魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「ねえ純。この剣なんてどうかしら?」
樽の中に乱雑に入っていた内から、アリサちゃんが一本の無骨な鉄の剣を引き抜いて、俺に満面の笑みで見せて来る。
「……アリサちゃん。何だかこの状況を楽しんでない?」
そんなアリサちゃんとは対照的に俺は呆れ混じれの溜息を吐き出した。
「良いじゃない!こんな経験、普通は出来そうに無いんだし。それよりこの剣良いと思わない?」
「……まあ、不安がられるよりはずっと良いけどさ……剣なんて買っても、俺とアリサちゃんには使いこなせないでしょ」
剣を引き抜いたアリサちゃんの足元を見ればすぐに分かる。
剣の自重を支えきれず、両足が生まれたての子馬の様に震えているのだ。
そもそもアリサちゃんが持っている剣は、どう見ても大人用に作られているのである。
小学生の俺達が扱うには、サイズ違いにも程があると言うものだ。
「そうだぜお穣ちゃん。そこの坊主の言う通り、武器ってえのは、自分に合ったものを選ばなけりゃ意味がねえ」
俺とアリサちゃんのやり取りを見ていた、この店の店主のおじさんが、カウンターから助言を呈してくる。
「ここはプロの人に見繕ってもらった方が良いと思うよ?」
「……しょうがないわね」
アリサちゃんは渋りながらそう言うと、樽に剣を戻して、おじさんが用意してくれた台座から飛び降りた。
そもそも台に登らなければ、柄すらも掴めない長さの剣を使おうとする方に無理がある様な気がするんだけど……
「そう言う訳で、お願い出来ますか?」
「がはははは!良いぜ!俺がお前達に、丁度良い武器を見繕ってやる!」
改めて俺が頼むと、おじさんは豪快な笑い声を上げながら、カウンターから出て来て、店内の武器から選別を開始した。
俺とアリサちゃんは現在この店……正式な名前は知らないが周囲の人達には、武器屋と呼ばれているその店に文字通り武器を求めてやってきた。
この武器屋の店主で、ボディービルダー並に筋肉が発達した凄い身体の持ち主でもある、ガロックさんに武器を選んでもらっている間に、俺は考える事にした。
俺が考える事はただ一つ。
何故この様な状況になってしまったのかという事だ。
俺の体感時間では、まだ数時間前の出来事になるのだが、記憶が確かならば、俺はシードに変身して海鳴で暴れていたホルダーと戦っていた筈なのである。
それで戦っている時に、偶然アリサちゃんが通り掛かって、ホルダーが妙な光を放ったと思ったら……
「気がついたらこんな格好で、アリサちゃんと二人で森の中に居たんだよな……」
俺は自分の格好と、目の前で無邪気にはしゃぐアリサちゃんを交互に見ながら呟く。
そもそも気がついたら変身が解けていたという時点でおかしいのだが、ホルダー反応をキャッチした時、俺は学校の帰宅途中で、当然ながら制服を着ていた筈なのだ。
だが実際に俺が着ていた服は、茶色いジャケットと、シンプルな同色のズボンに、皮製のブーツという、中世をイメージしたロールプレイングゲームに出てくる村人Aの様な格好をしていた。
俺がそうだったという事は、勿論アリサちゃんも学校帰りで、制服姿だったのだが、森の中に居た時には、細かい刺繍が縫い付けられた白いローブを纏った姿になっていたのである。
森には俺とアリサちゃん以外には人気も感じなかったので、兎に角移動しようと言う事になり、移動を開始して暫く歩き続けると、森を抜ける事が出来たのだが、俺とアリサちゃんはその先にあるものを見て、驚きの声を上げる事となった。
森を抜けた草原の先には、巨大な白い洋式建築の城が建ち、その城を囲う様にして様々な建物が広がっていて、それはまさに中世の城と城下町という風情だった。
この謎の状況を少しでも理解する為に、町に入った事で気づいたのだが、半ば俺が予想していた通り、現代の日本とは大きく技術水準が異なっているという事実に気づいた。
そして更なる情報を得ようと、中央の広場まで行ってから、其処に立てられていた看板を見てみると、更に驚く事となったのである。
看板の文字は、何故か日本語で書かれていたのだ。
明らかにこの場所が日本じゃないというのにも関わらず、どうして当然の様に日本の文字が使われているのだろうか……
更に道行く人達の会話を聞いて見ると、やはりはっきりと日本語で会話をしていた。
当然の事ながら、この町の住人は見た目からして日本人には見えない。
アリサちゃんの様に、日本人じゃなくても日本語を日常的に話す人は居ると思うが、見るからに日本とは思えない土地で、日常的に日本語を使うという光景は客観的に見て、些か異常に見える。
右も左も分からないこの状況下で、言葉と文字という情報媒体を理解出来るのは、正直なところ、ありがたいのだが、だからこそ現状の把握が困難だとも言えた……
俺は現状に困惑しながらも、貴重な情報源である、看板に書かれた文章を読んで見る事にした。
日本語で書かれていたので、文章を読む事に苦は無かったのだが、その内容に俺はまたしても頭を悩ませる事となった……その内容なのだが……
【魔王討伐の勇者を求む!我こそはと思う者は城に来られたし】
と書かれていたのである。
魔王に勇者……
広場の中央に立派に立てられた看板に、途轍もなくファンタジーな単語が書かれていたら、それは驚くだろう。
だが事態はここで思わぬ展開を見せる事となった。
その原因はアリサちゃんである。
アリサちゃんも、俺と同じ様に、看板に書かれた文章を読んでいたらしく、城に行ってみようと目を期待に輝かせながら言ってきたのだ。
そのやけに高いテンションに、若干引きつつ俺が訳を聞いてみると、即答でアリサちゃんはこう答えた。
【やっぱり冒険の王道よね!はやてから借りたゲームと内容がソックリだし!】
……どうやらアリサちゃんは、現実離れしたこの状況を夢だと解釈したらしい。
まあ、現実に訳も分からず異世界に飛ばされたと解釈するよりも、その方が現実味を帯びているし……あながちアリサちゃんの考えは間違っていないのではと、俺も考えているからだ。
まずこの世界は、色々と不自然な点が多い。
使われている言語や文字が日本基準だというのも、その違和感に拍車を掛けているのも事実なのだが、この世界が何処か見覚え……いや、あるものとソックリだというのが、一番の要因だろう。
この世界はあまりにも似すぎているからだ。
看板の文章を読んだ後にアリサちゃんも言っていたのだが、はやてちゃんが持っていたTVゲームに内容が酷似していたのである。
ファイナルクエストというタイトルのロールプレイングゲームで、異世界から偶然に迷い込んだ主人公が魔王を倒すという、シンプルなストーリーだったのだが、その序盤の件《くだり》と俺達のここまでの状況が、瓜二つだった事を思えば、アリサちゃんがこの世界を夢の中での出来事だと考えるのも無理は無いかもしれない。
まあ、色々と考えてみたところで、答えが出ないのも事実であり、何の手掛かりも無い現状では、アリサちゃんの言っていた通り、城に行ってみるのも一つの手段だと考えた俺は、アリサちゃんと一緒に城に向かい、門番の兵士に看板を見て来た事を伝えると、城の中に通されて、王様と謁見する事になった。
王様と謁見した俺とアリサちゃんは、本当のゲームの様な御都合主義の元に、勇者と認定されて準備資金と、魔王の住む居城までの地図を渡されて、こうして城下町のガロックさんが営む武器屋で装備を整えている訳だ。
現実では有り得ない都合の良さと話の流れに、益々この世界が現実世界では無い様に思えてくる。
「これなんかがお勧めだぜ!」
店内の武器から選別を終えたガロックさんが、そう言ってカウンターに俺とアリサちゃんを呼び寄せた。
「まずは坊主の装備からだ」
「これって……ナイフ?」
ガロックさんが俺に渡してきた武器は、水色の柄と同色の薄い刃を持った小さなナイフだった。
「そいつはフリーズナイフって武器さ。そのナイフ自体に水魔法が掛けられていてな、意識して振れば氷を飛ばしたり、刃に氷を纏わせて攻撃する事も出来るこの店自慢の一品だぜ。魔法で出来た氷に重さは無いし、ナイフも坊主が使う分には大丈夫だろうよ」
「へえ……」
フリーズナイフの説明を聞きながら、俺が意識して柄を握ってみると、本当にフリーズナイフの刃に氷が形成された。
勇者と魔王という単語が出てきた時点で、予測はしていたのだが、魔法の概念がある事を直接この目にした事で、益々この世界がゲームの中なのではないかと思えてくる……
「凄いじゃない純!」
アリサちゃんは俺がナイフに氷を纏わせるのを見て、若干興奮気味に声を上げる。
「ねえ!私の武器はどんな武器なの!?」
「がはははは!!!ちょっと待ってな。穣ちゃんの武器も今出してやるからよ」
ガロットさんは、アリサちゃんの催促に、豪快な笑い声を上げながら答えると、カウンターの下から演奏の指揮者が振るうタクトの様な物を取り出した。
「これが私の武器?」
アリサちゃんはタクトを受け取り、不思議そうに眺めている。
確かに俺が渡されたナイフと違い、タクトを渡されて武器だと言われても、すぐに納得する事は出来ないだろう。
「そいつはウインドタクトっいう坊主に渡したナイフと同じ、魔法の効果が付属した武器さ。このタクトは使用者の魔力を風に変える事が出来る、魔法使いの穣ちゃんにはぴったりの武器だろ」
「え!?私って魔法使いなの!?」
「ん?その格好を見りゃ誰だって分かるだろ。穣ちゃんが着てるのは王都の魔法学院の制服だからな」
驚くアリサちゃんに対して、ガロックさんが当然の様に告げる。
突然出てきた新たな設定に、俺も唖然とするしかない。
「まあ、試しにタクトを振ってみろ」
「そ、それじゃあ行くわよ……」
ガロックさんに促されるままに、アリサちゃんがタクトを軽く振るうと、室内にも関わらず微風が発生した。
「ほ、本当に出来た……」
部屋の中で風を感じながら、アリサちゃんが呟く。
「穣ちゃんの魔力なら、もっと思い切り振ればモンスターを吹き飛ばす事だって出来る筈だぜ」
「凄い……凄いわ!!!」
「あ!?」
気づいた時には遅かった……
実際に魔法を使った事でテンションの上がったアリサちゃんがタクトを思い切り振った事により、突風が発生して、武器屋を吹き飛ばした。
御免なさいガロックさん……
「ここが魔王の住む城なのね……」
「うん。やっと辿り着いたんだ」
魔王の居城を目指し、俺とアリサちゃんは様々な冒険を経て……という事は無く、町を出て歩いて三時間程で城の見える場所までやって来た。
この世界の元になった可能性が高いと思われるファイナルクエストも、ロールプレイングというジャンルではあるものの、比較的に短時間でクリア出来るアクションを重視した仕様になっており、普通にプレイしていても、一日程度でクリア出来る様に作られている。
ちなみに俺が知るこのゲームの持ち主の一人であるはやてちゃんは、五時間でクリアしたという中々のゲーマーだ。
「さあ!行くわよ純!!!」
「う、うん」
アリサちゃんの先導で、俺達は魔王の居城を目指して再び歩き出す。
魔王の住む居城を目指して歩き出してから数分が経った頃だろうか……
「「「ぐけけけけけええええええええええええ!!!!」」」
突如として見た目は鷲に良く似た鳥形のモンスターが奇声をはっしながら、三匹も襲い掛かってきた。
「やっぱりモンスターも居るんだな……」
魔王退治に出発してから、目的地が見えるまで、全く出てこなかったので、実は居ないのではないかと思っていたのだが、どうもそんなに都合良くは行かないらしい。
だとしても出てくるのが遅いのは、事実だけど、どうせ出て来るのが遅いなら、いっその事、最後まで出て来るんじゃないと声を大にして俺は言いたいところだ。
「やっと出てきたわねモンスター!」
完全にこの現状を夢だと思っているアリサちゃんは、モンスターに恐怖を覚えるどころか、戦いたくてうずうずしていたので、ここまでのフラストレーションを襲い掛かるモンスター達にぶつけるかの如く、思い切りタクトを振るった。
「エアストーム!!!」
ガロックさんの武器屋を吹き飛ばしたのと同じ突風が、モンスター達に襲い掛かる。
ちなみに流石に三時間以上歩いているだけというのも暇なので、俺とアリサちゃんは武器屋で買った武器を使用した技の名前を考えながらここまで来たのだが、先程アリサちゃんが叫んだ日常生活では使いそうに無い単語もその一つだ。
「今よ純!」
アリサちゃんが俺に向かって叫ぶ。
「分かったよ!」
俺も武器であるナイフを鞘から抜いて、技名を叫ぶ。
「アイスエッジ」
俺の叫びに呼応して、ナイフの刃を覆う様にして氷の刃が新たに形成されて、ショートソード程の大きさに変わる。
「たあああああああ!」
アリサちゃんの放った、ガロックさんの武器屋を吹き飛ばす程の突風をまともに受けて、空中でのコントロールを失った鷲似のモンスターに、氷の刃による斬撃をお見舞いする。
ナイフの一撃を受けたモンスター達は、切り口から氷付けになり、最後は跡形も無く砕け散った。
「やったわね純!!!」
その様子を見て、アリサちゃんがモンスターとの戦闘による初勝利に、喜びながら俺の隣までやって来る。
「う、うん。そうだね……」
「何よ浮かない顔しちゃって」
「い、いや、何でも無いよ。それより先を急ごう!」
「ふ~ん……まあ良いわ。確かに魔王の住む城はすぐそこだしね」
戦闘を終えた俺達は、再び目的地である魔王の住む居城を目指して歩き出した。
辺りを警戒しつつ歩きながら、俺はここまでの部分も含めて先程の戦いで気づいた事を考察する。
アリサちゃんには何でも無いと言ったが、この世界はやっぱり不自然だ。
確かにアリサちゃんが言っていた通り、ただの夢だと思えば一番辻褄が合う様な気がするが、それにしてはこの世界の感覚はリアル過ぎる。
だが同時に歩いて数時間以上経っているのに、息切れはしないし、さっきの戦闘でも全く疲れていないという、現実では有り得ない現象が俺達に降りかかっているのだ。
まるで映画か何かのバーチャルリアリティを見せられている様な感覚とでも言うのが、一番近いニュアンスになるだろうか。
最も高い可能性はホルダーの能力によるものだと思うのだが、その対処方法が全く思いつかない。
せめてメカ犬が居れば、何か打開策を練る事も出来たのかも知れないが、現状ではお手上げだ。
そもそも変身していた筈なのに、メカ犬と連絡が取れないというのは……
「……待てよ」
メカ犬の事を考えていた時に、俺は一つの違和感を覚えて、思わず呟いてしまう。
幸いにもアリサちゃんには聞こえていなかった様なので、俺は改めて考察を続ける。
考えてみればメカ犬がこの場に居ないのが、そもそも不自然なのではないか俺はと思えてきた。
メカ犬もこの世界に来ていて、別の場所に居るという可能性もあるが、それならば俺はホルダーの光を浴びた時点で、確実にアリサちゃんよりもメカ犬と変身して融合していたのだ、仮に光を浴びた直後に、変身が強制的に解除されていたのだとしても、その時アリサちゃんよりもメカ犬が俺の近くに居たであろう事は確実だろう。
ならば他の理由が存在していたんじゃないのだろうか……
だとしたらそれは何なのか?
メカ犬と俺の違い……もしかしてここは!
「はあああああああああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!」
何処からとも無く、やけに周囲に響く馬鹿笑いが俺の耳に木霊する。
「何なのよこの笑い声は!?」
「アリサちゃん!あの丘の上だ!」
逸早く笑い声の発生箇所を捉えた俺は、目の前の丘の上を指差す。
「漸く辿り着いたか。忌々しき勇者よ!!!」
声の主は丘の上から、俺とアリサちゃんに言い放つ。
見上げるとその姿は、顔がテレビのディスプレイの様になっており、身体の全体にはアルファベットが入った突起が付いているという、特徴的な姿をしていた。
……間違いない。
こいつは俺達がこの世界に来る直前まで戦っていたホルダーだ。
「あんたが魔王ね!!!」
ホルダーに向かってアリサちゃんが、タクトを向ける。
「その通りだ小娘!我こそがこの世界を統べる真の王だ!!!」
現在進行形でこの状況を夢だと解釈しているアリサちゃんの反応に、ホルダーもノリノリで答える。
その高いテンションに、俺は一人着いて行けないと思うが、ホルダーが俺達の前に出てきた事で、一つの確信が持てた。
「行くわよ純!」
「え!?ちょっと行くってまさか!?」
「エアロショット!」
俺が考えている間に、アリサちゃんとホルダーの話が進んでいた様で、気づいた時には、アリサちゃんがタクトを振って、魔法を放っていた。
「ふははははは!!!効かぬはこんなもの!!!!!」
アリサちゃんが放った風の球体は、凄まじい勢いでホルダーに迫っていくが、その攻撃はホルダーの高笑いと共に、拳で叩き落されてしまう。
「くそ!?」
もう少しだけ考えたところだが、時間は待ってくれそうに無い。
俺は考えを纏めるのを、一先ず諦めてナイフを取り出して、思い切り振るう。
「アイスブリッド」
ガロックさんの言っていた通り、ナイフを振るうと、俺の目の前に氷の塊が生成されて、ホルダー目掛けて飛んでいく。
それは本当にゲームで出て来る魔法の様だ。
「効かぬと言っているだろう!!!」
しかし俺の放った氷の塊は、ホルダーが叫びながら繰り出した拳によって、粉々に砕け散ってしまう。
だがここまでは想定済みである。
「アリサちゃん!!!」
「任せなさい!!!」
ここで俺とアリサちゃんは、事前に練っておいた連携技を発動させる。
「フォローウインド!」
アリサちゃんがタクトを下から上に、撫でる様に振り上げると、俺の足元から風が巻き起こり、俺の身体をホルダーの居る丘の上まで押し上げる。
「アイスブレイカー!!!」
魔法の風で、ホルダーの上まで押し上げられた俺は、ナイフを頭上に掲げて意識を集中させる事で、モンスターとの戦闘で使った倍以上の氷の刃をナイフの刀身に纏わせて、大剣にして重力で落下しながら、ホルダーに一撃を見舞う。
「ぬるい……温すぎるわあああああ!!!!」
普通のゲームに出て来る魔王ならば、これで倒せなくても、多少のダメージを負わせる事が出来る筈なのだが、ホルダーは、叫びながら拳を氷の刃にぶつける事で粉砕してしまった。
「うわあああああああああああ!?」
俺はホルダーの反撃に成す統べ無く、地面へと落下していく。
「純!?」
地面に落ちた俺に、アリサちゃんが、急いで駆け寄って来る。
「ちょっと大丈夫なの!?」
「うん。高いところから落ちて、びっくりしただけだから心配しないで」
アリサちゃんを心配させない様に、俺はすぐに立ち上がりながら、村人Aの様な服についた土埃を払う。
いまだに心配そうにアリサちゃんが俺に声を掛けて来るが、ただの強がりではなく、実際に俺は先程の落下によるダメージを全く受けていない。
これがもしも現実ならば今頃、大怪我は免れなかっただろう。
そして俺は、このホルダーとの一連の戦闘で、益々確信を持つ事になった。
「ふん!勇者という者の力はその程度か」
丘の上から飛び降りてきたホルダーが、俺とアリサちゃんを見て、ふてぶてしい台詞を吐く。
忌々しいが、俺の予想が正しいなら、現状ではこのホルダーを倒す事は俺達には不可能だ。
正確に言うのであれば、この世界の戒律に縛られている限りはという事だが……
『……マスター……聞こえるか……マスター……』
ホルダーが此方に近づこうと歩き始めた矢先に、俺にとって待ち焦がれた声が何処からとも無く聞こえて来た。
「ど、何処だ!?何処から聞こえている!?」
その声に動揺したのか、先程までの自信に満ちた様子は何処へやら、ホルダーは慌てふためきながら、辺りを見渡す。
「この声って……」
その声を聞いたアリサちゃんは、聞き覚えのある声に、ホルダーとは別種の驚きの声を上げる。
「……待ってたぜメカ犬」
そう呟いた俺の手には、確りとタッチノートが握られていた。