RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
「あれ? 硬貨ってどっちが表だっけ? たしか、普通に考えたのと逆側が表だったよな。つまり大きく数字の書かれてるほうが表だな!(?)」
って考えてました。アホかな?
もし間違ってたタイミングで読んだ人いたらスマン……。
地面に伏した硬貨は、大きく数字の書かれた面を天に晒していた。
が正しいです。
「えっ? えっ? えっ?」
長老に連れて行かれたあとは、怒涛の展開だった。
身体を拭われ、着替えさせられ、滋養のありそうな食事を与えられ、毛布を与えられて眠った。
あれ? ここ天国かな? なーんて冗談のひとつでも言いたいところだが……。
「ううっ……」
こんな至れり尽くせり。どう考えても異常だ。
死刑囚だって、死ぬ前は好きなもの食べさせてくれると聞く。
「恐ェよォ、恐ェよォ……」
「はは、そんな緊張しなくても大丈夫だよ」
俺の世話をしてくれた人物が笑いかけてくれる。長老のお付きしてた人だ。
……つか、絶対ウソだよ。だって笑顔がめちゃくちゃ胡散臭いもん。
「ああ……父さん母さん、不甲斐ない息子でごめんなさい」
天に祈りを注げていると、先導してくれていたその人が足を止める。目の前にはテント……というかゲル(モンゴルの移動式住居)っぽい家。
入るように促される。
「うっ」
悪あがきで逃げ出す隙を伺っていると、背中を押されてしまう。おっとっと、とたたらを踏んで家の中へ。そこには長老が待ち構えていた。
「ひっ……あ、えーっと。ここここのたびはお助けくださり、まことに、あゥ……感謝の思いが、ひっぐ……ぐすっ……」
命乞いしようとしたけど、恐怖に負けてしゃくりが……。
すると、長老が近づき、両手を伸ばしてくる。俺はぎゅっと強く目をつむり、その瞬間に備えた。
「ヒェっ!?」
両肩にポンと手を置かれる感覚。あ、終わったわ俺……。
しかし、なにも起きない。チラッと薄目を開けて、肩を確認する。とくになにもない。
「……あれ?」
長老はそれから俺の身体をあちこちペタペタと触った。脈を測られたり、熱を測られたり、背中をさすられたり、呼吸音や心音を確かめられたり……って、あれ?
室内にあった鏡をチラリと盗み見るも、やはり身体のどこにも刻印は浮かんでいない。
さてはこれ……ただの診察だァああああ!?
「体調が戻ったみたいでよかった、ってさ」
ここまで案内してくれた人が俺に笑いかける。
「ちゃんとお礼を言っときなよ」
「え、あ……ありがとうございました」
長老はどことなく満足気な様子で頷いた。
それから俺は、ここまで案内してくれた人に連れられて退室し、なにごともなく、もといた商店街まで送り届けられた。
「ここからの帰り道はわかるかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ならよかった」
……え、ウソ? 本当にこれだけ? もしかして俺、助かったの!?
ひゃっほォおおおおおおう! と叫び出しそうなのを堪えてお辞儀する。
「本当にありがとうございました!」
「いえいえ。せっかく長老から祝福を受けたんだから、また身体を壊したりしないように、気をつけるんだよ」
「はい!」
じゃあね、と相手が去っていく。
それを見送り、俺は盛大に息を吐いた。
「はァああああああああああああ! よかったァああああああああああああ!」
本当によかったァ……いや、マジで、死んだと思った。
まったく、だれだよ。長老を狂人だなんて言ったヤツは。子供想いのめっちゃ人だったじゃねェか。刻印もされなかったし。
すべては杞憂だったわけだ。あっはっは、めでたしめでたし――そう、安堵しかけたそのとき、脳裏をセリフがよぎる。
――せっかく長老から『祝福』を受けたんだから。
「……え? 祝福って……なんだ?」
サァァァァと頭から血の気が引く。
「ちょっと待て。いやいやまさか……そんな」
慌ててゴミ山を漁り、鏡の破片を探し出す。服を脱いで身体中をたしかめる。刻印はどこにもない。しかしそれは『見えない』という意味でしかない。
俺は自身の足元がガラガラと崩れ落ちるような錯覚に陥った。
「”番いの破壊者(サンアンドムーン)”の刻印って……精孔開いてなくても見えるもんなのか?」
記憶を探るも”番いの破壊者(サンアンドムーン)”の刻印に関して、一般人が言及するシーンは思い当たらない。
いやむしろ、見えない可能性のほうが高いとさえ言える。
ヒソカvs.クロロ戦において、大勢の人間が額に”人間の証明(オーダースタンプ)”の刻印をつけてヒソカに突っ込んで行った。しかし、ただの一度たりとも観客や実況がそれについて言及していなかったように思う。
「……最悪だ」
確信する。俺は――刻印を受けている。でなければ、祝福なんて言葉を使うはずがない。
「そうか、長老がどうやって狂信者を作っているのかわかった。こうして幼いうちに恩を着せて、刷り込むんだ」
いや、ちがう。それどころか……自分が爆弾であるとすら知らない人間ですら、暗殺者に仕立てあげることができる。なにせ、しかるべきタイミングで刻印が触れ合えば、それでいいのだから。
「マズいマズいマズい! このままじゃ俺、いつ死んでもおかしくねェ!」
しかも、いつ死ぬのかすら予測できない。
ふと身体のどこかに触れたとき、あるいはふとだれかに触れられたとき、爆死するかもしれないのだ。
「いや、落ち着け……落ち着け俺。冷静に考えろ」
自分の身体に太陽(プラス)と月(マイナス)の両方が刻印されていることはないはずだ。あるいは刻印されていたとしても、自分じゃ触れない場所のはず。
じゃないと、うっかりで爆発しかねない。
防ぐには……。
「そうだ! ボノレノフになろう!」
全身を包帯で覆えば、触れても爆発することは……いや、アホか俺は!
ヒソカvs.クロロ戦において、クロロは審判の背中に刻印していただろうが。それも服越しに。
「いや、ちょっと待て。もしかして”番いの破壊者(サンアンドムーン)”って人間以外にも使えるのか?」
使えるとしたら、あの刻印は審判の背中ではなく服にされていたことになる。つまり、包帯で身体をぐるぐるにするという策が通用することに……。
「あァ、チクショウっ……思い出せねェ! 使えたっけ、使えなかったっけ!?」
どれだけ考えても、行きつく結論はひとつ。
どうやったって、助かるには……。
「――精孔を開くしかねェ」
刻印の場所を特定するしか……オーラが見えるようになるしか、生き延びる道はない。
「やってやる……やってやるよ。なにがなんでも精孔を開いてやるっ!」
そうして俺は覚悟し、文字どおり死に物狂いで修行をはじめたのだった――。
・考察
HUNTER×HUNTER世界における硬貨に関して。
明らかにデザインが日本円。天空闘技場における初戦のファイトマネー(152ジェニー)を見るとそれがよくわかる。つーか、そのまんま。
そのため本作においても、日本円同様、絵柄の書かれている面を表、大きく数字の書かれている面を裏とすることにした。