魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「え~と、それで、君の名前は?」
翠屋の客席の内の一席で長谷川さんが、向かい側に座る美少年に名前を聞いた。
「僕の名前は、橘歩《たちばなあゆむ》と言います。私立聖祥大附属小学校の三年生です。」
長谷川さんの問いかけに、美少年改め、橘君が簡単な自己紹介をする。
取り敢えず先程の自己紹介で分かった事は、橘君が俺やなのはちゃん達の二つ年上の先輩になるという事ぐらいだろうか。
「じゃあ橘君。早速色々と聞きたいんだけど、良いかしら?」
続いて長谷川さんの隣の席に座っていた恵美さんが、橘君に話し掛ける。
「はい」
橘君は恵美さんの言葉に対して、頷きながら、肯定の意を示す。
その様子を見て、橘君に質問しても問題無いと結論を出したのか、恵美さんと長谷川さんは、お互いに一度だけ、視線を交わしてから、恵美さんが口を開く。
「長谷川君から聞いた話だと、橘君は公園でホルダーの事を、ミケって呼んでいたらしいけど、どういう事なのか、教えてもらえる?」
「は、はい。実は……」
恵美さんの質問に橘君は、戸惑いながら答え始める。
あの公園での戦いの最中に現れた、ホルダーをミケと呼んだ少年、橘君。
その橘君の声に一瞬だけだが、気を取られた隙に、ホルダーに逃げられてしまった訳だが、その後公園に残っていたホルダーモドキ達を俺とE2で全て倒し終えてから、橘君はE2にその場で保護された。
あの場ではこれ以上俺に出来る事は無いと判断して、俺は変身を解いて翠屋に戻ってきたのだが、再び裏口から入ってフロアを覗いてみると、待ち合わせをしていると言っていた恵美さんと合流していた、長谷川さんと橘君の姿が見えた。
しかもそのまま警察署に行く訳でもなく、二人はこの翠屋で、橘君の話を聞き始めたのである。
まあ、考えてみれば公園から警察署に行くまでには、翠屋と比べると多少距離が離れ過ぎているし、犯罪者でもない子供である橘君に、無用なプレッシャーを与えない様に考えた結果、話しをするには手頃な場所。
つまりこの喫茶店である、翠屋で話しをする事になったのかも知れない。
本当は盗み聞きなんて、趣味の悪い真似はしたくないのだが、ホルダーが関わっているという事もあり、俺はメカ犬と共に、聞き耳を立てる事にした。
「ミケは今はあんな姿ですけど、本当は僕の家で飼っている普通の山猫なんです」
「あのホルダーの正体って、人間じゃなくて本物の猫だったのか……」
橘君の言葉に対して、長谷川さんがそんな呟きを零す。
ホルダーの素体が人間以外だというのは、オーバーが作るホルダーモドキと、以前にネガタロスが作った複製以外には、俺も初めて聞く話しだが……そして何故に山猫?
「ホルダーの正体が山猫だって事は分かったけれど、何で橘君の家で飼われていたミケがそんな事になったって言うの?」
長谷川さんが呟く中、恵美さんが冷静に次の質問を促す。
「あれは一週間程前の事です。家の近くの公園で、ミケと遊んでいたら、突然藍色の怪物がやって来て、僕にこう言ったんです。【君の夢を叶えてあげようか?】って……」
橘君が言っている藍色の怪物というのは、恐らくオーバーの事だろう。
「僕はその時、怖くて逃げる事も出来なくて……怪物が何か銀色の玉みたいなのを取り出して、僕に近づいて来るのを見ている事しか出来ませんでした」
そこまで話すと、橘君はその時の恐怖が蘇ったのか、小さく肩を震わせる。
「……それで、その後はどうなったんだい?」
長谷川さんは、橘君の震える肩を、落ち着かせる様に、軽く手のひらで二、三度叩いてから、橘君が話せる状態になるのを見計らい、話しを再開させる様に促した。
「その怪物の手が僕に触れようとした時に、ミケが怪物に飛び掛っていったんです……それで何か眩しく光ったと思ったら、ミケがあんな姿になっていて、そのままミケは何処かに行ってしまいました。怪物の方もミケをそんなミケを見て、何か呟いた後に、ミケを追って……」
そう言うと橘君は、何か思うところがあるのか、俯いてしまった。
「どう思うメカ犬?」
俺は盗み聞きを一時中断して、メカ犬に意見を聞いてみる事にした。
『うむ……先程の少年の話しが真実だとすると、これは奴等にとって、イレギュラーな事態と言えるのかもしれないな』
「イレギュラー?」
『少年の話しから推測するに、オーバーがホルダー化させようとしたのは、山猫のミケではなく、少年の方だろう』
「それが、ミケが飛び出した事で、橘君に使う筈だった暴走プログラムに、代わりにミケが反応してホルダー化したって事か?」
『その通りだ。ここからはワタシの予測になるが、これはワタシ達が思っている以上に、奴等にとって予想外の出来事だったのかもしれない』
「じゃあさっきの公園で、オーバーもメルトの姿も無いのに、大量のホルダーモドキが居たのはもしかして……」
『奴等はあのホルダーを捕獲して、何かをしようと考えている可能性が高い』
「そん「それは一大事なのじゃ!?」……え?」
俺が言おうとしたのと同じ内容に、若干個性的とも言える語尾が追加された、やけに聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
「何やら純達は、また大変な事件に関わろうとしているようじゃの」
後ろを振り向けば、其処に居るのは、本日の転校生であり、少し前までなのはちゃん達と、歓迎会でガールズトークをしていた筈の、シルバーライト島のお姫様、エミリーちゃんであった。
「……エミリーちゃん。確かなのはちゃん達と歓迎会をしてた筈じゃなかった?」
「なのは達なら、これから習い事があるといって帰ったのじゃ。はやても今日は図書館で新作の本が並ぶとかで、行ってしまったのでのう」
どうやら俺が、橘君の話しに気を取られている間に、歓迎会は終わってしまっていたらしい。
「それより良いのか?またあの少年達が会話を再開した様じゃが」
「え!?」
俺はエミリーちゃんが、歓迎会が終わったからといって、何で俺の後ろに居たのかという質問を心の中に飲み込み、再び橘君の話しに聞き耳を立てる。
「……最初は警察に相談しようと考えていたんですけど、話せばあんな姿になったミケがどんな対応をされるかと思うと言い出せなくなって……今まで黙っていて、本当にごめんなさい」
顔を上げて、再び説明を始めた橘君は、目頭に涙を溜めながら、恵美さんと長谷川さんに謝罪の言葉を口にする。
ホルダーに関しての情報は、素体の事を含めて、仮面ライダー程には世間には出回っていないので、橘君の考え方が間違っているとも一概には言えない。
それと言うのも何かしらの悪事を働くホルダーは、暴走プログラムの影響で、正常な判断能力が出来ない上に、俺とメカ犬が変身するシードか、E2に倒されれば、その間の記憶は全て失われるのだ。
元々の素体が犯罪者だった場合は別として、そんな人間を罪に問えるのかと、質問されれば難しい話しである。
例え警察が無罪放免にしたとしても、ホルダーだった時にやった事を、全員が果たして許すと二つ返事で答えてくれるだろうか。
情報とは現代人が生きる上で、大切な存在ではあるが、それと同時に、あまりにも大量の情報が整理されない状態で流れれば、混乱や疑心暗鬼を招き、下手をすれば争いの火種となる可能性も、孕んでいるものだと俺は思う。
俺と似た様な事を考えているののか、雑誌記者の恵理さんも、ホルダーの情報は現在最低限流すだけに、止めているし警察でも外部に必要以上の情報が漏れない様に、出来るだけ気を使っているらしい。
だからホルダーが暴走プログラムと人間が融合した存在だという、事実を知っているのは、俺達の様に普段から密接に関わっている人達と一部の警察関係者を除けば、ヤスや瞳さん等のシードの正体が俺だと知っている人物や、目の前に居るエミリーちゃんの様に、過去にホルダー絡みで深く事件に関わった人物ぐらいのものである。
今回の様な橘君のケースは、こういった情報を隠す事で得られる、メリットに対しての弊害だと言えるだろう。
この判断が本当に正しかったか、それはその時の状況にも左右されるだろうし、一概には何も言えないと俺は思うが、今回の件に関してだけ言えば、その配慮が裏目に出てしまった。
きっと橘君は自分が得られる情報を基に、最悪の結果を想像してしまったのだろう。
もしも俺が今の橘君と、全く同じ立場だったとしたら、似た様な考えに至っていたかもしれない。
涙ぐみながら謝り続ける橘君に対して、恵美さんと長谷川さんは、橘君に、ホルダー化したミケは倒せば元の姿に戻って無事に帰ってくるという事を、必死に伝えている。
熱意ある二人の説明が、功を奏したのか、橘君も何とか無くのを止めて、話しを再開する運びとなった。
「目撃証言だと、海鳴市内の公園で、目撃証言が多数寄せられているけど、何か心当たりは無いかしら?」
橘君が会話が出来るレベルに落ち着いた事を確認しながら、恵美さんが新たな質問をぶつける。
「……多分ミケはおじいちゃんを探しているんだと思います」
「「おじいちゃん?」」
橘君の答えに、恵美さんと長谷川さんは、揃って首を捻る。
「はい。ミケは元々野生の山猫だったんですけど、二年前におじいちゃんが怪我したミケを連れて帰って来て、手当てをしたんです。本当は怪我が治ったら、野生に返す筈だったんですけど、その頃には僕も含めて家族は皆情が湧いてしまって、ミケもここでの生活に馴染んでいたので、特別に許可を申請して家で飼う事になったんです。飼い猫になってからも、助けてもらった恩を感じているのか、おじいちゃんには一番なついていました」
昔を懐かしむ様に、目を細めながら橘君は、ミケとそのおじいさんの事を話した。
「ミケが橘君のおじいさんになついているという事は、分かったけど、何でそれが公園での目撃証言に繋がると思うんだい?仮に橘君の予想が当たっていたとしても、ミケはおじいさんの居る君の自宅に現れると思うのが普通じゃないかな?」
橘君の話を聞き、長谷川さんが、俺も疑問に思った部分を口にする。
「それはありえません。おじいちゃんは、先月亡くなったので……」
長谷川さんの疑問に答える橘君だったが、その答えは予想外のものだった。
「おじいちゃんの趣味は散歩だったんですけど、ミケは猫のくせに、おじいちゃんと同じで、散歩好きなのか、生前はいつも一緒に、その日の気分で散歩のコースを変えて、散歩に行っていました。その時決まって公園で休憩してから帰って来るんだと、良くおじいちゃんは話してくれていました」
こんどは先程とは別の理由で、再び目頭に浮かんだ涙を、服の袖で拭いながら、橘君は話しを続ける。
「多分ミケは、おじいちゃんがまだ散歩から、帰っていないと思って、休憩に使っていた公園を中心に探してるんだと思ったんです」
其処まで聞いた俺は、一旦盗み聞きを中断する事にして、メカ犬に質問をしようと、後ろを向いたのだが……
「う……うう……何と健気なのじゃ……ミケよ……」
同じく盗み聞きをしていたエミリーちゃんが、盛大な貰い泣きをしていた。
「……なあ、メカ犬。今の話しが本当だったとして、猫がホルダー化する程の夢が、おじいさんを探し出す為って事、あると思うか?」
俺は号泣するエミリーちゃんに驚きながらも、取り敢えずメカ犬に質問をした。
『そもそも猫がホルダー化するという事例は、ワタシも初めて聞くが、そのミケとやらが、余程今は無き主人に、もう一度会いたいと願ったのであれば、可能性はあるかもしれないな』
「そうか。なら俺達が……」
「今すぐミケを探しに行くのじゃ!!!このままではミケが、あまりにミケが不憫ではないか!!!!!」
俺とメカ犬の話しが纏まろうとしたところで、先程まで号泣していたエミリーちゃんが、凄まじい気迫を放ちながら、俺に詰め寄ってきた。
「ちょ、ちょっとエミリーちゃん!?少し落ち着いて……」
エミリーちゃんに押し倒されそうになりながらも、俺は何とか詰め寄るエミリーちゃんを宥めようと、穏便に声を掛ける。
「何じゃ!?純は先程の話しを聞いて、何も思わなかったとでも言うつもりか!?」
しかし俺が落ち着かせようとした態度が、エミリーちゃんには気に食わなかったらしく、既にお互いの額がぶつかる様な至近距離で、エミリーちゃんが俺に対して睨みを利かす。
俺の考えとしても、ミケをこのままにしておく訳には行かないと考えている。
その上、オーバー達もミケを狙っている可能性があるのだから、出来るだけ早く行動に移したい。
しかしそれには一つだけ、大きな問題があるのだ。
「エミリーちゃんの気持ちは良く分かるけど、ミケが何処に居るのか、分からなきゃ動きようが無いでしょ」
「あ!」
俺の言葉に対して、エミリーちゃんが目を、そう言えばというほどに大きく見開いた。
今のところ、ミケを確実に見つけるには、ホルダー反応を待つしかないだろう。
しかしそれでも確実じゃない。
さっきの様に、オーバーがまた、町中にホルダーモドキを放てば、場所を特定するのは、かなり困難になる。
『心配無いぞマスター』
何かミケを少しでも早く見つける手段ないかと、考えていたところで、メカ犬が自信満々に俺に言う。
『ワタシ達にはジャックが居るだろう』
「あ!」
メカ犬の言葉で、今度は俺が先程のエミリーちゃんの様に目を見開いてしまった……
若干のタイムラグを伴いつつ、その後俺達は、ビーフジャーキーを片手に急いで白い毛並みの野良チワワが出没する空き地に走った。
「やっと見つけたよ」
夕方になり人気の少なくなった公園の、更に奥の林の中で、明るい声ではあるが、何処か冷たさを感じさせる幼さを残す声が聞こえて来た。
「ふうううううううううううううううううう!!!!!!!!!!」
その言葉に続いて、敵意剥き出しの威嚇とも取れる唸り声が木霊する。
今この場には人間の姿は無い。
居るのは二体の異形のみである。
「随分と手こずらせてくれたけど、もう逃がさないよ?」
異形の内の片方、藍色の怪人オーバーがゆっくりと、もう一体の異形である、山猫型のホルダーに詰め寄る。
オーバーは相変わらずの軽い口調で、余裕の雰囲気を醸し出しているが、内心そうでは無かった。
本来は猫と公園で戯れていた少年を、ホルダーにしようとしていた筈なのに、何の手違いか猫の方をホルダー化してしまったのである。
しかも人間用に開発した筈の暴走プログラムが、猫に反応したという異常事態なのだ。
オーバーは目的を変更して、目の前のホルダーを研究用のサンプルにしようと捕獲に乗り出したのである。
最初は自分が命令すれば、ホルダーならばすぐに従うと思っていたが、その思惑は大きく外れてしまった。
ホルダーはオーバーの命令に従わなかったのである。
元々その存在自体がイレギュラーな為、この事態を半ば予測していたオーバーは、街中にホルダーモドキを放ち、本格的な捕獲作戦を展開した。
一度は発見したものの、ホルダーモドキの反応を辿って来てみれば、仮面ライダー達に倒されているという現実。
おかげで無駄な時間を過ごしてしまったという事もあり、オーバーは内心若干のストレスを感じていたのである。
しかしその努力も報われて、目的のホルダーをこれで捕獲出来ると、手を伸ばそうとしたその時。
「待て!」
この場に予想外の、待ったの声が聞こえて来た。
オーバーがその声に反応して振り向くと、数メートル先に見知った顔の一人の少年に、フルメタル製の機械仕掛けの犬と、オーバーの知らない顔ではあるが、銀髪の少女が立っていた。
「待て!」
急いで情報屋のジャックに、ミケがこの時間帯に居そうな場所の情報を教えてもらった俺達は、最初にホルダーを見つけた公園とは、反対側にある自然公園にやって来た。
更にその先の茂みの奥が、ミケの縄張りとなっている場所だというので、来てみた訳なのだが、其処にはホルダー化したミケだけではなく、オーバーの姿もあったのである。
しかもオーバーが、ホルダーとなったミケに手を伸ばそうとしているのを、俺は視界に捉えたので、その場で大声を張り上げて、待ったを掛けた。
「……今は忙しいから、相手にしたく無いんだけどな」
オーバーは、俺の声に反応して動きを止めると、こちらに振り向き、皮肉を言う。
『悪いがワタシ達も、そのホルダーに用がある。嫌でも相手をしてもらうぞ』
メカ犬も負けじと、オーバーに対して皮肉を返す。
「危ないからエミリーちゃんは下がってて」
「分かったのじゃ……負けるでないぞ純」
「うん!」
俺は勢いでこの場に着いて来てしまったエミリーちゃんを下がらせる。
下がる際にエミリーちゃんは、心配そうに俺に言葉を掛けてきたので、出来るだけ明るく返事を返しておく事にした。
「行くぞメカ犬!」
エミリーちゃんが後ろに下がった事を確認した俺は、タッチノートを取り出して開きながら、メカ犬に声を掛けた。
『うむ!』
そのメカ犬の返事を合図に、俺はタッチノートのボタンを押す。
『バックルモード』
タッチノートを押した瞬間、メカ犬はベルトに変形して、自動的に俺の腹部へと巻きつく。
「変身」
そして俺は音声キーワードを入力して、ベルトの中央に設けられた溝に、タッチノートを素早く差し込んだ。
『アップロード』
音声が流れると同時に、白銀の光が俺の全身を包み込み、その姿を一人の戦士へと変えていく。
白銀の光が飛散すると、其処に居るのは、板橋純ではなく、この海鳴市を守る為に戦う一人の仮面ライダーだった。
「しょうがないから相手をしてあげるよ!」
俺とメカ犬がシードへの変身を完了させるのと、ほぼ同時にオーバーが右手に剣を生成しながら襲い掛かって来る。
『来るぞマスター!』
「わかってるさ!」
オーバーの強襲を伝えるメカ犬の声に短く返事を返しつつ、俺はベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンと黄色のボタンを続け様に押していく。
『スピードフォルム』
『スピードロッド』
変身した直後の基本フォルムであるメタルブラックのボディーカラーが、ライトグリーンに染まり、俺の手にはこのスピードフォルムの専用武器のスピードロッドが生成される。
「はあ!」
スピードフォルムへのフォルムチェンジを果たした俺は、その手に持ったスピードロッドで、オーバーが放った斬撃を受け止めた。
「まだまだ行くよ!!!」
しかしオーバーの攻撃がたったの一撃で終わる訳も無く、初撃を受け止めた後も、流れる様な剣による連続攻撃を、俺に浴びせ掛けてくる。
「この!」
俺もそれに負けじとスピードロッドを使った応戦を試みる。
お互いにその速さを主軸とした攻防を繰り広げる俺とオーバーだったが、其処に突如として、新たな戦いへの参加者が、横槍を入れてきた。
「しゃあああああああああああああううううううううううう!!!!」
なんとホルダー化したミケが、俺とオーバーに飛び掛ってきたのだ。
「おわ!?」
「ん!?」
その野性味溢れるがむしゃらな攻撃に、俺とオーバーは思わず距離を取る為に数歩後退してしまう。
結果として二手に分かれた形となった俺とオーバーを見て、ホルダーは、オーバーに狙いを定めたのか、一直線にオーバーへと飛び掛っていく。
「一体何が起こってるんだよこれ?」
俺はオーバーが、ホルダーに攻撃されるという現象を初めて目撃した驚きの為か、思わず行動に移す事も忘れて呟いてしまった。
『これは恐らく、野生の部分が強く出てしまっているのだろう』
俺の呟きに対して、メカ犬が答える。
「どういう事だよ?」
『本来の用途とは違う使い方をされた暴走プログラムのせいだろうが、今のミケはホルダー化に伴い、長く飼い猫を続けて薄まっていた猫としての野生の本能が、色濃く出てしまっているのではないか?」
「本当なのかそれって……」
『マスターも前の公園で、ホルダー化したミケに攻撃されたのは覚えているだろう。あの公園にもミケの縄張りがあり、其処に足を踏み入れてしまった為に、攻撃を受けたのだと考えれば合点がいく。どちらも戦っている最中に、攻撃されたという事実を踏まえると、ミケは自分の縄張りが荒らされていると、判断したのではないか』
「……なるほど」
俺はメカ犬の説明に素直に納得してしまった。
「どうも今回は僕に分が悪いみたいだね……残念だけど、ここは退かせてもらうよ」
そうやって俺がメカ犬の説明を聞いている間も、ホルダーに執拗なまでの攻撃を受け続けていたオーバーは、負け惜しみとも取れる捨て台詞と共に、この場から、飛び去ってしまった。
「しゃああああああああああああああ!!!!!!!!」
オーバーがこの場から居なくなった事で、突如として攻撃する目標を失ったホルダーは、今度は目標を俺に絞り、突撃して来る。
その攻撃に対して、俺が身構えると、少し離れた位置から銃声が鳴り響き、目前まで迫っていたホルダーが火花を上げた。
銃声の聞こえた方に、視線を向けると、メタルイエローと青い複眼が特徴的な仮面ライダー、E2がこちらへ走って来るのが見えた。
「遅くなってすいません。シードさん。僕も加勢しますんで」
俺の隣までやって来たE2はそう言うと、目の前のホルダーに対して、臨戦態勢の構えを取る。
俺はE2の言葉に頷きながら、静かに呟いた。
「ああ。ミケの悪夢はここで終わらせる」
もう一度おじいさんに会いたいという願いを、叶えてやりたいが、それは無理だという事も分かっている。
だからせめてこの戦いを、早く終わらせて橘君の元に返してやる事が、今の俺に出来る唯一の事だ。
「行くぞ!」
「はい!」
俺はスピードロッドを構え直して、E2と共にホルダーに攻撃を仕掛ける。
「きしゃあああああああああ!!!!!」
ホルダーは鋭い爪で牽制を兼ねた攻撃を仕掛けて来るが、その攻撃を俺がスピードロッドで受け止めて、その隙を突く様に、E2がESM01で、的確に銃撃をホルダーにお見舞いしていく。
『そろそろ終わらせるぞマスター!』
「ああ!!!」
俺はメカ犬の合図を受けて、一旦下がると、ベルトの右側をスライドさせて、黒いボタンを押す。
『ベーシックフォルム』
ベルトから聞こえる音声と共に、ライトグリーンのボディーは再びメタルブラックのボディーカラーへとその色を変えていく。
その間に、E2も左腰からマガジンを抜き出して、ESM01に装填しようとしているのが見えた。
「俺も行きますか!」
E2の行動を観察しながら、俺も準備を整える為に、ベルトからタッチノートを引き抜き、全体図を表示させてから右足部分をタッチして、再びベルトにタッチノートを差し込んだ。
『ポイントチャージ』
『ブレイクチャージ』
すると殆ど同時に、二人の仮面ライダーから電子音声が鳴り響く。
「は!」
まずはE2が、ESM01の銃身が黄色い光を放つのを確認しつつ、ホルダーに標準を合わせて引き金を引き、一発の弾丸を発射する。
放たれた黄色い光を纏うその弾丸は、網目状のネットに広がり、ホルダーに当たる事で、その動きを大きく制限した。
ホルダーの動きを制限した事を確認したE2は、そのままESM01を右腰のホルスターに収める。
するとE2の右足に、黄色い光が集約していく。
その様子を観察していた俺自身も、その間にベルトから発生した光が、四肢に伸びる銀のラインを通じて、右足へと集約される。
「こいつで決めるぜ」
俺は重心を低く構えながら、一気に飛び上がった。
そして光が集約された右足を突き出して、狙いをホルダーに合わせる。
俺が飛び上がるのと時を同じくして、ホルダー目掛けて駆け出したE2も、既に飛び蹴りへの体勢に入っていた。
「ライダーキック」
それを踏まえた上で、俺は急加速でホルダー目掛けて落下を開始する。
シードとE2。
二人の仮面ライダーの必殺の一撃が、見事にホルダーに炸裂して、夕方の公園で大きな爆発が巻き起こった。
爆発が治まった後、その地点に視線を移すと、一匹の山猫が暢気に寝息を立てている姿が見えた……
「結局あれからミケはどうなったんだ?」
『うむ。ミケはあの後無事に、警察から橘少年に返されて、以前と同じ生活を送っている様だぞ』
「そうか……」
数日前に起こった猫がホルダー化するという、今までに例をみないケースに、事件が解決した今も、少しだけ心配していたのだが、メカ犬の言葉を聞いて、俺は何だか安心した。
「本当に良かったのじゃ……」
それを聞いて、エミリーちゃんが、何度も良かった良かったと、俺の隣で呟き続けている。
「……あのさ、エミリーちゃん。一つ聞きたい事があるんだけど」
「うむ?どうしたのじゃ純?遠慮せずに何でも聞くが良いぞ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
エミリーちゃんのその言葉を、了承とみなして、俺は一呼吸置いてから、一つの疑問を投げかけた。
「何でエミリーちゃんが、夕飯時の俺の家に居るのさ!?」
そうなのだ。
何故かエミリーちゃんが、招待した訳でも無いのに、夕食時の我が家に当然の様に居たのである。
「別に良いではないか。我と純の仲じゃろ?」
俺の質問を何でも無い些細な事だとでも言う様に、答えにもなっていない返事を返すと、エミリーちゃんは、夕飯はまだかのうと言って、台所で夕飯を作っている母さんの元へと行ってしまった。
「はあ……」
俺はそんなお転婆なお姫様の背中を見ながら、小さな溜息を零す。
「せめて父さんが帰って来て、男性率が増えれば……何も変わらないか」
自分の発言に虚しさを感じて、俺はもう一度溜息を吐き出した。
ちなみにリビングの掛け時計を見ると、父さんが帰ってくるまで、あと三十分は余裕である様だった。
『その内良い事があるさ。マスター』
俺の気持ちを察してか、メカ犬が暖かなエールを送ってきたが、俺の本日の気力ゲージは既に底をついていた……
今日の海鳴も、お転婆なお姫様の一般家庭の食卓に襲来するという事態が発生していたりするが、概ね平和である。