RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
風呂に到着した瞬間、マチは叫んだ。
「海じゃん!?」
「……え?」
一瞬、なにを言われているのかわからず首を傾げ……ハッとする。
「これ海だ!?」
目の前にあるのは汚い海岸。
完全に無意識だった。俺の中でいつの間にか海=風呂になっていた。慣れって恐いわ……。
「このっアホ! ほんっとアンタ……このっ、久々に風呂に入れるとばっかり……!」
「いや、ほんと悪かったって。うっかりしてた。でもここしかないしさ」
言いながら俺はぺいっと服を脱ぎ捨て全裸になった。
「っ!? ちょ、ちょっと! 人前でなにしてんのよ!?」
「え? いや、だって風呂……じゃなくて海に入るんだから、服を脱がないと。濡れるし」
「そうじゃなくて……あァっ、もう!」
マチは顔を背け、しかしチラっチラっとこちらを盗み見る。
あー、そうか。5とか6歳ってもう裸が恥ずかしいとかって感覚あるのか。それにマチはそういうのに耐性あるイメージだったけど……そうだよな。今のマチはまだ子供だもんな。
「じゃあ、はいこれ。俺の服」
「え?」
「それ濡らしていいから。着たまま入んな」
マチがキョトンとする。そんなに変なこと言っただろうか?
「……ありがと」
マチは貸したシャツを頭からすっぽりと被った。
「……変な匂いがする」
「ゴミの臭いだよ!?」
俺の釈明をスルーして、マチはシャツの隙間から和服をするりと脱ぎ取った。
マチがちゃぷんと海に足を浸けた。こちらへと近づいてくる。太ももまで浸かったところで、ゆっくりと腰を下ろしていく。
シャツが濡れ、マチの身体にぴったりと張りついた。起伏のすくない身体のラインが浮き彫りになっている。シャツが透け、肌色が映っていた。
と、波に煽られてシャツの裾がまくれあがる。
「きゃっ!」
マチは慌てて裾を抑え込み、ざぶんとしゃがみこんだ。
それから、「見た?」とでも問うように、じーっとこちらを見た。
そんなマチの様子を見ていた俺は……マジで平常心だった。あー、子供は反応が素直でかわいいなー、と微笑ましいものを見る気持ちだった。
絵や描写次第でいろいろカバーできる2次元ですら、この年齢の子は厳しい。それが3次元――現実となれば……言うまでもない。……まァ、2次元でえっちなことをしてるキャラクターは全員18歳以上ですけどね!
あーでも、惜しいなァ。あと10年経ってればなァ。せっかくマチの水浴びシーンなのに……いや待てよ? 成長した姿を想像すればワンチャンある……か?
イメージしろ。イメージ……イメージ……。
「うーん……」
「ねェ、マーティー」
「はいィいいっ!」
え? もしかしてバレた!? 俺そんな下卑た顔してた!? 悪い想像なんてしてないです! ていうか、やっぱこの年齢じゃムリありました! 本当ですから許して!?
心臓をバクンバクンいわせていると、マチはあごまで海に浸かり……ぽつりと訊ねてきた。
「……アンタって何歳?」
「え」
やっぱり児ポ法!? 児ポ法ですか!?
「な、何歳だろ。6歳……いや、そろそろ7歳くらいなのかな」
「誕生日は?」
「さァ? 物心つく前に捨てられたし」
「……そ」
「そういうマチは何歳なんだよ」
「6歳」
へー、6歳かァー……やっぱアウトだな。
「それで、なんで急に年齢を?」
「いや……なんだか、ちょっと。アンタが見た目より大人っぽく見えたから……気になっただけ」
――え?
マチは言うだけ言って、ぶくぶくと顔を沈めた。
俺は驚きのあまり声すら出なかった。
――もしかしてマチは……俺が転生者だと気づいたのか!?
実際、原作でもマチの勘はよく当たった。というか、作中の的中率100パーセントじゃなかったっけ。
油断できねェ……。俺は引きつった顔を誤魔化すように、ざぶんっと海に潜った。
そのあとは、いつもどおりにパンとスープの晩ご飯。
だが驚くなかれ。なんと今日は奮発して肉と野菜の入ったスープなのだ! ……はい、どうでもいいですねそうですね。
そして、夜になれば……。
「なにしてんの?」
「修行」
「ふぅん」
俺は座禅を組み、心を落ち着けた。
すぐに精孔が開いた。ここまではもうスムーズにできる。問題はここからだ。
1ヶ月ほど前から、念の修行は第2段階に入っていた。
精孔を開いたことでオーラがあふれ出す。しかし、このままの垂れ流しでは……あっという間にバテてしまう。なので、それを身体の周囲に留める必要がある。
――これを『纏(テン))』と呼ぶ。
目を閉じてイメージする。オーラが血液のように全身を巡る様子を。頭から肩、手、足……そして逆側へ。
修行の様子を見ていたマチが言った。
「アンタ……センス悪っ」
「っせーな!? わーってるよ!」
思わず反応してしまう。
そのせいで集中が途切れオーラが発散する。また1からやりなおしだ……。
「アンタ、それでよくそこまで精孔開いたよね」
「うっ……。まァ、死に物狂いだったし……」
「ふーん……」
言って、マチが立ちあがる。
「見てな」
マチが身体の力を抜き、目を閉じた。
全身からオーラが噴き出す。この時点で俺は圧倒された。なんて……オーラの量だ。俺の倍はあるんじゃねェか……?
おそらく、さっきまでは精孔を絞っていたのだろう。まだ『纏』が完全にはできないから。
「ふー……」
呼吸にあわせてオーラが全身を巡りはじめる。ヤカンから吹き出す蒸気みたいに立ちのぼっていたオーラが、ピタリと止まる。
マチが目を開いて、こちらを向いた。
「ま、こんなもんかな。つってもこの状態にするのに時間かかるし、動いたら崩れるけど」
「いや、すげェ……」
「てかアンタ、よくそんなので精孔開けられたね。だれから教わったの? よっぽど先生に恵まれたんじゃない?」
「だれからというか……本から?」
「――え?」
マチが目を丸くする。
あっ、やべ。思わず素で答えてしまった。原作、と言わなかっただけマシか?
「じゃあアンタ……独力でここまで?」
「あーっと……」
言い訳が思いつかない。
「答えたくないなら、まァいいよ。でも、はっきり言うけど、それじゃいつまで経っても念の習得なんてできやしないよ」
「あー、うん。それでも……ひとりでやるしかないからなァ。教えてくれる人なんていないから」
「……てあげる」
「え?」
「……あたしが教えてあげるって言ってんの。一応、あたしはきちんと手ほどきは受けた身だし……アンタよりはマシでしょ」
「い、いいのか!?」
「でもあんま期待しないでよ。あたしだって『纏』すらちゃんとできてないんだから」
願ってもなかった。俺は期せずして念の先生を手に入れてしまったのだった。
「ほら、もう寝るんだからそっち退けて。寝てる最中に変なことしたら……殺すから」
「やるわけねーだろ……」
だって死にたくないもん。
「……」
まだ疑われているのか、マチの視線に晒されながら寝床についた。
そこからの月日はあっという間に過ぎた。
昼はゴミ拾い、夜はマチに見てもらいながら念の修行。俺の修行を見る傍ら、マチ自身も鍛錬に勤しんだ。
そして、マチが完全に『纏』を習得し、俺もまたモドキではあるが『纏』ができるようになったころ――。
「――資金が、貯まり切った」
ついに、このゴミ山を抜け出せる時が訪れたのである。
・考察
マチの一人称に関して。
じつは、マチの一人称は途中で変わっている。
ヨークシン編では「あたし」だったのに、暗黒大陸編じゃ「アタシ」になってる
おそらくただの誤植。天空闘技場編とヨークシン編でも二人称が「あんた」から「アンタ」に変化してるし。富樫……長期休載でキャラ忘れたな?
でも、34巻と35巻でマチの苗字も変わってるし……もしこれらが双子とか入れ替わりとかの伏線だったら、最高に面白いよね。
……と思ってたけどヨークシン編内でも一人称変わってんじゃねーか(※追記)
なお、本作ではもっとも使用期間が長かった「あたし」「アンタ」で統一することにする。