魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「ここが、桜子さんが言っていた遺跡か……」
長野県の九郎ヶ岳でここ最近になり発掘された、古代遺跡を目の前にして、一人の青年が呟いた。
青年の名は、五代雄介《ごだいゆうすけ》。
世界を旅する、冒険家である。
冒険家である彼が、古代遺跡に居るというのは、その職業的に、有り得ない事ではないが、五代にはそれ以外にも、この遺跡を訪れなければならない、理由が存在していた。
話は今から丁度、一年前にまで遡るのだが、この長野県の遺跡で起きた一つの事件を切欠に、未確認生命体と呼称された、謎の怪物が出現したのである。
五代はその事件の翌日、桜子の代わりに、遺跡の調査団の様子を見に来たのだが、彼は其処で不可思議な現象を体験した。
自身の記憶に存在しない筈のイメージが、頭の中に、映像として流れ込んできたのである。
何か大きな意思に導かれる様に、遺跡から持ち出された、霊石アマダムが埋め込まれたベルト、アークルを身に着けた事で五代は、古代の戦士クウガとなり、未確認生命体、グロンギと、一年にも及ぶ長い戦いを繰り広げた。
本来は拳を振るう事を嫌がる程に、五代は優しい心の持ち主だったが、それ以上に未確認生命体により、理不尽に広がる悲しみを、なくす為、皆の笑顔を守る為に、様々な人達の協力を得ながら、戦い抜いたのである。
そして全ての戦いを終えた五代は、再び冒険家として、世界を旅して回っていたのだが、日本を旅立ってから約一年が経つ頃、旅先の宿に、大学時代からの友人である、沢渡桜子《さわたりさくらこ》から、エアメールが届いたのだ。
其処に書かれた内容は、驚くべきものであった。
数日前の台風の影響で、地盤が緩んでいた為か、長野県の九郎ヶ岳の古代遺跡の近くで、土砂崩れが起きたそうだ。
驚くべきなのはここからなのだが、その土砂崩れのあった場所から、新たな遺跡が発見されたのである。
更にその古代遺跡から、リント文字と思われる、古代文字が発見された。
この連絡を受けた五代は、急いで日本に帰国して、懐かしい知り合いとの再会も惜しみ、その遺跡に向かったのである。
「ここが……」
遺跡の中に入った五代は、大人が一人、ぎりぎりで通れる程の、細い通路を抜けて、バスケットコート位の広さを誇る中央の部屋に辿り着くと、その奥にある祭壇を前にして呟いた。
祭壇には大きな扉が設けられており、その扉には古代の文字が刻まれていたのである。
「えっと……」
古代文字を確認した五代は、自身のズボンのポケットに手を突っ込み、一枚の折りたたまれたコピー用紙を取り出して閉じた用紙を開き、中に書かれた内容に目を通す。
其処には桜子が解読した文章の、一部の翻訳されたものが載っていた。
最初の一文には【聖地にて 究極の闇をもたらす者 狭間へと 封ずる 願わくば この眠りが 永久であらんことを】と書かれている。
この文章の内容が意味する聖地とは、この遺跡でまず間違い無いだろう。
分からないのはここから先なのである。
究極の闇をもたらす者というのは、五代の知る限り、一人しかいないのだが、その可能性は極めて低いとしか言い様が無い。
それよりもある意味で気になるのは、狭間に封ずるという部分だった。
狭間という単語が、桜子の翻訳した結果なのだが、それを現代の言葉の意味に、上手く置き換える事が出来ないでいるのだ。
そして、解読を終えた文章の下には、まだ解読の終わっていない一文が書かれている。
文章の解読自体には、まだ多少の時間が掛かり、五代自身も古代文字に書かれている内容を読み取れる訳ではないのだが、最初の一文字だけは理解する事が出来た。
描かれた文字の意味するものは戦士。
それは五代が良く知る特別な言葉だったのだ。
「これって……クウガの事だよな?」
五代は呟きながら、慎重に祭壇に描かれた戦士の文字に触れる。
「え!?」
その瞬間、五代が触れた古代文字が淡く光ると、祭壇の閉ざされた扉が開き、薄暗い遺跡全体が眩い光に包まれた。
ここは何処だろうか?
僕は誰なの?
何も分からない……
唯一覚えている事は僕はずっと昔から眠り続けている……
そしてこれからも……僕は眠り続けなくちゃ駄目だって事だけだ……
僕は永遠にこの闇の中で静かに眠り続ける筈だったのに……
そんな永遠に続くと思われた眠りの中で、誰かが僕を呼んでいる様な気がした……
何処までも続く闇の中に入る筈なのに、目を開けなくても、瞼の上から強く感じる光を見つけた僕は……
ただ無心で、手を伸ばした……
あまりにも長い眠りの中で、多くの事を忘れていた僕は、光を見つけて一つだけ思い出す……
僕はかつて【闇】と呼ばれていた事を……
三月の上旬。
まだまだ寒い日が続くが、それでも少しずつ寒さも和らぎ、春の足音徐々に近づいて来る今日この頃。
俺は学校帰りの途中に、一冊の本を買ってから、海鳴大学病院にやって来ていた。
最初に断っておくが、俺は別に病気でも無いし、身近な知り合いが、現在入院している訳でも無い。
まあ、身近な知り合いでは無いけど、全く無関係という訳でも無いかもしれないが……
病院に着いた俺は、慣れた足取りで、迷わず院内の階段と廊下を突き進み、とある病室へと辿り着く。
「入るね?」
俺は扉を二、三度ノックしてから、病室への扉を開ける。
病室は大部屋では無く、一人用の個室で、室内を換気しているのか、窓に掛けられた白いカーテンが僅かに揺らいでいた。
そしてカーテンと同色の何処か無機質な印象を与える、ベットの上には、この病室の主である一人の青年が、黙々と一冊の本を読んでいる。
「相変わらず本の虫って感じ……」
俺は本を読む青年を見ながら呟く。
この光景を見るのも、既に四日間連続となるので、いつもの光景と言ってしまえば、それまでかも知れないが……
十代後半程に見える見た目と、整った顔立ちに、アルビノと言えば良いのであろうか、綺麗な耳まで掛かる程の白髪と、本の文字に視線を走らせる真紅の瞳が、この部屋を見る者に対して、何処か幻想的な雰囲気を抱かせる。
彼の読書が終了するまで、どれだけ声を掛けても反応しない事を分かってる俺は、溜息を一つ吐き、室内に設置されている椅子を一つ取り出して、彼の読書が一段落するまで、腰を下ろして待つ事にした。
俺がこのアルビノの青年と出会ったのは、今から丁度、一週間前の夕方にまで遡る。
その日の俺は、下校途中にタッチノートから鳴り響いた警報を聞き、いつも通り、一緒に帰宅していたなのはちゃん達に、適当な言い訳をしながら別行動を取って、メカ犬と合流してシードに変身した俺達は、反応元に急いで向かった。
反応元は市街地から少し外れた山間に建つ、既に廃墟となったビルの中からしており、俺達は勿論ビルの中に踏み込んだのだが、ビルの内装は、廃墟とは掛け離れていたのである。
廊下には電気を供給しているのか、配線及び、用途不明の大小様々なパイプ等が張り巡らされており、廃墟というよりは、何かの研究施設というような様相を呈していた。
俺とメカ犬の間で、こういった事をする奴に多少の心当たりが有りながらも、兎に角反応元に徐々に近づいて行くと、辿り着いた部屋の扉越しから、何かの機械の駆動音と思える奇怪な音が聞こえてくる。
何かしらの罠かもしれないと考慮しつつ、俺達がその部屋に踏み込むと、薄暗い照明の下に、用途不明な機材が室内のあちこちに点在しており、その部屋の中央には、扉越しにも聞こえていた音の発生源であろう、全長二メートル程の謎の筒が鎮座していた。
そしてその筒の両脇には、俺達の予想通り二体の異形、オーバーとメルトが居たのである。
何を企んでいるのか知らないが、明らかに部屋の中央に鎮座する謎の筒が、ろくでも無い事を引き起こすと感じた俺は、邪魔される前に速攻でライダーパンチを謎の筒に叩き込む事で盛大な爆発を起こして、部屋ごと木端微塵に吹き飛んだ。
結局オーバーとメルトには、爆発のどさくさに紛れて逃げられてしまったのだが、以前の様にこの世界がWの世界と融合するという様な、特殊な事象は起きなかったので、安堵したのだが、この事件はそれだけでは終わらなかったのである。
爆発によって生じた大量の煙が風に流されて、辺りの景色を視界に捉える事が可能となった時、俺は見つけてしまったのだ。
謎の筒の残骸の中に倒れている一人の人間の姿を……
その人こそが、このアルビノの青年である。
爆発に巻き込まれて、大怪我をしているという訳では無かったようなのだが、素人目に見ても酷く衰弱していたのが分かったので、俺は急いで青年を病院に運んだ。
利用する機会が多い上に、個人的にも知り合いが居るという事もあり、青年を海鳴大学病院に運んだのだが、その選択は正解だったかもしれない。
この青年は、身分を証明する物を何も所持していなかったのだ。
そもそも倒れていた青年は、衣服を何も身に着けていなかったので、それも当然なのだが……
後日に改めて、廃墟のビルに赴いて、メカ犬とメカ竜、メカ海、メカ虎にも青年の衣服か何か残っていないかと、捜索したのだが、何の見つける事は出来なかった。
青年を病院に運び、その翌日に廃墟を探索した更に翌日、病院から連絡が入り、青年が目を覚ましたという知らせが、俺の下に届いた。
病院側には、俺が通りがかった道端で、偶然倒れている青年を発見して、幸いにも病院が近かったから、何とか引き摺って来たと説明してあるので、本来ならば、第一発見者というだけな子供の俺に、こんな連絡が来る筈は無いのだが、青年の担当となったのが、はやてちゃんの主治医もしている石田先生という事もあり、目を覚ましたら連絡をしてくれる様に頼んだら快く引き受けてくれたのである。
学校から帰った後に、母さんから病院から連絡があった事を知らされた俺は急いで病院に向かったのだが、俺は其処でまたしても驚く事となった。
石田先生の話によると、青年は見た目通り、外傷は特に無く、ただ酷い衰弱状態となっていたので、しばらくは入院が必要だが、命に別状は無いらしい……
しかし一つだけ大きな問題があったのだ。
青年は一切、言葉を喋らなかったのである。
それどころか日本語すら理解していないそうなのだ。
身元も不明な上に、会話すら成立しない。
顔立ちは日本人に見えなくも無いが、アルビノの為、本当に日本人かどうかも確認するのは難しいだろう。
純粋に心配だったし、何故あんな場所に倒れていたのか知りたいと思っていたのだが、現状ではどうにもならない。
俺は石田先生との話を終えた後、この病院の院長のお孫さんでもある、みかんちゃんに遊ぼうとねだられて、絵本を読んであげる事になった。
これで五冊目となるところで、みかんちゃんが寝てしまったので、近くに居た看護士さんに後を任せる事にした俺は、みかんちゃんが持ってきた本を、院内の図書コーナーに返しに行こうと、廊下を歩いていると、偶然にも青年の居る病室の前を通りかかった。
日本語が通用しないとは石田先生から聞いていたが、全く縁が無いという訳でもないので、一言だけでも声を掛けておこうと思い、俺は病室の扉を軽く叩いてから部屋に入った。
青年は俺が入って来ても、微動だにせず、ただベットに腰を掛けて、正面を見据え続けていた。
俺が目を覚まして良かったですねと言うと、青年は僅かに反応して、視線を此方に向ける。
それからすぐ青年の視線は、俺の顔から下に向けられて、ある一点をじっと見つめ続けたので、その視線を辿ってみると、それはこれから図書コーナーに返しに行く予定だった絵本に向けられていた。
興味があるのかと思い、身振り手振りで聴いてみると、何とか意思が通じたのか、青年は僅かに首を縦に振った。
俺は何故か分からないが、青年のその仕草を見て大人の容姿をしている彼が、みかんちゃん以上の純真な子供の様に見えてしまい、ベットの脇に座ると、理解出来ないと分かっていてながらも、みかんちゃんに読み聞かせたのと同じ様に、絵本の朗読をした。
手持ちの本を全て読み終えた後、彼は意味を理解しているのかどうなのか、絵本を手に取り、真剣に読み始めたのである。
その様子に、何処か赤ん坊時代に俺の真似をしたがり、良く後ろで本を読む真似事をしていたなのはちゃんを思い出して、微笑ましくなった。
青年の絵本に向ける真紅の瞳は、それほどに無垢だと俺は感じたのだ。
その後も俺は、三日連続で病院を訪れては、青年に絵本を読み聞かせた。
そして今日、これだけ本に興味を示すのであれば、もしかしたら日本語を覚える事が出来るのではないかと考えた俺は、低学年向けの国語ドリルを買ってきたのである。
椅子に座って、彼の読書が終わるのを待ち始めてから、五分程経った頃だろうか。
絵本を閉じた青年は、視線を俺に向けてから、微笑みながら口を開いた。
「……こ、こん……に……ちは」
俺はこの日、初めて青年の声を聞く事になった。