地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第14話 後悔と自白

──失敗した

 

身体を起こす気力も湧かず千土は五体投地したまま目を閉じる。

 

かなり賭けの要素が強い策ではあったが全て上手く回すことができていた。

耳郎と障子は完璧な集中で役目を遂行してくれていたし葉隠も作戦実行まで上手く気配を隠してくれていた。

 

結局最後の失態の原因は飯田の全力を凌いだことであれ以上の反撃はないと気が緩んだ自分自身だと理解し言いようがない程激しい自己嫌悪に顔が歪む。

 

「──やられたな」

 

空中で掴んだ鉢巻きを握り締めて0カウント後にフィールドに着地した爆豪を見ながら障子は苦々しい声で呟く。

 

「っ──すまねぇ……全部俺のミスだ」

 

「地城?」

 

聞いたことのない程悔しさに満ちた千土の声、足元に倒れる千土の姿を見れば前髪で目元を隠し弱々しく言葉を紡いでいた。

 

「あんなにお前らに協力して貰ったってのに、……作戦を考えた俺が最後の最後で油断した。掴めたはずの完全勝利を──グハァッ!?」

 

「ほんっとにこの馬鹿!! 勝手に一人で落ち込むなっての」

 

突き刺さったプラグから爆音が流れ込んできて千土は身体を跳ね上げる。

 

「大体ウチらは完全勝利なんて──そりゃ出来たら良いなとは思ったけど、そんなんガチで狙ってる馬鹿なんかアンタ以外いないっての」

 

何を思ってこいつは完全勝利なんて目指そうと考えたのかというのが耳郎の本音だ。

当然体育祭を勝ち抜こうとは思っている、緑谷の持つ1000万Pを狙う気もあったがまさか全チームの鉢巻きを奪おうなんて考えは恐らく千土以外考えてもいなかっただろう。

そんな馬鹿な考えを達成まであと一歩まで迫り、それでも果たせなかったそれを本気で悔しがっている千土に耳郎は呆れとそれとは違う"何か"を抱き、だからこそ今の千土に喝を入れる。

 

「それに完全勝利なんて優勝すれば皆認めるでしょ! それなのにいつまで寝転がってんの!?」

 

「むしろお前のフォローに回れなかった俺にも非がある。これはチームのミスだ、お前だけのものではない」

 

「元気だして、次も頑張ろ!!」

 

耳郎だけではない、障子も葉隠も曇りなく励ましの言葉を向けてくる。

 

──だからこそ、お前らと完全勝利を果たしたかったんだけどな……

 

一抹の寂しさを抱きながらも千土は腹の中で渦巻く重い感情を吐き出すようき息を吐いて。

 

「──ありがとな、最高のチームだったぜ」

 

いつも通りの笑みを浮かべてそう告げる。

 

直後、未だに止まぬ大歓声を抑えるように鞭の音が響き渡る。

進行役のミッドナイトからの言葉だと全員が佇まいを整える。

 

「はーいっ!! 第二種目も終了! 次に進む前にいくつか言っとくことあるからちゃんと聞きなさい!」

 

歓声が止み静まり返った会場にミッドナイトの声が響く。

 

「最初に地城君!」

 

「はい?」

 

「この体育祭テレビで放送されてんのよ!? もし第二種目突破が1チームなんてことになったら放送の尺がえらいことになるのよ! ──ちょっとは大人の事情を考えなさい」

 

「──っハ、やっべ、まったく考えてなかったっス」

 

あくまで揶揄うように、冗談であることを隠さず話すミッドナイトの言葉千土は笑ってしまう。

確かにそうだ、いろんな人に迷惑が掛からぬよう完全勝利を阻止してくれた連中には感謝しないととつい思えてしまう。

 

「よろしい、じゃあ本題の第二種目突破チームだけど……残念なお話よ」

 

そう、この競技の通過チームは上位4チーム。

しかし、ほとんどのチームの鉢巻きを独占しトップを飾った地城のチームを除いても緑谷、爆豪、轟、そして見知らぬ紫髪の少年の4チームが存在していた。

 

極限状態で鉢巻きを掴めたことに歓喜していた4チームの者達の顔が強張る。

葉隠から直接鉢巻きを奪うことに成功した爆豪も含めて掴む鉢巻きを選べた訳ではない、つまり自分が咄嗟に掴んだ鉢巻きに他のチームより大きな数字が刻まれているかどうかの運に委ねた勝負だ。

 

「理解したようね、なら第二種目突破チームを紹介するわ──まずは1位が葉隠ちゃんのチームね……で次が──」

 

「ミッドナイト先生! 1位のチームの扱いがぞんざい過ぎます!!」

 

「うるさいわねぇどっかの誰かのせいで1位は皆分かってんのよ、黙ってなさい」

 

「あんまりだ!!」

 

すっかり本調子を取り戻してミッドナイトに噛みついた千土だったが文字通り子犬のように払われてしまい会場からは笑いさえも聞こえてくる

 

「じゃあ一気に言うわね! 2位轟チーム、3位心操チーム、そして4位が──緑谷チームよ!!」

 

「「──っ!!」」

 

 

 

「クソがァァァァァッ!!」

 

 

 

爆豪の怒りに満ちた叫びが悲しく会場に響く。

最後の最後で鉢巻きを奪うことに成功した立役者、しかし皮肉にも彼自身が手にした鉢巻きに刻まれた数字は他のチームの者より低く、予選通過にあと一歩及ばなかった。

 

ミッドナイト先生が最初に残念な話と語ったのもこの結果が大きかったのだろうと皆が理解する。

勿論爆豪一人が千土達の防壁を越えて葉隠から鉢巻きを奪った訳ではない、飯田や常闇、麗日の反撃で少しずつ削り爆豪が最後に決めただけ。

 

しかしそれでも"決め手"となったのは爆豪なのだ。

 

素行や言動に問題があることは知っていようと悔しさに身を震わせる爆豪、そして彼とチームを組んだ切島達を敗退したチームの者達さえも気の毒そうに見つめる。

 

「──ちょっと待って下さい!!」

 

「尾白?」

 

1-Aの生徒にしてどういう交渉があったのか心操と呼ばれた生徒とチームを組んでいた強靭な尾が生えた少年、尾白が挙手と共に声を上げる。

 

「あの、……俺、予選突破を辞退します」

 

「「っ!?」」

 

異常な発言に全員が驚愕するなか尾白は自らの主張を続ける。

 

「俺、"騎馬戦"のチーム編成の交渉の時から記憶がないんです。競技の終盤に地面に落とされた辺りで意識が戻って……その時は彼に言われて咄嗟に地面から這い上がりましたけど」

 

陥没した地面の中で心操から"登れ"と言われて訳も分からず這い上がれば千土の絶叫と宙に舞う僅かな鉢巻き、そしてそれに向かって飛び込んだ自身に乗っていた心操が目に入り、終了の知らせが耳に響いた。

 

「チャンスをフイにする馬鹿なことだってわかってる、でもこんなわけのわからない状態で進むなんて俺自身が自分を許せないんだ」

 

「尾白……」

 

真っ直ぐな理由で辞退を望む尾白、更にそれに感化され尾白同様の状態に陥っていたB組生徒の2名も辞退を希望する。

千土にとって彼らの意志は自らの信念に基づいた尊重されるべきものだと素直に思った。

もしも自分があの立場で自らの意志とは関係なしに勝ち抜いた者の場に立たされるとなったら自分も彼らと同じようにしたのかもしれないと思い、全ての決定件を持つミッドナイト先生へと視線を向ける。

 

「そういう青臭い話はさぁ────好みッ!!」

 

不穏な気配から放たれる肩透かしにガクッと倒れかける。

まぁしかし結局のところ尾白達の意志が尊重されるのならばそれに越したことはないと少し安心する。

 

『お~いミッドナイトよォ!! 好みで決めるのは構わねぇけどよォ、空いた枠の代わりはどうすんだ?』

 

「それ聞くのは野暮でしょ、どう考えても会場の皆が納得する子は決まってる」

 

ミッドナイトの瞳が一人の生徒を捉える。

 

「どうかしら爆豪君? 私としては枠の一つは貴方であるべきだと思うけれど」

 

「っ!!」

 

ミッドナイトの言葉に爆豪の瞳が揺れる。

受ける、一番になる為に、爆豪の野心がその言葉を紡ごうとして──爆豪の自尊心が情けのように訪れたその言葉を受け取るのを躊躇わせる。

自身が望む1番はぶっちぎりの1番だ、例えこの言葉を受け取り本選に復帰し優勝を果たしたとしてもそれは自身が望む1番なのかと問うてくる。

 

「──爆豪、俺はお前が出るべきだと思う」

 

辞退を表明した尾白が最後まで自らの意志で闘志を燃やし続けた爆豪にそう告げる。

 

「──俺は……」

 

歯を食いしばり爆豪が再び言葉を詰まらせる。

 

「来いよ爆豪、お前への借りはここで返さねぇと俺も納得いかねぇ」

 

「っ!!」

 

千土もまた、爆豪の復帰を望む。

最後の最後に自分達の策を破り完全勝利の機会を奪った相手だからこそ本選への出場を望む。

 

「それとも、本選でも負けるのが怖いのか? だったら別に止めはし──「あぁッ!?」──」

 

爆豪の激怒に染まった声と視線が千土に突き刺さる。

間に挟まれていたチームの皆がそれに巻き込まれないように距離を開ける

皆爆発物処理の資格とか持ってないのだ。

 

「っんだこの野郎! てめぇこそまた思惑ぶっ潰されて泣かされてぇのか!?」

 

「一矢報いた程度で言うじゃねぇか爆発物、結局お前俺に勝ててねぇぞ? 本選出ても勝つ算段あるのか?」

 

「あぁッ!? 上等じゃねぇか……、本選で徹底的にぶっ潰してやらァ!!」

 

「OK、ミッドナイト先生、爆豪本選参加っす」

 

「ねぇ今のやり取り絶対途中で止めれたわよね?」

 

本選参加を促す為の挑発が途中から明らかに私怨混じりになっていた気がしてミッドナイトは呆れる。

 

「まったく、大体復帰枠はあと2つあるんだからあんまり一人で時間取らないでほしいわね。じゃああと2人は……爆豪君のチームから2人選出して貰いましょうか」

 

その後話し合いの末、選出される2名は騎馬の中心としてその"硬化"の個性でチームを支え続けた切島とテープでのサポートで戦術を広げた瀬呂の2人が選出されることになり、チーム内で唯一脱落となった芦戸は笑ってその2人の背中を押すのだった。

 

そして第二種目の幕は引かれ、残す最終種目を前に昼休み、そして一時のレクリエーション競技の準備が始められるのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

「あーくっそ、思い出すだけで滅茶苦茶悔しい」

 

「また言ってるし、いい加減諦めなよ……」

 

「というか常闇、てめぇ麗日と組むとか反則だろ!! 徹底的に俺をメタってんじゃねぇか!?」

 

「貴様に挑むと言ったのだから当然だろう、それに咄嗟に対処したお前が言っても嫌味にしか聞こえんぞ」

 

競技場を一度離れ食堂に集まって昼飯と会話を楽しむ。

会話の内容は言い争いの様だが、そこに怒りはなくただ言いたい事を軽く言い合う愚痴に近かった。

 

「しっかし、まさかお前ら葉隠と組んでやがったなんてなぁ。俺は本気で3人チームかと思ったぜ」

 

「地城君に"作戦開始まで絶対喋るな"って釘刺されたからねぇ……まさか作戦成功でお役御免になるとは思わなかったけど」

 

そしてそこには切島や瀬呂、葉隠や芦戸など、普段のメンツと混じって相席している友人達の姿があった。

 

「しょうがないだろ、俺を騎手だと思わせる為の役目だったんだ。俺が騎馬の位置に着いた時点で──」

 

「あーあー傷ついたなー。やっと私も会話に混じれるようになったから一緒に頑張ろうって思ってたのになー」

 

「あー悪かったよ。ほらプリンやるから許してくれ」

 

「えっ良いの!? やったー」

 

妙に申し訳なく思える方向で責めてくる葉隠に降参と言いながら注文した昼食セットについていたデザートを贈呈してみれば簡単に許しを渡され苦笑する。

 

「それにしても地城ってほんと変な作戦考えるの好きだよね」

 

オールマイトの最初の授業でチームを組んだ芦戸からそんな言葉が向けられる。

あの時は君付けで呼ばれていたがクラス内の距離間もだいぶ縮まったなと何となく思う、がそれはそれとして──

 

「変な作戦ってどうよ? 望んだ結果こそ得られなかったが一応勝ったのは確かだぞ」

 

「それでもさぁ……実際堂々と騎馬として出てても普通に戦えてたでしょ?」

 

「いや普通に騎馬として出てたら絶対警戒されただろうしどうなってたか分からんぞ、少なくとも俺はこのチームで正解だったと思ったしな──まぁ開始直後は少し後悔したけどな」

 

「え? 何それ聞いてないんだけど?」

 

唐突に呟かれたその言葉に耳郎は不本意そうに千土に視線を向ける。

 

「何か不満でもあったの? 教えてよ?」

 

「あーいや、別に大した事じゃねぇよ。もう過ぎたことだし、ほらほら耳郎唐揚げやるから」

 

花形のおかずを贈呈して追及から逃れる。

危ない危ない、障子ならともかくあと2人に聞かれると色々マズい。

 

「──おい、おい地城。耳郎が何か凄い不機嫌そうなんだけど?」

 

「えっ何で!? 唐揚げやハンバーグ渡したら大体何でも許されるもんだろ!?」

 

「んなもんお前や葉隠ぐらいだ」

 

小声で話しかけてくる切島に釣られて改めて見てみれば非常に不服そうに唐揚げを齧る耳郎の姿が目に映る。

 

「一体何なんだよ後悔って、絶対それのせいだろ。さっさと言って謝れよ」

 

同じく小声で会話に入ってくる瀬呂。

──しかたない、まぁこの2人ならいいだろう。

 

「別に後悔したのは耳郎にじゃねぇよ──葉隠の方だ」

 

「な、何だよそんな真剣な顔になって」

 

いつになく真面目な顔で語る千土。

一体何があったのかと切島と瀬呂は身構える。

 

「……完全な透明人間として隠れられるようになってもらった。そしてその状態で鉢巻きを俺が着けているように見えるように密着する陣形をとった──どういうことか分かるか?」

 

「「──っ!?」」

 

その意味を理解する切島と瀬呂―男子高校生達―は息を飲む。

 

ちなみに葉隠をチームに誘った際に千土は1人で彼女と交渉に向かった。

自分の作戦がもしも可能ならその作戦内容で2人をビックリさせようという軽い茶目っ気だった。

 

そして葉隠に完全な透明状態になれるかと聞いてみればOKと返ってきた為それを頼んだ。

その結果──葉隠は全裸となった。

 

てっきり衣服を透明化できるものと思っていた千土はかなり戸惑ったが残る交渉時間があまりない事や実行可能ではある作戦を捨てることをもったいなく思いこれで行くことを決断した

 

結果として耳郎達と合流した際には既に葉隠は全裸だった為耳郎も完全に見落としていたようだ。

 

「正直かなり後悔した……峰田チームの鉢巻きを取ってすぐに葉隠と位置を変えて背中の方に回ってもらったら今度は轟が氷ぶっ放して寒くなったのか引っ付いてきたし」

 

「それは……」

 

「……やばいな」

 

切島も瀬呂も言葉を失ってしまう。

色々言いたいことはあるがひとまずこの場に峰田が居なくて良かった。

 

「勿論後悔といっても嫌だった訳じゃないんだ、むしろ一男子高校生として役得とも思ったさ。ただ精神的摩耗が色々とな……」

 

ここまで話していてふと思った。

数分前自分はチームを組んだ相手の"何を"頼りにしていたのだったか……

 

恐る恐る視線のみを動かして耳郎の方を見てみれば彼女は静かにこちらを睨みながら耳から伸びたコードを弄っている。

──うん、聞かれてましたね……

 

「……スケベ」

 

この日俺の昼食は全て謝罪の素材となった。

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

昼食を済まして(食えたのは半分ぐらい)なおもレクリエーション競技開始までは時間が余る為適当に廊下をぶらついていると意外な組み合わせと出くわす。

 

「丁度良い、お前も呼ぼうと思っていたところだ」

 

「あーそういえば、あとで話しするって言ってたな」

 

氷のように凍てついた目をした轟と、彼につれられて戸惑っているのだろう、挙動不審気味の緑谷の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 




サブタイに対してこんな内容で申し訳ありません(笑)

ちなみに気付く方もいると思いますが爆豪の性格や会場の空気の都合上で尾白の辞退申請のタイミングを少し早めました。
でもこの方がレクリエーションとかもモヤモヤした状態でやらなくて済むよね
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