地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第11話 障害物競走-土竜

第一種目障害物競走

約4キロあるスタジアム外周をコースに沿って進みゴールを目指すシンプルなルール。

しかしその名の通り様々な障害物が用意してあるらしく、それに加えて選手同士での個性使用での妨害行為、直接攻撃さえも許可されている。

 

(とはいえ個性使用ならどうしたって差は出るよな…つまり)

 

ミッドナイトのルール説明を聞きながらスタート位置に着けば目の前にはやたら狭いゲートが目に入る。

初っ端から順位を大きく左右させる押し合いが始まるのが容易に察せられ、皆少しでも有利に立とうと急いで位置についている。

 

そんな人の流れに逆らい千土は密かに後方に回る。

 

それと同時にスタートを告げるランプの点灯が動き出す。

 

「スタート!!!」

 

背後で盛り上げをしていたプレゼント・マイクの言葉の途中でミッドナイトがスタートを宣言する。

 

スタート地点にいた選手達が一斉に駆け出す。

しかし案の定、いや想像以上にゲートは狭く互いに少しでも早くここを抜けようと押し合うため早くも均衡状態に陥った。

 

『おおっとスタートゲートで早くも小競り合いだ!開始早々醜い争いだねこりゃぁ!!』

 

(スタートゲートなんて軽いふるい落としだ。この程度が抜けられないんじゃ先はない。さて、あいつはどう動く気だ?)

 

腹を抱えて笑うプレゼント・マイクの隣で相澤は思考に耽る。

それは自身の受け持つ生徒への期待か心配か――

 

▼▼▼

 

「あーあー、随分押し合ってんなぁ。じゃ、予定通りにいきますか…っと!!」

 

自身の前方でしのぎ合うライバル達を見て笑みを浮かべた千土がその右足を地面に叩き付ける

後半になれば個性の相性でどうしても差は出るだろう。

ならば狙うは最初の瞬間だ。

 

「最初のふるい落としはこの俺だ!!沈んでな!!」

 

「悪いな、道を開けてもらうぞ」

 

「「…ん?」」

 

千土の個性が地面を陥没して前方の生徒達を落とし穴の中へと誘う。

轟の個性が陥没した地面を凍らせ穴を塞いで中の生徒達を閉じ込める。

即席冷凍庫の完成である。

 

「何してくれてんだ轟てめぇ!!しょっぱなからエグイ妨害になってんじゃねぇか!?」

 

「俺だけのせいにする気かお前…」

 

かなり前方に進んでいた轟に全力で詰め寄って全ての責任を擦り付けることを画策した千土だったが轟はそれに戸惑いつつも周囲に視線を向ける。

 

「そううまくいかせるかよ腐れ野郎どもが!!」

 

「甘いですわよお二人共!!」

 

「うおおおおおおおッ!!こんな程度で止まるかァァ!!」

 

爆豪が、八百万が、他の1-Aのクラス陣が各々の個性活かして追ってくる。

更にそれに加えて穴に落ちたB組生徒が氷を砕いて穴から這い出てくる。

そしてそれにつられて普通科の生徒たちさえも這い上がってくる。

 

いずれもその目には闘志が溢れこの程度の妨害、出遅れで諦めている様子は欠片もなかった。

 

「クラス連中は当然としても思ったより越えてくるな」

 

「ははっそんだけ皆マジで挑んできてるってわけだ…つぅわけで尚更負ける訳にはいかねぇな!!」

 

自身と並走する千土がこの状況を楽しそうに笑うことに轟は気付く

 

(余裕かよ…上等だ)

 

再び凍結の個性を今度は千土一人に狙いを定め発動する――直前、嫌な予感が脳裏を走りその場を飛び退く。

 

自身が踏み抜いた地面が音を立てて崩落する。

後ろからも崩落とそれによる悲鳴が耳に入ってくる。

無論、誰の仕業かなどは明白だ。

 

「おいおい、妨害ばっか考えてると遅れるぜ?」

 

「妨害実行してる奴が言ってくれるな」

 

僅かに自分より前に出た千土に視線を向けると首をこちらに回して挑発気味に笑っている。

 

障害物競走、地面を蹴って走り続けることが前提の競技において地面を操作する千土の個性の厄介さに轟は歯噛みする。

 

「さてさて、落とし穴ばっかも芸がねぇ。次は後ろに急な坂道でも造ってや――おっと」

 

悪巧みを楽しみながら走り続けているとその思考を遮る存在が目に映る。

 

「ターゲット補足…ブッロコス!!」

 

「入試の時の仮想敵じゃねぇか」

 

選手の走りを阻まんと拳を放ってくる仮想敵の攻撃を避けながら周囲の砂を宙に浮かせる。

仮想敵は入試で見たタイプが勢揃いしているが、例の0Pの巨大仮想敵を除けばこの手で簡単に止められるのは確認済みだった為千土はその余裕を崩さずに…

 

「どうせならもっとマシなもん用意してほしいな」

 

背後から聞こえたその声に余裕が崩れる。

 

「クソ親父が見てるんだからな」

 

忌々し気に呟かれた言葉と共に轟が左の手を振り上げる。

その瞬間凍てつく冷気が吹き抜け前方の0Pの巨大仮想敵を含めた大量の仮想敵が一瞬にして氷像へと姿を変える。

 

『おおっと!轟の奴大量のロボを氷のオブジェに変えちっまたァ!!こいつの個性やべぇ!俺もこんなカッコいい個性が欲しかった!!』

 

プレゼントマイクが興奮した声で実況を上げる。

それもそうだろう、会場のプロヒーロー達も想像を超える轟の個性に目を見開いていた。

 

『そして轟、その勢いのままトップを独占!!…ところで並んでいたあの怖いもん知らずの地城の奴はどこいっちまったんだ?』

 

『轟の氷に巻き込まれたな、轟のやつもろともぶっ放したからな』

 

『あ~らら!!こりゃ下手すりゃ脱落かァ!?』

 

不安定な状態で凍りついた仮想敵で崩れるのを眺めながら淡々と呟いた相澤の言葉にプレゼントマイクは"あちゃ~"と頭に手を置く。

 

(――ま、あのバカに限ってそれはないな)

 

相澤は呆れた様に凍った仮想敵の残骸に埋もれてほとんど隠れた"陥没した地面"に視線を向ける

 

▼▼▼

 

熾烈なレースは進みトップを走る轟は少し遅れて追いかける者達の気配を感じながらも第二関門である"ザ・フォール"と名付けられた底の見えない崖から崖への綱渡りに辿り着く。

 

問題なのはその綱の数があまりに少ない、後続の者達に追いつかれれば限られたルートに人が溢れ、争いになれば綱が切られる可能性さえもある。

 

(とっとと渡るしかねぇな)

 

逆を言えば一早くここを超えれば後ろの者達との差は更に大きくなる。

轟は臆することなく綱へと足を進め、土中から生えてきた腕にその足首を掴まれる。

 

「――っ!?」

 

咄嗟に掴まれてない方の足でその手を払えば、腕の生えた付近の地面に皹が入る

 

「よォ轟ィ!!随分先に進んでんじゃねぇか!?」

 

地面に穴を空けて千土が全身を現わせる。

 

『おおっとこれはどんでん返し!!第一関門であわや脱落と思われた地城 千土が地面から生えてきやがった!!モグラかこいつは!?』

 

『轟が氷を放つ瞬間に地面に逃げ込んでたんだ。そのまま地中を進んでいたようだな』

 

「おかげ様でまったく目立てなかっただろうが!!あんだけ言ったんだから花持たせろやこの野郎!!」

 

「――チッ」

 

理不尽な怒りを剥き出す千土の言葉を無視して轟は綱へと向かう。

後続の連中の追いついてきた為、今千土と足を引っ張り合う時間はないと判断した。

 

「ったくつれねぇな、…で、この綱渡んの?怖くね?」

 

底の見えない地面に気分が滅入る。

――地に足ついてないと不安なんだよ。

 

「悪ィな先生方…ヒーローらしく安全な道を俺が造るぜ――『地質操作』」

 

周囲の地面を崩してその瓦礫を繋ぎ合わせる。

一つの道を造って崖と崖を繋げ、更に繋がった崖から離れた崖へ、ただひたすらにそれを繰り返す。

 

『おいおいおい!!あの野郎、第二関門台無しにする気か!?』

 

『…はぁ』

 

一番奥の崖まで一本の道が造られる。

悠々とその道を進みながら綱を走る轟に視線を向ける。

 

「どうよ轟、こっちの道のが安全だ。使ってくれて良いぜ?」

 

「――舐めんな」

 

少なくとも千土がその気になれば崩れる道のどこが安全なのか。

そうでなくとも目の前で作られた施しに甘んじる気になるはずがない、千土の背中を苛立ち気に睨みながら轟は綱を素早く進む。

 

「待てや腐れ野郎ども!!」

 

「「っ!?」」

 

爆発の推進力を利用し道も綱も使わずに爆豪が一気に詰めてくる。

その個性故のスロースターターが本調子になったらしい。

 

「おっと爆豪、随分と遅い登場だな?」

 

「あァ!?ぶっ潰すぞ石ころ野郎が!一番になるのは――この俺だ!!」

 

追い抜かさんと肩を掴もうと迫る手、その手首を掴み返して横に引っ張って逸らすもすぐに今度は服を掴んでくる。

脅威の追い上げを見せる爆豪の狂気にも似た闘志に笑いさえ込みあがる。

やはり目指すものが同じ者との競い合いは良い、だからこそ自分もまた勝利を渇望できる。

 

追い上げてきた爆豪との小競り合いで幾分か足が遅れ折角作れた轟との差が気が付けばなくなっている。

 

千土、轟、爆豪は並走のまま最後の関門、第三関門"怒りのアフガン"へともつれ込む。

 

「…何かあるな」

 

妙な窪みに気付いて敢えてそれを踏む、そして一気にその場を離れるとその周辺が激しい音と共に爆ぜる。

 

『勘が良いなオイ!!そこは一面地雷原!!威力はねぇが音も衝撃も本物よォ!!せいぜい気を付けて進むこったなァ!!』

 

プレゼントマイクの声が響く。

まったく手の込んだ競技だが…

 

(これまた地面潜っていきゃ良くないか?)

 

第一、第二関門に続いて第三関門の障害物も無視してしまえる事に千土は気付く。

 

気が付けば爆豪は既に爆発による飛行で地雷原を飛び越えようとしている。

轟もまた氷の地面を形成して安全な道を造っている、どうやら互いに勝負を決めにいく算段の様だ。

 

「ハッ行動が早いことで…じゃあ俺も!!」

 

足元の地面を崩して土中へと沈む。

地雷の埋まる位置より更に深く、万が一誰かが地雷を踏んでも巻き込まれない位置まで穴を進める。

 

目的の位置まで沈むと続けて自身の前方の地面を動かす。

土中トンネルの完成、後は直線に進むのみ!

 

「目立てないのが残念だが…最善手を尽くしてこその勝負だ、勝ちにいくぜ!!」

 

暗いトンネルを一直線に進む、時折誰かが地雷を踏んだ振動が響くが崩れることはないように調整した為不安はない、轟や爆豪がどれ程の速度で駆け抜けているか確認できないが誰かの妨害への警戒をしなくて良い分有利なのは自分だ。

 

勝利を確信したわけではないが王手をかけたのは俺だと口角を吊り上げる。

――直後、異常なまでの振動が地面に響く。

 

――何だ今の振動、幾つか爆発が強力な地雷が紛れてたのか、いや、まさか地面を動かしたことで地雷が一か所に集まってしまったのか!?

 

嫌な予感が脳裏をよぎる。

万が一今の爆発を受けたのが訓練を受けていない普通科やサポート化ならばいくら安全を考慮した地雷といえどもどうなるか分からない。

 

足元の地面を隆起させながら頭上の土を掻き分け浮上する。

 

地上の光が差し込むと同時に声を上げる

 

「おい!今の爆発は何だ!?怪我人はいねぇ――「え!?地城君なん――!?」――か…」

 

顔の真横を分厚い鉄板が掠める。

――おいおい危ないな、人でモグラ叩きをするなんてとんだ危険人物だ。

 

カチッと嫌な音が耳元で聞こえる

――あ、これやっちまったわ

 

瞬間埋まった身体の真横で地雷が作動する。

耳元で響く爆音とほぼゼロ距離での衝撃波に身体が吹き飛ぶ。

 

後で知った話だが、緑谷は前に走る轟と爆豪に追い抜く為周囲の地雷をかき集め、仮想敵の装甲を盾に爆発させ、その衝撃を利用し一気に追いつこうとしたそうだ。

地中に響いた大きな衝撃はそれのことだ。

 

で、トップ2人に追いついた緑谷はそこから更に追い抜くべく地面に埋まった地雷を利用して2人の妨害と2度目の爆発ターボを決めようとして…そこに俺が生えてきたという訳らしい。

 

超至近距離での爆発で耳がいかれ三半規管がマヒしてよろめきながらも執念で足を進め、緑谷、轟、爆豪に続いてゴールした俺を出迎えたのは温かい拍手と同情の目だった。

 

地城 千土、第一種目『障害物競走』

順位 4位。

 

 

 

 

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