RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜   作:スプライト1202

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ヨサン×ト×ヨハナン

 流星街を出てバンダー港にたどり着いた俺だが……やるべきことはたくさんある。

 まずは着替えだ。流星街から持ってきた、比較的きれいな服を身にまとう。それから……。

 

「お使いできたんです」「天空闘技場ってどうやったら行けますか?」「え? 服が汚い? じつはさっきまで海で遊んでて……」

 

 意外とコトは順調に進んだ。

 お腹も満たせたし、天空闘技場への移動手段も確保した。……まァ、実際の順序としては、先に交通手段を調べてその費用を支払ってから、ご飯を買ったんだが。

 

「いやァ~、っぶねェ。予想よりカツカツだ……」

 

 移動の費用や、かかる時間はかなりのものだった。

 事前にある程度の計算はしていたし、多少は資金にも余裕を持たせていた……んだが。正直、あの余分だと思っていた3日間がなければ、飲まず食わずになっていたかも。ほんと、アレもコレも高ェ。わかっていたが流星街とは物価が全然ちがう。

 

 最悪、交通費が足りない場合は無賃乗車でもなんでもするつもりだったが……足りてよかった。食費のほうはこのままじゃ天空闘技場まで持たなさそうだが……多少の空腹ならガマンしてトラブルを避けたほうが賢明だろう。

 

 購入していたキップを持って、駅へ。

 交通手段に選んだのは鉄道だ。というか一択だった。子供一人、身分証なしで乗れる長距離の移動手段がそれしかなかったのだ。本当は同じ値段でもっとはやく着く、高速バスを利用したかったのだが……。

 

「おや? キミひとりかい?」

 

「はい、おばあちゃんの家まで。お母さんが練習だって」

 

「うーん……大丈夫かい?」

 

「はい。でも……困ったことがあったら助けてくれますか?」

 

「もちろんだとも。……そうだね。私たちがしっかり見ていれば問題ないか」

 

「ありがとうございます」

 

「それでは、よい旅を」

 

 キップを切ってもらい、車両に乗り込んだ。座席に着き、ようやく一息。……はァ~、一番の難関は越えた。

 しっかし……。

 

「目的地まで1500キロかァ……最寄りの港からでこれだもんなァ」

 

 うろ覚えだが、東京-大阪間ってたしか500キロくらいじゃなかったっけ? だとしたら……うわっ、1往復半もできる距離じゃん!? そりゃ金も時間もかかるわけだ……。

 

 そんなわけで天空闘技場まで1本じゃいけないらしい。一度途中の街――ヨハナンという街を経由することになるそうだ。チケットも改めてそこで買う必要があるのだと。

 

「移動に10時間と15時間かァ……」

 

 バンダーからヨハナンまでと、ヨハナンから天空闘技場まで。

 長旅になる。しかし、ゴミ山や船の上に比べればずっと快適。俺は久々に、じっくりと『纏』の修行に打ち込んだ。

 ここ1週間は『点』――精神集中の修行しかしてなかった。逆に『点』の修行には全力だったけど。だって……船酔いに耐えるために必死だったから。

 

 旅はまだまだ長い……。

 

   *  *  *

 

「――ん~~~~~~!」

 

 凝り固まった身体を伸びでほぐす。10時間……長かった。ようやくヨハナン。まだこれからも列車に乗らなきゃいけない。しかしこんな快適な快適な旅なら大歓迎だ。

 正直、かつてないくらいぐっすりだった。……うん、『纏』の修行できてねェ。でも許してくれ。疲れが溜まってるってヤツだったんだにゃあ。

 

「……しかし、うっかりしてたな。到着時刻を考慮してなかった」

 

 ヨハナンに到着したのは深夜だった。どうやら次の天空闘技場行きの列車が出るのは明日の朝になるらしい。それまでどこかで時間をつぶさないといけない。

 ほかの乗客たちは当然、ホテルへ行くようだが……俺にそんな金はない。

 

「んー、どうしたもんか」

 

 駅の待合室で時間をつぶす――眠るか。しかし、うーん……さっきまで熟睡だったせいで、全っ然眠くないんだよなァ。

 迷って……結局、駅を出てブラブラと歩くことを選んだ。

 

「まだ、あちこち店開いてるんだな」

 

 といっても駅周辺だから、だろう。俺のように時間を持て余した人はいるはずだから。しかし、駅周辺だけあって高い。お腹は空いたが、手を出せる金額じゃない。

 

「んー、もうすこし行ったら安いものとか売ってないかな」

 

 ぽつんと1軒、離れた位置に明かりを見つける。

 近づいてみると、パンを売っているらしい。値段を見ると、ほかの店に比べてかなりリーズナブルだ。ひとつ購入しても、天空闘技場までのチケットは十分買える。

 一番安いやつを指さし、注文する。

 

「……100ジェニーだよ」

 

 こんな時間に子供ひとりだったからだろう。やや眉を顰め、しかし淡々と値段を告げてくる。面倒ごとには関わらないというスタイルらしい。俺にとしてもありがたい。

 俺はサイフからなけなしの100ジェニー硬貨を取り出し……。

 

「あっ」

 

 チャリン、と硬貨の跳ねる音が響いた。落ちてしまった硬貨を探す。暗くてよく見えない。んー、どこだ? えーっと……おっ、あったあった。暗闇の中に『100』の数字を見つける。

 手を伸ばして硬貨を拾おうとして――ざわり、と背筋が凍りつくような感覚。

 

 激しい既視感。吐き気さえ伴うほどに強烈な、イヤな予感。

 

「前にもこんなこと――」

 

 直後だった。

 

 ――ガンっ!

 

 俺は自分の後頭部で音が響くのを聞いた。

 




・小噺
今回登場した『ヨハナン』もオリジナルの地名。
ヨハネスブルグが元ネタ。

バンダー港-ヨハナンの距離や移動時間は、現実のダーバン-ヨハネスブルグの距離や移動時間に基づいている。
具体的には600kmと10時間。

んー……遠い!

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