RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
この世界で目覚めてから3ヶ月間。俺は毎日、ゴミを拾って日銭を稼いでは、座禅を組んで修行をする日々を送っていた。
修行開始から1ヶ月。
なにも変化はないが、問題はない。はじめたばかりだし、こんなもんだろう。
むしろ今は、座禅を組むこと自体がなかなかに楽しい。こんなゴミ山でもちょっと気分が落ち着くのだ。健康法の一環くらいの気持ちで座禅を組み続けた。
修行開始から2ヶ月。
まだ変化はないが、問題はない。もとより長期戦は覚悟の上だ。
10万人にひとりの天才であるズシでさえ3ヶ月もかかった。それもウイングという優秀な師の下で、だ。
つまり、まだまだ焦るときではない。
そして、あっという間に修行開始から3ヶ月が過ぎた。
つまりは今。
「……精孔開くどころか、その気配すらもないんだが」
ここに来て、焦りが俺を苛みはじめる。たとえ凡人でも、そろそろなにか変化があってもいいと思うのだが……。
もしかして俺はものすごくムダなことをしているんじゃないのか? 修行方法をまちがってるんじゃないのか? ただ無為な時間を過ごしているんじゃないのか?
正直、日々を生きていくだけでも精一杯なのだ。
ゴミをヘトヘトになるまで拾って、ようやく1個のパンと1杯のスープが手に入る。海水で身体を洗い、名前も知らない他人とぎゅうぎゅう詰めになりながら小屋(というか、ビニールシートや板で区切っただけの場所)で眠る毎日。
「……ごほっ、ごほっ」
加えてゴミ山という劣悪な環境。それらは確実に幼いこの身を蝕んでいた。
はっきり言って、余裕がない。はじめこそ座禅が念習得に繋がっていると思い、モチベーションも高かった。しかし、今はそれもない。
座禅を組んでいる時間があれば、横になって休みたいという思いが強くなっていた。
もはや、いつ挫折していてもおかしくはなかった。
それでもなんとか修行を続けていたのは、この世界に『念が実在する』と知っているから。でも、それも……。
「このままじゃダメだ」
そう思いながらも、やることは今日も今日とてゴミ拾い。
あっという間に夕刻が訪れる。俺はゴミを持って買い取り場所へ……ダンプカーのほうへ向かう。そして、その手前にある広場でゴミの整理とトレードを行う。
「おにいさん、ビニールある? 空き缶と交換してくれない?」
「3束ある。空き缶6つと交換だ」
「了解。どうも」
トレードを繰り返すうちに手元にはビニールが多くなっていく。袋だったり、繊維の束だったり。それを持って、ダンプカーの元へ。重さを量ってもらう。
「1.0キロね。はい、100J(ジェニー)」※1J=約0.9円
ホッと一息。
買い取りには下限がある。1キロからしか買い取ってもらえないのだ。
だから毎日の生活がギリギリの人は、こうして広場で同じ境遇の人とトレードをすることで、その下限をクリアするのだ。
手にした小銭を片手に商店街を行く(といっても、ここもゴミ山と大差はないが)。
考えることはひとつ。
「なんとか、しないと」
ゴミを拾わねば、今日のおまんまにもありつけない。しかし、ゴミ拾いをしている限りこの環境からは抜け出せない。デッドロックだ。
なにか……この状況から抜け出すなにかが欲しい。
――変化はいつだって唐突に訪れる。
「……ん? なんだか今日は騒がしいな?」
騒ぎの中心へと近づく。しかし人垣に阻まれ、なにも見えない。
そのときドンっとぶつかられる。
「あ!?」
手からポーンと小銭が飛び出し、コロコロと足の合間を転がっていく。ぎゃァあああああ! 俺の全財産がァあああああ!?
俺は慌てて追いかける。
「すいません、ちょっと通して……」
小銭はコツンとだれかの足にぶつかった。カランカランと揺れてようやく止まる。ふぅ、ようやく追いついた。と拾おうとして気づく。視界が開けていた。
顔を上げると、そこには幾重にもボロを纏い、防塵マスクで顔を覆った人物。むき出しの手足には幾筋ものシワが刻まれ、顔は見えずともその老齢が窺える。
俺はそのシルエットにはっきりと見覚えがあった。
「……え、長老?」
流星街の長老だ。”番いの破壊者(サンアンドムーン)”により同胞を爆弾に変えてメッセージを届けさせた……流星街きっての狂人。
うぎゃァー!? 超危険人物に鉢合わせしちまったァああああ!?
「あ、あはは……すいません。オジャマしまし……ごほっ、ごほっ――んんっ!?」
慌てすぎて途中でむせた。と同時に長老が無言でぐっと顔を寄せてきた。
じっと俺の顔を見つめている――といっても、こちらからは向こうの顔が見えるわけではないが。つか、恐ェええええ!
しばしののち、長老はゆっくりと顔を離して踵を返す。
た、助かった……?
そう安堵したとき、長老の取り巻きだったひとりがトントンと俺の肩を叩いた。
「長老がついて来いってさ」
うそん……。
あれ? もしかして俺、死んじゃう? 人間爆弾にされて特攻命令されちゃうの?
地面に伏した硬貨は、大きく数字の書かれた面を天に晒していた。
・小噺
流星街での生活に関してはスモーキーマウンテン参考。といっても当時のスモーキーマウンテンと現在のフィリピンと創作のちゃんぽんだけど。
(ちなみに現実のスモーキーマウンテンは20年以上前に解体済み)
そもそも流星街とスモーキーマウンテンじゃ広さがちがいすぎる(流星街のが100倍以上広い)。ぶっちゃけ流星街が海に面しているかもナゾ。ただ色々と思惑もあって採用した。