魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
今は使われなくなった古い、廃ビルの一室。
其処には本来、よっぽどの理由が無い限り、人が立ち入る事は無いだろう。
事実全体的に壁等も罅割れを起こし、素人でも理解出来る程に、老朽化したこの廃ビルを訪れる者は皆無だった。
しかしそんな廃ビルの一室に、確かに存在する二つの影。
その影の正体は、藍色と灰色の怪人だった。
確かにこの廃ビルには人間は寄り付こうともしない。
だがその代わりに、人とは異なる異形が、この廃墟と呼べるビルに潜伏していたのである。
「ねえ、メルト」
藍色の怪人オーバーが、もう一人の灰色の怪人メルトに、話し掛けた。
「……何だ?」
何処か無邪気さを漂わせるオーバーの声とは対照的に、メルトは抑揚の無い平坦な音質で答えた。
世間一般からすれば、メルトの態度は、相手の話を聞く状態とはとても思えないが、この二人にとっては何時もの事なのだろう。
オーバーはそんなメルトの態度に、構う事無く自分の用件を告げる。
「あの実験以来ずっと研究ばっかりしてて、何だか僕つまらないんだよね~」
「何が言いたい?」
「だからさ。研究はメルトがやってくれてるんだから、僕はちょっと外で遊んできたいんだけど……良いかな?」
自身の願望を言い終えたオーバーは、メルトに向かって両手を合わせながら、その様子を盗み見た。
相方の無責任な言動に呆れたのか、メルトは一度大きく肩を下にずらした後、研究を進める為に、手を休める事無く、オーバーに答えを返す。
「どちらにしても、この研究を次の段階に持っていくまで、私はここを動く事が出来ない。その間はライダー達の相手でも適当にしていろ……」
「へへ。そうこなくちゃね」
メルトの許しを貰い、気分を良くしたオーバーは、意気揚々と部屋を出て行った。
その姿を視線だけで見送ったメルトが呟く。
「……まだ完成には、遠いか。場合によっては、新たなサンプルが必要かもしれないな」
その呟きを耳にした者は、この廃ビルの中には、メルト本人を除き、誰一人として居なかった。
「未確認飛行生物?」
現在冬休みの真っ最中であり、多くの学生達を、平日の日中から外で見かけても何もおかしくはない。
当然の事ながら俺も、その学生の一人である。
まあ、多少他の小学生と変わっている部分といえば、現在進行系でお隣の幼馴染である、なのはちゃんの親御さんが経営する喫茶店、翠屋でアルバイトをしているという事ぐらいだろうか。
そして結構な頻度で、翠屋のアルバイトに精を出す俺に対して、何時も難題を持ってくる一人の女性雑誌記者が居る。
俺が冒頭で発した言葉は、その女性雑誌記者、恵理さんの話を聞いた事により、口にした台詞だった。
「ええ。去年から目撃情報はあったんだけど、今年に入ってからその目撃情報が激増したのよ」
恵理さんはそう言って、コーヒーを一口飲んだ後、俺に数枚の写真を手渡した。
「これは?」
「その未確認飛行生物を目撃した人達が撮った写真よ。まあ殆どが遠くからの撮影だったり、ケータイのカメラで撮ったものだから、画像の質が良いとは言えないけどね」
俺は恵理さんの説明を聞きながら、数枚の写真に目を通していく。
写真はどれも一見すると、海鳴市の風景を映した何の変哲も無い写真に見えるが、良く目を凝らして見てみると、空に黒い点の様な物体が写っている。
しかもそれは、全ての写真に共通してだ。
「まあ、このままじゃ良く分からないから、手に入れた画像の中で、一番画質が良かったものを拡大したのがこれよ」
俺が渡された写真全てに目を通した事を確認した恵理さんは、そう言って新たな一枚の写真を俺に見せた。
「な!?」
恵理さんから新たに渡された一枚の写真を見て、俺は思わず声を上げてしまう。
「……凄いわよねそれ。私も最初は、合成写真じゃないかって疑ったもの」
驚く俺を見ながら、恵理さんは満足出来るリアクションが見れたとでも言うかの様に、何度も頷いた。
確かにこの拡大された画像に写っているものは、もしも本当だとしたならば、結構な衝撃映像な事は間違い無いだろう。
「これって……どう見ても人間ですよね?」
俺は確認の為に、改めて恵理さんに問い質す。
そう……
この写真に写って居るのは、紛れも無く人間だ。
別にスカイダイビングをしている訳でも無ければ、ハンググライダー等の人間単体で飛ぶ為の特殊な装備をしている訳では無い。
画質のせいか、人相までは確認出来ないが、黒い短髪の髪に、緑のマフラーを首に巻き、寒さ対策の為か、ブラウンのロングコートを羽織っている。
その下から辛うじて見えるのは黒いズボンに白のスニーカーという、日本の冬では特に珍しくも無い、私服を着た成人男性の姿だった。
確かにこの写真を見れば、恵理さんが合成写真だと思うのも納得出来る。
普通の人間が、特に何の装備もせずに、私服だけで空中遊泳している姿など、この世界ではありえない話だ。
アリシアちゃんの居る世界ミッドチルダの住人ならば、可能かも知れないが、何処ににあるかも分からない異世界の住人がそう簡単に、姿を晒すとは到底思えない。
「それで今回のお願いなんだけど……」
「嫌です」
俺は恵理さんが用件を言い終える前に、きっぱりと断った。
「あら、何でかしら?」
断られるとは露程にも思っていなかったのか、恵理さんが素で聞いてきた。
「当たり前です。まだ怪物が出たとかなら、ホルダーの可能性もあるでしょうけど、今回は空中浮遊してる人間が本当に居るかどうか調査しろとかその辺りの事を言うんつもりだったんでしょう?」
「流石純君。大当たりよ」
俺の返しに、恵理さんがおめでとうと言いながら、小さな拍手を送るが、正解して褒められる事で、ここまで虚しさを覚えるのは生まれて初めてかもしれない。
「はあ……あのですね。俺は普通の小学生で、メカ犬と出会ってなかったら、ホルダーと戦う何て事もしなかった筈の一般人なんですから、恵理さんは俺を便利屋か何かと、勘違いしてるんじゃないですか?」
この際はっきり言っておくべきだと思い、俺は少し強い口調で、恵理さんに抗議する。
「でも……純君」
先程まで俺の反論を黙っていた恵理さんが、申し訳無さそうに口を開く。
「ん?何ですか恵理さん。まだ俺の言いたい事は終わって無いんですけど」
「……まあ、純君の意見もそれなりに尊重したいんだけど、ちょっと後ろを向いてみて」
「え?後ろを……」
現在の位置を表すと、丁度恵理さんがカウンター席の一番隅に座っている形であり、俺はその横に陣取っているという図式だ。
俺は取り敢えず、恵理さんの言う通り、後ろに振り向く。
『恵理殿。その依頼。確かにワタシ達が引き受けた』
其処に居たのは、フルメタルボディーの犬だった……
しかも何か、とんでもない台詞を、口走った様な気もする。
「純君の相棒君は、乗り気みたいよ?」
『うむ!』
俺を間に挟んで、恵理さんと唐突に背後から登場して、勝手に話しを進めていくメカ犬が、人間とメカという種族どころか、有機物と無機物の垣根すら越えたアイコンタクト交わす。
心の何処かで、今回は厄介な事件に巻き込まれずに済むと考えていたのだが、どうやらそれは甘い考えだったらしい。
盛大な溜息を一つ吐き、俺は一時的にでも心の平穏を獲得する為に、仕事に戻る事にした。
丁度俺が仕事に戻ると、翠屋の扉が開き、新たなお客さんが入店する。
「いらっしゃいませ」
「すいません何時ものを一つ」
ただでさえブルーな気分の時に、訪れた常連客の一人、田中さん……
彼に何の罪も無いという事を、頭では理解していても、俺は心の底から溢れ出る憎悪を押し止める事は出来なかった。
ちなみに数十分後、田中さんが泣きながら、翠屋を飛び出していったのは、何時もの事である。
「なあメカ犬。本当にここで良いのか?」
『うむ。恵理殿の情報が正しければ、この地点が最も目撃率が高いとされている場所なのだそうだ』
冷たい風がダイレクトに吹く河川敷に、俺とメカ犬は佇んでいた。
翠屋で恵理さんの話しを聞き終えた俺達は、アルバイトが終了すると、その足で先程メカ犬が言っていた、今回の目的でもある未確認飛行生物が多く目撃されているという河川敷にやって来たのである。
「それにしても意外だな」
『む、何がだ?マスター』
「いや、今回の件ってさ、ホルダーの可能性かどうかも凄く怪しいのに、て思ったからさ」
『そう言えばマスターにはまだ言っていなかったな』
俺がの質問に対して、メカ犬が思い出したとばかりに、返答する。
「どういう事だよ?」
『うむ。確かに人間の間で流れている情報だけでは、確証を得る事は出来なかったが、ワタシの情報網はそれだけではないからな』
「ジャックか……」
メカ犬の言葉を聞き、俺は一匹のチワワを思い出す。
俺がジャックに直接会う機会は、何か事件が起こった時ぐらいのものだが、メカ犬は個人的に馬があうのか、友人として接しているらしい。
シルバーライト島でも、お土産の限定犬用ジャーキーを買っていたので、相当仲が良いのだろうと推測出来る。
まあ、その話はさて置き、ジャックは小型犬でチワワだが、驚く事に情報屋としての腕は確かだ。
そのジャックの情報で、メカ犬が今回の未確認飛行生物を、ホルダーだと判断したのならば、その可能性は飛躍的に跳ね上がる。
「じゃあ、今回の件もホルダーが関係してる可能性が高いんだな?」
『いや、今回の件は、ホルダーとは関係無いだろう』
「……何だよそれ?」
メカ犬の言動に、俺は疑問を覚える。
『すまんマスター。今の言い方では確かに、要領を得ないな。正確に言うのであれば今のところはと言うのが正しい』
「今のところは?」
『以前にもマスターには説明したが、暴走プログラムを手に入れた人間は、多種多様な能力に目覚める』
そう言えばそんな事を出会った初日に、メカ犬が言っていた。
最近ではオーバー達が使う様な、違うタイプの暴走プログラムが出てきたし、今まで戦ってきた相手も、全員ホルダー化した後だったので、あまり深く考えた事も無かったけど……
『恐らく今回は、まだ完全にホルダー化していないのだろう。その状況化で相手を発見出来る可能性は皆無と言えるレベルだが、今回は運が良い』
ホルダー化する前の人か……ホルダー化した後も、それなりに正気を保っていた人間は過去に、何人か見てきたが、完全にホルダー化する前に接触する事が出来る可能性が出てきたのは、これが初めてである。
『マスター。今のところ特に実害が出ていない事を考えると、相手は話が通じる可能性が高い』
「上手く交渉すれば、戦わずに済むって事か」
『うむ。そう上手く行くかは分からないが、相手が正気を保っているのであれば、マスターの言う事も現実となるかもしれないな』
今までに例をみない、今回の珍しいケースに、俺は多少だがやる気を取り戻した。
「あれ?もしかして、其処にいるのって、純君とメー君やないか?」
「二人共こんな場所で、どうしたの?」
やる気を出したおかげか、少しだけ寒さが和らいだ様な気がしたところで、河川敷に陣取る俺とメカ犬に声が掛けられた。
「すずかちゃんに、はやてちゃん!?」
振り向けば其処には、先程の声の主である二人と……
「そんなところで何やってるんですか?純の旦那」
何故かヤスも居た。
俺とメカ犬を呼び止めたすずかちゃん達は、歩いていた道を外れて、こちら側に歩いてくる。
「まだ川遊びするには、早すぎると私は思うんやけど?」
「でもはやてちゃん。純君は普通に服を着てるし、川遊びは無いんじゃないかな」
「……釣りって訳でも無さそうですよね。そもそも純の旦那が釣りをするなんて話は聞いた事が無いですし」
近づいてきた三人は口々に、己の推理を言っていく。
まあ、夏ならばまだしも、真冬のこの時期に、何の目的も持たずに冷たい風が、容赦無く吹き荒ぶ河川敷に、やってくる物好きは殆どいないだろう。
実際この辺りには、ボートに乗って釣りをしている、近所のおじさん達と、飼い犬の赤坊を散歩させている三丁目の犬おばさんぐらいしか見当たらない。
だからこそ俺は、この三人にどう説明するべきなのか、頭を悩ませるのだが、俺が口を開くよりも早く、メカ犬が説明を開始した。
『実はワタシ達は恵理殿の取材の手伝いをしている最中なのだ』
「な!?」
メカ犬の事だから、何か適当な理由を言うものとばかり思っていたのだが、俺の予想を裏切り、メカ犬は真実を語り出す。
俺は突然の事態に、対処が追いつかず、その間にもメカ犬は、三人に話しを進めていく。
『最近この近辺で噂になっている未確認浮遊生物は知っているか?』
「当たり前や。昨日家に来たヘルパーさんも、この河川敷の近くで見たって言ってたんよ」
「本当にこの辺りに出るのかな?確かに皆噂してるけど……」
「海鳴連合の連中も、結構な数の奴らが見たって話しですからね」
思っていた以上にこの噂が有名だった為か、三人共メカ犬の話しに食いついてきた。
そして話は俺を抜きにして、あらぬ方向へと進み、この調査に新たなメンバーが三名程加わる事になってしまった。
「どうするんだよメカ犬!?」
俺は新たに今回の調査に加わった、すずかちゃんとはやてちゃんから、一旦距離を置き、その直接の原因であるメカ犬に、抗議を開始した。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。純の旦那」
メカ犬を睨み付ける俺の横では、ヤスが苦笑いを浮かべている。
「ヤスだけならまだ良いけど、ホルダーと戦う事になったら、二人はどうするんだよ!?」
確かに今回は戦わないで終わる可能性もあるが、それはあくまで可能性の話だ。
世の中に絶対などと言う事は無い。
避けられる危険は避けるべきだと、俺は思う。
『まあ待てマスター。マスターが二人を心配する気持ちも分かるが、下手な嘘をついても、あの二人に通用しない事は、良く分かるだろ?』
「う……確かに」
メカ犬の反論に、俺は否定する事が出来なかった。
ただでさえ最近は、この場に居ない、なのはちゃんとアリサちゃんも含めて、妙に疑いを持たれている事を、俺自身自覚している。
流石に俺が仮面ライダーだという事は、知られていないだろうが、何かを隠しているというのは、勘付かれているに違いない。
『ここで下手な言い訳をしたところで、二人は納得しないだろうし、下手をすれば尾行される危険性もあるだろう。特にあの二人は、一度仮面ライダーの正体を探ろうと行動に移した事がある程だからな』
「……それは」
否定したいところではあるが、メカ犬の言う通り、あの二人ならば、それくらいの行動力を発揮しそうだ。
恐らく少しでも不振に感じたと二人が思えば、また何時かの探偵魂を呼び起こしてしまう危険性は充分に有り得る話しである。
『だからこそ目の届く場所に最初から居てくれた方が、安心だとワタシは判断したのだ。それに幸いにもこの場にはヤスがいる。いざとなれば、二人をヤスに任せておけば、最低限の安全は確保出来る筈だ』
「任せてください純の旦那!嬢ちゃん達は、俺が必ず守りますから!」
メカ犬が俺にそう諭したところで、ヤスが爽やかな笑顔で言った。
「そう言えば、何でヤスがすずかちゃん達と一緒にいたんだ?」
普段から翠屋でアルバイトをしているし、俺と親しく会話している事から、二人と面識自体はある事を、俺も知っていたが、それでは一緒にいた理由にはならない。
「……実は図書館に行っていたんです」
俺の疑問に対して、ヤスが小声で答える。
何故其処で小声になるのだろうか?
そもそも更生したとはいえ、元暴走族のリーダーが、図書館に本を読みに行くという発想は、中々思いつかないのは、俺の偏見の為だけなのか……
「そ、その二人には帰りに相談に乗って貰ってたんですよ……」
俺がそんな失礼な事を考えている間にもヤスは話しを続ける。
しかも何処か恥ずかしそうに、頬を赤く染めながらだ。
その姿は、悪いとは思いつつも、男の俺から見たら、正直気色悪く見えてしまった。
恥ずかしそうに頬を赤らめながら悩みを打ち明け始める、ワイルド系のイケメン男子……
女性の視点で見たら、この姿を可愛いと思う人もいるのだろうか?
「あの、純の旦那も知り合いなんですよね?そ、その柿崎さんと……」
「柿崎さん……ああ!保奈美さんの事か!」
柿崎保奈美さん。
海鳴図書館で司書を務めるお姉さんで、俺達とは良く話す気の良い人である。
多少人の話しを聞かない、暴走癖があるのが厄介な人でもあるが……
「その保奈美さんがどうかしたのか……まさか!?」
俺はヤスの先程から繰り返される挙動不振な言動を見て、一つの結論に辿り着く。
「……そう言う事です」
「春はまだ先だと思ってたけど、ヤスには一足早く来ていたんだな」
『まさに青春という名の春だな』
俺とメカ犬は、図らずも親父くさい言い方で、ヤスを見ながら言った。
「実は妹に頼まれまして、代わりに本を返しに行ったんですけど、恥ずかしながら其処で一目惚れしまして……」
ヤスは照れながらも、出会いの経緯を俺達に説明する。
というか、ヤスに妹が居たというのも、初めて知った新事実だ。
「ねえ!何か空に浮かんでるみたいだよ!!!」
「あれが未確認飛行生物なんやないか!?」
すっかり話題が、ヤスの恋愛談義に移行していた所で、すずかちゃんとはやてちゃんの声が、俺の耳に聞こえてきた。
俺は本来の目的を思い出して、急ぎ視線を上空へと向ける。
距離が離れている上に雲に隠れたりして、偶に視界から消えてしまったりするが、其処には確かに存在していた。
それは確かに未確認浮遊生物……
空を飛ぶ人間だったのである