RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
――あァ、ムリだ。
目の前に立つレイザーを見て思う。レイザーは完全に無防備だ。オーラもほとんど出していない。だが……。
――勝てない。
もしも俺がレイザーのことを知らなければ、騙されていたかもしれない。だが、よく見ればわかる。
内に秘められたオーラの量も、その洗練された流れも、体格も、戦闘技術も、意志も……なにもかも敵わない。
「……あっ、あっ」
恐怖に喉が引きつる。金なんてもうどうでもいい。今すぐ逃げだしたい。けれど来た道にはレイザーが立ちふさがっている。いやそもそも、足がすくんで動かない――自分の思い通りに身体が動かない。
「オイオイ、どうかしたのか? オレは訊ねてるだけだぜ?」
レイザーが一歩近づく。俺は押されるように――足が勝手に、一歩下がった。本能がそうさせていた。それを見たレイザーが呆れたような息を吐く。
「なんだそりゃ? さっきまでの『やってやる』ってオーラはどうした。……はァ。その歳でヘタクソなりにオーラ扱えてんだ。ちったァ骨のあるヤツかと思ったんだがよォ」
「っ……」
ダメだ……オーラの流れで感情が読まれている。直感する――もし、逃げるような素振りを見せれば、1秒後に俺は死ぬ。
……くそっ! なんでレイザーがこんなところにいるんだよ!? それに、クート盗賊団だって!?
たしかに、レイザーが元はクート盗賊団だった、という考察をネットで見たことがある。しかしそれは、根も葉もないウワサだったはずだ。……はず、なのに。
「で、なんでここにいる?」
ウソを吐けばオーラでバレるかもしれない。脳裏を、ピトーを見張るゴンの姿がよぎっていた。
俺は震える声で答える。
「……俺から金を盗んだ2人組を追ってきた」
「それで? どうするつもりだ?」
「金はもう諦めて、帰る」
「へェ? どうやって?」
「っ――!」
圧迫感が増す。
錯覚だ。わかっている。レイザーはオーラを出してすらいない。けれど、まるでレイザーのオーラが――殺意が俺を取り囲み、押しつぶさんとしているように見えた。
「そう警戒するなよ。帰さないなんて言ってないだろ? そうだな、ここから出たいなら通行料として――100万J(ジェニー)払ってもらおうか」
「なっ――」
こいつ、わかってて聞いてやがる! 先ほど、金を盗られたと言ったばかりなのに。
だいたいレイザーほどの実力があれば100万ジェニーなんてはした金のはずだ! きっと、金額なんてなんでもよかったんだろう。最初から帰す気なんてないんだから。
「どうした? 払えないのか? なら仕方ないな。足りない分は、ウチで働いて返してもらうとしよう」
「……は?」
冗談じゃない! 俺に盗賊をやれだって!? そんな条件飲めるはずが――。
「やってくれるよな? でなきゃ落とし前がつかんだろ。なァ?」
「……お、俺はこれから天空闘技場へ行くから、その賞金で」
「ダメだな。今払うか、働くかのどっちかだ。で、払えるのか?」
「……払えま、せん」
「決まりだ。お前には明日から働いてもらう。ま、精々がんばるんだな」
「っ……」
「返事はどうした?」
「……は、い」
「あァ、そうそう。逃げたいなら逃げていいぜ」
言って、レイザーは去っていく。どっと汗が噴き出す。その場に崩れ落ちた。
逃げ出す? とんでもない。そんな気は微塵も湧かない。
しばらく、ぼうっとしていると、入口からゾロゾロと人が現れる。――いったい、これだけの人数がどこに隠れてたんだ? レイザーのときと同様、気づかなかった。全員、それだけの実力があるということだろう。
その中の1人がポンと俺の肩に手を置いた。
「命拾いしたなァ」
言われて気づく。レイザーがオーラを出していなかったのも、逃げてもいいなんて言ったのも……全部、甘いワナだったのだと。
「ッ……! はっ……はっ……!」
今さら、恐怖で過呼吸のようになる。
俺――死んでた。ひとつでも行動がちがってたら、その瞬間に殺されてた。
「あーでも、つっまんねェ。最初に見つけたのがオレなら、すぐに殺してやったのに」
「まァ、そう言うなって。力の差がわかるくらいの実力はあった、ってこったろ。大体、暴れたいなら明日があるだろ」
「そうだったそうだった」
「……あ、明日?」
俺は知らず、問いをこぼしていた。
盗賊の一味は凶悪な笑みを浮かべて答えた。
「あァ、そうだ。明日だよ、新入り。お前は運がいい。なにせ大仕事だ」
「いったいなにを……」
「明日は全員で、とある遺跡の財宝を――根こそぎいただくのさ」
聞いた瞬間、俺の中でなにかが繋がるような気がした。
クート盗賊団に所属するレイザー、とある遺跡の財宝……いや、あれはちがうはずだ。でも、もしかしたら。だとすると……。
「新入り、お前はオレと来い」
「……はい」
今は……ムリだ。でも明日の襲撃の最中、隙を突いて逃げ出す。でなければ――俺はムショにぶち込まれることになる、かもしれない。
俺はその日、眠れなかった。恐怖が俺を寝かせなかった。
――そして、翌朝。
俺は、自分の考えが甘すぎたことに気づく。命を危険にさらしてでも、ムリヤリにでも逃げ出すべきだったと。
* * *
「――あ~、おーい聞こえてるかー? クート盗賊団のクソ野郎どもォー」
朝一。ビルに声が響き渡った。吹き抜けから1階を見下ろす。そこにひとりの男が立っていた。
「テメーら、ずいぶんと楽しいコトをやろうとしてるみてーじゃねーか。悪いコトは言わねーから、手ェ引いとけ。今ならまだ、オレも許してやるよ」
「……ずいぶんと傲慢な客だな、オイ」
レイザーが男の前に姿を現す。
「ん? お前が親玉か?」
「オレはただの雑用係さ。最弱とは言わんがな」
「だろうな。ま、お前でいいや。……で? 引いてくれねーか?」
「引くわけねェだろうが、バカにしてんのか?」
「……はァ~。まァ、だろうとは思ってたけどよ」
「殺す前に名前を聞いてやるよ」
「オレか? オレの名前は――ジン=フリークス」
男は――ジンは、人を食ったような笑みを浮かべて、言った。
「――ハンターだ」
・考察(というか雑談)
クート盗賊団に関して。
作中でも述べているとおりレイザーが所属していたかは不明。根拠がない。
ただ、面白いので採用した。
クート盗賊団にはモデルが存在するのでは? と思い色々調べてみたが……結局わからかずじまい。案外、安直に『強盗→ゴートー→クート』とかなのかもしれない。