RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜   作:スプライト1202

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ゴウトウ×ト×コウトウブ

 後頭部に激しい衝撃。俺は頭から地面に倒れた。

 遅れて激痛が走る。

 

「ぐっ……が、はっ……あ、ァ」

 

 痛みで涙があふれる。視界がぐわんぐわんと揺れる。

 なんだ、なにが起きた……?

 

「ひィいいいいい!」

 

「オイ、オッサンは黙ってろ」

 

 パン屋のオヤジの悲鳴が聞こえる。

 ぐいっ、と身体を持ちあげられる。抱き起こされたのかと思いきや、そのまま脇へに放り捨てられた。地面を身体が跳ねる。

 

 揺れる視界に映りこんだのは、高校生くらいに見える2人の青年。1人が手に持つバットを見て、殴られたのだと気づく。

 完全に油断していた。

 

「ほら見ろ、言ったとおりだろ。このガキ結構持ってやがるぜ」

 

「マジじゃねーか。お前ほんと目ェいいな」

 

 俺が見たのは、青年たちが財布から金を抜きとる光景だった。

 ……オイ、なにしてる。それは俺たちが――俺とマチが貯めた金だぞ。天空闘技場へ行くための資金だぞ!

 

「返、せ……」

 

「うわっ、コイツまだ意識あんのか!?」

 

「オイオイ、手加減しやがったのか?」

 

「え? いやァ、殺すつもりで殴ったんだけどなァ」

 

「じゃあ、なんで血も出てねーんだよ」

 

「ん~……オレ子供に優しいから? 無意識に手加減しちゃった? みたいな?」

 

「どの口で言いやがるんだか」

 

「ギャハハハハ!」

 

 俺は這いずり、青年の足を掴んだ。

 

「返、せェ……!」

 

「あーもう、ウッゼー……なッ!」

 

 ――ドッ!

 

 つま先が腹に突き刺さる。俺はえずき、腹を抱えて団子になった。

 脳が揺れていたせいか、うまくオーラでガードできなかった。痛い……痛い、痛い、痛いっ! 苦しい、ツラい――だが、それ以上に。

 

「がえ……ぜェっ……、返ぜェ……!」

 

 怒りが、あるいはべつの感情が胸中に溢れていた。

 

「オイオイ、まだ元気なのかよ。どんだけタフなんだコイツ?」

 

「あーじゃあ、オレがもう一発バットで……ん? やばっ!?」

 

「クソッ、金は貰ったし、もう行くぞ!」

 

「うっす」

 

 足音が遠のいていく。

 代わりに、サイレンの音が近づいてくる。

 

「あァ、クソ。最悪だっ……なんでオレが巻き込まねりゃいけねェんだ」

 

 パン屋のオヤジの、悪態が聞こえた。

 このサイレンは……警察? それはマズい。ここで保護と称して連れて行かれでもしたら、目的が果たせなくなる。なにより――。

 

「追わないと……見失う前に」

 

 今ならまだ逃げていった方角がわかる。

 痛む身体を抱えて、立ち上がる。かなりいいのを食らってしまったらしく、ジンジンと痛みがあとを引いている。

 

 まだ頭がフラフラする。壁を支えに歩き出す。ちらりと後ろを見ると、パン屋のオヤジはもう我関せずといった態度でそっぽを向いていた。あの様子なら俺のことを警察に話したりもしないだろう。今はそれが、都合がいい。

 

「絶対に取り返す……」

 

 タダじゃ済まさない。

 青年たちを追いかける。だんだんと駅から離れ、暗闇が濃くなっていく。やがて、目が暗闇に慣れてきたのもあるだろう――ひとつの巨大なシルエットが見えてきた。

 

「……ここか?」

 

 さっきまでは夜の闇に紛れて見えなかったが、すぐ近くに巨大なビルが屹立していた。周囲の建物と比べても飛びぬけて高い。円柱のような変わったデザインだ。……まァ、H×H世界においてはこれも平凡なデザインなのかもしれないが。

 

「行こう」

 

 一般人程度なら不意を突かれない限りは大丈夫だ。今はもう、さっきみたいな油断もない。

 

 ビルに足を踏み入れる。ビルの中は張り詰めたような空気――静けさに包まれていた。イヤな空気だ。緊張で手に汗がにじんだ。ごくり、と唾を飲み込む音が妙に響いて聞こえた。

 進んでいくと、吹き抜けに出た。夜空が見える。この建物が円柱ではなく、筒状であったことを知る。

 

 俺はかつてない集中力を発揮していた。そのおかげだろう。身体にオーラを充満させ、なんとか垂れ流すオーラを絞ることが――『纏』モドキを維持できていた。動きながらでも。

 

 これが最初から――常にできていれば、あんな奇襲で倒れることなんてなかったろう。己の未熟に腹が立つ。

 そもそも、油断しなければこんなことには……。ここは安全な日本でも、慣れた流星街でもないんだぞ。自分の甘さがイヤになる。

 

「……見られてる、な」

 

 静かだ。しかし、無人の静けさではない。たくさんの気配を――息を潜めているのがわかる。実際、ビルの中には多くの生活跡があった。

 いったいどこから見ている……? そう、周囲へ視線を向け――。

 

「――なんで知らねェガキがここにいるんだ?」

 

「っ!?」

 

 真後ろだった。

 慌てて飛び退いた。暗闇の中に、だれかがいる。

 

 ――いつの間に? さっきまで俺がいた場所だぞ……?

 

 足音がだんだんと近づいてくる。吹き抜けに差し掛かり、星明かりがその人物の姿を照らし出した。そこに立っていたのは髪を逆立てた大男……。

 

 その大男の姿を見た瞬間、ざわっと身体中の表皮が泡立つような感覚に襲われた。

 ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 

 ――あとになって考えてみると。

 

 金は諦めればよかったんだ。取り返せるかもわからない金を追いかけるより、無賃乗車するがずっと簡単だったろう。

 けれど、あのときの俺にはそんなこと思いつかなくて。奪われた金を取り戻す――そのことで頭がいっぱいだった。

 

 それに驕りもあった。一般人2人にやられたのは、あくまで不意を突かれたから。正面から戦えば、精孔を開いた俺なら――たとえケンカの経験すらなくたって、その程度は相手にもならないだろう、と。

 

 ……俺は心底後悔していた。

 ほんと、なにやってんだ。なんでこんな選択をしちまったんだろう。……きっと頭を殴られたせいだ。それで冷静な判断ができなくなっていたんだ。そうにちがいない。

 たしかに特別な金だった。でも……。

 

 ――だからって、命以上の価値はなかったはずだ。

 

 少なくとも無賃乗車なら、バレても死の危険性はなかったはずだ。

 

「オイ、オレはテメェに聞いてるんだぜ、そこのガキ。だれに断ってここにいる? ここがクート盗賊団のナワバリだって知っての行動か?」

 

 俺は目の前にいる人物の名前をこぼしていた。

 

 

「――レイザー」

 

 

 平然と人を殺めることのできる、悪魔の姿がそこにはあった。

 




・小噺
うーん……地名と地名で説明がダブってしまった。
前回、前々回に引き続き今回も舞台の説明。天空闘技場周りの設定が原作に出てないのが悪い。


今回出てきたビルは現実の『ポンテシティアパート』がモデル。
地上173m、54階建てのビル。これがまるごとスラム(というと若干語弊があるが)だったんだからすごい。

いろんな映画作品の舞台にもなってる。
自分がこのビルを知ったきっかけは『ドレッド』って映画。『チャッピー』で見たって人も多いかも。
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