタルブラックの追加装甲が展開されて行き、続いて背中にも大きなバックパックと思われる装備が追加される。

 

そして最後に両腕にメタルブルーの大きなメカニカルなパンチンググローブが追加された。

 

顔の部分は自分では確認出来ないが、恐らくここにも何かしらの変化が生じているのだろう。

 

更にこの追加されたメタルブルーのボディーには、至る場所に小型のスクリューが設けられている。

 

「これがダイバーモード……」

 

新たなフォルムになった事に驚く俺に対して、ずっと黙って様子を窺っていたホルダーが動きをみせた。

 

「姿が変わったところで、このスピードに敵うかな!?」

 

そう叫びを上げながら、例の高速体当たりを再会させて来た。

 

『右に避けるんだわさ~』

 

ホルダーの接近に合わせて、メカ海がそう言うと、左半身のスクリューが唸りを上げて、ホルダーの体当たりを回避する。

 

「な!?」

 

俺が避けた事にホルダーは驚愕しながらも体当たりを続けるが、俺はその体当たりの全てをメカ海の気の抜けそうな語尾と共に、華麗に避け続けた。

 

『そろそろこっちからも仕掛けるんだわさ~』

 

「ああ!」

 

メカ海の声に頷き、俺は反撃を開始する。

 

尚も体当たりを仕掛けてきたホルダーの一撃を避け様に、俺はそのまま通過しようとするホルダーの足首を掴んで、捕縛に成功する。

 

「うおおおおおりゃあああああ!!!!!」

 

俺はホルダーを掴んだ状態のまま、水中であるにも関わらず全力で、空いている拳を連続で叩きつける。

 

『『マスター!!!』』

 

「応!!!」

 

二人のメカーズの声に答えながら、俺はホルダーを放り投げて、ベルトの左側のレバーを引く。

 

『マックスチャージ』

 

ベルトから発生した光が、右拳へと集約して行き、四体の分身体が生成される。

 

その分身体は四方に散り、本体である、俺と同様に構えを取り、ボディーの全スクリューを高速回転させていく。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺と全ての分身体は回転させたスクリューを推進力にして、輝く右拳をホルダーに向けて叩き込む。

 

「ダイバーチェーンブロー」

 

四方から放たれた拳が、ホルダーに直撃して大きな爆発を引き起こした。

 

爆発が晴れた後に、ホルダー化が解けて、気絶した黒人男性を、抱えて海から上がった事で、取り敢えずこの戦いは終息を向かえたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局情報無しか……」

 

『そうだな』

 

あの戦いの後、気絶した黒人男性は案の定、記憶を失っていたので、情報は得られず、一度エミリーちゃんをコテージに送ってから、改めて人魚の入江にある研究施設の方も調べてはみたのだが、それ以上の情報は分からなかった。

 

取り敢えずあの研究施設は、徹底的に破壊してきたので、これ以上の研究はあそこでは出来ないと思うが、どうにも腑に落ちない事ばかりである。

 

俺とメカ犬が悩みながら、コテージに戻ってくると、何故かサバスチャンが待ち構えていた。

 

「お待ちしておりましたよ純殿。姫様達は既にお城に出迎える準備が整ったので、先にお向かいになりました」

 

「は、はあ」

 

そう言えば俺って、サバスチャンと面と向かって会話した事無かったけれど、エミリーちゃん抜きだと、正統派のベテラン執事ってイメージなんだな……

 

何か多くの変体振りを目にした後だと、余計に思う部分が出来てしまう。

 

「それでは純殿は、此方のお召し物にお着替え下さいませ」

 

色々と複雑な想いを胸に秘めながら、サバスチャンを見ていると、不意にそう言われて、一着のスーツが差し出された。

 

「……何ですかこれ?」

 

「スーツでございます」

 

「いや……それは分かってるんですけど」

 

「後は着替え終えた後に、左胸の見える位置に、お付けくださいませ」

 

更にサバスチャンがそう言って、俺に渡してきたのは、二つの西洋剣が描かれたブローチだった。

 

「……改めて聞くんですけど、何ですかこれは?」

 

「それは今回のパーティーに必要なものですので、必ずお付けになってくださいませ」

 

「へえ~参加証みたいなものですか?」

 

流石はお城のパーティーなだけあって、やる事が洒落ているなと、思っていたら、サバスチャンは更に俺の予想斜め上を行く言葉を言い放ったのである。

 

「それは今回の姫様の婿を決める婿候補がお付けになる証となっております」

 

「……」

 

俺は一瞬だが、完全に思考停止してしまう。

 

サバスチャンが何気なく言ったその言葉は、それ程までの威力を有していたのだ。

 

……一度落ち着こう。

 

そしてこういう時にこそ、冷静な判断というものが求められているものなのである。

 

だから取り敢えず、俺は冷静に……叫ぶ。

 

「はああああああああああああああああああああああ!?」

 

王家専用のプライベートビーチに、俺の叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

今日の海鳴は多分平和だと思うが、俺が今居るシルバーライト島は、色々と波乱に満ちている様である。

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