第一種目が終わりを告げ上位42名が一か所に集められる。
つまり、第二種目の説明が始まるわけだが…
「あぁ~やっと耳鳴りが納まった酷い目にあったぜ…」
「ご、ごめん。まさか地城君があんな位置から出てくるなんて夢にも思わなくて…」
「当たらなかっただけ良しとするさ、んなことより来たぜ」
千土につられて下げていた頭を動かすと台の上に進行役のミッドナイトが立っていた。
「さぁここからが本番、第一種目が個人の能力テストとするなら次は連携能力のテスト!第二種目は――"騎馬戦"よ!!」
第一種目を勝ち抜いた42名の選手が2~4人のチームを作りそのメンバーの合計Pを鉢巻きに記して互いに奪い合うというルールらしい。
そして選手ごとのPだが第一種目の順位で下から順に5Pとして扱う、つまり千土は195Pという訳だ。
しかし例外として1位、すなわち緑谷の得点はなんと破格の1000万P、頭悪い数字だが笑いものではない、何せ他の者からすればそれを奪えば勝利が確定するのだから。
現に今緑谷はこの場にいるほぼ全員から殺気を纏った視線に晒されてしまっている。
「今から15分間が交渉時間よ、後悔しないように口説き合いなさい!」
ミッドナイトのその言葉と共に選手達は交差する。
…極力緑谷を避けて――
▼▼▼
「さって、どうするか」
交渉時間開始と同時に千土は思考に耽る。
この競技、チーム分けが全てを分けると言っても過言ではない。勝つ為のチームをどう作るか、いくら考えても足りないものだ――が、それ以上に問題がある。
――俺また目立てねぇじゃねぇか!!
そう、プロヒーロー達の注目が集まるこの大会、折角ならば目立ちたい。しかし、第一種目はほとんど地中にいたことに加えてこの第二種目。
どう考えても自分は花形の騎手ではなく騎馬なのだ。
地質操作の個性は地面に足が着いていないとその大半の能力が失われる。
地面への干渉は出来ず、砂も石も宙に浮いているものしか動かせない。
ようは騎手になった時点で個性が弱体化した状態になるわけだ。
つまり使い者にならない――しかし騎馬として考えれば話は変わる。
「地城、俺とチームを組んでほしい」
現に今、轟から交渉を持ち掛けられる。
「…?」
「地城?」
「あぁすまん、宣戦布告をふっかけてきたお前が誘ってきたのが意外過ぎてな」
思わぬ交渉相手に固まってしまい、その轟が再び声をかけてきてようやく再起動する。
「あぁ、確かにお前に宣戦布告をしたのは俺自身だ。だがこれはあくまでも第二種目だ、チーム戦である以上勝てるメンツを揃えたい」
そう言う轟の傍には1-Aで随一の機動力を誇る飯田と"個性『創造』"による万能さを持つ八百万が控えている。
そして圧倒的攻撃範囲と拘束能力の轟自身に加えて最後の騎馬として千土をスカウトしようというのだ。
地面の隆起での壁造りによる防御、陥没での落とし穴による相手の妨害。
砂や岩を遠隔操作での攻撃。
地面の振動を利用しての索敵。
それらを地面に足がついているだけで出来る自身の個性は我ながら騎馬として最適の存在だろうと千土は自己分析し自分と飯田達を合わせてここまでのメンツを揃えようという轟の大人気なさに笑えてしまう。
「…ちなみにチームとしての方針は?」
「飯田とのチーム条件で"どこかのタイミングで緑谷のチームを狙う"。俺としてもそれは絶対条件だが他はない」
「それは悪くない、いいぜこのドリームチームも楽しそうだ――だが俺としても条件を加えたい」
好感を得れたことに飯田と八百万は顔を綻ばせるも続けて告げられた条件に顔を顰める。
良くも悪くも変わり者の千土の言う条件が想像出来ず身構える。
「"チーム全員が全力で挑む"、それが"轟と組む"条件だがいいか?」
「そんな事か?条件でなくとも当然だろう」
生真面目な飯田なら当然疑問だろう、八百万もわざわざ条件として提示する千土に首を傾げるが千土は2人ではなく轟1人に注目する。
「お前はどうだ轟、全力で…左も使ってくれるか?」
「っ!?お前…何でそれを」
轟が珍しく顔を驚愕で大きく動かす。
当然だろう、彼の抱える事情を知る者など本来いないはずなのだから。
「まぁタイミングを見て話すつもりなんだがあいにく今は時間がねぇ。それで、そっちの答えは?」
「…駄目だ、俺はこっちは何があっても使う気はない」
「――そっか、じゃあ残念だが交渉決裂だ」
肩をすくめて千土はそう告げる。
轟も自分の意見を変える気は毛頭なく交渉決裂は尾を引くことなくあっさりと決まる。
しかしそれとは別で千土は言わなければならないことを告げる。
「轟、悪いが――俺もお前には負けられねぇわ…今のお前にはな」
困ったような笑みを浮かべ千土は普段の浮ついたノリの声でも宣誓台で叫んでいた声でもない、敢えていうなら重い病気を患った人にかけるようなどこか優し気な声でそう言い残して離れていった
轟はその様子に、そして自身の事情を知っているかのように語った千土に戸惑いながらも交渉決裂による残る一枠に意識を戻し第二候補であった上鳴へと声をかけるのだった。
▼▼▼
「さて、やばいな大体チーム編成決まりかけてんじゃないか?」
轟との交渉を蹴ったは良いが結局自分の組む相手が全く決まっていない。
しかしこれは大事な協議、普段の友人関係を持ち出してチームに入れてもらうわけにもいかない。
それはそれとして普段つるんでいる友人達の個性をおさらいする。
聴覚に優れ、周りの様子にいち早く気付ける耳郎。おまけに耳は伸縮とある程度の操作が可能で鉢巻きをとる手段として使えるだろう。
"複製腕"という変わった個性の障子。彼も耳や目の複製で索敵にかなり優れている、加えてその体格と膂力は騎馬としてかなり信用がおけるはずだ。
そして常闇。攻守ともに優れた"闇影"の個性。彼が居ればある程度の状況には対応できると思えるほどの戦力だ。
――何だろう、普通に友人達に交渉すれば負けないチームが造れる気がしてきた。
つい周りを見渡せば丁度その3人が一か所に固まっていた。
「あと一枠に俺などいかがでしょうかお三方!?立派に騎手を務める所存です!!」
「交渉下手にも程がある!?」
少なくともこの場にいる3人は千土の個性の弱点を完全に把握している。
お前その個性で騎手として売り込むとか正気かと耳郎は唖然とする。
「というより少なくともあと一枠というのは間違いだ」
「ん?どういうことだ常闇?」
ここにいるメンツでチームを組んでいたのでは?と首を傾げると常闇ははっきりとした声で告げる。
「俺もまた挑む側ということだ地城…俺は貴様に勝ちにいくぞ」
2人にはそれを話していただけだと常闇は告げる。
――甘えていたつもりはなかった。しかし千土としても彼らとも対立関係になるとは考えてもいなかったのも事実だった。
「常闇は既にチームを組んだ。緑谷のチームだ」
「緑谷の!?」
障子の言葉に千土は更に驚く。
常闇の個性ならば確かに防衛にも優れているがまさか一番リスクの高いチームに入るとは。
「緑谷のポイントは1000万…お前ならば絶対に狙いにいくはずだ地城。これが俺の"覚悟"だ」
「…最っ高だぜ常闇!俺も全力でお前に挑む!本気の勝負といこうぜ!!」
チームを組めない落胆よりも純粋な喜びが湧き上がる。
緑谷や轟、爆豪だけではなくいつも話している友人さえも競い合いの相手になる。
右手を上げれば苦笑し目を閉じながも応じてくれる。
パンッと乾いた音が耳に響く。
これだけでいい、あとは騎馬戦が始まればより言いたいことは伝わるだろう。
常闇が緑谷と麗日…あと見慣れない他クラスの少女のチームと合流したのを見届け残る2人に目を向ける。
「耳郎と障子はどうするんだ?」
「俺は純粋に勝利を目指す。その為に相応しい奴に声をかけようと思っていたのだが…」
「何だ?もう組んでんのか?」
「いや、自分の個性の性質を鑑みず騎手をやりたいと言い出したので…な」
「あー」
もったいぶった言い回しに轟や爆豪の様子を窺いながら返事をしてみれば予想外の言葉を受ける。
友人からのこれ以上ない賞賛の言葉に対して自身の言動の罪悪感に言葉を失ってしまった。
「ウチも組もうと思ってた奴がいたけど、そいつが勝つ気ないみたいだから他あたるよ」
「待って待って俺が悪かった一人にしないでくれ、ちゃんと勝つ方法考えたから!!」
全力の謝罪とその後の右往左往の末、交渉時間終了の警告が入る。
▼▼▼
『さあさあ、チーム決めの時間は終了!!どうだお前ら良いチームは組めたか!?優秀集めたベストチームも友達集めた友情チームも大歓迎!!さあとっとと準備を始めなァ!!』
プレゼントマイクの実況に押され皆チームで決めた陣形を整える。
「さぁて!開始の瞬間が勝負だ、頼むぜ2人とも!!」
「マジであれでいくの?今からでも考え直さない?」
「諦めろ耳郎、恐らくこいつはもう止まらん」
気合を入れんと声を出せば返ってくるのは呆れた声。
まぁそんなもんだろうと笑って離れた位置で準備を終えたチームを見ると同時プレゼントマイクの声が響く。
『さぁ行くぜ第二種目騎馬戦スタート3秒前』
ほとんどのチームは全てのチームに満遍なく視線を向けている。
轟のチームも爆豪のチームこちらを警戒しつつも他のチームにも当然意識を向ける為過剰な注目はしていない。
問題となるのは緑谷のチーム、自ら教えた常闇に加えてあの黒霧とかいうモヤ野郎のせいで緑谷にもバレてしまった個性の弱点。
それを知るが故にこちらを唖然としたように見ている。
『2!』
それもそうだろう、前方に障子を後方に耳郎を配置し障子の複製腕の上に乗る。
個性の性質を無視して"騎手"として立つ俺に戸惑っているようだ。
実質障子と耳郎の2人のチーム、それが俺達のチームだ。
『1!』
事情を知る者から見れば明らか不信なチーム、しかし幸いなことに事情を知る2人は同じチーム。
つまり俺の"個性"が使えないということを知る者は1チームのみ。
そして彼らは1000万ポイントを抱える身――つまり開始直前の1秒前、この瞬間に離れた位置にいるチームに注目する余裕はない。
彼は最も近くいるチームに警戒すべく視線を動かす。
『スタート!!』
その声と共に一枚の鉢巻きが宙を舞う。
「さぁッ!!これで背負う物はなんもねぇ!!全力で1000万P取りに行くぜ!!」
早々に鉢巻きを捨てた馬鹿―千土―の行動に全員が唖然とする奇妙な幕開けと共に第二種目が始まった。