RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
目の前に座る少女――マチを見る。
なぜ気づかなかったのだろう。いわれてみれば、髪はボサボサで薄汚れているもののピンク色をしている。それに着ている服も(これもボロボロだが)どことなく和風だ。
「マジ、かァ……」
「なに、アンタ。あたしの名前に文句でもあるわけ?」
「め、滅相もない!」
「……まァいいや。で、アンタの名前は?」
「えっ」
問われて気づく。俺の名前って……なんだ?
母親は俺を産んだあと、間もなく捨てた。名前なんて一度も呼ばれたことがない。というか、つけてすらいなかっただろう。
このゴミ山で暮らすようになってからも、必要なのはゴミを拾う手足だけで名前はいらなかった。
「あたしに名前を訊ねたクセに自分は答えないっての?」
「ち、ちがう! 答える! 答えるから!」
名前……名前!? えっと、なんだ!?
なにか答えないと殺されかねない! 相手はマチなんだぞ!? 将来、旅団メンバーとなる冷酷な殺人者……いや、もしかしてすでに旅団のメンバーかもしれないが。ともかくそんな相手なのだ。
悩んだ末、口から出たのは――。
「――マーティー」
「あん?」
「俺の名前はマーティー=ストゥーだ」
最後にプレイしていたTRPGでのキャラネームだった。
一瞬、クロロ=ルシルフルの名前も頭をよぎったが、もし旅団が結成済みだとしたら……団長の名を騙ったとして、この場でマチに殺されかねない。
あとの候補は前世の本名だが……それは絶対に言いたくなかった。
だって、殺人鬼に自己紹介したいか!? 自分を殺すかもしれない相手に本名言いたいか!? 俺は絶対にイヤだよ!
「変な名前ね」
お前に言われたくねェええええええ! だってマチの苗字、コマチネだぞ! マチ=コマチネ! だってもうそれ……ほとんどコマネチじゃん! 絶対、H×H読んだやつ全員、一度は思ってんぞ!
なんて言ったら殺されかけないので、俺は「はは……」と愛想笑いを返した。
「それじゃあ、マチさん。俺も働かなくちゃいけないから、そろそろ……」
「マチでいいよ。あたしもマーティーって呼ぶから」
「あ、はい……それで、そろそろ出ていっ――」
「マーティー、ちょっとお願いがあるんだけど」
俺の話を聞けェえええええええ!
「じつはあたし、今日ここに来たばっかで行くとこないんだよね」
勝手に事情を説明しないで!?
「でさ、しばらくここに泊めてくんない?」
お前みたいな死亡フラグを泊まらせられるかァああああああ!
「いいでしょ?」
「ハイ、イイデス」
俺は弱かった……。
うわァあああああん! 絶対にヤダよォおおおおおお! そう叫んだところで、意地だけでは絶対越えられない現実もあるわけで……。
こうして、俺とマチの奇妙な共同生活がはじまった。
「で、仕事ってなに? 手伝うよ」
「ゴミ拾い……」
「ゴミ拾い……?」
「あー、うん。金になるゴミを拾って、買い取ってもらうんだよ」
「ふーん……?」
そうして俺とマチはゴミ山へと向かった。
その途中でパンとスープを買い、朝ご飯を済ませた。マチは「なにコレ……ほんとに食べ物?」と苦い顔で咀嚼していたが。まァ気持ちはわかる。マッズイもんなァそれ……。
それからふたりでゴミを拾いはじめた。最初こそ「ほんとにここに手を突っ込むの……?」とマチは眉を顰めていたものだが、あっという間に理解し……10分も経過するころには、俺より効率よくゴミを集めるようになっていた。
あの、俺……生まれてからゴミ拾いずっとやってるベテランなんですが。
これだから天才はよォ……。
「泣いてんの?」
「泣いてなんかないやい!」
それと、マチを見ていて気づいたことがある。
マチは精孔を開いてゴミ拾いに勤しんでいるのだが……どうにも、精孔から出ているオーラと、垂れ流されている――立ち昇っているオーラの量が吊り合っていない。後者のほうが少ないのだ。
すなわち、完全ではないものの『纏』ができている。
そんなマチに張り合おうとした俺が、結果どうなるかというと……。
「……ぜェっ……ぜェっ」
「アンタもうちょっと体力つけたほうがいいんじゃない?」
こうなる。
最終的にマチが稼いだ金額は、俺の3倍にも達した。マチのほうが効率よく集められる上、スタミナもあるのだから当然の結果。なのだが……。
自分の稼ぎを見下ろす。
あ、ダメ……心折れそう。
マチのを見たあとだと、ちょびっとにしか見えない。
トホホ、と肩を落としていると。
「はい、じゃあコレ」
「え?」
「なにってお金だけど。住まわせてもらってるお礼。それに……命も助けてもらったしね」
「マチ! マチちゃん! いや、マチさま!」
「な、なによ」
「いつまでも俺の家に泊まってていいからね! ありがとう……ありがとう!」
「な、なによ……ちょっと、手握らないで。近いっての。このっ離せ……あーもうっ!」
マチに蹴りを入れられたが……それも気にならない。
ふふふふふ……。マチが毎日手伝ってくれるならば、予定よりずっとはやく目標の金額まで貯まる。流星街を出られる日もそう遠くはない。ほんと、マチさまさまだ!
「ほんとにありがとうね!」
「あーはい、もうわかったから……。で、このあとは?」
「そうだな……あ、マチお風呂入りたくない?」
「えっ、お風呂があるの!?」
マチは俺の言葉に目を輝かせた。
・小噺
「マーティー・ストゥー(Marty Stue)」は「メアリー・スー(Mary Sue)」の男版。
メアリー・スーとはスタートレックの有名な二次創作に出てくるオリ主の名前。
海外における、俺TUEEEEの代名詞……というか全方位さすおに?
……まァ、この作品のマーティーくんはめっちゃヘッポコしてますが(笑
※あ、ちなみに自分はさすおにキライじゃない。web版から追ってて原作も持ってる。ただドルマスはなァ……。