RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜   作:スプライト1202

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うおっ、評価くれた人ありがとう。
おかげで過去のコメント付き評価見れるようになったわ。
(ページをブクマしただけとも言う)


マッテル×ト×マッテテ

 それはまさに悪魔の発想だった。

 運命を捻じ曲げる――未来を知るラプラスの悪魔にしかできぬ所業。

 

「ここで俺がマチを流星街の外に連れ出せば、旅団に入らなくて済むんじゃ? ただの女の子として幸せに暮らせるんじゃ……?」

 

 ――なにをバカなっ!

 

 かぶりを振る。

 旅団に入るのが不幸だなんてだれが決めた!? むしろ旅団こそがマチの性に合った居場所。マチの幸せを俺が勝手に決めるなんて、おこがましいにもほどがある!

 

 そしてなにより――俺に原作を変える権利なんてあるのか? そんなことをして、未来にいったいどれほどの影響がある!? 取り返しのつかない事態を引き起こすんじゃないのか!? その責任をお前が取れるのか!?

 

 しかし、頭の中ではマチを連れ出す計画を立てている。

 先に出て、マチを連れ出す資金が貯まり次第すぐに迎えに来る? いや、ダメだ。旅団の結成が来年だとしたら、出会うのはもっと前でもおかしくない。クロロたちとマチがまだ出会っていない、今じゃないとダメなんだ。

 

 ……そうだ。資金なんて道中で貯めればいいじゃないか。俺たちは子供の上、国籍も身分を証明できるものもない。非常に難しいだろうが不可能でもない。

 マチを連れて行こう。俺はあいつに……俺は、あいつと――!

 振り返り叫んだ。

 

「マチ! 俺と一緒に――」

 

 

「――あたしは行けない」

 

 

 一緒に行こう――その言葉を最後まで言い切ることはできなかった。

 

「アンタに事情があるように、あたしにも事情がある。だからここにいる。今すぐにここを出ることは……あたしにはできない」

 

「……は、はは。そうか……そう、だよな。そりゃそうだ。考えてみりゃ、当たり前のことだ」

 

 マチにだって事情はある。でなけりゃゴミ山にボロボロで倒れているはずもない。

 

「わかったら、さっさと行きな」

 

 マチに促され、俺はゆっくりと歩き出し――。

 

 

「――でも、誘ってくれてありがと」

 

 

 小さく声が聞こえた。

 ハッと振り返る。もうそこにマチはいない。気づくと俺は叫んでいた。

 

「必ず! 必ず迎えに来るから! 戻ってくるから! だから――待っていてくれ!」

 

 待ってる、ではなく、待ってて。なにかを考えたわけじゃない。自然とそう言葉が出ていた。

 返事はなかった。だが、届いたと思った。

 

 すこしだけ……10秒だけ目を瞑り、それから船へと歩き出した。

 船員には遭遇しなかった。気を引いてくれているのだろう――どこかからマチの声が聞こえていた。俺は船に潜り込み、貨物に紛れた。やがてゴミを捨て終えたのか、船と陸を繋いでいたランプウェイが回収された。

 船がゆるやかに動き出した。

 

 俺は貨物の合間から流星街を――故郷を眺めていた。

 流星街での1年2ヶ月。マチといなかった時間のほうが長い。なのに思い起こそうとすると、マチとのできごとばかりが頭に浮かんだ。

 

 俺はマチに事情を訊ねることができなかった。その権利がなかったのだ。

 だれが言えよう? 自分は事情を隠しておいて――相手の事情は聞かせてくれ、なんて。

 

「いつか……マチを迎えに来たそのときは、話せるだろうか?」

 

 流星街をあとにする――これが正しい選択だったのかどうかもわからない。ただ、船はもう出てしまった。できることは一日でもはやくお金を貯め、マチを迎えに行くことだけ。

 俺はゆっくり瞼を下ろした。

 

 体力を温存しよう。船が着いたらすぐに動き出せるように――。

 

   *  *  *

 

 ――1週間後。

 

 船が港に到着した。俺はランプウェイが渡されると、船員の目を盗みすぐさま船を脱出した。急げ……急ぐんだ! じゃないと……!

 

「げェええええ! ……オロロロロロ!」

 

 吐いた。

 物陰で座り込み、ヒィヒィ悲鳴をあげる。

 

「な、なんとか間に合った……うっぷ。マジで船キツかったよォ……」

 

 ある程度オーラが操作できるようになって、身体も頑丈になったから大丈夫――と油断していた。実際、途中までは大丈夫だったんだが、疲労でオーラの流れが悪くなってくると……。

 

「ホント、ここまでもってよかった」

 

 もし船内で吐いてしまっていたらと思うと……ブルルっ。

 吐瀉物の臭いでバレて捕まるなんて、冗談じゃない。

 

「しかし、そうかァ……もうここ流星街じゃないんだなァ」

 

 潮風に身を任せる。

 思わず周囲の景色に見とれていた。海が澄んでいる。港がまばゆい。それに海の匂いがする。

 

 ここは港でもゴミ捨て船が停泊するような区域――しいていえば工業港に近いだろう。だから、特別きれいなわけじゃない……はずなのに、なにもかもがあの茶色と灰色で塗りつぶされた世界とはちがう。

 あまりに色鮮やかで、目が痛い。匂いだってそうだ。

 

 あまりの情報量に頭がクラクラする。

 いつの間にか、俺はあそこでの生活が馴染んでしまってたらしい。

 

「いつまでも感傷に浸ってる場合じゃないな」

 

 あまりここに長居して、見つかっても困る。

 俺はあたりを見渡しながら、歩きはじめた。

 

「バンダー港……か」

 

 あちこちに『バンダー』の文字が見えた。

 テキトーに船を選んで辿り着いた港――では決してない。狙ってこの船に潜りこんだのだ。ここバンダー港は、天空闘技場にもっとも近い港なのだ。

 

 あの日――ここへの船が出る前日にマチが話を切り出してくれたのは、もしかしたら運命だったのかもしれない。

 いや、ちがうな。マチはきっと気づいていたのだろう。

 

「……勘、かなァ」

 

 あるいは、この地域について調べているのがバレていたのか。

 

 天空闘技場がどこの街にあるのか、原作に記述はない。どころか、国の名前も大陸の名前も出てきていない。

 そのため俺は、拾った地図と船員の会話を照らし合わせるなどして、それぞれの船がどこから来たのか調べていたのだ。……まァ結局、一番参考になったのは捨てられるゴミの内容だったが。

 

「うーん……俺ってスカベンジャーが天職だったのかも」

 

 なんて冗談はさておき。

 やるべきことは多い。服を着替えないと。船内で食料も尽きてしまったし、なにより天空闘技場までの行き方を調べないと。

 

「っし、行こう!」

 

 こうして、ついにはじまった。

 流星街を出てはじめての――新天地での日々が。

 




・小噺
今回出てきたバンダー港は、オリジナル。
南アフリカにあるダーバン港がモデル……つっても、ほとんど名前と場所だけやけど。

現実の世界地図と照らし合わせると、ちょうど天空闘技場のそばにあるし……。
あとは去年、ダーバンに大量のゴミが漂着するって事件があったり……流星街を出てきた主人公が辿り着く場所としてはちょうどええかなァ、と。


なお、現実のダーバンは世界都市ですげー発展してる。
そんな港のある国の隣がジンバブエなんだから、わっかんねーよなァ世界って。



ちなみに、天空闘技場はまさにそのジンバブエの位置にある。
富樫はインフレを見越していた……?

それはさておき。
……んー。天空闘技場の異常な高報酬、152ジェニー以下でジュース買えてる描写さえなければ、物価がアホほど高いとかで言い訳できなくもないんだがなァ。
まァ、そのあたりに関してはいつかほかの解釈つけて説明する。

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