RISKY×DICE〜転生した俺の念能力がリスキーダイス〜 作:スプライト1202
ひと仕事を終えて、風呂(海)へ。マチもさすがに慣れたもんで文句は言わない。文句は言わないのだが……。
「はやく脱いで服貸して」
「あいよ」
シャツを脱いで手渡す。マチはそれを頭からすっぽりと被り、その合間から自身の服を脱いだ。
……ん? あれ?
今さら思ったけど、これおかしいよね? なんで俺、毎回シャツ貸してんだ?
「なァマチ、もう自分の着替えあるんだからそれ使えば……」
「は? なんであたしの服を海水に浸けなきゃいけないの?」
「アッハイ、ソウデスヨネ」
我が家の稼ぎ頭には歯向かえず、唯々諾々と従う……相変わらず弱ェ俺。まァ、マチの稼ぎを思えばこれくらい安いもんだが。
そんなマチはといえば、借りたクセにあいかわらずニオイが気になるらしく、くんくんと鼻を鳴らしていた。……はいはい臭くてスイマセンね。でもそれ、繰り返し言うけど俺のせいじゃないからね?
「……はァ」
なーんて、いろいろと余計なことを考えて思考を逸らそうとしたが……ダメだな。ただの先延ばしだ。
やっぱ、言わないとなァ。でもめちゃくちゃ言い出しづらい。いっそ、なにも言わずにひとりで流星街を出――たら殺されるな。うん。
言わなきゃ。でも言えねェ。言えねェよォ……。
『俺は流星街を出ていくね! お金は全部持っていくよ! 今まで俺のために稼いでくれてありがとう! バッイビー!』
――なんて、言えねェよォおおおお!? 絶対殺されるじゃん!
たしかに金は全部、もう俺がもらったモンだ。『好きにすれば?』とマチからも了承を得ている。でもそれは俺が流星街で暮らしているという前提の話で……。
――はァ~。なんとか円満に別れる方法はないものか。
……え? マチと別れるのが寂しかったんじゃないのかって?
いやまァ、それなりに長い時間、一緒に過ごしたし……愛着はある。念を教えてくれた恩義もある。けど、それとこれとはべつだ。資金も1人分しかないし。
もちろん、2人分の資金を貯めてから出る、という選択肢もないではない。
しかし、それなら俺が先に外へ出て稼いで、その資金でマチを連れ出すほうがはるかに合理的だし、早い。外――具体的には天空闘技場ならここの何十倍……何百、何千倍という金を一日で稼げるのだから。流星街に一日でも長くいれば、それだけで大きな損失なのだ。
――なにが合理的かくらいちょっと考えればわかる、はずなんだ。
「……ねェ、マーティー」
「ん? なに?」
「あんたさ――ここ最近ずっとなに悩んでんの?」
「……え?」
マチがまっすぐにこちらを見ていた。
とっさのことで、俺は答えられない。
「え、えーっと、なんのこと……」
「隠すのはやめな。かれこれ半年の付き合いだよ。それくらいわかる。……で、なに?」
「……あー」
これは誤魔化すのはムリだな。どのみち話さなければならなかったこと。いやむしろ、俺が話せないことを察してマチのほうから切り出してくれたのかもしれない。それに……どのみち今日がリミットだった。
しかし、なんと説明したものか……。なんと説明すれば、殺されずに済むものか。ブルブル……。
「あたしに言えない内容? たとえば――額のソレが関係してるとか」
「……あー」
やらかした――相変わらず、なんて勘の冴えだ。
すぐに答えればよかった。いや、でも……関係してると考えない方がおかしいか。俺が額を気にして生活してるのはマチにはお見通しだったろうし。
しかし、このタイミングでそれを聞くかね? これまで一度も尋ねてこなかったのに。
どちらにせよ、頷くほかなかった。
「あァ、関係してる」
「そう。で、ソレなんなの?」
「これは……、あっ」
説明しようとして、言葉に詰まる。
刻印があると爆発しかねない、なんて情報――”番いの破壊者(サンアンドムーン)”の能力をなんで俺が知ってるんだ? しかし、知らないと答えると今度はこれを消したいと思っている理由が説明できなくなる。
「答えられないわけね。いいよ、じゃあ答えなくて。で――アンタはどうしたいの? あたしはどうすればいい?」
マチは見透かすような目でこちらを見ている。ここで誤魔化すなんてこと、俺にはできなかった。まっすぐに向き合い、告げた。
「――俺、流星街を出るよ」
「……そ、う」
マチはかすかに目を大きくし、それから頷いた。
俺は正直に話した。
「そのための資金に俺とマチで貯めた金を使う」
「前も言ったけど、もうアンタのものだよ。好きにしな」
「資金は1人分しかない」
「だろうね」
「……マチっ、俺は――」
「――それで、いつ出るの?」
マチは俺の言葉を遮り、訊ねた。
っ……! 俺はなにを言おうとした!? 言い訳か!? なぐさめか!? 言うべきはそれじゃないだろ!
俺はかぶりを振った。感情が高ぶってしまった自分を諫める。マチがそうするように、努めて淡々と答えた。
「明日にでも」
「……そ。じゃあ今晩中に準備しないとね」
「……あァ」
それからも淡々と会話し、淡々と準備をした。
その日の晩、俺たちは……出会ってはじめて念の修行をしなかった。
次の日の朝は、すぐに訪れた。
* * *
「――あの船に潜り込めればいいの?」
「あァ、そうだ」
視線の先にあるのは海岸に停泊する大型船。そこからは次々とコンテナが搬出されている。中身はもちろんゴミ。毎日、入れ代わり立ち代わり流星街にゴミを捨てに来ている船の、一艘だ。
かなりの大型船。忍び込めさえすれば、あとはバレようがないだろう。忍び込むのも、今の俺の身体能力ならそう難しくはないはず。
「べつに船員の注意を引かなくたって」
「アンタは肝心なとこで……いや、全体的に抜けてるからね。これくらいのフォローじゃまだ心配なくらいだよ」
マチは俺が流星街を脱出する手伝いを申し出てくれていた。うーん、反論できねェ! ……だって、失敗した記憶しかねーもん。
「お世話をかけます……」
「ほら、もう行きな」
「あァ。……あっ、マチ!」
「なに?」
「いや、その……家はそのまま使い続けてくれていいから」
「昨日聞いた」
「そ、そうだったな。……あー、シャツ何枚か置いてきたから水浴びするときは使ってくれ」
「知ってる。準備するの手伝ったから」
「そ、そうだよな」
「……はァ。アンタがあたしの心配してどうすんの。逆でしょ?」
「そう……だよな」
まったく、その通りだな。マチならひとりでも問題ない。俺より稼ぎ上手だし、強い。そして、やがては幻影旅団に入るのだ。
俺は背中を向けた。
「今まで……ほんとうにありがとう」
「……ん」
ゆっくりと歩き出した。マチとの距離が開いていく。
そのとき……ざわり、とした感覚が背筋を駆けあがった。ひとつの妄想が頭に浮かんでいた。
現在は1984年の4月だ。仮にクロロが13歳のときに幻影旅団を結成した、という情報が正しいとすると……早ければ来年には旅団が結成されることになる。
当然マチも、そこに所属することになる。でも、今なら。もし今ここからマチを連れ出せば――。
「――マチは人殺しをせずに済むんじゃないか?」
それは紛れもなく、悪魔の発想だった。
・雑談
一言つき評価なんてのがあるんな。
くれた人ありがとう……ウレシイ、ウレシイ。
でも、もらったあとどこから確認できるのかわからん……。
もしかして、読めるの一度きり?
詳しい人教えてくれェ……(汗