地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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初投稿です。
至らぬ点が多いと思いますが何卒宜しくお願い致します。


第1話 初めの一歩は地に足つけて

 全ての始まりは中国で全身が発光した赤子が生まれたというニュースだった。

 

 それを皮切りに人々に"個性"という名の超常能力が確認され、やがてそれは日常となりついには世界総人口の約8割が"個性"を持つに至った。

 

 そしてそんな世界は『ヒーロー』と『ヴィラン』という2つの存在を生み出した。

 

 "個性"を用いて悪事を働く犯罪者『敵<ヴィラン>』に対し"個性"を用いて取り締まる『ヒーロー』

 

 人々は『ヒーロー』を称え、多くの子供達はその姿に憧れを抱くのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

「学校の資料でも見たけどホントにでかいな、これ逆に不便にならないのかねェ」

 

【雄英高校】、通称"雄英"と呼ばれる全国人気一位を誇るヒーロー科の学校校舎を前に少年は感心と呆れの混じったような調子で呟く。

 

「まぁ、この近代的な雰囲気も悪くない、むしろ最先端って感じがカッコいいじゃないか」

 

 顎に手を置き校舎をマジマジと見ながら頷く少年の姿は周りからは少し変わった観光客にしか見えないだろうがそうではない。

 

 少年は周囲にいる者達と同じく、ヒーローとなるべく今日行われる『雄英高校入試試験』という狭き門に挑む受験生なのだ。

 

「よし、見物はここまで! そろそろ俺も会場に向かうとするか、校舎眺めてて遅刻しましたなんて笑えねェや」

 

 一度身体を大きく伸ばし気を引き締め、少年も門の中に足を踏み入れようとし、ふと妙な声が耳に入りそちらに目を向ける。

 

―(何だアイツ?)―

 

 目に入ったのは緑色の髪の小柄な少年だった、頬を赤く染めながら「女子と喋れた」だの「おおっおおおお」等とブツブツ呟き続ける様子に軽く引いてしまう。

 

「まぁこの人の数だ変な奴もいるさ、気にすんな俺!」

 

 とりあえず謎の少年のことは忘れることにして会場に向かうことにした。

 

 この時彼は先程までの独り言で、周囲から謎の少年と同じような奴と見られていた事に気付いていなかった。

 

 

▼▼▼

 

『今日は俺のライヴにようこそ──ッ!! エヴィバディヘイ』

 

「Yeah──ッ!!」

 

 試験特有の重い緊張感が張り詰めていた会場に圧倒的場違いなハイテンションを響かせるボイスヒーローことプレゼント・マイクの声に全ての受験生が困惑する中、少年は待ってましたと言わんばかりに声を張り上げる。

 

(返す……のか?)

 

(常人から外れた思考回路よ)

 

 その為少年の両隣にいる触手の生えた大柄の受験生と、カラスの様な黒い鳥の頭の受験生は他の者達より困惑することになった。

 

『ノリの良いリスナーがいてくれて嬉しいぜ! んじゃこの調子で実技試験の詳細を説明していくぜ──!!』

 

「Yeah──ッ!!」

 

「……随分と、……気合が入っているようだな」

 

 再び大声を張り上げた少年に大柄の受験生は意を決し言葉を選びながらも声をかける。

 

「ていうか堅苦しいのより、こういうノリの方が好きなんだよ楽しいから」

 

「場を弁えるべきだと思うがな」

 

 ヘラヘラと笑って答える少年に対し、今度は右隣にいた鳥顔の少年が声をかける。

 

「んー、そりゃ普通の受験生ならそうかもだけど、俺達はヒーロー目指してるわけだしな」

 

「何?」

 

 少年の言葉が意外だったのか両隣の2人は思わず聞き返す。

 

「ヒーローは皆を安心させる存在だろ、だったら仏頂面してるより笑顔でいる方が良いじゃないか」

 

「そういうものか?」

 

「そういうもの! 現に"オールマイト"は少なくとも誰かの前だといつだって笑顔見せてくれてるだろ」

 

数多くいるヒーロー達の頂点、No.1ヒーロー"オールマイト"。彼はどのような状況であっても笑顔を浮かべて人を救う、正に最強のヒーローと言うべき存在でありその姿は多くの者の目に焼き付いている。

 

「笑顔や楽しむってのは大事だぜ、それがなくちゃそれこそヒーローが何の為に存在するのか分からなくなるだろ」

 

 少年の両隣の2人もその言葉に「なるほど」と頷く。

 

「お前の言い分も一理ある、"ヴィラン"と戦うことがヒーローの全てではないのだからな」

 

「もっとも、試験会場に相応しいかは分からないがな」

 

2人は少年のことを浮かれて叫ぶ記念受験者でなく自分達と同じヒーローを目指す者の姿の一つと認識し微笑する。

 

「試験に対しても言えることだと思うぜ、ここまで来て張り詰めたって仕方ねェ、むしろ普段の調子で挑めるようにどこかで溜めこんでたもん吐き出した方がいいだろ」

 

「むぅ」

 

 少年の言葉に実際に普段より明らかに肩に力が入っているのを感じていた2人は顔を顰める。

 

それに気付き少年は何かを思いついたのかニヤリと笑う。

 

「ま、いまいち分かんないなら軽くやってみりゃいいさ」

 

「何!?」

 

「次プレゼント・マイクが声かけたら一緒に叫ぼうぜ」

 

「正気か貴様!」

 

「大丈夫大丈夫、俺がさっきより大きく声出すから軽くならバレねェって」

 

「そう言う問題ではッ──」

 

『じゃあ次は演習場の仮想敵の説明をするぜ、OK──ッ!?』

 

 プレゼント・マイクの声に「今だッ!」と2人の背中を叩く。

 

 

 

──この時彼らは試験の緊張感にやはり気が入り過ぎていたのだろう、それ故に隣の少年の勢いに押され普段の自分達ではありえない行為をすることになってしまった。

 

 

「「ィ、……ィェ──」」

 

 自分達の小さな声が"掻き消されること無く"耳に響く。

 

「「ッ!!?」」

 

──騙された! 、自分達に言わせるだけ言わせた本人が口笛を吹き鳴らして目を合わせようとしないのを見て確信する。

 

 当然あんな小さい声では会場の中心にいるプレゼント・マイクの耳に届くことはないがそれでも自分の近くにいる者達からの視線を感じ、鳥顔の少年は自身の隣の少年に思わず掴みかかる。

 

「話しが違うぞ貴様ッ!」

 

「はははッ悪ィ悪ィお前らがずっと仏頂面だったからついな、ほら試験会場で喧嘩はマズいぜ」

 

「……大した性格だな」

 

 忌まわし気に呟きながらも鳥顔の少年は無意識に掴みかかっていた手を放す。

 

「まぁそう言うなって、ほら実際緊張感も軽くなったろ」

 

「お陰様でな」

 

 最早相手するのも疲れたのか頭に手を置いてため息混じりに返事する。

 

 とはいえプレゼント・マイクの説明もいよいよ本題に入りだす為、3人とも集中し直す。

 

 ▼▼▼

 

 要点をまとめると、模擬市街地の演習場に配置された1~3Pの三体の仮想敵を10分の間に行動不能にし続けそのポイントを多く獲得することが受験生の目的らしい。

つまり市街地における実戦、実にシンプルで良い、少年はそう思い笑みを浮かべる。

 

 途中いかにも生真面目そうな眼鏡の受験生が説明に上がらなかった4体目の仮想敵について質問し、同時に門前でブツブツ呟いていた緑髪の少年に物見遊山なら帰れと注意する等の出来事もあったがそれはそれ、少年にとって気になったのは質問に出た4体目の仮想敵についてだった。

 

 どうやらそれは倒してもポイントにならない、そもそも受験生には倒す事すら難しい妨害役で相手にしないに限るとのことらしい。

 

(わざわざ忠告するほどだ、警戒するに越したことはないな)

 

 情報を頭の中で整理しているとプレゼント・マイクの手を叩く音が聞こえそちらに視線を戻す

 

『それじゃ俺からの説明は以上でおわりだが……最後に我が校の"校訓"のプレゼントだ──かの英雄"ナポレオン・ボナパルト"は言った……──"真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者だと"── 』

 

『"Plus Ultra―更に向こうへ―"、それでは皆……良い受難を!!』

 

 その言葉は受験生にとって説明会の中でもっとも強く脳裏に焼きついた。

 

▼▼▼

 

 受験生達は説明会後、A~Gの7か所の試験会場に分けられるらしく少年は自分の試験会場に向おうとして両隣の2人もまた同じ会場に向かっていることに気付き、声をかける。

 

「さっきは悪かったな、悪ノリにしても悪質だったわ」

 

 少年はさすがに度が過ぎていたと思ったのか苦笑を浮かべ、頭を掻きながらそう言った。

 

「済んだことだいつまでも気にしてなどいない」

 

「いよいよ選抜の時だ、今は目の前のことに集中するべきだ」

 

 2人とも寡黙な部類ではあるが決して心が狭い訳でもなく快くそう告げる。

 

「サンキュな、っと、まだ名乗ってなかったな俺は地城 千土(ちしろぜんど)、よろしくな」

 

「障子 目蔵だ」

 

「常闇 踏陰」

 

 触手の生えた大柄の受験生が障子、鳥顔の受験生が常闇というらしい。

 

「うっし、じゃあ障子に常闇、お互い頑張ろうぜ」

 

「ああ」

 

「武運を祈る」

 

 千土の言葉に2人は頷き応える。

 

 そう言い合っている内に試験会場である模擬市街地である演習場に到着する。

受験生達は皆、演習場の中央付近に一纏めに集められ合図がくるまで待機しておけと説明された為そこでは雑談を続ける者もいれば、じきに来る合図に向け集中する者と様々だった。

 

 ちなみに千土としては雑談を続けようかと思っていたが、障子も常闇も集中しているようだった為、今回ばかりは自重し自分も静かに待つことにした。

 

(にしても障子に常闇っていったか、2人ともかなり集中しているな、当然緊張もあるだろうけどそれを完全に押し込んでる、あの2人は多分"強い"な)

 

 千土は少し離れた位置から2人の姿を見て、その雰囲気に確かな力を感じる。

 

(やっべぇな、試験だってのにワクワクしてきやがった、早く始まらねぇかな)

 

 千土は吊り上がる口角を手で隠しながら試験開始の合図を待つ。

 

──そしてそれは予想だにしない形で訪れる──

 

『ハイ、スタァァァートッ!!』

 

「「!?」」

 

前ブレ無く聞こえたスタートの合図に皆が一瞬耳を疑い固まる中、千土は即座に全力で駆け出す。

 

「さァて、地に足つけて頑張りますかッ!」

 

▼▼▼

 

 駆け出してすぐ前方に8体の仮想敵が目に入る。

 

(確か仮想敵は"破壊"じゃなくて"行動不能"にしたらポイント入手だったな、まぁヒーローの戦闘は『拘束』がメインだから当然か、それならッ!)

 

『ターゲット発見、ブッコロス』

 

 人工音声で喋りながら突っ込んでくるロボット―仮想敵―に対し千土は口角を吊り上げる。

 

「──ッ舐めんなよ」

 

──駆け出していた足を一度止め、右足で思い切り地面を踏み鳴らす。

 

 直後、千土の足元のアスファルトが砕け、大量の砂が噴き出し宙に浮く。

 

「そら、おとなしくしてなァッ!!」

 

 宙に浮かんだ砂は千土の声に従い、超速度で目の前にいる全ての仮想敵を襲う。

 

『ブッコロッ──、ガーッ……ガーッ……』

 

 仮想敵は関節に砂が入り込み完全に機能を失い、人工音声も途切れてしまう。

 

「思った通り有効そうだな、これならいけるか」

 

 幾つか考えた策の最初の一つが上手くいき千土は満足気に笑うと、素早く次の仮想敵の居場所を探すべく再び走り出す。

 

 

▼▼▼

 

 試験が開始して早くも5分以上が経過し、いよいよ実技試験も大詰めとなりつつあった。

 

(これで70点はいったか、できればもっと稼ぎたいがここも人が集まってきたな……場所を変えるか?)

 

 千土は序盤から変わらず、目に入った仮想敵の関節部分に砂を混ぜ込み動きを止めるやり方で多くの仮想敵を行動不能にしポイントを稼いできたが、さすがに受験生が固まった場所では競争率も高く獲得できるポイントも低く、千土は移動を検討する。

 

(しかし順調すぎるな、そういや例の0ポイントの姿も見えねぇし、まだ出てないとしたら恐らくそろそろ──)

 

「ッ!! 何だ、この揺れはッ!?」

 

 ──突如、轟音を響せ、大きな揺れと受験生の悲鳴を携え"それ"が現れる。

 

「おいおい、いくらなんでもでか過ぎだろ……」

 

 千土のいる位置から北方向に離れた位置に突然現れた0ポイントが、周囲のビル群を薙ぎ払いながら進むその姿に、常に飄々と笑う千土もさすがに顔を引きつらせる。

 

 1~3ポイントの中で最もでかい3ポイントですら比較にならない巨大すぎる仮想敵は正しく災害そのものであり立ち向かう者などなく、それなりに距離がある千土のいる場所の者達ですら皆逃げ出した。

 

「──あーこれはさすがにキツイな、……試験的にもポイント0だし離れるに限るな」

 

 それは千土も同じ。そもそも戦うメリットの無い相手なのだ、残り僅かな時間を考えてもアレの相手をする必要等どこにもないと判断し踵を返す──

 

──怖いよ──

 

 その寸前で、脳裏に焼き付いた声が聞こえ千土は足を止める。

 

 

──怖いよ千土、もう怯えたりしたらいけないのに……やっぱり怖いや──

 

 

──大丈夫だよ空(くう)姉、空姉が安心して暮らせるように……俺が──

 

 

 記憶の中で一人の少女が小さな身体を震わせながら泣いていた。

 

 幼い自分はそんな少女に笑ってほしくて夢を誓ったのだった。

 

──誰よりも強いヒーローになって空姉を……いや、皆を守ってみせるから!! ──

 

「ああ最悪だ、こんな程度で大事な事を忘れかけるなんてなッ!! もっと地に足つけろってんだッ!!」

 

 千土は掌に拳を打ち付けると0ポイントから逃げる他の受験生と逆の方向、0ポイントに向かって走り出す。

 

 

▼▼▼

 

「アンタ大丈夫ッ!? すぐにこれどかすから逃げな!!」

 

「す、すまねぇ、潰されちまって動けねぇんだ」

 

 耳郎響香は自身のすぐ近くで0ポイントが突如出現し、先程まで行っていた仮想敵との戦闘を中断し撤退を選択した。

-

 

 勝つ手段の見つからないほど巨大な上そもそもメリットの無い妨害キャラ、相手をするなんてありえないと思った。

 

 しかし0ポイントの薙ぎ払ったビルの瓦礫に下敷きになった他の受験生の存在に気付き、すぐ近くに迫る0ポイントの動きに怯えながらも足を止め、救助に向かった。

 

(とはいえどうしよう、下手に音波で壊したらこの人にも危険が)

 

「よく見つけてくれた、ここは任せろ」

 

「え!?」

 

 気が付くと自身のすぐ近くに異形型の受験生が立っていた。

 

 彼は触手を腕の形に変化させ六本の腕で瓦礫を持ち上げた。

 

「すごっ」

 

 大きな瓦礫を持ち上げるパワーに耳郎は思わず声を漏らす。

 

「自力で動けるか?」

 

「あぁ、何とか……すまねぇ」

 

 自身を潰していた瓦礫が無くなり、下敷きになっていた受験生は何とか起き上がると2人に頭を下げると少し右足を引き摺りながらではあるが0ポイントから離れるべく移動する。

 

「サンキュ、助かったよ」

 

「気にするな、流石にこれは想定外だ」

 

「障子、ここに留まるのは危険だ、こっちに被害の無い道がある」

 

 手を貸してくれた異形型の受験生にお礼を言っているともう一人、鳥顔の受験生が現れ彼に声をかけた。

 

「常闇か、済まないな……お前も早く来い」

 

 障子の言葉に耳郎も頷き、常闇の言う道に向かって走る。

 

「ッ!! ヤバ!!」

 

「しまった!!」

 

 しかし0ポイントが大きく腕を振るい再び近くのビル群を吹き飛ばし、その瓦礫が自分の方向に吹き飛んできたのに気付き耳郎は思わず目を閉じる、障子と常闇も気付いたものの反応が遅れ、否応なしに間に合わないと理解してしまう。

 

「ッ……あ、あれ?」

 

 だが、衝撃はいつまでも訪れず恐る恐る目を開けると自分の目の前に立った一人の少年の背中が目に入る。

 

「大丈夫、怪我ないか? ……えっと?」

 

 目の前の少年―千土―は吹き飛んで来た瓦礫を片手で受け取めながら後ろの少女に尋ねる。

 

「じ、耳郎 響香、私は大丈夫だけど、アンタは?」

 

「お前、千土か? その力"増強型"の"個性"だったか?」

 

「お、常闇か、障子もいたか……んー、ほい」

 

 見知った顔を確認すると千土は右手に持った瓦礫を常闇に投げ渡す。

 

「なッ! ……これは!!」

 

 咄嗟に受け止めようとして自身の手に当たった時、瓦礫の重さに驚く。

 

 投げ渡された瓦礫は異常なまでに軽くまるで発泡スチロールのように感じた。

 

「それが俺の"個性"『地質操作』、岩や砂を操ったり岩の重さを変えたり出来んだ」

 

「すご、めちゃくちゃ幅広い"個性"じゃん」

 

「なるほど、それでこの軽さか」

 

 耳郎は千土の"個性"に感嘆の声を出し、常闇は手元の岩を見ながらそう呟く。

 

「ともかく助かったぞ千土」

 

「ありがと、正直もう駄目かと思った」

 

「気にすんなよ、……しっかし近くで見るとホントでけぇな」

 

「とにかく俺達も離脱するぞ、ここは奴に近すぎる」

 

「うん、千土だっけ、アンタも速く──」

 

「俺は逃げねェ」

 

 千土の言葉に全員が目を見開く。

 

「逃げねェって、まさか戦う気!? そんなの無茶だって」

 

「そもそも奴は0ポイント、倒したところで試験には──」

 

「ヒーローが逃げたら誰が皆を安心させるんだ?」

 

「「ッ!!」」

 

 千土のその言葉に耳郎も障子も常闇も皆、息を飲む。

 

「こんなところで逃げてちゃ俺の目指すヒーローにはなれねェ、だから今挑むんだ"Plus Ultra"ってな!!」

 

 その叫びと共に千土の足元に散らばったビル群の瓦礫が千土の周りに浮遊する。

 

 臨戦態勢を取る千土を見て3人は顔を見合わせると頷く。

 

「……ったく、そんなこと言われたらさ、うちらだって逃げられる訳ないじゃん!」

 

「協力しよう、俺もまた、ヒーローになる為にこの場に来たのだからな」

 

「共に行くぞ、千土」

 

 耳郎が、障子が、常闇が千土の側に立つ。

 

「オッケー、そうと決まれば皆"個性"を簡潔に教えてくれ、俺はさっき言った通りだ」

 

「私のは"イヤホンジャック"、プラグ挿して攻撃出来たり音を拾ったりできる」

 

「俺は"複製腕"、触手に器官を複製できる、腕を作ればかなりの力が出せる」

 

「俺は"黒影(ダークシャドウ)"、細かい説明は省くが伸縮自在の影を操る、攻撃、防御、移動と幅広く使える」

 

 皆の"個性"を把握し、千土は策を練るべく目を閉じてしばらく思考を巡らせると「よしっと」声をあげる。

 

「まず耳郎、この辺りにもう人はいないか探ってくれ」

 

「オッケー、ちょっと待ってね」

 

「その間に2人とも協力してくれ」

 

 千土の言葉に2人は頷き耳を傾ける。

 

▼▼▼

 

「千土ここにはもう人はいない、皆逃げられたみたい」

 

「よっしゃ、じゃあ始めるぜぇ!」

 

 耳郎の報告を受けて千土は叫びをあげながら両手を地面に叩き着ける。

 

「『地質操作・デザート』!!」

 

 千土の手元から0ポイントの足元までのアスファルトが砕けて砂の海へと変化する。

 

 0ポイントは突如できた砂漠に足をとられ動きが鈍くなる。

 

「千土、奴が崩したビル群の瓦礫は粗方集めたぞ」

 

『感謝しな』

 

「ナイス常闇、……とダークシャドウ」

 

 指示した通り"材料"を集めてくれた常闇と流暢に話す常闇の"個性"を労うと障子の元に歩み寄る。

 

「じゃあ打ち合わせ通りだ、頼むぜ」

「ああ、歯を食いしばっておけ千土!!」

 

 複製した腕と合わせて3本の腕で千土を0ポイントの頭上に投げ飛ばす。

 

「うおおおおっ! ……っよしここだ常闇ィッ!!」

 

0ポイントの直上で身を翻し、地上の常闇に大声で叫ぶ。

 

「行けッ!! "黒影(ダークシャドウ)!」

 

『あいよっ!!』

 

 常闇の指示を受け、"黒影(ダークシャドウ)"がその身体に瓦礫を巻き付けながら千土の元に向かう。

 

▼▼▼

 

 耳郎に周囲を探らせている間に千土は自身の"個性"についてより詳細な説明をしていた 。

 

「俺の"個性"はさっき言ったように幅広く扱えるんだが岩や砂は離れすぎてると操作出来ないし、地面は手か足がついてないと干渉できないんだ」

 

「なるほど、つまり地上での戦いが主体になるわけか」

 

「そういうこと……ただ」

「ただ、何だ?」

 

「正面から普通に岩をぶつけたって通用するとは思えねぇ、アイツを倒すだけの火力を出すには上から超重量をぶつけて潰すしかねぇ」

 それだけ言うと「そこで」と言って2人を見る。

 

「常闇にはこの辺りの瓦礫を集めて俺の合図で"黒影"でその瓦礫を奴の頭上に運んで欲しい」

 

「それは可能だが、奴を潰せるほど重さを上げてしまうとさすがに"黒影"では無理だ」

 

「それは問題ない、重くするのは奴の頭上でだ」

 

「何?お前の"個性"は離れ過ぎると使えないのでは……まさかっ!」

 

 常闇が自身の考えた策を察したのに気付き千土はニヤリと口角を吊り上げると障子に向き直る。

 

「そのまさか、充分な量の"材料"が集まったら障子、お前の"複製腕"で俺を奴の頭上にぶん投げろ!」

 

▼▼▼

 "黒影"の集めた瓦礫が千土の周りに無事に集まっているのを確認し、地上の3人は安堵する。

 

「まったく、無茶な作戦を考えちゃって」

 

「同感だ」

 

「だが、……面白い奴だ」

 

 呆れた様に呟く耳郎と障子の声を聞き、常闇はフッと笑い声をもらし、もう一度0ポイントの頭上を見上げる。

 

((行け、千土!))

 

▼▼▼

 

「おおおおおおおッ!!」

 

 千土は叫びをあげながら右腕に"黒影"から託された瓦礫を纏い、手甲を作り出す。

 

「この一撃で、沈めェエッ『岩鉄腕(ロックアームズ)』」

 

 岩鉄の拳が0ポイントの頭頂部に叩き込まれる、0ポイントの装甲には傷一つつかなかったがそれで良かった。

 

「『地質操作・加重』」

 

 その声と共に手甲の岩の重量が数倍、数十倍に跳ね上がる。

 

 ミシッと鈍い音が響き、0ポイントの頭部にヒビが入り、徐々に広がっていく。

 

「砕けやがれェェエッ!」

 

 千土の拳が0ポイントの頭部を、胴体を貫き、その身体を粉々に砕き、地面に降り立つ。

 

「あーあ、"仮想敵"とは言えバラバラにしちまった、減点されなきゃいいけど、……俺もまだまだ足りねぇな」

 

「バーカ、あんなの倒せるだけで異常だっての」

 

 口惜しそうに呟き、さすがに力尽きたように座り込む千土に3人が歩み寄ってくる。

 

「見事だ千土、お前の事を見誤っていたようだ」

 

「大した男よ」

 

「いや、あれは俺一人じゃできる方法じゃなかった、全員の力だよ」

 

 皆が互いに労いの言葉をかけたその時だった。

 

『終了ぉぉぉ──!!』

 

 プレゼント・マイクの試験終了の声が実技試験場に響き渡った。

 

「あーらら、終わっちまったか」

 

「まったく、アンタに付き合ってなかったらもっとポイント稼げたのになー」

 

 耳郎が意地悪気な声でそう呟き、千土は気まずそうに頭を掻く。

 

「わりィ、俺の都合に──」

 

「冗談、なんかすっごいスッキリしてんだ今、アレから逃げながらポイント稼ぐよりもめっちゃヒーローしてたじゃんうちら」

 

「俺も同感だ、ポイントは既に充分稼いでいた、後はそれに賭けるさ」

 

「元より協力したのは自らの意志に従ったまで、お前が負い目を感じる必要は無い」

 

 3人のその声は偽りの感情を一つとして感じない晴々としたもので千土も安堵の息を吐く。

 

「ほらいつまでも座ってないで、立てる」

 

「サンキュ」

 

 差し出された耳郎の手を掴んで、疲労した身体にもう一度だけ力を入れて立ち上がる。

 

「障子、常闇、耳郎、もし合格してたらそん時はよろしくな」

 

 屈託なく笑う千土の言葉に皆快く頷くのだった。

 

 

──そして実技試験は幕を閉じるのだった──

 

▼▼▼

 

 

 雄英の試験官達、すなわちプロのヒーロー達は試験の様子、ヒーローを目指す受験生の動きを巨大なモニターに映し出して観察していた。

 

 

「おいおい、今年は本当に豊作だなァッ!」

 

「0ポイントを倒す人が2人も現れるなんて正直予想外だったよ」

 

 彼らの見る映像には一人の少年の姿が映っていた。

 

 その少年は序盤はオドオドとぎこちない動きで不合格確定かと思われた、だが最後の最後に少年は0ポイントへと立ち向かい倒して見せた、しかもそれは自身の力の示すのではなく競争相手でもある他の受験生を守る為だった。

 

「倍率300、全員がライバルだ。……だがそれが"助けない"理由にはならん、競争相手だから助けない? そんな奴はヒーローになる資格などない! この少年はそれが分かっていた、或いは分からずとも動いたか、どちらであってもそれは間違いなくヒーローの素質だ」

 

「しっかし、まさか非公開の救助活動ポイントだけで合格とは面白い奴だぜ」

 

 受験生に明かさなかったこの試験のもう一つの要素、それこそが救助活動ポイントだった。

 

 その名の通り試験内における救助活動による審査制の追加得点。

 

 少年、緑谷 出久はそれを示した。

 

 その結果、得点0に対し審査得点の最高点10ポイントを満場一致で与えられその合計60ポイントを加られ、全体の8位で合格を果たしたのだった。

 

「大した奴だぜ、つい何度もYEAH! って叫んじまったぜ」

 

「だが完成度で言えば今年の一番はやはり奴だろう」

 

 試験官の一人が別のモニターを指してそう言う。

 

「地城 千土と言ったか、通常ポイント75ポイント、更に救助ポイント55、緑谷と違って0ポイントを倒した時には既に危機的状況の者はいなかった分救助ポイントは緑谷に劣るがそれでも文句なしの総合一位だ」

 

「"地質操作"の"個性"の圧倒的汎用性、瓦礫を軽くして逃げる者達の通路確保を0ポイントの下にたどり着く間でのついでにやってのけた上に、競争相手を直接的にも守ってみせた」

 

「それに0ポイントに攻撃をする前に奴の足元を砂漠状にしてみせたのも動きを止める他に狙いがあったのでしょう、あれ程の重量の攻撃を地面に叩き込んでは間違いなく二次被害を招く、彼はそれを地面を砂漠状にすることで周囲への衝撃を最小限に留めた」

 

 現に0ポイントの動きは多少鈍く設定しており、彼らのとった策なら足を止めずとも実行することは可能に思えた。

 

「ただ倒すだけに留まらずそこまでとはな」

 

「いや、何より注目すべきは他の者達との適応力だ」

 

「そうだな、その場に居合わせた3人の"個性"を上手く活用し連携してみせた、しかも実行前に最も探知能力のある奴に周囲に逃げ遅れが居ないかの確認までさせていた、はやる受験生なら策があったらそれを見落とし即実行しそうなもんだがな」

 

 試験官達の目線から見ても千土の能力は異常に感じた、当然自分達と比べたら未熟な部分も幾つもあったが他の受験生と比べればその完成度はあまりにも優れていた。

 

「まったく今年の授業が今から楽しみだぜ、なぁイレイザー」

 

「……さぁな、試験で見込みがあろうと入学後に問題があればそこまでだ」

 

「まぁその時はその時、とにかく今は彼も含めて祝おうじゃないか、倍率300を乗り越えたヒーローの卵達を」

 

 軽快に喋るネズミ、根津校長の言葉に試験官達は頷き合格者達宛ての通知の作成の打ち合わせを始めるのだった。

 

 

 

 

──END──




地城 千土(ちしろ ぜんど)
個性:地質操作
岩石、砂、地面など『地』に属するものを操る。
単純に動かす以外に重さや硬さ形の変化など非常に幅広い能力ではあるが、自らの個性で岩や砂を造ることは出来ず地面に接触してなければその能力は大幅に弱体化するという欠点もある。

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