RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜   作:スプライト1202

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フトウ×ナ×フコウ

 クート盗賊団の占拠するビルに現れたのは、ジンだった。

 

「……強ェな。だがクート盗賊団にケンカ売って、生きて帰れると思うなよ?」

 

 瞬間、2人の――ジンと、レイザーの姿がブレた。次のタイミングにはもう、両者がこぶしを交わしている。同時にビルの四方八方から人が飛び出し、ジンへと殺到する。

 

 その数は100……1000……いや、それ以上。これだけのサイズのビルを占拠しているのだ。相応の人数がいるのは、考えてみれば当然。しかも、レイザーにも匹敵するオーラを持つものがゴロゴロといる。

 ……デタラメ人間の万国ビックリショーか?

 

 決断は早かった。俺は、この混乱に乗じて逃げ――ようとしたとき。

 

「――フッ!」

 

 レイザーが放出したオーラをスパイクしていた。それが流れ弾となって俺の近くに着弾した。地面が崩壊する。余波で身体が吹き飛ばされる。

 飛んできたガレキが頭に激突するした。意識はブラックアウトし――。

 

 

 ――目を覚ますと俺は、牢屋の中にいた。

 

 

   *  *  *

 

「……なんで、こんなことに」

 

 頭を抱えるが、どうにもならない。

 窓はない。傷はすでに手当されているが、どれくらいの時間が経過したのかは不明。ここがどこなのかもわからない。

 ほかの牢屋を見てみると、隣も向かいも斜めもその先もずっと、クート盗賊団のメンバーだ。

 

「どう考えても俺、誤解されてるよな……」

 

 手錠と呼ぶにはゴツすぎる拘束具を見下ろす。オーラが出せない。どうやら強制的な『絶』の状態にされているらしい。

 それに、拘束具のデザインに見覚えがある。ハンター試験の第3次試験――トリックタワーでジョネスたち犯罪者の腕を封じていたものによく似ているのだ。

 

 思えば、ジョネスは人の肉を指の力でむしる、と言われていたが――本当に指の力だけでコンクリを砕けるかと問われると、疑問符だ。おそらく、無意識にある程度のオーラを扱えていたのだろう。

 

 実際、俺が目を覚ましてから一度、あまりに暴れるメンバーがさらに足を拘束されることがあったのだが……その際、拘束具の内側に神字が刻まれているのが見えた。

 

 この拘束具もだれかの念能力だろうか?

 だとすると、人数上限なしの強制『絶』じゃ汎用性が高すぎるし……自身の手で神字を刻むことが制約、とかだろうか。それなら必然、個数に限りが出てくる。

 そう、よしなしごとを考えていると……。

 

「ん?」

 

 こちらに近づいてくる足音が聞こえた。

 足音は至近にまで迫り――ジンが牢屋の前を横切った。

 

「っ! ま、待っ……」

 

「よくもオレ等をム所にぶち込みやがったな!?」

 

「クソ野郎! ぶっ殺してやる!」

 

「今すぐここから出しやがれェ!」

 

 俺の声は怒声にかき消された。ジンは一斉に浴びせられる怒声を意にも介さず、笑っていた。

 

「おーおー、元気のいいこった。さて、今日はお前らに裁判の結果を持ってきてやったんだが……よろこべ! 全員死刑だとよ」

 

「「「ざっけんなコラァー!」」」

 

「そんな死刑囚どもにオレが選択肢をくれてやる。余生を過ごす場所をお前ら自身に決めさせてやる。――この地下牢か、それとも孤島か。好きに選べ」

 

「……オイ、そいつァどういう意味だ?」

 

 聞こえたのはレイザーの声だった。ここからは見えないが、意外と近いところにいたらしい。

 

「つまりこう言ってんだよ。『ここで死にたくなきゃオレの下で働け』ってな。わかったか――レイザー?」

 

「っ! なんで、オレの名前……」

 

「そりゃ、調べたからな。お前だけじゃねーぜ? ここにいるヤツらの顔と名前と経歴、趣味趣向くらいなら全部知ってる」

 

「……は、ははっ」

 

 レイザーが思わずといった様子の声をこぼす。

 

「めちゃくちゃだなテメェ。オレらをここにぶち込んだのはテメェだぞ?」

 

「それがどうした」

 

「……背中刺されても恨むなよ」

 

「おう。刺せるもんならな。……ほかにもオレに雇われたいヤツがいるなら、今この場で言ってくれ! 今日中にはここを発つ予定だからな!」

 

 クート盗賊団のメンバーが次々と手を挙げる。その目にはジンに復讐してやる、という反骨心がありありと浮かんでいた。

 俺も慌てて声をあげた。

 

「ま、待ってくれ! 俺は無罪なんだ!」

 

「……ん? あー、名無しのヤツか」

 

「名無し?」

 

「おう。お前、流星街出身だろ?」

 

 そういうことか。考えてみれば当然だ。俺は生まれてはじめて流星街を出たばかり――経歴どころか戸籍もない。国際人民データ機構にだってデータはゼロだろう。

 

「あ、あァそうだ! 俺はクート盗賊団のメンバーじゃないんだ!」

 

「んん? いや、お前は間違いなくメンバーだろ」

 

「……は?」

 

「オレが調べたかぎり、お前はクート盗賊団に入ることを受け入れたはずだぜ」

 

 言われて、ハッとする。たしかに俺はレイザーの問いに了承した。

 

「それはっ……で、でも」

 

「一応言っとくが、今回の死刑はお前らの頭が代表として裁判に出廷して、メンバー全員に適用された罪状だ。さすがに何千人もいちいち裁いてられねーってよ」

 

「そん、な……だって俺はなにも悪くないのに」

 

「なにも悪くない?」

 

 そのとき、ジンの雰囲気が変わった。

 

「はっきり言うぜ? ――甘えてんじゃねーよ」

 

 なんて……なんて強い意志のこもった眼差しだろうか。

 ジンの視線に俺は怯んだ。

 

「悪くない、なんてこたねーだろ。お前には力がなく、なにより意思が弱かった。――お前はあのとき、意地でも受け入れるべきじゃなかった」

 

「……だって、仕方が」

 

「仕方なかった――そうだな。断言してやる。あのままならお前は『仕方なかった』で盗みをやったし、殺しだってやるぜ」

 

「……俺、は」

 

「もう一度言っとくぞ。――甘えてんじゃねーよ」

 

 気づくと俺は崩れ落ちていた。

 だって反論できなかったのだ。ジンの言うとおりだった。脅されれば俺はやっていたかもしれない。いや、やっていただろう。ただ、順番がちがっただけ。罪を犯すよりジンに会うのが早かったという、ただそれだけのこと。

 

 だって俺の心は……レイザーに向き合った瞬間に、すでにポッキリと折れてしまっていたのだから。

 

 ――俺は、なんて弱いんだ。

 

「でもまァ、運が悪かったとは思うぜ。ここまで言っといてなんだが、お前は無罪だろ。まだなんもしてねーし、強要されただけだ。冤罪が晴れりゃ、すぐ出られるだろうさ」

 

「じゃあ、出して……」

 

「でも、オレにそんなことをしなきゃならん義理はねーな。メンドくせェ」

 

「そんな」

 

「出たきゃ、自分で証明するこったな」

 

 ジンが立ち去ろうとする。

 俺の脳裏を駆け抜けたのは、ひとつのエピソード――流星街出身の浮浪者が冤罪で捕まり、じつに3年も拘束され続けた話。真犯人が捕まってようやく、だ。

 

「……ダメだ。それじゃ間に合わない」

 

「あん?」

 

「俺も行く……連れて行ってくれ!」

 

 俺の無罪を証明できるのは、ジンしかいない。

 普通に模範囚として刑を受けていれば、案外あっさりと冤罪が証明されたりするかもしれない。だから、どちらが早いかはわからない。ただ、俺はこうするべきだと、そう――直感した。

 

「マチ……」

 

 ちいさく彼女の名前をつぶやく。

 俺はなにをやってるんだ。マチを幻影旅団に入れないことを志しておきながら、自分は脅されるがままに犯罪組織に所属してしまった。

 

 ――それじゃ、道理が通らないだろうが!

 

 俺は自分の中でなにかが変わっていくのを感じた。いや、変えなければならないとはじめて思ったのだ。俺には『燃』が――意志の力が足りない。

 

「ん、来るのか? べつにいいぜ。じゃあお前の名前も聞いとかねーとな」

 

「……マーティー。俺の名前はマーティー=ストゥーだ」

 

 不思議な感じがした。

 多分、きっと。あとになってから思う。俺はこの瞬間に、本当の意味でマーティー=ストゥーになったのだろう、と。

 

「マーティーだな、覚えたぜ。これからよろしくな」

 

 そうして俺たちは牢屋から連れ出された。

 ジンが言っていたとおり、その日のうちに飛行船に乗せられ――。

 

 

 ――そして、数日後。

 俺たちは、今はまだ名もなき島へと足を踏み入れたのだった。

 




・雑談
めっちゃ今さらな話していい……?

「G・I」の表記間違ってた。ずっと「G.I.」って書いてた(汗
なんでこんな勘違いしたんだろ……?

ただ、横書きかつ半角英数で中黒使うと違和感あるから、本作では「G.I」って表記する。

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